銀翼の堕落 〜闇の悪臭ダーク・ルギア〜

  ルギア LV:50

  せんすいポケモン

  タイプ:エスパー・ひこう

  特性 :プレッシャー

  わざ :エアロブラスト、しんぴのまもり、ハイドロポンプ、じこさいせい

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  ポケットモンスター……略して、ポケモン。彼らは広い宇宙のどこかにある、地球に非常に近しい環境の星で生命の起源となった。地球と異なるのは生まれ出る生命種は全て「ポケモン」でありながら、それぞれが種族ごとに異なる見た目や能力を持って生まれてくることだろうか。彼らは我々人間と同じような生活圏を、文明を築いてきたが、環境や種族が多様化していく中で、地域ごとの共通の信仰……いわゆる、「宗教」が生まれるのも当然のことであった。たとえば、ある地域ではこの宇宙を創造したと謂われる神を崇め、ある地域では生命を司る虹色の羽根を持つ不死鳥を崇めていた。

  無数の島嶼が散在する「オレンジ諸島」にもそういった伝説があった。オレンジ諸島の中心に位置するアーシア島には伝承と神の絵が刻まれた石碑が存在した。

  海に災禍が訪れる時、オカリナの音と共に白銀の翼はためかし守護神が現れん

  その類の伝説は様々な地域に存在するため、時代の移り変わりと共にそこに生きるポケモン達にも忘れられつつあった。

  ──

  ────

  ──────

  「ゲへへへ このアーシア島は我々シャドーの海洋進出の拠点として活用させてもらうぞ!」

  アーシア島の平和な日常は、突如上陸してきた世界征服を狙う悪の組織・シャドーの構成員達によって破壊されていた。浜辺から上がってきた構成員達は一様に黒ずくめのタイツに身を覆った異質な姿で、それぞれのポケモンが持つ「わざ」を使って島を破壊し始めた。

  「シャドー拠点が自然豊かである必要はない! こんな森は燃やしてやるよ!」

  ほのお・あくタイプのダークポケモン・ヘルガーが「かえんほうしゃ」で森を焼き払おうとする。

  「ホッホッホ、島民は全員我らの奴隷として働かせてやろうぞ、ありがたく思うぞよ」

  くさ・あくタイプのよこしまポケモン・ダーテングが逃げ惑う島民に「やどりぎのたね」を放ち身動きを取れなくする。

  「ゲヘヘへ! 建物の破壊は俺に任せろ!」

  構成員のリーダー格、いわ・あくタイプのよろいポケモン・バンギラスがその巨体から繰り出される「かいりき」で岩を持ち上げて建築物に投げつけていく。

  自警団が抵抗を試みたものの平和な島で暮らし本格的な戦闘をしたことのない彼らと、組織の構成員として日々悪事を働き、戦闘経験も豊富なシャドー構成員達との間には歴然とした差があり、自警団全員が敗北して捕われてしまった。平和な日常が崩壊していく様をこの島の長老である おうじゃポケモン・ヤドキングが島の中央に位置するピラミッドから見下ろしていた。

  「ああ、自警団もやられてしまった。困ったな〜……このままでは、ここまで攻め込まれて本当に島が占拠されてしまう……」

  頭に被った王冠のような貝に両手を当てて、悩んだ表情を浮かべた彼はピラミッドの中に戻ると、そこにある石碑に手を付いた。

  「海に災禍が訪れる時、オカリナの音と共に白銀の翼 はためかし守護神が現れん……海の守護神、こんな時に現れてくれたらな〜……」

  「長老! まだこんなところにいたのね、早く避難しないと!」

  ヤドキングが石碑に刻まれた絵と伝承を困り顔で眺めているとピラミッド内部に甲高い声が響き渡る。かんじょうポケモン・キルリアが息を切らしながらピラミッドの中へと入り込んできた。

  「おお、キルリア。本当に困ったことになったな〜」

  「はぁはぁ……そんな悠長なこと言ってる場合じゃないわ。アイツら町にも入り込んできてるし、森にも火が回り始めてる。このままじゃ皆捕まっちゃうよ。早く他の島に逃げないと……」

  「でもな〜」

  「あー、もう!」

  すっかり思考が停止してしまったヤドキングに痺れを切らしたキルリアが彼の手を引いて逃げ出そうとした時、ヤドキングの目がキルリアが首からぶら下げているオカリナに向けられた。

  「キルリア、そのオカリナは……そうかそうか、今年の島巫女は君だったね〜」

  このアーシア島で毎夏、海の守護神を祀るための「海神祭」が開かれる。その中で神事としてオカリナの演奏を海の守護神に聴いていただくという神事が開かれるのであるが、その御役目は島の娘の中から1人が選出されて担うことになる。島巫女とは御役目を担った娘を指す呼称であった。

  「そうだけど……それがなんなのよ?」

  「今ここでオカリナを吹いてはくれないかな〜?」

  「えぇ!? そんな場合じゃないでしょ?」

  ヤドキングの場違いな程にのんびりとした声で、さらに場違いな提案をされればキルリアも驚きと呆れの声を漏らす。しかし、ヤドキングの物言いは真剣そのものだった。

  「もしかしたら、言い伝え通りに海の神様が現れてくれるかもな〜……」

  「そんな、あれは伝説でしょ?」

  「海神祭は来週だろう。君も稽古で吹いているから覚えているだろう」

  「そりゃ、そうだけど……って、そんな場合じゃないでしょ!? 早く逃げなきゃ」

  「なんだ、楽譜を覚えてないのか〜?」

  ヤドキングが漏らす落胆の声に、「いじっぱり」の性格のキルリアはカチンと来た。引いていたヤドキングの手を離してオカリナを掴んだ。

  「……いいじゃない、演奏してやるわよ。サーナイトおばあちゃん から気が遠くなるくらい稽古を受けたんだから……海神様もビックリして飛び起きちゃうわよ!」

  啖呵を切った勢いのままピラミッドの外に出たキルリアの頬を潮風が撫でる。眼下では森が焼け、町が破壊され続けている。何人かの黒ずくめ戦闘員達がピラミッドに向けて進行しているのも見え、これで海神様が来なければ私たち終わりだな……そう考えれば彼女の体も強張ってしまう。オカリナを咥える口先が震えている。本来であれば1週間後、広場の舞台の上で島民の前で吹くはずだった演奏だ……誰も観客がいない中で吹くのは少し寂しいと感じた彼女であったが すぐに思い直す。

  『おばあちゃんが言ってた。海神様は一生懸命な演奏をきっと聴いてくれるって。どうか、届いて……』

  キルリアは小さく息を吸い、瞳を閉じた。島民の悲鳴、家が壊される音、シャドー構成員達の高笑い……全てを雑音として聴覚から遮断し、自らが奏でるオカリナの演奏にだけ思いを馳せた。

  [newpage]

  悪の組織シャドーはオレンジ諸島制圧のために入念に準備していた。まずは拠点となるアーシア島を占拠することから始める。もちろん、島民は貴重な労働力として奴隷にするため逃がすつもりはなかった。付近の海原はすでにシャドー構成員により包囲されており舟で脱出する者がいないよう見張りとして、きょうぼうポケモン・サメハダーとならずものポケモン・シザリガーを立てていた。

  「ゲハハ、見ろシザリガーよ。森が燃えているぞ、ヘルガー様の炎であろう」

  「ゲハハ、愉快だなサメハダーよ。あの土煙……バンギラス様の『すなあらし』に違いない」

  「「これでは島から逃げることなどできないだろうな、グハハハ!」」

  構成員2人が下品で愉快そうな笑い声を上げたその時だった。突如、海流の流れも変わった。

  ぐるぐると渦を巻くような海流が次第に激しさを帯びていく。その流れに巻き込まれる形になったシザリガーとサメハダーは突然の事態に状況が飲め込めずに流れのままにグルグルと海流に巻き込まれていく。

