柴後輩とクロ兄ちゃん【パチンコ】

  クロ[[rb:兄 > にぃ]]の部屋・・・。

  オレはいつも通り晩御飯を作って─────。

  洗い物は・・・?

  「ありがとな[[rb:玄來 > げんき]]。今日は洗い物までさせちまって」

  キッチンで食器を洗っていたらしいオレにクロ[[rb:兄 > にぃ]]が声をかけてきた。

  「いいんだよ。それよりクロ[[rb:兄 > にぃ]]は熱あるんだから休んでて」

  「悪いな」

  クロ[[rb:兄 > にぃ]]は困り顔で笑ってソファへ歩いていった。

  そうだ、クロ[[rb:兄 > にぃ]]は熱があるんだ。

  さっき歩いていった時も少しフラついていた気がする。

  早く休ませないと。

  オレはソファに座るクロ[[rb:兄 > にぃ]]に近付いた。

  「[[rb:玄來 > げんき]]」

  「!」

  声をかけようとして、不意に名前を呼ばれた。

  クロ[[rb:兄 > にぃ]]はゆっくりこちらを向いて、伏し目がちに微笑み、自分の隣をポンポンと叩く。

  綺麗だ・・・。

  「[[rb:玄來 > げんき]]、こっち」

  オレは促されるままに、クロ[[rb:兄 > にぃ]]の隣に座った。

  「クロ[[rb:兄 > にぃ]]、早く横になったほうがいいよ。オレ、運ぼうか?」

  「・・・そうだな」

  クロ[[rb:兄 > にぃ]]の返事を聞いて、立ち上がろうとした瞬間だった。

  ─────とすっ

  「っ!」

  こちらにそっと倒れてきたクロ[[rb:兄 > にぃ]]の頭がオレの左肩に乗った。

  「ここじゃダメか?」

  「っっ!!」

  オレに体重を預けながらそんなことを言うクロ[[rb:兄 > にぃ]]にドキリとする。

  そして、クロ[[rb:兄 > にぃ]]は少し首を傾けて瞳をこちらに向ける。

  上目遣い・・・それとも流し目というのだろうか。

  女の子なら確実に落ちてると思う。

  やっぱりクロ[[rb:兄 > にぃ]]はカッコいい。

  「・・・なんてな。大人しくベッド行くか」

  そう言ってクロ[[rb:兄 > にぃ]]が立ち上がろうとした時だった。

  「おおっと」

  「クロ[[rb:兄 > にぃ]]・・・っ!」

  ──────ドサッ

  フラついたクロ[[rb:兄 > にぃ]]を支えようと身を乗り出した瞬間、両手で首の後ろをふわりと包まれたかと思うと、そのまま流れるようにオレがクロ[[rb:兄 > にぃ]]を押し倒したような体勢になってしまった。

