フェンランとガーネットの近辺調査依頼

  ●

  山は白く染まっている。

  心地よい涼やかな季節は、さながら一陣の風のように瞬く間に過ぎ去っていき、数度朝を迎えるばかりで凍えるような寒さが空を覆う季節がやってきていた。

  とはいえ、畑に白いヴェールが蓋をしようとも冒険者の生活というものはあまり変わりはしない。魔物の活動は全く季節と関係が無い訳では無いが、それでもどこかで急激に減少するという事態はあまりないのだ。そういった場合はむしろ調査の為に冒険者が駆り出される事となるのだが、今はそういった報告もない。冒険者達は冬の空気に身を震わせながらも、変わらず依頼をこなしていた。

  「案外、あっさり討伐できたね。伯爵様からの直々の依頼だって言うから緊張しちゃった」

  息も白む山の獣道を辿りながら、赤い半竜の女性は心なしか少し弾ませる声を出して前を歩く狼獣人の男の背へ語りかけた。

  二人の子供を育てている中ではそうそう見ることが出来なかった冒険者としての夫の姿。そんな姿にどことなく新鮮な心地を感じる赤竜――ガーネットは、彼が周囲を警戒しながらも少し戯けたように肩を竦めるのを見ていた。

  「相性が良かったな。撹乱が効く相手で助かった」

  彼、フェンランがそう短く返事をする。

  その言葉端が鋭いのは、まだ周囲への警戒に集中しているからだろう。上級冒険者の妻としてガーネットも彼を支えなければ、と。ガーネットは緩んでいた気を引き締めて自らも注意を周囲に向ける。

  今回、フェンランに直接依頼が掛けられたのは魔物の異常個体の討伐依頼だった。魔力による自己強化に秀でた猪型の魔物が出没している、という話だった。

  住民や旅人が偶発的に遭遇するのであれば対処が難しく危険な相手だが、事前に対策を講じた上での討伐となれば、消耗はしたが危うげのない終始であった。被害報告の多さから上級であるフェンランに依頼が向けられたが、7級であるガーネットの同行が許されたのは、そもそも上級への依頼そのものが想定外の事象への保険という側面が強いのだろう。

  「伯爵様に報告した後に、ロワンさん達にお土産買って帰ろうね。……シルファとチエルが迷惑掛けてないと良いけど……」

  「ま、シルファは慣れてない所で好き勝手やれる質じゃない……」

  だろう、と続けようとした言葉をフェンランは尻切れに窄め、片手を上げてガーネットに動きを止めさせた。

  頭頂の三角耳が何かを探るように互い違いに森の木々を見回している。ガーネットには感知しきれない兆しがあったのだろう。その全身の毛をほんの僅かに微風がそよぐように逆立てるフェンランは、森のとある一点を睨みつけた。

  「……魔物の群れだ、獣型。依頼のあった同種か」

  フェンランがそう言うとガーネットに緊張が走った。うまくこちらのペースに追い込めたから、比較的被害なく討伐が出来たというだけで、決して油断のできる相手ではなかった。

  更に言えば、それが群れで向かってきているとなると同じ手が使えるとも限らない。そんなガーネットの戦慄に気づいたのかフェンランは落ち着くようにと手を地面に向けた。

  「安心しろ。討伐依頼が出ていたのは異常個体だ。それが群れを為しているとは考えられない」

  移動の形跡が分かりやすい群れの討伐となれば、それこそ兵士の領分だ。群れから追われた異常個体が放浪の末にこの周辺で暴れているものかと思っていたが、その群れが向かってきているということは、そうではない可能性も浮かび上がる。

  「あの異常個体。群れから追い立てられた訳じゃない、ここら一帯を奪ったのか」

  近づくほどに剣呑な空気を纏う群れ。異常個体に奪われた縄張りを奪い返しに来た、という所だろう。異常個体の被害として上がっていた一部は、縄張りを追われたこの群れによる被害があったのかもしれない。

