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ヌシ様と龍神様

  5 隕石

  なんか面倒くさくなってきた。

  夏場はライバルも多いし獲物も多い。

  えり好みしてたら一生狩り終わらん気がする。

  やっぱ冬の方が好きだな-。

  冬眠している捕食者が多くてライバルが少ない。

  当然獲物も少なくなるが、地面が真っ白だから見付けやすい。

  

  我は雄大なる翼を傘のようにバサッと開き、悠然と空中に停止する。

  そして胸を反らして両腕を大きく開き天を仰ぐ。

  我は類い稀なる溶岩竜の性質により、周囲の自然物から精気や魔力を吸収することができるのだ。

  冬場はやや扱いづらい能力ではあるが、その気になれば空気中の塵や埃からでも吸い寄せることができるぞ。

  うおお。来た来た-。

  わざわざ酷暑の火山地帯くんだりまでやってきた物好きな者どもの悪意の籠もった精神力にゾクゾクするぞー。

  この憎しみ、目立とう精神、怨念、歪んだ愛。ひん曲がった価値観。

  たまんねーなぁおい。

  

  だが、どうやら欲張りすぎたらしい。

  突然首筋から生温かい吐息をふっと吹きかけられるような、昔から馴染みのあるような、異質な魔力が流れ込んできた。

  もう充分に、無数の溶岩弾として射出し下界を殲滅できるだけの魔力は集まっていたのに。

  一瞬にしてTKOされてしまう。

  別の意味でゾクゾクする~。

  はにゃ~ん、という顔になって余裕で墜落してしまう我なのだった。

  6 鳥籠

  まどろみの中から目を覚ます。

  なんとなく、まだ意識が朦朧としている。

  良い気持ちかもしれぬ、などとふぬけたことを感じながら寝返りを打とうとする。

  そこで、ようやく異変に気づいた。

  両腕がリボンできつく縛られ、胸の前辺りに固定されている。

  ゴージャスな印象の真紅のリボンだ。

  リボン自体は頗る趣味が良いのだが、我のような大型竜を縛るにはこれいかに。

  「むぐっ、ぐぐぐ……」

  驚くことに、口も縛られていた。

  竜特有の細長いマズルを一周させ、鼻先で蝶々結びにしてある。

  この趣味の良さを活かした趣味の悪さには心当たりがある。

  しかし、身体が動かせん。

  両脚も両腕と同様に縛られているようだ。

  なんなら翼までお腹のところでリボン結びだ。

  なんというゲテモノ趣味。

  我を誰かへのプレゼントにでもするつもりなのだろうか。

  しかし、純白の鱗の我に色鮮やかな真っ赤なリボンはとてもよく似合っているな。

  鏡があったら見てみたい。

  今の我はさぞ魅力的なことだろう。

  身体が動かせなくてはどうしようもないので、周囲の景色を観察してみる。

  細長い格子で囲まれているが、牢屋ではない。

  繊細なロココ調の装飾がなされている。

  まるで鳥籠のようだ。

  床にはワインのように紫みの深い赤色の豪勢な絨毯が敷かれている。

  我にお誂え向きの部屋じゃな。

  この待遇、悪くない。

  若干興奮してしまう。

  このようなことをしてくる奴に心当たりはひとつしかない。

  

  背後で、キィーと控えめな金属音が聞こえた。

  誰か入ってきたらしい。

  まだ寝たふりしようかな。

  高鳴る鼓動を抑えて、我は目を閉じる。

  7 管理者

  「ぁぐ……!」

  いきなり後悔した。

  我の首筋に、鋭い牙がぞぶりと突き立てられる。

  口を縛られたままでは、上手いリアクションができぬのが残念だ。

  しかし空気を読んだように、お相手は口のリボンをほどいてくれる。

  「おはよう、リリー」

  やはり、予想通り。

  浅緑の鱗に薄浅葱の鬣。

  目の覚めるような柔らかい黄色の硬質な角。 余裕綽々で優しげな微笑みを浮かべているのは、まごう事なき我ら大型竜族の管理者。

  

