俺と千秋さんの間には、いくつかルールがある。
それは大体が俺の癖を治すためだったり、俺の安全のためだったり、将来大事になることだったりする。
でもそれを俺は、よく破りがちだ。
千秋さんは短期間に何度も何度も怒ることはしない。
それはとても疲れるものだから。
ただし、ある程度溜めたら俺にお仕置きをする。
当然ながら、溜めた案件分厳しくはなる。
俺達はDomとSubだから、お互いの欲とPlayやお仕置きは、密接に関わっている。
だからたまに、いき過ぎたりもするわけだ。
こんな風に……
バシッ、パシン。バチン!
「っぁ…ぅぅ……っふ」
痛みが思考を支配して、カタカタと、膝や足や手が震える。
千秋さんが無言なことが、何よりも不安で。
あとどれくらい耐えれば終わるのか分からないお仕置きも、酷く不安だった。
パン!パシン!バチン!
「っく…ふ、ぁぁ……ひ…」
くらくらする頭を叩き起すように襲う痛み。
助けて欲しいと思っても縋るものなどどこにもない。
「ふ、ぇぇ……ひ……ぅ…」
「……貴和。」
静かに呼ばれた名前。
ふ、と意識がそっちへ向く。
「…うぁぁっっ」
「悪いことしたらごめんなさい、でしょう?
どうしてこんなに言わないの?
まさか忘れちゃった?」
ぎゅぅぅっと、強くお尻をつねられて、思わず壁に手をついて、つま先立ちになる。
バチン!バシン!
「聞いてるの、答えなさい。」
突き刺すような冷たい声。
ガタガタと身体が震える。
こわい、こわいっ
「ひ、ぅ……ひゅ、ぁ……は、」
呼吸がおかしくなって、俺は床に座り込んだ。
でも、千秋さんはもうスイッチが戻らなくなってしまったのか、怒りを倍増させる。
「何勝手に座ってるの。
そんなこと私許してないよ。
立ちなさい、今すぐに」
パシ、パシ。
促されるように叩かれても、微動だにできなくて。
そうして締め付けるようなGlareがさらに強まっていく。
怒ってることは理解できる。
そして、そのタガが外れてることも。
これ以上やれば、我に返ったとき千秋さんは後悔する。
だから、もう何年も使ってないセーフワードを必死に思い出していた。
…思い出せない。
そのことが俺をパニックへ引き込んだ。
「ひゅ、は……は、ぁ……ふぅ、ふぅは……っっ」
助けて欲しかった。
目の前にいる千秋さんに。
でも、その目は欲に染まっている。
そこに俺を心配する余裕はとうにない。
「貴和、“stand”」
強制的に立たされて、またお尻にパドルが叩き付けられる。
その痛みを感じながら、力加減も終わってきたなと思った。
いい加減止めないと、俺はSub dropし、千秋さんも軽くしかねない。
セーフワードは?思い出せ。
どんなものだった。
バチン!バチン!バシンッ!
「貴和、“say”。
ごめんなさいは?
早く。」
マズイ、この人ほんとにとんでる。
これ以上やらせたらほんとにヤバい。
俺は骨が折れる覚悟でお尻に手を回し、千秋さんの持つパドルをなんとか掴んだ。
「ぁ、はは……そういうことしちゃうんだ」
その目が、ギラリと、欲を爆発させたのを見た途端、ほんの少しだけ見とれる。
でも次の瞬間……──。
「っぅ"っっ」
ドサ、!
千秋さんにお腹を蹴られ、吹っ飛ばされた。
「ねぇ貴和、私いつも言ってるよね?
お仕置きは素直に受けろって。
何今の
何道具掴んでるの?
ねぇ聞こえてる?
返事は?」
この人……とぶとこうなるのか…。
お腹に足を乗せられ、何度か踏み込むように押される。
俺が呻いても、それが耳に届いてない。
俺の苦しんでるのが伝わってない。
結構マズイ。
止めなきゃ。
どうやって?
セーフワード…なんだっけ、?
なんでこんな大事なことを……
「……か、は……」
「フフ、苦しそうだね
でも貴和がいけないんだよね?
