柴後輩とクロ兄ちゃん【服】

  “お前の女の子からの評価はこんな感じだな!”

  オレは営業中の銀で皿を洗いながら、ゲームで黒猫の幼馴染からもらった情報に頭を悩ませていた。

  黒猫の名前は[[rb:黒田 > くろだ]] [[rb:春樹 > はるき]]というのだが、[[rb:春樹 > はるき]]は電話をかけると女の子に関する情報を提供してくれる。彼は入学早々にクラスの女子全員の連絡先を把握しているコミュニケーションお化けで、探偵レベルの情報通でもある。帰宅部なのに。

  攻略対象として[[rb:葉澄 > はすみ]]ちゃんを選んでから[[rb:春樹 > はるき]]に連絡先などを教えてもらい、同じ部活に入ったり、デートを重ねたりしているのだが、なかなか好感度が上がらなかった。

  「やっぱり服とか気を使ったほうがいいのかな・・・」

  [[rb:春樹 > はるき]]と一緒に下校すると何かとアドバイスをくれるのだが、女子には服装の好みがあるそうだ。休日に買い物に出かけると新しい服を買うことが出来るのだが、どれを選べばいいのか分からないし、試しに買ってみるというのももったいなくて出来ないままだった。

  お小遣いもあるし、バイトも[[rb:春樹 > はるき]]と同じファミレスでやっているのでお金は貯まり続けている。最近はその数字が増えるのもちょっと楽しくなってきていた。

  「服がどうしたのっ?」

  「わっ」

  不意にぴょんっと跳ねるような調子で背中を叩かれ、[[rb:友紀 > ゆき]]さんがオレの顔を覗きに来た。

  「いや、その・・・服買おうと思ってるんすけど、選び方が分からなくて・・・」

  オレは一瞬言葉を詰まらせた後にそう答えた。まさか恋愛シミュレーションゲームで狙った女子を落とすための服選びに迷ってましたなんて言えるはずもない。

  攻略サイトを見れば悩むことも無いのだが、それをやるとクロ[[rb:兄 > にぃ]]がクロ鬼になってしまうので出来ない。昔ゲームを借りてそれをやったらものすごい大説教をくらってしまった。

  あの時はクロ[[rb:兄 > にぃ]]の顔が本当に鬼に見えた。

  「えっ、もしかしてデートとか? 好きな子出来ちゃった!?」

  [[rb:友紀 > ゆき]]さんは何かを期待するような目で耳をピンと立てながら、両手の指先を口元で合わせた。

  「そういうわけじゃないんすけど、女性ウケして欲しいことには違いないっすね」

  オレがそう言うと、[[rb:友紀 > ゆき]]さんはさっきよりも目をキラキラさせながら、相談に乗ろうかと声をかけてくれた。

  確かに女性の意見を聞ける絶好の機会かもしれない。

  悲しいことに今のオレには他に相談出来る女性が家族と元カノの[[rb:香澄 > かすみ]]くらいしかいない。しかし、元カノに相談するのも情けなくて失礼な気がするし、母さんや[[rb:光 > ひかり]]に相談すると面倒なことになりそうな気がする。

  そう考えると[[rb:友紀 > ゆき]]さんくらいしかまともに相談出来る女性がいないと思った。

  「やめとけ[[rb:玄來 > げんき]]。[[rb:友紀 > ゆき]]ちゃんは間違い無く最高の女だが、服の趣味はちょっと偏ってるからな」

  店長はカウンター越しの船長に刺身の盛り合わせを出しながら言った。

  [[rb:友紀 > ゆき]]さんは店長に抗議し始め、船長はおちょこを傾けながらニコニコしていた。

  「大体服ってのはな、自分がどんな男かアピールするためのもんだ。女の好みに合わせるもんじゃねぇ」

  その店長の言葉にお客さんが沸いて、店内は賑やかさを増した。

  しかし、カッコいいと思う反面、今回は女の子ウケしてくれないと困るので、オレは再び頭を悩ませるのだった。

  [chapter:柴後輩とクロ兄ちゃん]

  「ショッピングモール?」

  銀での一件があった翌日、晩ご飯を食べ終わって一息ついていたところで、クロ[[rb:兄 > にぃ]]から少し遠出して買い物しないかと誘われた。

  「そろそろ新しい服買いたいなーと思っててさ。せっかくだし、[[rb:玄來 > げんき]]も一緒に新しいやつ買わないか? ほら、合コンあるだろ? 俺も選ぶの手伝うからさ!」