  「これはどうしたことだ、シザリガーよ。どんどん流れが強くなるぞ」

  「これはたまらんぞ、サメハダーよ。目が、目が回る」

  「「うあぁぁぁぁぁあぁあああああ!!」」

  渦の流れが周囲の海水を引き込み、ついには竜巻となる。竜巻に巻き込まれたサメハダーとシザリガーは上空に投げ出された後、海面に叩きつけられたダメージで「ひんし」になってしまった。現れた竜巻は勢いを増しながら、そのままアーシア島へと直進していく。島面積の4分の1ほどを燃やして なお延焼を続ける森を満足げに見ていたヘルガーが異変に気づいて浜辺に駆け付けた。

  「こいつは……快晴だっていうのに、なんちゅう竜巻だ……くそっ!」

  浜辺に上陸しようとする竜巻を食い止めようと「かえんほうしゃ」を放つヘルガー。その威力は凄まじく竜巻が爆散し、もうもうと煙が立ち込めていく。と、煙をかき分けて何かがヘルガーに向かって飛んできた

  「ぐがっ!」

  「おがっ!」

  「なんだ、煙の向こうから!? 空気の塊……?」

  その何かは身を低めて回避したヘルガーの頭部を掠め、両脇に控えていた構成員2人に直撃し後方へと吹き飛ばした。

  『ただの空気の塊だというのにこの威力……こんな技、見たことないぞ』

  煙の向こうから放たれ、自身の頭部を掠めた何かが固体ではなく気体を固めた物だと瞬時に理解したヘルガーは、頭を上げて晴れた煙の先にいる存在を見上げる。

  「ふむ……100年ぶりに目覚めたが……どの時代も悪しき心を持つ者はいるようだな」

  白銀の翼をはためかせて宙に浮くその姿を認めたヘルガーは思わず見惚れてしまった。流線形のフォルム、白を基調として所々に青を誂えたシンプルな体色、紺色の背鰭、先端が二股に割れた長い尾、それら全ての意匠が存在の高潔さと神秘さを強調させていた。鋭い瞳でこちら見下ろす視線に孕んだ敵意を察知して、ヘルガーは自分が目の前の敵に魅了されてしまっていたと気づいた。

  「貴様、何者だ……!」

  「100年も経てば我の名など皆忘れてしまうのも必然であろう。しかし、敢えて言おう。貴様のような悪党に名乗る名などない」

  そう言うと白銀の存在は大きく息を吸い込み、蒼い背鰭をピンと立たせていく。ヘルガーが避けなければと思った時には もう遅かった。体内に溜め込んだ海水を息と共に吐き出すみずタイプのわざ「ハイドロポンプ」がヘルガーに向かって放たれた。

  「ぐがぉ……! 水が……!水がぁぁぁ!」

  あくタイプと一緒にほのおタイプを併せ持つヘルガーには水タイプのわざは効果抜群であり、なおかつハイドロポンプの勢いはヘルガーを飲み込み、先ほど吹き飛ばされた構成員同様に後方に大きく吹き飛ばして「ひんし」にまで追い込んでしまった。その勢いのまま、白銀の存在が延焼を続ける森に向けて水を放っていけば忽ち火は勢いを弱めて鎮火していく。森の安全を確認すると翼を優雅に羽ばたかせて島の中央部に向けて飛んでいった。

  「さて、我を呼び起こした巫女に挨拶をせぬとな……」

  耳を澄ました彼はオカリナの音色のする方に向けて羽撃きを速めていった。

  ──

  ────

  ──────

  「ゲヘヘ、やっと島の中央部に辿り着いたが……なんだ、この音は?」

  黒ずくめのタイツを身に纏ったバンギラスとダーテング、その部下達がピラミッドの入口に辿り着いたところで何かの音色が聞こえ、一同がピラミッド上部へと顔を向ける。彼らの視線の向こうではキルリアがピラミッドに備え付けられた舞台で、海神に捧げるオカリナの演奏を続けていた。シャドーによる略奪が繰り広げられるアーシア島において場違いにも感じられる澄んだな音色に聞き惚れてしまった彼らであったが、バンギラスが誤魔化すように首を横に振り全身に力を込める。

  「娘よ、平和ボケが過ぎるぞ! 耳障りな演奏を俺が止めてやろう」

  バンギラスの口元にエネルギーが溜まっていく。彼の最大にして最強のわざ「はかいこうせん」を演奏を続けるキルリアに放とうというのだ。演奏に集中するキルリアはそれに気づけずにいる中、エネルギーの塊が最大限に溜まったところでバンギラスが雄叫びと共に光線を放った。

  「くらえぇぇ!! ぐおぉぉぉぉぉぉぉおおおおお!!」

  叫びと共にエネルギーの奔流がピラミッド上部に放たれる。ドカン! という爆発音とともにキルリアが演奏していた場所が崩壊していき、演奏が止まった……。

  「ゲヘヘ、ひとたまりもないだろうよ」

  「待つのじゃ、バンギラス。まだ演奏は止まっていないぞ」

  上空を見上げたバンギラスの目に入ったのは光の玉に包まれたまま先ほどと変わらずに演奏を続けるキルリアの姿、そして──

  「我のために奏でる巫女の前で無粋な真似をしないでもらおうか……?」

  光の球を守るように立ちはだかる白銀の存在を確認する間もなく構成員達全員に浴びせられた空気の塊……「エアロブラスト」を受けた彼らは島外へと吹き飛ばされていった。タイプ相性的に「ひこう」のわざが効きにくいバンギラスも屠れるほどに力の差は圧倒的であったと言えるだろう。白銀の存在は宙に浮かぶ光の球を抱え込むように翼を丸めた状態で宙に浮いた。

  「おーい、キルリア。大丈夫かぁ……あれは?」

  いつの間にやらピラミッドから外に出ていたヤドキングが「はかいこうせん」の直撃を喰らったピラミッドを見上げた時、そこには見たことのない存在に守り包まれながらオカリナを吹くキルリアの姿があった。

  「も、もしかして、あれが〜?」

  「長老様? てっ、えぇ、私ピラミッドの舞台で吹いてたはずなのに……って怪獣!?」

  演奏を続けていたキルリアの集中が途切れた。目を開いた彼女が最初に見たのは広大に広がる海ではなく、怪獣と言っても相違ない存在の顔だった。

  「おお、巫女よ。驚かしてしまったな、いま陸に降ろしてやるぞ」

  「は、はあ……?」

  彼女は恐怖を感じていなかった。目の前の怪獣は厳かながらも優しい視線を彼女に向けており、その声も低く温かったからだ。光の玉に包まれたまま地上に降ろされたキルリアの下にのそのそとヤドキングが駆け寄ってくる。

  「キルリア〜、無事で良かった〜。ところで〜、貴方様はもしや……海神様〜?」

  「えっ、この怪獣が!?」

  キルリアはハッとする。自分のオカリナの演奏とともに白銀の翼をはためかして現れた存在。言われてみれば、その姿は石碑に書かれた絵とそっくりに感じた。

  「ほう、我は今そのような呼ばれ方をしているのか。ふふ、時代よのう。いかにも我が海神だ」

  どこか愉快そうな笑みを浮かべた海神は翼を折りたたんで地上に降り立つとキルリアの深々と礼をした。その恭しさにキルリアもたじろいでしまう。

  「巫女よ、君のオカリナの音色は非常に美しく心が躍った。こんな気持ちになるのは50年ぶりだ」

  「50年前……私のおばあちゃんが島巫女をした時だ……って、海神様ほんとうに聴いてくれたの?」

  「無論だ。海底で眠り続ける我の1年に1度の楽しみでな。たしか、祭りはもう1週間後だっただろうか」

  「う、うん……! 私、今年の島巫女で……今日よりももっと上手に演奏するから楽しみにしててね!」

  「こ、これ……!海神様に〜そのような口の利き方を〜」

  伝説だと思っていた存在に出会えたことに はしゃぐキルリア。瞳を輝かせながら喋っていた彼女であるが、その若々しく礼儀をわきまえない喋り口調は聴いているヤドキングからしたら冷や汗ものであった。

