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ハイエナ娘はブサ可愛い(前編)

  9月の3連休を利用して、楽しいお泊り女子会をしていた。はずなのに、いつの間にか肝だめしの流れになって・・・・・・。私達3人は近所で有名な廃墟前に来ていた。

  

  ひび割れた白い壁。塗装がはげて名字がわからない標札。さびだらけの鉄門。想像以上にこの廃墟は怖い。

  私は出来ることなら、こんな所に入りたくない。でも仲間はずれにされたくないから。しかたなくくっついて来た。もっと家の中で遊んでいたかったな。

  

  「かなり朽ちてるくない? ヤバいじゃん」

  

  [[rb:美渚 > ミナギ]]はそう言うと、しきりに壁をさわる。虫がうじゃうじゃ湧きそうな壁。けど、彼女は全然平気。ほとんど背中にかかる赤髪と鋭い目つきが、威圧感を出している。それもそのはず、彼女は柔道で関東一になったことがある。

  

  「そうね。ここは街中の霊気の溜まり場ですもの」

  

  こういうことに慣れているのは[[rb:麻子 > マコ]]。彼女は霊感が強くて、幽霊や妖怪が見えるらしい。普段はオシャレ好きな女子。今日は団子の三つ編みと白い水玉模様つきの紫ワンピが可愛い。ところが、私達といる時だけ霊能力を発揮する。

  

  「さぁ行くか。いつまでもここにいたって、しゃあないし」

  

  「エリナは無理しなくてもいいのよ?」

  

  「ううん。全然、大丈夫だから」

  

  私は笑顔を作ってうなずく。ミナギは歯を見せて、私の頭を軽くたたく。

  

  「だよねー。うちの家に1人でいた方が、ゴキちゃんが出てきてヤバいから」

  

  「この家よりも、ミナギの家の方が廃墟ね」

  

  「あーん? せっかく泊めてんのに、ごちゃごちゃ言うなって」

  

  イケイケなミナギと冷静なマコの口論。これはいつも通りだから、別に止めに入らない。マコはミナギの力強さ、ミナギはマコの優美さを気に入っている。お互いに足りない所に惹かれあってる。

  

  一方の私は、2人みたいに強烈な個性を持ってないから、どっちにも憧れている。仲良くなっていくごとに、自分が普通でつまらないと思いがち。数日前からセミロングの黒髪にちょっと金色

  のカラーリングを足してみた。でも、やっぱ顔がイマイチだから、うーんて感じ。

  

  「そろそろ行こうか?」

  

  ミナギはそう言って、鉄門の棒の間をすりぬける。私とマコも後に続く。太ってる人は中に入れないね。

  

  「ところで、何でここは取り壊されないワケ?」

  

  ミナギはさかんに後ろ髪をいじっている。ちょっと怖がってるのかな?

  

  「業者さんが来た時にポルターガイスト現象が起きたそうよ。物が飛び回って怪我人が続出した結果・・・、この有り様ね」

  

  学校のグラウンドぐらいの庭は草原と化している。私達の足をすっぽり覆う長い草。誰も手入れ

  してないってこと。

  

  「あとさぁ、あの鉄の門、意味ないじゃん。こうやって侵入し放題だし」

  

  「この家の住人が生きておられた時は警報システムが整備されていたそうよ。もちろん今は機能してないけど」

  

  「ここに住んでた人って、確か有名な小説家だったよね。ふじ、ふじ、えっと・・・・・・」

  

  私が答えにつまっていると、マコが代わりに答える。

  

  「[[rb:藤浦富夢 > ふじうらとむ]]、怪奇小説家よ」

  

  「ありがとう。1回読んでみたことあるけど、思考がかなり飛んでいたから、途中でやめちゃった」

  

  私が照れ笑いを見せようとしたら、石につまづく。草の中に顔をつっこむ。草の臭さに鼻が取れそう。いいや、何かの肉のにおい?

  

  「エリナーだいじょうぶー?」

  

  「うん。平気へーき。何かつまづいちゃった」

  

  右ひざから血が出ている。けど、ちっとも痛くない。

  

  「気をつけないと、幽霊に襲われちゃうよ」

  

  私は肩をふるわせてあたりを見回す。周囲のマンションと私達の懐中電灯の灯り以外に光るものはない。

  

  「ユーレイがエリナを襲おうとしたら、うちメンチ切るじゃん。安心しなって」

  

  「暴力団のおじさんの幽霊だったらどうするのよ?」

  

  「その時は逃げるが勝ちだし」

  

  ミナギは出口をあごで差す。でも、そういう時にかぎって、廃墟から出られなさそう。私は立ち上がって、2人に目で合図を送る。

  

  「よしっ行くか」

  

  「ゆっくり行きましょうね」

  

