第24話「田舎でできた友達4匹」

  [chapter:プロローグ]

  ここはケモノ界のさいたま市大上区。時は2021年、8月初頭の水曜日。

  太ったシマリスの栗田 永雄くん(小学4年生)は、夏休みの宿題を進めていた。

  (よーし、読書感想文も終わったぞ!)

  漢字・計算ドリルは既に終わらせているため、また1つ課題を終えた事になる。

  (もう6回も4年生が続いてるから、4年生の勉強なんてすっかり覚えちゃったよ。)

  その時、母親が部屋に入ってきた。

  「永雄、ちょっと話があるの。」

  「え、何?」

  「今度の日曜日から火曜日まで、お母さんは高校時代の友達と旅行に行く事になったの。友達から急に誘われちゃってね…」

  「お母さんだけか…でも楽しんできてね。ぼくはお父さんと過ごすから。」

  昼食の時間、母親が言った。

  「さっき連絡があったんだけど、お父さんも今度の日曜日から火曜日まで、職場の仲間とゴルフに行く事になったのよ。」

  「お父さんも家を空けるの?それじゃあ、ぼくは…」

  「その間、川獺市のおじいちゃんとおばあちゃんに預けてもらおうかしら。」

  「やったー!またおじいちゃんと銭湯に行けるぞ!」

  2019年12月、栗田くんは家族の都合で母親の実家に預けられている。その時祖父と銭湯に行った事は、楽しい思い出の1つだ。

  昼食後、母親はスマートフォンを取り出してメッセージを送った。

  栗田くんが子供部屋で漫画を読んでいると、母親が来た。

  「永雄、おじいちゃんとおばあちゃんも今度の日曜日から火曜日まで留守なのよ!遠くに住む親戚の結婚式に出るって!」

  「ええっ!どうしてこんなに予定が重なるんだ…」

  「こうなると、富山の方しか残ってないわね。予定がなければいいけど…」

  夜。帰宅した父親は話を聞いた。

  「まさかそこまで予定が重なるとはな…こっちでも聞こう。」

  父親はスマートフォンにメッセージを打ち込み、しばらくして返信を受け取った。

  「永雄、予定はないそうだ。だから今度の日曜日から火曜日は、富山のおじいちゃんやおばあちゃんと過ごしてくるんだ。」

  「そうか。ひとまずぼくだけで留守番する事にならなくて良かったよ。」

  安心したものの、栗田くんは不安だった。父親の実家に1匹だけで行った事はないからだ。

  母親の実家は隣の川獺市にあり、電車に20分ほど乗れば着く。

  一方、父親の実家は富山県の土井中村にある。そのため大上区から行くには新幹線で富山駅に向かい、さらにそこからローカル線に乗り換える必要がある。

  母親の実家に行く事は割と多いが、父親の実家に行く事は基本的に盆と正月のみ。そのため栗田くんは父方の祖父母とそれほど会っていない。

  (滅多に会わない方のおじいちゃんやおばあちゃんと3日間も過ごすなんて、緊張するよ…

  おまけに向こうは田舎で、大上区や川獺市みたいに施設も少ないだろうし…楽しめるかな…)

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  [chapter:田舎への旅]

  日曜日。9時20分に家を出た栗田くんは、両親と共に大上駅へ。両親の出発時刻は栗田くんよりも遅いため、見送る余裕がある。

  彼の背負ったリュックサックには着替え、パジャマ、歯ブラシ、お金、ゲーム機など必要な物が詰まっている。

  今日のために両親は新幹線の切符を買い、発車時刻を書いたメモや食費も渡しておいた。

  「それじゃ、行ってきます。」

  「行ってらっしゃい、永雄。」

  普段は元気な栗田くんも、少し緊張しながら両親と別れた。

  「永雄はまだ4年生なのに、1匹だけで新幹線に乗るなんてすごい体験だろうな…」

  「あなた、永雄は普通に歳を取っていればもう中学3年生よ。それぐらいなら1匹で乗っても不思議じゃないわ。」

  「ああ、そう言えばそうだったな。」

  栗田くんはホームへ行き、新幹線に乗った。

  (緊張するけど、ぼくだけで乗れるのは嬉しいな。ここだけでも楽しもう!)

  席に座ると、リュックサックからゲーム機を出して遊び始めた。彼は外出時、常にゲーム機を持参している。

  10時ちょうどに新幹線が発車した。ビルに囲まれた大上駅を抜け、富山駅へ向かう約2時間の旅が始まる。

  ゲームで遊んだり、スナックを買って食べたり、窓からの景色を眺めたり…自分だけの時間を楽しんだ。

  富山駅で昼食を済ませると、ローカル線に乗り換えた。その間もゲームを続けていたが、やがてバッテリーランプが赤く点滅し始めた。

  (向こうに着いたら、まず充電しなきゃ。)

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  [chapter:土井中村に到着]

  土井中駅に着くと、祖父が迎えてくれた。

  母方の祖父母は太っているが、父方の祖父母は細身だ。栗田くんの太った体と食いしん坊な性格は、母親の血を引いている。

  「こんにちは、永雄。」

  「こんにちは、おじいちゃん。」

  「永雄と会うのは正月以来じゃな。変わってないのう。」

  「まあ、ここ数年歳を取ってないからね。」

  祖父の運転する自動車に乗り、父親の実家へ。

  駅前から広がる豊かな自然の中を走り、20分ほどで到着した。

  「さあ、着いたぞ。」

  父方の祖父母はこぢんまりとした家に住んでいるが、電気やインターネットは通っている。

  しかし周囲には山や畑が広がっており、10軒ほどの家が点々と見える程度。大上区とは正反対だ。

  「こんにちは、おばあちゃん。」

  「永雄、こんにちは。お久しぶりね。採れたての野菜があるわよ。」

  こちらの祖父母は、農業を営んでいる。

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  [chapter:忘れ物しちゃった!]

  部屋に案内された栗田くんは、ゲーム機の充電をする事にした。

  (さて、充電器は…あれ?あれ!?)

  リュックサックの中を探し回るが、充電器が見つからない。

  「ああーっ!家に忘れちゃったー!」

  悲鳴を上げる栗田くん。準備は入念にしたはずだったが、肝心の充電器を忘れてしまった。

  「ああ、なんて事だ…これじゃ帰るまでゲームができないよ…」

  落ち込む栗田くんに、祖父母が言う。

  「相変わらず永雄はゲームばかりしておるのか。たまには外で遊んだらどうじゃ?

  この辺りには豊かな自然が広がっておる。その中を歩くだけでも楽しいじゃろう。」

  「大上区にはない風景が見られるわよ。遊んできたらどう?」

  「わかった、行ってみるよ…」

  栗田くんは残念そうに家を出た。

  (しばらくゲームができないなんて、つまらないなあ…)

  ほぼ毎日ゲームで遊ぶ彼にとっては、予想外のアクシデントだった。

  2年前に行った林間学校もゲームの持ち込みが禁止されていたが、こちらは友達と共に様々な体験ができるため退屈はしなかった。

  しかし今回はゲームができる物と思っていたため、気分が沈んでいる。

  (ここで遊べなんて言われても、どうすればいいかわからないよ…)

  前述通り、一家でここを訪れる時期は盆と正月のみ。往復にも時間がかかるため、泊まった事は一度もない。

  父親の実家から出た事もほとんどないため、ここの地理すら知らない。

  夏らしい天気だった。空はよく晴れ、太陽が照りつけている。

  セミの鳴き声が大上区以上に響き渡り、時折鳥の声も聞こえる。

  栗田くんは田舎の道を歩いていた。

  (ああ、暑い…)

  太っているため、余計に暑く感じられる。お腹は普段から丸出しだが、全く涼しくならない。

  (涼しそうな場所に行こう…)

  道を外れて森の中へ。想像通り、割と涼しかった。

  (ふう、ここなら気分がいいや。)

  水音を聞きつけて進むと、小川が流れていた。深さは40センチほどのため、溺れる心配はないだろう。

  (落ち着く場所だ…でもこれからどうしよう?)