  「よいよい。若い娘は多少お転婆なくらいが良いという物だ。もっとも、如何ほどかお転婆が過ぎた音色をしていたから残り1週間しっかりと練習するが良い。さて、我はそろそろ海に戻るぞ」

  厳かに彼女に告げた海神は翼を広げて空に舞い上がろうとする。

  「待って! 海神様、あなたの本当の名前を教えてもらえる?」

  飛び去ろうとする海神を呼び止めたキルリア。彼女の姿を流し目で見た彼は一言だけ言い残して空へ飛び立っていった。

  「我が名はルギア。海の守護神だ」

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  誰もが、その様子を物陰から眺めている存在に気づかなかった。

  「ゲハハ、戦闘をサボっていたらいつの間にか取り残されてちまったけんど……海の守護神ルギア……。ゲハゲハ、なんて美しいんだべ。オラもあんな風になりてぇな……いかんいかん、戻ってボスに報告しなけりゃ」

  シャドー構成員、ヘドロポケモン・ベトベトンは構えていたカメラをヘドロ様の体に取り込むと悪臭をふる撒きながら、その場を後にするのであった。

  [newpage]

  カントー地方の大都市・ヤマブキシティ。ここに本社はを構えるシルフカンパニーは世界に誇る大企業として有名であったが、その実は悪の組織シャドーに乗っ取られ彼らの根城となっていた。高層ビル最上階に位置する社長室、もといボスの部屋にて先のアーシア島を襲ったバンギラス、ヘルガー、ダーテングが頭を垂れて跪いていた。

  「さて、おまえらの報告を聞こう。さぞ、景気の良い話が聞けるのであろうな」

  本来であればカンパニーの社長が座っていたその椅子には漆黒のポケモンが座っていた。あんこくポケモン・ダークライ、彼こそがシャドーを率いる組織のボスであった。怒りの入り混じったプレッシャーを感じてヘルガーとダーテングは声が出せずにいる中、バンギラスは声を震わせながら報告の弁を述べ始めた。

  「は、ははぁ。我らシャドー構成員はアーシア島を襲い着々と侵略を進めておりました。し、しかし、突如現れた銀色のポケモンに邪魔立てされ……作戦は失敗に……ぐぁぁ!」

  恐怖心を必死に抑え込みながらの報告を続けていたバンギラスに向けてダークライが左手をかざすと、バンギラスが苦しそうに呻き出した。

  「い、息が……ぐるしぃぃ……」

  「むざむざとやられて敗走しおって……銀色のポケモンの正体もわからずに帰還するとはな。その点ここにいるベトベトンは優秀だぞ」

  「おぬし、戦闘中に急にいなくなったベトベトンではないか……どこでサボっていたんじゃ……ギャアァァ!」

  ダークライの傍らに一定の距離を保って傅いていたベトベトンに気づいたダーテングが彼を咎めようとすると、今度はそのダーテングに向けてダークライが右手をかざす。すると、ダーテングもまたバンギラス同様に苦しそうなうめき声を上げ始めた。

  「黙れ、誰が喋って良いと言った? このベトベトンは今回の作戦で唯一、私に益を与えた者だぞ」

  「ゲヘゲヘ、オラぁボスに褒められちまっただ」

  ベトベトンが嬉しそうに大口を開けながらはにかめば、そのヘドロ様の体からは見た目通りの強烈な異臭が漂ってくる。社長室内がどんどんドブ臭さで満たされていけば、その匂いに耐えかねたダークライが2人の部下の拘束を解いて一同に背を向け、おもむろに窓を開けて換気をする。

  「このベトベトンが一部始終を撮影していた。ヤツの名は『ルギア』。私も伝承を聞いたことがある、海の守護神と呼ばれるポケモンだ」

  「ルギア……それがあのポケモンの名前か」

  ヘルガーは竜巻から現れた美しいポケモンを思い出し、その名を呟いた。

  「私はあの力を私の物にしたいと考えている、この『ダークコア』を使ってな」

  シルフカンパニーの技術を奪ったシャドーはポケモンを悪の心を増幅し、闇に染める恐ろしい丸薬……ダークコアを開発し「ダーク・ポケモン」と呼ばれる存在を産み出していた。シャドーに仕える構成員の半数近くは哀れにも無理やりダークポケモンにされた一般市民であった。

  「し、しかし、ダークライ様……『ダークコア』は心に悪しき部分を持つ者にしか効かないはずです。あのような神に等しい存在がそんな心の隙があるとは……」

  「ならば混ぜ込んでしまえばいいのだ、悪の心を。おい、ベトベトン」

  カメラで自らが撮影したルギアの美しい姿を眺めて、恍惚とした表情を浮かべていたベトベトンは急に名を呼ばれたことに慌てて媚びるような目でダークライを見上げる。

  「へ、へい……! なんだべか?」

  「おまえは美しい存在に憧れていたのだったな? もしこのルギアの体の一部になれたら嬉しいか」

  思わぬ問いかけにベトベトンだけでなく、周りで跪くバンギラス達もキョトンとした表情を浮かべる。

  「そりゃあ、オラみてぇな汚えポケモンが、こんな美しい神様みてぇなポケモンの一部になれたら嬉しいべなぁ」

  「ならば、その力をおまえに与えてやろう」

  そう言うと、ダークライは自らが座っていたデスクの引き出しからコンパクトディスクのような物を取り出し、ベトベトンの頭に投げつけた。ベトベトンの頭に取り付いたコンパクトディスクがキーーンと起動音を立てるとヘドロ様の体越しにベトベトンの脳へと作用する。それと同時にベトベトンの全身に「でんきショック」を受けたような快感が走り始めた。

  「ゲ、ゲヘ、ゲヘヘ、なんだべ。これ、なんか気持ちいぃぃベ♡」

  ベトベトンのヘドロ様の体の股間部分と思しき場所からぬるりと濃い紫色の生殖器が顔をもたげる。そのおどろおどろしさにバンギラス達は思わず顔を顰めてしまう。

  『しかし、ベトベトンはわざを4つおぼえるのでせいいっぱいだ!』

  「あひゃ、あひゃひゃ♡ オラ馬鹿だからそんなに♡ 無理だべぇぇ、うひょぉぉぉおお♡」

  何やらコンパクトディスクから電子音声が鳴り響き始める。どうやらベトベトンの脳に作用し、わざを書き換えようとしているようだ。

  『1、2の……ポカン! ベトベトンは『かたくなる』のつかいかたをきれいにわすれた!』

  「あびゃぁぁああ! びゃあぁぁぁああ!」

  ポカン!のタイミングでベトベトンの生殖器からドロリと紫色の精液が放たれ、社長室いっぱいに広がるような悪臭、異臭、激臭を放っていく。その臭いにバンギラス、ヘルガー、ダーテングは「もうどく」状態になり、ダークライはすかさず自らに「どくけし」を打つ程の毒気を放った精液だった。

