第1話「礼堂家の終わりと友情の始まり」

  [chapter:プロローグ]

  ここはケモノ界、富山県の土井中村。複数の集落で構成された場所だ。

  豊かな自然に囲まれ、のどかな雰囲気が漂う地。子供は自然の中で元気に遊び、成獣は農業を営む。

  そこから車で10分ほど走った所に建つ土井中小学校も、小さいながらにぎやかな場所だ。

  今でこそ平和だが、かつてこの場で恐ろしい事件が起きかけた…

  始まりは、2016年5月のある平日。

  当時、土井中小学校には厄介な児童が在籍していた。

  6年生の狼、[[rb: 礼堂 乃愛> れいどう のあ]]ちゃん。一見愛らしいが、実は意地悪な子だ。

  彼女の楽しみは、周囲の粗探し。教師の目が届かない場所で悪口や陰口を言う。

  対象となった児童は必ず教師に報告したため、彼女はよく叱られた。しかしそれでも全く懲りず、何度も悪口を言った。

  そのせいで不登校になり、最終的に家族と集落を出ていった児童もいる。それは2ヶ月前の出来事だ。

  彼女は心の中で、それを誇っていた。自分が行動すれば嫌な奴を排除できるとわかったからだ。

  (次はもっと過激なやり方で排除させましょう。)

  そう考え、実行に移した。

  [newpage]

  [chapter:乃愛ちゃんの悪事]

  昼休み、乃愛ちゃんは廊下ですれ違った下級生に突然暴言を吐いた。相手はトントンのあだ名で呼ばれる2年生の豚だ。

  「あんたって本当に臭いわね!ちゃんとお風呂に入ってるのかしら?」

  「失礼だな!毎日入ってるよ!」

  「ああ、わかった。生ゴミのお風呂ね。だからそんなに臭いのね。

  私、悪臭は大嫌いなの。生ゴミならさっさと焼いてやるわ!」

  「そんな事言わなくてもいいじゃないか!」

  「へえ、あんたってゴミのくせに動くししゃべるのね。面白ーい!焼いたらどんな声で叫ぶかしら?

  さあ、聞きたいから理科室に行って!あそこにはガスバーナーがあるからね。」

  「おいらは…ゴミじゃなくて豚だ…」

  トントンは泣き始めた。

  「いいえ、あんたはゴミよ。何の価値もない腐った生ゴミ!

  こんなゴミがあると学校が汚くなるわ。だからすぐに処分しないとね。ゴミ。ゴミ。ゴミ…」

  それを聞いているうち、彼は自分がゴミと思えてきた。

  「わかったよ、おいらがゴミなら、今すぐ炎に包まれればいいんだな!」

  「へーえ、物分かりが良くなったじゃない。知能のついたゴミが燃えちゃうなんて惜しいけど、仕方ないわね。」

  涙を流しつつ、理科室へ向かうトントン。乃愛ちゃんは不気味な笑いを浮かべながら後をつけた。

  理科室の扉はちょうど開いている。

  「誰もいないわ。ゴミ処理にはぴったりね。」

  乃愛ちゃんは準備室からロープ(物理の実験用)を持ってくると、ためらいもなくトントンを柱に縛りつけた。彼も無抵抗になり、されるがままだ。

  次に机からガスバーナーを取り、彼に見せた。

  「生ゴミさん…いや、さん付けする価値もない生ゴミ。あんたはもうすぐここから出る炎で焼かれるのよ。どう思うかしら?」

  トントンは何も答えない。

  「アハハハハ!答える知能もなくしたのね。これでもう完璧なゴミだわ。」

  乃愛ちゃんはガスバーナーを運ぼうとしたが、そこで気がついた。それから伸びる線は、トントンまで届かない。

  「面白くないわね!別の物で処理するわ。」

  今度は引き出しからマッチを取り出したが、使用経験があまりないため、なかなか火がつけられない。

  「使いにくいわね!これじゃなかなか処理できないわ!」

  その時、[[rb:鹿島 角太 > かしま かくた]]先生(鹿)が入ってきた。彼は理科の道具を低学年の授業で使用するため、運び出していた所だった。

  「お、おい!何をしてるんだ!今すぐやめろ!」

  鹿島先生は慌てて乃愛ちゃんを押さえつけ、マッチ箱を奪い取った。

  「何をするつもりだったんだ!正直に言え!」

  「生ゴミの処理よ。」

  「何だって!? 君は下級生を生ゴミ呼ばわりして、焼き殺すつもりだったんだな!