  「どうするの?」

  「ああ」

  ガーネットの言葉に状況の推察と共に考えていた対処をまとめ上げる。

  迂回も間に合わない。突破して逃げるのも得策じゃない。追われてしまえば、その敵愾心がどこかの集落へと向けられ

  てしまうかもしれない。被害の一部が彼らによるものである可能性がある今、それを放置しておくことも出来ないだろう。

  となれば、選択肢は一つだ。

  「迎撃するぞ」

  「分かった。それじゃあ、まず私がブレスで脅して……」

  「いや」

  前に出ようとしたガーネットをフェンランが押し留めた。

  半竜であるガーネットは、その体内で火炎魔法を発動させてブレスとして吐き出す事ができる。だが、その威力はドラゴンのそれとは比べようもない。恐らく、敵愾心を煽るだけになる。そう判断したフェンランは不敵に笑って弓を構えていた。

  「丁度物足りないと思ってたんだ。ガーネット、俺に少しカッコつけさせてくれよ」

  木々の間に響く蹄音。土を抉る威嚇するような重低音。矢を番えて、フェンランは後ろで少し笑った息遣いを聞きながら、矢に魔力を通していく。

  生粋の魔術師ではない。だが、便利に使える魔法の習熟を躊躇う理由は存在しない。

  「エンチャント――アトニシティ」

  詠唱で魔法を固定し、放たれた矢は風切り木々の間を抜け――。

  「ギャ、ゥ!!」

  巨大な猪のような魔物が悲鳴を上げた。と同時に木々のへし折れる音。

  矢に込めたのは筋肉を強制的に弛緩させる魔法だ。猪突猛進を具現化するが如く疾走していた魔物はその勢いのままに脱力し、坂を転がり落ちる岩さながらに地面に転がっては仲間を巻き込んでいく。

  「思ったより通りは良い。ガーネット、弱ったやつを頼めるか?」

  「うん。任せて!」

  地面を伝い、周囲に脱力状態を伝播させる効果によって群れの一角が総崩れになっている。貫通効果を持たせた矢を放

  ち、効果から離れていた猪の脳天を撃ち抜くのを皮切りに、フェンランは雪を蹴散らし木の幹へ跳躍。

  「こっちだ」

  数体、先んじた突進を頭上で回避し、すれ違いざまに脱力の矢を放ちガーネットへと任せて、群れの本体の注意を己に引いた。群れの本体こちらを完全に敵と認めたらしい魔猪の正面を避けながら厚い皮膚と脂肪を貫く矢を放ち、脱力状態へと陥れていく。

  やはり、先程の討伐対象ほどの脅威はなく、魔猪の数はみるみる内に減じていく。順調そのもの、だったはずなのだが。

  (……ガーネット?)

  少し余裕が出て背後を様子見をした瞬間、フェンランは彼女に任せた猪にとどめを差したのだろう姿に違和感を覚えていた。体に傷は見えないが、その四肢を地面に着けたまま起き上がろうとしない。

  いや、出来ないでいる。まるで、脱力魔法を受けた様に。そこまで考えたフェンランは動かない脚を動かそうと体を震わせるガーネットの姿に、状況を理解した。

  「耐性装備を着けてきてねえのか……!」

  使う予定の魔法は教えていた。

  敵味方を分別して効果をもたらすという器用な魔法の行使が簡単に出来るほど生易しいものではない。効果範囲の広い魔法を使う時は仲間に周知し、その対策を予め準備させるのが常識になっている。

  だが、ガーネットはそもそも本業の間に採取などを兼ねて依頼を請け負っていた類の冒険者だ。それも十年程のブランクがあるとなれば、確認が抜けてしまうのも無理はない。

  「……っ、邪魔だ!」

  事情を知りながら確認を怠った己のミスだ。フェンランは湧き上がる塊根を飲み込むように奥歯を噛み締め、ガーネットへと敵視を向ける魔猪がいない事を確認しながら、襲いかかってくる魔猪にむけて矢を撃ち放った。

