11話 イチ、ビキニアーマーを着る(2) よせあつめ外伝24
アーシバワル遺跡はシープスの首都であるドワールから南東、広大に広がる黒い森の奥にある。
イチたちはそのアーシバワル遺跡にシャネル・チュチュアンナの依頼のために来ていた。
この遺跡は旧時代には何かしらの地下施設であったと仮説されている。
黒い森の水源と繋がってしまったため、ところどころが水没してしまっており足場が悪い。
固有の危険生物としてスァンブルムがおり、この蝙蝠と蛙の合わさったような生物は危険度2であり低階級の冒険者には脅威となる。
ただしこのアーシバワルの遺跡から出ることは滅多にない。
価値があるような遺物も残っておらず、駆け出し冒険者が腕試しや冒険の練習に訪れることもあるが、それにしてももっとよい腕試しの場所があるのでそれも滅多にない。
「まあ、繁殖期の遺跡ホタルが稀に交尾しながら光るのでその景色を見にくる好事家もいるっすけどね」
遺跡に潜り半刻ほど、依頼主のシャネル・チュチュアンナが楽しそうに蘊蓄を語った。
少女人形のように可憐な顔立ちに長いツインテールを桃井と金色のマーブル模様に染め、小柄な身体をしているが歴とした男である。
「悪いが、そのくらいの知識は私にもある」
冒険者を舐めるな、そういう声の調子で柱の陰からイチの声がする。
「そんなことより、わたしは、冒険者の装備って聞いていたんだが?」
柱から姿を現したイチはひきつった顔でシャネルを見た。
その装備は度肝を抜く大胆なものであった。
ほとんど裸ではないか。
いや、それは大げさか。
「冒険者の装備ですがなにか? ばっちりっすよ! ワンダフル! ビューティフル! キュート&セクシー!」
シャネルは興奮してイチの周りをくるくると回り装備の具合を確かめている。
「何が装備だ! これじゃ水着じゃないか! いや、余計な装甲のせいで水着にすらならないぞ!」
イチが身に着けるその青く輝く装備は水着と鎧を組み合わせた前代未聞かつ超先鋭的な代物だった。
基本形は水着のビキニである。
ビキニとは言わずもがな、三角系の生地で女性の秘められた三つの聖域を守る祝福された水着のことである。
両肩と腰部には表面を湾曲させた小ぶりな装甲を追加し、ヒップと聖門を守るビキニショーツは滑らかな生地のまま、乳房を守るビキニトップにはスライムを加工した緩衝材にプレートを被せ装甲させている。
読者よ見よ、これがビキニアーマーである。
つま先から上までを白バジリスクの皮で編み出した柔軟性のある白いグリーブで覆っているが、ビキニショーツとグリーブの隙間に露出した太腿は計算された芸術によってきらめいている。
背負ったカーペイト10式ライフルとガンベルトに挿したカーペイト19式リボルバーが多少無粋だがこれは仕方ない。
「こんなんで冒険ができるか!」
「何言ってるんすか! 実用的な装備っすよこれは!」
ビキニアーマーの始祖にして服飾の天才、シャネル・チュチュアンナのコンセプトは画期的かつ奇想天外であった。
「まず、腰回りに布が少ないほうが足さばきがよくなるのはイチさんもご存知っすよね?」
イチは赤くした顔で「うむう」とうなずいた。
これはこの時代の女性冒険者に知られていた迷信で、そのため19世紀前半にはブルマ、ショートパンツ、ミニスカートなどを身に着け太腿を大きく露出した女性冒険者が多かった。
この誤謬は世界大戦を境に迷信と見なされるようになるのだが。
「相手の武器が剣にしろ銃にしろ牙にしろ、一撃もらったらお終いっす。それなら防御を犠牲にしてでも機動性を極限まで維持したほうが合理的じゃないっすか」
「それはおかしいと思うがなあ」
「しかもですよ。ビキニトップは複合装甲で拳銃弾くらいなら耐えますし、ライフル銃を扱いやすいように肩の装甲にも硬化スライムをあしらって頬付けしやすくしまして、ガンベルトを巻いても肌が傷つかないようにっすね……」
「普通の装備でそうだったら金を出してでも欲しいんだが」
「わかってないっすね。ビキニの面積だからスライム複合装甲が使えるっす。普通の服とかだとまともに動けなくなるっすよ」
「理屈はわからんでもないが」
「だいたい、イチさんだって結局着てるじゃないっすか。着てみたかったんでしょ」
痛いところを突かれてイチは目をそらした。
「こ、これは、確認のためだ!」
イチとシャネルがそんなやりとりをしていると、また別の柱からイルハの弱弱しい声が聞こえてきた。
「イチさん、こ、これ、ほんとうに装備なんですか? 僕、恥ずかしいですよ」
「困ったことだが、どうやらそうらしい」
「そ、そうなんですか? ううう……」
イチの言葉で仕方なく出てきたイルハを見てシャネルだけでなくイチさえも息をのんだ。
「あ、あんまり見ないでください。は、恥ずかしい……」
イルハのビキニアーマー姿は完璧だった。
基本色は騎士鎧と同じアッシュシルバーで、ビキニショーツは補色を考えてか深紅の色で塗られ、聖なる谷を守っている。
イチよりも大きく幼児の頭くらいはありそうな乳房を守る装甲はシャネルが用意したマナライトの光を反射し、乳房に神々しい輝きをもたせている。もちろん装甲には神秘的な紋様がエングレービングされている。
ガントレットとグリーブはやや大きくデザインされつつ鈍色に染められた露出した柔肌を際立たせていて絶対の領域を生み出している。
他にも単なる意匠ではあろうが、ビキニショーツに合わせた深紅のマフラーを首に巻き、額の上に載った金色の髪飾りにはバイザーの意味を持たせているのだろう。
その完璧なビキニアーマーで装甲した完璧な豊乳のイルハが黒髪を背まで伸ばし騎士剣を携え恥ずかしそうにモジモジしている。
似合いすぎているではないか。
「デッッッ!! エッッッッッ!! ウッッッ!! 」
大興奮のシャネルはもはや言葉が言葉にならず、羽織っていた冒険者コートを脱ぎ捨てた。
その行動の意味はわからないが下には彼が試作した競泳水着型の白いハイレグアーマーを装着している。
シャネルは青年なのだが股間の僅かな膨らみを無視すればイチとイルハの隣に並んでも遜色なく可憐であった。
「ささ! 実地試験です! 実際にこれで危険生物と戦えるかどうかが大切です! エロかわいいだけでなく実用的! それがチュチュアン工房の本懐なのです!」
小躍りしながら遺跡の先に進むシャネルを見てイチは「やれやれ」とため息をついた。
「こんな格好で戦うなんて、僕にできるんでしょうか」
イルハはビキニから零れ落ちそうな乳と尻を心配し身体を縮めた。
「まあ、人の目もないんだ。私はもう心を決めたよ」
そう言ってイチはトレードマークのベレー帽を被りなおした。
「あ、あの、イチさん、もしかしてその恰好、気に入ってるんですか?」
「そんなわけあるか!」
誤魔化すように鋭いツッコミを入れるイチの後ろをイルハがついていく。
しかし彼女らは知らない。ふたつの珍妙な人影がアーシバワル遺跡をうろついていることを。