  私達は身をよせあって進む。草原を越えたら不気味な洋館。ドラキュラが住んでそう。体育館の倉庫みたいにカビ臭い。

  

  「あらら。ドアが壊れてんじゃん」

  

  木製のドアは半分朽ちている。ドアの側面に白い虫が結構いる。とても気持ち悪くて嫌だな。

  

  [newpage]

  

  家の中へは簡単に入れる。じゅうたんの上はホコリの海。マコはせきこんで口をおさえる。ミナギはゴミ箱部屋で住んでいるせいか、へっちゃらそう。

  

  「どうなのマコ? 何か感じる?」

  

  「ゴホッ。ううん、ここには何も無さそうね」

  

  壁には、たくさんのサイン色紙が飾られている。誰のサインか確かめてみたい。けど、そんな余裕はないから奥に進む。

  

  私達の目の前に白い大きな階段が現れる。

  

  「先に2階に行く?」

  

  私が聞くと、ミナギは渋い顔に。

  

  「いや。腐ってたら危ないから、やめとこ」

  

  「そうね。先に1階を調べてみましょ」

  

  右をむくと廊下がある。そこにはいくつかの部屋が。一部屋ずつチェックしなきゃいけないのかな?

  

  「幽霊は必ず私達を驚かしてくるから、アタリの部屋なら何かが起こるはずよ」

  

  

  

  マコは1番目の部屋を懐中電灯で照らす。難しい漢字やチンプンカンプンなアルファベットの本がたくさんある。

  

  「マジ作家の部屋って感じ」

  

  ミナギは感心して見渡す。マコは小さくせきをしている。ほこりを吸わないよう気をつけよ。本の部屋はブキミなぐらい静まっている。突然ワッと出てきたらどうしよう。

  

  「こういう時に本が襲ってくるのよ」

  

  「マコぉ、怖いこと言わないで」

  

  私は恐る恐る、とある本を取る。全く動きなし。ここにはいないみたい。

  

  「そろそろ次の部屋に行こうよ」

  

  私とミナギは書庫を出ようとする。でも、マコは本の表紙に見とれている。顔を輝かせて、口をうっすら開けて。

  

  「魔導師の手引書ですって。中々良い趣味を持ってたみたいね」

  

  「おーいマコ。早く出ないと、あんただけ置いてくよー」

  

  ミナギのおどしにマコは無反応。自分の世界に入ると、なかなか出てこないから。

  

  「線を引きまくっているわ。何回も繰り返し読んだようね」

  

  鼻息あらく興奮気味。こっちが引っぱらないと動かないな。私は彼女の背中を軽くたたく。

  

  「全ての部屋を見終わったら、またゆっくり見よう、ねっ?」

  

  「ここの魔法陣にメモ書きしてるの見てよ、エリナ!」

  

  マコが指差すのは汚い走り書き。何が書いてあるのかさっぱりわからない。

  

  「いいから行くよ!」

  

  私はマコの手を引っぱる。マコはお子ちゃまのごとく反抗する。が、しばらくすると借りてきたネコになる。

  

  「次の部屋のドアはしっかりしてるじゃん」

  

  

  人をこばむ鉄の扉。お金が隠されていそう。

  

  「鍵はかかってないわね」

  

  マコがゆっくり開けると、ほこりが襲ってくる。せきの嵐が大変。中に光を満たせば、ぬいぐるみがならべられている。可愛い犬や猫に、ペンギン、ライオンなどありとあらゆるぬいぐるみ。

  店を開けるぐらいの量だ。

  

  ミナギはカワイイを連呼しながら、ぬいぐるみを手に取る。彼女は意外にファンシー物が好き。体育会系のごついゴリラ顔が一気に優しい仏顔になる。

  

  「気を付けなさいよ、ミナギ。呪いの人形かもしれないから」

  

  「呪い? そんなのあるワケないじゃん」

  

  ミナギに顔を近づけてマコは忠告。眉の間にしわがよってる。

  

  「さっきの呪いの本にあったけど、人をぬいぐるみ化させる項目があったのよ。ほら、動物達の

  

  中に不釣り合いな男のぬいぐるみがあるでしょ!」

  

  マコの指差す先にメガネをかけた男のぬいぐるみがある。確かにボーダーの服に青のジーンズは

  

  おかしい。私と目が合うと、うっすら口元が笑ったような……。

  

  「イタッ!」

  

  ミナギが顔をゆがめて狼のぬいぐるみを離す。彼女の右の親指に血がついている。

  

  「どうしたの?」

  

  「こ、こいつが噛んだ、噛みついてきた!」

  

  ミナギはふるえ声で言うと、誰よりも素早く部屋を出る。私とマコも彼女の後に続く。やっぱり、ここは危険すぎる。

  

  全身でふるえる弱気なミナギ。対照的に静かな笑みを浮かべるマコ。私はこの肝だめしで2人の仲が悪くならないか心配。そろそろ、お開きにした方がいいんじゃない?

