第7話「おとぎの国からこんにちは」(前編)

  [chapter:プロローグ]

  ここはおとぎの国、ファンタスティカ王国。

  森の中に、エイミーという人間の少女が暮らしていました。

  彼女の友達は森に住む動物や小鳥たち。一番の仲良しは、シマリスのジェフです。

  ある日、エイミーはキャンバスに絵を描いていました。

  「エイミー、そりゃ誰だい?」

  「ジェフ、これは私の理想の王子様よ。私の夢はこんな素敵な王子様と出会う事なの。」

  「そんな夢があったのか!いつか叶うといいな。」

  「そうでしょ?さあ、できたわ。」

  「エイミー、すごく上手だな!」

  「ありがとう、ジェフ。理想の姿が描けたわ。

  ああ、私の王子様…」

  エイミーは絵に向かって愛の歌を歌います。その歌声は森に広がっていきました。

  「あの美しい声は何だ?」

  森の中を白馬に乗って散歩していたジェームズ王子は、その歌声を聞きつけました。

  「王子様、あれは空耳ですよ!」

  従者のピーターが止めますが、王子は聞きません。

  「あれは絶対に空耳じゃない!走れ!」

  「待ってくださーい!」

  ピーターは追いかけますが、馬の速さには勝てません。王子の姿はすぐに見えなくなってしまいました。

  「ああ、ついに恐れていた事が起きてしまった…」

  歌声の元にたどり着いたジェームズ王子は、喜びの声を上げました。

  「ああ、何という美しい女性だ!」

  エイミーも気がついて、家から出てきました。

  「あなたはもしかして王子様?」

  「そう、この王国のジェームズ王子だ。」

  「私はエイミーよ。王子様と出会いたかったの!」

  「実は僕もこんな美女と会いたいと思っていたんだ。どうか僕と結婚してくれ!」

  「もちろんよ!」

  夕日の中、2人は白馬に乗ってキスを交わしました。

  「良かったな、エイミー。」

  ジェフも陰から嬉しそうに眺めています。

  ところが、それを見て怒りをあらわにしている者がいました。

  「ジェームズ、よくも結婚相手を見つけたわね!」

  それはジェームズ王子の母親であり、この国を治めるスーザン女王でした。表向きは普通の女王ですが、実は魔法が使えます。

  見つめている魔法の水晶玉には、現在のエイミーとジェームズ王子が映っています。

  「あの娘を引き離さないと!」

  すると、隣に立っていたピーターが言いました。彼はスーザン女王の忠実な手下です。

  「ではこういうのはどうでしょう?明日ここへ来たエイミーに『結婚式は中止になった』と言って追い返すとか…」

  「ピーター、そんな単純な方法はだめよ!もっと確実な方法にしなさい!」

  「はい、女王様。では別のアイデアを…」

  「あんたはもう黙って。私が明日までに考えておくわ!」

  [newpage]

  [chapter:罠にかかったエイミー]

  次の日は結婚式です。青空の下、エイミーは馬車でお城に着きました。

  「王子様と結婚できるなんて、夢みたい!」

  エイミーは真っ白なドレスを着て、期待に胸を膨らませています。肩にはジェフが乗っています。

  「エイミー、俺も全力で祝うからな。」

  「ありがとう。さあ、王子様が待っているわよ!」

  お城の庭を歩いていると、お婆さんの姿が目に入りました。何かを探しているようです。

  「まあ、どうしたの?」

  「ああ、実は指輪を落としてしまったんじゃ。あそこの井戸の方かもしれない…」

  「それは大変ね。探してあげるわ。」

  「エイミー、結婚式はもうすぐだぜ!そんなの無視しろよ!」

  ジェフは慌てて引き止めますが、エイミーは聞きません。彼女は優しい心の持ち主で、困っている誰かを助けずにはいられないのです。

  「もう俺はここで待ってるぞ!指輪が見つかったら呼んでくれ!」

  エイミーとお婆さんは井戸に向かいました。

  「あ、あったぞ!井戸の中じゃ!ほら、覗いてみてくれ。」

  「どこなの?見えないわ。」

  「ほら、奥の方にある。もっと身を乗り出さないと取れないぞ!」

  ジェフは何気なく井戸を見て、驚きました。

  エイミーが井戸に向かって身を乗り出し、お婆さんはその後ろから忍び寄って突き落とそうとしています。

  「危ない!」

  ジェフは駆け寄りましたが、時すでに遅し。エイミーは井戸に突き落とされてしまいました。

  その直後、お婆さんの姿がスーザン女王に戻りました。これはすべて彼女の仕掛けた罠でした。

  「フフフ、成功ね。同じ種族のいない世界へ行ってらっしゃい!」

  「助けてー!」

  エイミーは暗闇を落ち続け、どこかにたどり着きました。上を見ると、鉄の蓋があります。

  「ここが出口かしら。」

  蓋を開けたエイミーは、外に出て驚きました。そこには見た事もない世界が広がっていたのです…

  [newpage]

