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悠斗へ
この蔵はおじいちゃんが世界各地から集めた珍奇な物が入っている。
くれぐれも取扱いに注意してくれ。
説明書は隅々まで見落としのないように読んでくれ。
何故ここまで忠告するのかと言うと、私は蔵のある物が原因でお前と会えなくなってしまったからだ。
いつまでもお前が健康でいることを私は陰から祈っているよ。
父・由斗より
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彼は部屋一杯に広がる紙の前で腕組みをしている。何を書くのか悩んでいるんだろう。書き始めたら一瞬だけど、それまでが長い。私が出来るのは墨たっぷりのバケツを持つこと。
急に彼の眼光が鋭くなって、筆を構える。ざっと墨汁をつけてから書いていく。彼の動きに合わせて私も位置を変える。何を書いているかは、終わってからわかる。鬼の形相で書く筆致は、とげとげしくて力強い。
最後まで書いた彼は空気が抜けてしゃがみこむ。大きく息を吐いて天井を見上げている。その完成品は中心に文字がギュッと集まっている。パッと見でハートみたいだけど、外にとんがっている。
「ねぇ悠さん。一体何を書いたの?」
「お前は何だと思う?」
質問を質問で返すなんてイジワルだ。私が思うに、魂か塊なんだけど……。ここは彼がロック魂を紙にぶつけたと予想する。
「うーんと魂かな?」
「ブブー、不正解です。俺が書いたのは塊だ。中心に固まってんだろが、バーカ!」
彼に冷たく言われて私はムッとする。そんな言い方しなくてもいいじゃない。けど、彼はすぐに気分を切りかえて明るく接してくれる。
「まぁいい。俺の作品だいぶたまってきたから、次の作品展の飾り付けを考えようぜ。準備はいいか?」
爽やかな彼の顔に笑みを返してうなずく。気分屋で豪快で子どもっぽい悠斗さんは、自身の作品に対して一切妥協しない頑固さと展示の隅々まで工夫する繊細さを持ち合わせている。
そんな彼に出会うきっかけは、中学2年生の時だったっけ。
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イジメに遭って友達がいないあの時、よく学校をサボって美術館や博物館に行っていた。そんな時に出会ったのが、彼の作品だった。
筆づかいが荒くて色のつけ方が乱雑で下手な絵なのに、なぜか自分に元気をくれる「学校」の絵だった。その絵を一目見た時、私は彼のファンになった。
それ以来、私は彼に弟子入りしたくて美術部で休まず活動し、美大にも入学できた。
熱心に応援の手紙を送った結果、ついに彼の家に招待された。
「芸術の館へようこそ」
私とあまり年の変わらない若者だ。服はしわしわでズボンのすそを引きずるだらしない格好。しかし、栗色の瞳だけは真剣で私をつらぬいてきた。私ったらドギマギしちゃって、ちょっと後ずさりした。やはり、自分みたいな素人画家が弟子入りするなんて百年早い。
「やっぱり私は無理です」
「何を言ってるんだ? 芸術の辞書に無理という言葉はないんだよ」
にっこりと優しい顔が私を癒してくれる。この人は正真正銘の救世主だ。ずっとついて行こうと決心した。
年が3つだけ離れている2人は、どんどん親しくなっていく。
気がつくと、弟子と師匠の関係から恋人同士の関係に。彼は私の退屈な日常に刺激を与えれくれる。逆に私が彼にとっての癒しになってたらいいな。
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悠斗さんの作品展の小物は、蔵から取り出されることが多い。その蔵には、彼の祖父が集めたたくさんの怪しい物がある。