  その時、遠くで子供たちのはしゃぐ声が聞こえ始めた。

  (この辺りにも子供がいるんだ。一緒に遊べるかな?)

  小川に沿って歩き、声の聞こえる方へ向かった。

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  [chapter:友達になろう!]

  しばらく歩いた所で、声の正体が特定できた。4匹の男の子だ。

  1匹目はタンクトップと短パン姿のアナグマ。年齢や体型は栗田くんと似ており、大きな出べそが目立つ。

  2匹目は半袖シャツと短パン姿のカワウソ。こちらも同年代だが、彼はぽっちゃり体型だ。

  3匹目はふんどし1枚の豚。栗田くんよりも年下だが、彼以上の肥満児で出べそが目立つ。

  4匹目は腹掛け1枚の野うさぎ。彼が一番幼く、やはり丸々と太っている。

  その4匹は小川に入り、水を跳ね飛ばしてふざけ合っている。

  (みんな楽しそうだ。ぼくも仲間に入ろう!)

  彼は4匹に近づいた。

  アナグマが気がついた。

  「知らない子がいるぞ。誰だ?」

  「ぼくは栗田 永雄。さいたま市から来たんだ。

  いろいろ事情があって、お父さんの実家にあさってまで預かってもらう事になったんだ。」

  「栗田っていうシマリス…栗田のじいちゃんとばあちゃんの事か?」

  「そうだけど、どうして知ってるの?」

  「俺の父ちゃんが、時々あの2匹から野菜を買ってるんだ。お前はあの2匹の孫なのか!」

  「うん、そうだよ。」

  「そうか。良かったら仲間にならないか?」

  「ありがとう!この辺りには知り合いがいないから、遊び相手が欲しいと思ってたんだよ!」

  「俺たちもそろそろ新しい仲間が欲しいと思ってたんだ。短い間だけど、よろしくな!」

  こうして、栗田くんに新しい友達ができた。

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  [chapter:自己紹介の時間]

  「ねえ、君たちはいつもここで遊んでるの?初めて会ったから知りたいんだ。」

  アナグマは栗田くんの質問に答えた。

  「俺たちはこの近くに住んでるんだ。この辺に住む子供は俺たち4匹だけ。だから毎日こうやって一緒に遊ぶんだぜ。」

  「へえ、何をして遊ぶの?」

  「いつも自然の中で遊ぶんだ。かくれんぼとか木登りとかな。

  今は夏真っ盛り。そんな時は川遊びや虫取りをして過ごすのさ。」

  「ゲームはする?」

  「ゲームか…俺たちは誰も持ってないな。クラスメイトには持ってる奴もいるみたいだけど、家が近くにないから遊んだ事はないぜ。」

  「ぼくはゲームが好きだけど、充電器を持ってくるのを忘れたから、ここにいる間は遊べないんだ。だから君たちと一緒だね!」

  「だな!」

  「ありがとう。次は君たちがどんな子か教えてくれないかな?」

  「わかった。ではまず俺からだ。」

  アナグマは少し離れた場所に立つと、語り始めた。

  「俺は穴太郎。小学4年生だ。

  みんなのリーダーで、遊ぶのと食べるのが大好きさ。」

  「ぼくも同じ事が好きだよ。それで穴太郎くんの苗字は?」

  「いや、穴太郎は本名じゃなくてあだ名だ。俺たちはみんなあだ名で呼び合っているんだよ。それが俺たちのルールさ。」

  次はカワウソ。

  「ぼくは川助。穴太郎と同じ4年生だよ。

  水泳が得意だから、夏が大好き!よろしくね。」

  「やっぱりカワウソは泳ぎが得意なんだね!ぼくは泳げないんだ…」

  穴太郎が補足する。

  「俺も同じだぜ。そもそも俺たちの中で泳げるのは川助だけさ。

  それから、あいつは俺たちの中で一番賢いんだ。だから知恵袋のようなもんさ。」

  次は豚。

  「おいらはトントン。小学2年生。

  デブのおいらに夏は暑すぎるから、いつもふんどし1枚さ!」

  「トントンはひょうきんで、ふざけるのが大好き。だから学校ではよく怒られるけどまったく懲りないのさ。

  でも俺にとっては可愛い弟のような存在だ。だからどこか憎めないんだよ。」

  「いつもふんどし1枚って言ってたけど、そんな格好で外を歩いて大丈夫なの?」

  「ここらは家が少ないしみんな仲がいいから、誰も怒らないな。この格好もすっかり受け入れられてるぜ。

  まあ、さすがに学校では服を着てるけど。」

  最後はうさぎ。

  「ぼくはぴょん太。5歳だよ。

  新しい友達が増えて、とっても嬉しいな!」

  「ぴょん太は俺たち全員にとって、弟のようなもんだ。好奇心旺盛でいつも元気いっぱい。俺たちのする事をなんでも真似したがるんだ。

  夏は腹掛け1枚でずっと過ごしてる。でもみんな受け入れてるぜ。」

  「お尻丸出しで恥ずかしくないんだね。」

  「まあ、まだ幼いから気にしてないんだろう。」

  これで全員の自己紹介が終わった。

  「せっかくだから、ぼくももう一度自己紹介するね。

  ぼくは栗田 永雄。さいたま市から来た小学4年生。のんびり屋で食いしん坊さ。」

  「お前はどんなあだ名で呼ばれてるんだ?」

  「ぼくはあだ名で呼ばれた事がないんだ。」

  「じゃあ俺がつけてやる。お前は栗田だから…クリクリだ!」

  穴太郎の提案に、全員が賛成した。

  「可愛い響きだね!」

  「おいらと同じ繰り返しのあだ名か!」

  「クリクリお兄ちゃん、よろしく!」

  栗田くんも得意げに言った。

  「ぼくはクリクリ!穴太郎、川助、トントン、ぴょん太、よろしく!」

  こうして、彼は子供たちの仲間に加わった。

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  [chapter:初めての川遊び]

