たこ焼き、焼き鳥、じゃがバター、フランクフルトにフライドポテト。綿あめ、ワッフル、チョコバナナ、ちょっと変わり種さつまいもアイス。
目を引くメニューはたくさんあれど、今の俺のお目当ては・・・。
「あった!」
見つけた。
昨日、[[rb:優 > ゆう]]にオススメされて食べたいと思っていた『塩ダレ焼きそば』だ。
ソースの代わりに塩ダレを使い、具材はもやし、キャベツ、豚肉。麺にほんのり焦げ色がつくまで鉄板で焼き、トレイに盛り付けて仕上げにネギ塩ダレ。
塩ダレはお手製らしいが、匂いだけでも旨味を感じる。
模擬店ということもあって値段もお手頃だ。
俺は塩ダレ焼きそばを2つ買って[[rb:玄來 > げんき]]の元へ戻った。
「ほら、[[rb:玄來 > げんき]]の分」
「う、うん。ありがとうクロ[[rb:兄 > にぃ]]。あ、お金」
「いいって、それより早く食べようぜ。この焼きそば[[rb:優 > ゆう]]のオススメでさ、食べたかったんだよなー」
俺は待ちきれず、頂きますと立ち食いで一口。
鼻に抜ける焼きそばの香ばしい香り、昼抜きで疲れた体に染み渡る力強い塩味をまとった麺、カリカリの脂身、噛むほどに肉の旨味が染み出す豚肉、それらを調和させる野菜の食感と水分。
「めちゃうま〜・・・」
絶対塩分摂りすぎな気がする。
しかし、この背徳感こそ至高。
「麺がしっかり焼いてあるのがいいね。塩ダレも旨い」
[[rb:玄來 > げんき]]にも好評のようだ。
俺は空腹時にあまり麺類は選ばないタイプなので、言われなければ見逃していた。[[rb:優 > ゆう]]サマサマだ。
俺と[[rb:玄來 > げんき]]は座る場所を探すでもなく、早々に焼きそばを完食した。
「あそこの模擬店賑わってるね。なんの模擬店だろ」
[[rb:玄來 > げんき]]が模擬店前の人だかりに目をやる。
「あれは・・・唐揚げか?」
2人で店に近づいてみると、お客さんは大きめの紙コップに山盛りの唐揚げを持っていた。
「はーい、崩れたからここまでね。記録は18個!」
なんと唐揚げの詰め放題をやっていた。
「面白そうだねクロ[[rb:兄 > にぃ]]。オレ挑戦してみようかな」
確かに面白そうだし、俺もやってみたい。
しかし、食べることを考えると、ここは[[rb:玄來 > げんき]]1人に頑張って貰った方が良さそうだ。
「すみません! オレも1カップお願いします!」
[[rb:玄來 > げんき]]が猿の学生に声をかける。
「はいはいー。じゃあこの台にカップを置いて詰めていってね。1回でも崩れたらそこで終了。ストップって言ってくれたら、その段階で爪楊枝刺しちゃうからね」
カップに収まらなくても上に積みさえすればいいらしい。
採算取れているのだろうか。
「任せてクロ[[rb:兄 > にぃ]]! 最高記録出してやるから」
「最高記録は結構手強いぞー。ま、頑張ってー」
[[rb:玄來 > げんき]]は耳をピンと立て、腕まくりまでして完全に戦闘モードだ。
・・・腕まくりした[[rb:玄來 > げんき]]カッコいいな。
俺がその真剣な姿に見惚れている間にも、[[rb:玄來 > げんき]]は着々と唐揚げを積み上げていく。
側面から固めて中央、そして唐揚げの花を咲かせるかのように上へ山盛りにしていく。
唐揚げの衣が柔らかいお陰か、うまく唐揚げ同士が引っ付きながら積み上がっていく。
周りからは息を殺しながら静かに「おぉ」という歓声が上がっている。
「ストップ!」
その言葉を皮切りに野次馬がドッと沸いた。
「記録は28個! やるねー犬の兄ちゃん」
前の人より10個も多い大記録だ。
[[rb:玄來 > げんき]]はニカッと笑ってこちらを見ながら、尻尾を振ってガッツポーズしている。
これ惚れてるとか関係無しに絶対可愛いよな?
