アニエスの憂鬱

  最近HeroTVの視聴率がすこぶる悪い。

  アポロンメディアのコンビ二人が二部で大っぴらに放送できないせいもあるが、時折ふと感じてしまうのはマーベリックの影。望んではいけないと分かっているが、何気にマーベリックがHeroTVを盛り上げるために暗

  躍していたことを、本人がいなくなって肌で感じる。約二年その状態が続いているのだから、マーベリックの恩恵にあずかっていたのだと、自覚するしかない、認めたくないところだけど。だからと言って、マーベリックのように正体不明の組織や罪を犯してのうのうとしている犯罪者などとは間違っても手を組みたくはない。そんなことをしてしまえば本末転倒。転落まで一直線だ。マーベリックは手を出してはいけない境界線を越えてしまった。だから失敗した。

  間違ってもマーベリックの二の舞はしたくない。けれど視聴率は欲しい。

  マーベリック事件のマーベリックの罪を暴いた瞬間が、一番の高視聴率だったから、そこまでとは言わないが、せめてジェイク事件並みの……バーナビーデビュー時の視聴率は欲しいが、そこまで視聴率が取れるネタがない。何気に暴れまわってくれるコンビもいないし。

  そんなアニエスの眼にあるニュースが飛び込んできた。

  有名な俳優の結婚式の様子だった。

  この俳優が出れば、どんなドラマも映画も間違いなくHITする――そんな演技力も人気もある俳優。

  今回の結婚は当然のことながら一騒動あった。

  独身男だから獲得できる人気は、人のものになってしまった瞬間色あせる。

  だが、この俳優の問題はそこではなかった。一部の女性や多くの男性には受け入れられなかったようだが、ある意味人気は鰻登りとなった。何故ならお相手は、よくドラマなどで相棒やライバルになるほぼ同程度の人気を博する男性俳優だったためだった。

  女性というのは、人の――他の女のものになると思えば嫉妬もするし、その場所を自分のものにしたくなるらしいが、相手が男だと別のスイッチが入るようだ。

  小耳にはさんだ話、男性も好きな女性アイドルが人のものになるのは許せないが、女性同士でいちゃついているのOKとも……。

  アニエスの眼が輝いた。

  HeroTVはショウである。

  ショウということは本当のことじゃなくてもいいのだ。ちょっとしたイベントなのだ。

  だから……。

  「は? 結婚? 誰と誰がですか?」

  バーナビーが問う。

  「だから言ったでしょ? アンタとタイガー、スカイハイと折紙、ロックバイソンとファイヤーエンブレム、キッド&ローズよ」

  「おまえなぁ~。何言ってんだよ。結婚なんてできるわけ……」

  「振りよ振りっ! お芝居っ! 次に犯人が現れたら順次、やっていくからっ! ロックバイソンとファイヤーエンブレム、どっちかが花嫁衣装着て、先に登場、犯人ともみ合って、そこに颯爽とお婿さん登場っ! 犯人確保して、婚姻届に二人でサイン。他のヒーローたちが祝福するのっ! いけるっ! いけるわっ!」

  「ちょっ! なんて美味しい話なのよっ」

  「なっ! 俺はそんな衣装着ないからなっ!」

  「着るのっ! それともポイント要らないの」

  「お、おい……」

  「次がローズとキッド、二人とも花嫁衣装でいいわね。次がスカイハイと折紙。最後にタイガーとバーナビーよ。あんたたちの場合、一部復帰イベントでもあるから、気合入れて息なさいっ」

  「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ?」

  「あ、婚姻届は本物使うから、間違って役所に出さないでね。受理されちゃうわよ」

  そういって、アニエスは去って行った。

  果たして……タイガーとバーナビーはシュテルンビルト市民が見守る中、市役所に婚姻届を提出したのである。

  因みに、後日スカイハイが誤って婚姻届を市役所に提出してしまったが、こちらは受理されなかった。だって、本名じゃなかったから。

  「お、俺もヒーロー名書いときゃよかったっ!」

  タイガーの叫び声が響いたが、恐らく提出する場で書き直しさせられただろうことは、聞いていた全員の胸に仕舞われた。

  「バーナビー、ずるいっ!」

  そう叫んだのは、女子組か、果たして、実の娘か……。

  最後に。

  ファイヤーエンブレムとロックバイソンのものは、その場で焼却された。

  「ふぅ、危なかった」

  この後、婚姻届を持って再縁を求めるファイヤーエンブレムVS逃げまくるロックバイソンの様子や、「実家に帰る」発言をするバーナビーや「俺の実家に帰ってどうするんだよっ!」と叫ぶタイガーの様子が番組を盛り上げたとか……。

  それが演出かどうかはアニエスのみ知っている。

  END.