  これは実に許しがたい行為だ。君の親御さんに連絡しなくては!」

  それからロープをほどくと、解放されたトントンは大声で泣き出した。

  「うわーん!助けてくれてありがとうございます…おいら、本当はすごく怖かった!もうちょっとで丸焼きにされる所だったんです!」

  「さあ、もう大丈夫だ。教室に戻りな。」

  [newpage]

  [chapter:歪んだ正義]

  その後、乃愛ちゃんはすべての教師と呼び出された両親、トントンの両親によって叱られた。

  「よくもうちの子を焼き殺そうとしたわね!」

  「まったく許せない。狂ってるとしか思えないよ!」

  「あんたをそんな子に育てた覚えはないわ!どうしてこんな風になっちゃったのよ!」

  「もうお前とは縁を切りたいぐらいだ!先祖のためにもそれがいいだろう。」

  教室には怒号が轟いたが、彼女は反省の意を見せない。

  「なんで私をそんなに怒るの?あんな悪臭を放つゴミ、焼却処分するべきじゃない!

  でも誰もそうしようとしないから、私がしてあげる所だったのよ。感謝して欲しいぐらいね!」

  この発言は、一同(特にトントンの両親)の神経を逆なでした。

  「この極悪娘!俺たちの可愛い息子がゴミにしか見えないなんて、目玉の代わりに腐った卵でもはまってるんじゃないのか!?」

  「冗談抜きに今すぐあんたをぶっ殺してやりたいわ!なんでこの部屋にはガソリンがないのかしら!」

  暴言を聞きながら、乃愛ちゃんは考えていた。

  (まったく、あんなゴミのどこが可愛いんだか!狂ってるのはあんたたちよ。

  ここまで話のわからない奴ばかりだとは思わなかった。私は正義だから絶対に謝らないわ!)

  どれほど叱っても謝罪がないため、乃愛ちゃんの両親が代わりに土下座して謝った。

  それから、彼女は両親と共に車で帰宅した。

  「さあ、あんたは部屋に閉じこもってなさい!しばらく顔も見たくないわ。」

  「もうお前はうちの子じゃない!うちに殺し屋は必要ないぞ!」

  「殺し屋なんて失礼ね。ゴミ処理班と呼んで。」

  「なんでもいいから、閉じこもってて!」

  「わかったわよ!」

  乃愛ちゃんは自室のドアを勢いよく閉じると、狂ったように叫んで暴れ始めた。

  「ああーっ!ウギャーッ!私は正義なのに!嫌な奴を排除しようとしただけなのに!」

  それに疲れると、ベッドに顔をうずめて泣き出した。

  「この正義をわかってくれる相手はいないのかしら…もしいたら私に手を貸して…」

  乃愛ちゃんは「単なる意地悪な子」ではなく「自分が正義と信じ込んでいるサイコパス」と化していた。

  その時、彼女の耳に声が聞こえた。

  「それなら貸してやろうじゃないか。さあ、恐れずにこっちへおいで…」

  [newpage]

  [chapter:消えた乃愛ちゃん]