  [chapter:知らない事ばかりの世界]

  「いったいここはどこ?知らない景色ね…」

  穴から出たエイミーは戸惑っている。

  ファンタスティカ王国は朝だったが、こちらは夜だ。周囲には光り輝く四角い建物が並んでいる。

  突然背後から大きな音がした。

  「何?」

  振り向くと、鉄でできた猛獣がうなり声を上げながら迫ってきた。エイミーは慌てて逃げ、猛獣の突進を回避した。

  「助かったわ…ここがどこか聞かないと!」

  階段を登り、道を歩いていると、突然話しかけられた。

  「すみません、あなたの種族は何ですか?」

  「種族?私は…」

  そこまで答えた時、エイミーは悲鳴を上げた。相手は人間サイズで二足歩行な上に、スーツを着てかばんを持った狼だった。

  「お、狼!助けてー!」

  ファンタスティカ王国の狼は凶暴な動物だ。話が通じる相手でない事は彼女もよく理解している。

  ドレスを着ているためうまく走れないが、全力で逃げた。

  「あそこが明るいわ。あそこなら…」

  エイミーは大きな建物に入った。屋根の上には「大上駅」の文字が見える。

  ここはケモノ界の埼玉県さいたま市大上区だ。

  彼女が出てきた穴は西口側の道路にあるメンテナンスホールで、猛獣と思った物は自動車だった。

  今は木曜日の19時。大上駅構内は仕事帰りのケモノたちでにぎわっていた。この世界には人間がいないため、エイミーは目立って仕方がない。

  「なんだあれ?猿か?」

  「いや、霊長類は文明を持たない唯一の哺乳類だ。新種のケモノか?」

  「ケモノなら全身に毛があるか、象やカバみたいに毛がないかのどっちかだろ。あれは頭にしか毛がないぞ。」

  「なんでここでドレス着てるのかしら?」

  彼女はその視線に耐えられなくなった。

  「ここはどこの国かしら…誰か良さそうな相手は…」

  構内を横切り、東口へ出た。

  「あ、あれはお城だわ!」

  緑の屋根に茶色の壁、並んだ尖塔…ライトアップされたそれは間違いなく城だった。

  「良かった、ここも王国なのね!帰り道を聞かないと!」

  喜び勇んで城の入口へ。ところがその両側には、ナイフを持った虎とフォークを持った狼が立っている。

  「キャーッ!殺されるわ!」

  彼女はまた逃げた。

  もちろんここは城ではない。食べ放題レストランの「フード・キャッスル」で、虎と狼も作り物だ。

  エイミーは暗い路地裏へ逃げた。

  「ここなら…大丈夫かしら…」

  そこへ、学生服を着たシマリスとアライグマが現れた。この2匹は不良学生だが、彼女にはそれがわからない。

  「あら、あなたたちはシマリスさんにアライグマさんね!

  人間みたいに立っているのなんて初めて見たけど、これなら友達になれそう!」

  すると2匹は言った。

  「おっ?変な奴が来たぞ。」

  「なんだこいつ?猿か?」

  「しゃべる上に服を着た猿とは珍しいな。生物園に売って金を稼ごう!」

  「猿とは失礼ね。私は人間よ!」

  「ニンゲン?なんだよそれ。聞いた事もない言葉だな。」

  「それになぜドレスなんか着てるんだ?」

  「これは結婚式で着るドレスよ!でもまだ式には…」

  「結婚式?じゃあなんでこんなとこにいるんだよ。」

  「出ないならドレスはいらないな。こうしてやる!」

  2匹はドレスを破り始めた。

  「いいティアラじゃねえか!これはもらうぞ!」

  シマリスはティアラを奪った。

  「ああ、なんて事!あなたたちってちっとも優しくないシマリスさんとアライグマさんなのね!」

  その時、大声が響いた。

  「おい、お前ら!そこで何をしてるんだ!」

  「やばい、逃げろ!」

  2匹の不良は逃げていった。

  [newpage]

  [chapter:エイミー、金子家へ]

