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[chapter:サンプル]
「おい、金はちゃんと持ってきただろうな?」
「は、はい……」
平和な学校の校舎裏で、一万円札を数枚握りながらビクビクと震えている少年がいた。何故彼はそのような大金を持ちながら震えているのか。それは目の前の生徒に持ってこいと脅されていたからだ。
その生徒の名は仲井勝人(なかい かつひと)。校内では最悪の不良生徒として恐れられている人物で、彼の素行は文字通り最悪の一言であった。
「何見てんだよ!」
少しでも気に入らないことがあれば暴力に訴え、
「先公だからって舐めてんじゃねえぞ!」
彼の行動を注意する教師に対して暴行を働き、
「こんなどうでもいい授業なんて受けてられっかよ」
学校の授業も真面目に参加しない始末。
当然ながら彼は未成年の飲酒や喫煙行為も行っており、何度か万引きで補導も受けた経験もある。
当然ながら地方では要注意人物とて恐れられている悪童であり、今こうして万札を握っている少年も、彼の被害者一人であった。
「三万円か……上出来じゃねーか。高見」
「ねえ……これ以上は無理だから、これで勘弁してくれないかな……」
「バカ言え。もっと持ってくんだよ。お前の親は金持ってんだから財布からパパッと盗ってこいや」
「そんな……これ以上はっ!」
高見の反論を遮るかのように仲井の拳が顔面に飛ぶ。高見の頬は赤く腫れ、目には涙が潤みはじめる。
「うぐ……っ」
「いいか? 最低でも一万円だからな。持ってこなきゃ、どうなるかわかってんだろうな!?」
「っ! ……は、はい…………」
暴力による恐怖と大声による恫喝に脅され、高見は強制的に言う事を聞かざるを得なくなった。教師をも恐れぬ彼にとって“チクリ”など自殺行為に等しいものであったし、何よりさらに攻撃が過激化するのが彼にとっては怖かったのだ。こうして最悪の不良、仲井勝人による被害者がまた増えていくのであった。
「へへ……これでまた……」
いつものように授業を抜け出した仲井が向かった先は、銀行だった。彼は高見から奪った金を入金しに行ったのだ。理由はたった一つ。彼の夢のためだ。
「ただいま」
夕刻。
勝人はブラブラと街を散策して暫く経った後、家へと帰ってきた。彼の家はボロボロのアパートで、家の中も物の少ない閑散としたものであった。
家に帰ってきた勝人が真っ先に向かう場所。それは母・春恵の寝室であった。春恵はいつものように、経年劣化により黄ばんだベッドで浅い息をたてながら横になっていた。
「おかえり、勝人」
「ただいまお母さん。今日も学校楽しかったよ」
「それはよかった……勝人が元気なようで、何よりだよ」
春恵は元気そうに微笑む勝人を見てにこりと微笑む。まるで、彼が地方中の嫌われ者であるかも知らない様子で。
それもそのはず、彼女は息子の本性を知らないのだから。
――――……
「そんな! そんな! お母さん……お父さん!」
当時小学五年生だった藤田勝人は見た。宙に浮いている両親の姿を。乱雑な黒で引っ掻き回された紙切れを。
勝人の父であった藤田冬紀は当時莫大な借金を抱えており、その借金返済に困り果てていた。そしてその時期に運悪く妻である春恵の病の発症。そしてとうとうやってきた催促の日。追い詰められた二人は、息子を遺して先に逝く事を選んだ。
12月25日、雪の降るホワイトクリスマス。その日、勝人の何かが壊れる音がした。結果、冬紀は死亡。春恵は運良く一命を取り留めたものの……運悪くそれによる後遺症が残ってしまった。その時によるものなのか、それとも精神的なショックによるものなのかは分からないが、その日から春恵はうまく記憶を保つことができなくなっていた――
「それよりも、お母さんは大丈夫? 病気、酷くなったりしてない?」
「私は大丈夫よ。それより、ごめんね、ええと、あの……あんた、勝人に迷惑かけて」
「ううん。迷惑なんかじゃないよ。俺にはお母さんさえいてくれれば、それでいいんだから」
勝人は、彼女の前では“善い息子”を演じている。つまらないハリボテの、ぐしゃぐしゃな糸で取り繕った不恰好なアップリケを被って。