  『そして、ベトベトンはあたらしく『とける』をおぼえた!』

  コンパクトディスクから最後の機械音声が流れると同時にベトベトンの頭から外れて床に落ちた。

  「ゲヘゲヘゲハ♡ スッキリしたべ。これが、あのルギア様と1つになる力なんだべか?」

  「そうだ、ベトベトン。おまえには特別な任務を与える。新たに結成する特殊部隊の一員として再びアーシア島に赴き、ルギアをおびき寄せるのだ。そして……」

  悪辣な笑みを浮かるダークライは、おぞましいその作戦内容をベトベトンに告げるのだった。

  ──────

  ────

  ──

  海神祭の日、巫女装束を身に纏ったキルリアは心を躍らせていた、なんだったら体も踊っていた。様子を見に来たヤドキング長老が深いため息をつく。

  「こら、キルリア。島巫女がそのような振る舞い……はしたないぞ〜」

  「だって、これから私の演奏をルギア様に聞いてもらえると思ったらワクワクして……じっとしてられないじゃない」

  あの日見た海の守護神の名を知った彼女は今日という日を心待ちにして演奏の練習に励んできた。もう一度、あの美しい姿を見たい。もしかしたら、自分の演奏に感動してまた姿を現してくれるんじゃないか、そう考えると自然と練習にも身が入るというものだった。年頃の彼女からすると、それは恋心にも似た気持ちだったのであろう。

  「ルギア様に、またお転婆が過ぎる……なんて言われないようにしなきゃね」

  そして、いちど深呼吸をすると広場の中央に建てられた演奏舞台へと上がっていった。

  実際、ルギアはこの日を心待ちにしていた。演奏が始まるのは正午を周る頃だ。海底で眠りについているルギアは毎年その日その時間だけは目を覚まし、浅瀬で演奏に聴き入ることにしていた。

  しかし、演奏が始まる数刻前に海上から聞こえた悲鳴と筆舌に尽くしがたい異臭に気づいてしまった彼は何か嫌な予感を覚えて海上に顔を出した。

  「やれやれ、ハレの日に悪行を働く不届きな者がいたものだ……」

  異臭の正体はすぐわかった。ヘドロポケモン・ベトベトンが海に浮かぶ小さな小舟から自らが身に纏うヘドロを海に垂れ流しているのだ。強烈な匂いと毒性は凄まじく、海中にいたサニーゴやマンタが悲鳴を上げながら「どく」状態にかかってしまっていた。海の守護神として、海を、そこに住む者を汚す存在を許す訳にはいかない。ルギアは大きな翼を広げてベトベトンが乗る小舟の真上へと飛んで行く。

  「ほれほれ〜、おらのヘドロをたんと食って、おまえらも汚くなっちまえなぁ……おお? ゲハ、ゲハハ。ルギア様、やっと来てくれたべか、相変わらず美しいっぺなぁ」

  「我の名を知っているとは……さては貴様、先日アーシア島を襲った手合か?」

  へドロを垂れ流し海を汚す存在を少しでも視界に入れたくないのか、侮蔑にも似た視線を向けるルギアを前にしてもベトベトンはいつもと変わらない調子で話し始めた。

  「おらぁ頭が悪いからわからねぇけんどボスがアンタとおらを1つにしてくれるってんだ。だから、おらと一緒にボスのところまで来てくんねぇか?」

  そう言っている間もベトベトンは両手を広げ海の中へとヘドロを垂れ流し続けている。会話が通じない相手と見たルギアは すぐにでも目の前の外敵を排除して、水ポケモン達を救うことにした。空中で背鰭を立て必殺の「エアロブラスト」を構えるために大きく息を吸い込もうとした、その時──

  「そうはさせないよ、くらいな!」

  ブリュ、ブブブブブーーーー!

  ルギアの真下から立ちどころに黄色い「スモッグ」が上がる。寸での所で息を止めたルギアだったが、強烈な硫黄臭さが嗅覚に突き刺さる。

  「ふぐっ……これは何のつもりだ?」

  大きな羽でマズルの先を覆ったルギアの真下にもいつの間にやらボートが漂っており、そこから紫色の体毛のスカンクポケモン・スカタンクが尻と首だけをこちらに向けた四つん這い体勢で尻穴から有色のガスを吐き出していた。

  「へへ、くせぇだろ。アタイ達の臭さはこんなもんじゃないよ、マタドガスやっちまいな」

  「「「マタドガ〜ス」」」

  ルギアはいつの間にやら どくガスポケモン・マタドガス数体に囲まれており、各マタドガスは体中の穴から毒ガスを吹き出し始めた。有毒成分とともに発せられる自動車の排ガス様の匂いは潮風が運ぶ海の匂いしか知らないルギアにとって体が害悪と判断するに足る悪臭であった。

  「あんたも毒にかかっちまいな、ルギア!」

  「浅はかだな、ふん」

  毒ガスに包まれていくルギアであったが、かけ声とともにルギアの体が輝き出す。特殊わざ「しんぴのまもり」5分間の間、状態異常にかからなく防御わざであるが有毒ガスの中で銀色に輝くルギアの姿はより一層美しさを際立たせていた。

  「きぃぃぃ! アタイはあんたみたいな美しいポケモンが大キライなんだよ! くらいな、『あくのはどう』」

  スカタンクがあくタイプのわざを放つ。エスパータイプのルギアが喰らえば効果はバツグンであるが、ルギアは羽を畳んで容易に攻撃を回避する。

  「大味なわざだな、娘よ。そのような攻撃では我のことを捉えることはできんぞ。どれこの耐え難い悪臭を払ってくれよう」

  再び翼を広げたルギアは、その銀翼を[[rb:羽撃 > はば]]かせて辺りを漂う悪臭を吹き飛ばしていく。

  「ま、またどが〜す!」

  「ああ、アタイ達の匂いが!」

  有色ガスが晴れていけば、ルギアが再び大きな翼を広げて背鰭を立てる。

  「もう間もなく巫女の演奏が始まる。一撃で葬ってやろう」

  ルギアが大きく口を開き、周囲の空気を体内に取り込み始める。体の中で作った空気の塊を放つ「エアロブラスト」で海を汚す害敵を吹き飛ばそうとした、その時だった。

  「うがっ……! げほっ、ごほっ」

  突然、ルギアが咳込みだした。せっかく溜め込んだ空気が咳とともに少しずつ吐き出されていく。スカタンクとルギアの周囲に浮かぶマタドガス達がニヤリと顔を歪ませる。

  「なぜだっ……! 急に喉に……がはっ! ごほっ! 何かがへばりついて……うぇっ、おえっ」

  ルギアは喉に張り付く異物を吐き出そうとむせていたが、どうにも剥がれそうにない。それどころか先ほど海中で味わった強烈なヘドロ臭が喉奥からこみ上げてくる。こみ上げる吐き気にえずいてしまうが、それでも異臭と異物感の元は取り除けそうになく、ルギアはふらふらと飛行高度を落としていく。

  「どうやら作戦は成功したみたいね。よくやったわ、ベトベトン」

  スカタンクの言葉を聞き、海上に浮かぶ小舟に目を向けたルギアはその上にいたはずのベトベトンの姿を見失っていた。

  「おえっ……ぐえっ、まさか……」

  「ゲハハ、ルギア様の中あったけぇなぁ」

  ルギアが下卑た声で喋ったかのように見えたが、その声の主は確かにベトベトンの物であった。そう、ベトベトンこそがルギアの喉に張り付く異物の正体であった。

  「貴様、いつの間に……! げぇほ! おぇぇ!」

  状況が飲み込めずにいるルギアだったが、これこそが敵の作戦であった。ベトベトンが撮影した映像からルギアが「エアロブラスト」を放つ前に空気を大量に取り込むことがわかっていた。そこでマタドガスとスカタンクの放出する有色ガスで視界を奪い、その間にベトベトンは「ちいさくなる」を使用して体を圧縮し、ルギアが空気を取り込む瞬間にその体内へと侵入を図ったのだ。作戦はものの見事に成功し、今まさに小さくなったベトベトンがルギアの喉にヘドロのように張り付いていたのだった。