私の言うこと聞かないから
私を怒らせるから
ねぇ、まだ一回も、ごめんなさい聞いてないんだけど」
「ぅっ」
「“say”、早く。
すぐに言え。」
「ぅ、ぐぁっ……
なさ、……は、ひゅ……めなさ…
ごめんなさぃ…ごめんなさ…ごめなさぃ」
ダメだ、頭、ぐちゃぐちゃしてくる。
多分セーフワード言わなきゃ止まらないこの人…
どうしよう…どうすれば?
「あはは、反省してるなら分かるよね。
どうすべきか
“take”、持ってこい。
自分で」
強すぎるCommandとGlare。
従う以外に選択肢はない。
俺は千秋さんの書斎のクローゼットから、電気コードを持ってきた。
俺が、二度と使われたくないと、千秋さんに直接言った道具。
震える手で差し出すと、千秋さんは冷たく言う。
「“Crawl”
まだまだお仕置きしてあげるよ」
頭痛が止まらない…
でも思い出せない今、どうしようもない。
ビシッビシッバシッ
「っっぁぁあっぃぁぁっ」
背中に走る激痛。
呻きながらも姿勢を維持する。
バシッビシッ
「ひ、ぃぁぁ……」
痛い、怖い、辛い。
これは千秋さんじゃない。
分かってる。
だからこそ止めないと…。
……ふと、頭に浮かんだ言葉。
優さん。
これか、?
ビシッビシッ
迷ってる暇はなかった
それを口に出そうとした時、一気に蘇った記憶。
「……『lost』」
そう口にした瞬間、背中への衝撃が止まった。
ほんの少しして、コードが床に落ちる音。
「ぁ、あ………たか、か、ず」
良かった。戻ってきてくれた。
ホッとして、涙が床に落ちる。
やっぱ、怖いもんな。千秋さんじゃないのは。
「“down”、“come”っ」
焦った声でCommundが飛んできて、俺はふらつきつつ千秋さんの腕の中に収まる。
「っぁ、ぁ……ごめ、ごめん、ごめん貴和
ごめん、ごめ……っ」
ぁぁ、ほら、パニクってる。
もっと早く止められたらよかったな。
「……ありがとう、ちあきさん」
そう言って俺は、意識を手放した。
「……『lost』」
貴和が、セーフワードを言った。
それが耳に入った瞬間、私は硬直した。
貴和は玄関の前の廊下で四つん這いになり、その背中には血が滲んだミミズ腫れが出来ていて、お尻も腫れ上がり内出血が目立ち、私はじっとりと汗をかいていた。
理解ができない。私は何をしていた?
手に持った電気コード。
何故これがここに。
私は、貴和を……、、
「ぁ、あ………たか、か、ず」
貴和の肩の力が抜けたのが分かる。
その肩から腕に視線を移して、ブルブルと震えてる腕に、私は慌ててCommundを出した。
「“down”」
ぺたりと貴和の身体が床に着く。
その姿すら怖くてすぐにまた言う。
「“come”っ」
貴和は跳ねるようにすぐ私の胸の中に入ってきた。
そうして、ほぅ、と息をつく。
その身体の震えに、私はどれほど貴和を怖がらせていたのかと、思った。
「っぁ、ぁ……ごめ、ごめん、ごめん貴和
ごめん、ごめ……っ」
慌てて肩を、腕をさすりながら謝る。
なんの意味もないのに。
貴和は私を見上げて、ふにゃりと優しく笑う。
何でそんなふうに笑うんだろう。
こんなにボロボロにしたのは私なのに。
「……ありがとう、千秋さん」
貴和はそう言って、気絶した。
とにかく手当を。休養を。
テキパキとお尻と背中を手当しつつ、自分が何をしていたのか記憶が無いことに焦っていた。
私はこの子に何と言ったのだろう。
何をしていたのだろう。
貴和がセーフワードを言うほど、私は……何をしていた…
「ぅ……」
泣く資格もないのに溢れてくる涙が、悔しかった。
疲れたからここまで
続き欲しかったらコメントほしいな( .ˬ.)"