  ということは、ここは当然夢の中だろう。

  「おはようございます、龍神様」

  このような挨拶を交わすのはおかしな話なのだが、そうしないと怒られる。

  というか、ここに連れて来られている時点で……。

  首筋の噛み跡から一条、生温かい血が垂れる。

  

  「気分はどうかな?」

  正直言って、最悪だ。

  まだ意識が混沌としている。

  それはそうだ。

  あんな悪意の籠もった魔力を集めるだけ集めておいて、放つ前に気絶してしまったのだから。

  答えあぐねていると、龍神様は我に覆い被さるようになって頬を撫でてくる。

  当然、全部見られていたのだろう。

  答えを待つまでもないといった様子だ。

  しかし、そのように獰猛な敵性生物のように野性的な笑みをされてしまうと、我もオトメになってしまう。

  

  「良くないものが溜まっているな」

  龍神様は両腕両脚のリボンを爪で引き裂いてくれる。

  もう我に完全に抵抗の意志がないことを察したのだろう。

  牙を剥き出しにして、欲望全開といった様子だ。

  真面目くさった世界の管理者が我にだけ見せてくれるその姿に、蕩けてしまいそうだ。

  龍神様は我を抱き起こしてくれるが、胴と翼のリボンは結ばれたままだ。

  自分で自分へのプレゼントを梱包して、自分で開封しているのかな。

  趣味の悪さ、ここに極まれり。

  だが当然、こういう我の心の中だけの暴言も全部筒抜けである。

  火山のヌシである我が火山地帯を好き放題に荒らし回らないように、龍神様とは心と心で繋がれているのだ。

  さしずめ管理者の管理者といったところか。

  とはいえ大型竜族は皆このような扱いだ。

  我だけの龍神様でいてくれればいいのに。

  

  本龍の腕の中で抱かれながら、こんな空想願望妄想に浸っている我も我である。

  龍神様はすっかり興が乗ったという様子で、鼻先を擦りつけてくる。

  我も負けじと、うりうりとお互いのマズルを押し付け合わせて応酬させる。

  ドラゴン同士ならではのやりとりだ。

  いつものように思わず先走って口付けなど交わしたくなる我を制するように、龍神様の猛禽のようにがっしりと大きな手が我の胸元を鷲掴みにする。

  

  「ふぅっ、うぅ……!」

  そのまま龍神様は我の胸を揉みしだき始めた。

  硬い鱗に覆われた鱗をものともせず貫いてくる鋭い爪の感触。

  思わず顔を背けて、よがってしまう。

  しかし下品な喘ぎ声などあげようものなら、どん引きされてしまう。

  嫌われたくなくて我慢している我のそんな様子が、龍神様の悦に入るのだ。多分。

  身体を仰け反らせ快楽に堪える。

  行為はどんどんエスカレートしていく。

  

  「ひぐっ!!」

  そろそろ堪えきれなくなりそうだ、というところで首筋をべろりと舐め上げられた。

  身体全体がびくっ、と震え、情けない声をあげてしまう。

  いつものことだが、こうなると完全に龍神様のペースだ。

  我からも色々としてあげたいのに、年季の違い、経験のなさが浮き彫りになってしまう。 龍神様は、こんな我のことをどうお考えになっているのだろうか。

  先ほどまで調子に乗って心で暴言を吐いていたのに、今となっては御機嫌ばかりが気になってしまう。

  それはそうだ。心と心で繋がれているとは言っても、龍神様が一方的に我の心を読んでいるだけなのだから。

  不公平です、とでも言いたげな我を黙らせるように、龍神様は噛み付くような口付けを交わしてくれる。

  幸福、快楽、羨望、悪意、色々な感情が交じり合い、涙が溢れてしまう。

  ちゅぷちゅぷと濡れた音を立てながら甘噛みしたり舌を絡み合わせ、我を愛でてくれる龍神様。

  恐らく我の中に溜まったままになってしまった悪意の魔力を吸い上げてくれているのだが、それだけならここまでいちゃいちゃしてくれなくてもいいのに。

  冷たい鱗の中の暖かい心が伝わってくるかのようだ。

  我のは思い込みに過ぎぬのだが、実際に心の中を覗けてしまう龍神様は、どんな気持ちでいるのだろう。

  

  せめて幸せであることを伝えるために、腰に手を回して抱き返す。

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