  「さあ、何をして遊ぼうか?」

  「クリクリが来る前にやってた川遊びにしよう!小川に入って涼んだり、水をかけあったりして遊ぶんだ。」

  「ああ、あれか。中断させちゃってごめんね。」

  「俺たちは気にしてないぜ。むしろ仲間が増えたからもっと楽しくなりそうだ!」

  栗田くんは靴を脱いで小川に入り、かがんで水を跳ね飛ばした。

  「こうかな?」

  「うまいじゃないか。もっと勢いよく!」

  穴太郎に指導される栗田くんは、さらに力を入れた。

  「おお、いい具合だ!さあ、みんなも小川へ!」

  それから、5匹は水をかけあってはしゃいだ。

  「それ、川助!」

  「やったな!穴太郎とクリクリにもかけちゃうぞ!」

  「うわあ!やられた!」

  3匹の4年生は、かなりの水を跳ね飛ばしている。特に川助は5匹の中で一番肥満度が低いため、機敏に動ける方だ。

  「おいらももっとかけるぞ!エーイ…うわっ!」

  トントンも勢いよく跳ね飛ばそうとしたが、尻餅をついてしまった。肥満体のため、かがむとバランスを崩しやすい。

  「そーれ、チャンスだ!」

  隙を突かれ、ぴょん太に水をかけられてしまった。

  彼は太っている事を感じさせないほど元気に跳ね回る。腹掛けがまくれ、大事な部分が見えても気にしていない。

  「やったな、ぴょん太!」

  トントンは笑いながらぴょん太を追いかけた。全身の脂肪や出べそを弾ませている。

  しかし意外と足の速い彼には勝てず、すぐに息切れしてしまった。

  1時間は遊んだだろうか。5匹は川に足を浸けて涼んだ。

  着ている物はすべて濡れているが、誰も気にしない。

  「こんな遊びは初めてだよ。うちの近所に川は流れてないからね。」

  穴太郎たちは、その言葉に興味を持った。

  「クリクリはどんな所に住んでるんだ?」

  「うん、君の話を聞きたいな。都会に住む子と会うのは初めてだからね。」

  「おいらたちに都会の事を教えてくれよ!」

  「100階建てのビルとかある?ねえ教えて教えて!」

  栗田くんは話し始めた。

  「ぼくの住む場所は、埼玉県のさいたま市大上区。駅の近くはビルが並んでいるけど、家はそこから離れた住宅街にあるんだ。

  家が並んでいて、小さな店や公園が所々にある感じ。山はかなり遠くに見えるんだ。

  それから、100階建てのビルはないよ。一番高いビルでも31階建てさ。」

  「なーんだ、つまんないな。」

  「おいぴょん太、せっかく話してくれたのに失礼だぞ!」

  「ごめん、クリクリお兄ちゃん…」

  「いいよ、気にしてない。

  さて、次は学校について話そう。ぼくの通うケモノ小学校埼玉校には300頭の子供が通っているんだ。」

  「それじゃ朝は、学校の周りで渋滞が起きそうだな。」

  「渋滞?みんな徒歩通学だよ。」

  「すげえな!俺の学校は全学年合わせても50頭しかいないし、車で通ってる子も多いんだ。俺んちから歩いて家に行ける友達も、川助とトントンだけさ。

  それから、他には何をするんだ?」

  「時々ゲームセンターに行くんだ。」

  「ゲームセンター!テレビでしか見た事がないな。どんなゲームが好きか教えてくれよ。」

  「ぼくが好きなのはシューティングゲームかな。レーザー砲で敵のUFOを撃墜するんだ。」

  穴太郎たちは、夢中で話に聞き入った。

  [newpage]

  [chapter:夕暮れの帰り道]

  様々な話を楽しむうち、空が夕暮れに染まってきた。

  「そろそろ家に帰らないとな。」

  「うん。帰ろうね。」

  「早く帰らないと怒られちゃうよ。おいらの母ちゃん怖いからな…」

  「クリクリお兄ちゃん、今日は楽しかったね。」

  「うん。ほんとに楽しかったよ。」

  その時、栗田くんはある事に気がついた。

  「しまった!タオルを持ってないから足を拭けないよ!濡れたまま靴を履くのも嫌だし…」

  それを見た川助が言った。

  「靴を手に持って、裸足で帰れば大丈夫さ。ぼくたちだっていつも裸足で遊んでるからね。」

  言われてみれば、穴太郎たちは靴を履いていない。

  「本当だ。足が汚れても気にしないの?」

  「家に入る前に洗えば大丈夫だよ。それにぼくたち4匹は自然の中が好きだから、この辺で遊ぶ時は裸足さ。

  もちろん、学校に行く時は靴を履くけどね。」

  それを聞いて、栗田くんも安心した。

  「ありがとう。じゃあぼくも裸足で帰ろう!」

  夕暮れの森を、5匹の子供が歩いていた。着ている物は既に乾いている。

  「今日もよく遊んだな。まさか友達が増えるなんて思わなかったぜ!」

  「都会の話を聞かせてくれてありがとう。勉強になったよ。」

  「おいらも楽しかったよ!クリクリは初めての川遊びなのに、ずいぶん水をかけるのがうまくなったな!」

  「ほんとにすごいよ、クリクリお兄ちゃん!」

  「ぼくも楽しかったよ。みんなと友達になれたからね。明日もいっぱい遊ぼう!」

  森を抜け、集落に戻ってきた。

  「川助、トントン、ぴょん太、クリクリ。今日もここでお別れだな。」

  「いつもここで別れるんだね。ぼくのおじいちゃんとおばあちゃんは、あそこに住んでるんだ。」

  「知ってるぜ。俺んちはあそこだ。」

  「ぼくの家はあそこだよ。」

  「おいらんちはあそこだぜ!」

  「ぼくはあそこに住んでる!」

  その家はいずれも、父親の実家から見える範囲に建っていた。

  「あそこに住んでるんだ。それなら気軽に会えるね。まあぴょん太の家は結構離れてるけど…」

  「ここじゃ家が少ないから、今ではみんなが顔見知りだな。ここの全員が家族と言ってもいいぐらいさ。」

  「田舎もいい所だね。だんだん好きになってきたよ。

  それじゃみんな、また明日!」

  「ああ、それじゃあな!」

  5匹はそれぞれの家に帰った。

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  [chapter:帰宅後の様子]

  「ただいまー!」

  「永雄、お帰り。ずいぶん長く遊んできたわね。」

  「それにずいぶん楽しそうじゃな。何があったか予想してみよう。

  永雄は…穴太郎たちと遊んでいたじゃろう!」

  「正解!やっぱりおじいちゃんたちも知ってるんだね。」

  「ああ。あの子たちはいつも一緒に遊んでおるんじゃよ。穴太郎のお父さんからもよく話を聞いておる。」

  「ぼく、穴太郎たちと友達になったんだ!明日も一緒に遊ぶんだよ。」

  「それは良かったのう。」

  「永雄も外で遊ぶ楽しさを覚えたようね。」

  「あの子たちのように裸足で遊んだのじゃな。庭で足を洗ってから家に上がりなさい。」

  夕食の時間、栗田くんは祖父母に穴太郎たちと遊んだ事を話した。

  穴太郎たち4匹も、それぞれの家で新しい友達の事を話した。

  入浴時も、就寝時も、5匹の子供は同じ事を考えていた。

  「明日はみんなで何をして遊ぼうか…」と。

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  [chapter:みんなで虫取り]

