ソレルとシルファ、狐獣人イサネとの初依頼

  ●

  シルファは、花も恥じらう12歳の女の子である。

  父親譲りである銀の毛並みは、花油を使って手入れした櫛で毎日梳いて艷やかに朝日を跳ねさせるように溌剌としながら上品な美しさの欠片を見せつつあった。よく出入りしているギルドでも女性冒険者達に「最近大人っぽくなってきたから」と、服選びに誘われては似合う衣装を見繕ってもらったりもした。

  少年と見分けの付かなかったその体も、次第に大人へと変わりつつあるのが分かる。胸は緩やかに膨らみ始め、豊かな尾を備える腰つきは円みを帯び、全身にどこか靭やかな柔らかさを醸し出している。スラリと伸びた肢体のバランスの良さと関節の柔らかさ。それが如実に現れる歩き姿は母親譲りでもあるのだろう。

  成長しても変わらず走ることが好きで、勉強は好きじゃない。それでも、友達と街で服を見たり、お菓子を食べたりするのが何より好きになってきている。そんな女の子である。

  子供でも大人でもない、そして、そのどちらでもある。そんな年頃の少女だ。

  「はぁ、いい湯だねえ。そう思うよね、ソレル?」

  「は、……はい。そうです……ね」

  そんな真隣から聞こえる会話を聞きながら、シルファは熱く火照る頬を半ばほど湯に浸ける。狼獣人であるシルファはマズルの上半分を島のように浮かべて、思わず喉から溢れるうめき声を水に隠す。

  その赤面は、温泉の熱で逆上せてしまっているわけではない。湯についさっきのことで、体はまだ温まってすらいない。ならば、なぜ顰め面で耳を項垂れさせているのか、といえば。

  先程の会話の片方は聞き慣れない呑気な少女の声。そして、もう片方は緊張しきった様子の聞き慣れた少年の声だ。

  シルファは、恨みがましく隣で寛ぐ片方の声の持ち主である狐の女獣人を睨みつけ――、そして誰よりも体の小柄であった彼女の頭越しに、向こうにいる茶山羊の胴体を持つ少年と目が合った。

  「――っ」

  慌てて視線をあらぬ方向へと逸らす。その勢いにパシャリと水面に滴が跳ねる音と心臓の音が重なった。

  シルファは花も恥じらう12歳の女の子である。

  だからこそ。

  なんで一緒じゃないといけないのよ……!)

  ――幼なじみとはいえ、男の子と一緒に裸でお風呂に入るなんて状況で冷静でいれるはずもない。思春期の少女という豊かな感受性には刺激が強すぎるのだった。

  

  ●

  12歳。

  それは、冒険者ギルドから依頼を請けられるようになる年齢だ。お互いの両親の影響から10歳の時から冒険者ギルドに登録だけしていたシルファとソレルにとっては、待ちに待ったまさにその時。

  「忙しい俺に変わって今日から二人の面倒を見るイサネだ」

  と、シルファの父がそう二人に紹介したのは。

  「レタゥサレトコのイサネ、普通にイサネで良いよ。よろしくー」

  軽薄そうにひらひらと掌を振る、二人よりも小柄な狐獣人の少女だった。

  

  ●

  銀のギルドカード。中級とされる7級のランク証明。

  その狐獣人は、胸元から取り出したそれを持つに相応しい実力をシルファとソレルへ見せつけていた。

  シルファの身体能力は歩き慣れない山の傾斜であろうと普段と遜色ない動きが出来ている。だが、先を進むイサネはそれ以上だった。まるで通い慣れた街路を往くが如く険しい道を進んでいく。