  声の主は、白猫の会社員だった。

  「さあ、もう大丈夫ですよ…え、なんで猿がここにいるんだ?」

  「ああ、また猿と間違えられたわ。私は人間なのに…」

  「ニン…ゲン?知らない種族だな。どこから来たのですか?」

  「ファンタスティカ王国です。王子様と結婚式を挙げるはずだったのに井戸に落とされて、気がついたらこの国にいたんです…」

  「ファンタスティカ王国?どこにあるんだろう。」

  白猫はスマートフォンを取り出してインターネットで調べたが、情報は見つからなかった。

  「どこかわからない。まさかとは思うが…別の世界から?」

  「別の世界…そうなのかもしれません。」

  「それは大変だろうな。かわいそうだから私の家に来なさい。」

  「いいんですか?」

  「ああ。困っていたら助けてあげないと。」

  白猫とエイミーは町を抜けて住宅街に入り、ある家に着いた。表札には「金子」と書かれている。

  「さあ、ここが私の家だ。」

  「ああ、やっと親切なお方に出会えたわ…感謝します。」

  「ただいま。」

  白猫がドアを開けると、妻と2匹の子供が出迎えた。スマートな4年生の真里ちゃんと、太った1年生の雄二くんだ。

  「お帰りなさい…ってその猿は何?」

  「お父さん、お帰り!なんで猿連れてるの?」

  「しかもボロボロのドレスを着てるわ!」

  「ああ、これは猿じゃなくてニンゲンという種族らしい。どうやら別の世界から迷い込んで困っているみたいなんだ。」

  「それ本当?」

  「こんな生き物は見た事がないし、嘘をついているようには思えないんだよ。

  これが私の家族だ。あなたも挨拶を。」

  「こんばんは、エイミーです。皆さん、よろしくお願いします。」

  「可愛い名前ですね。私は真里よ。」

  「ぼくは雄二って言うんだ。」

  「マリーにユージーン。素敵なお名前ね!」

  「違うけど…まあいいか。」

  「遠い所からようこそ。これから夕食なので一緒にどうですか?良かったら服も貸してあげますよ。」

  「まあ、夕食に服まで?わざわざどうもありがとうございます。

  ああ、やっと優しくしてもらえたわ…」

  エイミーは安堵の表情を浮かべた。

  「いただきまーす!」

  夕食が始まった。メニューはご飯、味噌汁、焼き魚、大根サラダ。

  エイミーは服を母親から借り、食事は真里ちゃんと母親が半分ずつ分けてくれた。

  「この2本の棒はどうやって使うのかしら?」

  「ああ、お箸ね。こうやって持つのよ。」

  「難しいわね…」

  初めての箸に手こずっていると、雄二くんが尋ねた。

  「ねえ、エイミーはどうしてここに来たの?」

  「ああ、そうだったわね。あれは昨日の夕方…」

  エイミーは話を始めた。結婚式の朝についてを話した時、父親が言った。

  「ん?出会って1日で結婚したのですか?」

  「ええ、そうです。それがどうかしましたか?」

  「それはいくらなんでも早すぎますね。」

  「早い?あなたたちは知り合ってから結婚するまでどのくらいかかったんですか?」

  「2年ぐらいです。」

  「まあ、そんなに?その2年で何をするんですか?」

  「デートを何度かしましたね。」

  「デートって何かしら?」

  「好きになった相手と一緒に出かける事です。相手の事をよく知り、楽しむための行為ですよ。」

  「まあ、こっちの世界にはそんな文化があるのね!」

  「ねえ、そろそろ続きを話してよ。」

  「ああ、そうだったわね。」

  彼女は最後まで話した。

  「…そんなわけで、私はこの世界に来たのです。」

  金子一家は同情した。

  「そうなんだ…」

  「大変でしたね。帰れるまでここにいてください。」

  「ああ、嬉しいわ…ありがとうございます。」

  夕食が終わり、エイミーは本格的に元気を取り戻した。部屋中の物に次々と興味を示している。

  「ねえ、この大きな鏡みたいな物は?」

  真里ちゃんと雄二くんが説明をする。

  「それはテレビよ。」

  「このリモコンで操作するんだよ。」

  スイッチを入れると、ドイツの風景が映った。ヨーロッパの各所を紹介する番組が流れている。

  「まあ、きれいな景色!これはどこでも見られる鏡なのね!」

