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夜になり、秋信は今日の出来事を思い返しながら、寝支度を調えていた。
望が山を出た後、自身が術をかけた場所を見返したが、特に異常は見られなかった。
結局、何故望が秋信のもとに来れたのか、判明していない。
「秋信」
庭からキジ猫の声が聞こえ、秋信は障子を開けた。
「こんばんは。どうしたの?」
「こんばんは。聞きたいことがあって」
キジ猫は、縁側に跳び乗った。
「聞きたいこと?」
「今日の事、見てたわ。あの子に、何の術をかけたの?」
「……僕の記憶を消しただけだよ」
秋信は、小さくそう返す。
「何故?せっかく良い関係を築けそうだったのに」
「……妖怪である僕は、人間と関わってはいけないんだよ」
「そんな掟でもあるの?」
「ない、けど……」
「なら何故、そんな事を言うの?」
秋信は俯き、黙った。
「……今日は帰るわ」
キジ猫は、その場から去って行った。
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「ーーすごい!ーーは天才だね!」
子供が誰かを褒める声。
その声の主の姿を確認しようとした瞬間、秋信は目を覚ました。
(……今の夢は、一体……)
夢の内容は曖昧だが、秋信は温かさを感じていた。
(久々に、優しい人間と話したからかな?)
そう思い、秋信は微笑んだ。
身支度を済ませた後。
黒猫が、いつもお腹を空かせてやって来る時間帯になっても、来ないため、秋信が心配していると、黒猫が走ってくる音が聞こえた。
「秋信ー!!」
黒猫は、焦った様子でやって来た。
「大変なんだ!どうしよう、俺のせいで……」
「落ち着いて、何があったの?」
秋信は黒猫の前で膝をつき、優しく訊ねる。
「……俺、木登りに夢中になって、そしたら木から下りれなくなって……そこに人間が来て、俺のいる場所まで登って……俺を抱えた途端、木の枝が折れて……」
「!場所はどこ?」
「こっち!」
事情を聞いた秋信は、すぐに黒猫の後を追った。
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木の根本に気絶している紫色の髪をした青年を見つけ、秋信は容体を確認する。
「秋信、どう……?」
「……うん。これくらいの怪我なら、僕の術で治せるよ」
秋信は、青年の体に手を当て、術を唱えた。
「……これで大丈夫。とりあえず家に運ぼう」
秋信は、青年を背負い、黒猫と共に家へと戻った。
秋信は、いつ青年が起きても大丈夫なよう、人間の姿に化けた。
布団に寝かせている青年の側を、黒猫はうろうろとしている。
「……ん?」
「起きた?体調はどう?」
「あ、えっと、平気です……」
青年は目を覚まし、体を起こした。
黒猫は、青年に飛びかかる。
「うわっ!」
「よかったー!俺のせいでごめんなー!」
当たり前だが、人間である青年には、黒猫の言葉は聞こえない。
「ど、どうしたお前……」
「……この子の鳴き声がして、行ってみたら君が倒れていたんだよ」
怪しまれる訳にはいかないため、なるべく自然な嘘をついた。
「ああ、なるほど。こいつを木から降ろそうとしたら、枝が折れて……あー、だっせぇ……」
青年は黒猫を撫で、そう呟いた。
「……とにかく、助けてくれてありがとうございます」
「こちらこそ。その子を助けてくれてありがとう」
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青年は布団から出ると、秋信が用意した座布団に座った。
「……俺、石塚立っていいます。あんたは?」
「立くんね。僕は、秋信」
「立でいいですよ」
「わかった」
「秋信さん、あんたがあいつの飼い主?」
どう答えるべきか、秋信は悩んだ。実際には、同じ山に住んでいる仲間なのだが、それをこのまま言う訳にもいかない。
「飼い主ではないよ。よくこの庭にあの子が遊びに来るってだけ」
「そうなんですか。こいつ名前とかはないんですか?ずっとこいつ呼びもなんか……」
立は、黒猫を撫でながらそう言った。黒猫は立に、随分懐いたようだ。
「名前!?俺、立に決めてもらいたい!」
そう、黒猫は嬉しそうに言う。
「この子に名前はないんだよね。よかったら、立がつけてくれないかな?この子、随分君に懐いてるみたいだし」
「え……」
立は、黒猫を見つめた。
「……黒いからクロでいいだろ。呼びやすいし」
「クロ!やった!俺の名前〜」
黒猫は、余程嬉しかったのか、ゴロゴロと喉を鳴らしながら、立に体をこすりつけた。
「喜んでるね」
「雑につけましたけどね」
立はそう言うが、クロを見る表情は、とても優しかった。
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あっという間に時間は過ぎ、秋信は、立とクロと共に、山の出口へと向かった。
「そういえば立は、何でこんな朝早くから山に?学校は?」
立は制服を着ていた。しかもその制服に、秋信は見覚えがあった。
「周りの要望通りサボったんすよ。んで、山の入口付近でこいつが木から木へ飛び移りまくってて……心配で後を追ったら、予想通り降りれなくなってたんです」
(……あの木が生えている場所も、本来なら人間は来れないんだけどな……それより立、今……あまり、深くは聞かないでおこう)
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出口付近にたどり着くと、キジ猫の後を追うように、歩いている望がいた。
「!秋信さん!」
(……なんで、覚えて……)
出口付近にいるならまだしも、秋信のことを覚えているのは、あり得ない。
秋信は驚きのあまり、声を出せずにいた。
「えっ……立……?何で秋信さんと……今日、学校来なかったから心配してたんだよ……?」
少し気まずそうに、望は立に話しかける。
「……秋信さん、今日はありがとうございました。クロ、またな」
立は望を無視し、山から出て行った。
呆気にとられ、秋信は立から自身の記憶を消すことを忘れてしまった。
(しまった……いや、それより……今は……)
「……」
望は、とても悲しそうな表情をしていた。秋信は、昨日の元気な望とは正反対の望を見て、放っておくことなど、できなかった。
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