Ad
富・名声・愛すべてを手に入れた男・[[rb:十三 > じゅうそう]][[rb:閏支郎 > じゅんしろう]]が事故死したニュースは、世界中に大きな衝撃をもたらした。
あらゆる事業に成功した彼の遺産は100億円にのぼると言われる。妻子のいない彼の遺産を、誰が手に入れるか注目された。
彼の死から1ヶ月後、遺言状が公開された。
私の遺産の相続権は、以下の12名の子ども達にのみ与える。
壱場 睦樹(いちば・むつき)
弐志 如華(にし・じょか)
参東 生弥(さんとう・せいや)
肆乃田 優卯美(しのだ・ゆうみ)
伍島 皐井斗(ごしま・さいと)
陸 水麗(りく・すいれい)
漆原 文吾(うるしばら・ぶんご)
捌条 葉太(はちじょう・ようた)
玖古 長江(きゅうこ・ながえ)
拾央 神助(じゅうおう・しんすけ)
霜奈・エールフ(そうな)
走師郎・ディッセム(そうしろう)
私の遺産は、以上の12名で均等に分配するが、それには条件がある。
9月24日から30日の1週間、私の別荘がある[[rb:十二士 > じゅうにし]][[rb:島 > じま]]に滞在し、最終日まで残った人間のみが、私の遺産を相続できるものとする。
なお、島に来るのは子ども達だけであり、それ以外の人間を連れて来た者は相続権を放棄したものと見なす。当然ながら、9月30日までに離島した者も、相続権の放棄と見なす。
9月30日に相続権を持つ人間が島に1人もいなかった場合は、私の遺産の全額を赤十字募金にあてるものとする。
彼は生前、数多の女性と付き合っていたが、正式な結婚はせず、多くの婚外子が産まれた。これは、彼の子ども達に対するせめてもの[[rb:償 > つぐな]]いだろうか。
[newpage]
[uploadedimage:19605561]
さびれた漁港で、[[rb:壱場 > いちば]][[rb:睦樹 > むつき]]は目を細くして、船を探していた。十二士島へ行く船には、黄色い龍のマークがしらっていると聞いたが、一体どこにあるのか。彼は打ち捨てられたような船を、一隻一隻確かめている。
「おーい、[[rb:壱場 > いちば]]先生! こっち、こっちぃ!」
彼を呼んだのは、坊主頭のくりっとした瞳の少年である。彼は野球部のユニフォームを着ている。[[rb:壱場 > いちば]]は不機嫌そうな顔を浮かべて、彼に歩み寄る。
「おい。その先生呼びはやめろと言っただろう?」
「悪い悪い。でも、先生には違いないっしょ?」
[[rb:壱場 > いちば]][[rb:睦樹 > むつき]]は、わずか13歳で[[rb:鷹杉 > たかすぎ]]文学新人賞と芥川賞をダブル受賞し神童作家と呼ばれた。しかし、その後の作品は今一つで、処女作の盗作疑惑が浮上するほどだ。最近は推理小説を書いているが、その評価は芳しくない。
「僕は大した小説家じゃないよ。[[rb:睦樹 > むつき]]でいいよ、[[rb:参東 > さんとう]]君」
「りょ! じゃ、俺のことも[[rb:生弥 > せいや]]と呼んでよ」
ノリの良い少年は[[rb:参東 > さんとう]][[rb:生弥 > せいや]]と言い、[[rb:明智 > あけち]]第三高校の1年生エースである。MAX154キロのストレートと落差のあるフォークを武器に、今年の夏の全国大会の優勝投手になった。本来なら総体に出場しているが、監督やチームメイトが特別に遺産の相続を優先させてくれた。
「わかった、わかった。じゃあ、これに乗ろうか?」
「おっしゃ! どんな兄弟に会えるかなぁ~」
「[[rb:生弥 > せいや]]みたいにうるさいのはゴメンだよ」
「何ぃ!?」