  数時間後。母親が夕食をトレーに乗せ、部屋に運んできた。

  「食事よ。あんたはここで食べなさい。

  …あら?どこへ行ったのよ!」

  乃愛ちゃんの姿が見えない。

  「隠れてもごまかせないわ。」

  クローゼットの中やベッドの下、机の下…部屋中を探すが、どこにもいない。母親は不安を覚えた。

  「あなた、ちょっと来て!」

  「どうしたんだ?」

  「乃愛が消えちゃったのよ!そっちに来てない?」

  「いや、知らないぞ。」

  「逃げちゃったんじゃないかしら…あんな考えに染まった子が逃げたら!」

  「そうだ、一大事だ!」

  慌てて玄関へ走ったが、乃愛ちゃんの靴は残っており、鍵もかかっている。

  ランドセルも調べたが、鍵は定位置に入っていた。彼女が持っている鍵はこの1つだけだ。

  家中の窓も調べたが、鍵が開けられた形跡はなく、割れてもいない。

  「ここまで探してもいないなんて…」

  「今日は来客もなかったし、乃愛を連れて帰った後も俺たちは外出していない。つまりドアは開いていない事になる。」

  「じゃあ、まだこの家にいるの!? 見つけて捕まえないと!」

  30分後。

  「これだけ探しても…見つからないなんて…」

  「本当に…どこへ行ったのかしら…」

  礼堂夫妻は疲れ果てていた。床下収納庫や天井裏、段ボールの1つ1つに至るまで探したが、乃愛ちゃんは見つからなかった。

  「警察を呼ぼうかしら?」

  「そうね。信じてくれるかどうかわからないけど、一応やってみましょう。」

  妻は電話をかけた。

  「はい、こちら警察です。どうなさいましたか?」

  「うちの娘が突然消えてしまったんです!私たちの大切な1匹娘が…」

  あまり事を広げたくないため、乃愛ちゃんによる殺害未遂には触れなかった。

  それから数日間、警察官による捜索が行われた。

  複数の集落全体はもちろん、森や山、川底まで探したが手掛かりは見つからない。

  ついに警察も諦め、失踪事件は迷宮入りとなった。

  「まあ、これで良かったんじゃないかな。」

  「そうね。ここまでやって見つからないなら、乃愛は消えちゃったのよ。信じられないけどそうとしか思えない。」

  「あいつがまだいたら、事件が起こりかねないからな。誰も殺さないうちに消えて良かった。」

  「もう私たちは平和に暮らせるわね。」

  しかし、その考えは間違いだった…

  [newpage]

  [chapter:村八分]

  捜査打ち切りの翌日、隣の集落に住む栗田夫妻(シマリスの老夫婦)が野菜を売りに来た。

  ところが様子がおかしい。普段はすべての家を周るが、今日は礼堂家を通り過ぎていく。

  夫は慌てて追いかけ、尋ねた。

  「あれ、どうしたんですか?素通りするなんて…」

  すると、栗田夫妻はこちらを睨みつけた。

  「話は聞いたぞ。あんな子を育てた親に、野菜は売れないな。」

  「もうあんたたちはうちの客として見ないわ。」

  「そ、そんな!私はあのように育てた覚えはありません。どういうわけか娘はねじれた心になってしまい…」

  「それを知っていながら娘を止めなかったお前らにも責任はあるじゃろう。」

  「私と妻は何度も叱りました。しかしまったく反省しなかったのです!」

  「言い訳は無用じゃ!もうお前らは村を出ていくといい!」

  「さようなら、殺し屋の親御さん。」

  礼堂夫妻はショックを受けた。これまでにこやかだった栗田夫妻が変わり果ててしまったからだ。

  久々に村を出歩くと、住民たちに白い目で見られたり、暴言を吐かれる。

  捜索がすべての集落で行われた事と、トントンが周囲に事情を話した事が重なり、乃愛ちゃんの悪事は短時間で村全体に知れ渡っていた。乃愛ちゃんが消えた今、その矛先は親に向いている。

  事件のほとぼりが冷めるまで夫妻は引きこもっていたため、それを初めて知った。

  また引きこもりに戻ったが、いつまでもそうするわけにはいかない。

  「どうしよう…どこかに引っ越すか…」

  「でもそんなお金、すぐに用意できないわ。」

  「それに俺たちの親はみんな死んだし、親戚もいない。つまりもう頼れる相手はないに等しい。」

  だがもうここで暮らすのは耐えられない。いったいどうすれば…」

  「じゃあこれはどう?」

  妻は夫に耳打ちをした。

  「そうか、それしか残ってないな…俺たちがここからいなくなれば、この村は本当の意味で平和になるだろう。」

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  [chapter:礼堂家の終わり]

  翌朝早く、夫妻は家を出た。まだ眠っている住民も多いため、目にはつかない。

  「今朝は一段と爽やかだな。」

  「こんな景色が最後に見られて良かったわ。」

  「乃愛が幼い頃は楽しかったな。」

  「ええ。散歩したり、川で遊んだり…」

  「屈託なく笑う乃愛は、本当に可愛かった。あの笑顔は本当に癒されたよ。」

  「それがどうしてあんな子に…」

  「あの時からやり直せれば…」

  「そう思っても、それは不可能よね…」

  「まあいい。もうすぐ何も考えなくて良くなるからな…」

  2匹は目に涙を浮かべ、思い出を語りながら森の奥へ入っていった。住民が誰も立ち入らないほど奥へ…

  その後、礼堂夫妻を見かけた者はいない。

  嫌いな相手を排除しようと考えていた乃愛ちゃんは、結果的に自分の親を排除してしまった…

  [newpage]

  [chapter:追い詰められるトントン]

  ここからはトントンの話。

  あれ以来、彼は極度の怖がりとなった。これまで安全と信じていた場所で殺されかけたから当然だ。

  「乃愛ちゃんが消えた」と聞いても、恐怖は消えなかった。

  (突然消えたなら、ワープの力を身に着けたのかもしれない。もしおいらの家にワープしてきたらどうしよう?)