  ●

  それから数十分後。

  魔物の死骸を処理した後、ガーネットを背負い山道をゆっくりと歩いていた。しっとりとかいた汗で毛が萎れる肌に感じる魔力が落ち着いて来たのを感じる。

  「……ごめんね、フェンラン」

  「何言ってんだ、俺が確認しなかったのも悪いだろ」

  そう返せば、ガーネットは思い詰めたように口を噤んでしまった。しまったな。とフェンランは失態を悟る。

  ガーネットはしっかりしているようで、嬉しい事があればその感情で思考を埋め尽くされてしまう時がある。自覚はあるようだが、なまじ悪感情では無いが故に自分でも歯止めが効きにくい。

  だからこそ、共にいるフェンランがそういう時はストッパーとなるべきなのだが。

  (俺も浮かれてた訳だ、情けねえな)

  言葉少なにフェンランは本来の帰路とは違う方角へと進んでいた。近くに魔湧泉がある。魔力が淀みなく循環するあの場の湯に浸かっていれば脱力効果の治りも早い。

  「着いた、一度下ろすぞ」

  寒気の中でも温かな湯を湛える魔湧泉は、心地のよい湯気に包まれている。それでも冷たい地面に触れたガーネットはもどかしげに体を揺らした。

  「ん、うん……えへへ、まだ、動かせないみたい」

  「ああ、ちょっと待ってろ。手伝う」

  そう言って背を向けたフェンランを見つめて、ガーネットは彼に聞こえないように小さくため息を吐いた。久々にフェンランとの冒険だ。それも、想いを伝えて体を重ねてからも一緒に冒険に出るという事は一、二度しかなかった。そもそもの階級が違うというのもあったが、懐妊の発覚が早かった事が何よりの理由だ。

  採取依頼などではなく、日帰りではない討伐の依頼。準備不足は明らかに浮かれてしまっていた自分のミスだ。魔物が

  フェンランで対処出来たから良いものの、致命的な事態になる可能性も低くはなかった。

  そうなれば、フェンランは一生後悔することになる。それを思えば、ただ浮かれていた自分が情けなくて仕方がない。

  自責の念に囚われながら、ガーネットはフェンランが服をくつろげていくのを見つめていた。機動力を損なわない為の服はそれを脱ぐのも容易いようで、素早く細身ながらも鍛えられた肉体の全てを湯霧の中に晒したフェンランはガーネットの装備に指をかけた。

  ベルトを外し、鎧部分を排していきながら、テキパキとガーネットの服を脱がせていく。手慣れた動き。タウロス種の装備にも詳しいフェンランに少しチクリとした痛みを胸に感じていた。

  もしかしたら、自分以外の半竜の装備を脱がした事があったりするのだろうか。そんな事を考えていると、フェンランはガーネットの装備を脱がせ終わっていた。

  「ついでに汗でも流すか、洗ってやる」

  と、まるで気にしていないと言うようにフェンランはガーネットに笑いかけて、体を抱き上げて湯に浸からせてくれた。

  「ん……」

  フェンランの手が布越しに竜の肌を撫でる。

  人部分の腕の脱力は薄いが、それでも腰を回して胴体を手入れする事は出来ない。だから仕方ないのは仕方がない。のだが、丹念に自分の鱗を撫でてくれるフェンランの手の感触に、胸の中でもどかしい疼きが仄かに灯り始めるのをガーネットは感じ取っていた。

  自分の不手際でここまで運んでもらい体を洗ってくれてまでいる夫の手に、ガーネットは僅かではあるが確かに欲情を覚え始めている。なんてふしだらな。そんな自分に羞恥を膨らませながら彼女は漏れる声を抑えながら、夫の手を受け入れる。

  「……っ、ぅ……」

  腰を撫で、胴体を、前脚を、背を。そして、後ろ脚を洗うためにフェンランがその竜の尾を少し持ち上げたその時。

  「――」

  狼の手が止まる。

  数秒の硬直を解いてフェンランは拭浄を再開したが、ガーネットはその数秒の理由に迷うことはなかった。誰よりも彼女自身が気づいていたことだったからだ。尾を持ち上げるように腿を洗うフェンランには、当然のように目の当たりにされてしまったのだろう。後ろ脚の間、そのガーネットの秘裂。