  私より小さいこの子に『面倒を見てもらう』なんて、と父を睨んだシルファだったが、その時の父の苦笑の意味を今身をもって体感していた。

  「あー、やっぱり私、ナメられてる感じ? まあ、ちっこいしねぇ」

  と軽んじられた事に苛立ち一つ見せない狐獣人。

  「14歳。これでも二人より年上だよ、ヨロシクー」

  と言われた時はただ不安であったが、そんなものは瞬く間に払拭されてしまっていた。

  山道の歩き方だけ――などでは当然無い。

  ただの採集依頼でしか無いが、それでも魔物が生息する地での捜索だ。当然危険も付き物であるのだが、イサネはその高い察知能力と戦闘力はその危険をいとも容易く跳ね除けてしまえる程であった。

  「……っシルファ、大丈夫?」

  ソレルと二人がかりで苦戦していた魔物が、目の前で振り下ろされた斧の一撃で沈む込む。そんなもう何度となく見た光景。吹き飛ばされて地面を転がったシルファは、立ち上がりながらそれを為した小柄な狐獣人を苦虫を噛み潰したような心地で見据えた。

  「んー、あれだね、二人とも動きが硬ーい」

  悠々と息切れ一つ見せずにイサネはそう言った。

  二人で魔物に対応し、危険になったらイサネが介入する。そんな荒修行に思う所が無いわけではない。

  「シルファちゃんは先ず、自分を主体で動きすぎかな。もっとソレルくんのサポートを上手く使わないと」

  だが、実力差は圧倒的であり、尚且つ助言も的を得たもので反論はできないでいた。

  「ソレルくんは周りを警戒しすぎ。シルファちゃんの動きに合わせるのは良いけど、それで魔物への対処が疎かになったら本末転倒だよ」

  槍を手にしたソレルはその言葉に眉尻を下げながら、心配そうにシルファを見つめてくる。

  「大丈夫、怪我も軽いから」

  「うん、分かった」

  普段遊ぶのとは全く違う。互いの呼吸が合わない感覚。まるで直ぐ側にいるはずのソレルが遠くにいるようなちぐはぐな感覚に、ソレルとも視線を合わせづらくなってしまう。

  「んー……」

  イサネはそんな二人に、思案するように小さく呟くと。

  「よし! じゃあ移動しよっか。……良い所知ってるんだ」

  まるで、お気に入りの喫茶店に誘うような口ぶりでそう言うのだった。

  「どうしたの、シルファちゃん」

  と背を見つめていたシルファに敏く振り返るイサネ。

  しばらく歩いていたが、魔物は殆ど現れなくなってきている。採集も終わっていて、あとは報告をするために街へ帰還すればいいだけだというのに、向かう方向は街とは少し外れた方角であることに、シルファは首をかしげていた。

  「……どこに向かってるの?」

  問いかけるとイサネは、勿体ぶるように肩を竦めて返す。

  誤魔化されている。とはいえ、この狐獣人が騙して誂うような性格をしていない事は、短い付き合いの中でも確信を持てていた。おちゃらけた言動の割に、その行動原理は質実なものという印象が強い。

  望んだ答えが返って来なかった代わりに、シルファはイサネの体をじっと観察した。

  王都で生まれ育ったという彼女だったが、その名乗りからして定住地を持たない北の一族を出自としているのだろう。

  身軽に見えるが故に、そのバランス良くも野性的に鍛えられた肉体がありありと分かる。イサネは他の二人よりも小柄でありながら、背丈ほどもある戦斧を背負っている。重鈍な武器であるにも拘わらずまるで不安定さを感じさせないのは、彼女の三角形を思わせる体格のおかげだろうか。腕もそうだが、太ももががっしりと太い。

  その左目は、大きな獣の爪に割かれたような古傷で閉ざされていた。

  「私はねえ、『こわい』ってのがどんなものかこの傷に教わったんだよね」

  その目で索敵をどうやっているのかを聞けば、そんな的を外れた答えが帰ってきた。相も変わらず軽薄に笑う彼女は、どういう意味かとシルファが追求するのを、その笑んだ瞳の奥にある強い光でとどめて見せる。