  「おっぷ、早く我の中から出ろ、下賤な者め!」

  喉奥から発する腐ったような強烈な臭いは当然のようにルギアの口臭となり、自らの鼻息まで臭いために満足に酸素を取り込むことすら憚られた。

  「あーん、そんなひどいこと言わないでけろ、ルギア様〜。オラ達もうちょっどで1つになるんだからさぁ、仲良ぐすっペ」

  「貴様さっきから何を……! あっ……んんっ……?」

  突如、喉の違和感が消える。吐き出せたのか、そう思ったルギアだったが今度は胃がゴロゴロとなり、突如自らの腹がたぷんと膨らみ始めた。

  「な、なんだ! 急に腹が……このままではバランスが……」

  人間で言うところの中年オヤジのように下っ腹だけがでっぷりと膨らんだ、神に似つかわしくない姿になったルギアは飛行バランスが取れず、ふらふらと近くの小島に顔面から墜落してしまう。喉から気管を通り胃まで進んだベトベトンはそこで「ちいさくなる」の効力が切れて体長1.2m、体重30kgの容積が胃を溢れさせた形になったのだ。

  「おえっ! うげっ、いかん。このままでは……」

  腹が重くて身動きが取れないルギアだったが、海の中に潜れば呼吸ができないベトベトンが体外に出てくるはずだと砂浜を這って海へ潜ろうと試みた。しかし、そんなルギアを再びあの有色ガスが覆っていく。

  「そうはさせないよ、アタイ達のガスをくらいな!」

  ブリュ、ブリュリュリュリュ!

  砂浜に顔をつけたルギアの眼前に汚らしい尻穴を向けたスカタンクが尻穴から実まで出しかねない「いやなおと」を立てながら「どくガス」を放つ。

  マタドガス達はルギアを再び取り囲み体中から「スモッグ」を噴き出していき、「いやなおと」で防御が下がったルギアにダメージを与えていく。

  「はぁはぁ……! やめろ、やめてくれ……! う、うがぁぁああ!」

  悪臭、腐臭、異臭、体内と体外の両方からの「におい」攻撃に襲われたルギアのHPが削られていく、そして──

  ルギアの しんぴのまもり のこうかが切れた

  状態異常を防ぐ「しんぴのまもり」の効果が切れれば忽ち「どく」状態に落ちるルギア。あとは時間の問題だった。

  「うがっ……うおっ……巫女、巫女よぉぉ……あっ……ぐぅ」

  毒に体を冒され意識が朦朧とする中で、1週間前に出会ったキルリアを求めるように羽を伸ばし……

  ルギアは ちからつきた。

  「やっと倒れたわね。まったくバケモノ染みた体力だったわ」

  「マタドガ〜ス」

  スカタンクが腹這いになったルギアに近づき、その膨れた腹に耳をくっつけた。グチョ、ベチョとベトベトンが胎動している悍ましい音が聞こえる。

  「ベトベトン、覚悟はできてるのか?」

  「だべ、こんな美しいルギア様と1つになれるなんて嬉しく溜まらないべ」

  内臓と腹肉越しにくぐもった声が聞こえる。消化されたのではないかと心配していたスカタンクだったが杞憂であったようだ。

  「物好きなヤツだよ、おまえは。それじゃあ頼んだぞ、短い間だったがアンタの[[rb:悪臭 > SMELL]]好きだったよ」

  ルギアの膨れた腹をポンッと叩くと、嬉しそうに腹の表面がグニャグニャと蠢く。

  「嬉しいべ〜。姉御、マタドガス達……達者でな。それじゃあ、『とける』べ〜」

  ルギアの胃の中でダークライに授けられた新しいわざの名を唱えれば、途端にベトベトンの体がドロドロと溶けていく。溶けて液状になったベトベトンはルギアの胃で消化されずに小腸まで流れ落ちていった。さらに栄養素に擬態して小腸の[[rb:ひだ > ・・]]から吸収されていき、血液に乗せられ全身の細胞に隈なく運ばれていく。それはルギアの一部として彼の穢れなき体に混じり込んでいくのであった。

  ──

  ────

  ──────

  その頃、アーシア島の広場では拍手喝采が鳴り響いていた。キルリアの海神に捧げる演奏が終わったのだ。キルリアが満足げな笑みを浮かべて舞台から見える海に目を向ける。

  『ルギア様、聴いてくれたかな? また姿を現してくれないかな?』

  少女の願いは決して叶わないことを、この時は知る由もなかった。

  [newpage]

  「ん、んん……ここは…………?』

  ピチャ……ピチャ……と滴る冷たい水の感触に目を覚ましたルギアは、しかし自分の体の自由を奪われていることに気づいた。暗闇の中で目を覚ました彼は最初こそ何も見えなかったが、次第に目が慣れてくる。翼を、足を、尾を、鎖で厳重に拘束されて仰向けに寝かされており動かせそうにない。マズルにすら口枷が嵌められており声を出すこともままならない。

  『なんだ!? これは一体……我の体が…』

  目が完全に闇に慣れたとき、彼はさらなる違和感を覚えた。白銀の体の所々に紫色の斑点が浮かんでいるのだ。

  『お、ルギア様。やっと目を覚ましたべ? だいぶ寝坊助だべなぁ』

  先ほど自分の喉奥から発されていた下卑た声が聞こえる。正確には伝わったという方が正しいかもしれない。その声は耳からではなく脳内に直接響いていたからだ。

  『な、この声は先ほどベトベトンのもの……なぜ我の脳内に』

  『いま、オラの体がルギア様の体に溶け込んでる最中なんだべさ。ルギア様でけぇから時間がかかる訳でさ。完全に溶け込むまでオラの意識はルギア様の脳内に居候してる訳だな』

  溶け込んでいるという言葉にルギアはぞっとした。声の主であるベトベトンは、なんらかの わざを使って自分と同化を測っているというのだ。ルギアの体に浮かぶ紫色の斑点が、ベトベトンとの同化が進んでいる証ということであろう。自らの美しい体が毒に穢されていく様にルギアを怒りを覚えた。なんとしてでもこの侵食を抑えなければ、その一心でルギアは瞳を閉じた。

  『くっ、ならば……』

  ルギアが頭の中でわざを念じる。回復わざ「じこさいせい」で自らの細胞を修復してベトベトンに汚染を食い止めることを試みた。効果はあるようでベトベトンの細胞への同化速度が遅くなっていくのを感じる。これで時間を稼ぎ、体力を回復した上で脱出と体内に潜んだベトベトンの除去を行えば勝機はあるとルギアは思っていた。しかし──そんなルギアの嗅覚を腐敗臭とも発酵臭とも言い難い刺激臭が襲った。

  『ん、んぷっ……なんだ、この臭いは……!?』

  ルギアは初めて自分が置かれている環境に気づいた。薄暗く空間には見渡す限りのゴミ、食べ残し、薬品廃棄物、廃液、そしてそれらが混じり合ったような吐瀉物とも、ドブとも、ヘドロとも言えるような強烈な悪臭が漂っていた。とてもではないが生物が長時間いていい場所ではないだろう。

  『おい、ここはどこだ?』

  『シャドー基地の地下……オラの部屋だべぇ。せっかくこれから1つになるルギア様にも、オラのこど知って欲しくでボスに言って運んでもらったんだべ。こんな いい匂いがして、餌も与えてくれるなんてボスは優しい方だべ』

  ベトベトンは部屋などというが、ここはシャドー基地の廃棄物貯蔵庫であった。彼らの食事の食べ残しや実験に使用した薬品の廃液が垂れ流しになっているのだ。どうやらここに捨てられた物をベトベトンは餌として体内に取り込み、毒に変換しているようだ。

  『何がいい匂いだ……こんな悪臭……うっぷ…………堪えられぬ』

  オレンジ諸島の海は世界でも有数の綺麗な水質を誇っており、清らかな潮風が吹く真っ白な砂浜と澄んだ海底に住むルギアにとって、この環境は筆舌に尽くし難いほどの穢れた環境であった。「じこさいせい」に集中しようとするルギアの意識はその悪臭に遮られ何度もわざが解けてしまい、その度にベトベトンの侵食が進んでしまう。