  ソファに手をつくオレの下で、クロ[[rb:兄 > にぃ]]はオレを見上げている。

  「[[rb:玄來 > げんき]]・・・」

  「く、クロ[[rb:兄 > にぃ]]・・・」

  クロ[[rb:兄 > にぃ]]はオレの首の後ろに回していた両手をゆっくりと滑らせて、オレの頬を包む。

  「[[rb:玄來 > げんき]]・・・」

  文字通り熱に浮かされたような表情、潤んだ瞳がオレの視線を掴んで離さない。

  オレを包んでいた両手は頬を滑り降りて、クロ[[rb:兄 > にぃ]]の胸に落ちる。

  「熱・・・上がったかもな」

  クロ[[rb:兄 > にぃ]]が困ったように笑う。

  「暑いよ・・・[[rb:玄來 > げんき]]」

  「っ!!」

  クロ[[rb:兄 > にぃ]]の胸に落ちた両手は、一つ、また一つと、白いシャツのボタンを外していく。

  オレは目を見開き、口を開けたまま固まって、その様子を見守る。

  「・・・手伝ってくれないのか?」

  「っっ!!!」

  クロ[[rb:兄 > にぃ]]はソファについたオレの右手に頬を寄せて縋り、乞うような表情でオレを見つめる。

  クロ[[rb:兄 > にぃ]]の潤んだ瞳に溺れてしまったオレは、だんだんと呼吸を乱されていく。

  「[[rb:玄來 > げんき]]・・・」

  クロ[[rb:兄 > にぃ]]の両手が、オレの右手の平を自分の頬へと導く。

  クロ[[rb:兄 > にぃ]]は目を瞑り、気持ち良さそうに頬を擦り寄せる。

  気持ち良い・・・。

  クロ[[rb:兄 > にぃ]]が酔った日のことを思い出す。

  あの日もクロ[[rb:兄 > にぃ]]の頬に触れた。

  クロ[[rb:兄 > にぃ]]の頬の毛は少し長くて、ツヤツヤで、柔らかい。

  こんな風に懐かれたら、あの時沸き起こった感情まで思い出してしまう。

  いつも明るくて、カッコ良くて、何でも出来て、オレを引っ張ってくれる、頼れる兄ちゃん。

  そんな人が、あの日みたいにオレの手に頬を擦り寄せて懐いている。

  オレはどうしたらいい?

  クロ[[rb:兄 > にぃ]]はオレに何を求めてる?

  疑問ばかりで思考を止めたまま、オレはクロ[[rb:兄 > にぃ]]に見とれていた。

  ────────そして、

  「・・・・・・にゃぁ」

  「──────────ッッッ!!!!!」

  か細く鳴いた猫の声が、世界でただ1人オレだけに聞こえていた。

  頭の中は太陽のように白く焼かれ、司令塔を失った身体は、五感から得た情報を理解するままに動いた。

  オレは・・・クロ[[rb:兄 > にぃ]]を────────

  [chapter:柴後輩とクロ兄ちゃん]

  「はあぁぁ〜〜〜〜・・・・・・」

  小料理屋『銀』の開店準備の真っ只中、[[rb:玄來 > げんき]]は手を動かしながら特大の溜息をついていた。

  「・・・」

  その横で開店準備を進める店長の[[rb:銀吾朗 > ぎんごろう]]は横目で[[rb:玄來 > げんき]]の様子を窺っていた。

  「ねぇゴロちゃん」

  耳打ちするような声に気付いた[[rb:銀吾朗 > ぎんごろう]]が反対側に目を向けると、同じく開店準備をしていた[[rb:友紀 > ゆき]]が心配そうな顔をしていた。

  2メートル近い巨躯の黒狼は、小さな白兎の妻のために身をかがめて顔を寄せた。

  「[[rb:玄來 > げんき]]くんどうしちゃったの。今日、全然元気無いみたいだけど・・・」

  [[rb:友紀 > ゆき]]は[[rb:玄來 > げんき]]に聞こえないように、つま先立ちして[[rb:銀吾朗 > ぎんごろう]]に耳打ちする。

  「それがよぉ、なんか変な夢見ただけとか言って、それ以上の事は話さねぇんだよ」

  [[rb:銀吾朗 > ぎんごろう]]も[[rb:鱚 > きす]]を捌く手を止めて、小声で[[rb:友紀 > ゆき]]に返す。

  今捌いている鱚は天ぷら用。夏の銀の人気メニューだ。

  「クロくんなら何か知ってるかしら・・・」

  「夢ってんだから昨日の今日の話だろ? クロ坊だって知るめぇよ」

  「夢だけであんなに落ち込むかしら・・・」

  [[rb:友紀 > ゆき]]は心配そうに[[rb:玄來 > げんき]]を見つめた。

  「まぁ、見当がつかなくもないがな」

  [[rb:銀吾朗 > ぎんごろう]]が目を伏せてそう言うと、[[rb:友紀 > ゆき]]は小首を傾げた。

  「あれだよ、[[rb:女旱 > おんなひでり]]ってヤツ」

  「えぇぇ・・・」

  自信ありげな表情を浮かべる[[rb:銀吾朗 > ぎんごろう]]とは対照的に、[[rb:友紀 > ゆき]]は納得いかないといった様子だ。

  「[[rb:玄來 > げんき]]くんそんなタイプには見えないわよ」

  「ああいうヤツほど盛りが付いたら止まらなくなるもんなんだよ」

  自信ありげな表情を崩さないまま、[[rb:銀吾朗 > ぎんごろう]]は再び鱚を捌き始める。

  