2人はたまたま同じ電車で出会い、意気投合して仲良くなった。小説家と野球少年という文化系・体育会系の違いがあっても、同じ父親の遺伝子を継いでいるから、波長が合うのだろうか。
彼らが船に乗り込むと、パソコンをいじるマスクをつけた少年、目をつぶって瞑想中の紫の長い髪の少女、料理本を見ている頭にバンダナを巻いた少女がいた。3人は漁の道具の間に座り、パーソナルスペース分に離れている。
「あれ? あと7人足りないね」
「船は6人と5人で分けて、1人は別のルートで行くヨ」
バンダナ少女が、生弥の疑問を打ち消す。
「えっと、君は……」
「あら、ごめんヨ。うちは[[rb:陸 > りく]][[rb:水麗 > すいれい]]、よろしくね!」
「俺は[[rb:参東 > さんとう]][[rb:生弥 > せいや]]、[[rb:生弥 > せいや]]でいいよ」
「僕は[[rb:壱場 > いちば]][[rb:睦樹 > むつき]]です。よろしくお願いします」
3人が自己紹介をしていると、紫髪の少女が目を開けて、おもむろに立ち上がる。
「私は[[rb:玖古 > きゅうこ]][[rb:長江 > ながえ]]。皆様に幸運がありますように」
彼女は腕に巻いた黒い数珠をジャラジャラ鳴らしながら、おじぎする。彼女のスピリチュアルな雰囲気に、[[rb:睦樹 > むつき]]と[[rb:生弥 > せいや]]はドン引きする。
「えっと、君の名は?」
マスクの少年はキーボードを叩いてから、パソコンの画面を皆に見せつける。ディスプレイに「[[rb:漆原 > うるしばら]][[rb:文吾 > ぶんご]]です。よろしく」と表記されていた。
「[[rb:文吾 > ぶんご]]君はパソコンばっか見て、全く話してくれないヨ。[[rb:長江 > ながえ]]ちゃんもあの調子で、会話が続かないし。まともな2人来て助かったヨ」
「そうなんだ。良かったねぇ……」
「こんなのと1週間、同じ島か……」
同じ遺伝子を継いでいても、違った環境で育つとこうも違うのかと、[[rb:睦樹 > むつき]]は実感する。他の兄弟も変わり者が多いのか、少し不安になってきた。
「皆さん揃ったので、出しますよー!」
船長が漁船を出航させる。波が高くないので、小さな揺れで済んでいる。[[rb:睦樹 > むつき]]達は座って話し始めた。
「俺は野球、睦樹は小説の才能あるけど、[[rb:水麗 > すいれい]]ちゃんは何か才能、特技ある?」
初対面の人に足して、かなり大胆な質問だ。ただ、[[rb:十三 > じゅうそう]][[rb:閏史郎 > じゅんしろう]]の子ども達は皆、何かしらの才能を持っているのは事実だ。
「うちは料理得意ヨ! 家でむっちり中華料理作ってるからヨ!」
「中華料理かぁ。ひょっとして、そのトランクの中には、マイ包丁が入ってるのかな?」
「その通りヨ。ほら」
彼女がトランクを開くと、文化包丁や刺身包丁など、様々な用途の包丁が入っている。警察に見つかったら、逮捕されそうな量だ。
「ワーオ! 本格ぅ! 向こうで[[rb:水麗 > すいれい]]ちゃんの料理食べたいなぁ」
「1週間、うちと[[rb:弐志 > にし]]さんで作るの決まってるから、食べれるヨ」
「食材はすでに用意されてるのか?」
「あい。[[rb:弐志 > にし]]さんが乗ってる船に、食料品あるヨ」
「その[[rb:弐志 > にし]]さんという人とは、どういう関係だ?」
[[rb:睦樹 > むつき]]は立て続けに質問する。推理小説を書いているせいか、少しでも気になることがあれば、質問したくなるようだ。
「うちの店の常連ヨ。高校で看護系の学んでるヨ」
「看護師さん志望かぁ。俺の肩も見てもらっちゃお!」