  「ん……なんか、変な感じ……がする」

  「お、ソレルくんは分かるんだ?」

  と、思わず口ごもったシルファの代わりに声を発するようなタイミングでソレルが、不思議そうな表情を浮かべて周囲を見回した。さっぱり流石だね、と褒められているソレルにモヤモヤとした思いを抱えながら、シルファもその変な感じとやらを探ろうとする。だが、シルファには普通の野山との違いは特に分からない。強いて言うとすれば、山中にあるというのに苔むしていない、つまりは真新しいフクロウの像が建てられている、ということだろうか。

  「そろそろ疲れてきたでしょ? 冒険者は休むのも大事だからね、戦いばかり教えてちゃフェンランさんにどやされちゃう」

  訝しげにするシルファへ、イサネはそう言った。

  「魔湧泉だよ」

  と。

  

  

  ●

  フクロウの像が見守る山中にそれはあった。

  「……これが魔湧泉か……」

  「わ、温かい」

  ソレルは少しおぼつかない足取りで湯気に満ちた岩場から、微かに濁る温水の池に手を差し入れていた。その隣に寄り添いシルファも同じ様に手で温度を感じては、お湯が自然と湧き出ているという不思議な現象に目を輝かせる。

  そんな二人の背中を、イサネの声が叩いた。

  「そ、ここが魔湧泉。冒険者の憩いの場所だよ。二人共疲れたでしょ? 丁度今は誰も使ってないみたいだし……」

  呼びかけで二人の視線を自分へと誘導したイサネはパンッ、と手を叩いて、一つの提案を投げかけていた。

  「私達で入っちゃおうか、一緒に」

  「……え?」

  耳に飛び込んだ言葉に、思わず上げた声がソレルと重なる。

  「流石に一緒ってのは、冗談ですよね……?」

  「ううん」

  と絶句するシルファの心の声を代弁したようにソレルが恐る恐る問いかけた。そういう様に聞こえる言い方をしてしまっただけで、順番で湯を使う、とかいう意味だろう。いやそうであってほしい。という希望を込めたその言葉は、しかし、驚くほど簡単に否定された。

  「三人で、一緒に、入るんだよ」

  にこりと笑って見せるイサネの顔がまるで山一つ程もあるような錯覚すら覚える迫力に、シルファとソレルはそれ以上抗う事もできず――そして、冒頭へと戻ることになる。

  (なんで一緒じゃないといけないのよ……!)

  と、湯に浸かりながら、イサネを睨むシルファがその向こうのソレルと目があい互いに背けあっている、その間。イサネはそんな二人の様子を見てから口端を少し吊り上げていた。

  そして、さも今思い出したかのように声を出す。

  「あー、そうだ! ついでに大事なこと教えてあげないといけないんだった!」

  「……え?」

  言うやいなや、その動きは正しく俊敏そのものだった。立ち上がりざまにソレルの胴体に腕を回したかと思えば、その膂力を以てソレルの体を抱え上げていたのだ。

  「うわ、ッあ!?」

  驚く声を上げるソレル。その声が温泉の水面を微かに揺らし終える頃には、ソレルは背中を岩場に付けられ仰向けにされてしまっていた。

  「ちょッ……!?」

  慌てて体を、その一部を隠そうとするソレルだったが獣体と人体の胴体を持つソレルは仰向けにされて前肢を掴まれてしまえば、その腕で彼が隠そうとしている部分には届かない。