  脱力の影響を受けて引き締めることの出来ないその割れ目から、温泉のそれではない澄んだ滴が染み出してしまっているのを。

  ゆっくりと膝から上に布が上がっていく。内腿と外腿を交互に擦るフェンランの手は、少しガーネットが体を揺らせばその骨ばった大きな指が触れてしまう程に近づいている。

  どうしても意識せざるを得なくなってしまう。彼がその中へと指を挿し入れれば、この胸のもどかしさが発散されてくれるのではないかという、紛れもない劣情がガーネットの思考の奥底に根を張って、その枝を伸ばしていく。

  それを抑えようとするガーネットだったが。

  フェンランが脚の付け根をゆっくりと拭おうとしたその時、布越しの指が意識が集中してしまっている敏感な花びらを擦り上げ、その抑制が一瞬瓦解してしまった。

  「っん……ぁ……ッ」

  「す、すまん!」

  びくん、と撥条じかけのおもちゃの様に跳ね上がったガーネットにフェンランが口を突いて出たように謝罪する。高い声で誤魔化しようもない嬌声を放ってしまったガーネットは湯で仄かに朱めく頬を更に上気させながらも「ううん、私こそ」と言おうとして視線をフェンランへと向ける。

  そして。

  「……ぁ」

  ガーネットが見たのは、切先を濡らす鋭利な赤い剣だった。

  フェンランの――狼の男根。厚手のナイフのように竜へと向けられるその先端。薄紅色に染まる被毛を持たぬ狼の滾り。

  硬く膨れ上がったそこは独特の弾力を思わせる光沢に湯の雫を纏っている。ガーネットはまるでそうしろと脅されているように、それから目を背けられないでいた。

  震えるようにフェンランの名前を呼んだ。羞じらいに舌の根が強ばるが、それでも、ガーネットはもう己を止められなかった。

  「……もっと、触って……」

  「ガーネット」

  フェンランが戸惑うように、その手を竜体の尾を撫でる。ガーネットはそうじゃないと言わんばかりに最大限に体を揺すった。フェンランは、ぐ、と喉を鳴らしてからその手を尾の下へと潜り込ませる。布を外した狼の指が太腿をゆっくりと撫でていき、その指先が濡れた花陰の中へと入り込んでくる。

  よく知る指の太さに、弛緩する秘孔はまるで自ら体を明け渡すようにその侵入を許していた。

  「ん、ぁあ……っ」

  体内を広げられる感覚。痛みはなく、ただ木の実が熟していく過程を身をもって味わわせられているような甘美な痺れが全身を包み込む。ぬち、くちゅ、と淫らな音が肉を伝い骨を伝い耳の後ろから響くように、その微細な快感をつぶさに感じ取らせるようにと感覚を鋭敏化させていた。

  二本に増えたフェンランの指が、その壁を押し広げるように蠢く。だが、満足に力を込めることの出来ないそこは、フェンランの指だけでは物足りなさを昂ぶらせていくばかりだ。

  「フェン、ラン……っ」

  はしたない。そう思いながらもガーネットは己の声を止められなかった。どうしても、体の中の奥底に虚ろに開くようにして蟠るその冷えた塊をその熱した欲で貫いて欲しい。

  上気しきった顔を隠すことすら忘れ、潤んだ瞳でフェンランに媚びるように振り向いた。

  「お願い、フェンラン……もっと、奥に……」

  「ガーネット……っ」

  言葉を最後まで言い切る前に、フェンランの口がその唇を奪った。開いたマズルから侵入する舌がガーネットの口蓋をこそぐ。ざらざらとした舌乳頭に直接脳へと振動を叩き込まれ一瞬意識が弾けそうになるガーネットに、フェンランの焼き付くような眼差しがそれを許さない。