  『なんで〜、こんなにいい匂いだべさ。ほれ、ルギア様も深呼吸してみっぺ。あ、口枷が嵌められてるから深呼吸はむりだべな。じゃあ、鼻から目一杯吸ってみるべ」

  スーーーーーーッ

  体に浮かぶ毒々しい斑点が増えていき、ベトベトンの声がより大きく聞こえるようになっていけばルギアはベトベトンの声こそが自分の意思であると思いこむようになっていく。嫌だというのに鼻から大きく息を吸い込んでしまえば、度し難い臭気成分が鼻の粘膜に、肺の肺胞にこびりついていく。

  スン……

  『ぬあぁぁぁああ!! このような屈辱的な……やめろ……やめてくれぇ! 頭がおかしくなってしまう……』

  スン、スン……

  翼が拘束されているが故に鼻を拭うことも、マズルが開けない故に取り込んだ臭いを吐瀉物として吐き出すこともできない。ルギアがこの状況を打開しようと考えを巡らせようとすれば、その思考に覆い被さるように臭気が体に、脳に取り込まれていく。高濃度の毒ガス同然の臭気をこれほど浴びているというのにルギアは「どく」状態になっていなかった。そのおかげで、再び「ひんし」に陥らずに済んでいるが、それはベトベトンによる同化が進んでいることにより得られた毒耐性であることは明白であり、同化が進みつつある紛れもない事実を突き付けるものであった。

  『はぁ……はぁ……だめだ、このままでは本当に……おっ、おお、おほぉ♡』

  スン、スンスン

  と、苦悶に歪んでいたルギアの表情が緩み思考にノイズが入り始める。先ほどまで耐え難いと感じていた臭いに対する嫌悪感が薄れていっている。いや、それどころか……先ほどから臭いをどんどん嗅ぎたがってスンスンと鼻を鳴らしてしまっている自身に気づいてしまう。

  『お? やぁっとルギア様にもこの臭いの良さがわかってきたべ♡ はぁ、やっぱりこのゴミ山の臭いは最高だべ?♡』

  スンスン♡ スーーー♡ スーーー♡

  脳内に響くベトベトンの声に抗いたいのに、何度も何度も鼻穴を目いっぱい広げて臭いを取り込んでしまうルギア。臭いを取り込むたびに体に浮かぶ毒の斑点が色濃くなっていく。

  『いやだ♡ こんなのは我ではない。我は……このような臭いを♡ ぬ、ぬぉお?」

  突如、股間に位置するスリッド部に違和感を覚えたルギアが唯一自由に動かせる首を起こす。スリッドに納められていた桃色の排泄器が見たこともない程に硬く、天井に向けて反り立っている光景が目に入ってしまった。排泄器には自身の血液が流れ込み、それが海綿体を硬くして隆起させているのだと理解はできても何故このようなことが起きているのか、神であるルギアには理解ができていなかった。

  『ははぁ、ルギア様。勃起しちまったべな? 神様も勃起するんでなぁ』

  『はぁはぁ♡ 勃起……だと? なんだそれは』

  『神様も知らねぇことがあんだべな〜。勃起っちゅうのは興奮して自分のチンポが硬くなっちまうことだべ。ははぁん、さてはルギア様、おらと一緒でこの臭いに興奮して来たんだべ?♡』

  いつの間にかルギアは脳内のベトベトンの声に素直に耳を傾けるようになっていた。神聖であるが、ある種の穢れとも捉えられる性行為と無縁であった神にとって、今自身の身に起きている変化は興味深いものでもあった。スリッドから飛び出た排泄器……いや、生殖器は「かたくなる」を使ったような硬さと「ねっとう」のような熱さを帯び、先端の鈴口からはドロリと粘性のある透明な液を溢れさせていた。

  『ルギア様、どんどん臭いを吸うべ♡ そしたら、どんどん気持ちよぐなっがら♡』

  『気持ち良く……♡』

  スーーーーーッ♡ スーーーーーッ♡

  『おほおぉぉぉおおおおおお♡♡』

  肺いっぱいに取り込んだ周囲の悪臭が嗅覚を刺激し、脳を蕩けさせていく。ゴミ山に混じる実験薬の廃液からは明らかな毒性ある刺激臭が放たれているというのに、その刺激すら今のルギアにとって快感だった。快楽の刺激に体を暴れさせたルギアは翼に巻かれた鎖を強引に壊して自由を得るが、その臭いを取り込むのをやめずに翼の先を手のように扱い生殖器を握り始めた。

  『やっぱり本能なんだべな♡ ほれ、ルギア様ぁ、そのでっけぇチンポ握ってシゴいてみっぺ?♡』

  『おほっ♡ おふっ♡ うがっ♡』

  翼の先で握った生殖器を上下に動かし、腰を振り始めるルギアのその姿は神ではなく、浅ましい獣そのものであった。閉じられたマズルから獣のような喘ぎを漏らしながらルギアはその行為に没入していった。そして……

  『おおっ!♡ なんだ、これは♡ 我の中から何かが……♡ ぐぎゃっ♡ こみ上げて……♡』

  初めての絶頂を直前にしてルギアは戸惑っていた。これ以上はいけない。自分が自分ではなくなる。少なからず残された理性が赤信号を灯す。しかし、そんな理性を脳内に溶け込むベトベトンは覆い尽くしていく。

  『大丈夫だべ、ルギア様♡ そろそろイクべ♡ このくっせぇ臭いでイったらおら達の心1つになるべ♡』

  『い、イク……? なんだそれは?♡』

  『そのチンポの先から雄汁ぶっ放すだけだべ♡ そしたら、天国いけっから♡ ほら、もっと強くシゴくべや♡』

  ベトベトンの声に導かれるように生殖器をシゴいていく、ルギア。

  「さあ、思いっきり臭いを吸うべ! そうしたら……♡」

  スーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ♡

  命じられるがままに臭いを吸った瞬間、脳から大量の快楽物質が溢れていく。そして……

  『お、おぉ……♡ おおおぉぉおおお♡』

  「ギャ、ギャーーーーーーーース♡」

  ドビュッ……ビュルルルルルルルルルルルルルルル♡♡♡

  ルギアは ぜっちょう に達した──

  絶頂と共に口枷を壊しながら大口を開いて叫声とも嬌声とも付かない声を上げ、生殖器から大量の精液を天井に向けて放っていく。絶頂とともにルギアの全身を味わったことのない快感が走る。それは、でんきタイプのわざを受ける感覚にも似ていたが、そんなことは今のルギアにとってどうでも良かった。海の守護神ルギアはこの時はじめて射精を経験し、性の喜びを、性欲を解放してしまった。その心の隙こそベトベトンが待っていたものだった。

  『よがったなぁ、ルギア様♡ いっぱい出て……それじゃあ、おらはそろそろ1つにならせてもらうべ。これがらはずっと一緒だべな♡』

  ドバドバと生殖器の先から白濁した精液を垂れ流しにしながら気絶をしたルギアの脳内に満足げなベトベトンの声が響いていくのだった。

  [newpage]

  「うぅ……またしても我は気を失って?」

  ルギアは再び目を覚ます。先ほど絶頂を迎えた時に体を暴れさせたことで拘束具は破壊されており、自由を取り戻したルギアであったが初めての射精による虚脱感で身動きが取れずにいた。悪臭漂う部屋で仰向けでぼーっとしていたルギアだったが、突如として猛烈な空腹感に襲われた。

