柴後輩とクロ兄ちゃん【クレープ】

  「ゆ〜う〜、お絵描きしてないでかーまーえーよぉ〜、んなぅ〜〜」

  「[[rb:琉貴 > るき]]って結構絡み酒なんだね」

  オレはクロ[[rb:兄 > にぃ]]の部屋のキッチンで晩飯を作りながら、ソファの上で戯れる先輩猫2人をチラ見していた。

  今日は[[rb:優 > ゆう]]さんが泊まりに来ると聞いていた日だ。[[rb:優 > ゆう]]さんはたまにこうして泊まりに来る。理由は色々だそうだ。

  クロ[[rb:兄 > にぃ]]が酔ってるのは、2人で飲んでいたのではなく、サークル活動が原因らしい。夏祭り関連の打ち合わせでおっちゃんたちに飲まされたらしい。

  誕生日にうちの店で潰れた時は店長たちの前で気張っていたのか、オレと[[rb:優 > ゆう]]さんだけの今はゆるゆるだ。その証拠に、さっき[[rb:優 > ゆう]]さんが名前で呼んだのを気にもしていない。

  いつも怒られるのに、[[rb:優 > ゆう]]さんはたまにクロ[[rb:兄 > にぃ]]のことを名前で呼ぶ時がある。おちょくっているだけなのか、理由は分からないがちょっとうらやましい。

  「シャッ、シャッ、シャシャッ、シャーッ!」

  構ってもらえないクロ[[rb:兄 > にぃ]]が[[rb:優 > ゆう]]さんの虎尻尾でボクシングを始めている。[[rb:優 > ゆう]]さんはタブレットでお絵描きしながら華麗にクロ[[rb:兄 > にぃ]]をあしらっている。

  ─────うらやましい。

  オレは料理の手を止めて、くるんと丸まった自分の柴尻尾を見た。

  左右にフリフリしてみるが、これでは短すぎてクロ[[rb:兄 > にぃ]]のお相手は務まりそうにない。

  「はぁ〜・・・」

  オレは向き直ってため息をついた。

  [[rb:優 > ゆう]]さんにはいつも負けたような気分にさせられてしまう。クロ[[rb:兄 > にぃ]]も[[rb:優 > ゆう]]さんには気の置けない友人といった様子で、オレと一緒の時より素が出てる気がする。

  大学では[[rb:優 > ゆう]]さんにしか見せない顔があるのだろうかと思うと、なんだかムズムズしてしまう。

  「あーヤメヤメ!」

  オレはモヤを払うように頭をブルブル振った。

  ただでさえオレのブラコンは極まりきってヤバいところまで逝ってしまっている。こんなことでは、またあんな夢を見てしまうかもしれない。

  今日だって罪悪感からかクロ[[rb:兄 > にぃ]]を見ると眩しいような気がして直視できない。

  ピピピピッ─────。

  その音で思考から解放されたオレはタイマーを止め、茹でていた[[rb:素麺 > そうめん]]を湯切りして氷水にさらした。

  今日は素麺で作る冷やし担々麺だ。

  お酒を飲んだクロ[[rb:兄 > にぃ]]のために辛味はラー油だけ。具材にも二日酔い対策になるものをたくさん添えていく。

  スープはビタミンB1を補給するための豆乳ベースで塩分は控えめ。アセトアルデヒドの抑制と分解を促進するトマトに挽き肉の代わりのささみ肉。そして肝臓の回復を促す牡蠣も添え、数滴レモン汁を垂らす。最後に彩りとして刻んだキュウリも添えて、小ネギを散らし、胡麻油で香り付けして完成だ。

  オレは3人分の担々麺を作り終え、クロ[[rb:兄 > にぃ]]たちの待つ部屋へ戻った。

  ◆◆◇◇◆◆

  「おー」

  「食っていいか? いいよな? いただきます!」

  料理を運んで早々にクロ[[rb:兄 > にぃ]]は[[rb:優 > ゆう]]さんの隣でスープを1口飲んで感嘆のため息を漏らし麺をすすり始める。

  オレは2人の向かい側に腰を下ろした。

  「俺らの分は簡単で良かったのに、すごい豪華」

  [[rb:優 > ゆう]]さんもクロ[[rb:兄 > にぃ]]も既に晩飯を済ませている。しかし、2人ともオレの料理を食べたいと言ってくれたので、手早く出来て締めに良さそうな料理を作ってみたのだ。