  「ん、っ……」

  「我慢してるトコにそんな事言われたら、抑え効かないからな?」

  息が詰まるようなキスのあとに、啄むような優しい口づけを重ねたフェンランはガーネットが頷くのを待たずに、その口づけを首から下へと繰り返す。人と竜の境目に指を這わせれば、くすぐったいのかガーネットは身を捩り吐息を漏らした。そのまま後ろ脚に甘噛をしたその痕を慰めるように舌で舐める。

  「あ、ぅッ……や……っ」

  そして、濡れそぼる蜜肉に舌を這わせながら、脚を抱えて仰向けにガーネットの体を開かせる。まだ満足に動かない四肢はその竜の体を隠すことは出来ず、フェンランの腕が導くままにその痴態を剥き出しにした。

  幼子が触れて遊ぶような水音と共にフェンランの舌が、雌の奥底の火に痺れるような風を送る。水面に潜った割れ目に狼の舌に運ばれた空気が泡を立てていた。その泡が弾ける小さな振動ですら、ガーネットの心を奪うように悦びで満たしていく。

  薄い鱗に覆われる濡れた秘部。腹に触れた掌からすらフェンランの鼓動が伝わってくる。ガーネットの呼吸を確かめるように、上下する腹部に手を置いたフェンラン。その熔けた鉄のような焼き焦がさんまでの視線、鍛えられた肉体の中心に聳えた雄々しい肉茎。

  「挿れるぞ」

  赤竜の内部へと鈍く熱した塊が入り込んでくる。胸を鷲掴みにする刹那の不安は、愛する者が吐いた耽溺の吐息に悦びへと変わる。のけぞり、喉笛を晒すようにガーネットは嬌声を漏らす。

  「ぁ、あ……ッ」

  柔く解された肉を割り入ってくる剛直。決して激しい挿入ではなく、じっくりとガーネットが貫かれているのだと実感

  できるような沈め方。触れたその部分から、小爆発を繰り返すようにして全身に駆け上がる快楽の波に、目尻に涙が浮かぶ。微かに視界が揺らぐ。

  「苦しくないか……?」

  「……うん」

  浸かる泉の温水が二人の接合が深くなる度に揺れる。囃し立てるような鼓動。見つめ合ったままに熱烈に唇を交わし、互いの呼吸を忘れたままに雄茎の根本が挿入口に触れた。その全容がガーネットの軟肉に覆い隠されたのだ。

  圧迫感はあれど、痛みは然程無い。

  浮力によるものか、全身の脱力のせいか、まるで体が宙に浮かび上がってしまうような体と魂が分離する感覚。快感と幸福感に自分を俯瞰しているような心地は、絡めた舌が解かれて現実に引き戻されていた。

  「栓……するの?」

  ガーネットが艶めいた喜悦混じりの声を発した。フェンランの雄茎は動物めいた形状をしている。屹立した雄は子種で膣を満たす為のコブが存在し、挿入後に膨張する。

  一度、ガーネットの中でコブが出来てしまえば、雄種を吐き出しきるまで二人の体が離れることはなくなってしまうだろう。

  「嫌か?」

  「……だって、私……フェンランより年上なのよ?」

  ガーネットの胎を白濁で満たす。それは紛れもなく子孫を残す行為だ。

  四十近くなってきた最近。体の衰えを感じつつあるガーネットは、二人の子を授かった体として。フェンランに母として作り変えられた体として、もう一人の命を授かる事に不安を覚えている。そんな半竜の首筋にマズルを押し付けながら、フェンランは微かに笑ってみせた。

  「でも、羨ましそうにしてたろ。ユキシロさんとこに新しい子供が出来たの」

  「それは……そうだけど」

  気付いていたんだ。とガーネットは苦笑した。

  友人であるユキシロとロワンの夫婦。二ヶ月ほど前だったか、彼らが第二子が授かったと聞いた時に感じてしまった羨望。表に出さないようにとしたはずの感情もフェンランにはお見通しだったということらしい。

