[chapter:プロローグ]
意外と早くここまで進んだ。さあ、早速始めよう…
カチッ
ブゥーン…
ピッ ピッ ピッ…
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これでよし。ついに夢が叶った…
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[chapter:違和感]
ここはケモノ界のさいたま市大上区。
太ったシマリスの栗田 永雄くん(小学4年生)は、ベッドの中で目覚めた。普段通りの朝だが、何か違和感を覚えた。
(何だろう、何かおかしいような…気のせいかな?)
カーテンを開けて窓の外を見るが、特に変わった所は見えない。
室内を見渡すと、壁のカレンダーが目に入った。
(あれ、もう9月だっけ?まだ3月だと思っていたのに…時間が経つのは早いな。
でも…あれ?春から夏の出来事が思い出せない…なんでだろう。)
疑問を覚えながら朝の支度を済ませ、1階のダイニングテーブルへ。両親も席についていた。
栗田くんはトーストをかじりながら、両親に尋ねた。
「ねえ、今年の夏休みって何したっけ?なぜか突然思い出せなくなって…」
「どうしたんだ?今年の夏は旅行に行ったじゃないか。ほら、これがその写真だ。」
父親はスマートフォンの画面を見せた。海ではしゃぐ栗田くんが映っている。
「まだあるぞ。」
山を登る栗田くん、観覧車から景色を眺める栗田くん、夏祭りでチョコバナナを手にした栗田くん…
それを見るうち、記憶がよみがえってきた。確かに夏は様々な場所に出かけていた。
「ありがとう、思い出せたよ。またいろいろ行こうね!」
すると、両親の表情が落ち込んだ。
「悪いな、永雄。もううちの家族で旅行に行くつもりはないんだ…」
「そうよ。今年の夏はいろんな場所を周ったから、疲れてたまらなかった…
楽しんでいた永雄には悪いけど、私たちにはもう苦行だわ。」
「そ、そんな…もう旅行に行けないなんて…」
栗田くんも落ち込んだ。ショックの余り、朝食の味もほとんどわからなかった。
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[chapter:知らない建物]
今日は日曜日。栗田くんは寂しさを紛らわすため、散歩に出た。
住宅街を歩いていると、見慣れない建物が目に入った。
(あれ、ここって空き地だったよね?いつの間にこんなのが建ったんだろう。)
それは住宅街の中でかなり浮いていた。大きさはコンビニぐらいで、全体が真っ白に塗られている。
入り口には看板が立っていた。
スーパーVRシアター
ここに来れば、あなたの思う世界をなんでも体験できます!
わずか30分で、どんな世界も思うがまま!あなたの想像を超えたVR体験をぜひどうぞ!
最大4名まで同時に体験できます。気に入ったらお友達を連れて行きましょう。
24時間営業
料金 1回1円
(たった1円でVR体験?すごいけど、クオリティが低かったらどうしよう…
まあ、物は試しだ。入ってみるか。)
自動ドアをくぐると、外壁と同様に真っ白な部屋だった。片隅には両替機(50円玉まで使用可能)、中央には電源の切れたタッチパネルが置かれ、下にはコイン投入口が付いている。
持っていた10円玉を1円玉10枚に変え、投入口に1枚入れるとタッチパネルの電源が入った。
「いらっしゃいませ。どんな体験をお望みですか?」
合成音声と共に、キーボードが表示された。これで体験する世界の条件を入力するようだ。
栗田くんはしばらく考え「ケーキが3時間食べ放題」と入力して決定ボタンに触れた。
「はい、それでは行ってらっしゃい!」
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[chapter:ケーキの食べ放題]
その直後、周囲の景色が変わった。立派な部屋で、テーブルには大量のケーキが並んでいる。
(すごい…ゴーグルも着けないのに世界が変わった…)
先程まで靴を履いていたが、室内のため裸足になっている。床の質感も、窓から見える庭も、ケーキの香りも現実と変わらないレベルだ。
(ちゃんと味もするのかな?)
椅子に座り、チョコレートケーキを切って食べた。
「おいしい!」
思わず叫ぶ栗田くん。チョコレートの味わいは非常に濃厚で、今まで食べたどのケーキよりもおいしく感じられた。
「それでは、いただきまーす!」
栗田くんは次々とケーキを頬張った。部屋には自分だけのため、遠慮もいらない。
ショートケーキ、フルーツケーキ、モンブラン、スイスロール…どれも最高のおいしさだった。
しかし90分ほど経った辺りから、食べるペースが遅くなってきた。
2時間の時点で、栗田くんの胃は限界を迎えた。
(苦しい…まだあんなに残ってるけど、とても食べられないよ…)
ぼんやりと座っているうちに、3時間が経過した。
その途端にケーキや部屋が消え、栗田くんは元の白い部屋に戻っていた。靴も足に戻り、お腹も減っている。
(ああ、1時間無駄にしちゃったな…でもこれは本物だ!たった1円でケーキがあんなに食べられるなんて!