  「全然っすよ! まとめて作った方が楽ですから。それに、費用もほとんどかかってないんで」

  「そうなの?」

  [[rb:優 > ゆう]]さんが小首を傾げる。

  「素麺と野菜は貰い物ですし、牡蠣も安売りしてたやつで、ネギは自家製です!」

  「自家製?」

  「はい! 買ってきたネギの根元を水とかプランターに挿しとくだけでワサワサ生えてくるので!」

  「へぇー」

  [[rb:優 > ゆう]]さんは耳をパタッと動かした後、いただきますして担々麺を食べ始めた。

  それに続いてオレも食べ始める。胡麻の香りが食欲をそそり、豆乳の優しさとコクが土台となって塩分控えめでも味覚にしっかりと満足感を与えてくれる。トマトと牡蠣が合うか少し不安だったが、豆乳ベースのスープにバッチリ合っている。夏の飲み終わりの定番にしちゃおうかな。

  「そのエプロン」

  声に気づいて[[rb:優 > ゆう]]さんの方を見ると、空の器を残して担々麺が消えていた。

  オレが料理の出来栄えを確認している間にスープ一滴残さず消えている。咀嚼している様子もない。

  「は、早いっすね。足りなかったっすか?」

  「ん? ああ。そんなことないよ。食べてきてるから。美味しかったよ。ご馳走様」

  目の前の現象に困惑しているオレに、[[rb:優 > ゆう]]さんは事も無げに返してくる。

  心のどこかで料理人としてのオレが“悔しい”と言っている気がした。

  デカ盛りを提供するお店の人ってこういう気持ちなのだろうか。

  「そのエプロンの刺繍は自分でしたの?」

  そう聞かれて、オレはエプロンを外し忘れていたことに気がついた。

  オレは[[rb:優 > ゆう]]さんの視線を追い、エプロンの“玄來”という刺繍に目をやって答えた。

  「これはクロ[[rb:兄 > にぃ]]が誕生日プレゼントにくれたんすよ。刺繍もクロ[[rb:兄 > にぃ]]が頑張ってくれて」

  「そっか。良かったね」

  [[rb:優 > ゆう]]さんがそう言うと、隣のクロ[[rb:兄 > にぃ]]は一度箸を止めてジト目で[[rb:優 > ゆう]]を見た。

  「・・・恥ずかしいから、あんま見るな」

  抗議の意思表示なのか、クロ[[rb:兄 > にぃ]]は尻尾で[[rb:優 > ゆう]]さんパシパシ叩くが、当人は気にもとめていないようだ。

  「俺のプレゼントは使ってみた?」

  オレは毛を逆立ててビクッとした。

  もらった時に一瞬だけ見て、何か理解した瞬間に再包装したアレ。少し申し訳ないと思いながらも包装したままベッドの下で眠っている。

  「まだ・・・です・・・」

  「そうなの?」

  ・・・というか食事中に聞かないで欲しい。

  しかもクロ[[rb:兄 > にぃ]]の前でそんなこと聞いたら絶対に───────

  「そうだよ、結局お前は[[rb:優 > ゆう]]に何もらったんだよ」

  ほらこうなったよ、もーーー!!

  さらに面倒なことに、クロ[[rb:兄 > にぃ]]は立ち上がり、俺の隣に来て服をクイクイ引っ張り出す。

  わざわざ隣まで来たのに抗議のアクションがさり気なくて、そのギャップに少し落とされそうになる。

  最近クロ[[rb:兄 > にぃ]]の仕草一つ一つが可愛く見えてしまって、本当に頭が痛い。

  「何もらったんだよ。言えよ[[rb:玄來 > げんき]]」

  「イ・・・イワナイ・・・」

  「言えよ」

  「ニチヨウヒン」

  「それじゃ分かんねぇ」

  「・・・」

  「言えー!」

  そう言いながらクロ[[rb:兄 > にぃ]]はオレの腕に頭をグリグリ押し付けてきた。

  オレは愛しさと頭痛で吐きそうになりながらクロ[[rb:兄 > にぃ]]の責めに耐えた。

  [chapter:柴後輩とクロ兄ちゃん]

  [[rb:優 > ゆう]]さんが泊まりに来た日の翌々日の朝、オレはクロ[[rb:兄 > にぃ]]と一緒に少し変わったスーパーに来ていた。

  「[[rb:玄來 > げんき]]、ナスがあるぞ! 俺揚げ浸し食べたい!」

  「そうだね、買っていこうか。うわ、鷹の爪にローリエがこんなに袋パンパンで98円!」

  このスーパーは通常の商品の他に、地域の人が持ち込んだ野菜や山菜、漬物や味噌などが並んでいる。どのようにして値段が決まっているかは知らないが、爆安で買える品が多々あり、朝行かなければすぐに無くなってしまうほど人気だ。