「くそっ、あと何万ありゃあいいんだ……」
彼は金を欲していた。数百数千万にもよる額の大金を。
その理由のひとつは家に残った借金の返済。そしてもうひとつは春恵の病気の治療費だ。
彼が生徒から金を奪っていたのもそれが理由である。幸せのために彼は汚いことでもなんでもやると決めていた。当然ながら学校に内緒でアルバイトも行っていた。
彼が不良になったのも、この腐った世界なんてどうでもいいと自暴自棄になったことが大きい。ただ、小学生の頃、自殺した親の子供として酷いいじめを受けていなければ、また彼の未来は変わっていたのかもしれないが。
「畜生……もっと金があれば……」
寝たきりの母を見ていられなかった勝人は、家を出てどこか気晴らしになりそうな場所を探してひたすら歩いていた。明日になればまた退屈な学校が始まる。それがまた彼にとっては憂鬱だった。
ぼやきながら街を歩く勝人。そんな彼の前に現れたのは怪しげなスーツ姿の男だった。
「キミ……仲井勝人君だね?」
「そ、そーだけど……なんだおめぇ」
「聞いたよ。キミ、お金が欲しいんだって?」
男が発したその言葉に勝人は一瞬だけだが反応を示した。そしてすぐに考え直す。そんな美味い話が急に転がり込んでくるわけがない。あまつさえ、自分の名前を知っている赤の他人に――まあ、自分の名前が悪い意味で近所に知れ渡っているのは本人も知っていたからそれ自体はあまり気にしてはいなかったが。
「怪しいな。何が目的だ?」
「いやいや、私は怪しい者ではないです。私はとある番組のプロデューサーでして、その番組に参加する一般の方を探している最中だったのですよ」
「ふーん……」
テレビの人間ならば、確かに自分の名前を調べるなど容易いだろう、と勝人は思う。しかしそれでもそんな簡単に個人情報が入手できるのだろうか? と疑問も感じた。
「それであなたにはその番組に参加していただけたら、と思いまして」
「はぁ? 俺がそんな番組に出るわけねーだろバカか!」
「一億円の賞金が出る……と言っても、ですか?」
「……っ!?」
勝人はぐらっ、ときた。一億円――その数字を聞いた時、勝人は思った。これは天が自分に与えた僥倖だと。
これがたとえ詐欺だとしても構わない。幸せになるためには多少のリスクを取ることも必要だ。と勝人は覚悟した。もし本当に一億が手に入るのならば、家の借金も母親の治療費も簡単に払える。自分達は幸せを手に入れられる。そう思ったからだ。
彼の答えは、一つだった。
「……わかった。出てやるよ」
「それでは、名刺と連絡先をご用意しますので、12月24日に指定の会場に来てください。そちらも後ほどご連絡いたしますので……」
こうして彼はプロデューサーと連絡先を交換してその番組に参加する事を選んだ。
そしてその日が彼、仲井勝人にとっての終わりである事を、彼は知る由もなかった。
――時は過ぎ、12月24日。とうとう収録の日がやってきた。
勝人は指定された会場へ早めの入場を行うと、スタッフへ軽く挨拶をし、プロデューサーの男の下へと向かった。
「よくぞ来てくれました、仲井勝人くん。収録は今日の夜になりますから、それまでゆっくりしていてくださいね」
「それよりよぉ……」
「何ですか?」
「本当に手に入るのかよ? ……一億」
「……勿論ですとも。
――あなたが耐え切れば、の話ですけどね」
「……は?」
ゴッ。勝人の頭の中でそんな鈍い音が響いた。何をされたのかわからなかった。ただ、鈍痛とともに闇に飲まれていく意識――そんな勝人が聞き取ったのは、プロデューサーの不気味な笑い声だった。
◆
「さて始まりました、本日の『Trans Execution Show』、略してTES! 司会は私、――――がお送りいたします!」
そんな耳をつんざくやかましい声により勝人は目を覚ます。そこは赤と緑に彩られた極彩色の会場だった。
『Trans Execution Show』――そんな聞き慣れぬ番組名に勝人はただ困惑することしかできない。そんな彼を尻目に司会は説明を続ける。
「今回の処刑……もとい、挑戦者は高校二年生の仲井勝人君16歳!
