「先週の休みは色々大変だったな……」
みおちゃんはクラスへ入り席へ着くと、ランドセルを下ろしてお疲れな様子でした。
つい先日のお休みの事、たまちゃんがお酒で暴走してしまったのです。
(ここねちゃんがあの状態のお兄ちゃんを止めた? とも考えづらいし……一体何があったのだろう)
「みーおちゃーん」
「おはよ、にこちゃん」
「おはよぉ」
みおちゃんの隣の席のにこちゃん。
にこちゃんは水色のランドセルを開けると、教科書などを机の中へしまいます。
「大丈夫ぅ? 何だかみおちゃん、疲れているように見えるよぉ?」
「あー、うん、まあ色々あってね……でも大丈夫、ありがとうにこちゃん」
少し特徴的な口調で話し掛けるにこちゃん。
席が隣なのでみおちゃんと話す機会が多く、お互いに仲良しなのです。
「そういえば、にこちゃんの方は大丈夫なの?」
「うん、僕は大丈夫だよぉ。心配ありがとねぇ」
「にこちゃん、早く強くなるといいね」
にこちゃんは他の子と比べて体が弱いようで、保健室へ抜け出す事が多いのです。
クラスでもすっかりと体の弱い子とのイメージで、彼女が保健室へ抜け出しても誰も気にする者は居ません。
「そういえばぁ、ねこちゃんがさぁ」
「うん、ここねちゃんがどうかしたの?」
「みおちゃんに宜しく、って言ってたよぉ。どういう意味だろうねぇ?」
(……何の事だろう。心辺りが色々有り過ぎて、どれの事だか分からない)
実はにこちゃん、ねこちゃんのお姉さんなのです。
(正体を追求ばかりしちゃった事? それとも先日のお酒の時の件? あるいは猫少女の時の事? ……何だろう)
みおちゃんはねこちゃんがどの事に対して言ったのか、分かりませんでした。
(ここねちゃんが正体を隠している理由って……どうもお兄ちゃんの事好きっぽいし、その感情が絡んでる?)
「みおちゃんー、何か考え事かなぁ?」
「うん、ちょっとね」
「何だか難しそうな顔してるねぇ」
「色々あってね」
みおちゃんはねこちゃんについて、色々と気掛かりな事が多いようです。
特に正体を言えない本当の理由は何なのか、独自に推測を立ててはいるようですが……。
(ここねちゃんも、みおと同じような気持ちを抱いているんだよね……)
お兄ちゃんの事が凄く大好きなみおちゃん。
だからこそみおちゃんは、ねこちゃんもきっと同じ気持ちを抱いていると見抜いたようです。
たまちゃんの事が好きで好きで堪らない、それで気付けばお兄ちゃんと一緒に猫少女になっていたみおちゃん。
(みおは所詮、兄妹だもんね……好きって言っても、きっとお兄ちゃんには冗談って思われちゃう)
みおちゃんは兄妹でありながらも、本気でお兄ちゃんの事が好きです。
しかし報われない恋だと分かっていて、日々色々と悩んでいるようですね。
(……うん、今は一緒に猫少女に変身したりして、側に居られればそれでいいのかも。猫少女のお兄ちゃん、凄く可愛いもの)
猫少女に変身する事に喜びを覚える程、魔法猫少女が大好きなみおちゃん。
みおちゃんはたまちゃんの猫少女の可愛さに、胸をときめかせていました。
(世の中皆が猫少女だったらいいのに。どんなにステキな世界だろう、何処を見ても可愛い猫少女だらけ……いいよね)
「みおちゃんー、まだ考え事かなぁ?」
「え、うん」
「今度は何だか凄くにやけてたねぇ」
「……そ、そう?」
「みおちゃんってしっかりしてるけどぉ、時々抜けてる顔する時があるよねぇ」
みおちゃんは授業中など、良くたまちゃんで妄想をしている事が多いのです。
お兄ちゃんの前では緩んだ顔を見せないように、普段は必死に抑えているようで……。
「みおだって、そういう顔する時くらいあるよ」
「好きな子でも居るのぉ?」
「にゃっ!? にゃ、にゃんで……」
「あ、居るんだねぇ? どんな子なのかなぁ?」
(まさか、お兄ちゃんが好きだなんて言えない……にこちゃん、たまちゃんの事も知ってるもの)
にこちゃんはねこちゃんの姉なので、たまちゃんの事も知っているのです。
だからこそたまちゃんが好き、だなんて知られてしまったら……と、みおちゃんは危惧していました。
「居ないから! みお、好きな子なんて居ないから!」
「そ、そうなのぉ?」
みおちゃんはゴリ押し的な感じで、その場を誤魔化しました。
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その日のお昼休み、みおちゃんはにこちゃんに声を掛けてから中庭へ行こうとします。
「ごめんね、みお中庭に行くね」
「うん、行ってらっしゃーい」
「本当はにこちゃんとも一緒に食べられればいいんだけど、たまちゃん危なっかしいし放っとけないからさ」
「仕方ないよぉ、僕は大丈夫だからぁ。行っておいでぇ」
