柴後輩とクロ兄ちゃん【学園祭】

  「そろそろ工大祭だな」

  「そうだね」

  ━━━━10月。

  今年も間もなく学園祭だ。

  俺たちの通う工業大学の学園祭は土日の2日間行われ、各部活やサークルなどが模擬店や企画を行う。その他、外部からバンドや著名人を招いて、ライブやトークショーなども行われる。

  去年は何かのアニメのOP歌ってる人たちが来てたかな。俺は知らないが。

  「[[rb:優 > ゆう]]も今年は何かやるんだろ? タメ研のやつ」

  「やるよ」

  [[rb:優 > ゆう]]は1年の時はどこにも所属していなかったが、2年になってから『エンタメディア研究会』というところに所属している。略して『タメ研』だ。

  色々あって[[rb:住処 > すみか]]を追われた漫画研究会とアニメーション研究会が合併してできたものらしく、色々な趣味の人が集まり割とカオスな感じらしい。

  「タメ研って去年は映画の上映会やってたよな。今年もやるの?」

  「それと一次創作の合同誌。今年も両方やるよ」

  合同誌とか出してたのか。知らんかった。

  「[[rb:優 > ゆう]]も合同誌に何か載せてるのか?」

  「俺は載せてないよ。二次創作しかしたことないし」

  [[rb:優 > ゆう]]はこう見えて絵が上手い。

  [[rb:優 > ゆう]]はいつも講義のノートをタブレット端末でとっているのだが、たまたまそれで絵を描いているのを見つけて知った。その時に描いていたのは俺も知っているアニメのキャラで、そこからアニメやマンガの話もするようになった。

  「じゃあ[[rb:優 > ゆう]]は映画上映の担当?」

  「いや、踊るよ」

  「・・・は?」

  オドル・・・?

  「どこで?」

  「ステージで。後夜祭だけど」

  マジか。

  学園祭の時にはキャンパスの中央広場に特設ステージが設置されるのだが、一応学園祭の顔となるものなので、半端な出し物だと許可が降りない。

  一部の音楽系同好会も去年は仮設テントなどで場所を確保してやっていた。それをタメ研がステージで?

  「どうしてそうなった」

  「あれ、想像つかない?」

  「全然」

  「じゃあ本番のお楽しみ」

  うわ、めっちゃ気になる。[[rb:優 > ゆう]]が踊るってだけでも面白いのに。絶対動画撮ろ。

  「クロは今年もキッズスペースの運営?」

  俺は1年の時から地域貢献を目的としたサークルに所属している。市役所などと提携して、お年寄り向けのスマホ・パソコン教室やこども食堂、ボランティアなどを行っており、日曜日に活動を行うことも多い。

  「だな。あとスマホ使ったスタンプラリー。リーダーの卒業研究も兼ねてるんだと」

  「何かもらえるの?」

  「駄菓子か模擬店のお食事券。他のとこに色々交渉したらしい。うちの先輩たち結構顔が利くから」

  「研究費とかは出ないんだね」

  「どこの研究室もカツカツらしいよ。学生の卒業研究程度じゃまず出ないって」

  「ふーん」

  一応キッズスペースの運営も後夜祭前までだし、[[rb:優 > ゆう]]のダンスには間に合うだろう。日曜日なら[[rb:玄來 > げんき]]も休みの日だし誘ってみよう。

  やっぱりお祭り事ってワクワクするな。

  少しでも[[rb:玄來 > げんき]]と一緒に模擬店とか回れたらいいな。

  [chapter:柴後輩とクロ兄ちゃん]

  「ねこのにぃちゃん、赤いろのマジックどこー?」

  「クロにぃちゃん、この先どうやって折ったらいいの?」

  「クロー! いも虫レースもう1回!」

  「あー順番順番。クロ[[rb:兄 > にぃ]]1人しかいないから」

  学園祭は天気にも恵まれて多くの人たちで賑わっていた。

  俺が担当しているキッズスペースは学食がくっついている講義棟の1階。吹き抜けになっている広いスペースを丸ごと使わせてもらっている。

  特に日曜日の今日は昨日よりも家族連れが多く、キッズスペースも子供と親御さんたちでいっぱいだ。

  「去年に比べたら随分慣れた感じでてきたね。[[rb:琉貴 > るき]]おにーちゃん」

  「ちょっミケ先輩・・・」

  [[rb:三上 > みかみ]] [[rb:慧 > けい]]。3年生の三毛猫メガネ女子でサークルの先輩。通称ミケ先輩だ。

  1年生の時から俺の教育係で色々教えてくれている。

  明るくて賢くて、今年からサークルのサブリーダーを任されている。

  「クロにぃちゃん、ルキっていうの? かわいいね」

  「女みてー!」

  「あーもうほらぁ!!」

  先輩が下の名前で呼ぶからぁ!