  そう考えると恐ろしくてたまらず、なかなか眠れない日々が続いた。

  その夜、彼は尿意を感じて目覚めた。

  (トイレ行かなくちゃ…でも怖いな…)

  しばらく布団の中で悩んでいたが、やがて恐る恐る廊下へ。手探りで電気のスイッチを探す。

  (ああ、ここだ。)

  スイッチを押した瞬間、彼の体が突然宙に浮かんだ。

  「えっ!?」

  次の瞬間、照明がついた。しかし電球ではなく、ランプのようにぼんやりとした灯りだ。

  トントンはロープで縛られ、宙づりになっている。あのスイッチがロープにつながっていたようだ。

  (どうしてこんなスイッチが…それにこの不気味な灯りは何だろう…)

  考えていると、廊下の奥から足音が近づいてきた。

  「嘘だろ!? お前は…」

  その正体は乃愛ちゃんだった。灯りに照らされ、より不気味に見える。

  「アハハハハ!簡単に引っかかったわね。もう逃がさないわよ。

  さあ、今すぐ焼かないと。これを使えば確実だわ。」

  彼女は火炎放射器を取り出し、スイッチを入れた。

  「ギャァァァァァァーッ!!!!!」

  「あーら、予想以上にすごい声ね!こんなに叫ぶ生ゴミって、本当に面白いわ!」

  トントンは慌てて身を起こした。

  「助けてーっ…あ、あれ?夢か…」

  彼は布団に入っていた。外は朝日に照らされ、下半身が冷たくなっている。

  「ああ、これで1週間連続だ…」

  殺されかけた翌日から、彼は毎朝おねしょをするようになった。ちなみにそれ以前は月に1回するかどうかの頻度だった。

  「まあ、またおねしょしたの?」

  「だって、夜のトイレが怖くて…ドアの向こうに乃愛ちゃんが立っていそうな気がするんだ…」

  「あんな思いをしたから仕方ないけど、トイレにはしっかり行かないとだめよ!」

  母親にも呆れられ、彼はみじめな気持ちになった。

  (おいらは何も悪くない。悪いのは全部乃愛だ!

  しかし、あいつの家族は蒸発してしまったらしいから、責めようと思ってももうできないぜ…)

  学校でも元気がなくなり、休み時間は常に暗い表情で座り込むようになった。

  「なあトントン、ボールで遊ぼうぜ!」

  「いや、そんな気分じゃない。休み時間は不用意に出歩きたくないんだ。

  ここから出歩けば、また襲われそうな気がしてさ…」

  クラスメイトが遊びに誘っても断るばかり。そのため、彼はクラスの中で孤立していった。

  [newpage]

  [chapter:救いの手]