にこちゃんは体が弱い為、いつも教室でお弁当を食べています。
みおちゃんはお兄ちゃんに会いたい、と言う理由でいつも中庭でお兄ちゃん達と合流してランチタイムです。
「ねこちゃんの事、宜しくねぇ」
「うん、分かった」
みおちゃんは中庭へ行きました。
中庭へ着くと、既にたまちゃん達がお弁当を食べ始めていました。
「皆、お待たせ」
「卵焼き来た! わーい☆」
「みおちゃんー、ごめんねー。どうしてもみやちゃんが待てなくてー、先に食べちゃってたんだー」
「みおー、卵焼き全部みやちゃんに取られちゃった……」
「あらら……みやちゃん、いっぱい卵焼き作ってきてるから。だからたまちゃんのは取らないであげて」
「知らないよ☆ 早く卵焼きよこせ☆」
「みやちゃんー、本当に卵焼き好きだよねー」
ねこちゃんは焼き鮭を突きながら言います。
「ここねちゃんも卵焼き、どうぞ」
「ふぇっ? だからー、私はここねじゃないってばー」
「え? ここねちゃん、だよね?」
「……な、何でもないの! 私、何も言ってないよ!? うん、ここねだよ!? 私はここね……だったよね!?」
「そうだよね?」
ねこちゃんはみおちゃんの言葉に対して、ついつい反射的に反応してしまった感じでした。
(ここねちゃん、何で正体隠すんだろう……やっぱりお兄ちゃんに対する感情が理由なのかな?)
「卵焼きもーらい!」
「あ、みやちゃん! あたしの分、残しておいてよね?」
「早い者勝ちだよ☆ 食べたければみやの箸捌きに追い着いてみなよ☆」
「くっ、卵焼きが取れない……」
「ほらほら、卵焼きはいっぱいあるから。仲良く分けてね? ねこちゃんも取っていいからね」
「うん、ありがとー。じゃあお言葉に甘えて頂くねー」
「卵焼きもぐもぐ☆」
「みお、少しにやけてるけどいい事でもあった?」
「うん? まあね」
一生懸命沢山作った卵焼きが好評で、みおちゃんは内心少し嬉しがっていました。
『じーっ』
「あれ、また見られてる……?」
「みお、どうしたの?」
「えっと、何だか視線を感じた気がして……」
「そうなのー? 私は全然分からないよー?」
「うん、あたしも」
「卵焼きぱくぱく☆」
みおちゃんは視線を感じたようで振り返ると……学園の屋上が目に付きました。
(屋上……違うよね、視線はあそこからじゃない。もし猫少女に変身していたら分かったかもしれないのに)
そんな事を考えながら、みおちゃんは暫く屋上の方を見ていました。
「みおー? おーい」
「え、何?」
「どうしたの? 屋上の方をじーっと見て」
「何だか屋上が気になってね。何でだろう、別に何も無いのに」
「卵焼きうまうま☆」
みおちゃんは何故か、屋上の方が気になるようです。
「もしかして、そこから視線を感じたの?」
「違う、そうじゃないんだけどね。何だろう……多分、何でもないと思う」
みおちゃんは何故屋上の方をじーっと見てしまったのか、自分でも良く分からないようです。
「うん、とりあえずみおもお弁当食べよっと。って、卵焼きもう無くなってる!?」
「卵焼きむしゃむしゃ☆」
「みやちゃん、食べるの早過ぎ……」
「私まだ6個しか食べてないのにー」
「ねこちゃん、6個って結構食べた方では……」
みおちゃんの卵焼きは大好評で、今日のランチタイムは終わりました。
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そしてその日の放課後、みおちゃんは帰る準備をします。
「にこちゃん、今日もクラブなんだよね」
「うんー、放課後は毎日そうだよぉ」
「体弱いのに大丈夫? あんまり無理しないでね」
「ありがとぉ、そんなに体に負担が掛かるものじゃないからぁ、大丈夫だよぉ」
にこちゃんは放課後になると、毎日何かのクラブをしているようです。
しかしどのクラブに入っているのか、何をしているのか、みおちゃんは聞いていないので知りません。
「じゃあねぇ、また明日ぁ」
「うん、ばいばい」
みおちゃんはにこちゃんと別れて教室を出ました。
お兄ちゃんと待ち合わせしている昇降口へ向かおうとして、廊下を歩いていると……。
「みおちゃん見ーっけ☆」
「え、みやちゃん? どうしたの? 猫少女の姿で現れて」
猫少女の方のみやちゃんが現れました。
「みや、みおちゃんの卵焼きもっと食べたい☆」
「え、そんな事言われてももう無いよ? また明日作ってくるからさ」
「明日まで待てないもん! 卵焼きくれないならみおちゃんと遊ぶんだから☆」
「ちょっとたんま! ここ学園の中だからせめて外で……!」
みおちゃんが外へ誘導する間もなく、みやちゃんはまだ変身もしていないみおちゃんに攻撃を仕掛けようとして……。
(みお、まだ変身してないじゃない! 猫少女相手に人間状態じゃやられちゃう!)