  「んー、どこでもって訳じゃないけど、そんな感じかな。」

  2匹はその後も様々な物について教えた。

  電話、掃除機、IH調理器…エイミーの感動は止まらない。

  「遠くの相手とお話できるの?」

  「便利にお掃除できるのね!」

  「火を使わないのにお料理?魔法みたい!」

  そこへ母親が来た。

  「エイミーさん、お風呂が沸きましたよ。」

  「はい、わかりました。」

  「お風呂はお母さんが教えるわね。真里と雄二は宿題しなさいよ。」

  「私はもうやったわよ。」

  「ぼくはまだだった!」

  「じゃあ雄二は宿題しなさい。」

  しばらくしてエイミーは風呂から上がった。母親から借りたパジャマを着ている。

  「さっき借りた服も、このズボンも、後ろに穴が開いてるのね。完全に閉じる事もできるからいいけどなぜかしら?」

  「しっぽ穴ですよ。いろいろな種族に対応できるよう、穴のサイズを調節できるんです。

  その言い方からすると、ニンゲンにはしっぽがないみたいですね。」

  「そう、しっぽはないわ。

  それにしても、この家は魔法みたいな事がいっぱいなのね!あのお水はどこから来ているんですか?」

  「浄水場から水道管を通って来ているんですよ。」

  「浄水場って何ですか?」

  「水をきれいにする場所です。」

  「すごいわ!こっちの世界は知らない事だらけね!」

  エイミーが来た金子家は楽しい気分に満ち溢れていた。まるで家族が増えたようだ。

  [newpage]

  [chapter:新たな訪問者]

  一方、ファンタスティカ王国ではジェームズ王子が心配していました。結婚式の始まる時間から12時間が過ぎてもエイミーが来ないのです。

  「ピーター、エイミーはどこにいるんだ?こんなに待っても来ないぞ。」

  「ええと、もう帰ったんじゃないですか?」

  「そんなはずはない!結婚式当日に帰るわけがないだろう!僕はエイミーが来るまで待つぞ!」

  すると、ジェフが慌てて走ってきました。良い方法を考えているうちに眠くなり、長時間寝てしまったのです。

  「大変だ!変なお婆さんがエイミーを井戸に突き落としたんだ!」

  「何?それは大変だ!探して連れ戻さなければ!

  みんな、悪いけどエイミーが戻るまで結婚式は中断だ。」

  ジェフはジェームズ王子を井戸に案内しました。

  「さあ、ここに飛び込め!」

  「ここに落とされたのか?いったいどこにつながっているのだろう…」

  しばらく考え、覚悟を決めて井戸に飛び込みました。ジェフも続きます。

  「エイミー、待っていろよ!」

  「俺も行くからな!」

  [newpage]

  大上区は朝7時。通勤ラッシュの時間だ。

  信号が赤に変わった時、メンテナンスホールからジェームズ王子が現れた。ジェフはポケットの中にいる。

  道路は渋滞しているが、メンテナンスホールの上には車が止まっていなかったため、開ける事ができた。

  「エイミーはここに迷い込んだのか。早速探しに行かなければ…」

  歩いていると信号が青に変わり、車が走り始めた。

  「わっ、鉄の猛獣だ!止まれ!」

  運転手の虎は慌ててブレーキをかけたが、ジェームズ王子は自分の命令で止まったと思っている。

  「良かった、話の通じる相手だった。」

  その時、向かいからバスが走ってきた。

  「今度は鉄のドラゴンか!」

  停車したトラックのボンネットに乗り、そこから屋根に上がり、バスの屋根に飛び移る。

  「おい、そこに乗るな!」

  トラックの運転手が怒鳴ったが、ジェームズ王子の耳には入らない。

  彼は腰から剣を抜き、バスの屋根に突き刺した。

  剣が刺さった下は偶然にも乗客の隙間だったため被害者は出なかったが、車内はパニックになりバスも急停車した。

  「なんだなんだ?」

  乗客が慌ててバスを降りると、屋根の上でジェームズ王子が言った。

  「人々…いや、動物か?まあどっちでもいい。

  鉄のドラゴンは退治した。消化されなくて良かったな。」

  乗客はさらに慌てた。

  「わっ、猿の化け物だ!」

  「王子みたいな服を着てるぞ!」

  ビーバーの運転手は激怒している。

  「この化け猿、よくもバスに穴を開けたわね!」

  「まるでわけがわからない。助けたのにどうして怒っているんだ?

