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OGREISM HERO(後編)【FANBOX試し読み】
[chapter:サンプル]
そこはヒーローや怪人が存在する世界。そこでは二人の高校生バディヒーロー、レッドサンシャインとブルーフルムーンがその名を轟かせていた。
しかしある日、怪人によってその存在は消え失せることとなる。
ブルーフルムーンは赤鬼怪人の手によって自らの身体を乗っ取られて、本人自身が鬼の尖兵を作る鬼の頭領となってしまった。
そして、相棒である砥場野太陽(とばの たいよう)ことレッドサンシャインも、森林に現れた怪人によってその人生を終えさせられることになろうとは、この時人類は誰も考えてはいなかった。
「どこだ! 来るなら出て来い!」
「ヒーローか……お前も、私の”コレクション“に加えさせてやろう……ククククク……」
鬱蒼とした森林。その静けさに似つかわしくない熱苦しさをまといながら、サンシャインは叫んでいた。相対する怪人は対照的にその姿を見せず、余裕の面持ちを思わせる語調で彼を煽る。
「ふざけるな! 誰がお前の“コレクション”なんかになるか! 今すぐ出てこい!」
「出てこいと言われて出てくるほど、私は甘くはないわ! まずは私の部下達とお相手願おう」
その時、サンシャインの耳をつんざく声が鳴り響く。そのキーキーとした耳障りな声は、夜の虚空から際限なく鳴り響きはじめる。そして間も無く上から何人もの戦闘員が出現した。
「ご主人様のところへは、行かせませんよ」
「覚悟してもらいます、ヒーロー様」
それは燕尾服やタキシードなどといった正装をその身に纏った二足歩行の蝙蝠人間たちだった。言うなれば『蝙蝠戦闘員』というのがぴったりだろう。しかし他の戦闘員とは違い言語を介し、さらには敬語まで使っている。その他の戦闘員とは違う彼らの佇まいにサンシャインは一瞬たじろいた。
「お前ら、他の戦闘員とはやけに違うな」
「それは、我がご主人様の教育が行き届いているからです。あなたもご主人様の素晴らしさ、すぐに理解していただけますよ」
マントを翻しお辞儀をする蝙蝠戦闘員。その次には牙をかっと剥き出しにし戦闘態勢に入る。やはりいくら繕っても怪人は怪人。破壊の本能には勝てないとサンシャインは心の中で笑う。
「来い! 俺は絶対にお前ら怪人なんかには負けたりしない!」
サンシャインがそう宣言した瞬間、戦闘員の戦闘スイッチが入ったかのごとく彼に飛びつく。そして、その口内に聳え立つ鋭い牙を立ててきた。
「サンシャインパワー・チャージ!」
サンシャインは力を込めて太陽のエネルギーを吸収する。ヒーロー、レッド・サンシャインは世界に存在する太陽のエネルギーを取り入れてその力を増し、そこから繰り出される技は絶大な威力を誇る。しかしその能力にも弱点がある。
(……あまりパワーが溜められていない。ここからは太陽のパワーがほとんどない……か)
そう。近くに太陽がないと力を最大限に発揮できないのである。太陽が遮られる夜や屋内などではサンシャインの力は本来の半分も出せない。強力ではあるがその分弱点も大きい力なのだ。
「だが、このくらいなら、これでもいけるはず! はあっ!」
しかしそれでも戦闘員程度では彼の敵ではなかった。サンシャインが手刀を繰り出すと、光の刃のようなオーラが戦闘員を薙ぎ払う。
「くっ、この状況下でもなかなかのパワーのようですね」
地面に横たわる戦闘員を目にして彼らのリーダーらしき蝙蝠戦闘員は一歩後退する。そして倒れている戦闘員に手をかざすと、手からは黒いオーラが迸りはじめ、戦闘員を包み込む。
「さあまだまだですよ。行きなさい!」
「キィィ!」
リーダー戦闘員が命令すると他の蝙蝠達が立ち上がり再びサンシャインに襲いかかった。しかし何度立ち上がろうとも力関係が同じならば、当然ながら結果は同じことで、戦闘員達は再びサンシャインに倒されることとなった。
「何度やっても無駄だ! さっさと親玉のところへ案内してもらおう!」
「ふふふ、まだまだ。戦闘員だからとはいえ私たちを舐めてもらっては困りますよ」
そう言うと再び戦闘員を復活させるリーダー。また同じように襲いかかってくるのかとサンシャインは高を括っていたが、彼らも流石に三度目であるが故に、少し工夫を凝らしてきた。
「キキィ!」
戦闘員達が後ろにジャンプし空中で旋回しはじめる。何度か空を飛びながらサンシャインを煽ると、そのまま彼目掛けて急降下してきた。
「ふん! はっ、やっ!」
しかしそんな攻撃もサンシャインはいともたやすく回避する。すぐさま戦闘員も空中にジャンプし、ミサイルのように彼を狙って攻撃を仕掛ける。そんな状況が幾重にも渡って繰り広げられることとなった。
「キィィ! フンッ!」
「甘い!」
何度も避け続けて体力的にも消耗してきたサンシャインだったが、まだまだ力は有り余っている。それ以上に、繰り返される空中からの攻撃にも慣れてきた。爪を振り下ろすタイミングを見計らって戦闘員の腹部に思い切り拳を叩き込んだ。
「うおおおおおぉ!」
飛んでくる蝙蝠を撃ち落とすかのごとくサンシャインは戦闘員を次々と地面に伏していく。とうとう戦闘員達は動かなくなった。死んでいるのか、気絶しているのかは分からないが、とにかくもう戦える余力は残っていないことだけは伺えた。