「この前のレコード以上の大物は現れないかな」
「やめてよ。もうあんな展示したくないわ」
蔵のレコードを展示会のBGMとして使ったら、お客さんが狂ったように笑い出した。設営した私と彼とスタッフを巻き込んでの大騒ぎになった。そのレコードはお蔵入りせずに燃やした。
「みんな楽しんでくれたからいいじゃないか」
「あのまま流し続けたら笑い死にしてたでしょ、もう!」
私がいくら忠告したって、彼は破天荒な展示をやめない。そこが彼の長所でも短所でもあるワケだけど。
分厚い鉄の扉を開けたら、あらゆる物がつまった空間が現れる。ここはホコリばかりだから、必ずマスクをつける。彼とはぐれないようぴったりくっついて進んでいく。
鳩が飛び出たままの時計。
さびついた戦国武将の兜。
髪が伸びていそうな市松人形。
どれもこれも、蔵の中では呪いのアイテムに見える。実際に使ったら大変なことが起きる。でも、そのスリルを味わいために彼はやめられない。
「“考える猿”と“死の石版”の間を埋める置き物がほしいからな」
「相撲力士1人ぐらい入れるスペースよね、確か。なら、あの箱ぐらいの幅でいいと思うわ」
柱の近くにある漆黒の箱を指差す。人が入れるぐらい大きい。中から変な生き物が出てきたらどうしよう。この蔵の宝物ならありうるからイヤだ。
彼はニヤリとして箱に近づく。コンコンとたたいて中身を確かめる。中から何の反応がなかれば、ひとまず安心だ。
「持ち上げてみようか」
「1人で持てる?」
「もちろんダイジョーブ博士」
彼は親指を立てて箱を持ち上げようとした。でも、ちょっと持ち上げたところで尻もちをつく。バツの悪い顔を私に見せた。
「だから言ったのに、もう!」
「悪い。一緒に持ってくれよ」
私にカッコいいトコ見せなくても十分わかってるのに。思考がガキなんだから。
タイミングを合わせて2人で持ち上げる。箱はまずまずの重さで、米袋ぐらいある。普通の男の人ならこれぐらい持てそう。しかし、非力な彼には持てない重さだ。顔を見合ってる間に彼が笑いかけてくる。私も笑い返そうとしたら――
「あっ! 危ない」
私の注意に応える間もなく、彼は柱に頭をぶつけた。ゴンとにぶい音がすると横に倒れる。箱は床に落ちて中身が転がっていく。
「もうちょっと前に言ってくれよ。クッソー」
涙をちょっとこぼして文句をたれる。私は聞き流して中身を懐中電灯で探す。床に落ちていたのはデフォルメされた動物の頭部だ。よく遊園地にいそうな感じ。ミ○キーほどの大きな黒目に、黒の点々がついた黄色の毛。ヒョウの着ぐるみかしら?
「中に入ってたのはヒョウの着ぐるみだったようね」
「着ぐるみー? おっ、いいこと思いついた」
彼は後頭部を押さえながら立ち上がる。
「今度の展示に俺はその着ぐるみで参加する」
「展示の内容を合わないと思うけど」
「確かに合わない。だからこそ客は不審に思う。何で書道や絵画の間に着ぐるみが置いてあるのか? その時に着ぐるみの頭を取って、作者本人登場で客を驚かせるのさ」
サプライズな演出でいいと思う。けれども、彼のセンスならもっと上の演出を目指してほしい。
「その程度じゃ、[[rb:佐原崎 > さわらざき]]悠斗の名が廃るわ。もっと他にアイデアはないの?」
「作者本人登場はすぐネットで拡散されて、衝撃度は2日目以降に落ちていく一方だろう。だが」
彼は指をパチンと鳴らして素早くウインクする。
「1日ごとに違う人が入ってたらどうかな。例えば君や館長が出てきたら、作者に会えると思った人を驚かせることができる」
「それってもう、作品と何の関係もないんじゃ」
「中の人が違うというのも芸術だよ」
前衛的すぎて私にはわかりません。着ぐるみの中に入ってじっとするのは嫌だな。暑くて重いから疲れそう。
