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獅子舞から始まる変身の連鎖【FANBOX試し読み】
[chapter:サンプル]
「暇だなぁ……」
高校2年生の真泉志士郎はとにかく退屈していた。元々ものぐさな志士郎は寒い冬に外で遊ぶのも億劫で、やっているテレビも特に見たいものはなく、ゲームもあらかたクリアし終わり、家でゴロゴロと暇を持て余していた。
「そんなに暇なら倉庫でも整理してくれない?」
志士郎の母がそう言う。去年の大晦日に大掃除は済ませたが、そういえば家の倉庫はまだだったと志士郎は思う。しかし、あそこは埃臭く父がコレクションにすると勢いで買ってそれきりのよくわからない物も多く、好んで足を運びたいとは思わない。
「ハァ? あそこ整理しろって無茶言うなよ。あそこ何があるのか全くわからんべ?」
「だからっていつまでもコタツでゴロゴロしない! あんた、あとちょっとで大学受験でしょ!?」
「うるせえなぁ……」
母の小言が始まった。志士郎は母が小言を始めるとうるさいからな、とリビングを出る。家にいると面倒だ。そう思った志士郎は仕方なく倉庫の掃除を暇つぶしがてらにすることにした。
「さみぃ……」
マスクと箒を装備し、アタッチメントにバケツと雑巾を用意した志士郎は、しぶしぶ倉庫の掃除を始めた。中はやたら埃にまみれていて、見るだけで生理的嫌悪感を催すほどだった。
まず水をくぐらせた雑巾で埃が多いところを重点的に拭いていく。雑巾はあっという間に黒ずんでいき、その度にバケツの水で雑巾の汚れをリセットする。
「結構拭いたはずなんだけどなぁ」
ある程度、綺麗にした後は倉庫内を箒で掃いていく。それでも埃が舞って志士郎の喉を襲いにかかる。マスクをしていなければ即死だった――と冗談めいたことを心の中で思いながら志士郎は掃除を進めていった。
「よし、こんだけやりゃ充分だろ」
約3時間の作業を経て、志士郎は倉庫を見られる程度のレベルまで掃除を終えていた。父が買い込んだ妙な物々を綺麗に陳列してようやく志士郎の清掃作業は完了した。
「よし、家に帰るか……と、ん?」
志士郎は倉庫を出ようと戸を開けようとしたその時、倉庫の奥に何やら妙な視線を感じた。
「何だ?」
志士郎が視線だと思ったそれは、不細工な獅子の頭に唐草模様の風呂敷――獅子頭だった。
「獅子舞ぃ? んでこんなとこにこんなもんがあんだよ!?」
志士郎は倉庫で思わず叫んでいた。
「それにしても、何で家の倉庫に獅子舞が……まあ、親父これ以外にも変なのばっか集めてっしな〜……」
周りには獅子頭に負けず劣らず民家の倉庫に入っているとは思えないような異彩を放つ物品の数々が置かれている。怪しい店でも開いているのかと思うほどのラインナップだ。
「ま、あとで親父にでも訊いてみっか」
志士郎は父親へ話を訊くべく獅子舞を担ぐと家へと戻るのであった。
◆
獅子頭を父に見せたところ、どうやら父が若い頃に獅子舞をやった時に貰ったものらしい。それが今でも倉庫に眠っていたということなのだ。
「もう使わないし、それお前が持ってていいぞ」
「いらねえよ!」
そんなやり取りをして父に半分無理矢理に獅子頭を渡された志士郎は一人ぼやく。
「こんなん貰って何になるんだ……被って踊りゃいいのか?」
志士郎はひとり獅子頭の歯をカチカチと鳴らす。獅子をかたどった真っ赤な顔と唐草模様の風呂敷というあまりにも月並みなデザインに思わず失笑する。
「それにしても不細工な面だな」
笑いながら獅子頭の歯をカチカチ鳴らし続けていると、なぜかこの獅子舞に愛着のようなものが湧き始めていた。見つけてからまだ数時間しか経っていないはずなのにだ。
