あの日、俺と千秋さんはいつも通り街に出掛けた。
買い物をして、美味しいお昼を食べて、2人で笑い合った。
何も変わらない休日。
幸せな時間。
それが、いつまでも続くと思っていた。
続いて欲しいと、願っていた。
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沢山買い物もしたし、夕飯は家で食べようかと話しながら歩いていた。
その時だった。
「………?」
「── 貴和っ!」
なにか胸騒ぎがして、千秋さんを仰いだ瞬間、千秋さんに突き飛ばされた。
勢いで尻もちをつく。
耳が割れるような音。
カランカランと転がるのは…
「…パイプ…、?」
そんなものがどうしてここに?
パイプから自分の目の前に視線を戻して、ゆっくりと膝を着く。
「……ちあ、きさん、?」
沢山のパイプの隙間から見えた細く綺麗な指には、今日お揃いで買った指輪が付けられていた。
「ち、ちあきさ、ちあきさんっ」
こういう時って、どうしたらいいんだっけ?
まずパイプをどかすべきなのか?
パイプどかしてそれで…
「っっ!!」
一先ずいくつかのパイプをどかした俺の目に飛び込んできたのは、頭から出血する千秋さんだった。
「ちあ、き…さ……」
どうしたらいいか分からず、千秋さんの手を握る。
冷たい……とても…
ねぇ…どうして、?
フラフラとパイプが倒れてきた方へ視線を向ければ、そこは資材置き場のようだった。
きつく唇を噛み締める。
視線を逸らそうとした時、隅で動く人影に気が付いた。
俺は硬直してその人影を見つめる。
やがてその人影は、夜の闇に身を翻して行った。
普通に考えて、資材置き場に身を潜める人間はそういないだろう。
あの人影が犯人と考えるのが妥当なのか…。
俺は、すぐに救急車を呼んだ。
『─こちら119番です。
火事ですか、救急ですか。』
「あの、……っぁの!」
冷静に考えられていた気がして、もう落ち着いてると思ってた。
だけどこんなにも声が震える。
『落ち着いてください。』
「……っふう…」
小さく息を吐いて、意識を集中させた。
「…救急です、新宿48番街より1本入った脇道で、その、恋人が…」
『はい、どのような状況でしょうか』
「資材置き場の鉄パイプの下敷きに…
頭から出血しています、!
お願いします、急いでください!」
『分かりました、至急救急車を向かわせます。
警察とも連携を取ります。
患者をなるべく動かさず、そのまま待機していてください。』
「っはぃ!」
『お名前だけお願いします』
「っ黒木…黒木貴和です、」
『分かりました
ではそのまま患者のそばにいてください。』
「……はい…」
スマホをしまって、祈るように千秋さんの手を握る。
そうして10分もしないうちに、救急車のサイレンが近付いてきた。
大通りの端で止まった救急車から、数人が走って来る。
「お電話して頂いた黒木さんで間違いありませんか?」
「はぃ…」
「南総合病院の雨宮と言います。
これからこちらの方の応急処置を済ませて、1番近い総合病院まで搬送します。
こちらの方のお名前を教えてください。
それから関係性もお願いします。」
「っ…神代 千秋…
俺の……恋人です…」
言葉と共に涙が頬を濡らす。
俺が泣いてもこの状況は変わらない。
分かっているのに、涙が止まらなかった。
「っぅう……」
俺はただ見ていることしか出来ない。
自分の無力さに嫌気がさした。
「…処置は終わりました。
病院に移動するのでご同乗ください。」
「っはい…」
救急車で移動する間も、ずっと千秋さんの手を握っていた。
脱力した、冷たい手を。
どうか大事にはなりませんようにと祈りながら……
続く