「そうと決まれば、この着ぐるみを早速着てみよう」
彼は着ぐるみの頭部と体を瞬く間に箱の中に入れる。私が手伝おうとしたら、手で制して1人で持っていく。中身がわかって元気が出たのだろうか。
蔵から庭に出たら、明るさに目がくらむ。頭もちょっとクラクラ。少し弱った私を尻目に彼は着ぐるみの頭を取り出して、鼻をふくらませていた。その顔はカブトムシを捕まえた少年だ。
「こいつに何て名前をつけようかな。チー坊?」
「それチーターなの?」
「ああ。目の下に黒い線が入ってるからな」
言われてみればチーターはそんな顔だった気がする。彼はチーターの頭をかぶると、頭をぐらつかせた。
「わぁ、結構重いな」
一度頭を取って一息つく。
「中で着ぐるみのボディ部分を着がえようか。ここは寒いからな」
着ぐるみの中は熱いので、シャツとパンツ一丁になる必要がある。この寒空の下でその格好になるのは自殺行為だ。いくら破天荒な彼でも、さすがにそこまではしない。
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強い北風でガタガタ鳴る窓。外がかなり冷えてきても中は暖かいんだから。私はこたつの中で体を休める。その横で彼は服を無造作に脱ぎ捨ててパンツ一丁に。
「シャツは着ないの?」
「いらんよ。常夏の部屋じゃ燃え死ぬぞ、マジで」
彼は顔をしかめて着ぐるみのチャックを開ける。長年蔵にあったはずなのに、ホコリは全くない。手足を入れるとぴったりフィットしている。彼は動きやすいかどうか足踏みしてみる。いつもより遅い動きだけど、顔に笑みがあるから問題なさそうだ。
「歩くだけなら上手くいくな。なぁ、ここのチャックしめて」
彼が背中のチャックを指差す。私はゆっくりとチャックを上げていく。さびついたチャックだから慎重にしないと。
首元まで上げるとキツキツな感じ。サイズがもう少し大きかったらいいと思うけど、これ以外にないからしかたない。彼は着ぐるみの尻尾をさわって、悦に入った表情を見せる。
「あとは頭をかぶるだけだ」
チーターの頭が彼の男前な顔を隠す。力強い眼。差しは愛らしい黒目の中にある。くぐもった声で話しかけてきた。
「どう? 可愛いだろ?」
彼が手を合わせて首をかしげる。なんだかじわじわと可愛さが伝わってくる。
「うん。可愛いよ悠さん、すごくね」
「嬉しいなぁ。この着ぐるみは着心地いいから、ずっと着とこうかな」
チーターは手を左右にふって踊っている。
「そんな姿じゃ創作活動が出来ないわよ」
クギをさされたチーターはうなだれて、頭をポリポリかく仕草をした。
「だよな。じゃあ、チャックを開けてくれ」
「頭から取らないの?」
「何だか体がムズムズしてきたよ。早く脱ぎたい」
長年倉庫に入っていたから、ダニやノミでもついているんだろう。着させる前に干しておけばよかった。とにかくチャックを下げよう。
下がらない。
いくら押しても引いてもチャックは下がらない。チャックが壊れてしまったのか? あまりにもつまっているので歯と指先に力がかかる。
「おい。早くおろしてくれよ」
「だって、チャックが全然、うー」
このままじゃ彼が着ぐるみの中に閉じこめられてしまう。あせっていてもしょうがない。少し肩の力をぬいてみよう。
いつも通りにチャックをおろしてみたら…、おろせない。
やっぱりダメだ。チャックが完全に壊れている。
「悪いけど、チャックが壊れてるみたい」
「仕方ない。頭から取るか。ムグッ、ンゴンゴ!」
彼が着ぐるみの頭を取ろうとしたが、ビクリともしない、頭はチャックなしでかぶっているだけだから、すぐ取れるはずなのに?
よく見たら、頭と体の境目が無くなっている。背中のチャックも消えている。彼は着ぐるみの中にのみこまれてしまった!