「うーん、獅子舞って初めて見たけど、多分実際に被った奴ってあんまいねえんじゃないかなぁ……少しだけ、被ってみるか?」
この獅子頭を見ていると、いつしか志士郎はこの獅子頭を自分で被り獅子舞をやってみたい。そう思い始めていた。獅子舞は複数人の人間がいないとできないものなので、今はできなくとも試しに頭だけでも被ってみようか、そんな考えが志士郎の頭をよぎる。
「ははっ、何考えてんだ俺。獅子舞なんて……」
初めはそう言っていた志士郎だったが。この獅子頭を見ているたびに、彼の頭の中には被りたい、獅子舞になってみたい、という謎の感情が無限に湧き上がっていく。
「なんだこの獅子舞……どうして見てると被りたくなってくるんだ……こんなの絶対おかしいだろ!」
湧き上がる気持ちを必死に抑えようとする志士郎だったが、獅子舞になりたいという思いが頭を侵食して離さなかった。獅子舞から心を遠ざければ遠ざけるほど得体の知れない感情が志士郎の心の中を渦巻く。
「あああああぁああぁ!」
そしてとうとう、志士郎は獅子頭を自分の頭の上に勢いよく被せたのだった。視界が狭くなり鼻腔をつく獣の臭いが志士郎の脳内を支配した。
「はぁ……はぁ……」
興奮冷めやらぬまま肩で息をする志士郎。ヨレヨレのパジャマ姿に真っ赤な獅子頭という組み合わせがなんとも滑稽に見える。
その時、志士郎の体に異変が起こった。
「はぁ……あっ、ああっ!?」
志士郎は思わず声を上げる。身体中がかあっと熱くなりムズムズとしたくすぐったさを感じて志士郎は身悶える。身体の内から何か小さな炎のようなものが灯っていてそれが段々と燃え上がっていっているのだ。志士郎にはそれが何とも言えないような感覚なのだ。
それと同時に、志士郎の頭の中には何やら危機感――警告のようなものが鳴り響く。このままでは自分は、自分ではない何かになってしまう。本能的にそう確信していた。
「うおおぉ! やだっ、やめろっ!」
志士郎は両手を無意識に獅子頭に持っていった。それを自分の顔から引き剥がそうと必死になるが、それはいくら引っ張っても自分の頭から引き離されることはなかった。まるでそれが自分の頭そのものになっているかのようだったのだ。
「嘘だろっ……剥がれねえ……!」
いつしか頭の獅子には「感覚」ができていた。“それ”が物ではなく、それが生きている細胞のように暖かく柔らかく感じ、さらに触れた手の感触をダイレクトで感じられるようになっていた。
「な、なんだよこれ」
言葉を口にするたびガチン、ガチンと音が鳴る。志士郎の感覚では、その口は明らかに大きくなっていた。自分の頭が獅子舞の頭そのものになっている、という事実は到底受け入れ難いものであったが、まぎれもない現実だった。
しかし、志士郎の変化はこれだけでは終わらなかった。
「ああっ! やめろ! これイジョウ、カわったら、アアッ!」
強烈な音と共に着ていたパジャマが下着と一緒に弾け飛んだ。カラフルな布切れと化した自分の服に別れを告げる余裕も今の志士郎にはなかった。
次に、バキバキと音がして志士郎の体が、剛健な筋肉に覆われていった。骨も嫌な音を立てながら伸びて、背丈すら前よりも大きく変わろうとしていた。
大人顔負けのマッチョ体型になった志士郎の肉体を覆うのは先程布切れとなった衣服。しかしその衣服は朱色に変わり志士郎の肉体にピッタリと張り付く。
[[jumpuri:続きはFANBOXで > https://www.pixiv.net/fanbox/creator/12753959/post/851519]]
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