ウロボロスは壊滅した。
一時バディを解消していた虎徹とバーナビーだったが、本気と本音のすったもんだの殴り合いと話し合いの末、元の鞘に収まった。他のヒーローたちが今までのいざこざは何だったのかと思わず突っ込むと、
「時には本気でぶつからないとマンネリ化してしまいますから」
「そうそう。たまには本音言い合うのもいいもんだぜ。これで俺とバニーちゃんの絆は更に強くなったんだからさ」
「僕も虎徹さんと同じことを考えていました。絆が深まった僕たちは今まで以上に最強のヒーローコンビです」
「だよなっ!」
以前と変わりなく…以前よりもデレデレ度が増した。
だが、ヒーローコンビが復活しようと、諸悪の根元が根絶やしにされようと、破壊された街は元には戻らない。焦土と化したシュテルンビルトの中心で、ヒーローたちはここから始めようと誓った。誰も何も言わないが、全員がここにいるヒーローたちとなら力を合わせてやっていけると心から信じていた。幾多の苦難を共に乗り越えたこのメンバーだからこそ、信じられた。
同じシュテルンビルトのヒーローだが…だったと過去形で言うべき男とは違う。
誰かがちらりとライアンを見る。全員がその目線につられ、ライアンに目を向けた。
脱け殻のように座り込んでいるライアンを、誰もが声もなく敵を見る冷たく険しい視線で見つめる。
だが一人だけ違う視線を向けるヒーローがいた。
彼はライアンにゆっくりと近づくとしゃがみこんで、ライアンに目線を合わせた。
「なんでこんなことをしたんだ?」
彼は問う。まるでドラマの中で少年課の刑事が非行に走った少年に問い掛けるが如く、優しい目を向けて…。無力化しているとはいえ敵だった相手に無防備に近づく虎徹を止めようとしたバーナビーだったが、ロックバイソンに制止された。他のヒーローもバーナビーに「タイガー/タイガーさん/ワイルドくんに全てを委ねよう」と視線で訴えてくる。
感情のまま動こうとしていたバーナビーだったが、他のヒーローが見守る体勢に入ったので、それに倣った。見守る体勢とは即ち何かあれば飛び出せる体勢だからだ。ヒーローたちはワイルドタイガーを信じていても、ライアンは信じていなかった。
だがそれは杞憂に終わった。
ウロボロスには裏切られ、ヒーローとしての信用も失い絶望していた中で差し伸べられた手…ライアンは敵として闘っていた相手であるのに、他の市民と同じように救おうとしてくれている。
ワイルドタイガーの視線の意味をライアンは理解した。ヒーローに憧れて、HeroTVを食い入るように見続けてきたライアンだからこそわかる。ワイルドタイガーの慈愛―真のヒーローの姿だった。ライアンの目から涙がこぼれ落ちた。
ワイルドタイガーにライアンがすがり付き、瞬時に動いたバーナビーをファイヤーエンブレムが制止した。
「俺だって…本気でヒーロー目指してたんだ…」
ライアンがポツリと本音を溢した。
[newpage]「だからヒーローアカデミーに入学したんだ…」
「ねぇ…ヒーローアカデミーってシュテルンビルト以外にもあるの?」
「いえ、ヒーローアカデミーはシュテルンビルトにしかありません。分校を作る計画もあるようですが、他の地域や国はシュテルンビルトのようにネクストには優しくないらしくて難しいようです」
「ヒーローは他のとこも職業としてあるとこはあるわ。けどね、決して環境が整っているじゃないのよ。シュテルンビルトで成功したから試しに、って感じよ」
「そう考えるとマーベリックの野郎のしてきたことは正しかったって思えるな…」
「どんなに正しくたって、犯罪を許しちゃダメでしょ!タイガーだって、よく言ってるじゃない。ヒーローっての平和が守れればいいんだっ、て……ちょっと!何見て笑ってるのよっ!」
「失礼。ブルーローズ先輩が可愛いと思ってしまって…一応堪えていたんですけど」
「なのに、卒業を控えて就職しようとしたら…『来シーズンから七大企業に独占されるから…』って…」
「え?」
「それって…?」
「七大企業にツテなんてないから、一般で入社しようとしたんスけど…敷居が高くて…全滅して…」
「そういえば、アタシ一般公募しなかったわね」
「うちはアイドルヒーローがいるから、下手に男のヒーローは雇えないって言ってたような気が…」
「え?何の話だい?」
「バーナビーがデビューした時の雇用状況の話だ。俺のとこは…もしかして、あれがそうだったのか…?」
「何か思い出したんですか?」
「……。『食えない』」
「え?」
「『食えないヒーローは雇えない』、だった」
「え…?」
「あぁ。バイソンくんは牛だから美味しく食べられるね」
「や、やっぱりそういう意味だったのか?」
「うん。牛肉って美味しいよね」
「ミルクも牛が一般的ですよね」
「うん。ミートもミルクも牛が一番さっ」
「じゃあバイソンちゃんはアタシが食べてあげる」
「うわっ」
「ヒーロー諦めて就職したら…就職活動してなかったやつがいきなり顔出しヒーローデビューして…」
「もしかして、僕ですか?」
「あ~…」
「悔しいから、ヒーローの仕事ができる場所で心機一転したんです。けど…」
「ねぇ…他のとこって、そんなに酷いの?」
「未だネクスト差別が当たり前なとこでもあるのよ。なのに、ヒーローという職業があるとこもあるの。矛盾もいいところね」
「風の噂でシュテルンビルトがヒーロー募集してるって聞いて、速攻で飛び付いたんです…けど…」
タイガーをつかんでいるライアンの手に力がこもる。
「そこがアポロンメディアで…よりにもよって、バーナビーがいるところで…」
全員の視線がバーナビーに向けられた。
「あいつが…あいつが…『はじめまして』なんて言わなけりゃあ!」
バーナビーの脳裏にアポロンメディアの社長室でライアンと会った時のことがよぎる。
「確かに言いましたよ。『はじめまして』って」
「同窓で! クラスメートで! 隣に机が並んでたことも、体育でペアを組んだこともある、この俺に『はじめまして』って!」
沈黙
「え…?」
「髪の色も目の色も、髪型すら変えてないのに『はじめまして』ですよ! 『はじめまして』! 酷くないですか? 話だって何度もしたはずなのに『はじめまして』ですよ! 初めてじゃないのに『はじめまして』です! 昔の話を持ち出したって『何で知ってるんですか?』って驚くのは一瞬で、直ぐに『まぁ、僕は有名人ですから、どこかで言ったのを覚えていてくれたんですね』って納得して終了ですよ! こっちが納得いくかっ!」
その後、ライアンは延々とバーナビーとの間にあったことを全て語ったため、ヒーローのバーナビーへの風当たりが冷たいものになってしまったのは言うまでもない。
一方ライアンは
「だからって犯罪に走っちゃダメだろ」とワイルドに一撃を食らった後に警察の手に委ねられ護送されていった。
「あの頃、僕はウロボロスで頭がいっぱいだったんです」
というバーナビーの言い分が有効だったかは、ワイルドタイガーのヒーロー魂のみぞ知る。
End