  せっかく名札も自己紹介もクロお兄ちゃんで通していたのに、ホントにもうこの人は・・・。

  「ごめんごめん。クロくんがあんまり人気だからつい嫉妬しちゃって」

  私も構ってーなんて言いながらミケ先輩がフォローに入ってきてくれる。

  「人気っていうか、半分舐められてるだけですけど」

  既に俺は耳やらヒゲやら長めの頬毛やら尻尾やらを引っ張られて揉みくちゃにされ、結構毛並みが乱れている。

  「一緒一緒。それに怖がられるよりずっといいから」

  こんなに明るいミケ先輩だが、1年生の頃、最初に児童と接した時は怖がられて苦労したらしい。

  この活動を通して随分変わったと話してくれたが、確かに今のミケ先輩からはそんな苦労をしたとは想像出来ない。

  今も俺に張り付いていた子供たちの相手をしてフォローしてくれている。

  器用そうに見えるが、きっと努力家な人なんだろう。

  「去年なかなか好評だったからかな、今年はちょっと増えたねー」

  「[[rb:八木 > やぎ]]先輩のスタンプラリーで人数分散してなかったらヤバかったですね」

  [[rb:八木 > やぎ]] [[rb:浩一 > こういち]]。4年生のヤギメガネ男子でウチのリーダーだ。

  おっとりして優しい雰囲気の先輩だが、行動力があり、サークルをしっかり引っ張ってくれている。

  たまに抜けているところがあるが、それはご愛嬌だ。

  「あ、いた! クロ[[rb:兄 > にぃ]]!」

  子供に負けない元気な声で呼びかけられる。

  「[[rb:玄來 > げんき]]・・・と、店長!?」

  「よークロ坊」

  「クロくーん、久しぶり」

  [[rb:玄來 > げんき]]と一緒に店長と[[rb:友紀 > ゆき]]さん、それに息子の[[rb:誓優 > せいや]]くんも一緒だ。

  [[rb:誓優 > せいや]]くんは抱っこ紐で[[rb:友紀 > ゆき]]さんに抱っこされ、おねんね中らしい。

  俺はへばりつくキッズたちと一緒に[[rb:玄來 > げんき]]たちに駆け寄った。

  「[[rb:玄來 > げんき]]が行くってんで、せっかくだから顔見に来ようと思ってな」

  「流石クロくん。子供たちにもとっても人気みたいね」

  「あはは、半分舐められてるだけですよ」

  それにしても相変わらず店長はデカい。[[rb:友紀 > ゆき]]さんと並ぶと顔の傷も相まって凄い迫力だ。子供たちもちょっと俺の後ろに隠れながら様子を伺っている。

  「初めまして、クロくんのお知り合いですか?」

  後ろからミケ先輩が合流し、俺がお互いを紹介しながら挨拶を交わす。

  「本当は[[rb:優 > ゆう]]坊のダンスも見て行きたかったんだが、まだ[[rb:誓優 > せいや]]が小せぇからな。俺らはサラッとひと回りして帰るとするぜ」

  「あんまり長く歩くとゴロちゃん私ごと抱っこするって言い出しちゃうから」

  「[[rb:友紀 > ゆき]]ちゃん、俺は今だって抱っこしたいの我慢してるんだぞ」

  「ダーメ。またゴロちゃん変な目で見られちゃうでしょ。この前だって・・・」

  軽く痴話喧嘩が始まったところで、ミケ先輩が耳打ちしてくる。

  「クロくん、何このご夫婦チョー可愛いんですけど! それに[[rb:誓優 > せいや]]くんの寝顔もマジ天使! あんな家族憧れる〜」

  ミケ先輩が悶えている。

  [[rb:玄來 > げんき]]も横目でこちらを見ている。

  「クロくんもさ、あんな家族いいと思わない?」

  「え! そ、そうですね。確かに憧れますね」

  「だよね! じゃあ付き合っちゃう? 私たち!」

  「ふぇ!?」

  いきなり何言ってんだこの人!