  翌朝もよく晴れた青空が広がっている。

  朝食を終えた栗田くんは、祖父母に言った。

  「それじゃ、行ってくるね!」

  「今日も楽しむのよ!」

  「そうじゃ、これを持ってけ。あの子たちもこの時期によく持っているんじゃ。」

  祖父は虫取り網と虫かごを渡した。

  「ありがとう!行ってきまーす!」

  森に入ると、川助とぴょん太に会った。彼らも虫取り網と虫かごを持っている。

  「おはよう、川助、ぴょん太!」

  「おはよう。クリクリも虫取りに来たんだ!」

  「うん、まあね。やるのは初めてだけど。」

  「それならぼくたちが教えてあげるよ。クリクリには楽しい思い出を作ってあげないとね!」

  「ありがとう、嬉しいよ!そう言えば、穴太郎とトントンは?」

  「今日はまだ来てないけど、そのうち来ると思うよ。」

  それから、栗田くんは2匹に虫取りを教わった。

  「まずはそっと近づくんだ。できるだけ音を立てないようにね。」

  「そこから隙を突いて、一気に虫取り網で捕獲する!」

  言われた通りにすると、セミを数匹捕獲できた。

  「すごいね、クリクリお兄ちゃん!」

  「初めてなのにやるじゃないか!」

  「君たちの教え方が上手だからね。もうマスターしちゃったよ!」

  そこへ穴太郎とトントンが来た。こちらの2匹も虫取りスタイルだ。

  「みんなお待たせ!やっぱりここにいたか。」

  「おまけにみんな虫取りしようと思うなんて、おいらたち気が合うね!」

  栗田くんは挨拶をした。

  「おはよう、穴太郎にトントン。」

  「おはよう、クリクリ。読書感想文書いてたら遅くなっちゃったよ。」

  「おいらはお手伝いしてたんだ。母ちゃんにいろいろ頼まれちゃってね…」

  「そうなんだ。みんな揃ったから、今日も楽しく遊ぼう!」

  穴太郎とトントンも加わり、5匹で虫取りが始まった。

  「よし、取れた!」

  「こっちも!」

  「クリクリ、うまいなあ!」

  「さっき川助とぴょん太に教わったんだ。」

  「やっぱりそうか。川助は教えるのがうまいんだ。」

  「あーあ、逃げられちゃった…」

  5匹は森を駆け回り、夢中で虫を取り続けた。

  「みんなよく捕れたなあ!」

  2時間後には、全員の虫かごに虫が何匹も入っていた。

  セミ、バッタ、カブトムシ、クワガタムシ、トンボ…種類も多い。

  「さあ、何匹取れたか数えるぞ!一番多く取れた奴がチャンピオンな!」

  穴太郎の言葉を合図に、一同は虫を数え始めた。

  結果は栗田くんが14匹、穴太郎が12匹、川助が15匹、トントンが4匹、ぴょん太が7匹。

  「やった、今日もぼくがチャンピオンだ!」

  「クリクリは2位か!初めてでこれはすごいぜ!

  俺も頑張ったけど、やっぱり身軽な川助には勝てないな…」

  「穴太郎も十分頑張ったよ。川助より3匹少ないだけだし、10匹以上捕れたんだから!」

  「ありがとう、クリクリ。」

  ぴょん太とトントンは、少し残念そうな表情を浮かべている。

  「ぼくたちはまだ勝てないね…」

  「いつかおいらもチャンピオンになりたいな…」

  栗田くんが尋ねた。

  「え?君たちだってよく頑張ってたように見えたけどなあ…」

  「おいらはこんなにデブだから、体が重くて虫に近づくだけでも大変さ。近づく途中で感づかれ、逃げられてばっかりだよ…

  まあ今日はまだいい方さ。1匹も捕まえられない日だってあるし。」

  「ぼくは背が低いから、高い木にとまっているセミには網が届かない。だから低い所にいる虫しか取れないんだ。

  早く大きくなりたいけど、ぼくたち誰も歳を取らなくなったから、ずっとこのままかも…」

  穴太郎は2匹を元気づけた。

  「そう気を落とすな。俺やクリクリだってデブだけど、割と動けるぜ。だからトントンも頑張れば動けるデブになれるさ!

  ぴょん太だって、低い所の虫を中心に集めればもっとたくさん取れるさ。そうすればチャンピオンになれるかもしれないぞ!」

  「そうだな穴太郎!おいらはもっと動けるデブになるんだ!」

  「ぼくも頑張るよ!飛ぶ虫の方がかっこいいけど、地面の虫だって好きさ!」

  「さあ、虫取りが終わったから逃がすぞ!」

  「穴太郎、せっかく捕まえたのに逃がしちゃうの?」

  「ああ。虫たちだってこの森で暮らしている仲間さ。俺たちの遊びが終わったら逃がす事にしてるんだ。」

  「そうだね。みんなありがとう。」

  5匹は虫を逃がした。

  「いっぱい遊んだから、午前中の遊びはここまでにして帰ろう。」

  穴太郎の一声で、5匹は集落に向かって歩き出した。

  「そろそろ涼しい部屋に戻りたいな…」

  「今日は特別に暑いね…」

  元気に遊んでいた子供たちに、疲れが見え始めている。

  それぞれの家に帰り、昼食で体力を回復した。

  [newpage]

  [chapter:お泊りしよう!]

  時間が流れ、空が夕暮れに染まり始めた。

  栗田くんが部屋でくつろいでいると、インターフォンが鳴った。応対をした祖母が呼ぶ。

  「永雄、穴太郎くんが来たわよ!」

  「はーい!どうしたの、穴太郎?」

  「クリクリが俺たちの友達になったから、俺たちみんなでもっと楽しもうと思うんだ。明日の朝まで、俺んちで楽しもうぜ!」

  「それって、穴太郎の家にみんなで泊まるって事?」

  「そうだ。お泊りは楽しいぞ!」

  「うん、行くよ!

  おじいちゃん、おばあちゃん、誘われたから今夜は穴太郎の家に泊まるね。」

  「わかった。楽しんでくるんじゃよ。」

  「行ってらっしゃい。」

  栗田くんは荷物をまとめ、穴太郎の案内で彼の家へ。

  「うわあ、結構大きいね!」

  「だろ?」

  そこは純和風の造りだった。平屋建てだが、結構な広さがある。

  「父ちゃんが子供の頃は、親戚や近所のケモノがよく集まっていたんだぜ。だからこんなに大きいんだ。

  お泊りにもぴったり!俺たち4匹でお泊りする事もよくあるんだぜ。」

  「そんなにお泊りしてるんだ!やっぱり田舎はみんな仲良しなんだね。」

  「父ちゃん、母ちゃん、ただいま!」

  「お邪魔します、栗田 永雄です。」

  玄関では、穴太郎の両親が出迎えてくれた。共に太った体格だ。

  「紹介しよう。俺の父ちゃんと母ちゃんだ。どっちもいつも元気で豪快なんだぜ!」

  「はい、よろしくお願いします。」

  「話は聞いたぞ。お前がクリクリか。元気そうな子だな。」

  「みんな奥で待ってるよ!」

  畳敷きの居間に入ると、川助、トントン、ぴょん太が既に来ていた。

  「クリクリ、今日はみんなで楽しもうね!」

  「この家は楽しいんだぞ!」

  「いっぱい遊んで、思い出作ろうね!」

  「うん、みんなよろしく!今夜は楽しい夜になりそうだ!」

  全員で話し合っていると、台所の方から良い香りが漂ってきた。

  「夕食?」

  「そうだ、クリクリ。俺の母ちゃんの料理はうまいんだぜ!」

  「そうそう、あの料理は何度食べても飽きないよ。」

  「おいらもう腹ペコだぜ!待ちきれねえや!」

  「ご飯!ご飯!楽しみだよ!」

  5匹は思わず、お腹を鳴らした。

  「ああ、待ちきれねえ!穴太郎のお腹についてるゴマ風味の饅頭食わせてくれ!」

  「おいトントン、俺の出べそは食い物じゃないぞ!それに出べそならお前にもあるだろ!」

  穴太郎とトントンは、冗談で笑い合っている。

  [newpage]

  [chapter:楽しい夕食]