  …おい、リス!逃げるな!」

  突然ジェフがポケットから飛び出し、どこかに行ってしまった。逃げ足は速く、人間には追いつけない。

  「待て!いや、それよりエイミーを探さなくては…」

  [newpage]

  [chapter:エイミー、学校へ行く]

  エイミーは何も知らず、金子家で朝食を摂っていた。メニューはトースト、スクランブルエッグ、チキンソーセージ、バナナ、豆乳。

  「私もよく知っている食べ物が多いわ。」

  「良かったね!ぼくはこのソーセージが大好きなんだ!」

  「私はそこまで食べた事がないけど、好きよ。

  それとこのミルク、私が知っているのと味が違うわね。」

  「これは豆乳。大豆からできているのよ。エイミーはどんなミルクを飲んでいるの?」

  「私がいつも飲むミルクは、牛のお乳を搾って出すのよ。」

  「驚いたわ!こっちの世界でそれを飲むのは、牛の赤ちゃんだけよ。」

  朝食が終わり、登校時間が来た。

  「エイミー、ぼくたち学校へ行ってくるね。」

  「夕方には戻るわよ。」

  「学校?私も連れてって!」

  「えー、どうしよう…」

  「せっかくだから連れて行こうかしら。この世界の学校がどんな場所か教えてあげましょうよ!」

  「それじゃ、ぼくたち1年生の教室に来てよ!」

  「いいえ、4年生の教室に来て!」

  「ぼくの方に来れば簡単な事がわかるよ!」

  「私の方ならもっといろいろわかるわ!今日の1時間目は社会科で日本地理をやるから、この国についてよくわかるわよ!」

  「お姉ちゃん、じゃんけんで決めない?」

  「いいわよ。最初はグー!じゃんけんぽん!」

  真里ちゃんが勝った。

  「あー、残念…」

  「まあ登校は一緒にできるわね。じゃあお母さん、学校にエイミーの事を伝えておいてね!」

  2匹はエイミーと一緒に登校し、その数分後に父親も会社へ出かけた。

  [newpage]

  4年1組の教室で、朝の会が始まった。ハツカネズミの森口 美樹先生が話している。

  「皆さん、おはようございます。」

  「おはようございます。」

  「さて、今日はこの教室に異世界からのお客さんが来ます。名前はエイミー。昨日の夜から金子さんの家にお世話になっているそうです。」

  真里ちゃんを除く24頭の児童に、ざわめきが広がった。

  「異世界?まさか…」

  「いったいどんな姿かな?」

  「さあ、どうぞお入りください。」

  森口先生がドアを開けると、エイミーが入ってきた。

  「わあ、初めて見る生き物だ…」

  「猿に似ているね。」

  「エイミーさん、自己紹介をお願いします。」

  彼女は教壇に立った。

  「皆さん、こんにちは。人間という種族のエイミーです。」

  それからケモノ界に来た訳を話した。

  「…というわけでここに来ました。皆さん、よろしくお願いします。」

  「よろしくお願いします。」

  「ああ、私みんなとお友達になれそう!

  そこのシマリスさんと狐さん、どっちも丸々としてて可愛いわね。」

  シマリスの栗田 永雄くんとキタキツネの稲荷山 紺助くんは喜んだ。

  「可愛いって言ってくれた!」

  「エイミーさん、お腹触ってもいいよ。」

  彼女は2匹の突き出たお腹を触った。

  「わあ、ふかふかで気持ち良いわ!」

  「さあ、こちらへどうぞ。」

  「ありがとうございます。」

  エイミーは真里ちゃんの隣に座った。そこは新井 美井子ちゃん(太ったアライグマ)の席だが、今日はエイミーがいるため席を移動している。

  「教科書は私が見せてあげるわ。」

  「真里ちゃん、ありがとう。」

  チャイムが鳴り、1時間目の社会科が始まった。

  「皆さん、今日は日本地理です。

  まずは日本という国について話します。日本は大きく分けて北海道、本州、四国、九州の4つに分かれており…」

  「へえ、こんな形の島に住んでるのね!」

  「エイミーさん、今は静かにしてください。」

  「あら、そうなのね。ごめんなさい。」

  休み時間になると、クラス中から質問を受けた。

  「ファンタスティカ王国ってどんな場所なの?」

  「夢と魔法と素敵な事がいっぱいの楽園よ!」

  「わあ、いいなあ…」

  「行ってみたいわ!」

  「私から見れば、こっちの世界もすごい物ばかりなの。どこでも見られる魔法の鏡に、ランプよりも明るい照明…」

  その後、算数や国語も楽しんだ。

  休み時間が来ると、他クラスの児童も彼女の姿を見るため4年1組に集まった。

  給食の時間も、彼女は初めての食べ物に感動した。

  「ああ、この揚げパンってすごくおいしいわ!」

  「良かったね、エイミー。」

  [newpage]

