オレはイヤホンをつけて、ベッドの上であぐらをかきながら“ときメモ”をプレイしていた。
「よっしゃ!」
いつものように[[rb:春樹 > はるき]]に電話をかけて女の子からの評価を確認すると、なかなか変動しなかった[[rb:葉澄 > はすみ]]ちゃんの好感度が上がっていた。
きっと、この前クロ[[rb:兄 > にぃ]]に教えてもらった通りにコーデしてデートをしたからに違いない。
季節感を意識しながらコンセプトを決めてまとめること。慣れるまでは柄物やカラフルなものに手を出さず、清潔感と生地の質感を重視すること。
服装を整えてデートに行ったら、[[rb:葉澄 > はすみ]]ちゃんも褒めてくれていた。こんなリアクションまで用意されているのは驚いたが、やってる側としては結構嬉しい。
「“他に聞きたいことあるか?”」
電話の向こうの[[rb:春樹 > はるき]]がオレに聞き返した。
最後に、オレはいつものように一番下に表示されている選択肢を選んで押した。
“遊びに行かないか?”
答えはいつも同じだ。
「“あはは! またそれかよー。狙ってる子いるんだろ。休日は有意義に使わないと、すぐ高校生活終わっちまうぜ?”」
このゲームの“遊ぶ”は休日を丸1日使うイベントだ。放課後は下校イベントで喫茶店に行くことがあるくらいで、遊ぶことは無い。
女の子との恋愛を楽しむゲームなのは分かっているのだが、[[rb:春樹 > はるき]]には世話になってるし、幼馴染の親友ならたまに遊ぶ日くらいあってもいいと思う。オレとしては納得いかない。何より選択肢あるし。
「冗談とか、ネタ的な選択肢なのかな」
オレは腹の上にゲーム機を置いて、ベッドに倒れた。
─────クロ[[rb:兄 > にぃ]]もそうだったな。
[[rb:香澄 > かすみ]]と付き合い始めてからは、何かとカノジョを優先しろと言っていた。
オレはそれが寂しいと思ったし、クロ[[rb:兄 > にぃ]]と遊びたかった。しつこくして嫌われるのはもっと嫌だったから、そのことについて追及することはなかったけど・・・。
オレが枕を掴んで寝返りを打つと、腹の上のゲーム機がベッドに滑り落ちた。
高校時代、土日が丸々空くことはなかった。平日も部活とバイトを両立していたし、あんまり一般的な高校生ではなかったと思う。
だからこそ、クロ[[rb:兄 > にぃ]]はカノジョに時間を使えって言ってたんじゃないかと思うんだけど。
「やっぱり、これが普通なのかな・・・」
オレはそのまま何を考えることもなく目を瞑り、気付いた時には寝る準備をしていた。
[chapter:柴後輩とクロ兄ちゃん]
白いスニーカー、デニム、白い半袖Tシャツに薄い黒にも見える紺色のシャツジャケットを真ん中付近のボタンだけとめて、袖をまくる。ボタンははずしてもいいらしい。
クロ[[rb:兄 > にぃ]]に選んでもらった服で臨む合コン。クロ[[rb:兄 > にぃ]]は準備で先に行ってるらしい。
年上相手は慣れているが、同年代の知らない人と話すのは久しぶりで緊張していた。
しかし、会場の迫力で逆に緊張が吹き飛ばされてしまった。
「・・・同窓会?」
会場となるレンタルスペースに到着して中に入ると、イスはなく、まるでパーティー会場のようにテーブルが並び、既に到着している参加者たちが思い思いの場所で会話していた。
「来たか[[rb:玄來 > げんき]]!」
オレが口を開けてポカンとしていると、会場の奥でユズと話していたクロ[[rb:兄 > にぃ]]がパタパタと駆け寄ってきてくれた。
クロ[[rb:兄 > にぃ]]の胸元にはオレがプレゼントした羽のネックレスが揺れていた。
「服似合ってるぞ! 爽やか体育会系イケワン兄ちゃんって感じだ!」