  昨日の今日ですごく良いタイミングだ。

  現実で自分の服を買おうとは思っていなかったが、近々クロ[[rb:兄 > にぃ]]に誘われた合コンも控えている。それに、オシャレなクロ[[rb:兄 > にぃ]]に服を選んでもらえるのは嬉しいし願ったり叶ったりだ。

  「うん! オシャレなクロ[[rb:兄 > にぃ]]に選んでもらえるならオレも嬉しいよ!」

  オレがそう言うと、クロ[[rb:兄 > にぃ]]は謙遜しながら恥ずかしそうにそっぽを向いた。

  頼れる兄ちゃんではあるが、こういう顔を見ると可愛いなぁなんて思ってしまう。

  もし、クロ[[rb:兄 > にぃ]]が攻略対象の女の子だったら、きっと攻略サイトを見なくても悩まず攻略出来そうな気がする。冷静に考えればクロ[[rb:兄 > にぃ]]の好感度を上げるのは簡単だ。

  たとえば・・・

  「クロ[[rb:兄 > にぃ]]が服選んでくれるなら、お礼に買い物の次の日の晩ご飯はご馳走作っちゃおうかな」

  「ホントか!」

  さっきの照れ顔はどこへやら。クロ[[rb:兄 > にぃ]]は両手を胸の前でグッと握り、キラキラした目でこっちを向いた。耳も尻尾もピンと立てて、お手本のような喜び方だ。

  「そんなに嬉しい?」

  「当たり前だろ!」

  ──────チョロい・・・。

  「はぁ〜・・・」

  オレは即答してくれるクロ[[rb:兄 > にぃ]]に対して嬉しい反面、少しため息が出てしまった。

  「お、おい、なんでそこでため息なんだよ」

  クロ[[rb:兄 > にぃ]]が男で本当に良かったと思う。もし女の子だったら悪い男にも簡単にホイホイついていってしまうに違いない。

  小さい時も知らないおじさんについて行こうとして、オレが泣きながら止めたこともあった。

  クロ[[rb:兄 > にぃ]]の良い所でもあるのだが、もし自分の彼女がこんな感じだったらオレは心配でしょうがなくなってるだろう。

  「クロ[[rb:兄 > にぃ]]、もし[[rb:優 > ゆう]]さんが手料理作ってくれたら嬉しい?」

  「うん? そりゃ嬉しいだろ!」

  クロ[[rb:兄 > にぃ]]は質問の意図が分からないといった様子だったが、すぐに笑顔でそう言った。

  「ユズが作ってくれたら?」

  「嬉しいぞ!」

  「・・・ニャンジローさんなら?」

  「嬉しい!」

  オレは額に手を当て、疑問符を浮かべるクロ[[rb:兄 > にぃ]]をよそに、盛大なため息をついた。

  ◆◆◇◇◆◆

  ──────日曜日。

  オレとクロ[[rb:兄 > にぃ]]はバスに乗って、家から少し離れた所にあるショッピングモールに来ていた。オレたちは朝ごはんを食べずに、着いたら少し早めの昼ごはんを食べようと話していたため、真っ先にフードコートに向かった。

  広々としたフードコートには様々なお店が集まっており、オレたちはお店をひと回りしながら何を食べようか選んでいた。

  「本場のカレー。インド、ネパール。ネパールのカレーってめっちゃ“豆”だな」

  「そっちはダールっていう豆のスープで、その隣のがカレーになるみたい」

  フードコートの料理に目移りしながらも、クロ[[rb:兄 > にぃ]]はカレーのお店でダルバートというネパールの家庭料理を注文し、オレは有名店らしいラーメン屋の豚骨ラーメンを注文した。

