第34話「びっくり!スーパーVRシアター」

  [chapter:プロローグ]

  意外と早くここまで進んだ。さあ、早速始めよう…

  カチッ

  ブゥーン…

  ピッ ピッ ピッ…

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  読み込みが完了しました

  これでよし。ついに夢が叶った…

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  [chapter:違和感]

  ここはケモノ界のさいたま市大上区。

  太ったシマリスの栗田 永雄くん(小学4年生)は、ベッドの中で目覚めた。普段通りの朝だが、何か違和感を覚えた。

  (何だろう、何かおかしいような…気のせいかな?)

  カーテンを開けて窓の外を見るが、特に変わった所は見えない。

  室内を見渡すと、壁のカレンダーが目に入った。

  (あれ、もう9月だっけ?まだ3月だと思っていたのに…時間が経つのは早いな。

  でも…あれ?春から夏の出来事が思い出せない…なんでだろう。)

  疑問を覚えながら朝の支度を済ませ、1階のダイニングテーブルへ。両親も席についていた。

  栗田くんはトーストをかじりながら、両親に尋ねた。

  「ねえ、今年の夏休みって何したっけ?なぜか突然思い出せなくなって…」

  「どうしたんだ?今年の夏は旅行に行ったじゃないか。ほら、これがその写真だ。」

  父親はスマートフォンの画面を見せた。海ではしゃぐ栗田くんが映っている。

  「まだあるぞ。」

  山を登る栗田くん、観覧車から景色を眺める栗田くん、夏祭りでチョコバナナを手にした栗田くん…

  それを見るうち、記憶がよみがえってきた。確かに夏は様々な場所に出かけていた。

  「ありがとう、思い出せたよ。またいろいろ行こうね!」

  すると、両親の表情が落ち込んだ。

  「悪いな、永雄。もううちの家族で旅行に行くつもりはないんだ…」

  「そうよ。今年の夏はいろんな場所を周ったから、疲れてたまらなかった…

  楽しんでいた永雄には悪いけど、私たちにはもう苦行だわ。」

  「そ、そんな…もう旅行に行けないなんて…」

  栗田くんも落ち込んだ。ショックの余り、朝食の味もほとんどわからなかった。

  [newpage]

  [chapter:知らない建物]

  今日は日曜日。栗田くんは寂しさを紛らわすため、散歩に出た。

  住宅街を歩いていると、見慣れない建物が目に入った。

  (あれ、ここって空き地だったよね?いつの間にこんなのが建ったんだろう。)

  それは住宅街の中でかなり浮いていた。大きさはコンビニぐらいで、全体が真っ白に塗られている。

  入り口には看板が立っていた。

  スーパーVRシアター

  ここに来れば、あなたの思う世界をなんでも体験できます!

  わずか30分で、どんな世界も思うがまま!あなたの想像を超えたVR体験をぜひどうぞ!

  最大4名まで同時に体験できます。気に入ったらお友達を連れて行きましょう。

  24時間営業

  料金 1回1円

  (たった1円でVR体験?すごいけど、クオリティが低かったらどうしよう…

  まあ、物は試しだ。入ってみるか。)

  自動ドアをくぐると、外壁と同様に真っ白な部屋だった。片隅には両替機(50円玉まで使用可能)、中央には電源の切れたタッチパネルが置かれ、下にはコイン投入口が付いている。

  持っていた10円玉を1円玉10枚に変え、投入口に1枚入れるとタッチパネルの電源が入った。

  「いらっしゃいませ。どんな体験をお望みですか?」

  合成音声と共に、キーボードが表示された。これで体験する世界の条件を入力するようだ。

  栗田くんはしばらく考え「ケーキが3時間食べ放題」と入力して決定ボタンに触れた。

  「はい、それでは行ってらっしゃい!」

  [newpage]

  [chapter:ケーキの食べ放題]

  その直後、周囲の景色が変わった。立派な部屋で、テーブルには大量のケーキが並んでいる。

  (すごい…ゴーグルも着けないのに世界が変わった…)

  先程まで靴を履いていたが、室内のため裸足になっている。床の質感も、窓から見える庭も、ケーキの香りも現実と変わらないレベルだ。

  (ちゃんと味もするのかな?)

  椅子に座り、チョコレートケーキを切って食べた。

  「おいしい!」

  思わず叫ぶ栗田くん。チョコレートの味わいは非常に濃厚で、今まで食べたどのケーキよりもおいしく感じられた。

  「それでは、いただきまーす!」

  栗田くんは次々とケーキを頬張った。部屋には自分だけのため、遠慮もいらない。

  ショートケーキ、フルーツケーキ、モンブラン、スイスロール…どれも最高のおいしさだった。

  しかし90分ほど経った辺りから、食べるペースが遅くなってきた。

  2時間の時点で、栗田くんの胃は限界を迎えた。

  (苦しい…まだあんなに残ってるけど、とても食べられないよ…)

  ぼんやりと座っているうちに、3時間が経過した。

  その途端にケーキや部屋が消え、栗田くんは元の白い部屋に戻っていた。靴も足に戻り、お腹も減っている。

  (ああ、1時間無駄にしちゃったな…でもこれは本物だ!たった1円でケーキがあんなに食べられるなんて!