クロ[[rb:兄 > にぃ]]は胸の前で両手のこぶしを握り、目をキラキラさせながら力強く褒めてくれた。
「ぬーん」
「わっ」
オレが照れ笑いして頭を掻いていると、後ろから突然肩口に[[rb:優 > ゆう]]さんの頭が現れ、そのままクロ[[rb:兄 > にぃ]]と挨拶を交わした。
その後すぐにクロ[[rb:兄 > にぃ]]は[[rb:豹一 > ひょういち]]さんに呼ばれて会場の奥に行ってしまった。
「[[rb:優 > ゆう]]さんも呼ばれてたんですね」
オレは一歩前に出て、体を[[rb:優 > ゆう]]さんの方に向け直して聞いた。
「呼ばれてないけど自分から来たよ」
「えっ」
意外だ。
[[rb:優 > ゆう]]さんは合コンとか複数の知らない人と絡むのは好きじゃないタイプの人だと思っていた。
でも、以前サマーライオンズや銭湯を提案してくれたのも[[rb:優 > ゆう]]さんらしいし、実は人がたくさんいる所が好きなんだろうか。
「もしかして、[[rb:優 > ゆう]]さんって人がたくさんいる所好きなんすか?」
「苦手だよ」
「えっ」
じゃあなんで来たんだろう・・・。
見たところ食事はビュッフェ形式でご自由にといった感じだし、食事目当てなのだろうか。
いや、[[rb:優 > ゆう]]さんも雄だ。やっぱり彼女を作るために来たのだろう。
「やっぱ、カノジョっすか」
「違うよ」
どうやら食事目当てみたいだ。
ブレない人だなと思い、改めて食事が目的なのか確認しようと口を開いた瞬間、オレは[[rb:優 > ゆう]]さんの言葉に衝撃を受けた。
「とられないようにするため」
[[rb:優 > ゆう]]さんはクロ[[rb:兄 > にぃ]]のいる方を見てそういうと、そのままそちらへ歩いていった。
目を見開き、呆然と立ち尽くすオレの頭の中には、祭りで見たシーンがフラッシュバックしていた。
まさか・・・本当に[[rb:優 > ゆう]]さんとクロ[[rb:兄 > にぃ]]は────
「あのっ!」
思考の合間に刺さった女の子の声にハッとしたオレは声の方を向いた。
声の主は夏祭りで集合写真を撮ってくれた羊の女の子だった。祭りの時に少し話したが、確か名前は[[rb:辻 > つじ]]さんで、クロ[[rb:兄 > にぃ]]と同じ3年生だったはずだ。
「[[rb:辻 > つじ]]さんっすよね。クロ[[rb:兄 > にぃ]]から写真もらいましたよ。ありがとうございます」
オレは笑顔であの時のお礼を伝えた。しかし、[[rb:辻 > つじ]]さんは耳をパタパタさせたり、キョロキョロしたり落ち着きがない様子だ。
「いえ、あの、全然、全然ですから! 写真なんて何枚でも撮りたいですから! あっ、じゃなくてですね、う、うけ───」
「あーーーーー!!!」
[[rb:辻 > つじ]]さんの言葉を遮って、聞き覚えのある男の声が近くで響いた。
入り口に目を向けると、尻尾の先まで毛を逆立てた茶トラ猫が目をつり上げてオレを指差していた。
「あ、猫ジローさん」
「誰が猫ジローさんだ!! 俺は[[rb:虎次郎 > とらじろう]]さんだ!! 3回目だぞ!! 覚えろ!!」
ここで会ったがなんとやらだと言いながら、猫ジローさんは腕捲りしてこちらに迫ってきた。
しかし、こちらが構えるより早く猫ジローさんの耳に白い手が伸びた。
「に゙ゃっ!!」
「もー、コジローあんた来ちゃったの?」
猫ジローさんの耳を引っ張ったのはクロ[[rb:兄 > にぃ]]の先輩のミケさんだった。
「“来ちゃったの?”じゃねーよ!! お前が呼んだんだろうが!!」
「別に呼んでないわよ。来なくていいから会費出せって言ったのー」
・・・オレはさすがに少しだけ猫ジローさんに同情した。
