AdAd
  
猫の妖怪さんと赤茶髪の青年

  扉を開けると、そこには赤茶色の髪をした青年がいた。

  青年は、秋信が町の探索中に知ったブレザーという物を身につけていた。

  姿を見て、秋信はこの来客が人間だということを、再確認した。

  「突然すみません。山に入ったら迷ってしまって。ここ、電波も悪いですし、連絡もできなくて……」

  「……それは大変でしたね。お疲れでしょう?どうぞ上がってください」

  「ありがとうございます!お邪魔します」

  混乱することは多いが、とりあえず青年から話を聞くことにした秋信は、居間へ通し、ちゃぶ台前の座布団に青年を座らせ、お茶の準備をしに、台所へと移動した。

  [newpage]

  (術の効果がきれた?いや、そしたらすぐに気づくはず……つまり、彼が自力で?そんなまさか……というか、何故あんな格好で山に……)

  人間が山で迷わないように、そして自分の元へ来れないように、秋信は術をかけている。

  秋信の元へ来れるのは、山に住んでいる動物、または秋信が信頼している者のみだ。

  [newpage]

  居間へ戻り、秋信は青年にお茶を差し出した。

  「どうぞ」

  「ありがとうございます」

  青年はお茶を一口飲むと、目を丸くした。

  「……あ、口に合いませんでしたか?」

  「いや、その逆です!」

  申し訳なさそうにそう言った秋信の言葉を、青年は慌てて否定した。

  「このお茶、すごく美味しくて、びっくりしたんです」

  そう、真っ直ぐに言う青年からは、嘘は感じられなかった。

  心からそう思っているのだろう。

  「……ありがとう。とても嬉しいよ」

  そんな青年の言葉に、秋信は心が温まり、自然と頬が緩む。

  「これ、どこのお茶なんですか?」

  「家のだよ」

  「えっ?」

  「昔、教えてくれた人がいてね。それ以来、自分でも作るようになったんだよ」

  「すごいですね!」

  青年は、身を乗り出す勢いでそう言う。

  「そ、そうかな?」

  「そうですよ!こんなに美味しいお茶作れるなんて。僕、毎日でも飲みたいですもん」

  「あ、ありがとう。そんなに気に入ってくれて嬉しいよ」

  人間にこんなに褒められるのは久しぶりで、秋信は内心戸惑っていた。

  [newpage]

  「そういえば、自己紹介がまだだったね。僕は……秋信。君は?」

  一瞬、名乗って良いのか迷った秋信だったが、大丈夫だろうと思い、名乗った。

  「植月望です」

  「望くんね。ところで君、その格好、学生さんだよね?」

  「はい、高一です」

  「まさか、学校帰りに、山に?」

  「あー……はい」

  望は、眉を下げてそう答えた。

  「……山は危険なんだよ?そんな気軽に入っていいものじゃない」

  「ごめんなさい。けど、居ても立っても居られなくなって……」

  「?」

  [newpage]

  どういう意味かと秋信が思っていると、望は持っていた鞄から、一冊の本を取り出した。

  「これ、この山の近くにある町の歴史について書かれている本なんです。学校帰りに図書館に寄ったら、この本を見つけて。何となく読んでみたんです……」

  望は、悲しそうに、小さく呟いた。

  (まさか……)

  歴史と聞いて、秋信は嫌な予感がした。

  「今から約二百年程前、あの町がまだ村だった頃、何年経っても老いない猫がいて、その猫は悪妖と呼ばれていたそうです」

  「……」

  秋信は、何も言えなくなった。

  その猫は、正しく自分のことを指しているのだから。

  「そして最終的には、この山に逃げたと書いてありました」

  (逃げたんじゃない……人間達は、僕を……)

  「酷い話だと思ったんです」

  「えっ?」

  その言葉を聞いて、秋信は驚愕した。

  [newpage]

  「だって、老いないって理由だけで悪妖扱いですよ?その猫が何か悪事を働いたっていうならわかりますけど、そんなことはなかったどころか、その猫がいた時、村には良いことだらけだったそうです」

  望は早口で話し続ける。

  「猫がいなくなった途端、その良いことがめっきり減ったんですって……こんなのその猫は悪妖じゃない確定じゃないですか!この本にもそう書いてありました!」

  「ちょ、ちょっと落ち着いて!」

  どんどん話す勢いが増す望を、秋信は静止した。

  「あ……すみません」

  「い、いや……つまり君が山に入った理由って……」

  「その猫に感情移入して、思いのままに山に入ってみたんです!」

  「君はお馬鹿なのかな!?」

  想定外すぎる理由に、秋信はついそう口にした。

  「お馬鹿って……いや、滅多にここまでのことはしないですよ?」

  「ここまでって……どこまでならするの?僕は君のことが心配だよ……」

  そう秋信が言うと、望は口元を抑えて笑っていた。

  「何で笑ってるの?」

  「わ、わからない……けど……っ」

  望は、もう我慢できないとばかりに、声をあげて笑った。

  「……全く……」

  そんな望の様子を見て、秋信もつられて微笑んだ。

  [newpage]

  それから秋信は、近道を使い、望を山の出口近くまで案内した。

  「ほら、あそこを通ったらすぐに町に出れるよ」

  秋信は、道を指差した。

  「ありがとうございました。ん?」

  「?どうしたの?」

  「……また、来てもいいですか?今度は迷いませんから!」

  「……本当かな?まあ、いいよ。いつでも歓迎する」

  「やった!絶対にまた来ます!今日はありがとうございました!」

  「どういたしまして。気をつけてね」

  望は、手を振り、山を出ていく。

  その背を見つめ、秋信は望に、自分と会った記憶を忘れる術をかけた。

  「……ありがとう、望。楽しかったよ。でももう、ここに来ちゃいけないからね」

  そう静かに呟き、秋信は家へと戻っていく。

  望は、先程入っていた山の方を見た。

  「……アキ……?」

AdAd