良いお尻の日

  「貴和、ちょっといい?」

  学校から帰って家でのんびりしていると、千秋さんに呼ばれた。

  「?何ですか?」

  不思議に思いながら近付いていくと、不意に手を引っ張られる。

  そのままお膝に乗せられて、俺は焦って千秋さんを仰いだ。

  「うぇっ!?

  ち、千秋さ……」

  見上げた先の千秋さんはぼんやりと何かを考えているようで、俺の視線には気付いてないらしい。

  「ち、ちあきさ、ん…や、やです……だ、俺っ」

  俺があわあわしている間にもパンツとズボンが下ろされて、俺のお尻が顔を出した。

  「……ふむ…」

  「っな、なんなんですか、っ」

  俺のお尻を撫でて唸る千秋さんに、俺は泣きそうになりながらその手を掴んだ。

  「千秋さんっ何がしたいんですか、!」

  俺の声にようやく気付いたのか、千秋さんは俺を見て微笑んだ。

  「いや、貴和のお尻可愛いなと思って」

  その一言に強ばっていた体の力が抜ける。

  「なんだ……叩かれるかと思った…」

  ほっとして思わずそう零せば、千秋さんはクスリと笑った。

  「……ぇ、?」

  「貴和、最近時間通りに起きれてないよね。」

  「ち、千秋さん、?」

  嘘だよね?そういう意味を込めて名前を呼ぶが、その目が楽しそうに俺のお尻を捉えて、思わず手で庇ってしまった。

  「クスクス、寝坊はいいけど、遅刻したら良くないし」

  「お、俺まだしてませんよっ」

  「まだ…ね?

  これからするかもしれないよ?」

  「そんな訳ないじゃないですか、っ」

  自信がなくて声が震える俺に、千秋さんは小さく息を吐いた。

  「遅刻防止にお尻痛くしとこうか」

  「何でそうなるんですか、!

  やです…っ」

  言いながら涙が滲む。

  とにかく、せっかく平和な日にお尻が痛くなるのは避けたくて、必死に身を捩って逃げ出そうとしたら、肌を弾く音と共にお尻に痛みが走った。

  「あっ…」

  「貴和、お膝から逃げ出したら、道具だよ。

  もう忘れちゃった?」

  「っ……」

  痛みにビクッとして動きを止めた俺に、千秋さんが静かに言う。

  忘れる訳が無い……。

  以前痛すぎて膝から逃げ出して、別の部屋に逃げた時は、1番嫌いなケインで5回もお仕置きされた…。

  そのお陰でケインは二度と見たくない道具となってしまった。

  「パドルでも、ケインでも、出してくるよ。」

  千秋さんの口から出た道具に、俺は息を呑む。

  「ひ……ぃ、いいです…

  いらない……」

  泣きそうになりながら答えると、千秋さんは大人しくなった俺のお尻を少し撫でて、その手を振り上げた。

  パン!パァン!

  「っあ、ぃっ」

  バチン!パシン!

  「っふぇぇ……いた、い…」

  「朝寝てたい気持ちは分かるけど、ギリギリまで寝てて困るのは貴和でしょう?」

  「ふ、んっそ、ですっ」

  バチン!パシン!パシン!パァン!

  「うぇぇ……いたいよぉ……」

  「先に言っておくけど、遅刻したらその後1週間は寝る時間早めるよ」

  「ひっく…はいぃ…」

  バチン!パァン!パシン!

  「あぁんっ痛いぃ、」

  「貴和、ごめんなさいが聞こえないな」

  バチィン!パァン!パシィン!

  「あああぁっごめ、なさっごめんなさいいぃっ」

  足の付け根に走った強い痛みに背中が反る。

  「いつも何時に寝てるの?」

  千秋さんの質問に、俺はしゃくり上げることしか出来ない。

  寝ている時間を言ったら確実に叱られるからだ。

  「っ、ひっく……うぇぇ……ごめんなさ…」

  「ん?」

  ペチペチとお尻をはたかれるけど、何も言えなくて項垂れる。

  「……そう、貴和はお尻に聞かないと答えられないんだね」

  「や、ちが…っ」

  パァン!バチン!パシィン!

  「うああぁん!やだぁ、痛いぃ!」

  「やだじゃない。質問に答えなさい」

  バチン!パシン!

  「わぁぁん!いう、いうからぁっ」

  しゃくり上げてそう言うと、千秋さんは手を止めた。

  けどお尻に乗せられたままの手に、俺はビクビクしながら白状する。

  「ひっく…ふぇぇ……2時、くらい、っ」

  「…私に毎日おやすみって言ってるじゃない

  あの後も起きてたんだね?」

  「うぇぇ…ごめんなざぁ……」

  「そんな悪い子には道具だね」

  そう言って俺を膝から下ろした千秋さんに、俺は必死にしがみついた。

  「やぁぁ、ごめんなさいぃっっ」

  お仕置き中に膝から下ろす時は道具を取りに行く時だけだから、なんとかそれだけは阻止したかった…。

  「ひぐ、ごめ、なさぃぃ……

  も、よふかし、しないからぁ…ちゃんと寝るぅっ

  ごめん、なさ……ふ、うぅ……」

  ひれ伏すように蹲って泣いていたら、不意に頭に、千秋さんの手が乗った。

  「……本当に?」

  「んっひぅ……あさ、も…ち、ちゃんと起きるぅ……」

  千秋さんの言葉に何度も頷く。

  涙が散った。

  「……信じるよ

  最後に3回、痛いのね」

  両腕を引っ張って起こされて、千秋さんが立てた片膝に腹ばいになって叩かれる。

  バチィン!パァン!バシィン!

  「ぁ、っひ…うぇぇごめんなさいっっ」

  「よし、おしまい。

  約束できていい子だね、貴和。

  ほら、だっこ。」

  「あああぁんっごめんなさぃ、ごめんなさぁ……」

  千秋さんはわんわん泣く俺をあやして、抱き締めた。

  「愛してるよ、貴和。」

  千秋さんの優しい声に、俺もしゃくりあげながら口を開く。

  「おれ、も……っく……おれもぉ……」

  「フフ、可愛い」

  「……良いお尻の日、?」

  「そう、なんだか改めて、貴和のお尻を見てみたくなって。

  驚かせてごめんね?」

  少しして落ち着いた俺は、千秋さんがなぜ急にお仕置きする気になったのか聞いてみた。

  そしたら千秋さんは、今日が良いお尻の日であること、その記事を見て、俺のお尻を見たくなったことを話した。

  「だからって……あんなに叩くことないのに…」

  少し拗ねながら言うと、千秋さんはクスッと笑う。

  「貴和が完璧ないい子じゃなくて助かるよ」

  「むぅ……千秋さんは、赤いお尻が好きなんですか…」

  「ん?」

  「だ、だって…見るだけでもいいのに…」

  恥ずかしくなってごにょごにょ言っていたら、千秋さんは優しく笑って俺の髪を梳くように撫でた。

  「ごめん、つい可愛くて

  私は、貴和の全てが好きだよ

  貴和の全てを、愛してる。」

  そう言ってされたキスは、綿菓子のように甘くて柔らかかった。

  END