  

  「ねぇ、やっぱりか―」

  

  その続きがかき消される奇声。「ア」か「ウ」のどちらかの長い音だと思う。誰もいないはずの廃墟なのに……。

  

  「か、風の音だよね。風の音だよな?」

  

  ミナギは不安げな顔で、2人を交互に見る。私は何とも言えない。マコは落ち着いた声で言う。

  

  「怪奇小説家の霊かしら?」

  

  「冗談じゃねぇし。もう出よう、マジでたたりあるから!」

  

  ミナギはつばを飛ばしてから走り去っていく。私が追いかけようとしても、マコは動かない。

  

  「マコは帰らないの?」

  

  「久々に飛びっきりの本物に会える機会を逃したくないもの。エリナも怖かったら、先に帰っていいのよ?」

  

  マコを1人きりにしたら、一生この館から出られなくなりそう。ミナギには悪いけど、マコと一緒にいよう。ミナギなら1人でも、柔道で何とかできると思う。

  

  「まだ帰らないよ。声の主が知りたいから」

  

  私は両肩を上げて強めに言う。怖さで顔はこわばっているかも。だって、おびえてばかりだとよけいに怖く感じちゃうから。こんなところで気絶したら、おしまいだし。

  

  「そうね。それじゃあ次の部屋に行きましょ」

  

  

  

  

  書庫とぬいぐるみ部屋の次は、扉がろうか側にたおれている部屋。扉をふまないように部屋に入っていく。マコの後ろにいれば安心。

  

  この部屋はゴムボールやルームランナーがあってジムみたい。きっと、小説家が体力作りをしていたんだろう。

  

  マコはあたりを見回してため息をつく。奇声の正体がわかったのかな? ふりむきざまに小声で言う。

  

  「幽霊が出やすいように、一旦懐中電灯を消してみましょう」

  

  「えっー。イヤだよそんなのー」

  

  私は首をはげしく横にふる。マコは無言で懐中電灯を消す。さらに私の懐中電灯まで消してきた。

  

  「ちょっとやめてよ、マコ!」

  

  私が文句を言っても無反応。しかたなく1分ぐらい待ってみる。

  

  

  

  

  

  何も起きない。これ以上は私のハートが持たないから、再びスイッチをつける。

  

  「何にも出なかったねぇ。あれ?」

  

  部屋中を探しても、マコの姿がない。さては、私より先に逃げたな。

  

  隣の部屋からドンドン壁をたたく音が聞こえてきた。背中に冷感が走る。隣は一番はしの部屋だったはず。まさかユーレイ? って、よくよく考えたら、マコのイタズラの気がする。

  

  「おどかそうたって、騙されないからね!」

  

  私がそう言っても、音は止まない。もうそっちに行くよ。マコがクスクス笑ってそう。ひょっとしたらミナギもいる?

  

  

  

  

  深呼吸をしてから扉を開けてみる。慎重にゆっくりと。勢いよく開けたら、変顔でおどかしてきそうだから。頭が入るぐらい開けた。あれ? 中から何も出てこない。

  

  「マコ? マコ、そこにいるよね?」

  

  何の反応もない。懐中電灯を向けて探してみよう。ここは衣裳部屋だから、服の間に隠れているかも。それにしても、高そうなコートや紳士服があるね。

  

  「マコー、マコー?」

  

  この部屋にマコがいなかったらどうしよう。あの音が本物のユーレイが起こしたものとしたら……。ああ、季節外れの肝だめしなんてするんじゃなかった。

  

  [newpage]

  

  

  急に白いフワフワしたものが、私の目の前を横切る。本物なの? 私の足は棒になる。白い物体は再び目の前に。急スピードでせまってきた。目をつむって現実から逃げる。目覚めたら、全てが夢でした。

  

  とはならなかった。じわじわと寒気が起きる。まだ9月なのに…、何で? もしかして憑かれたの? 体は氷に触った時ぐらい、冷えてくる。足がガクガク笑う。この薄着じゃたえられない。コートを借りよう。ちょっとゴワゴワしたファーのフードつきコートを取る。これで顔以外の部分があったまる。

  

  寒くなくなってきたかな。そろそろコートを脱ごう。と思ったら、急に暑くなってきた。サウナに入っている感じ? まだ入ったことないけど。脱ごうとしても服が体にピッタリ貼りついて、はがれない。息がどんどん苦しくなる。誰か助けて!