  注文時に渡されたブザーが鳴り、お互いの料理を持って席に着くと、クロ[[rb:兄 > にぃ]]は目の前の料理を興味深そうに眺めていた。

  「これがネパールカレーか。なんかワンプレートランチって感じだな」

  プレートの上には、こんもり盛られた米を中心にカップに入った豆のスープとチキンカレー、それにアチャールと呼ばれる南アジアの漬物が数種類乗せられていた。

  クロ[[rb:兄 > にぃ]]はいただきますと手を合わせて早速カレーを味見していた。

  「うおお、スゲー“豆”だ。[[rb:玄來 > げんき]]も食べてみろよ」

  「いいの?」

  オレが口を開けると、クロ[[rb:兄 > にぃ]]は一瞬止まったように見えた後で、ダールとカレーをすくって食べさせてくれた。

  オレのラーメンも食べてみて欲しくて、器をクロ[[rb:兄 > にぃ]]に渡して味見してもらった。

  「[[rb:玄來 > げんき]]ってラーメン好きだよな。家では全然作ったりしないのに」

  「そうかも。麺もスープも家じゃお店みたいなのがなかなか作れないからかな。外に出ると食べたくなるんだよね」

  どんな料理も1度食べればある程度再現出来る自信はある。でも、ラーメンの再現だけは無理だ。麺はそもそも作れないし、スープだってシンプルなものしか作れない。豚骨スープなんて作ろうとしたら、膨大な時間と光熱費と匂い問題がついてくる。

  「なるほどなー」

  「ちなみにさっき食べたダールとチキンカレーはオレ作れると思う」

  「マジかよ!」

  素直に驚いてくれるクロ[[rb:兄 > にぃ]]にちょっと得意になりながら、今度どこのお店に食べに行こうといった話題で盛り上がり、食事を済ませた。

  ◆◆◇◇◆◆

  「こんな感じでどうだ?」

  「うん! 似合ってるよ!」

  試着室のカーテンを開けて出てきたクロ[[rb:兄 > にぃ]]は半袖で丈が長めの白いTシャツに黒の長ズボンを履いていた。長ズボンは幅がゆったりしており、ヒラヒラと軽やかな質感の生地で涼しげだった。

  「残暑コーデってやつだな。ちょっと寒くなったらジャケット羽織る感じで」

  クロ[[rb:兄 > にぃ]]はそう言って横に掛けていたジャケットを羽織った。

  「オレは秋っぽくなるまでずっと夏服着てたよ」

  「[[rb:玄來 > げんき]]はアンダーコートしっかりしてるもんな。でも、寒くないからって周りから寒そうに見える服装は良くないんだぞ」

  確かにオシャレをするのだから周りからどう見えるかは大事だ。オレは服を買う時、コスパとか機能性とか洗濯した時のこととかばかり考えて、オシャレの意識はほとんど無かったように思う。

  「じゃあオレもクロ[[rb:兄 > にぃ]]みたいなヤツにしようかな」

  オレがそう言うと、クロ[[rb:兄 > にぃ]]は顎に手を当てて少し考えた。

  「[[rb:玄來 > げんき]]は巻き尻尾だからなぁ。こういうのよりはもっとピチッとしたのが似合うと思うぞ」

  クロ[[rb:兄 > にぃ]]は笑顔で任せておけと言い、着替えを済ませてオレの服選びを始めてくれた。

  再び売り場に繰り出したクロ[[rb:兄 > にぃ]]はアレも似合うコレも似合うと言いながら服をかき集めていた。

  ・・・もしかしてコレ全部試着するのだろうか。

  「よし、このくらいでいいか。着てみろよ[[rb:玄來 > げんき]]」

  「う、うん」

  クロ[[rb:兄 > にぃ]]はどれとどれがセットでと説明をしてくれたが、数が多かったので結局1セットずつ渡してもらうことにした。

  試着をする度にクロ[[rb:兄 > にぃ]]は袖をまくって着方を教えてくれたり、女性ウケを狙うならというテーマで色々提案してくれた。

  さらに、後で比べて見れるように1セットずつしっかりポーズを取った写真を取ってくれていた。

  複数ある試着室の中で、オレの所だけちょっとしたファッションショーのようになっていたように思う。

  着替え中にカーテンの向こう側からクロ[[rb:兄 > にぃ]]の変な笑い声が聞こえたのもあって少し恥ずかしかったのだが、新しい服を着る度にクロ[[rb:兄 > にぃ]]は褒めてくれるので、尻尾は休みなく左右に振れていた。

  ◆◆◇◇◆◆

  「服も無事に決まったし、お店も色々回れたな」

  「うん。ありがとうクロ[[rb:兄 > にぃ]]」

  オレはクロ[[rb:兄 > にぃ]]と横並びに一歩後ろをついて行きながら、ショッピングモールをひと通り見て回った。

  クロ[[rb:兄 > にぃ]]は服を買って満足していたオレに、オシャレするなら全部やらなきゃ意味無いぞと言って靴や靴下、普段使ってないフレグランスの類まで選んでくれた。