『カキン!』
「えっ?」
みやちゃんの奇襲攻撃は、何者かによって防がれました。
「みお、攻撃受けてない……」
「全く、みやちゃんったら。遊びも程々にしようよ? あっちは生身の人間だよ?」
「え、猫……少女?」
水色っぽい見た事のない猫少女が、みやちゃんの攻撃からみおちゃんを守ったのです。
「あんた誰!?」
「……そういう事言うんだ。うん、まあでも仕方ないか。覚えてないのも無理ないのかも」
「何? 一体何が起こっているの……?」
「一応名乗っておくよ。僕はにこ。見ての通り猫少女のにこだよ。みおちゃんならこの意味、分かるよね?」
「え……にこ、ちゃん?」
突如現れた水色の猫少女は「にこ」と名乗りました。
「みやちゃん、猫少女が人間相手に奇襲するなんてフェアじゃないよ?」
「みやの知った事じゃないよ! みやはただ卵焼きが食べたいだけだもん☆ くれないならみおちゃんと遊ぶんだから! それだけだよ☆」
「遊びのつもり、なんだね……。うん、今のみやちゃんなら仕方ないか……止めないならば、僕が相手するよ」
にこちゃんはみおちゃんの代わりに、みやちゃんを食い止めようとします。
(にこちゃん、ステッキを持ってない!?)
すると、みおちゃんはにこちゃんがステッキを持ってない事に気付きました。
魔法猫少女はステッキで魔法を使うので、魔法猫少女とステッキはセットみたいなものです。
なのでステッキを持たない猫少女は、本当にただの猫少女でしかなく……。
「遊びの邪魔しないでよ☆」
『カキン! パキン!』
「にこちゃん、爪でみやちゃんの魔法弾を破壊してる……にこちゃんってこんなに強い子だったの!?」
みおちゃんはステッキを使わずに戦うにこちゃんを見て、驚いてしまいました。
「みやは美味しい卵焼きが食べたいだけなのにー!」
「うん、まあ気持ちは分かる。みおちゃんの卵焼き、美味しいものね」
「そうでしょ!? あんな美味しい卵焼き、この世にそうそうないもの☆」
「口に入れるととろけるんだよね。かつおダシも凄くマッチしていて素晴らしいし」
「そうそう、それ☆」
そんな2人のやり取りを聞いていて、みおちゃんは……。
「あれ、みお……にこちゃんに卵焼き、あげた事あったかな……」
記憶が間違っていなければ、にこちゃんに卵焼きを食べさせた事は無い筈だと。
みおちゃんは少し不思議そうに思っていて……。
「うん、確かにみおちゃんの卵焼きは最高だよ。でももっと欲しいからって、それでみおちゃんを襲うのは見過ごせないな」
「違うもん! みや、ただ遊んでるだけだもん!」
「今のみやちゃんは話が通じないみたいだね。仕方ない、やっぱり戦うしかないみたいだね」
にこちゃんは鋭い爪を使い、みやちゃんに飛び込みます。
『カキーン!』
「ちょっとにこちゃん! 何するの☆ 邪魔しないでよね!?」
「物理で戦う猫少女だなんて……」
みやちゃんはステッキを使って攻撃を防ぐも、にこちゃんに押され気味です。
そんな様子をみおちゃんは唖然として見ていました。
「トドメだよ」
にこちゃんは猫が引っ掻くように、みやちゃんの顔へトドメの攻撃を仕掛けましたが……。
「にこちゃんダメ!」
「なっ! みおちゃん、どうして」
みおちゃんは反射的にみやちゃんの前に飛び出て、みやちゃんの顔をにこちゃんの攻撃から守りました。
みおちゃんはにこちゃんの引っ掻きを受けてしまい、顔は擦れましたが……それでもほっぺと腕にかなり鋭い傷を負ってしまいました。
「お願い、顔だけはやめてあげて……」
「……そっか、分かったよ」
「えーと……みやのせいじゃないからね!? みおちゃんが怪我したら卵焼き作ってもらえなくなるし、そうなっても困るから! みや、帰るからね!?」
みおちゃんの擦れたほっぺと、攻撃を受けてしまった腕からは血が出ていました。
それを見てさすがにみやちゃんも思う事があったのか、とりあえず引いてくれたようです。
「ごめん、こんなつもりじゃなかったのに」
「いいよ、大した痛みじゃないから」
「そんな訳ないよ。僕の魔法は身体強化だから、爪へ魔力を込めて引っ掻くんだ。だから結構致命傷なダメージだった筈」