  [chapter:悪の作戦]

  ファンタスティカ王国では、スーザン女王が魔法の水晶玉を覗いていました。給食を楽しむエイミーが映っています。

  「異種族だから迫害されると思ったのに、これほど楽しそうにしているなんて…」

  「人間のいる世界に送れば良かったんじゃないですか?それなら異世界から来た話をしても信じてもらえないで、誰にも助けてもらえず野垂れ死にしたのでは…」

  「なんでその手を思いつかなかったのかしら。でもピーター、今更言われても遅いわ。

  よし、あんたが向こうに行ってエイミーを殺しなさい!」

  「ええっ、どうやるんですか?」

  「この毒入りクッキーを食べさせなさい。3枚作ったから食べさせるチャンスは3回あるわ。それからこれも。」

  スーザン女王はクッキーを入れた袋の他に、ペンダントと鏡も渡しました。

  「さっき作った『ケモノ変身ペンダント』よ。首にかけて変身したい種族の名前を言うと、30分だけ変身できる。これで向こうでも怪しまれないはずよ。

  それから、この鏡は私と連絡が取れるわ。」

  「ありがとうございます、女王様。

  それでは…狐になれ!」

  ピーターは井戸に飛び込みました。

  [newpage]

  メンテナンスホールから、狐のピーターが現れた。

  「すごい…こんな世界、見た事ないぞ…」

  すると、鏡から声が聞こえた。

  「エイミーはケモノ小学校埼玉校にいるわ。ここから道案内をするから…」

  「えー、せっかく来たんだからこの世界を探索させてくださいよ!」

  「ピーター、これは旅行ではないのよ!」

  「もっといろいろな場所が見たいんですよ。エイミーがこちらに来たら教えてくださいね。」

  「ああ、もっといい手下が欲しかったわ…」

  [newpage]

  [chapter:午後の学校で]

  こちらは学校。給食の片付けが終わると、エイミーは尋ねた。

  「ねえ真里ちゃん、次は何?」

  「掃除の時間よ。」

  「まあ、本当?お掃除なら私に任せて!」

  「へえ、エイミーは掃除が得意なのね!」

  「ええ、いつも森に住むお友達と一緒にするのよ!私が呼ぶと集まってくるの。

  さあみんな、お掃除を手伝ってー!」

  大声で呼ぶと、窓からは鳩やスズメの群れ、廊下からはハエやゴキブリの群れが入ってきた。

  「キャーッ!ゴキブリー!」

  「気持ち悪いよ!」

  児童たちは悲鳴を上げて教室から逃げ出したが、エイミーは落ち着いている。

  「私の知ってるお友達とは違うわね。でもいいわ!

  さあ、みんなでこの部屋をお掃除しましょう!私はほうきで床を掃くわ!」

  黒板消しを使う鳩。蛍光灯のほこりを払うスズメ。ハエは集団で雑巾を持ち、ゴキブリと共に窓を拭いた。エイミーは楽しそうに床を掃いている。

  「まあ、みんな働き者ね!」

  教室の外では、児童たちが騒いでいる。

  「ああ、あんな物を連れ込んでくるなんて…」

  「もう教室に入りたくないよー!」

  その声を聞きつけて、6年1組の保良 部亜先生(太ったホッキョクグマ)も降りてきた。

  「お前ら、静かにしろ!今は掃除中だぞ!」

  栗田くんは恐る恐る言った。

  「あの、保良先生、教室の中を見てください…」

  「ん?なんだ?」

  保良先生がドアに付いた窓から覗くと、そこをゴキブリの群れが這ってきた。

  「ウギャーーーーッ!」

  保良先生は気絶した。彼はゴキブリが何よりも苦手だ。

  「あーあ、先生の悲鳴が一番うるさいよ…」

  「保健室に連れていくけど、保良先生は重すぎるから大変ね…」

  「私が手伝います!ちょうど掃除が終わったので。

  みんな、お手伝いありがとう!」

  エイミーは鳥や虫を教室から出すと、森口先生と共に保良先生を保健室まで運んだ。

  「ねえ、教室はどうなっているかしら?」

  「さあ、どうだろう…」

  稲荷山くんは恐る恐る教室を覗いた。

  「あ、あれ?」

  「どうしたの?」

  「すごくきれいになってる…」

  「本当だ!」

  窓には一点の曇りもなく、床もワックスをかけたようにピカピカ。黒板もきれいになり、棚の上にはほこり1つない。

  「わあ、エイミーさんすごいね!」

  「そうでしょ?」

  次は昼休み。疲れたエイミーは眠ってしまった。

  「王子様のキスで起きられるといいですね。ゆっくりおやすみなさい。」

  真里ちゃんは気の利いた言葉をかけた。

  教室の中はやや騒がしいが、彼女は落ち着いて5時間目の開始まで眠り続けた。

  [newpage]

  [chapter:大昔のシマリス!?]