  「おい、ベトベトン……何か食べ物は?」

  先ほどまで脳に潜んでいたベトベトンに語りかけるが返事はない。体内からの除去に成功したのだろうかと思ったルギアであったが、ふと目の前に広がるゴミ山へと視線を向ける。見るのも臭いを嗅ぐことすらも忌避する穢らわしい汚物……だというのに、ルギアにとってはそれら全てがご馳走に見えていた。

  「このような穢らわしいものが……そんなはずはない。しかし」

  ゴクリと生唾を飲んだルギアは、翼を折りたたみ2本足でふらふらと近寄っていくと、首を下ろしてマズルの先を多種多様な異臭を放つゴミ山へと突っ込んだ。そして、恐る恐る口を開き、ジャリジャリ、ジュルジュル、クチャクチャと汚らしい音を立てながら、腐った残飯を、毒々しい色の廃液を、禍々しい色をした海苔の佃煮のようなヘドロを食し始めた。しばらく無心で食べ続けていたルギアだっだが、突然呻き声を上げながら体を震わせ始めた。

  「うぐっ……♡ うおぉぉおおん、なんと美味だ♡」

  その味に声を弾ませたルギアが、飢餓感を満たすためにゴミ山へ体を埋め、ひたすらにバクバクと食べていく。

  「うまい、うまい、うまい……♡ こんなにうまいもの我は知らなかった」

  ルギアは自らが美味と評した汚物を平らげていく。食事など最低限の物しか摂っていなかったルギアだったが、植え付けられた異常な食欲は尽きることなく気づけば積み重ねられていた廃棄物の半分ほどを食べ尽くしていた。悪食……という言葉では足りないほどの汚らしい食事を終えたルギアの腹はぼっこりと膨れており、流線型の美しいフォルムはすっかり崩れていた。汗だらけになりながら、満足げに口周りに付いたヘドロを舌で舐め取っていたルギアの耳に乾いた拍手の音が聞こえる。音の鳴る方向には見たこともない黒いポケモンが佇んでいた。

  「さすが、ルギア様。海神という名に違わぬ食べっぷりでしたよ」

  「貴様、何者だ? ゲプっ」

  威厳を保って話そうとするルギアであったが言い終わるや否や汚らしいゲップを漏らしてしまう。目の前のポケモンは深々と頭を下げた。

  「お初にお目にかかります、ルギア様。私はダークライ。シャドー総裁を務めております」

  「げふっ、アーシア島に悪党を差し向けたのは貴様か?」

  「如何にも。私たちの世界征服を実現するためにはあの海を手中に収める必要がありましてね」

  「笑止! この守護神ルギアがいる限り海を貴様らの好きにはさせん」

  ルギアが語気を強くしてダークライを威嚇する。普通のポケモンであれば震え上がるほどの覇気であったが、ダークライは気持ち悪いほどに丁寧だった態度を崩して笑い始めた。

  「海の守護神? くく、クハハハ! そのような姿でそれを言うのか? 笑わせてくれる」

  「何を……? なんだ……コレは!?」

  そう言われて初めてルギアは自分の体に視線を向け、驚嘆の声を漏らした。紫色の斑点が浮かんでいた白銀の体はすっかり暗い紫色に染め上げられており、ゴミを食べ尽くしたことで でっぷりと膨れた腹、そして、自身では気づいていない様子だが体臭、口臭、足臭……放たれる匂いの全てが異臭と言っても言い過ぎではない不快な汚物のような臭いになっていた。

  「なんだこの姿は……我はなぜこのような汚らしい姿に」

  「ベトベトンと完全に同化したことで貴様の体は変化したのだ。そのように丸々と太っては空を飛ぶことも海を泳ぐことも、ままならないのではないか? さしずめ『エスパー・どく』タイプのポイズン・ルギア……といったところか。そのような臭く、汚いおまえが海の守護神な訳がなかろう!」

  「臭くて汚い我は……海の守護神にふさわしくない……?」

  ポイズン・ルギアなどと貶められ、かつての自分の役目すら否定されたルギアは声を震わせる。欲望に塗れた体は堕落し、その心にも揺らぎを生じさせたルギアの足下に向けてダークライは黒い球を投げつけた。

  「なんだ……これは?」

  「貴様を苦しみから解放する物だ、食べるがいい」

  それは明らかな罠。普段のルギアであれば看過できないはずがなかった。しかし、ダークライへの忠誠心が強いベトベトンが溶け込んだ脳は、ルギアの思考にも影響を及ぼしておりダークライが言うことを全て真実だと思うようになっていた。

  「そのような無様な姿を海の守護神として晒すわけにいかないだろう。 それを飲み込めば貴様はまた神の姿に戻れる」

  「本当か? 我は神に、また海の守護神に戻って……巫女の、巫女のオカリナを聴けるのか……?」

  首を項垂れさせ、まるでダークライにひれ伏すような体勢になって足下に転がる球を口に含んだルギアはガリガリと音を立てながら噛み砕き、ごくりと飲み込んだ。その姿にかつての高潔さや威厳はまるで感じられなかった。

  「これで神に、我は……我…………? ワシは……ウギャッ! ギ、ギギィ……ギッシャァァァァァ!」

  黒い球を飲み込むや否や、ルギアの体にさらなる変化が生じ始める。少し丸みを帯びていた頭部フォルムや背鰭や足の爪先などは鋭く尖り攻撃的な印象を見る者に与えるよう変わっていき、漆黒の翼は大きくなり、色合いも黒味が強くなっていく。白銀の美しい体が黒化してより禍々しさを増していく様は、さながら堕天の光景のようでもあった。

  ルギアが飲み込んだのは「ダーク・コア」。シャドーがシルフカンパニーの技術を利用して作り上げたポケモンをダーク・ポケモンに変える悪魔の丸薬。ポケモンの心に巣食う悪の心を増幅させるものであり、本来の高潔で無欲な神としてのルギアであれば効果はなかったであろう。

  しかし、ベトベトンが体に、心に同化したことで芽生えた性欲や食欲はルギアの心に穢れとして浮かび上がり、今まさにルギアはダーク・ポケモンへと書き換えられていた。変化には痛みが伴うのか、涙を滲ませながら目を瞑るルギアの様子を眺めながらダークライは侮蔑の笑みを漏らした。

  「おっと、誰も守護神に戻れるなどと言っていないぞ。おまえがなるのは海の破壊神だ。[[rb:守護神 > ルギア]]が守ってきた海を、[[rb:破壊神 > おまえ]]が大好きなゴミやヘドロの臭いで汚し尽くしてやるがいい」

  ルギアの細胞を、DNA配列を、遺伝子情報までも書き換えたダーク・コア。全ての変化が終わり、見開いたルギアの瞳からは慈愛の光は失われ、邪悪な真っ赤な瞳へと変貌していた。禍々しいダークオーラと共に近づいた者の鼻を曲げてしまいそうな臭気を纏ったその姿は海の破壊神として存在を塗り変えられたことは明白であった。

  「ククク、ふさわしい姿になったではないか……さあ、ルギア……いや、ダーク・ルギアよ。アーシア島をおまえ自らの手で犯し尽くして来い」

  「ギッシャァァァァアアアア!!」

  その日、関東地方のシルフカンパニーより黒い怪物が飛び立ったのを見た、という目撃談が警察に多数寄せられた。怪物が通り過ぎた後は、有害な悪臭だけが残り生い茂っていた草木が途端に枯れてしまったとも。シルフカンパニーが秘密裏に開発した生物兵器ではないかとも噂されたが、シャドーの操り人形となっているシルフカンパニー代表取締役社長が噂を否定する記者会見をしたことと決定的な証拠がなかったため、悪臭を放つ黒い怪物は都市伝説として語り継がれる程度に留まるのであった。

  ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

  ダーク・ルギア LV:70

  こうがいポケモン

  タイプ:あく・どく

  特性 :あくしゅう

  わざ :ダークブラスト(ゲップ)、はたきおとす、ダストシュート、どくどく

  [newpage]