  よし、次はもっとすごいのをやってみよう!)

  [newpage]

  [chapter:お菓子の国の栗田くん]

  2枚目の1円玉を投入。今度はじっくり考え、このように入力した。

  「何もかもがお菓子でできた世界に1日滞在する

  そこではどんなに食べても虫歯にならず、お腹も壊さず、眠りやトイレの必要もない

  ぼくのお腹には無限に入る

  ぼく以外に住民はいない」

  決定すると、また周囲が変わった。

  「うわあ、すごい!お菓子の国だ!」

  栗田くんは青空の下、野原に立っていた。周囲の物はすべてお菓子でできている。

  空には雲の代わりに綿菓子が浮かび、太陽の代わりに金色の飴が輝いている。

  遠くの山はプリン、足元の草はミント、木はチョコレート、花は砂糖菓子、川はソーダ…甘い香りが漂っている。

  「よーし、食べるぞー!」

  彼は大興奮で走り出した。

  まずは花の群生地へ。砂糖菓子の花を片っ端から食べつくし、地面を更地に変えた。

  後に残った土は、ティラミスだった。それも食べつくし、後には大きな穴を残した。

  口直しに周囲のミントを一掴み食べ、森へ入ってチョコレートの木を1本平らげ、ソーダの川をがぶ飲みする。

  これだけ食べても、満足感は残るがお腹は膨れない。彼の胃は4次元空間となっていた。

  木を揺すって大福やりんご飴の実を落とし、川を泳ぐ鯛焼きを次々と捕まえ、プリンの山を食べながら掘り進む。

  甘い物に飽きたら塩気のある物。ポテトチップの葉を持つ木やバターポップコーンの花を頬張った。

  食べ続けるうち、夜が来た。空には饅頭の月と金平糖の星が輝いている。

  デコレーションケーキの山に登っていた栗田くんは、頂上から綿菓子の雲に乗り、月まで飛んでいった。

  (こんなにすぐ月に着くなんて、さすがファンタジーの世界だ!)

  月をかじって満月から半月に変えると、雲に戻って星へ。

  (普通の金平糖は一口で終わっちゃうけど、これならたっぷり食べられるぞ!)

  5個目の星を食べていると、太陽が昇ってきた。周囲の星が次々と消えていく。

  (まずい!このままじゃ落ちちゃう!)

  慌てて周囲を見ると、乗ってきた雲は遠くに流されていた。

  (どうしよう、どうしよう!VRだから死ぬ事はないだろうけど、「ぼくはケガをしない」とは設定しなかった!)

  困っているうちに、栗田くんの乗っている星も消えてしまった。

  「助けてー!」

  空高くから落下したが、幸いにも下はゼリーの山だった。

  柔らかいゼリーに埋まってしまったが、中から食べて脱出。その後も食べ続けた。

  お菓子の世界に着いてから24時間が経過した時、栗田くんは元の部屋に戻ってきた。もちろん現実では30分しか経っていない。

  (あー、おいしかった!あれだけ食べたのは初めてだよ。

  もし現実であんなに食べたら、お腹が破裂しちゃう。でもVRの世界なら大丈夫だね。

  満足感はちゃんと残ってて良かった!さあ、もう帰ろう。)

  シアターを出て、自宅へ向かう。その途中で気がついた。

  (あんなすごい店ができたら行列ができるはずなのに、ぼく以外には誰もいなかった。できたばかりだから知られてないのかな?

  それに花輪も飾られていなかった。なくても目立つ建物だから?)

  疑問点は多かったが、深く考える事はやめた。最高の店である事に間違いはないからだ。

  「ただいま。」

  「お帰り、永雄。1時間近くも散歩するなんて珍しいわね。」

  「うん、すごい店ができていたんだ。後で紹介するよ。」

  「まあ、どんな店か知りたいわ。お昼が終わったらみんなで行きましょう。」

  [newpage]

  [chapter:家族に紹介]

  昼食後、栗田くんは両親を連れてシアターへ。

  「ほら、ここだよ!スーパーVRシアター!

  これはとにかくすごいんだ。たったの1円で…」

  しかし、両親は不安げな表情だ。

  「な、永雄…大丈夫か?」

  「そこは空き地よ。店なんか建ってないわ。」

  「お父さん、お母さん、よく見てよ!ちゃんと店が建ってるじゃないか!あの看板読んでみてよ!」

  「看板なんてどこにもないわよ。私たちをからかってるの?」

  「もしかすると頭がおかしくなったんじゃないか?」

  「きっとそうね。病院で見てもらいましょう!」

  栗田くんは不安を覚えた。どうやら両親にはこの店が見えないらしい。

  (ぼくには確かに見える。でもいくら店があると主張しても、信じてもらえないだろう。こうなったら…)

  「あれ?やっぱり空き地だ。店なんか建ってない!」

  その言葉は演技だったが、両親は安心した。

  「ああ、良かった。やっぱり永雄にも見えなかったのか。」

  「きっと、どこかの狐か狸に化かされていたのね。」

  「うん、そうかもね。ごめん…」

  「いや、いいんだ。永雄の頭が無事とわかったからな。」

  「さあ、今日はもう帰りましょう。」

  栗田一家が立ち去った直後、シマリスの女の子が通りかかった。栗田くんのガールフレンド、縞野 くるみちゃんだ。

  (あら、こんな店あったかしら?)