  夕日が沈みかけた頃、父親が居間に入ってきた。

  「お前ら、もうすぐ飯だぞ!ちゃぶ台の用意だ!」

  「了解だぜ、父ちゃん!」

  穴太郎と川助は、部屋の隅に立てかけられたちゃぶ台を運んでセットした。

  「へえ、ちゃぶ台で食事なんて珍しいね!」

  「今はテーブルが主流だけど、俺はこっちの方が好きだぜ。椅子に座るよりもみんなの距離が近くなる気がするからさ。」

  「そうなんだ。やっぱり食事はみんなで食べると楽しいよね!」

  ちゃぶ台や食器の準備が済むと、母親が夕食を運んできた。

  「さあ、たっぷり作ったよ!たんと食べな。」

  ご飯、煮豆、漬物、カレー…何品もの料理が並べられた。

  「ありがとうございます。おいしそうですね!」

  「あんたたちのお腹を満たせるだけ作ったよ。」

  合計7匹がちゃぶ台の周囲に座り、夕食が始まった。

  「いただきまーす!」

  「この煮豆、味がよく染み込んでますね!」

  「そうだろ?私の料理は近所からも評判がいいんだよ。

  おかわりもいくらでもあるから、遠慮しないで食べな。」

  「はい、もちろんです!」

  喜んで料理を頬張り続ける栗田くん。穴太郎やぴょん太も負けずに食べる。

  トントンも食べる事に夢中で、何度もおかわりを繰り返している。

  川助は他の子に比べると控えめだが、それでも食べる方だ。

  料理が半分ほどなくなり、お腹が少しずつ満たされてきた。

  栗田くんたちの食べるスピードは遅くなったため、会話を楽しむ時間になった。

  穴太郎の父親が、缶ビールを片手に話しかける。

  「クリクリはどんな部活に入ってるんだ?」

  「相撲部です。」

  「ほう、うちの穴太郎と同じじゃないか!」

  「はい、昨日話を聞きました。」

  「穴太郎は相撲が強いんだ。君はどうだ?」

  「ぼくは特段強いわけでも、負けてばかりでもない…つまり平均的ですね。」

  「そうか。穴太郎と相撲は取ったか?」

  「まだですね。明日の午前中にやってみようと思います。」

  「おっ、そうか!穴太郎、頑張れよ!」

  「おう、父ちゃん!」

  その後も様々な会話を楽しんだ。

  空が暗くなった時には、料理はすべてなくなった。

  デザートのアイスクリームとスイカを平らげ、缶ジュースも2本ずつ飲んだ栗田くんたちは、居間の床に寝転んでいた。

  「あー、食べた食べた…」

  「ゲープ!しばらく動けないぜ…」

  栗田くんも穴太郎も、元から大きなお腹がより膨らんでいる。

  「うーん…おいら起き上がれなくなっちゃったよ。もっとデブになっちゃうな。」

  トントンは誰よりも食べたため、お腹が重くなりすぎて起き上がれない。

  「食べ過ぎちゃったかな…でも満足だ!」

  川助のお腹は5匹の中では一番小さいが、それでもシャツから覗くぐらいには膨らんだ。

  「見て、狸みたいになっちゃった!」

  ぴょん太は全裸になっていた。それを見た栗田くんは大慌て。

  「ちょっと、よその家で裸になるのはまずいよ!腹掛け着けて!」

  「無理だよ。お腹が膨れたからきつくなっちゃった。」

  「でも裸は…」

  そこまで言った所で、穴太郎が止めた。

  「クリクリ、大事な部分はあのお腹で隠れるからいいだろ。それにあいつはまだ小さいから、少しぐらい許してやれ。

  俺の父ちゃんと母ちゃんも気にしてないさ。もうあいつはそういう子だとわかってるんだ。」

  「ああ、良かった…ぴょん太が服を着てる事ってあるの?」

  「10月から4月までは着てるぞ。あの格好は夏場だけさ。」

  「みんな、お腹は大丈夫かい?」

  後片付けを済ませた母親が語りかける。

  「動くのが面倒だけど大丈夫です。ぼくはいつもたくさん食べますから。」

  「俺も大丈夫だぜ。ちょっと寝てれば元のお腹に戻るさ!」

  「それならいいよ。お腹が元に戻るまでゆっくり休みな。」

  母親と入れ替わりに、父親も入ってきた。

  「お前ら、ずいぶん食ってたな!たくさん食って大きくなるんだぞ!」

  「おう、父ちゃん!どんどん横に大きくなってみせるぜ!」

  穴太郎の返事に、一同は笑った。

  「ガハハ、うまい返しだな!横もいいが、縦にも大きくなるんだぞ。」

  [newpage]

  [chapter:お風呂で大騒ぎ]

  約1時間後、お腹が落ち着いた所で母親が呼びに来た。

  「さあ、お風呂が沸いたよ!」

  「はーい、母ちゃん!よし、みんなでお風呂だ!」

  穴太郎を先頭に、5匹は廊下を進んだ。

  脱衣所で裸になり、浴室へ。

  「わあ、大きなお風呂!」

  栗田くんは感動の声を上げた。

  浴槽は栗田くんたち5匹が余裕で入れるほど大きく、洗い場も3つ用意されている。

  「広いだろ?うちには普通のお風呂もあるけど、大勢が泊まりに来る時はこっちを使うんだ。

  さあ、体を洗ってからお湯に入ろう。」

  「はーい!」

  元気な返事が、浴室に響いた。

  体をお湯で軽く洗い、浴槽へ。

  「まるでプールだね!」

  「だろ?俺たちにとっては温水プールのような物さ。ほら、川助を見ろ!」

  川助は浴槽の中を泳いでいる。

  「すごい!お風呂で泳ぐなんて見た事ないよ!」

  「普通のお風呂は小さいからな。ここまで派手に泳げるのは俺んちぐらいさ。」

  トントンとぴょん太は、昨日の川遊びと同様にお湯をかけ合って遊んでいる。

  「これでも喰らえ!」

  「うわあ、濡れちゃった!お返しだぞ!」

  「よし、俺も加わるか!」

  「それじゃぼくも!」

  「せっかくだからぼくもね!」

  5匹はお湯をかけ合ってふざけた。

  「あー、たっぷり遊んだね…」

  「それじゃ、今度は体を洗おう。今日もいっぱい外遊びしたから、きれいにしなくちゃな!」

  「おいらたちはまだ遊んでるぜ!」

  「じゃあ、お前らは後だ。ちょうど3つあるし、先に俺たちで体を洗おう!」

  栗田くん、穴太郎、川助は洗い場を1つずつ使った。残りの2匹はその間も浴槽内で遊んでいた。

  「んー、さっぱりした!」

  「トントン、ぴょん太、お前らの番だぞ!」

  2匹は洗い場に向かった。

  「なあ、穴太郎。おいらの体洗ってくれないか?」

  「クリクリお兄ちゃん、ぼくの体洗ってよ!」

  川助が栗田くんに説明する。

  「トントンとぴょん太は、いつもお父さんやお母さんに体を洗ってもらうんだって。

  トントンはあんなに太ってるから自分では手の届かない場所も多いし、ぴょん太はまだ小学校に通ってないからね。

  だから、ぼくたち4匹でお泊りするといつも穴太郎とぼくで体を洗うんだ。でも今日はクリクリにやって欲しいみたいだよ。」

  「そうなんだ。了解!」

  「あー、気持ちいい…」

  穴太郎に体を洗ってもらうトントン。脂肪まみれのお腹や背中には、自分で手を伸ばす事ができない。

  「出べそも頼むよ!さっきからかゆくてさ…」

  「ああ、わかった。今日も掃除のしがいがある出べそだな!ほんと汚れが溜まりやすいよな。」

  「うん。よく母ちゃんに言われるんだ。『きれいにしなさい!』って。

  ああ、へそゴマが食えるゴマだったらいいのにな…そしたらご飯にかけるのに!」

  「ぴょん太、気持ちいい?」

  「アハハ、くすぐったいよ!」

  ぴょん太は笑い声を上げている。栗田くんは幼い子供を洗い慣れていないため、加減がよくわからない。

  「もう少し力を抜いて洗うんだよ。こんな感じさ。」

  川助に教わりながら、体を洗った。

  全員が体を洗い終わると、また浴槽に入った。今度は5匹とも落ち着いている。

  ある程度温まると風呂を出て、脱衣所で体を拭き、全身ドライヤーで毛皮を乾かした。

  「んー、さっぱりした!」

  [newpage]