彼は暴力、窃盗、未成年飲酒、恐喝などの犯罪行為を日常的に行っている悪逆非道の青年です!
彼のような害悪的な存在を野放しにしておくわけには、いかないですよねー!?」
「いかなーい!」
確かにその説明は間違ってはいなかったが、もっとましな言い方があるだろう。と勝人は思った。しかし彼の説明はこれだけでは終わらない。
「そんな彼は今全身を縛られて動けない状態……そんな彼が今回行うゲームは、『射精を我慢しまショー』のコーナー!」
その宣言とともに観客から歓声があがる。そこで気がついた。自分が一切の身動きが取れないことに。そして、自分が縛られ磔にされていることに。
それと同時にサァと勝人の顔から血の気が引く。射精、我慢などの散漫的なワードから、大体何をされるか予想がついたからだ。
「『悪人更生でSHOW』の頃から人気のこのコーナー、ルールは簡単。彼のグレフェンベルグ・スポットに取り付けられたアナルバイブを数秒に一度ずつ作動させます。
彼がそれにより百回射精を行わなければ、彼の勝利、彼に賞金の一億円が贈呈されます。
なんと彼は病床の母親のためにお金を稼いでいたそうです。それがカツアゲでなければ立派だったんですけどね〜」
「ははははははは!」
司会の煽りに観客が一斉に笑い出す。その様子を見て血の気の引いていた勝人の頭に一気に血が上る。
「んだと! もっぺん言ってみあうっっ!!」
その瞬間、奥から震えたモノの快感に勝人は素っ頓狂な声をあげる。それと同時にパンツの中にじっとりと温かい液の感触がいっぱいに広がった。
「まさか……」
「おっと、あまりに五月蠅かったのでうっかりバイブを作動してしまいました。いきなり射精してしまったようですよ。この方」
「ふざけん……うっ!?」
司会の声をさらに遮ろうと叫ぼうとするが、その時勝人の体に異変が起きる。
「あああっ、うああ、あうあう、ああうっ」
勝人の頭が不意にガクガクと揺れる。勝人は頭の中が熱いようなくすぐったいような不思議な感覚に捉われた。そしてすぐにバキバキと音がして頭に鈍い痛みを覚える。
「がっ!? あ、あががっ!」
「このバイブにはある魔法がかかっています。それは彼の精巣の中に溜まった精液に、彼を構成するすべての要素を詰め込む魔法です。
それは例えば、人間としての体組織、人格、記憶、そして彼が今身につけている衣服でさえも、精液に変換することができるのです。常連の視聴者様ならお馴染みですね?」
「な、なんだ!? 何が起きた!」
「それを出してしまう。つまり射制してしまうと彼としての要素が排出された精液とともに失われ、それを補うための別のもの――私共がバイブに込めた魔法に沿って彼の全てが変化します。
今回はクリスマススペシャルということで、彼をトナカイに変身させてみたいと思います!」
「な、なっ……!?」
トナカイ――変身――まるでファンタジーのような荒唐無稽な単語に勝人は困惑する。しかしそれは紛れもない現実であった。何故なら今の彼の頭には、立派なトナカイのツノが生えていたから。
「1回目で、彼の頭には角が生えました。これから射精するたびに段々と彼の体はトナカイへと変化していくのです。しかもただのトナカイではなく、トナカイの獣人に、です!」
「……は、はぁあ!?」
獣人。さらにファンタジーじみた単語を口にする司会に勝人の脳は混乱するばかりだった。
「意味わかんねー事言ってんじゃねーぞ! 早く解きやがれ!」
「さあ、この威勢のいい彼は、射精欲を耐え切り、見事母親のために一億円をゲットできるのか!