  「いや、あの、俺は・・・」

  思わず[[rb:玄來 > げんき]]の方を向いてしまい、目が合う。

  しまったと思い、俺はすぐに目を逸らした。

  「あ、そうだ。良かったらスマホで出来るスタンプラリー参加して行かれませんか?」

  ミケ先輩はコロッと対象を[[rb:尾神 > おがみ]]一家に変え、スタンプラリーの案内を始める。

  俺はミケ先輩に解放されたが、まだ少しドキドキしていた。

  「やっぱモテるねクロ[[rb:兄 > にぃ]]」

  「いやいやいや、その場のノリだって。きっと冗談だよ」

  「そうかな?」

  ミケ先輩は[[rb:尾神 > おがみ]]一家を[[rb:八木 > やぎ]]先輩がいる受付まで連れていき、スタンプラリーの説明をしている。

  「ねーねー、犬のおにぃちゃんのほうが大きいのに、なんでクロにぃってよんでるの?」

  ━━━━グサリ。

  「どう見てもクロの方が弱そうだよな。名前も女みてーだしな」

  ━━━━グサリグサリ。

  [[rb:優 > ゆう]]とは質の違う無垢な刃が俺を襲う。

  穢れなく、ただひたすらに鋭利なそれは、まるでゼリーに包丁を入れるかのように俺の心臓に突き刺さる。

  もう泣いていいかな。俺。

  「クロ[[rb:兄 > にぃ]]は凄く強いんだぞ」

  [[rb:玄來 > げんき]]がしゃがんで子供たちに話しかける。

  「オレなんか何回も負けてる」

  ━━━何の話だ?

  「ウッソだー。クロならオレでも倒せるぞ!」

  確かに今の俺ならそよ風でも倒せる。

  「それに優しくて頼りになって、ずっと一緒に居たくなる」

  あ、[[rb:玄來 > げんき]]、それはヤバい、泣く。俺が。

  「うん! あたしクロにぃちゃんすきー」

  あれだけ鋭利だった刃物が、一瞬で天使の口づけへと変わる。

  「だからオレにとっては兄ちゃんなんだ」

  先程までと一変。心に翼が生え、ふわりと浮かび上がる。

  「だけど犬の兄ちゃんのほうが、ずっと兄ちゃんぽいけどな」

  そして蹴落とされた。

  「おーいお前ら。それじゃ俺たちスタンプラリーだけやって帰るわー」

  「クロくーん。またねー」

  そう言い残して、[[rb:尾神 > おがみ]]一家はスタンプラリーに出発した。

  「クロくんも今日はあがっていいよ」

  ミケ先輩がこちらに戻ってきて、そう言ってくれる。

  「いいんですか? まだ結構子供いるし、片付けとかも」

  「昨日今日と朝からぶっ通しでお昼も食べてないでしょ? クロくん引っ張りだこだったもん。後は減っていくだけだし、実行委員もこっち優先的に片付け来てくれるから大丈夫」

  今年も広報担当にバッチリ恩売ってあるからと、ミケ先輩がウインクする。

  地域貢献活動でコネがあるうちのサークルは毎年広報の手伝いを行っている。こういう抜け目無いところとか、やっぱりウチの先輩たちはカッコいい。

  「ありがとうございます。じゃあお先に失礼します」

  「うん。[[rb:玄來 > げんき]]くんも楽しんでね」

  「はい!」

  俺は[[rb:八木 > やぎ]]先輩と、メンバーの何人かに挨拶して[[rb:玄來 > げんき]]と一緒に模擬店のあるエリアに向かった。

  ◆◆◇◇◆◆

  「やっぱりなぁ、[[rb:玄來 > げんき]]はホントに俺より兄ちゃんって感じだな」

  「どうしたのクロ[[rb:兄 > にぃ]]。クロ[[rb:兄 > にぃ]]はオレにとって頼れる兄ちゃんだよ」

  [[rb:玄來 > げんき]]はそう言ってくれる。

  しかし、今まで何とか兄ちゃんとして気張ってきたが、[[rb:玄來 > げんき]]に兄ちゃんとしての俺は不要なのかもしれないと薄々感じていた。

  「でもお前はもう立派に社会人なのに、俺は学生だしな」

  「それは・・・」

  だからこれからはもっと対等に。

  お互い大人として付き合うのが正しいのかもしれない。

  「お前も俺のこと、いつまでも兄ちゃんなんて思わずに、これからは・・・」

  「そんなこと!」

  [[rb:玄來 > げんき]]が突然声を上げる。

  俺は驚いて言葉を止めてしまい、わずかの間、沈黙が流れた。

  「ゴメン。オレにとっては、クロ[[rb:兄 > にぃ]]だから」

  「そ、そっか」

  「うん」

  そのまま少し歩くと、模擬店が見えてきた。

  「お、見えた! 俺昼飯食べてないから腹減ったよ。行こうぜ[[rb:玄來 > げんき]]!」

  俺はこの微妙な雰囲気を変えようと、先陣切って模擬店の通りに駆け出した。

  「だって、クロ[[rb:兄 > にぃ]]が・・・クロ[[rb:兄 > にぃ]]じゃなくなったら・・・」

  ━━━━━オレはどうしたらいいの・・・。

  [chapter:柴後輩とクロ兄ちゃん]

  だんだん面白くなります。

  ちなみに私はハッピーエンドが大好きです。

  いつも柴クロをお読み頂きありがとうございます。

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  ありがとうございます。   蒼空ゆうぎ