  なぜなら、そこは後肢の根元の中心。普段見せる事も無い陰部であるからだ。さらに言ってしまえば、今彼の幼くも成長しているその部分は。

  「なんだソレルくん、もうおっきくなってんだ」

  まるで指揮棒のように細長く張り詰め、肉肉しい淡紅色を晒していたのだ。

  少年の性的な恥部が二人の少女に露にされるという羞恥に、その全身の毛がぶわりと広がるのをシルファは呆気に取られて見ているしかできなかった。

  「やめ……あの……、離してください……っ」

  無意識に2年前に見たソレルの勃起と比べている間に、一足先に困惑から復帰したソレルがイサネに懇願する。

  だが、イサネはそんな言葉など何処吹く風というように右から左へと聞き流していた。

  「男の子だねえ。どっちに興奮しちゃったの? 私? それともシルファちゃんかな?」

  「ぁう……」

  揶揄う言葉に赤面して黙りこくってしまうソレルは、イサネに前肢を掴まれたままもがこうとした所を、耳元に囁かれて動きを止められてしまう。

  「大事なことだからね。キミにとっても、シルファちゃんにとっても」

  「え、わ……私……?」

  突然のイサネの奇行、そして、ソレルの恥部が曝け出されたことに理解が追いつかず硬直していたシルファは、不意に名前を呼ばれて気を取り戻したように声を上げた。

  「そ。ソレルくんみたいなタウロス系獣人は、体が柔らかくないと手入れが大変だからね。パートナーが助けてあげないと」

  「ぱ、パートナーっ!?」

  「冒険者パーティのね、あっ……もしかして別のパートナーだと思っちゃった?」

  その言葉に心臓がひっくり返るような感情の爆発に、思い切り振り下ろした腕がバシャンと大きな音を立てて水を跳ね上げる。

  「そんな訳ないじゃない!」

  慌てて否定するその態度こそが、まるで如実にそれを肯定しているように見えてしまうかもしれない、と直後に思い至ったシルファは口を噤むとイサネを睨みつけてるが、彼女はそんな威嚇など歯牙にもかけずクスクスと笑いを零していた。

  「でも、そういう意味のパートナーにも必要な事だから安心していいよー?」

  「だから、……そういうのじゃないって……!」

  否定するシルファに今度は何も言う事なく手招きだけをするイサネ。おちょくられている、と完全に理解したシルファはこれ以上振り回されて溜まるかと、憤慨を胸に秘めてその挑戦状を受け取っていた。

  「あ、あの……何を……?」

  肩を怒らせて近づいてくるシルファに少し怯えるような表情を向けたソレルは、おずおずとイサネにその目的を問うた。

  「ペニスの洗い方、シルファちゃんに教えてあげようと思って」

  「ぺ……っ!?」

  良からぬことを企んでいるとは思っていたが、あまりにストレートに言い放たれた言葉に再度逃れようとしたソレルの体の上に体を前のめりにしたイサネは、ずいとその顔をそろそろ心配に成程赤く染まるソレルに近づける。

  「んー、体が柔らかいなら心配する事もないんだけど……ソレルくん、結構体硬いよね?」

  「へ……いや、それは……まあ」

  半竜の母と弟を持つシルファはその言葉に納得を覚えていた。

  母や弟は、よく曲がるなと思えるほど柔軟に自分の足の手入れを行っていたが、ソレルがそういった動きを見せたことはなかった。なるほど、そもそもとして彼は体が硬いのかと。

  「でも、それは……」

  「分かった、よね?」

  トドメに、そう凄まれてしまえばソレルは逃れられない運命を感じ取ったのだろう。まるで全てを諦めたような濁った瞳を見せて、その体を明け渡すのだった。

  

  ●

  そうして、始まったイサネのレクチャーは、やはりというかなんというか、依頼中と同じくぶっつけ本番だった。

  「まずは、シルファちゃん。ちんちんの匂い嗅いでみて」

  その手の平の中で、スクラブの少ないという石鹸を泡立てながら言われた言葉に、シルファは少し抵抗を感じながらもゆっくりと鼻先をそのそびえ立った細い茎の根本の方へと寄せる。微かに息を吸えば、温泉の匂いに混じって確かに感じる酸味のある匂い。