「そっか、だからこんなに痛いんだ……どうしよう、血が止まりそうにない」
「恐らくナイフで切られる以上のダメージだと思う。それに人間態で耐えてるみおちゃんも相当だけど……早く猫少女に変身して。治癒魔法を使って」
「え、どうしてにこちゃんが知ってるの……?」
「そんな事どうでもいいから。早く変身して治癒魔法を。僕はステッキが無くて治癒系魔法は使えないから」
みおちゃんは疑問に思いましたが……止まらず流れる血を見て、今はそんな事を言っている場合ではないと思いました。
「分かった。魔法猫少女! 始動!」
猫少女同士は正体がバレても大丈夫なので、みおちゃんはためらわず変身します。
「傷よ、癒えて!」
みおちゃんは自身に治癒魔法を使いました。
すると徐々に傷口が閉じ、流れる血も治まってきましたが……。
「完全に止まらない……それに、まだ痛い」
「みおちゃんの魔法でもカバーしきれないくらい、強い攻撃をしちゃったみたい。ごめん」
「仕方ないよ、あのみやちゃんが相手だったんだから……これで治るといいんだけど」
「でも僕の責任だから。僕も出来る事をしないと」
にこちゃんはみおちゃんに顔を近付けると……。
『ペロペロ』
「にゃっ!? にゃ、にゃに……にゃんで舐めてるの!?」
「みおちゃん、言葉がたまちゃんみたいになってるよ。唾液は1番の特効薬とも言うからね」
ほっぺを舐められたみおちゃんは顔を赤くして、恥ずかしそうな反応をします。
「ね、猫少女のたまちゃんの事も、知ってるの……?」
みおちゃんは少し動揺しながらも、にこちゃんに尋ねます。
「うん、勿論……みおちゃん、あの子には気を付けて」
「え、あの子って……みやちゃんの事?」
「さあ、どうだろう。でもこれだけは言える。あの子は危ないよ」
「ところで何で急に舐めたの……確かに唾液は特効薬かもしれないけど。恥ずかしいよ……」
「みおちゃんでも恥ずかしがるんだね。僕は猫少女だから、舐めるのは猫の習性みたいなものさ」
「猫少女だからって言われても……にこちゃん、なんでしょ? みおの隣の席の……」
「みおちゃん、一体いつ誰が猫少女は皆人間が変身している、って決めたのかな?」
にこちゃんの言葉を聞いて、みおちゃんは反応に迷いましたが……。
「え、でもにこちゃん、みおが猫少女だって知ってたよね? もしかして……そっか、ここねちゃんから聞いた? だからみおが猫少女だって知って」
「あのね、みおちゃん。目に見えるものだけが必ずしも真実とは限らないよ」
「それって……どういう意味?」
「みおちゃんが僕の事を疑うのは勝手だよ。でも、本当に猫少女は皆人間が変身しているのかな? あの子だって……」
「あの子って……みやちゃん?」
「さあ、どうだろう」
「みやちゃんしか……考えられないよね? 色々な意味で危ないのは分かるけど」
にこちゃんが言うあの子とは、みやちゃんの事なのでしょうか?
「さて、僕はそろそろ行くよ。色々と警戒もしないとだし、やらなくちゃならない事があるから」
「あ、待ってにこちゃん。みお、まだまだ聞きたい事が」
「きっとまた何処かで会えるよ」
にこちゃんは一方的にそう言って、その場を去ってしまいます。
「にこちゃん……猫少女は人間が変身している訳ではない? でもどう考えても……名前からしてにこちゃん、だよね?」
みおちゃんはにこちゃんについて、色々な疑問を抱きました。
「でもその割りには喋り方や雰囲気が全然違う。もしかして、みおの知ってるにこちゃんとは別人? それに、ここねちゃんみたいにヘタな誤魔化しに思えなかった」
にこちゃんとねこちゃんは姉妹なので、そういう事を考えるとにこちゃんが正体を隠しても、何ら不思議ではありません。
妹のねこちゃんだって、みおちゃん達に対して正体を隠そうとしているのですから。
しかしにこちゃんの場合は、隠すとか誤魔化している感じが伝わりません。
「でもたまちゃんの事を知ってて、みおの卵焼きの事も知ってた。あげた覚えなんてないのに、味や特徴やかつおダシの事までも……」
みおちゃんの中には多くの疑問が残ってしまいました。