  [chapter:布団の中で怖い話]

  ぴょん太は風呂から上がった後も、裸で走り回っている。栗田くんが追いかけている間に、穴太郎と川助はパジャマに着替え、トントンもふんどしを締めていた。

  残りの2匹も着替え終わると、穴太郎に案内されて寝室へ。布団が3枚敷かれていた。

  「これが俺で、これが川助。クリクリの分はこっちだな。」

  「あと2枚はどこ?」

  すると、ぴょん太が言った。

  「ぼくとトントンはお泊りの時、家から布団を持ってくるんだ。」

  「へえ、準備がいいね!」

  「まあ、それにはわけがあるんだけどね。そのうちわかるよ。」

  川助たちが残り2枚を敷き、全員で布団に入った。

  「父ちゃん!母ちゃん!おやすみー!」

  「おう!ゆっくり休めよ!」

  穴太郎は別の部屋にいる両親に呼びかけ、電気を消した。

  部屋が暗くなっても、5匹はまだ眠れない。ぴょん太が興奮しながら言った。

  「ねえ、クリクリお兄ちゃん!なんかお話してよ!」

  「お話か…どんなのがいい?」

  「怖いお話がいい!」

  穴太郎やトントン、川助も続く。

  「ああ、すっごく怖いのを頼むぜ!」

  「トイレに行けなくなるぐらい怖いのを!」

  「みんなお話が好きなんだ。いつもはぼくが話すんだけど、やっぱりクリクリの事が気になるみたいだね。」

  栗田くんは悩んだ。

  「怖いお話って、ありきたりなのしか知らないよ…何かないかな…

  そうだ!あの話にしよう!」

  「待ってましたー!クリクリお兄ちゃん、どうぞ!」

  栗田くんは声を落とし、話し始めた。

  「どこの家にもある鏡。その奥には別の世界が広がっているんだ。

  そこは何もかもが反対で、ぼくたちの常識が通じない世界。」

  「へえ、なんでも反対の世界か。みんな逆立ちして歩くのか?」

  「そんな面白い物じゃない。とても恐ろしい世界なんだ。

  例えば、消防士は火事を消すのが仕事だよね?でも鏡の世界だと、建物に放火して火事を起こすのが仕事なんだ。

  自動販売機ではジュースやお茶じゃなくて、毒物が売られている。だから誰でも毒物を簡単に手に入れられちゃうんだ。

  それから、学校の先生は光線銃を持っている。問題の答えを間違えると、撃たれて灰にされちゃうんだ!それを防ぐためにはどうすればいいか…」

  穴太郎たちは、震えながらも話に聞き入った。

  「…それが鏡の世界。みんなも鏡には注意だよ…」

  話が終わると、穴太郎たちは拍手を送った。

  「いやあ、怖かった!今までに聞いた事のない話だったよ!」

  「クリクリはお話作りの才能があるね!絶妙にリアリティのある話で良かったよ。」

  「まるで本当に見てきたみたいだった!おいらがその世界にいたら、とっくに灰にされてるよ…」

  「クリクリお兄ちゃん、この話は嘘だよね…?」

  「うん。みんな作り話だよ。」

  「良かったー!本当だったらどうしようと思ってたんだ。」

  一同が安心する声を聞いて、栗田くんはひそかに笑った。

  (本当は「みんな作り話」って部分が嘘なんだよね。ぼくは全部、1年前に見てきたんだから…)

  それから30分も経つと、部屋には寝息が響いていた。

  しかし、全員が寝ていたわけではない。トントンだけが眠れずにいた。

  (おいら、トイレに行きたいなあ…ノリであんな事言わなければ…)

  普段は元気なトントンだが、実は臆病者。彼にとっては夜のトイレもかなりの冒険だ。

  それでも勇気を振り絞り、なんとか布団から廊下まで足を進めた。

  次第に目が慣れてきた時、廊下の曲がり角に置かれた鏡が目に入った。トイレは曲がり角の先だ。

  (ああ…もし鏡の世界に迷い込んだら…)

  恐怖のあまり先に進めず、廊下を戻って布団に飛び込んだ。程なくして彼も寝入った。

  [newpage]

  [chapter:おねしょの朝]

  翌朝7時。栗田くんは布団の中で目覚めたが、同時に違和感を覚えた。

  (ん?なんか布団が冷たい…)

  その正体を確認した彼は、思わず叫んでしまった。

  「ああーっ!なんて事だ!ぼくはなんて事を!」

  栗田くんの布団には、水たまりが広がっていた。ズボンやパンツも濡れている。

  (どうしよう、おねしょしちゃったよ…もうとっくに治ったと思ったのに…

  昨日のスイカやジュースのせい?でもその後でちゃんとトイレに行ったのに…まだ水分が体に残っていたとか?

  こんな現場を見られたら、ぼくは普段からおねしょをしてるように思われちゃう!そんなの絶対に嫌だよ!)

  慌てていると、穴太郎と川助が目覚めた。

  「おはよう、クリクリ。」

  「よく眠れたかい?」

  「う、うん、まあね…」

  「いやあ、俺今日もやっちゃったよ…」

  穴太郎の布団にも、水たまりが広がっている。

  「え、穴太郎も?」

  「クリクリにはまだ言ってなかったな。ここだけの話だけど、俺たちみんなおねしょが治らないんだよ。」

  「恥ずかしながらぼくも…でもぼくはおむつを履いて寝るから、布団は濡らさないよ。」

  「そうなんだね。実はぼくもおねしょをしちゃったんだ。」

  「へえ、お前もか!」

  「うん…でも普段はしてないんだ。本当だよ!今日はたまたまだから!」

  話していると、トントンとぴょん太も目覚めた。

  「おはよう、みんな。」

  「おはよう、クリクリお兄ちゃん。」

  「えへへ。おいらもやっちゃったよ…今日は一段とたくさん出ちゃったぜ…」

  「ぼくもこーんなにでっかいのをしちゃった!」

  トントンはやや恥ずかしそうだが、ぴょん太は得意げ。彼には羞恥心がそれほどないようだ。

  「わあ、クリクリお兄ちゃんもおねしょしたんだ!」

  「うん…みんなとお揃いだね。」

  「クリクリはもうおねしょが治ってるんだよ。今日はたまたましちゃっただけなんだ。」

  川助がぴょん太に説明した。

  「トントンとぴょん太が家から布団を持ってくるのは、こういうわけだったんだね。」

  「そうさ。母ちゃんが言うんだ。『あんたはおねしょばかりするから、お泊りの時も自分の布団を使いなさい』ってね。」

  「ぼくもトントンからその話を聞いて、そうするようになったんだ。」

  「そうか。ぼく、悪い事しちゃったかな…」

  そこへ穴太郎の父親が入ってきた。

  「みんな、おはよう。

  お前ら、今日も元気だな!こんなに見事なおねしょをするなんて。」

  栗田くんは慌てて謝った。

  「ごめんなさい!ぼくもやってしまいました!いつもはしないんですけど、昨日はスイカとかジュースで水分を摂り過ぎてしまったようで…食後にトイレに行ったのに…」

  「そうか。でも気にしないよ。子供は少しぐらいおねしょしたっていいさ。

  それに、すぐに謝った事から君の真面目さがわかった。君を怒るなんてとてもできないな。

  さあみんな、布団を干そう。今日もよく晴れてるから、すぐに乾くさ!」

  川助以外の4匹は、庭の物干しに布団を干した。

  並んだおねしょ布団を見て、4匹は楽しげに話している。

  「やっぱりトントンのおねしょはでかいな!」

  「おいら、昨日の夕方からずっとトイレ行ってなくて…」

  「ぼくのだってでっかいよ!」

  「ぴょん太もすごいな!もっと頑張れよ!