  尿のような匂いと薬にも似た匂い――それがいつしか彼の寝ている間に悪戯を仕掛けてしまった時に嗅いだそれだと気付くのに、数秒かかっていた。

  「タウロス系獣人はね、体硬いと後ろ側は洗いにくいんだよ。ペニスは特に血管も多いし汚れが溜まりやすいよね」

  なんてったって排泄器官でもあるしね。とイサネは続ける。

  「だから、パートナーがきれいにしてあげる必要があるってこと。分かった?」

  「……うん」

  少し緊張を見せながらも、少しずつ興味が勝ってきた様子のシルファ。そんな様子を見てイサネは満足そうに頷き、ぐちゅくちゅと音を立てる掌をゆっくりとその竿へと近づけていく。

  「じゃあ、洗い方を教えるね。ソレルくん触るけどいいよね?」

  「好きにしてください……」

  疑問の形を取ってはいても、もはやソレルの意見など聞いてはいないのだろう。そう確信しているソレルは俎上の魚のように脱力し、せめてもの逃避とばかりに腕で自らの目を塞いでいる。

  「はぅ……ぁっ」

  狐の手が硬く尖った雄の塔を握る。遠慮なく、しかし、繊細な部位である事を理解している力加減を以て触れられたソレルは、腹から胸を波打つように跳ねさせて余裕のない声を発する。

  「ぁ、ぁ……う、ん……ッふ、か、ぁ……ァ!」

  イサネが震えるその肉茎に沿わせるように根本から先端へとゆっくりと手を滑らせる。泡で滑らかになった表面を柔い毛と肉球が包んで僅かにその指が進む度にソレルは情けのない声を上げ続けていた。

  聞いたことのないソレルの声。それを聞きながら今更に見てはいけない光景を見ているのではないかという背徳感に襲われながら、それでも見たことのない男の子の部分への興味は拭い去れなかった。五指全てを動かし、茎を擦り上げるイサネは「よく見ててね」とシルファをその茎に注目させる。

  その先端からは糸を引く透明な液体が溢れ、泡を押し退けて垂れ落ちていく。それを泡と混ぜ込むように狐の手が掬い上げ、指の輪の中で伸ばしてはソレルの若雄に絡めていく。

  「んぁ、っ、も……ッ、ダメ……っ」

  「うん、いいよー。恥ずかしくないことだからね。みんな男の子ならすることだから」

  空いた手でお腹を撫でながら、イサネは子供をあやすような声色で何かを耐えるソレルを諭している。痙攣するようにそのお腹に力が籠もっているのを感じながら、シルファは何かの時が近いのを如実に感じ取っていた。

  せき止めていた何かが決壊する。その瞬間が目に見えるようで。

  「はっ……ぁあ、ぁ、もう……ッ、でる……ッ、で……ぁあっ!!」

  ビクン、と跳ねる。ソレルの体が硬直したかと思えば、その狐の手の中にあった陰茎から真白い噴水が吹き上がったのだ。半液体状の白濁。いつか嗅いだ薬品のような匂いが途端に広がって鼻を突く。

  「んあ、っああ……ぅ……」

  脈を打つ度、次第に弱まりながら溢れ出る中、根本から先端へと茎の中に残るそれを絞り出す。その先端に滴つくった白を掌に纏わせたイサネは、指の間に糸を這わせる白濁液をクチリと鳴らしながら、シルファへと石鹸を投げ渡した。

  「さ、シルファちゃんの番だよ」

  「……は、うん」

  そう言われたシルファは、息を荒く吐くソレルに大丈夫なんだろうかと心配の目を向ける。深呼吸で体は上下に揺れて、先程まで空を突かんばかりに伸び上がっていた怒張も今は、少し斜めに項垂れてしまっている。

  「大丈夫だよ。ソレルくんも……待ってる」

  手を洗い流したイサネがいつの間にかシルファの後ろに座り、その両肩を軽く押した。

  「……っ」

  ソレルは何も言わない。

  シルファの目の前に、ゆっくりと傾いでいく肉茎。促されるままにシルファは、恐る恐るその部分へと手を伸ばした。正直、それに触れる事にも抵抗はあったが、それでもシルファはしっかりとそれを指の中に閉じ込めた。