ミケさんはニャーニャーと抗議する猫ジローさんをいなしながら、再び彼の耳を掴んだ。
「[[rb:辻 > つじ]]ちゃーん、リストの“コジロー”って書いてあるとこチェック入れといてー」
「あ、はい!」
[[rb:辻 > つじ]]さんは持っていたバインダーに挟まった用紙にチェックを入れた。
ミケさんは喚く猫ジローさんの耳を引っ張りながらテーブルへ案内(?)していた。
「[[rb:辻 > つじ]]さんが受付してたんすね。すみません、気付かなくて」
「いえ! いいんです! 知ってる人は勝手にチェック入れちゃってますから!」
理由は分からないが、年上なのに必死にしゃべってる[[rb:辻 > つじ]]さんの様子がおかしくて、オレはつい笑ってしまった。
「最初、テーブル一緒なんですっ! 良かったら色々お話し聞かせてください!!」
「もちろんいいっすよ。オレのテーブルはどこっすか?」
「あ、はい! ご案内します!」
オレは[[rb:辻 > つじ]]さんに案内されてテーブルについた。
テーブルの上には首にかけるタイプの名札が並べて置いてあり、カタカナで下の名前が書かれていた。
◆◆◇◇◆◆
「へー! それでクロくんに選んでもらったんですね!」
「はい! クロ[[rb:兄 > にぃ]]はオレと違ってオシャレで、いつもカッコ良くて───」
会が始まり、テーブルでの自己紹介も早々に各自が好きなように歩き回る中、オレは[[rb:辻 > つじ]]さんとおしゃべりしていた。
[[rb:辻 > つじ]]さんは[[rb:友紀 > ゆき]]さんみたいに聞き上手で、オレはついクロ[[rb:兄 > にぃ]]の自慢話をたくさんしてしまっていた。
こんなにクロ[[rb:兄 > にぃ]]自慢が出来るのも初めてだったし、その話を興味津々で楽しそうに聞いてもらえるのも初めてで、オレの尻尾は気分良くブンブン揺れていた。
そして、オレはちょうど視界の端に食事を皿に盛っている最中のクロ[[rb:兄 > にぃ]]を見つけた。
「クロ[[rb:兄 > にぃ]]!」
オレはクロ[[rb:兄 > にぃ]]もこちらに呼ぼうと思い声をかけた。しかし、クロ[[rb:兄 > にぃ]]は気付いていないようで、こちらを向いてくれなかった。耳がピクリと反応した気がしたのだが。
「聞こえなかったのかな」
オレが小首を傾げると、[[rb:辻 > つじ]]さんはテーブルにドリンクを置いてクロ[[rb:兄 > にぃ]]に駆け寄って行った。
そして、驚いた様子のクロ[[rb:兄 > にぃ]]を笑顔で引っ張って来た。
「あー、えっと・・・楽しんでるか[[rb:玄來 > げんき]]」
「うん! すごく!」
オレはクロ[[rb:兄 > にぃ]]の質問に即答した。
「[[rb:玄來 > げんき]]くんからクロくんのお話したくさん聞いたんですよ! [[rb:玄來 > げんき]]くんはクロくん大好きなんですね!」
「えっ、えっ、あー・・・」
「いやぁ、へへへっ」
[[rb:辻 > つじ]]さんの言葉にクロ[[rb:兄 > にぃ]]も照れているのか、恥ずかしそうな、困っているような、落ち着かない様子だ。
「あっ! 活動写真用に2人の写真撮ってもいいですか!」
「もちろん、いいっすよ!」
「えっ、あ──!」
オレは[[rb:辻 > つじ]]さんの提案に二つ返事で了承し、ルンルン気分でクロ[[rb:兄 > にぃ]]と肩を組んだ。
「クロくんも肩組んでください!」
クロ[[rb:兄 > にぃ]]はまだ恥ずかしいのか、いつもの勢いは無く、おずおずとオレの肩を組んだ。
写真を撮り終えると、クロ[[rb:兄 > にぃ]]は人を待たせているからと言って、そそくさとテーブルに戻って行った。