  6時間目が終わり、帰りの会が始まった。

  その時、教室に1匹のシマリスが入ってきた。朝に逃げ出したジェフだ。

  「まあ、ジェフ!よくここがわかったわね!」

  「エイミー、久々だな!無事で良かったぜ!」

  「ねえエイミー、誰と話してるの?」

  「お友達のジェフよ。可愛いでしょ?」

  それを見た真里ちゃんは驚いた。

  「ええっ!? これって大昔のシマリスよね!?」

  その声でクラス中が集まってきた。

  「どれどれ…これはすごい!」

  「こんなの図鑑でしか見た事ないよ!」

  栗田くんは一番驚いている。

  「ああ、ぼくの先祖はこんなに小さかったんだ…」

  稲荷山くんも同様だ。

  「ぼくの先祖は、こんなに可愛い生き物を捕食してたんだ…」

  「先祖?ねえ、この世界は昔どんな感じだったの?」

  エイミーの質問に栗田くんが答える。

  「大昔、ケモノは文明を持たず肉食と草食に分かれていた。今ではこの時代のケモノを動物と呼ぶんだ。

  草食動物は草、肉食動物は草食動物を食べていて、リスは草食動物だった。まあ虫も食べてたらしいから草食寄りの雑食かな。

  草食動物にとっては、いつ食べられるかわからない恐怖に追われて暮らしたんだ。」

  「まあ、そんな怖い世界だったの?」

  「そうらしいんだ。でも霊長類以外の動物…というか哺乳類が進化して、今のような世界になったんだよ。もう捕食される心配はないし、どんな種族でも仲良く暮らせるんだ。」

  「あら、ファンタスティカ王国でもそうよ!うさぎさんもリスさんも狐さんと仲良くしているの。狼は動物たちを襲うけどね。」

  ジェフは栗田くんに話しかけた。

  「おっ、ずいぶんでかいシマリスだな!俺と話そうぜ!」

  「ごめん、悪いけどこれから相撲部なんだ。」

  エイミーは興味を示した。

  「どんな所?私も連れてって!」

  「あそこは男の子専用だから、エイミーは入れないよ…」

  「まあ、それはどうしてなの?」

  「エイミーは真里ちゃんと音楽部に行っててね。」

  「ごめんなさい、今日は音楽部がないのよ。うちに帰りましょう。」

  するとジェフが騒ぎ出した。

  「俺は相撲部がどんな物か見てみたいんだ。後でエイミーに教えてあげるから!」

  「わかった。ジェフ、ぼくと行こう!」

  ジェフは栗田くんや稲荷山くんと共に相撲道場へ向かい、エイミーと真里ちゃんは下校した。

  [newpage]

  [chapter:魔の手が迫る]