  海神祭が終わり、後片付けに追われていたアーシア島の住民を襲ったのは先日のルギア襲撃に組みしていたスカタンクとマタドガスであった。彼女達はルギア捕獲後もオレンジ諸島に留まり、ダークライから指令を受けてアーシア島に上陸したのだ。

  マタドガスが噴き出す「スモッグ」が島を覆い、スカタンクが放つ「どくガス」が住民を苦しめていく。

  「なんて臭いだ……くっ、くせぇ……」

  「誰か、助けて……!」

  「今度はわしも〜、だめかも〜」

  その臭いや毒に耐えかねた島民達がバタバタと倒れていく。長老のヤドキングも倒れる中、島巫女のキルリアは浜辺に向かって走っていた。

  「はぁはぁ……ルギア様、お願い! 私達を助けて」

  砂浜にたどり着いたキルリアが息を整え、オカリナを吹き始める。昼間だというのに厚い雲で太陽が覆い隠され薄暗い浜辺に澄んだオカリナ音だけが響いていく。

  きっとルギアがまた助けに来てくれる──

  キルリアの演奏は、願いは確かに届いた。海上に黒い渦巻きが形成されていき、勢いを増していくと海中から大きな影が飛び出して来た。

  「ルギア様……えっ?」

  期待通りにルギアが現れてくれた嬉しさ以上に、現れた彼の姿が以前見た時と大きく違ったことへの違和感に彼女は混乱した。全体的にフォルムは刺々しく、腹もボッコリと出ている、何よりも体色が美しい白銀ではなく毒々しい紫色に変わっていること、そして──

  「な、何この臭い……!? あなた本当にルギア様なの?」

  先ほど島民を襲っていた臭いよりも強烈な悪臭が彼女の嗅覚を襲い、思わず鼻を手で覆う。ただならない異変を察知したキルリアは自分を見下ろす冷徹な赤い瞳を見返して語りかけた。

  「ゲハ、ゲハハ! ワシは、ダーク・ルギアだ! もはやルギアなど存在しない」

  「嘘よ、あなたは海の守護神ルギア様よ! なぜこんなことに……お願い、正気に戻って!」

  ダーク・ルギアが口を開けば下卑た濁声と共に腐敗した大豆のような口臭が口から漏れ出す。憧れていた神の変わり果てた姿に驚愕するキルリアはなんとか彼を説得しようとするが、そんな彼女の話を聞くでもなく、ダーク・ルギアはその背鰭と長い尾を彼女に見せつけるよう振り向いたかと思えば──

  ブブーーーーーーー♡

  その尻穴から強烈な[[rb:猛毒ガス > おなら]]を噴出した。

  「きゃあーーーー!」

  その風圧に吹き飛ばされてヤシの木に叩きつけられたダメージと、さらに「もうどく」状態に陥ったことでキルリアは「ひんし」になってしまった。彼女が手に持っていたオカリナの中にも臭いおならが入り込んでいき、強烈な臭気成分をこびり付かせていく。代々の島巫女が受け継いできた神具であるが、もう誰もそのオカリナを吹こうとは思わないだろう。

  「憐れな巫女よ、この臭いの素晴らしさがわからんとはな♡」

  ダーク・ルギアは重い体を浮かせるために漆黒の翼を忙しなくはためかせながら島の中央部に向かう。彼が翼をはためかせただけで半径5メートルに悪臭が立ち込め、草花を枯らしていく。

  上空からスカタンクとマタドガスの姿を認めたダーク・ルギアは彼女達と対峙する島民に向けて腹に溜め込んでいたゴミを吐き出す どくわざ「ダストシュート」を放ちながら着地した。

  「ぐぇぇ!」

  「なんだ、この臭いは? 頭が……頭がおかしくなる!」

  ダストシュートを受けた島民は倒れ、他の島民達もダーク・ルギアが発する臭いを嗅いで頭を抱える。この悪臭の怪物の正体が海神様などとは思いも寄らないであろう。

  「ゲハゲハゲハ! 待たせたな。スカタンク、マタドガス」

  「あんた、まさかこの前のルギアかい。それにこの臭い……ふん、どうやらベトベトンと完全に1つになったようね」

  「この臭いの素晴らしさを気づかせてくれたベトベトンは、今もワシの中で生きておる。ゲハゲハ! あとはワシに任せろ」

  「ワン、ワン!」

  ダーク・ルギアは飛びかかってきた島の自警団みはりポケモン・ガーディを「はたきおとす」で地面に叩きつけ、その足で踏みつけた。

  「ワォォン! 臭い、こんな臭い、初めてだ……」

  鼻が効くガーディは踏みつけられながら、その足裏から発せられる強烈な臭いに身を震わせていた。このまま嗅いでいたら脳が破壊されると考えたのか臭いから逃げるように意識を手放していく。

  しかし、そんな考えを読んだダーク・ルギアはガーディのマズルに臭いを塗りつけるように鋭い爪先で入念に踏み躙っていく。洗っても当分落ちないこの臭いで、ガーディは目を覚ましてもすぐに臭いを嗅ぐことになってしまうだろう。それに満足したダーク・ルギアは周囲を取り囲む自警団のポケモン達をぐるりと見回すとニタリと笑い、大きく羽を広げた。

  「ゲハハ、ワシの毒を喰らうが良い!」

  勢い良く広げた羽先から放たれたのは「どくどく」。ダーク・ルギアが消化したゴミから抽出した猛毒液を周囲にばら撒いていく。かかったポケモンはもちろん、大地や木々すらも汚染する毒は、この島の生態系に致命的な傷跡を残してしまうことだろう。猛毒により1人また1人と倒れていく自警団達。毒の瘴気が漂う中で立っているのはダーク・ルギア、スカタンク、マタドガスのみになってしまった。

  「なんて強烈な臭いと毒なの……あんた、最高ね!」

  「ゲハゲハ! ワシの力はダークライ様に捧げる物。この力でシャドーの支配を広げていってやるぞ。さあ、最後の仕上げだ」

  ダーク・ルギアが大きな紫色の翼を羽ばたかせて空高く舞う。上空から見下ろすのは蒼く澄んだ海原。かつての彼が守り、愛した海を好色そうな赤い瞳で見据えながら、彼は大きく息を吸い込んでいく。みっともないほどパンパンに空気を腹に溜め込み、腹に溜めた毒と空気が混ざり合わせながら、背鰭を逆立たせ、身に纏うダーク・オーラを色濃くしていく。そして──

  「おげぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇえええ!!」

  汚らしいゲップの音と共に毒の空気の塊が海に放たれた。エアロブラストならぬダークブラスト……いや、ただのゲップといっても相違ない それは着弾と同時に海を緑色に染めていく。その緑色の正体は海面に浮かぶ大量のヘドロ……ダークブラストにはダーク・ルギアが体内でゴミから生成した大量のヘドロも含まれていたのだ。その海洋に住む数多の水ポケモン達は必然的にヘドロと毒を体に取り込んでしまい、忽ち「どく」状態になってしまう。

  レベルが低くHPが少ないポケモンから先に「ひんし」になって、順番にぷかぷかとヘドロまみれの海面に浮かび上がっていく様子を見てダーク・ルギアは腹を抱えて笑うのであった。

  「ゲハゲハゲハ! キレイなものを汚すのはなんて気持ちいいんだろうなぁ! ああ、早くこの海をヘドロまみれにしたいぜ。ゲハハ、興奮したらまたチンコが出てきちまった」

  空高く舞うダーク・ルギアは股間スリッドから毒々しく紫色に変色した生殖器をぬるりと突き出しながら、穢れていくオレンジ諸島の海を邪悪な赤い瞳で見下ろしながらゲハゲハ笑うのであった。

  THE END