それでは、TES年末クリスマススペシャル、『射精を我慢しまショー』スタート!」
「スタート!」
「うああぁ!」
観客の掛け声と共に、広々とした会場にバイブの音と勝人の嬌声が鳴り響く。
身体の奥に小刻みに揺れる甘美なリズム。アナルを刺激される感覚は彼にとっては初めてのことだった。何よりただただそういう事をするのが気味悪かったし、絶対にそんなものでイキたくないとも思った。しかし、身体自身はそんな彼の想いとは裏腹に逸物をギンギンに反り立たせ、我慢汁を垂れ流していた。
「ぐおっ……やめろ……あっ、やば、出る出る出る、イクイクイク! あっ!」
「おっと、3回目にして2度目の射精!」
ふたたびパンツを濡らす勝人。すると次はズボンを突き破ってふさふさの栗色の尻尾が飛び出してきた。やはりそれはトナカイのものだった。
「ああっ、やだ! はあうっ!?」
「おおっと、これは痛恨のミス! なんと勝人君、尻尾が生えた快感で射精してしまったようです!
当然これでも変化は進行します」
「そんな……あっ、あがっ!?」
爪先に違和感が走ると、ビキビキと音がして硬質化していく。黒く硬く変化したそれは、一つに収束して割れ目が消えていく。それに伴う痛みで先程味わった快感も消し飛んでしまった。が、勝人はそれをラッキーだと感じた。これで快感はリセットされたのだから。
しかし彼の足は蹄と化してしまった。仲井勝人の肉体は人間からさらにトナカイへと近づいていってしまっている。
「マ……マジで俺、トナカイになってってる……んぐぅっ!?」
再び彼の奥を突くピンク色の快感。下半身から背中を通って脳を貫く言葉にできぬ劣情に勝人はただ悶えることしかできない。しかし、どうにか人間をやめたくない一心で耐え切る。
トナカイになってしまえば、二度と母親に会う事もできないからだ。
「ふむ、これで10回目。なかなか耐えますね。しかし10回毎にバイブのパワーは上がっていきますからね。どこまで耐えられるかが見ものですね」
「なっ……」
そうなのだ。このルールにより均衡を崩し何度も散っていった者たちは数知れず。どれだけ逮捕の恐怖に怯えながらもその日々に耐え切っていた犯罪者でも、段々と強くなるバイブの刺激の前には皆敗北していった。
そして彼も例外ではない。
「あああっ!」
11回目。先程よりも強くなったアナルバイブの刺激は予想以上に彼の中に快感をもたらした。その刺激により勝人の逸物は濃厚な精液を吐き出した。
そして、全身に尻尾と同じ栗色の毛が生えていく。まだらに真っ白な体毛も生えていき、あっという間に彼の全身はトナカイのふさふさな毛で覆われてしまった。
「あっ、はあっ……くひぃ……」
「なかなか良いトナカイになってきましたね。では次、いきます」
「はぁ! や、やめ……んぐっ、ぐぐ……くそぉ……」
12と13のバイブ攻撃を耐える勝人。しかし……
「あっ、ダメだ! 出ちま、うっ!」
14回目の作動で4度目の射精。その射精により彼の側面に生えていた人間の耳が沈み込むと、頭頂部にトナカイの耳が新たに生えてきた。
「あっ! アガァ!
…………うっ! ぐっ……くはぁっ!!」
その後も射精は続き、5度目の射精で勝人の顔が前へ前へ引き延ばされるように伸びていき、獣の顔へと変貌。トナカイの分厚い舌をだらりと出してしまう。そして6度目の射精の後、パンツの中の逸物に変化が起きる。皮がズル剥けになっていくと、色は真っ赤に、形は尖っていき、人間だった彼の逸物はトナカイらしい獣の逸物へと変わった。しかしトナカイの金玉袋の中にはあいも変わらず人間のDNAがしぶとく泳いでいる。それだけが、唯一残った彼の人間としての名残であった。
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