「ただいま」
家に帰ったら、手洗いうがいをして、テスト勉強をする。
集中が切れたら、アイスやお菓子を食べて少し休憩。
気持ちを切り替えてまた集中。
また切れたら映画を1本観る。
そしてまた集中…。
それを繰り返しながら、学年末テストに備えていた俺の所に、昼間電話が掛かってきた。
「…──もしもし、」
『黒木くん?』
「はい、そうです」
『……』
「……あの、?」
『涼介だ、千秋が……─』
途中まで聞いて、リュックを持って車に飛び乗った。
車の中で話を聞いて、涙が溢れて止まらなかった。
“病院から電話があった。
千秋の意識が、戻ったそうだ”
抑えきれない感情を持て余した。
1分1秒が永遠にも感じられる。
早く着いてくれ。
願うしかなかった。
「着いたぞ、」
涼介さんの言葉に、俺は急いで車から降りた。
走って受付を通り過ぎようとしたら、呼び止められる。
「面会するならここに名前を…─」
焦れったい。
なんならうるさい。
早く、早く行かないと。
「俺が書いとく
黒木くんは行ってやって」
涼介さんの言葉を背中に聞きながら、俺は千秋さんの病室まで全力で走った。
エレベーターに乗りながら、その時間さえ惜しくて、足踏みする。
階段にすればよかった。
やっと開いたドアを半ばこじ開けるようにしながらすり抜けて、たどり着いた病室の前で息を整える。
「はぁ…はぁ…はぁ……」
深呼吸をして、震える手で病室の扉を開けた。
ガラッ。
思ったより勢いがついて、音が鳴る。
その音に、中にいた人がこっちを向いた。
愛斗先生と、海斗先生と看護師さんが2人。
そして…上半身を起こした千秋さんが、そこにいた。
「っ千秋さん、、!」
俺は千秋さんに駆け寄った。
その手を取る。
暖かい。
「千秋さん……千秋さ……よかった…よかったぁ……」
しゃくり上げてそう言い、千秋さんの身体を抱き締めた俺に、少しだけ戸惑ったような、困ったような月守先生ズの声が聞こえた気がした。
「…黒木…」
「黒木くん…っ」
でも分からなかった。
ただ、今は、千秋さんの目が覚めた事実でいっぱいだったんだ。
「千秋さんっぢあぎさ……ううぅっっ」
嗚咽が止まらない。涙も。
でも、幸せだ。
貴方が目を覚ましてくれただけで。
本当に、本当に…。
そっと身体を離し、瞬きで涙を散らしながらその顔を見つめる。
困ったように少し笑っている千秋さんは、ちゃんと起きていた。
良かった。本当に良かった。
痩せたその頬に手を伸ばし、触れたその時。
千秋さんの口が動いた。
そこから出た言葉を、俺は理解しただろうか。
いや、したのだろう。
それでも、脳が強く否定した。
「……ごめんね……君は……誰かな…?」
続く