その後もオレはしばらく[[rb:辻 > つじ]]さんとおしゃべりした。
連絡先を交換した後に、せっかくだから他のテーブルも回ろうということになり、オレも他の参加者と会話を楽しんだ。
[[rb:辻 > つじ]]さんは会が終わるまで、[[rb:優 > ゆう]]さんと会話を楽しんでいた。
◆◆◇◇◆◆
「ユズも意外なところあるんだなー」
「そうだね。でも普通の感覚じゃないかな」
合コン終わりの帰り道。オレはクロ[[rb:兄 > にぃ]]と一緒に話しながら帰っていた。
「でもあいつ食には結構うるさいし、家には使用人さんとかいるんだぞ? お前も祭りの時に会っただろ? テリア犬の」
さっきからクロ[[rb:兄 > にぃ]]が意外だと言っているのは、ユズが食事をいくらか持ち帰りたいと言って、1人分にしては結構な量を持ち帰ったことだった。
なんでも“今は食べる気がしないから自分の分は夜食用に持って帰りたい”と言って、何も食べなかったらしい。
「どうせ口に合わないから適当に言い訳してたんだよ」
「でもそれならアイツ絶対に言うぞ。それに結構な量持って帰ってたし、タッパーまで持参してたんだぞ!」
オレは返す言葉がなくて少しうつむいた。
正直、ユズのこととかどうでもいい・・・。が、タッパーはオレも持っていけば良かったかもとちょっと思ってしまった。さすがにはしたないだろうか。
「[[rb:玄來 > げんき]]は今日楽しめたか?」
クロ[[rb:兄 > にぃ]]が話題を変えてくれると、オレは顔を上げた。
「うん! すっごく楽しかったよ! 連絡先も何人か交換したんだ」
最初は緊張していたが、始終楽しむことができた。これはきっと[[rb:辻 > つじ]]さんのお陰だろう。
「[[rb:辻 > つじ]]さんって明るくて聞き上手で、すごくいい人だね。銀でホールやって欲しいくらいだよ」
「なんだそれ」
クロ[[rb:兄 > にぃ]]はそう言って笑った。
「・・・今度デートに誘ってみたらどうだ? [[rb:辻 > つじ]]さん今フリーだぞ?」
「それもいいかもね」
オレもクロ[[rb:兄 > にぃ]]の言葉に笑いながら答えた。
オレは楽しさの余韻に浸ったまま、クロ[[rb:兄 > にぃ]]と話しながら家に帰った。
その時は、会場で[[rb:優 > ゆう]]さんが言った言葉なんかすっかり忘れていた。
[chapter:柴後輩とクロ兄ちゃん]
おっっっまたせしました。
裏で動いてるストーリーの処理とかもろもろ考えていたら本編の執筆遅くなってしまいました。
公開したいけど出来ないネタが山積みで完全に消化不良です。
書きたいと書けないがぶつかり合って逆に執筆ペース落ちてしまいがちですが、既に柴クロはこの1部が完結しても2部まで続くことが確定してるので、長く楽しんで頂ければと。
ちなみに、[[rb:琉貴 > るき]]の家族が出てくるのは2部からです。(早く書きたいぃぃい!!)
あ、あと最近マシュマロ設置してみようかなとも考えております。(匿名で出来るのええなぁと)
【定期】
Twitter(X)で #柴クロ小ネタ と検索すると、アンケート企画含めた過去の小ネタ全部見れます。
Blueskyで 柴クロ勇者パーティー と検索すると、連載中のお話全部見れます。
続きを待ってくださってる方々がその期間を少しでも楽しめるように、また、本編をより楽しめるようにと思って投稿しておりますので生存確認したい時は覗いてみてください。
pixivにも気軽にフォロワーさんに発信出来る媒体あれば嬉しいのですが・・・。
感想や誤字脱字報告も大変助かっております!
いつも柴クロをお読みいただき、ありがとうございます。
蒼空ゆうぎ