  店長もプライベートや仕入れ目的で来ることがあるらしい。

  「魚も見ようぜ[[rb:玄來 > げんき]]!」

  「うん!」

  オレを早足で先導するクロ[[rb:兄 > にぃ]]はピンと立てた尻尾の先を震わせてかなりご機嫌な様子だ。

  オレもクロ[[rb:兄 > にぃ]]と一緒に買い物するのは楽しい。食材を吟味するのも楽しいのだが、あんなご機嫌に食べたい食材をあれこれ言ってもらえると、料理人としては嬉しくなってしまう。

  何より、クロ[[rb:兄 > にぃ]]に頼ってもらえると胸が甘く痺れて体が奮い立つ。この感覚がたまらなく好きだ。

  オレは尻尾の振りを我慢せず、クロ[[rb:兄 > にぃ]]の後ろについて歩いた。

  ◆◆◇◇◆◆

  「色んな魚があるな。あ、カワハギもあるぞ!」

  鮮魚コーナーはサバやサーモンなどの定番の魚の他にもなかなか種類豊富な旬の魚介たちが並んでいた。

  クロ[[rb:兄 > にぃ]]が目をつけたカワハギも、オレの目の前にあるこのワタリガニも今が旬の魚介だ。

  身が透き通って噛みごたえのあるカワハギの刺身、ズワイガニでは絶対出ないワタリガニの甘い出汁で作った味噌汁、銀でも提供している夏のメニューだ。

  「カワハギ買っていく?」

  「おう! なんか肝が美味いって聞いた事あるんだよなー!」

  そう言ってクロ[[rb:兄 > にぃ]]は目をキラキラさせている。

  確かにカワハギの肝は絶品なのだが、少し違う。

  「クロ[[rb:兄 > にぃ]]、カワハギの旬は2つあるんだよ」

  「2つ?」

  クロ[[rb:兄 > にぃ]]がキョトンとした顔でこちらを見る。かわいい。

  「肝の旬は冬なんだ。今は夏だから肝は小さいけど、身がしまって美味しい時期だよ」

  「へー! フグみたいな顔つきしてるし、身もそんな感じなのかな」

  「お刺身にもって書いてあるし、一尾買って今晩刺身にしてみようか」

  「おう!」

  オレたちはそんな調子で買い物を済ませてレジに向かった。

  レジもなかなか混んでいたが、クロ[[rb:兄 > にぃ]]が手招きしてくれた列の長いレジに並ぶと、みるみるお客さんが進んですんなり会計を終わらせられた。

  サッカー台に買い物カゴを運んだ後、オレとクロ[[rb:兄 > にぃ]]はそれぞれ自前の買い物袋を広げて袋詰めを始めた。

  主に仕込みで使う食材はオレの袋、それ以外はクロ[[rb:兄 > にぃ]]の袋で、あとは重さを考えながら分ける。

  「カワハギはこっちでいいよな」

  「うん、今晩そっちで捌くから」

  こんな風に共同作業してると、一緒に暮らしてるような感覚になって再び胸が甘く痺れて体に震えが走る。

  「あれ、開かないな・・・」

  こういうところを自制しなければダメなのだ。クロ[[rb:兄 > にぃ]]が同じくらいブラコンになってくれるまでは度が過ぎると引かれてしまう。

  それに今は不用意にクロ[[rb:兄 > にぃ]]の身体を触ると何かが弾けそうで怖い。

  もっと好感度を上げるような方向でグイグイと・・・。

  そんな思案にふけっていたその時──────

  ───────チョン

  「わっ!?」

  突然鼻を指で触られて現実に引き戻された。

  「ごめんごめん、指が滑ってポリ袋が開かなくて」

  「だからってヒトの鼻使わないで!!」

  犬のオレの鼻はそこそこ大きめで湿ってるから丁度良かったのかもしれないし、されて嫌でもないのだが、そういう問題では無い。

  「へへへっ、ぼーっとしてるからだよー」

  「────っ!」

  クロ[[rb:兄 > にぃ]]は笑いながら袋詰め作業に戻る。

  こっちがどんな気持ちでクロ[[rb:兄 > にぃ]]を我慢してるか全く分かってない様子だ。分かられたら困るのだが。

  オレばっかりドキドキさせられるのはズルい。

  オレがクロ[[rb:兄 > にぃ]]ドキドキさせたいのだ。

  オレは不本意な喜びと、矛先を向ける相手がいない嫉妬心に膨れながら、袋詰め作業に戻った。

  ◆◆◇◇◆◆

  「あ、[[rb:玄來 > げんき]]! クレープ買って行こうぜ!」

  スーパーの外には移動販売のクレープ屋さんがあり、クロ[[rb:兄 > にぃ]]は買うのを決めていたかのように迷いなく走り寄った。

  「イチゴとチョコバナナください!」

  クロ[[rb:兄 > にぃ]]はオレを待つことなく、店員さんに注文を入れる。

  たぶんオレに奢るためだろう。オレを待ったら確実に払う払わないの押し問答になると分かっているのだ。

  言ったらなんだが、社会人のオレのほうが確実にお金は持っている。それに、この前パチンコで手に入れたお金もまだ使い道が決まっていない。

  それでもこうして奢ってくれるのはクロ[[rb:兄 > にぃ]]だからなんだろう。

  「お前はチョコバナナな」

  「うん、ありがとう」

  オレもクロ[[rb:兄 > にぃ]]に続いて店員さんからクレープを受け取った。

  2人とも右手にクレープ、左手に買い物袋を持ってアパートまで歩く。

  「ウマー! 朝の糖分って染みるよなー!」

  一口、二口とクロ[[rb:兄 > にぃ]]はイチゴソースのかかったクレープを食べ進める。

  それを見てオレもクレープを一口食べた。

  ・・・オレよりも小さな口。

  オレなら食べようと思えば一口でこのクレープを食べられる。

  夏だからと言って今日はスーパーでアイスも買った。クロ[[rb:兄 > にぃ]]はオレが棒アイスやコーンがついたアイスよりもカップアイスが好きだと思っている。今日買ったのもカップアイスだ。