  [newpage]

  [chapter:シアターを体験した友達]

  翌日は月曜日。栗田くんはケモノ小学校埼玉校へ向かった。

  4年1組に入ろうとすると、2組のくるみちゃんが声をかけてきた。

  「おはよう、栗田くん。」

  「おはよう。」

  「ねえ、この近くにできたスーパーVRシアターって知ってる?」

  「し、知ってるよ!くるみちゃんには見えるんだ!」

  「見えるって…どういう事?」

  栗田くんは事情を話した。

  「それは不思議ね…」

  「きっと限られたケモノにしか見えないんだよ。どうやったらそんな風になるか知らないけど。

  そうだ、くるみちゃんはどんな体験をしたの?」

  「私の背中に羽が生えて、空を飛んだのよ。風に乗ったり、鳥の群れと並んだりして楽しかったわ。」

  「それは素敵だね。ぼくも今度やってみよう!

  でもそうなったら、くるみちゃんはどんな服を着たの?」

  「羽が服を突き抜けていたのよ。」

  2時間目が終わり、20分休みが始まった。隣の席からキタキツネの稲荷山 紺助くん(栗田くんの親友で太っている)が話しかけてきた。

  「栗田くん、スーパーVRシアターって知ってる?」

  「もちろん!稲荷山くんにも見えるんだ!」

  「良かった…すごい店だったからお母さんと妹の万梨阿に紹介したんだけど、どっちも『そこに店なんかない』って言うんだ。

  だからみんなにも言わないつもりだったけど、栗田くんは親友だから聞いてみたんだ。」

  「ぼくのお父さんとお母さんも同じだよ。稲荷山くんはどんな体験をした?」

  「山盛りの稲荷寿司やおはぎを食べたんだ。すごくおいしかったよ!たったの1円であんなに食べられるなんて…」

  すると、後方の席から白猫の金子 真里ちゃんが話しかけた。

  「私も昨日の夕方、あのシアターに行ったのよ!VRってあんなに進歩したのね…もうすごかったわ!」

  「真里ちゃんはどんな体験?」

  「よく漫画であるような事をやってみたわ。私がトーストをくわえて走ってたら、曲がり角ですごくかっこいい猫の男の子とぶつかって、その子はこのクラスに来た転校生だったの。もちろん席は私の隣よ。

  彼は勉強も運動も得意で、声もイケボで、私にもすごく優しいの。ああ、最高だったわ…」

  「それは良かったね。」

  「ええ、それに転校生なんてここ数年この学校に来てないでしょ?だから体験してみたかったの。」

  他のクラスメイトは普段通りに話したり、校庭で遊んでいた。スーパーVRシアターなど誰も知らないようだ。

  [newpage]

  [chapter:4匹だけのシアター]

  昼休み、シアターを知る4匹は廊下で話した。

  「ぼくたち4匹にしか見えないなんて、どうしてだろうね?」

  「まあ深く考えずに楽しもう。あそこに行けば何だってできるんだから!」

  「海外旅行も、豪華な食事も、たったの1円でできるわね!」

  「それどころか大冒険だってできるんじゃないかしら!」

  「これからみんなの予定がない休みの日には、スーパーVRシアターで楽しまない?」

  「ええ、そうね。いっぱい楽しみましょう!」

  「いつにする?」

  「木曜日の放課後ね。部活がないから。」

  それから3日が過ぎ、木曜日が来た。放課後、4匹はスーパーVRシアターへ。

  「今日はぼくが体験した世界を、みんなにも体験させるよ。」

  栗田くんはタッチパネルに入力した。

  「何もかもがお菓子でできた世界に1日滞在する

  そこではどんなに食べても虫歯にならず、お腹も壊さず、眠りやトイレの必要もなく、ケガもしない

  ぼくたちのお腹には無限に入る

  ぼくたち以外に住民はいない」

  数分後…

  「すごい!ソーダの川、最高だよ!」

  「いくら食べても太らないなんて、最高ね!」

  「もし何か嫌な事があっても、ここに来ればいいわね!」

  「でしょ?さあみんな、どんどん食べよう!」

  お菓子の世界を楽しむ4匹の表情は、笑顔にあふれていた。

  これから先は、このスーパーVRシアターが4匹のたまり場になるだろう。

  [newpage]

  果たして、なぜこの4匹にしか見えないか?このようなVRが現代科学で作れるだろうか?

  そこには大きな秘密が隠されているが、4匹がそれを知る日は来ないだろう…

  [chapter:おしまい]