「これ最高記録っすか?」
自信満々の様子で[[rb:玄來 > げんき]]が猿に尋ねる。
「いやー、頑張ったけど最高記録までは7個足りないね」
「はあ!?」
「最高は35個だよ」
猿はスマホ取り出し、その時の写真を見せてくれた。
「うわっ!」
「あー・・・」
そこには塔のように積み上がった唐揚げを片手に、よく見知った虎が無表情でピースしていた。
[chapter:柴後輩とクロ兄ちゃん]
「元気出せよ[[rb:玄來 > げんき]]。ちょっと相手が悪かったんだって。[[rb:優 > ゆう]]だし」
[[rb:玄來 > げんき]]はいつも元気な犬耳をヘタっとさせて、完全に落ち込んでいる。
「本気でやって大差負けしたんだよ? やっぱ悔しいよ」
気持ちは分かるが、[[rb:優 > ゆう]]が相手ならしょうがないと思ってしまう自分がいる。
あの後、もう1回みたいな瞳で俺を見つめる[[rb:玄來 > げんき]]に気付かないフリして引っ張ってきた。
もし追加で唐揚げ35個とかきたらマジで食えない。
「そろそろ[[rb:優 > ゆう]]のステージも始まるしさ、また別のところで勝負しろって」
「うーん・・・」
珍しく歯切れの悪い返事だ。やっぱりガチ敗北は悔しいらしい。
こういう所はしっかり雄なんだよなと、何故か少し惚れ直している自分がいる。
自分を後回しにして他人に遠慮しがちな[[rb:玄來 > げんき]]のこういう一面が見れる機会は割と少ない。
「そういえば、お前さっき俺に何回も負けてるって言ってたよな。あれ何の話だ?」
「あ、今それ聞くんだ」
これまた珍しい反応だ。相当悔しいんだな。ちょっと面白い。
「色々あるよ、テニスとか水泳とか、ゲームも大体クロ[[rb:兄 > にぃ]]のほうが強かったし。それに・・・」
そこまで言って[[rb:玄來 > げんき]]は言葉を切った。
「あれ? クロ[[rb:兄 > にぃ]]、なんか尻尾の先カピカピになってない?」
「あ、忘れてた。しゃぶられたんだよ子供に」
犬の子供とか口が大きめの子に、俺の尻尾はよく標的にされしゃぶられる。
引き剥がそうとすると余計しゃぶられるため、いつも気が済むまで耐えている。
「そういえば[[rb:光 > ひかり]]にもよくしゃぶられてたよね。クロ[[rb:兄 > にぃ]]の尻尾は子供ホイホイだね」
「[[rb:光 > ひかり]]より全然マシだけどな。あいつ吸ってくるもん」
妹の[[rb:光 > ひかり]]がまだ小さい時は、よく尻尾をしゃぶられていた。
いつも[[rb:玄來 > げんき]]は引き剥がそうとしてくれたのだが、そうする度に強く吸い付いてきた。
子供ながらによく耐えていたと思う。
「実は小さい時、オレもクロ[[rb:兄 > にぃ]]の尻尾咥えてみたいと思ってたよ。我慢してたけど」
そう言って[[rb:玄來 > げんき]]は俺のカピカピの尻尾を見つめる。
「・・・やめろよ?」
「へへへっ」
俺はカピカピの尻尾を洗うためにトイレに向かった。
◆◆◇◇◆◆
「ふぅ」
尻尾洗い終え、持っていたハンカチで水気を拭き取る。
このサークル活動を初めてからティッシュとハンカチは常備するようになった。
特に子供相手の時は結構活躍機会が多い。
それにしても、まさか[[rb:玄來 > げんき]]までそんなことを考えていたとは思わなかった。
そんなこと、もし今の[[rb:玄來 > げんき]]にされたらと思うと・・・想像するだけでヤバい。
・・・ネタが増えてしまった。すまん[[rb:玄來 > げんき]]。いや、でも半分はお前のせいだからな。おあいこな。・・・[[rb:10:0 > じゅうぜろ]]で俺が悪いか。
トイレから出ると[[rb:玄來 > げんき]]がハンカチを出して待っていてくれた。
「クロ[[rb:兄 > にぃ]]、良かったら使って」
「もう自分ので拭いたよ。ありがとな」
そっかと言って[[rb:玄來 > げんき]]は自分のハンカチをしまう。
・・・あれ?