  「ぁ」

  ひくりと跳ねた細長い桃色のそれが、指に包んだ瞬間から少しずつ硬さを増していくのが分かる。緊張にマズルを引き締めながら、シルファはゆっくりと扱き上げ始める。

  「ん、ぅ……」

  イサネとは違う辿々しい手付き。指を柔軟に動かす事はできず、ただ、傷付けないようにと上下に擦るだけではあったが、それでも盛んな少年の情欲は見る見る内に熱を滾らせていく。

  「ほら、ソレルくんも気持ちよがってる」

  「……そう、なんだ」

  先程と同じように自立するほど硬さを取り戻したその茎をそのまま数度、往復して刺激し。そして、その二度目は思いの外早くに訪れた。

  「は、ぁ……また、出……っ」

  ソレルの体が硬直していく。それを見て取ったシルファがほんの少し手の動きを早めれば、それだけでソレルの我慢は崩壊した。二度目でも勢いは衰えず、舞い上がった液体がその幹を握るシルファの手に跳ねる。

  「これが、男の子の、ソレルの精液……」

  シルファは手の甲についたそれをゆっくりと鼻先に近づけていた。奥へと入り込み、脳に僅かな不快をもたらすその匂い。その中に微かに慣れ親しんだソレルの香りを感じて、胸が熱くなるのを感じる。

  自らの手で、ソレルを絶頂に導いた。その感覚にぼんやりと波に揺れるような感覚に陥っていると、背中からイサネが「ダメだよ」と諫めてくる。

  「ちゃんと最後まで洗ってあげなくっちゃ。汚れたら、意味がないでしょ?」

  と、イサネが示す先を見れば、ソレルの陰茎は自らが流した白濁に塗れている。そのままにしていれば、股座に収まった際に汚れとなってしまうのだというイサネの言葉のままに、シルファはまた、若い山羊のそれへと手を伸ばした。

  「うん、そう。集中して」

  と少しずつ指の動きを試す様に動かし始めた頃、イサネの声が先程よりも近い位置から聞こえた。そう思った瞬間。

  「ひゃ……っ」

  イサネがシルファの背後から彼女を抱きしめていた。

  いや、ただ抱きしめているにしては、その手はおかしな位置にあることにシルファはすぐに気付く。

  「ん、ぁ……や、なに……してんの、よ……!」

  左手は膨らみかけた胸丘を掬い上げるように撫で、右手の指は湯の中で柔毛の奥にある初筋に沈み込んでいるのだ。

  「ほらほら、ちゃんと集中しないと」

  「ん……、ぁ、でも……」

  小さな指はシルファの敏感な蜜肉の入り口で誂うように出ては、侵入するを繰り返す。その応酬の中で時折、筋の上部に隠れていた突起を悪戯に触れられればまるで静電気が全身を駆け巡るように体がびくりと跳ね上がる。

  「んんッ……!」

  「ソレルくんが待ってるよ?」

  シルファが思わず瞑っていた目を開ければ、いつの間にか腕で覆い隠すのをやめていたソレルの目がそこに

  そのソレルの顔は驚いたような表情のまま固まっている。真っ赤に染まった顔、その唇から小さな声が漏れ出るだけで何も言えないようだった。目を奪われる。という言葉がピッタリだと思い、そしてその直後、彼の目を奪っているのが自分自身の恥ずかしい姿だという事に気付いて――。

  「――ッッ!!」

  頭の中が茹で上がるような羞恥心が駆け上る。

  今、私はどんな表情をしていたのか。胸と恥ずかしい所を指でイタズラされて、その気持ちよさにイサネを振り払う事もできないでいる私を見られている。それを理解してしまった瞬間に、お腹の底にミルクポットで溶かした糖蜜を垂らされたような熱さが溢れ出した。