  「ただいま。」

  帰宅すると、雄二くんが迎えてくれた。

  「お帰り、お姉ちゃんとエイミー。おやつにアイスクリームがあるよ!」

  「まあ、アイスクリームって何?」

  「冷たくておいしいお菓子だよ。先に手を洗ってね。」

  両者は手を洗い、アイスクリームを食べた。

  「おいしいわ…これはどこの山の雪?」

  「雪じゃなくて、ココナッツミルクから作るのよ。ほんのりココナッツ風味でおいしいでしょ!」

  「これがココナッツの味なのね。私の国では貴重品だから、初めて食べたわ。」

  その後、真里ちゃんはエイミーを連れて町の案内に出かけた。

  「だんだん大きな建物になってきたわね。」

  「そう、駅に近づいてきたのよ。」

  「駅って何?」

  「電車に乗る場所よ。電車は遠くに行ける乗り物よ。」

  「へえ、ぜひ乗りたいわ!」

  「乗るにはお金が必要だから、今日は乗らないわ。」

  「そうなのね。でもそういう物があると知れて良かったわ。」

  「他にも見所がたくさんあるわよ。気になる物があったらなんでも聞いてね。」

  一方、西口で待機中のピーターはスーザン女王からの連絡を受け取った。

  「エイミーがそちらに向かっているわ。毒入りクッキーを用意して!」

  「わかりました、女王陛下。」

  エイミーと真里ちゃんは駅構内を通り抜け、西口のペデストリアンデッキへ。

  「私はあの穴から出てきたのよ。」

  「へえ、あのメンテナンスホールから?」

  話しながら歩いていると、ホンドギツネの女性が話しかけてきた。

  「この先で展覧会を開いているんです。見ていきませんか?」

  「まあ、絵を?素敵ね!」

  エイミーが喜んで行こうとしたため、真里ちゃんは引き止めた。

  「エイミー、ついてっちゃだめよ!」

  「あら、せっかく誘ってくれたのにどうして?」

  「お母さんから聞いたんだけどね、あんな風に誘われて展覧会に行くと、高額な絵を無理やり買わされるのよ!」

  「素敵な絵が手に入るのに、どうしていけないの?」

  「とにかくついて行くのはだめよ。こっちの世界では時々こういう事があるから気をつけないとね。」

  「ありがとう。気をつけるわ。」

  すると、今度はアライグマの中年男性が話しかけてきた。

  「高級クッキーはいかがですか?ケモノが買うと1億円ですが人間が買うと無料ですよ。」

  「まあ、無料?嬉しいわ!」

  このアライグマは、ピーターの変身した姿。毒入りクッキーを持っている。

  真里ちゃんはそれを知らないが、ものすごく怪しいため引き止めた。

  「エイミー、これも怪しいわ!帰りましょう!」

  「いいえ、これは無料よ!だから大丈夫!」

  アライグマのピーターは不気味に笑いながら言う。

  「さあさあ、このクッキーは一口食べれば言葉も出なくなるほどおいしいですよ。」

  「まあ、そんなにおいしいの?」

  「もちろんです。一口で十分なくらいですよ…」

  「ありがとう。いただくわ!」

  彼女は毒入りとも知らずに受け取ってしまった。

  「やったわ!高級クッキーがタダで手に入るなんて、なんてラッキーなのかしら!」

  エイミーが喜んで跳ねていると、はずみでクッキーが手を離れて道路に落ち、通り過ぎたトラックに潰されてしまった。

  「あーあ…」

  エイミーは落胆したが、真里ちゃんは胸をなで下ろした。

  「良かった…あのアライグマ、怪しかったから心配だったのよ。

  今日はおかしな事ばかりだから、もう帰りましょう。」

  エイミーの姿が見えなくなると、ピーターは東口の裏通りへ。

  「失敗か…2枚目はどうやって食べさせよう…」

  そこで30分が経ち、ピーターは元の姿に戻った。

  「時間切れか。さて次は何になろう?」

  その時、声をかけられた。

  「ピーター、ここで何をしているんだ?」

  振り向くと、ジェームズ王子だった。

  「お、王子様、この世界を探索しているんですよ。」

  「僕もエイミーを探しているが、彼女はどこにもいない。もう疲れたよ…」

  「王子様、どこかで休みましょう!」

  「そうだな。」

  [newpage]

  [chapter:夕方になって]

  エイミーと真里ちゃんが帰宅してしばらくすると、栗田くんがジェフを連れてきた。

  「ありがとう、栗田くん。」

  「ジェフにも相撲のルールを教えておいたよ。それじゃ、またね!」

  栗田くんが帰ると、エイミーは尋ねた。

  「ねえ、相撲部ってどんなことをするの?」

  ジェフは相撲について解説した。

  「ありがとう。また1つ新しい文化を覚えたわ!」

  その時、2階から雄二くんが降りてきた。

  「エイミー、何してるの?…え、これって大昔のシマリスだよね!?」

  「そう。お友達のジェフよ。」

  「小さくて可愛いね!こんにちは。」

  「やあ、大きな猫くん!」

  夕方、父親が帰宅した。

  「今日は外食しよう。フード・キャッスルがいいかな?」

  「フード・キャッスル?やったー!」

  「駅の近くに建つ、お城みたいなレストランよ。」

  「あら、あれはレストランだったのね。ジェームズ王子はいるかしら?」

  「会えるといいわね。行きましょう、エイミー!」

  「俺も連れてってくれ!」

  「どうしましょう、連れていきたいけど、見つかると騒ぎになりそうね…」

  「そうだ。服の下に隠して、料理をこっそり食べさせたらどうかな?」

  「まあ、いいアイデアね!」

  金子一家、エイミー、ジェフはフード・キャッスルに向かった。

  [chapter:後編に続く]