  「また刑事の勘?」

  「男の経験則だよ。平日は晩飯時を過ぎるまで仕事、休日はどうせクロ坊たちと遊んでるんだろ。あいつらがナンパだの店だの行くとも思えねぇし」

  一通り捌き終えて、[[rb:銀吾朗 > ぎんごろう]]が手袋を外した。

  「実は男抱く夢見て落ち込んでたりしてな」

  ニシシと笑いながら[[rb:銀吾朗 > ぎんごろう]]は鱚を並べたステンレスバットを片付けて、次の作業に取り掛かる。

  「からかわないでよもう・・・」

  [[rb:友紀 > ゆき]]は楽しげに冗談を言う[[rb:銀吾朗 > ぎんごろう]]に呆れながら鼻で溜息をついた。

  「今度の休みに俺が遊びにでも連れ出してやるとするか。多少の気分転換にはなるだろ」

  「変な遊び教えないでよ?」

  「大丈夫だって。でも、[[rb:友紀 > ゆき]]ちゃんがOKしてくれんならキャバクラにでも・・・」

  「どうぞお好きに。チエさんには報告させてもらいますけど」

  「じょっ冗談だっての」

  “チエさん”は[[rb:玄來 > げんき]]の母親の[[rb:柴 > しば]] [[rb:千枝子 > ちえこ]]のことだ。

  元々は[[rb:銀吾朗 > ぎんごろう]]の知り合いなのだが、[[rb:玄來 > げんき]]の近況報告なども含めて[[rb:友紀 > ゆき]]が頻繁に連絡を取っている。

  既に友達のように仲が良く、まだ幼い息子の[[rb:誓優 > せいや]]くんのことで[[rb:友紀 > ゆき]]が相談に乗ってもらうことも多い。

  「それに俺はもう[[rb:友紀 > ゆき]]ちゃん一筋で・・・」

  「はいはい」

  弁明しようとする[[rb:銀吾朗 > ぎんごろう]]の言葉を[[rb:遮 > さえぎ]]り、[[rb:友紀 > ゆき]]はそっぽを向いて開店準備に戻っていった。

  ◆◆◇◇◆◆

  ────次の日曜日。

  「よぉし行くぞ[[rb:玄來 > げんき]]!」

  「う、うす!」

  自動ドアが開いた瞬間、声を張らないと聞こえないほど、けたたましい音が鳴り響く。店内にはきらびやかな装飾が施された鏡台が規則正しく立ち並び、それに向かう人々は玉の弾けた先のドリームが映し出される瞬間を今か今かと待っている。

  ここはパチンコ屋である。

  「そんな心配そうな顔すんなって、ちょっと遊ぶだけだからよ!」

  「あ、いや・・・うす」

  微妙そうな顔をしている[[rb:玄來 > げんき]]を見て、[[rb:銀吾朗 > ぎんごろう]]はその背中をバンと一発叩く。

  元々大人しい性格の[[rb:玄來 > げんき]]は初めてのパチンコ屋の雰囲気に圧倒されていた。人より耳と鼻が敏感なこともあり、その音と独特の匂いにすっかり畏縮してしまっていた。

  そんな[[rb:玄來 > げんき]]とは対照的に、[[rb:銀吾朗 > ぎんごろう]]は大きな尻尾を機嫌良さそうにゆったりと振りながら、台を選びに向かった。

  [[rb:玄來 > げんき]]もとりあえず[[rb:銀吾朗 > ぎんごろう]]について行った。

  ◆◆◇◇◆◆

  「よし、ここにするか」

  [[rb:銀吾朗 > ぎんごろう]]は台を選ぶと[[rb:玄來 > げんき]]を座らせ、自分もその隣に座った。

  「ここに金を入れて貸玉を買うわけだ。札しか使えねぇからな。んで玉の値段ってのが─────」

  座るや否や、[[rb:銀吾朗 > ぎんごろう]]のパチンコ解説が始まった。

  [[rb:玄來 > げんき]]にとっては半分呪文のようであったが、なんとかやるべき事だけは理解しながら聞いていた。

  「あと覚えておけよ[[rb:玄來 > げんき]]。男なら4パチミドル一択だ。間違っても甘デジなんか座るんじゃねぇぞ」

  「よ、よんぱ・・・でじ・・・う、うす!」

  [[rb:玄來 > げんき]]はとりあえず千円札を入れて玉を出し、[[rb:銀吾朗 > ぎんごろう]]に教えてもらった通りにハンドルを回して打ち始めた。

  画面の中で海中を背景にデフォルメされた魚介たちが流れていく。

  そして、開始から3分。

  ─────スーパーラッキー!!