  「んぅ、……ッ」

  「ぁ……っ、しる、ふぁ……っ」

  きゅ、うとイサネの指を強く感じる。ジンジンと腰を打つ痺れるような気持ちよさを感じながらも、シルファはソレルの若茎を撫でる手を優しく再開させる。

  イサネに負けていられないという意地、恥ずかしい所をまじまじと見られたことへの意趣返しとソレルの余裕のない声と表情がもっと見たいという感情が入り混じって、もうソレルの屹立に触ることへの抵抗も忘れ去っていた。

  ぐちゅ、くちゅ、と泡立てた石鹸とシルファの手、そこに溢れる先走りが絡み合う音が波の揺れる合間に響き渡る。

  そうして数分も待つことなく、薄まった精液が一度だけ勢いよくその先端から放たれて、シルファの額に数滴の熱を滴らせていた。

  

  ●

  三人がアッケシの街に戻ってきた。

  帰りの道中は何を話せば良いのか分からず、途切れ途切れにしか会話をしない二人の言葉を吸い取ったように、イサネだけは揚々と喋り続けていたらしい。

  ギルドの報告を済ませた所の三人に声をかけたフェンランは、その様子に嫌な予感を感じざるをえなかった。

  「た、ただいま、パパ。私、先に帰ってるね」

  「お疲れ様です。あ、えっと……僕も帰ります」

  「お、ああ……お疲れだな」

  やはり、二人の様子が明らかにおかしい。

  怪我をしている様子も無いのにやけに他所他所しい態度。そんな微妙な距離感に、フェンランはもう一人そこにいた重要参考人を胡乱な目つきで睨んだ。

  疑いようもなく、そう。狐の娘だ。

  「イサネ。なにしやがった?」

  「親睦を深めるにはさ、裸の付き合いが一番だよねー、っと! なにするの、先輩ー!」

  容赦なく放たれた蹴りを、その間合いの二倍程の距離を取って躱したイサネはフェンランに向けて口を尖らせる。

  「王都で生まれ育っておいて、なんでその貞操観念になるんだ……」

  「まあ、親族ちょいちょい家に招いてるからねー」

  その返事に、フェンランは、大きくため息をついて頭を抱えた。

  定住地を持たず、魔物の蔓延る地で暮らす狩猟民族。それがイサネの血族だ。道の交わりは種の交わりとも言う、野生寄りの倫理感を持っている一族――というより民族ではあるのだが。

  「……お前が揶揄うのは大人だけだと思ってよ。俺の失敗だな」

  「やだなあ。私、揶揄ってないよ?」

  「本当に揶揄ってないなら、簡単に見限れるんだがな」

  イサネはその中でも王都に家を持ったいわば、異端めいた親を持つ娘だ。王都で暮らしているが故に、都会の常識も持ち合わせている――はずなのだが。

  いずれ自分も上級になるから、とフェンランを『先輩』と呼ぶこの狐娘は、何故か彼に対してはその常識という擬態を揺るがせてその本性を垣間見せてくる事がある。

  「先輩に似てシルファちゃんも可愛いですよね」

  「勘弁してくれ。そんで、勘弁してやってくれ」

  「……じゃあ、先輩が代わりに相手してくれます?」

  「勘弁してくれって言ったろ。とっとと監督報告してこい」

  「はーい」

  覗き込むように近づいてきたイサネに再度蹴りを躱されながら、踊るように背を向けたイサネに、もう一度フェンランは嘆息する。

  レタゥサレトコのイサネ。花も恥じらう『はず』の14歳の女の子である。

  その性格は、見た目以上に好戦的。敵わぬほどに気勢を昂らせるリスクジャンキー。

  娘には是非とも彼女を反面教師にしてもらいたい。そう切に願いながら、ギルド職員越しに彼らの依頼達成成果を確認するため、イサネが向かった先に足を向けたのだった。