第10話 軍の反撃 女囚イチ救出作戦8

  

  断っておくがジハック並びにケパック、他の士官も決して無能ではない。

  むしろこの時代の兵はまだ魔王大戦を経験した者が多く、練度も士気も決して低くない。

  特に即時出撃させた騎兵、その数20。

  全兵すべてが勇猛であった。

  本来防御態勢にある敵陣地に騎兵を先行させ突撃させることは定石にない。

  騎乗した兵は被弾面積が倍以上になり、その機動力を活かす前に無力化される危険が否めないからだ。

  騎兵突撃を指揮したギヌレヌは五十路も近い老兵だが、それだけに作戦の意図を理解し与えられた役割を忠実に守った。

  「敵はリャン・ハックマンと言え少数でしかない! 戦えば我らが勝つ!! 諸君の献身が勝機を掴むのだ!」

  ギヌレヌ准尉は馬上で叫んだ。

  突撃ラッパの音が高らかに鳴り響き、馬の蹄が大地をかき鳴らす。

  しかし、見張り塔からの容赦のない一撃が騎兵隊の馬を撃ち抜き次々兵を落馬させる。

  「ひるむな! 前方の岩場に辿り着き戦線を構築するのだ!」

  そう叫ぶギヌレヌも馬を撃ち抜かれ、馬ごと土に激突し転がった。

  しかしギヌレヌは即座に身体を起こし、倒れた馬を掩蔽に利用しながら兵の鼓舞を忘れなかった。

  他の兵も狙撃されながらも各々が射線を躱す為に馬の死骸や自然の遮蔽物に隠れている。

  「これでよい! 狙撃の目を我々に向けさせるだけでよいのだ!! 冒険者め、今に見ておれ! 八つ裂きにしてくれる!!」

  ギヌレヌはちらと基地の方を見た。ガトリング陣地は構築され、北側の大地に土煙を巻き上げているのが見えた。

  状況は軍にとって有利に変わりつつある。

  ◆

  「ちくしょう! あと少しだってのに!!」

  イチを救出するため、馬にまたがり攻撃をしかけていたエルビアニカはガトリングの銃撃によって馬を失いこの荒野にいくつかあるすり鉢状の窪地に身を隠し毒づいた。

  ライフルを抱える頭上では容赦なく弾丸が風を切る音が響いている。

  「なんとかあのガトリングを狙い撃てないんですか!?」

  同じ窪みに逃げ込んだ少女騎士イルハも頭を出せずにいる。

  彼女は普段剣と槍を得物にしているが、この時ばかりは使い慣れないライフル銃を抱えている。

  「無茶言うな! リャン・ハックマンじゃないんだよ!!」

  この時代、ガトリングは最強の対人兵器である。

  回転する6本の銃身が絶え間なく銃弾を吐き出し、射手が簡単に狙い撃たれないよう盾がついている。

  クロヌマーブ駐屯地はそのガトリングを2台構えてエルビアニカらの攻撃を完全に挫いてしまった。

  「わははははは! こいつはたまらん。身動きできん!」

  エルビアニカとイルハが潜んでいる窪みから少し離れた別の窪みから豪快な笑い声が聞こえた。

  彼女はミラ・パルテルラット。

  大烏階級の冒険者であり過去にイチと冒険を共にした事がある。

  彼女はイチとの友誼の為、今回の救出に名乗りを挙げ、攻撃隊の指揮と執る事にした。

  英雄型の女で、どんな苦境に立たされていても笑う事を忘れない。

  「ミラ~~~! 笑ってる場合じゃないでしょ~~~!!」

  悲痛な声で叫んだのはパルテルラットの盟友でありパートナーであるピィピ・キャロンだ。

  兎人族の少女で戦闘は好きじゃないがそれでもイチの為にパルテルラットと共に戦いの場に参じている。

  しかし彼女らは全員が軍のガトリングの為に馬を失い何か知らの遮蔽物に釘付けにされていた。

  死傷者が出ていない事は幸運でしかない。

  「ピィピ! 魔法でなんとかできんか!?」

  「無茶言わないでよ~~~!! 怖いよ~~~~!!」

  ピィピは本来銃弾に身を晒すような状況に耐えられない。

  魔法を集中させられる精神になく、かわいそうに泣きだしてしまっている。

  「あのリャンって女! こっからどうするってのよ!!」

  この声はタオ・メイメイ。

  彼女も攻撃隊に志願し、馬にしがみついていたがガトリングの攻撃の激しさに前進を諦め、馬から飛び降りて手近な岩石に身を隠していた。短気な少女で、手も足も出せない状況に憤怒の声をあげている。

  「みんな! 今は耐えるんだ!! リャン・ハックマンを信じろ!! 髑髏階級の立案した作戦だ。失敗するはずがない!!」

  パルテルラットは皆を奮い立たせるように叫んだ。

  しかしそのリャンがいるはずの丘の見張り台では歩兵部隊が制圧をしかけようとしていた。

  ◆

  「ふふふ、リャンめ。こちらの即応力を見誤ったかな」

  ジハックは顎毛をなでた。

  既に遠眼鏡でリャンが奪った西の丘にクロヌマーブ駐屯地の歩兵が取りつきつつあるのを見ている。

  今回動員しているのは歩兵58名、工兵19名、騎兵隊20名、ガトリング隊8名、砲兵隊20名。

  歩兵隊と騎兵隊には相当数の被害を出したが、そのかいあって基地に敵の先兵を寄せ付けず、敵の狙撃をも制圧射撃で防いでいる。

  西の丘では斜面に張り付いたライフル兵が地面に伏せながら絶え間なく見張り塔に銃弾を浴びせており、狙撃の為に銃眼から身を晒すのはほとんど不可能に近いように思われた。

  「砲兵隊はどうか?」

  「あと5分以内には展開されます」

  「急げよ」

  ジハックはケパックに伝えると葉巻に火を点けた。

  戦場には不似合いな芳醇な香りが漂い、ケパックは顔を顰めた。

  「そう不味い顔をするな。あのリャン・ハックマンを討てるのだ。アバズレめ。人の息子を見殺しにしておいて、自分の身内は大切と見える。なにが破天だ」

  ジハックの顔にはあからさまな憎悪の悦びが見て取れた。

  暴力装置に身を置く者の残虐性がそこにはある。

  「あの娘の死体と並べて吊るして烏の餌にしてやる。どんなひき肉みたいな死体に変わっていようとな」

  惨めに並んで吊るされたイチとリャンの死体を想像しクツクツと笑うジハックであったが、次の瞬間にその笑顔が凍り付く。

  想像もしていなかった轟音と共に西の丘で無数の砲弾らしきものがさく裂し、兵たちの制圧射撃が中断されている。

  「何事か!?」

  「砲撃されているようですが、いったい……」

  「バカな!? どこに砲列を展開しているというのだ!?」

  狼狽するジハックとケパックだが無理もない。

  当然のことだが砲撃をする為には砲車と砲兵を展開する必要がある。

  それを敵地で気づかれぬよう展開するには砲車をなにかしらの形で運び入れなければならないのだが、軍とて置物ではない。

  見張り塔こそ奪われたものの、クロヌマーブ駐屯地の周囲で列車を使うにしろ馬に牽かせるにしろそれだけの質量と人員を動かせばもっと早い段階で察知できないはずがないのだ。

  これには、イチの仲間でありハーフコボルトのヘルヒャン・バットフットの発明があったのだ。