  俺とクリクリは、あいつらに比べると小さいな。」

  「まあ、ぼくは一度トイレに行ってるからね。そうだ、寝る前のを忘れちゃったんだ…」

  「そう言われれば、俺もそうだ。やっぱりトイレに行かないといっぱいおねしょをしちゃうんだな。」

  布団を濡らさなかった川助も、その様子を微笑まし気に見ていた。

  また父親が来た。今度はスマートフォンを持っている。

  「せっかくだし、みんなの写真を撮ろう。布団の前に立ってくれ。」

  「えー、こんなの撮るの?」

  「俺の父ちゃん、俺たちでお泊りするたびにこんな写真を撮ってるんだよ。」

  栗田くんたちは布団の前に立った。もちろん全員、パジャマや下着が濡れている。

  川助はパジャマのズボンを脱ぎ、おむつを晒した。これも毎回の事らしい。

  「さあ、撮るぞ!」

  父親はシャッターを切った。

  照れている栗田くんとトントン、川助。平然としている穴太郎。得意げなぴょん太。それぞれの個性が出ている写真だ。

  5匹は風呂へ行き、濡れた下着や下半身を洗った。

  「クリクリお兄ちゃん、新しいパンツはあるの?ぼくたちはいつもおねしょするから寝る時用の下着を持ってるけど…」

  「荷物の中におととい履いてた洗濯済みのパンツがあったから、大丈夫さ。」

  「そうなんだ。良かったね。」

  安心した栗田くんは、思い出したように言った。

  「そうそう、知ってる?アメリカにはおねしょのコンテストがあるんだよ。

  誰のおねしょが一番大きいか、面積を測って競うんだ!優勝すれば賞金1万ドルがもらえるのさ!」

  「へえ、そうなんだ!ぼくも出たいな!」

  「おいらもおいらも!おいらは優勝間違いなしだぜ!」

  ぴょん太とトントンは喜んだ。

  「なーんてね。嘘だよ。そんな大会はない!」

  「えー、嘘だったの?」

  「でも面白い嘘だな。おいらは気に入ったぜ!」

  栗田くんはひそかに笑った。

  (まあ、嘘は「アメリカ」の部分だけさ。これは別の世界にあるイベント。ぼくは春にこの目で見たんだから…)

  [newpage]

  [chapter:簡易相撲大会]

  服に着替えて廊下に出ると、母親が呼んだ。

  「さあみんな、朝ごはんだよ!たっぷり召し上がれ!」

  ちゃぶ台には料理が並べられていた。ご飯や味噌汁、卵焼き、昨夜のカレー…

  「いただきまーす!」

  「いっぱい食べて元気をつけなきゃ!」

  「たらふく食って大きくなるぜ!」

  「やっぱり2日目のカレーもうまいな!」

  栗田くんたちは、夢中で食べた。

  朝食でお腹を満たし、後片付けが終わると遊びの時間。

  「穴太郎、昨日言ったようにみんなで相撲をとろうよ!」

  「そうだな、クリクリ!みんなで力比べだ!」

  「でもどんな格好でやる?まわしはないよね?」

  「庭にブルーシートを敷いて、パンツ1枚でやろう。それが一番いい。」

  「そんな格好で相撲をした事はないから、ちょっと普段とは違う感じになりそうだね。でも面白そう!」

  父親がブルーシートを敷き、簡易相撲大会が始まった。

  栗田くんなど3匹は服を脱ぎ、パンツ1枚になっている。栗田くんはブリーフ、穴太郎はトランクス、川助はボクサーパンツだ。

  なお、トントンとぴょん太は何も変わっていない。

  まずは栗田くんと穴太郎の取り組み。行司は父親だ。

  「はっけよーい…のこった!」

  2匹はパンツを脱がさんばかりの勢いで戦い、最終的に穴太郎が勝った。

  「やった!やっぱり俺は強いぜ!」

  「負けちゃった…でも次は負けないぞ!」

  次はトントンとぴょん太。

  「はっけよーい…のこった!」

  見た目の割に素早く動けるぴょん太と、太り過ぎで動きの鈍いトントン。

  トントンは取り組みの開始からまもなく自重で転んだため、ぴょん太が勝った。

  「わーい!勝ったぞー!」

  大喜びで跳びはねるぴょん太。また腹掛けがまくれているが、誰も気にしない。栗田くんもさほど気にならなくなっていた。

  「おいら、もっと力つけて動けるデブにならなきゃ…」

  トントンは誓った。

  次は栗田くんと川助。

  「はっけよーい…のこった!」

  川助は5匹の中で肥満度が最低のため、一番身軽に動ける。その一方、相撲部所属ではないため相撲はあまり強くない。

  この取り組みは、栗田くんが勝った。

  「よし、勝ったぞ!」

  「やっぱり相撲部員は強いね。」

  その後も1時間ほど、相手を次々に変えて取り組みが続いた。

  栗田くんは何度も勝ち、何度も負けた。

  勝った回数が最多の子は穴太郎、最少の子はトントンだった。

  「あー、楽しかった!」

  「程よく疲れたね!」

  「ガハハ、やっぱり子供は元気に遊ぶのが一番だ!」

  父親も豪快に笑った。

  [newpage]

  [chapter:楽しい時は残りわずか]

  「さて、そろそろ帰らないとね。」

  「おいらたち、お泊りの時は昼までに帰る事にしてるんだ。」

  「楽しい時間はもうすぐ終わるけど、ぼくたちはまた明日も遊ぶんだ。」

  それを聞いて、栗田くんは思い出した。

  「そうだ、ぼくは今日埼玉に帰るんだ!お昼過ぎにここを去るよ。」

  穴太郎たちは、それを聞いて言った。

  「そうか、確かにそう言ってたな…」

  「クリクリとはもう少しでお別れか…」

  「残り少ない時間を楽しもうね!」

  「最後までぼくたちは一緒さ!」

  栗田くんも元気よく言った。

  「うん、そうだ!ぼくたちは友達だ!」

  「みんな、帰る前にアイスをどうぞ。今日も暑いからね。」

  母親が棒アイスを5本持ってきたため、5匹は縁側に座って食べた。

  「やっぱアイスはうまいぜ!」

  「だよね、穴太郎!ぼくも夏場にはよく食べるんだ。」

  「クリクリお兄ちゃんも同じなんだね!ぼくもアイスが好きだよ。」

  「おいらも好きさ。腹いっぱい食ってみたいぐらいだよ。」

  「でもトントン、去年は『もうアイスなんか見たくもない!』って言ってたよね?」

  「か、川助、あれはアイスの食いすぎでお腹を壊した後さ…もう気が変わった!」

  トントンの言葉に全員が笑う。もちろん栗田くんも例外ではない。

  (こんな時が、いつまでも続けばいいのにな…)

  「それじゃ、ぼくたちは帰ります。」

  「お世話になりましたー!」

  「いろいろありがとう!」

  「ぼくもいろいろお世話になり、楽しい時間が過ごせました。どうもありがとうございます。」

  棒アイスを食べ終わると、穴太郎以外はそれぞれの家へ。トントンやぴょん太は、自分の体より大きな布団を担ぎながら帰った。

  「ただいま。」

  「永雄、しばらくぶりじゃな。」

  「お泊り楽しかった?」

  「うん!みんなといっぱい遊んで、いっぱい食べて、いっぱい笑ったんだ!」

  「それは良かったのう。」

  「これからお昼ご飯作るから、それまでゆっくり休んでてね。」

  [newpage]