  「あれじゃあの子がかわいそうだ。何とかしよう、穴太郎。」

  「おう、川助!」

  数日後の放課後、2匹の4年生が低学年の教室を覗いていた。アナグマの穴太郎(トントンほどではないが太っている)とカワウソの川助(ぽっちゃり体型)だ。

  この2匹は仲が良く、お互いに上記のあだ名で呼び合っている。家も近いため、毎日一緒に遊んでいる。

  穴太郎は元気が良く、考えるより先に体が動くタイプ。遊びの中ではリーダーとなる。

  川助は思慮深く、しっかり考えてから行動するタイプ。周囲にもよく目を配っている。

  トントンと絡んだ事はあまりないが、同じ集落の住民とは知っている。そのため彼の元気を取り戻そうとひそかに考えていた。

  2匹は教室のドアを開けた。

  「よう、トントン!」

  「ぼくたちと一緒に遊ばない?」

  「やめろ!どうせおいらを丸焼きにするつもりだろ!もう上の学年の奴とは関わりたくないんだ!」

  クラスメイトとの遊びも断るようになったため、あまり絡んでいない児童は初めから疑っているようだ。

  「大丈夫、そんな残酷な事はしないよ。自然の中で楽しく遊びたいんだ。」

  「学校終わったら、俺んちに集合な!だって俺たち、この学校じゃ珍しくみんな家が近いだろ?」

  「へえ、おいらの事知ってるのか?それなら遊んでみてもいいかもな…」

  下校からしばらくすると、川助が訪ねてきた。

  「こんにちは、トントン。穴太郎の所まで案内するよ。」

  「ああ、こんにちは…って靴はどうした?」

  「ぼくと穴太郎は、この辺りで遊ぶ時は裸足になるんだ。トントンもやってみな!」

  「でも、そうすると母ちゃんに怒られる…」

  すると、母親が背後に現れた。

  「今日は思いっきり裸足で遊びなさい。そうすればきっと気分が変わるはずよ。

  家に入る前にちゃんと洗えば大丈夫よ。さあ、楽しんできて。」

  「母ちゃん…ありがとな!」

  母親の態度が変わったため、トントンの心は少し楽になった。

  川助の後について行くと、大きな和風家屋の前に出た。平屋建てだが、相当な広さだ。

  「ここが穴太郎の家。この集落で一番大きいんだ。」

  「すげえ…遠くから見てもでかい家とは思ってたけど、近づくとさらにすごいぜ…」

  インターフォンを押してしばらく経つと、穴太郎が出てきた。

  「おお、連れてきたか。さあ、遊びに出かけるぞ!」

  3匹は集落を抜け、森の中へ。

  森を駆け回ったり、小川で水浴びをしたり、虫を探して1日を過ごした。

  「ああ、今日は楽しかったぜ!おいら、こんな明るい気分になれたのは久々だ!」

  夕暮れの中を帰る3匹。トントンの表情は特に輝いていた。

  「良かったな、トントン。誘った甲斐があったな。」

  「また遊びたくなったら、いつでも言ってね。」

  「穴太郎、川助、もちろんだぜ!」

  この日からトントンは少しずつ元気を取り戻し、以前のような明るい性格に戻っていった。

  毎朝のおねしょは治らなかったが、やがてそれも個性として受け入れ始めた。

  夏休みになると、毎日のように穴太郎や川助と遊んだ。様々な会話を楽しむうち、その2匹もおねしょが治らないと知った。

  「やっぱりおいらたち、仲間だな!」

  「そうだな。でも恥ずかしいから、他のみんなには内緒だぜ。」

  「もちろん!せっかく友達ができたんだから、この友情は大切にするぞ!」

  [newpage]

  [chapter:宝探しへ出発]

  夏休み開始から1週間後、穴太郎が提案した。

  「今日は遠くの森へ宝探しに行こうぜ!まだ行った事のない場所さ。」

  「へえ、どんな宝だ?」

  「最近あの森によくカラスが飛んでいくだろ?きっとカラスが宝の番をしてるんだ。」

  「図鑑で読んだ事がある。カラスは光る物が好きだって。」

  「すごいじゃないか!そんな話初めて聞いたぞ!」

  「さあ、出発だ!みんな、俺について来い!」

  3匹は森に入った。

  「どんな宝が待ってるか楽しみだぜ!」

  「光る物だから、ダイヤモンドの山?それとも小判かな?」

  「宝石や真珠かもしれないぞ。見つかったらみんなで山分けしようぜ!」

  胸を躍らせながら歩くうち、周囲に木が増えてきた。

  「だいぶ奥まで来たな。そろそろ宝のありかに着くんじゃないか?」

  「いや、もっと奥だ!川助、トントン、行くぞ!」

  その時、トントンの耳に何かが聞こえた。

  「みんな、待って!何か聞こえるぞ。子供が泣いてるような声だ…」

  「そうだ、確かに聞こえる…」

  「もしかして迷子かもしれない!宝は後回しだ!」

  穴太郎の合図で、3匹は声の方へ向かった。

  [newpage]

  [chapter:迷子を救出]