「ふふ、素晴らしい」
そう言うとリーダーは手を叩いてサンシャインを賛辞する。戦いに集中していたサンシャインは、そのクラップ音ではっと我に帰る。
「それでこそ、ご主人様のコレクションになる価値がある」
リーダーの背後に聳え立っていたもの。それは城だった。まるで王族が暮らしていたもののような大きく立派なものだ。しかし、その造形は怪人らしく禍々しくて人々に不安感を抱かせる。そんな城だった。
石壁や屋根は赤、紫、黒――そんな毒々しい色たちで構成され、意匠はやけに刺々しく、そして近くには夥しい数の蝙蝠が飛んでいる。その威圧感にサンシャインは一瞬たじろいだ。
「此処は通称不夜城。我がご主人様の根城にしてコレクションルームです」
リーダーは彼を誘導するかのように不夜城の闇へと溶けていく。この中にも戦闘員が跋扈しているだろうし、何より彼らの親玉である怪人もいるだろう。
「此処では光という概念は存在せず、一生闇のままの世界――それでも良いなら入ってきなさい。その時が貴方の最期でしょうけどね。フハハハ……」
「最期になるのはお前ら達怪人共の方だ! 俺がお前らを絶対に倒す!」
サンシャインはヒーローとして宣言をすると勢い勇んで不夜城へと走っていく。しかし、もしここで冷静になって基地へと戻りこの不夜城と戦闘員のことを報告してさえいれば、また未来は変わっていたかも知れない。
彼は気づかなかった。何故この場に自分以外のヒーローが一人も来ないのか。自分より先にここへと派遣されたヒーローがいたはずなのに、その森には誰一人そのヒーローがいない。この事に気付いてさえいれば――だが、もう遅い。
不夜城の扉は、閉ざされた。
「くそっ、どこだ! どこにいる!」
「ギィ!」
不夜城の中、幾重にも襲いかかる刺客を蹴散らしながらサンシャインは進む。怪人のもとへ辿り着くために。
数十体もの蝙蝠戦闘員が自分の命を狙ってくるが、それを自らの肉体と太陽のエナジーを駆使して払い除けていく。
しかしいつまで経っても奴のもとへは辿り着けずにいた。サンシャインは、まるで何時間も何日も時間が経っているような、そんな感覚に陥る。だが地球の平和を脅かす者達を許すわけにはいかない。そう、家族や、部活仲間の笑顔のためにも――
「じゃーん!」
「利樹センパイ、なんですかそれは!?」
太陽が通う学校のラグビー部の先輩、持田利樹が彼に見せたのは、真っ赤なラバースーツだった。明らかにそれは、ヒーローしか着る事を許されないヒーロースーツだった。
「俺もヒーローになったんだぜ! ヒーロー名はキャプテン・ラガー! 俺らしくていい名前だろっ!」
「そんな、俺はセンパイ達を助けるためにヒーローになったのに、何で自分からそんな危険なマネを!」
「だからだ」
「えっ?」
「お前一人を危険な目に遭わせたくなかったからだ。
お前がヒーローとしてちゃんと俺達を守ってくれてるのはみんな知ってる。でもな、それはお前に責任を押し付けてることでもある。
だから、俺だけでもお前と一緒に戦いたかったんだ」
その眼差しは真剣だった。いつもはあっけらかんとしている性格の利樹が、その様子が欠片も感じられないほどに。
「……この戦いはスポーツじゃないんですよ。負けたら死ぬ事だってあります。実際に戦いに行って戻ってこなかった同期を何人も見てます。それでも、ですか?」
「当たり前だ。ワンフォーオール・オールフォーワン。お前の戦いは俺の戦い。俺の戦いはお前の戦いなんだ。
俺は、お前とヒーローとして戦う事を決めたから、ヒーローになってるんだ。それだけは、揺るがん!」
こうして数ヶ月遅れて彼の憧れの先輩はヒーローとなった。そして今でも一線級のヒーローとして自分のように戦い続けている。
(そうだ……ワンフォーオール・オールフォーワン。俺はいつでも、みんなと共に!)
そして長い戦いを経て、とうとうサンシャインは辿り着いた。怪人・ヴァンパイアキングのもとへ。
「よくぞここまで辿り着いた、ヒーロー・レッドサンシャインよ。私こそがこの不夜城の主、ヴァンパイアキングだ」
そこは王室を模した部屋で、その奥の玉座に座っているのは深紅のタキシードを着込んだ蝙蝠人間。しかしその体格は一回り大きく、顔もどこか戦闘員達とは違い精悍なものをしている。そしてその隣にはあのリーダー戦闘員が跪いていた。
「さすがですね。王の前へと辿り着くとは。しかしそこまでです」
王は玉座を降りると、靴音を響かせながら少しずつサンシャインのもとへ近づく。一体何を考えているのか彼にはよく分からなかったが、とにかく仕掛けなければ、と思った。
「くらえ! シャインブレット!」
サンシャインは、出会い頭に太陽のエネルギーを固めた拳をヴァンパイアに目掛けて放つ。しかしその拳は王室の空を切る。サンシャインは背中からバサリとマントを翻す音が聞こえることに気がついた。
「下品な男だ。これだから人間という生き物は」
背後にはヴァンパイアがくつくつと笑いながら立っていた。まるでそんな攻撃は歯牙にもかけぬと言わんばかりに余裕の面持ちを見せている。
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