  [chapter:別れの時]

  昼食が終わってしばらくすると、インターフォンが鳴った。

  ドアを開けると、穴太郎たち4匹が立っていた。

  「今度はどうしたの?」

  「クリクリはもう帰るんだろ?だから最後に会っておこうと思ってさ。」

  「みんな、ありがとう!」

  栗田くんは玄関を出て、穴太郎たちと話した。

  「ぼくはここに来るまで、田舎は不便な場所だと思っていた。

  でも今はとても素敵な場所だと思ってる。都会にはない自然が広がって、みんな仲良しで、都会ではできない遊びがいっぱいできるからね。

  ここで過ごした3日間は、この夏休み一番の思い出になりそうだよ。」

  「おいらたちもいつか、クリクリの住む大上区に行ってみたいな。話に聞いたゲームセンターとかカラオケとかやってみたいぜ!」

  「うん。楽しい町だからいつかおいでよ。

  でも、大上区にはここと違ってケモノが多いから、ふんどしや腹掛け1枚で歩いちゃだめだよ!」

  その後も10分ほど、思い出を語り合った。

  夏らしい天気だった。空はよく晴れ、太陽が照りつけている。

  セミの鳴き声が響き渡り、時折鳥の声も聞こえる。栗田くんが来た日と同じように…

  「そうだ、せっかくだからみんなで写真を撮ろうかのう。」

  「いいね、おじいちゃん!ほらみんな、集合写真だよ。」

  栗田くんを中央に残り4匹が並び、祖父がシャッターを切る。

  「永雄、どうじゃ?」

  「うん、いい出来だ!」

  全員が笑顔を浮かべてポーズを決める、完璧な集合写真が撮影できた。

  栗田くんの帰る時が来た。

  荷物をまとめ、祖父が自動車の準備をする間、栗田くんは穴太郎たちに別れの挨拶をした。

  「本当はまだみんなと遊びたいけど、ぼくは帰らなくちゃならない。

  みんな、また会おうね。きっとまた来るから!」

  「クリクリとの時間、あっという間だったな…」

  「またいつか来てね。ぼくたちはいつでも待ってるから!」

  「おいらたち、クリクリがいなくなると寂しくなるぜ…」

  「クリクリお兄ちゃん、ここに引っ越してもいいよ!」

  「みんなの気持ちは嬉しいけど、ぼくには故郷があるんだ。家族や昔からの友達がいる大上区がね。

  穴太郎、川助、トントン、ぴょん太。みんなとはしばらく会えなくなるけど、いつまでも忘れないからね!」

  それから、全員と握手やハグを交わした。

  「永雄、おじいちゃんの準備が終わったからそろそろ行きましょう。」

  「うん、おばあちゃん。」

  栗田くんは祖母と後部座席に乗り込んだ。

  「クリクリ、またなー!」

  「また遊ぼうねー!」

  「おいら動けるデブになってみせるぞー!」

  「クリクリお兄ちゃーん!忘れないよー!」

  穴太郎たちは遠ざかる自動車に手を振りながら叫んだ。ぴょん太は涙も流していた。

  栗田くんも4匹の姿が見えなくなるまで、手を振り続けた。

  「永雄、あんなにお友達ができて良かったわね。」

  「みんな素敵な仲間たちさ。」

  20分ほど走り、土井中駅に到着。

  栗田くんは祖父母とも別れの挨拶を交わし、ローカル線に乗った。

  富山駅で新幹線に乗り換え、おやつを買ったり、景色を楽しんだり…その間も、脳内には穴太郎たちと過ごした楽しい思い出が広がっていた。

  (またみんなと会いたいな…)

  [newpage]

  [chapter:帰宅]

  夕暮れが迫る中、大上駅に到着した。構内は大勢のケモノでにぎわっている。

  (こんなにたくさんのケモノを見たのは久々だ。やっぱりにぎやかなのもいいな!)

  東口から住宅街へ抜け、久々の自宅へ。両親はまだ帰宅していない。

  自室に入ると、充電器はコンセントに刺さったままだった。

  (なんで気づかなかったんだろう…まあ過ぎた事だし、もういいや!

  さあ、充電充電っと!)

  日が沈みかけた頃、両親が帰宅した。

  「お父さん、お母さん、お帰り!」

  「永雄、ただいま。そしてお帰り。」

  「ねえお母さん、旅行はどうだった?」

  「いろんな場所を周って楽しんだわ。友達とも久々に話せて、懐かしい気分になったのよ。」

  「お父さん、ゴルフはどうだった?」

  「楽しかったぞ。職場のみんなで盛り上がったからな。

  それで永雄、土井中村はどうだったんだ?」

  「すっごく楽しかったよ!友達が4匹もできたんだ!」

  「ああ、あの写真の子たちか。おじいちゃんが写真を送ってくれたから見たよ。」

  「そうだったね。何があったかは夕食の時に話すよ。」

  「わかった。今日はみんな疲れてるから、宅配ピザにしよう!」

  「わーい!やったー!」

  [newpage]

  [chapter:エピローグ]

  1時間後。栗田くんはピザを頬張りながら、穴太郎たちについて話した。

  「…という子たちと友達になったんだ。みんなで一緒にいると、本当に楽しかったよ!」

  父親は笑いながら言った。

  「本当に楽しかったようだな。こんな写真も撮ってるなんてな。」

  それを聞いた栗田くんは、不思議に思った。

  「え?おじいちゃんは1枚しか撮ってないけど…どの写真の事?」

  「これだよ。」

  「どれどれ…ええっ!?」

  父親が差し出したスマートフォンの画面には、栗田くんたち5匹がおねしょ布団をバックに並んでいる写真が表示されていた。

  「ちょっと!なんでこの写真がここにあるんだよ!」

  「おじいちゃんが知り合いのアナグマから送ってもらった写真だそうだ。いやあ、永雄も友達も元気だな!」

  「フフッ、本当ね!こんな大きな地図を作っちゃうなんて!」

  「見られたくなかったのに!他の誰かには見せてないよね…?」

  「いや、ホテルで朝ご飯食べてる時にこの写真が送られてきて、思わず吹き出したら何を見てるのか聞かれて、その場のノリで同行者全員に見せちゃったんだよ…悪いな、永雄。」

  「そんな!恥ずかしい!お願いだからこれ以上見せないで!

  こんな写真を友達に見られたら、ぼくはもう学校に行けないよ!」

  恥ずかしがって床にうずくまる栗田くん。それを見て両親はますます笑った。

  そのうち彼も次第に面白くなり、思わず笑い出した。

  「内緒だけど教えるね。どうしてこの写真があるかと言うと…」

  彼はまた語り始め、楽しい夕食の時間が過ぎていった。

  大上区でも土井中村でも、夜は同じように更けていった。

  [newpage]

  [chapter:Extra Episode]

  その頃、別の世界で…

  「ん?ここはどこなんだ?…お前は?」

  「お目覚めですか、エレノア様。私が蘇生させたのですよ。」

  「そうか。礼を言おう。」

  「スーパーコンピューター3000万台分の頭脳を持つ私には、不可能な事などありません。死者蘇生など朝飯前ですよ。」

  「そうか。しかしスーパーコンピューターとはいったい…」

  「単純に言えば、複雑な計算を一瞬で行う道具ですね。私はそのぐらい優れた頭脳と全知全能の力を持っているのです。」

  「全知全能…私よりも強いのか…」

  「はい。ですがエレノア様も強力な魔法が使えたという話を聞きました。私はぜひともその力をお借りになりたいのです。」

  「そうか。それでお前はいったい誰なんだ?」

  「私は…」

  [chapter:おしまい]