「やっぱり呪いのアイテムよ、これ! 着ぐるみが一体化しちゃってるもん」
私が血相を変えて叫んでも、彼は取ることをあきらめない。着ぐるみのふわふわな手に力をこめている。不思議なことに、その大きな手はだんだん小さくなっていく。指先が割れて細くなる。子供の手ぐらいしかない。
同じ目線だったのに、私がいつのまにか見おろしている。着ぐるみに閉じこめられた彼は、子どもサイズに縮んでいるのだ。
彼はだらしなく手をおろして天井を見上げ始める。着ぐるみの黒目に生気が満ちて今にも動き出しそう。着ぐるみの体は引きしまって、本物のチーターみたいに。
「ハァハァ、おれ、どう、な、て?」
口を動かしている。体がもう着ぐるみと同化している。私はどう伝えていいかわからず、彼を見つめ続けるだけだ。チーターの黒目がせわしなく動く。
「とっても動きやすくなってら。おれ、チーターマンになってんの?」
彼は自身の顔をなで回す。うぶ毛にふれて体をぞわっとさせた。着ぐるみは消え失せて、私の目の前には二足歩行のチーターがいる。他の呪い道具同様に、あれは人を飲みこむ恐怖のぬいぐるみだった。
やっぱり、よく確かめもせずに着させるんじゃなかった。
「悠さんを元に戻す方法探すから、ちょっと待ってて」
「元にもどす? ヤダね! おれはすんごいパワー手にすることにあこがれてたんだ。だから、このすがたでいたい!」
かん高い声で反抗してくる。見た目と同じく、中身も子どもになってしまっている。
「悠さん……。んん」
言葉につまってしまう。彼はこのまま、チーターの子どもになりはててしまうのか。
[newpage]
いや、この前のおかしいレコードは床にたたきつけたら燃えた。きっと、この呪いを解く方法があるはず。
私は着ぐるみの箱をあさる。底に説明書があるかも。子どもチーターは盛んに話しかけてくる。私がこんなに心配してるのも知らないで。
「なぁ、姉ちゃん見てくれよ。おれ、めっちゃはやくなったぜー」
ろう下を何度も駆けている。中身が悠さんだとわかってなかったら、うっとうしく思う。やっと二重底になっていることに気づく。この底に説明書があってほしい。
ゆっくりニセ底を引き上げると、黄ばんだ紙が出てきた。墨で書きなぐった文字だ。幸いにも現代に近い表記だ。悠さんの祖父が書いたのかしら?
この着ぐるみを纏いし者は獣人と化す。
外見に応じて精神も変化する。
呪いを解きたくば、纏った者の縁者が着ぐるみの頭の毛十本を投入した茶を飲むべし。
着ぐるみをまとった者の縁者は…、私だ! こうすることで彼が助かるのなら、すぐにやるべきだ。
彼は走り疲れて倒れている。荒い息づかいをしながら、うつろな目で天井を見上げている。
「悠さん、ちょっと痛いけどガマンしてね」
「いたいって、ちゅうしゃ?」
さっと彼の頭の毛をわしづかみにする。抵抗されない内に一気抜き! 根元まで金色の毛の束だ。
「あにすんだよ!」
口の中には小さいながらも鋭い牙がある。もう完全に猛獣(ケダモノ)の子だ。早く人間に戻してあげないと。
怒る彼は放って、急いで台所に向かって水を沸かす。お茶パックを茶碗に入れてから、沸騰した湯を移す。いつもは何気なく行っていることも、手がふるえてまともに出来ない。湯が手にかかってしまう。その痛熱さも舌でなめてをおさえる。
5分ほど待ってから、お茶パックを上げる。間違えないよう、何度も10本を数える。もう大丈夫だと確信した所で、10本の毛をお茶の中に入れた。
毛が入ったお茶なんか飲みたくない。でも、彼を助けるためだ。マズいとわかっても飲む。もさもさした毛がのどでつかえる。吐き気がする。けど飲みこみたいから、お茶でムリヤリ流しこむ。毛は全部入ったみたい。
これで彼は助かる!
[newpage]
飲みこんだ毛が出ないよう口をおさえる。そのまま彼の元へ駆けていく。人間に戻った彼がいるはず。
期待をふくらませて行ってみたのに、チーターの少年がボールをいじくり回していた。無邪気な目で見てくる。
なんで、どうして、どういうことなの?
「姉ちゃん、顔がまっ白になってら。だいじょぶか?」
私は自分の顔をさわってみる。確かに冷たい。冷凍室に入れられた肉みたい。異物を飲んだからなの?