  

  ひざをついて天井を見上げる。まだ綿毛もどきがいる。私、ぬいぐるみにされちゃうの? やめて、まだ人間でいさせて。

  

  「お願いです。もう二度とここに来ませんから、助けて下さい!」

  

  私は手を合わせて謝る。手は異常にふくれ上がっている。爪がネイルのように黒く、するどくなっている。手の平を見たら、黒くぷにぷにしたものが! これは肉球……?

  

  謝っても全然変化が止まらない。もう1回謝らないと。したくないけど、土下座で。頭が床にひっつくぐらい下げる。

  

  「ごめんなさい。本当にごめんなさい! 申し訳ありません。すみません。何でもしますカラ。

  

  ユルシテクダ――」

  

  ろれつが回らなくなる。同時に鼻が床につく。あごが引っぱられて痛い。いつの間にかコートを着ている感覚が消えている。茶一色のコートが自分の肌に? ざらざらした毛が生えそろっている。よく見たら黒いぶちがあちこちに。

  

  ジーンズはまだはいている。フードはついている。けど、コートはもう私と同化しちゃってる。このまま人間から遠ざかっていくのが怖い。

  

  他の2人を見つけよう。みんなといれば、この恐怖はいくらかマシになる。立ち上がってみたが、足の筋肉がけいれんして上手く歩けない。結局、床にたおれてしまう。何だか背中が盛り上がっているみたい。さらにお尻の肉もふくれてきた。

  

  一体、私は何に変わっているの? 右手で鼻をさわってみたら、しめっぽいことに気づく。鼻の下にはフサフサのあご。イヌっぽい何かになっている模様。しかも古木の安心する香りが、だんだん鼻の中に入ってくる。心は不安でいっぱいなのに、体が満足し始めた。

  

  せっかくバイト代を貯めて買ったジーンズが、ゆっくり裂けていく。私の足はケモノの体に合わせて太くなっている。裂け目からは茶色の毛がびっしり。「もういや」と叫ぼうとしたら、くぐもった声しか出ない。人間の言葉も失ってしまった。今じゃフードの重みも感じない。

  

  毛の感覚は足首にまで押しよせる。かかとがうき上がって、四つ足のケモノ風になる。靴の先っぽがやぶけて、黒い爪が現れる。

  

  お尻がむずがゆくなる。ここから新しい感覚が生まれてくる。きっと尻尾だ。頭を後ろにむけたら、短く太い尾が見える。そのままだと暑いから、裂けたジーンズを口でくわえてはがす。ムキムキな後ろ脚だ。もう人間の足のなごりナシ。

  

  [newpage]

  

  

  「すっかり可愛くなったね。新たなケモっ娘ちゃん」

  

  謎の男の声。頭の上の耳がピンと立つ。もしかして白い奴が出してる?

  

  「自分の今の姿を確かめてごらんよ」

  

  白玉は私の目の前に来て、バチっとはじける。すると、部屋が昼間の明るさになる。白玉が再び飛んできた。

  

  「鏡はこっちにあるよ!」

  

  私が目をつむって顔を横にふる。自分の今の現実を見たくない。

  

  「見たくないの? じゃあこっちから持っていくよ」

  

  白玉がそう言うと、何か重い物が動く音が聞こえる。きっと鏡を動かしているんだ。

  

  「目を開けてごらんよ。さぁさぁ」

  

  目をさらに強くつむる。

  

  「あんまり強情を張ると、永遠にその姿にしちゃうよ」

  

  私は吠えて白玉にたずねる。もし目を開けたら、元の姿に戻してくれるのかって。

  

  「もちろん。ある程度時間が絶ったら、元に戻ると思うよ」

  

  少し安心した。呪いで一生ケモノのままだったら、暴れまくってたと思う。ゆっくりと目を開けて、自分の「今」を見る。

  

  鏡には鼻が黒ずみ、とがった牙が生え、丸い大きな耳の動物が映っていた。白目の部分が赤黒くなって、ケダモノの目つきに。自慢の黒ずんだ金髪はタテガミとなって背中まで伸びている。体はちょっとたるみがちでだらしない。カッコいい狼やキレイな狐と比べて不細工な顔と体つき。

  

  私はこの動物の名前を知っている。

  

  アフリカに住む泥棒動物・ハイエナだ。

  

  しだいに笑い声が出てくる。ショックが大き過ぎて笑っているのか。ハイエナ特有の声なのか。よくわからないけど、笑っている。

  

  「お友達は2階にいるよ。一緒に会いに行こうか?」

  

  きっと、マコとミナギも私みたいに変えられちゃうんだ。ここに入らなかったら良かった。

  涙がじわじわあふれてくる。

  鏡のハイエナがぼやける。

  これは夢だよね?

  人が動物になるっておかしいよね?

  夢なら早く覚めてよ。お願いだから――。(続く)

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