  確かに小さい頃からいつもカップアイスを選んで買っていたが、特別好きというわけではない。どれも好きだ。

  ただ、カップアイスなら違和感なくクロ[[rb:兄 > にぃ]]と同じペースで一緒に食べられるから好きだった。

  こうして手に持って食べるものだと、全然大きさが違うとよく分かる。

  自分が一口で食べられるクレープに小さな口で何度もかぶりついて食べる姿に胸がきゅっとなる。

  「・・・な、なんだよ[[rb:玄來 > げんき]]。さっきから人の顔ジロジロ見て」

  「えっ! ええと・・・」

  つい見つめてしまっていたようだ。クロ[[rb:兄 > にぃ]]の顔が少しムスッとしている。

  「あ・・・」

  言い訳を探していると、クロ[[rb:兄 > にぃ]]の髭にソースのかかったクリームがついていた。

  「クロ[[rb:兄 > にぃ]]、クリームついてるよ」

  「うん?」

  クロ[[rb:兄 > にぃ]]はどこだどこだと口の周りをペロペロ舐める。

  「もしかして髭か? 両手塞がってるから食べ終わってからにするわ」

  そう言って再びクレープを食べ始めたクロ[[rb:兄 > にぃ]]にオレは顔を近付けた。

  ───────ペロッ

  「──────ッ!?!?!?」

  オレはクロ[[rb:兄 > にぃ]]の髭のクリームを舐めとった。

  クロ[[rb:兄 > にぃ]]はクレープを口含んだまま、声もなく絶叫していた。

  そういえば猫の人の髭って敏感なんだっけ。

  「な、な、な、なん」

  「へへっ、さっきの鼻チョンのお返し」

  クロ[[rb:兄 > にぃ]]は返す言葉も無いようで、前を向いてクレープをやけ食いしていた。

  それから帰宅して、クロ[[rb:兄 > にぃ]]は大学、オレはナスの仕込みだけ終わらせて銀に出勤した。

  クロ[[rb:兄 > にぃ]]の髭のクリームの味は、いつかどこかで食べたような気がする味だった。

  ◆◆◇◇◆◆

  その日の夜、メニューはご飯と味噌汁、ナスの揚げ浸しと玉子焼き、そしてカワハギの刺身。カワハギ以外は調理を終えて、あとはコイツを刺身にするだけだ。

  オレの後ろでクロ[[rb:兄 > にぃ]]がカワハギを捌くところを見守っている・・・ように見えるのだが、どうも挙動がおかしい。

  チラりと後ろに目をやると、クロ[[rb:兄 > にぃ]]はニマニマしながら右から覗いたり、左から覗いたりを繰り返している。

  一応尻尾の方も確認してみると、悩ましげにクネクネと動いている。

  これは・・・来るな・・・。

  そして、オレがカワハギに手をかけようとした瞬間─────

  「そこっ!」

  「にゃっ!?」

  オレは背後から伸びてきた手を左手でパシッと叩いた。

  「やっぱり来ると思ったよ。ナスの揚げ浸し大好物だもんね。つまみ食いはダメだよクロ[[rb:兄 > にぃ]]」

  最近クロ[[rb:兄 > にぃ]]は機嫌がいいとキッチンに顔を出してつまみ食いする時がある。

  別にナスは食べても構わないのだが、料理によっては歯抜けになって見た目が残念になることもある。それは料理人的に許容し難い。なのでつまみ食いはなるべく叱るようにしている。

  「やるじゃないか[[rb:玄來 > げんき]]」