これ自分で拭かなければ[[rb:玄來 > げんき]]のハンカチ使えたんじゃね?
あわよくば洗って返すとか言って、持って帰れちゃったりとかして・・・。それで[[rb:玄來 > げんき]]の匂いが染み付いたハンカチを━━━━━━━。
「クロ[[rb:兄 > にぃ]]?」
「はっ、あ、なんでもない」
[[rb:玄來 > げんき]]の声で現実に引き戻される。
危うくまた失格するところだった。
「[[rb:優 > ゆう]]のステージそろそろだろ。行こうぜ」
俺たちは中央広場のステージへと向かった。
◆◆◇◇◆◆
「“さあ、後夜祭ダンスステージ! 最後の1組は・・・”」
司会のアナウンスを聞いて、俺はスマホを構える。ラスト1組。間違いなくこれが[[rb:優 > ゆう]]のはずだ。
「“エンタメディア研究会! アニオタチーム!”」
アナウンスと共に、[[rb:優 > ゆう]]を含むタメ研のメンバーが7人ほど入場する。なんと[[rb:優 > ゆう]]はセンターだ。
比較対象が傍にいると、やっぱりあいつデカいなと改めて思う。
「いよいよだね」
[[rb:玄來 > げんき]]もちょっと興奮気味だ。
配置に着いた[[rb:優 > ゆう]]たちは片膝をついて顔を伏せる。
そして、ゆっくりとステージのライトが暗くなり━━━━━音楽が流れた。
瞬間、[[rb:優 > ゆう]]の両手からサイリウムが光り、立ち上がる。
[[rb:優 > ゆう]]はサイリウムを大きく回して振った後、ポーズを決める。
続いて両サイド2人、そして次の両サイド2人、ついに全員がポーズを決め、曲が歌に入ったと同時に激しく踊り始める。
こ、これは━━━━!
「オタ芸かい!!」
「ぉおお! スゲー! オレ生で初めて見たよ!」
[[rb:玄來 > げんき]]は尻尾を振って興奮している。本当にいちいち可愛い。
そして、学園祭前の[[rb:優 > ゆう]]との会話がフラッシュバックする。
“どうしてそうなった”
“あれ、想像つかない?”
“全然”
いや、全然想像ついたわ。これしかないわ。
しかもこの曲は聴いたことがある。いつか[[rb:優 > ゆう]]とカラオケに行った時にスマホで聴かせてくれたやつだ。
近くで観ている外国人さんたちも興奮気味に何かしゃべっている。
詳細な内容は分からないが、たぶん”ジャパニーズカルチャーWoohoo!”的な感じだろう。
俺は手を目一杯挙げて撮影しているが、他の人も同じことをしていて上手く撮れているか分からない。
撮影位置に悩んで右往左往していると、突然両脚に誰かがギュッと抱きついて、そのままグイッと上に持ち上げられた。
驚いて下を見ると[[rb:玄來 > げんき]]がへへっと笑って返す。
俺が[[rb:玄來 > げんき]]の肩に軽く腰掛けると再び脚をギュッとされて固定される。
いや、ヤバいだろ。
もう撮影どころでは無い。
今は10月。夜も少し冷える頃。
[[rb:玄來 > げんき]]に抱きしめられた温もりがダイレクトに伝わってくる。脚だけど。
体勢を崩したら落ちるかもしれないというドキドキと[[rb:玄來 > げんき]]に抱きしめらているドキドキが混ざりあって、思考能力が一気に低下する。
もしかして吊り橋効果ってこれか?
深呼吸して少し落ち着くと、持ち上げられた時の感覚を思い返してしまう。
一瞬で力強く持ち上げられる感覚、[[rb:玄來 > げんき]]の笑顔、今もしっかりと支えてくれている腕。
[[rb:優 > ゆう]]・・・このまま一生踊っててくれないかな。
そんな願いも虚しく、タメ研のステージは終わった。
[chapter:柴後輩とクロ兄ちゃん]
いつも柴クロをお読み頂きありがとうございます。
そろそろ[[rb:玄來 > げんき]]に爆発してもらおうと思ってます。
蒼空ゆうぎ