  否定せず、それでも決めかねて惑うガーネットに、狼がその言葉を選ぶ唇を舐め、その続きを浚うように名前を口にした。

  「なあ、ガーネット。俺がお前を支えるから」

  ガーネットが見上げる彼の表情は、大人びた意志とそれでいて少年のような純真さを綯い交ぜにした、雄の顔をしていた。

  私を激しく求める、強い視線。

  「俺の子を孕んでくれ」

  「――っ」

  そんな慈しみと獣欲に満ちた目で見つめられてしまえば、ガーネットはそれを強く拒む事は出来なかった。ガーネットがそれを望んでいるということも真実に違いない事を考えれば、明確にフェンランを受け入れたと言っても良いのかもしれない。

  私が彼を支えなきゃいけない。どこかにあったそんな重責に似た気持ちが融解し、私も彼に預けていいんだと思えた。

  ぐ、と奥まで突きこまれた獣欲の、その根本が硬く膨らんでいくのが分かる。

  「ぁ……あ……っ」

  痛いほどに膨らみ、ガーネットを捕らえて離さない為のコブが甘美な痛みを与えてくれる。ビリビリと電撃が走るような痛みだというのに、体はそれを嫌がっているのに、心はそれに悦んでいた。

  フェンランがきつく抱きしめてくれる。深く繋がった互いの接合部が燃えるように熱く脈打っている。その脈が次第に強くなっていき。

  「出すぞ、ガーネット……ッ」

  「うん……いい、よ……」

  ガーネットが頷いた、その瞬間。

  白熱する溶岩がガーネットの腹の奥へと雪崩込んできた。フェンランの雄茎によって退路が存在しない膣内で滾る雄の迸りは奥へと溢れていく。

  一度。二度。

  「……あつ、い」

  「ああ、ガーネットも、熱いな」

  火照る体を重ねて、結合を果たしたままに熟れた肉壺を種で満たしていく。

  繋がったまま、フェンランの濡れた被毛に指を通し、引き締まった体を愛撫する。濡れて束なった毛先の雫が落ちる。筋肉を纏う背に抱きつけば、膣内を埋める剛直がびくびくと魚のように跳ねて、それが雌としての快楽をガーネットへと与えてくれる。

  溶け合うように、何度も脈を打ち、満たされていく。

  胴を撫でれば、中の液体の感触に触れられそうなほど。溺れるような量の射精を受け止めながらガーネットは、フェンランの腕の中で多幸な白色に想いを馳せていった。

  

  

  ●

  「おかえりなさい。お二人共、ご無事なようで何よりです」

  「ああ、世話かけたな」

  街に帰り、依頼の達成報告を行った後、二人は子供を預けていたユキシロの家へと訪れていた。

  外で遊んでいた子供達の声でガーネットとフェンランが帰ってきたことに気づいたらしいユキシロが二人を出迎えてくれる。暖炉で薪が焚べられている香りと温かな空気が鼻先を擽った。

  ガーネットは暖炉そばで体を温めるロワンと話をしに行き、外で遊ぶ子どもたちをユキシロと眺める。

  「いいえ、賑やかで楽しかったですよ」

  と純朴な笑みで言うユキシロに、そうか、と微笑んだフェンランは忘れない内にと、背嚢に手を突っ込んだ。取り出したのは中級魔法書程度の包みだ。フェンランはそれをユキシロに手渡した。

  「あいつらを預かってもらった礼だ、簡単な土産だが」

  「ええっ、すみません気を遣わせてしまって……! ありがとうございます!」

  なんでしょう、と中身を確認するユキシロにフェンランはなんとも思わずに答える。

  「牡蠣の干物だ」

  聞くに今年は豊作らしくてな、身も大ぶりで食いでがありそうだ、と続けるフェンランの正面で、包みを受け取っていたユキシロの表情が一瞬固まり、そして、何かを思い出したようにその白い毛の奥が一気に赤く染まっていった。