よし、次はもっとすごいのをやってみよう!)
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[chapter:お菓子の国の栗田くん]
2枚目の1円玉を投入。今度はじっくり考え、このように入力した。
「何もかもがお菓子でできた世界に1日滞在する
そこではどんなに食べても虫歯にならず、お腹も壊さず、眠りやトイレの必要もない
ぼくのお腹には無限に入る
ぼく以外に住民はいない」
決定すると、また周囲が変わった。
「うわあ、すごい!お菓子の国だ!」
栗田くんは青空の下、野原に立っていた。周囲の物はすべてお菓子でできている。
空には雲の代わりに綿菓子が浮かび、太陽の代わりに金色の飴が輝いている。
遠くの山はプリン、足元の草はミント、木はチョコレート、花は砂糖菓子、川はソーダ…甘い香りが漂っている。
「よーし、食べるぞー!」
彼は大興奮で走り出した。
まずは花の群生地へ。砂糖菓子の花を片っ端から食べつくし、地面を更地に変えた。
後に残った土は、ティラミスだった。それも食べつくし、後には大きな穴を残した。
口直しに周囲のミントを一掴み食べ、森へ入ってチョコレートの木を1本平らげ、ソーダの川をがぶ飲みする。
これだけ食べても、満足感は残るがお腹は膨れない。彼の胃は4次元空間となっていた。
木を揺すって大福やりんご飴の実を落とし、川を泳ぐ鯛焼きを次々と捕まえ、プリンの山を食べながら掘り進む。
甘い物に飽きたら塩気のある物。ポテトチップの葉を持つ木やバターポップコーンの花を頬張った。
食べ続けるうち、夜が来た。空には饅頭の月と金平糖の星が輝いている。
デコレーションケーキの山に登っていた栗田くんは、頂上から綿菓子の雲に乗り、月まで飛んでいった。
(こんなにすぐ月に着くなんて、さすがファンタジーの世界だ!)
月をかじって満月から半月に変えると、雲に戻って星へ。
(普通の金平糖は一口で終わっちゃうけど、これならたっぷり食べられるぞ!)
5個目の星を食べていると、太陽が昇ってきた。周囲の星が次々と消えていく。
(まずい!このままじゃ落ちちゃう!)
慌てて周囲を見ると、乗ってきた雲は遠くに流されていた。
(どうしよう、どうしよう!VRだから死ぬ事はないだろうけど、「ぼくはケガをしない」とは設定しなかった!)
困っているうちに、栗田くんの乗っている星も消えてしまった。
「助けてー!」
空高くから落下したが、幸いにも下はゼリーの山だった。
柔らかいゼリーに埋まってしまったが、中から食べて脱出。その後も食べ続けた。
お菓子の世界に着いてから24時間が経過した時、栗田くんは元の部屋に戻ってきた。もちろん現実では30分しか経っていない。
(あー、おいしかった!あれだけ食べたのは初めてだよ。
もし現実であんなに食べたら、お腹が破裂しちゃう。でもVRの世界なら大丈夫だね。
満足感はちゃんと残ってて良かった!さあ、もう帰ろう。)
シアターを出て、自宅へ向かう。その途中で気がついた。
(あんなすごい店ができたら行列ができるはずなのに、ぼく以外には誰もいなかった。できたばかりだから知られてないのかな?
それに花輪も飾られていなかった。なくても目立つ建物だから?)
疑問点は多かったが、深く考える事はやめた。最高の店である事に間違いはないからだ。
「ただいま。」
「お帰り、永雄。1時間近くも散歩するなんて珍しいわね。」
「うん、すごい店ができていたんだ。後で紹介するよ。」
「まあ、どんな店か知りたいわ。お昼が終わったらみんなで行きましょう。」
[newpage]
[chapter:家族に紹介]
昼食後、栗田くんは両親を連れてシアターへ。
「ほら、ここだよ!スーパーVRシアター!
これはとにかくすごいんだ。たったの1円で…」
しかし、両親は不安げな表情だ。
「な、永雄…大丈夫か?」
「そこは空き地よ。店なんか建ってないわ。」
「お父さん、お母さん、よく見てよ!ちゃんと店が建ってるじゃないか!あの看板読んでみてよ!」
「看板なんてどこにもないわよ。私たちをからかってるの?」
「もしかすると頭がおかしくなったんじゃないか?」
「きっとそうね。病院で見てもらいましょう!」
栗田くんは不安を覚えた。どうやら両親にはこの店が見えないらしい。
(ぼくには確かに見える。でもいくら店があると主張しても、信じてもらえないだろう。こうなったら…)
「あれ?やっぱり空き地だ。店なんか建ってない!」
その言葉は演技だったが、両親は安心した。
「ああ、良かった。やっぱり永雄にも見えなかったのか。」
「きっと、どこかの狐か狸に化かされていたのね。」
「うん、そうかもね。ごめん…」
「いや、いいんだ。永雄の頭が無事とわかったからな。」
「さあ、今日はもう帰りましょう。」
栗田一家が立ち去った直後、シマリスの女の子が通りかかった。栗田くんのガールフレンド、縞野 くるみちゃんだ。
(あら、こんな店あったかしら?)