  「お披露目は合コンの時か?」

  「そうだね。あ、最後に寄りたいところあるんだけどいいかな」

  「おう。いいぞ」

  クロ[[rb:兄 > にぃ]]に了承を得ると、今度はオレが先導して服屋を出てから目を付けていた店に向かった。

  ◆◆◇◇◆◆

  「さっき見たシルバーアクセサリーか。ワンポイントでこういうのあるとグッとオシャレ感出るからな。やっぱり買うことにしたのか?」

  このお店はさっき1度見て回ったアクセサリーショップだ。クロ[[rb:兄 > にぃ]]はここでもいくつか提案してくれたのだが、なんとなくピンと来なくて何も買わなかった。

  「うん。改めて見たけどやっぱり似合うと思う」

  「俺もそう思うぞ!」

  何か勘違いしているクロ[[rb:兄 > にぃ]]をそのままにして、オレは羽のモチーフがついたネックレスを購入して店を出た。

  「なんだよ[[rb:玄來 > げんき]]。ちゃっかり自分が欲しいやつ選んでたのか」

  店を出てから、自分が勧めたものじゃないことに気が付いたクロ[[rb:兄 > にぃ]]がニヤニヤしながらオレに言った。

  「もう1回見て似合うと思ったら買おうと思ってたんだ」

  オレはすぐに着けるからと言って包装を断ったネックレスを見ながらそう返した。

  「クロ[[rb:兄 > にぃ]]、こっち向いて」

  「ん? ────っ!?」

  オレはクロ[[rb:兄 > にぃ]]の顔の横から首を回して、金具の部分を見ながらさっき買った羽のネックレスをつけてあげた。

  慣れなくて手こずってしまったため、クロ[[rb:兄 > にぃ]]を少し抱き込むような形になってしまったが、なんとかつけることが出来た。

  「今日のお礼だよ。クロ[[rb:兄 > にぃ]]に似合うと思って」

  クロ[[rb:兄 > にぃ]]は耳も尻尾もピンと立て、毛を逆立てて固まっていた。相当驚いてくれたらしい。

  クロ[[rb:兄 > にぃ]]があまりにも動かないので顔の前で手を振ったり色々していると、クロ[[rb:兄 > にぃ]]は急に身体をブルブルと震わせた。

  「あ・・・すまん。ビックリし過ぎて。あの・・・えと・・・」

  “ありがと・・・”と消えそうなくらい小さな声でお礼が聞こえた。

  クロ[[rb:兄 > にぃ]]の耳はペタンとしていたが、尻尾の先を見ると嬉しそうにしていたのが見えてオレは照れ笑いしてしまった。

  「あれだよな。今日のお礼・・・なんだよな」

  「そうだよ」

  「ん・・・分かった。もらっとく」

  クロ[[rb:兄 > にぃ]]は右手でネックレスの羽をぎゅっと握った。

  「・・・ところでさ」

  「ん?」

  羽を握ったままクロ[[rb:兄 > にぃ]]は口を開いた。

  「これはこれとしてだな・・・」

  「うん」

  「ご馳走は食べたいぞ?」

  少し不安げにコチラをチラ見するクロ[[rb:兄 > にぃ]]にオレは吹き出して笑った。

  この猫の兄ちゃんはなんでこんなに可愛いんだろうか。

  「そっちも忘れてないから大丈夫だよ。今から食料品売り場行こ」

  「おう」

  オレたちはまたいつもの調子で広い食料品売り場を見て回った。

  [chapter:柴後輩とクロ兄ちゃん]

  ペンダントトップがあるので作者的にはペンダントだと思うのですが、[[rb:玄來 > げんき]]的にはこういうのは全部ネックレスです。

  [[rb:琉貴 > るき]]視点じゃないと書けない情報があるのでその辺はTwitter(X)の小ネタで出そうかなと思ってます。

  【定期】

  Twitter(X)で #柴クロ小ネタ と検索すると、アンケート企画含めた過去の小ネタ全部見れます。

  Blueskyで 柴クロ勇者パーティー と検索すると、連載中のお話全部見れます。

  続きを待ってくださってる方々がその期間を少しでも楽しめるように、また、本編をより楽しめるようにと思って投稿しておりますので生存確認したい時は覗いてみてください。

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  感想や誤字脱字報告も大変助かっております!

  いつも柴クロをお読みいただき、ありがとうございます。

  蒼空ゆうぎ