急に耳鳴りが襲ってくる。同時に耳が動く奇妙な感覚。耳をさわろうとしたら、そこにない。手をゆっくりと上げていけば耳にふれる。その耳には毛がびっしり生えている。悠さんの毛と同じだ。ということは、まさか――
口元から細長いヒゲが出てくる。人間じゃなくて、ネコ科のヒゲだ。鼻が前に前に突き出ていく。体中がほてり出して服を脱ぎたくなる。服を脱ごうとすれば、袖を引きさいてしまう。私の手は鋭い爪が生えていた。これで顔をかいたら血が出るだろう。
彼と同じ姿になりたくない。彼が人に戻ってほしいのに。その思いとは逆に変化はどんどん進む。体中が黒ぶちがる黄色の毛でおおわれる。手足の筋肉がふくらむ。上手くバランスが取れなくなって前倒しになる。
「あああ、姉ちゃんもチーターかよ」
「嫌、イヤ、イヤ、ア”ア″ア”-」
声が獣のうなりに変わる。自分の言葉が出てこない。大好きな服はさけて二度と着られない。多分パンティーははじけてる。尻がむずがゆくてたまらない。何かを動かしてる感覚がある。きっと尻尾だろう。スカートはいらないぐらい暑い。
けど、悠斗と違って四つ足だから、自力で取れない。言葉で伝えられないから、彼に目くばせする。
「なに? スカートを…、わかった」
彼がスカートを足元に下げてくれる、足元に達したら、後ろ足を上げて彼が取りやすくしてあげた。
「すっかりチーターだなぁ。いや、ホントにチーターだ」
チーター少年にあちこち見られる。そういや、今の自分はパンツをはいてないのだ。恥ずかしいから、そんなに見ないで。
彼に牙を見せてにらむ。でも、彼は笑って私の頭をなでるだけ。
「心配すんなよ。姉ちゃんを動物園にはやらないって」
違う、そういうことじゃないの! 私は首をふってみせる。
「どうした? はらペコなの?」
ああ、全く伝わってない。この手じゃ筆談も出来ない。何気なくおしゃべりすることが、こんなに大切だったなんて。
「れいぞうこからお肉取ってくるよ」
彼は料理をしないから、生肉で持ってくるだろう。今の私ならそれを食べられると思う。だけど、人間を捨てたみたいでイヤだ!
しばらくして、彼は牛肉を持ってきた。レンジで温めてくれたみたいでジュージュー音を立てている。おなかは空いてなかったはずなのに、肉を見ると急に食欲がわいてきた。
彼は「うめぇなぁ」と肉を手で持って食べている。私は手が使えないから、口に丸ごと入れちゃう。数回かんでからごっくん。いつもはよくかんで食べるのに。でも、肉汁が口に残ってうまい。
「テーブルにあったの見たよ。おれを人にしようとがんばってくれて、ありがと」
彼にほめられた私は目をそらす。チーター顔を見ると悲しくなるから。
「あの紙にスカシがあって、ただし、ちみどりがないと同じすがたになりますってさ。姉ちゃん、よく見とけばよかったな」
ちみどりは血縁のことだろう。当然、私は彼と兄弟でも親戚でもないから、チーターになったのね。そんな大事なことをスカシにするなんてヒドイ。彼の祖父はとんでもない物を集めてくれたものだ。
ため息をついてから前足を地面につける。あごを重ねた前足の上に乗せてネコみたいに寝る。ご飯を食べると眠たくなるよね?
「おれ、世界でただ1人のアーティスト・オブ・チーターマンになるぜ」
チーターになっても目の輝きは変わらない。悠斗はいつも通りの芸術家だ。私は安心して口角を上げた(つもり)。
「ヤバ、なんかねむくなってきた」
彼は私の体を枕にしてくる。ひざ枕ならぬ[[rb:胴枕 > どうまくら]]かな。目をショボショボさせて愛らしい。彼が本当の弟に思えてくる。
このまま元に戻れなかったとしても、彼がいればきっと、99パー大丈夫だ。彼の[[rb:芸術 > ロック]]魂がぬけない内はずっと。
「話せなくたってなんとかなるって」
私はゴロゴロとのどを鳴らして応える。彼はフッとつぶやいたきり何も言ってこない。もう寝ちゃってる。私も寝ようっと。
起きたら人の姿になっているかもしれない。そんなことをかすかに期待しつつ、夢の世界へ冒険しに行くのだ。
(おわり)
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