  「うお、いきなりかよ。持ってんなー」

  [[rb:玄來 > げんき]]の台でカニのキャラが揃い、画面が賑やかになる。

  

  そして、沖縄の海を背景に魚介たちを見送っていると身軽そうな着物を着た紺色猫の女の子が現れ、エイサー太鼓を持って踊り始める。

  [[rb:琉貴 > るき]]と毛色が似ている雌猫の登場に、[[rb:玄來 > げんき]]はなんとなく気まずくなって目を伏せた。

  「[[rb:玄來 > げんき]]何やってんだ!! タッチしろタッチ!!」

  「えっ!」

  [[rb:玄來 > げんき]]が急いで手を伸ばして画面の猫に触れると、画面上部のハイビスカスが降りてきて光りながら回転し始めた。

  その後、昼飯時を過ぎても[[rb:玄來 > げんき]]の大当たりは止まらなかった。

  ◆◆◇◇◆◆

  「千円で十万勝ちかよ。ビギナーズラックなんてレベルじゃねぇぞお前」

  「あはは・・・」

  車を運転する[[rb:銀吾朗 > ぎんごろう]]の横で、[[rb:玄來 > げんき]]は反応に困って苦笑する。

  あれから何が何やら分からない[[rb:玄來 > げんき]]の隣で1人興奮する[[rb:銀吾朗 > ぎんごろう]]に背中を押されて、[[rb:玄來 > げんき]]は打ち続けた。

  結局、昼食を取ることなく帰宅となった。

  「これは[[rb:友紀 > ゆき]]ちゃんと[[rb:誓優 > せいや]]も連れて、[[rb:玄來 > げんき]]先生に晩飯をご馳走になるとするかね」

  「もちろんッスよ。焼肉でも寿司でも」

  そうは言っても、流石の[[rb:銀吾朗 > ぎんごろう]]も全額使わせるような真似はしない。息子の[[rb:誓優 > せいや]]もまだ1歳で、4人で食事をしても十分に余る額だ。

  「[[rb:玄來 > げんき]]。余った金はどうするんだ?」

  [[rb:銀吾朗 > ぎんごろう]]が少し真面目なトーンで[[rb:玄來 > げんき]]に尋ねる。

  「実家に送ろうと思ってます。妹が大学行く時の足しにもなりますし」

  「絶対に送るな」

  「えっ?」

  先程より強めの声で制されて、[[rb:玄來 > げんき]]は少し驚く。

  「いいか、ギャンブルってのはお前みたいに運の良い奴が笑う陰で金を失って泣く奴もいる。その金は泣かされた奴の金がお前に回ってきたもんだ。商売みたいに客の笑顔の対価じゃねぇ。身内で抱え込むような真似はしちゃイケねぇのよ」

  [[rb:銀吾朗 > ぎんごろう]]は調理の指導をする時と同じ顔で話を続ける。

  「だからその金は他人を笑顔にするためにパーッと明るく使わなきゃならねぇ。なるべく複数人のためにな」

  「笑顔に・・・」

  [[rb:玄來 > げんき]]はハッとさせられたような気持ちで[[rb:銀吾朗 > ぎんごろう]]を見つめる。

  「本当はその日のうちに使い切るのが1番なんだが・・・ま、早いうちに使えるよう考えとけよ」

  「う、うす!」

  その日の夜は[[rb:尾神 > おがみ]]一家と[[rb:玄來 > げんき]]の4人で焼肉に行った。

  その間も[[rb:玄來 > げんき]]はパチンコで得たお金の使い道を考えていた。

  [chapter:柴後輩とクロ兄ちゃん]

  続きは頭にあるのですが、長くなりそうなので切りました。

  今年最後にもう1話本編の更新が出来て良かったです。

  今年は柴クロをご愛読頂きありがとうございました。

  今年7月スタートでSNSの繋がりも執筆経験も特になく、完全にゼロからでしたが、多くの方に読んで頂けて嬉しいのとホッとした気持ちでいっぱいです。

  特に感想をくださる方々や毎話ブクマで応援してくださる方々には執筆エネルギーをたくさん頂きました。

  どこかのあとがきでも書きましたが、100users入り目指して頑張りますのでよろしくお願い致します。

  閲覧勢時代の自分みたいなコッソリ勢の方もいると思うので気持ちは既に100usersです。

  (柴クロ読み切りスピンオフ作品が投稿から1週間で本編1話のブクマ数を超えてしまったので、良ければ今からでも応援お願いしますm(_ _)m)

  来年はキャラ絵練習して、簡単なノベルゲームでも作れたらなと思ってます。

  長くなりましたが、いつも柴クロお読み頂きありがとうございます。

  来年もよろしくお願いいたします!

  年明けに読まれた方は今年もよろしくお願いいたします!(Twitter(X)で柴クロおみくじ実施中!

  蒼空ゆうぎ