11話 イチ、ビキニアーマーを着る(3) よせあつめ外伝25
ところで、19世紀前半のバルティゴ連邦で急速に発達した機械があるのをご存じだろうか?
それはカメラである。
もともとカメラ自体は18世紀にはすでに誕生していた。
1735年にシャーツ・エイシャーが人類史上初の写真撮影に成功する。
もっともそれは撮影に8時間の時間を要し、せっかく撮影した写真も光を浴びると消えてしまうような代物だったのだが。
しかし遮光した箱にレンズを取り付け光を導くというカメラの原理原則はこの時から一切変わっていない。
デジタルカメラが当たり前にある現代でさえ原理は一緒である。
世界初の実用的なカメラが作られたのは1750年。
8時間の撮影をたったの10分に縮めたこの画期的な装置は発明者のカメラル・サッターの名を借りて『カメラ』と名づけられたのである。
そしてこの時代の1819年、産業革命の後押しを受け撮影機の技術は乾板の発明により数秒にまで撮影時間を縮めることに成功し、15年後の1834年にはフィルムカメラが生み出されることになる。
なぜ突然カメラの歴史を挟んだか。
実はイチたちが遺跡に潜っているのと日時を同じにして、また別の冒険者ふたりがこのアーシバワル遺跡に潜っていたのである。
彼らの名はカーク・シドリーとヌース・ミドリー。
カークのほうは冒険者にしてはふっくらしており、ヌースのほうは冒険者なのにまるで筋骨が弱く見える。
山猫のバッジこそ被っている山高帽にお互いつけているものの、サスペンダーで冒険用のズボンを吊り下げ素材のよさそうな白シャツに蝶ネクタイまでつけている姿はとてもではないが冒険者に見えない。
彼らは副業冒険者だった。
彼らの本業は観光案内会社の経営で、既に生活のための金はいくらでも稼いでいる。
いわば冒険者業は趣味でしかない。
平和な時代が続いたためだろうが、こういった肩書だけの冒険者も19世紀前半には増えていた。
ところでこのカークとヌース。
このアーシバワル遺跡を観光資源として利用できないか調査に来ていた。
それだけでなく彼らが最近熱をあげている趣味があり、それは写真撮影である。
人々が心を動かされる景色を撮影し、パンフレットやポスターに利用することで新たな顧客をつかもうというのだろう。
いわば趣味と実益を兼ねた撮影のために遺跡に来ていたのである。
何か使える写真は撮れないものか、そう思いながら負い紐をつけた大きな木箱を腹にかかえているカーク。
この箱こそが当時の最新カメラだ。
相棒のヌースは最新のアバブ19式ライフル銃を構えながら危険がないか周囲を見回す。
と、その時ヌースの目にびっくりするような光景が飛び込んできた。
その信じがたい光景に思わずヌースはかけている眼鏡を一度外してつけなおしたほどだ。
「むほ! 御覧なさいシドリー氏! あんなところに痴女が!」
ヌースの指さす報、水没している遺跡湖の向こう側にほとんど水着姿でプリプリと乳や尻を揺らすイチとイルハ、そして可憐な少女にしか見えないシャネルの姿が見えたのだ。
「むほ! これは妖精の加護ですかな!? なんとしてもカメラに収めねば!!」
カークは思わずレンズを向けるが、遠すぎる。
第一もし妖精がいたとしてもそのような加護は与えないだろう。
「もっと近くに寄らねば! 追いかけますぞ!」
カークは見かけのわりに足腰が強いのだろう。
軽くないカメラを駆けたまま駆け出した。
「ライティングはお任せあれ! 追いかけましょうぞ!」
こうしてイチたちは気が付かぬ間にカメラを抱えた変態紳士ふたりに背中を追われることになるのである。
確証はないが、カメラ小僧……。いわゆるカメコの始祖は彼らなのかもしれない。
◆
さて、変態紳士ふたりに尻を追われているイチとイルハのふたりだが、シャネルの指示を受けてこの遺跡固有の危険生物であるスァンブルムと戦っている最中であった。
戦っている、といってもスァンブルム一匹などイチとイルハの相手ではない。
「やあッ!!」
イチの構えたライフルによる牽制射撃を受けて驚き戸惑っているスァンブルムにイルハが驚異的な突貫力で距離を詰め、長剣キャットスレイヤーのたったひと突きでスァンブルムの心臓を貫く。
蝙蝠と蛙のキメラのような生き物は「ゲピ」という屁のような声で鳴くと転がり絶命した。
シャネルはそのイチとイルハの姿を見て「すごいっす完璧っすエロかっこいいっす!」とはしゃいでいる。
しかしライフルの反動でたゆんと震えるイチの乳と尻や、剣を振るえばブルンと揺れるイルハの豊満な乳房を見て興奮しているのは、シャネルだけではなかった。
____尾行されているな。
イチは一級の冒険者である。
例えビキニアーマーなどという珍々妙々な装備を身に着けていても大烏の階級まで上り詰めた一級の冒険者である。
追跡者がたてる小さな音に気が付かないわけがない。
目でイルハに合図を送るとイルハも、
____そうのようですね。
と頷いた。
イルハも胸が豊満ではあるが剣のみで困難を切り払う一流の冒険者でありビキニアーマーが似合う真の女騎士である。
____仕掛けてみるか。
イチはイルハにそう目線で伝えると、その場にしゃがみ込んだ。
「ちょっと待ってくれ。靴を直す」
遺跡の通路、崩れた柱の影からその様子を見ていたカークとヌースは鼻息を荒くしている。
尻の割れ目がわずかに見えそうなのだ。
「もっと近寄れれば確実に露出できるのに! これは歯がゆいですぞ!!」
「勇気を出して近づくのもひとつの手ではないですかな? 即座にとって即座に逃げだ出すのです!!」
「しかしもっと色んな構図でですね! あちらの巨乳の女騎士さんも撮らなければなりませんし!!」
「それもそうですね! まったく歯がゆい!!」
柱の陰で声を潜め盛り上がっているカークとヌースであったが、突如鳴り響いた銃声、そして自分たちが隠れている柱に銃弾が命中したのに驚き悲鳴をあげた。
「ひいいいいいいい!! 撃たれましたぞ!!」
「撃たれましたとも!! 見つかったのですか!? ひいいいいいいい!!」
やはりイチは一流の冒険者である。
イチはしゃがみ込みながら音の方向を探り、カークとヌースが潜んでいる方角を突き止めたのだ。
「出てこい! そこのふたり! なぜ私たちの後をつけるか説明してもらうぞ!」
こうして人類史上初のビキニアーマーを着たふたりの女性冒険者と人類史上初のカメコと呼べる変態紳士ふたりが遭遇したのである。