  ボボ、と音が聞こえそうな急変化に、流石に子供を見ていたフェンランもその異常に気付いたようで、不思議そうに問いかけた。

  「……ん、どうかしたか?」

  「い、いえ……! そうか、伯爵様からの依頼、でした、ね……」

  何故か狼狽えるユキシロにフェンランは小首をかしげる。なんでもないです。と繰り返す明らかに様子のおかしいユキシロに苦手だったかと聞けば「いえ、好きです。いや、好きっていうのは、牡蠣がっていうことであって……」と謎の弁

  明を始めたものだから、ますます困惑が深まってしまう。

  ユキシロがつい最近、牡蠣に印象深く多少ふしだらな体験をしたなどと知る由も無いフェンランがただただ戸惑っている間に、ユキシロは冷静に落ち着いたらしい。

  「失礼しました、ありがたくいただきます……」

  「ああ……、なんだ、悩みがあったら聞くからな……?」

  少し消沈している様子のユキシロと安堵しながらそんなやり取りをしていると、家の中からガーネットとロワンが出てきては「ユキシロさんをイジメちゃだめだよ」とガーネットに誂われる一幕がありながらも、フェンランは子供を連れて家路に着いていた。

  日が暮れるのは早い。薄暗く、紺灰に染まっていく通りには照明がぽつりぽつりと灯されている。更に冷え始める風に身を竦ませながら、フェンランは隣を歩くガーネットの横顔を見つめた。

  「よかったのか?」

  先を行く二人の子供の背を見守りながらフェンランがそう聞いた。

  「うん」

  ガーネットはフェンランに頷く。

  冒険者の階級についてだ。今回の同伴依頼を達成したことで7級への昇格手続きが行えるとギルドから通達を受けていたのを、ガーネットはそれを辞退していたのだ。

  その理由を聞けば。

  「装備忘れちゃったでしょ? 冒険者が準備を万全に出来ないなんて、私だけじゃない。仲間にだって危険を背負わせることになるもの」

  と答えが返ってきた。

  あっさりとしたものだ。元々、冒険者というものに憧れを抱いていたガーネットならもう少し迷いを見せると思っていた予想を覆され、フェンランは少しの驚きを感じていたのだ。

  それに、とガーネットはフェンランに体を預けるように寄り添いながら、こう続けた。

  「また暫く、冒険者の依頼なんて出来ないと思うから……ね?」

  それからガーネットは悪戯気にウインクをした。それは出会った頃によくしていたお姉さんぶるような仕草。最近は身を潜めていた表情にガーネットが若返ったような錯覚を覚えながら、フェンランはその言葉の意味する所を察して喉を鳴らす。

  「シルファ、チエル。暗いんだから、あんまり離れないでね」

  彼女の温もりを思い返したフェンランから子どもたちへと視線を移したガーネットは、既に母の顔になっている。

  「ふふ、変な顔してるよ」

  その意識の先には既に自分がいない事に大人げない嫉妬を微かに感じた瞬間、フェンランにガーネットが笑いかけた。

  手玉に取られている。

  そんな自覚に気恥ずかしくなりながらも、どこか懐かしさを覚える憎らしい笑顔に悪い気はしなかった。

  「ね、今夜は牡蠣のパスタにしよっか」

  「いいな、美味そうだ」

  夕食のメニューを耳聡く聞き取ったらしいシルファとチエルが、てて、と舞い戻ってきては、早く帰ろうと二人を急かす。

  「もー、ひっぱったらママ転んじゃうよー?」

  「ママ、何か良いことあった?」

  「そうねー、良いことがありそうな気がするってだけ」

  それより、ソレルくんとは仲良くしてた? と訊くガーネットに「べ、別に仲良くする必要ないし」とどう聞いても好意を抱いているのだろうシルファの強がりを聞き、ゆっくりと夜の道を――。

  「なんだかシルファ、ソレルくんの事となると昔のパパみたいね」

  「よし、早く帰るぞ」

  ガーネットから飛び出したそんな言葉に尾を膨らませながら、そそくさと夜の道を帰っていくのだった。