  「そう何度もやられないよ」

  どうやら今日の攻防はオレの勝ちのようだ。一度止めたらその日のアタックはもう無い。

  そして、オレが改めてカワハギに手をかけたその時だった。

  「しかし、甘いぞ[[rb:玄來 > げんき]]! この玉子焼きよりな!」

  「なにっ!?」

  俺が振り向くと、クロ[[rb:兄 > にぃ]]の右手には玉子焼きが一切れ、そして皿の上の玉子焼きは歯抜けになっていた。

  「コラー!」

  「フフンフフフーン!」

  泥棒猫は小さな口に玉子焼きを咥えて、聴き取れないセリフを残して走り去ってしまった。

  ◆◆◇◇◆◆

  「美味かったなーカワハギ」

  「うん。でも銀のカワハギはもっと透き通ってて美味しいよ」

  「マジか。やっぱ季節毎に銀は行かなきゃダメだな」

  銀で定番メニューを頼むお客は少ない。みんな季節物が目当てだし、店長もそういう食材を張り切って仕入れている。

  「カワハギの他には何出してるんだ?」

  「日によって色々。あ、そろそろうなぎも始まるかも」

  銀では土用の丑の日に合わせてうなぎ弁当の予約販売を行っている。

  店でも提供出来ないことは無いのだが、時間も手間もかかり、美味しい状態で食べてもらおうと思うとコストもかかる。

  店長が納得いく状態で提供出来ないということで、うなぎは予約販売となっているのだ。

  「うなぎと言えば夏だもんな。スーパーにもあったけど、さすがになかなか手が出ないよな」

  「蒲焼きってすごく手間もかかるから、銀でも予約販売の弁当限定なんだ。ちなみに天然うなぎの旬は冬だよ」

  「そうなのか!?」

  夏にうなぎを食べるのは大昔の販売戦略の名残りで、うなぎが一番美味しいのは冬だ。

  「でも夏に需要が高まるから、養殖うなぎの旬は夏なんだよ」

  「へぇー、養殖って旬も調整出来ちゃうんだな」

  銀で扱うのも養殖うなぎだ。仕入先から活うなぎを仕入れて全工程を店でやっている。

  「銀で焼きたてのうなぎ食べてみたいな・・・」

  そんなクロ[[rb:兄 > にぃ]]の呟きを聞いてオレはピンときた。

  やっと思いついた。店長に急かされていたお金の使い道。出来だけたくさんの人が笑顔になる使い道だ。

  「クロ[[rb:兄 > にぃ]]! うなぎ食べよう!」

  「へ?」

  クロ[[rb:兄 > にぃ]]は目を見開いて疑問符を浮かべる。

  「スーパーの買って食べるのか?」

  その問いに、オレは自信満々の顔で答えた。

  「ううん、銀で!」

  [chapter:柴後輩とクロ兄ちゃん]

  最近、放置してた青空でも呟くようになりました。

  作品裏話とか進捗とか、Twitter(X)で言うのがちょっと恥ずかしいことを吐き出す感じで行こうかと思ってます。

  また、[[rb:琉貴 > るき]]と[[rb:玄來 > げんき]]のキャラ絵をUPしました。

  処女作なので画力はありませんが、特徴だけは押さえてあるので、雰囲気だけ掴んでもらえたらと思います。

  【定期】

  Twitter(X)で #柴クロ小ネタ 更新中です。

  ストーリーと合わせてお楽しみください。

  誤字脱字修正のDM超助かってます。

  いつも柴クロをお読み頂きありがとうございます。

  蒼空ゆうぎ