  「あそこだ!」

  そこには野うさぎの男の子が座り込み、泣いていた。トントンよりも年下で、丸々と太っており、腹掛け1枚のみ着けている。

  「おい、大丈夫か!?」

  「ぼくたちが助けに来たよ!」

  「もう安心していいぜ!」

  野うさぎは号泣しながら、穴太郎に抱きついた。

  「助かったー!もう助けが来ないかと思ったよー!」

  「君はなんでここにいるんだ?」

  「1匹で探検ごっこをしていたら、いつの間にか知らない所まで来ちゃったんだ。帰り道もわからなくなって…」

  「俺たちは森から出る道を覚えてる。森の外まで送ってあげるぜ。」

  「ありがとう、お兄ちゃんたち…」

  3匹は野うさぎを連れて、道を戻った。川助が優しく語り掛け、彼の気持ちを落ち着かせる。

  「君に友達はいないの?」

  「ぼくはまだ5歳だから、学校には行ってない。家の近くにも子供はいないんだ。

  お父さんもお母さんも毎日働いてるから、よくおばあちゃんに預けられてる。今日はおばあちゃんに用事があるからぼくだけで遊んでたんだ。

  それに飽きたから友達が欲しくて、森に入れば見つかると思ったけど迷子になっちゃった…」

  「じゃあ、今日からぼくたちが友達だ!今は学校が休みだから、毎日一緒に遊べるよ。」

  「ほんと?」

  「うん。君がどこに住んでるかによるけどね。」

  トントンも尋ねた。

  「君はいつも腹掛け1枚なのか?」

  「夏はね。それ以外の季節は和服だよ。」

  「へえ、今時珍しいな。」

  「そっちの方が好きなんだ。腹掛けだって涼しくて気持ちいいから大好き!」

  「そうか、涼しいのか…じゃあおいらも今度からふんどし1枚で過ごそうかな?」

  歩き続けるうち、周囲が明るくなってきた。

  「もうすぐ森を抜けられるよ!」

  「あと少しで帰れるはずだぜ!」

  「やったー!わーい!」

  野うさぎは喜んで跳ね回った。腹掛けがまくれてもお構いなしだ。

  その時、穴太郎が得意げに言った。

  「よし、思いついた!」

  「何を?」

  「こいつのあだ名さ。ぴょんぴょん跳ねてるから『ぴょん太』にしよう!

  お前、このあだ名気に入ったか?」

  「うん、とっても!」

  「ぴょん太、よろしくな!」

  [newpage]

  [chapter:友情の始まり]

  自己紹介を続けるうち、穴太郎たちが住む集落に戻ってきた。

  「ここが俺たちの集落。君を知ってる住民がいないか聞いて…」

  その時、ぴょん太が叫んだ。

  「あ、ぼくの家だ!あそこだよ!」

  「えっ、ぴょん太もここに住んでたのか?

  でも俺たちの家からはずいぶん離れてるな。だからお互いに知らなかったのか。」

  「それでも同じ集落だから、気軽に会えるね。」

  「もう十分友達になったからな。明日も一緒に遊ぼうぜ!」

  「うん!みんな今日はありがとう!それじゃ!」

  元気を取り戻したぴょん太は、自宅まで走っていった。太った体からは想像もつかない速さだ。

  「あいつ、本当に元気だな。俺はあんなに速く走れないな…」

  「明日はぴょん太も一緒にして、宝を探しに行く?」

  「いや、もうおいらたちは宝を見つけたじゃないか。それは新しい友達。

  おいらたちにとっては、それが一番の宝物だと思う。ダイヤモンドや小判なんかよりずっといい物だ!」

  「トントン、お前いい事言うなあ!俺もそう思えてきたぜ。」

  「もう宝探しはおしまいだね。明日はみんなで虫取りに行こう。」

  「でっかいカブトムシを捕まえて、ぴょん太をびっくりさせてやるぜ!」

  3匹は会話を楽しみながら、それぞれの家に帰った。

  その翌日からぴょん太も加わり、4匹で毎日遊ぶようになった。彼らの友情はここから始まった。

  [newpage]

  [chapter:エピローグ]

  宝探しを終わらせた事は、3匹にとって正解だったかもしれない。

  カラスにとっての宝は、確かに存在していた。しかし光る物ではない。

  その正体は、骨の山だった。今ではカラスや虫に食い荒らされほとんどなくなっているが、所々に肉片が付着している。

  近くには睡眠薬の瓶が転がり、横にはメモが落ちていた。

  「カラスの皆さんと虫の皆さんへ

  読めないとはわかっていますが、一応メモを用意します。

  2匹のはみ出し者です。ご自由にお食べください。

  私たちが役に立てる事は、もうこれだけです。」

  もし3匹がこれを目にしていたら、恐怖で眠れない日々が続いただろう…

  さて、すべての元凶である乃愛ちゃんはどこへ消えてしまったか…

  その話は、別の機会に。

  [chapter:おしまい]