[newpage]
[chapter:シアターを体験した友達]
翌日は月曜日。栗田くんはケモノ小学校埼玉校へ向かった。
4年1組に入ろうとすると、2組のくるみちゃんが声をかけてきた。
「おはよう、栗田くん。」
「おはよう。」
「ねえ、この近くにできたスーパーVRシアターって知ってる?」
「し、知ってるよ!くるみちゃんには見えるんだ!」
「見えるって…どういう事?」
栗田くんは事情を話した。
「それは不思議ね…」
「きっと限られたケモノにしか見えないんだよ。どうやったらそんな風になるか知らないけど。
そうだ、くるみちゃんはどんな体験をしたの?」
「私の背中に羽が生えて、空を飛んだのよ。風に乗ったり、鳥の群れと並んだりして楽しかったわ。」
「それは素敵だね。ぼくも今度やってみよう!
でもそうなったら、くるみちゃんはどんな服を着たの?」
「羽が服を突き抜けていたのよ。」
2時間目が終わり、20分休みが始まった。隣の席からキタキツネの稲荷山 紺助くん(栗田くんの親友で太っている)が話しかけてきた。
「栗田くん、スーパーVRシアターって知ってる?」
「もちろん!稲荷山くんにも見えるんだ!」
「良かった…すごい店だったからお母さんと妹の万梨阿に紹介したんだけど、どっちも『そこに店なんかない』って言うんだ。
だからみんなにも言わないつもりだったけど、栗田くんは親友だから聞いてみたんだ。」
「ぼくのお父さんとお母さんも同じだよ。稲荷山くんはどんな体験をした?」
「山盛りの稲荷寿司やおはぎを食べたんだ。すごくおいしかったよ!たったの1円であんなに食べられるなんて…」
すると、後方の席から白猫の金子 真里ちゃんが話しかけた。
「私も昨日の夕方、あのシアターに行ったのよ!VRってあんなに進歩したのね…もうすごかったわ!」
「真里ちゃんはどんな体験?」
「よく漫画であるような事をやってみたわ。私がトーストをくわえて走ってたら、曲がり角ですごくかっこいい猫の男の子とぶつかって、その子はこのクラスに来た転校生だったの。もちろん席は私の隣よ。
彼は勉強も運動も得意で、声もイケボで、私にもすごく優しいの。ああ、最高だったわ…」
「それは良かったね。」
「ええ、それに転校生なんてここ数年この学校に来てないでしょ?だから体験してみたかったの。」
他のクラスメイトは普段通りに話したり、校庭で遊んでいた。スーパーVRシアターなど誰も知らないようだ。
[newpage]
[chapter:4匹だけのシアター]
昼休み、シアターを知る4匹は廊下で話した。
「ぼくたち4匹にしか見えないなんて、どうしてだろうね?」
「まあ深く考えずに楽しもう。あそこに行けば何だってできるんだから!」
「海外旅行も、豪華な食事も、たったの1円でできるわね!」
「それどころか大冒険だってできるんじゃないかしら!」
「これからみんなの予定がない休みの日には、スーパーVRシアターで楽しまない?」
「ええ、そうね。いっぱい楽しみましょう!」
「いつにする?」
「木曜日の放課後ね。部活がないから。」
それから3日が過ぎ、木曜日が来た。放課後、4匹はスーパーVRシアターへ。
「今日はぼくが体験した世界を、みんなにも体験させるよ。」
栗田くんはタッチパネルに入力した。
「何もかもがお菓子でできた世界に1日滞在する
そこではどんなに食べても虫歯にならず、お腹も壊さず、眠りやトイレの必要もなく、ケガもしない
ぼくたちのお腹には無限に入る
ぼくたち以外に住民はいない」
数分後…
「すごい!ソーダの川、最高だよ!」
「いくら食べても太らないなんて、最高ね!」
「もし何か嫌な事があっても、ここに来ればいいわね!」
「でしょ?さあみんな、どんどん食べよう!」
お菓子の世界を楽しむ4匹の表情は、笑顔にあふれていた。
これから先は、このスーパーVRシアターが4匹のたまり場になるだろう。
[newpage]
果たして、なぜこの4匹にしか見えないか?このようなVRが現代科学で作れるだろうか?
そこには大きな秘密が隠されているが、4匹がそれを知る日は来ないだろう…
[chapter:おしまい]