「看護師と料理人か。俺ら子ども達だけで、1週間暮らしていけるよう、上手いことなってるな」
無人島でレトルト料理や不衛生な場所を覚悟していただけに、これは嬉しい誤算である。
「1週間いるだけで10億近い金ゲット出来るから、ちょっと不便でも良かったけどな」
「そうヨ。うちも金入ったら、お店拡大して世界進出ヨ!」
「おっ、夢あっていいねぇ。俺の金は野球部の練習機材や用具に使われそうだから、全く夢ないぜ。[[rb:睦樹 > むつき]]は何につかうつもり?」
「言わない」
[[rb:睦樹 > むつき]]は口を真一文字に結び、意地でも言わない姿勢になった。
「えー、教えてくれてもいいじゃん」
「言わないったら、言わない」
「どんな夢でも笑わないヨ」
「[[rb:陰知己 > いんちき]]教の教会の改築! ああ素晴らしい!」
[[rb:長江 > ながえ]]が夢見心地の眼で、急に喋り出した。やはり、彼女と関わるのは避けた方が良いと、3人は思った。[[rb:文吾 > ぶんご]]は無言で、パソコンに何らかのコードを打ち続ける。
[newpage]
[[rb:十二士 > じゅうにし]][[rb:島 > じま]]は港の近くに白い洋館が建っており、その後ろに小さな山があった。洋館の近くには松の木や神社があり、和洋折衷の奇妙な外観だ。
5人は船長と別れて、島に上陸する。
「甲子園球場3個分くらいありそう。広いなぁ」
「この建物も1億ぐらいかかってるんだろうね」
「にしても、何で十二士島なんヨ?」
「それについては、ボクがお答えします!」
カンカン帽をかぶり、丸メガネ、金の腕時計をつけ、昭和初期の男性風の格好をした少年が、5人の前に現れた。
「関ヶ原の戦いに敗れた西軍の武士12人が島流しにされたのが、この島なんです! 彼らはいつか故郷に帰れるように、漁や農業で生き続けました」
少年は塾の講師のように早口でハキハキと喋り続ける。
「その武士たちは故郷に帰れたのか?」
「残念ながら、この島で亡くなりました。近くの島民は彼らの[[rb:怨霊 > おんりょう]]を恐れて神社を建立し、十二士島と名付けたのです」
「まぁ、かわいそう……」
「後でお祈りしてあげて下さいね」
「とても詳しいねぇ、君。小学生だろう?」
「おっと、自己紹介が遅れました。ボクは[[rb:拾央 > じゅうおう]][[rb:神助 > しんすけ]]、小学3年生です。他の兄弟たちが、あの屋敷でお待ちですよ」
5人は神助に手招きされて洋館へ向かう。洋館には6人の子どもがいるはずだ。
[newpage]
洋館に入ると、シンデレラ城のダンスホールのように広い空間が広がっている。その真ん中に十二角形の机があり、5人の子どもが座っている。
[[rb:睦樹 > むつき]]ら5人の後発組が自己紹介した後、先発組が自己紹介をし始めた。
「はじめまして、[[rb:弐志 > にし]][[rb:如華 > じょか]]です。看護師を目指してる高校2年生です」
[[rb:如華 > じょか]]はぽっちゃりしていて、穏やかな雰囲気のこげ茶色の髪の女性だ。
「[[rb:肆乃田 > しのだ]][[rb:優卯美 > ゆうみ]]。サーティーン理化学研究所勤務」
[[rb:優卯美 > ゆうみ]]は研究者らしく白衣を着ており、黒い短髪と鋭い目つきの女性だ。他の子は立っているのに、彼女だけ気だるそうに座ったままだ。[[rb:睦樹 > むつき]]は瞬時に、彼女を怖い人と認識した。
「[[rb:伍島 > ごしま]][[rb:皐井斗 > さいと]]ですぅ。絵を描いてますぅ。あっ、中学2年生ですぅ」
[[rb:皐井斗 > さいと]]はかなり痩せていて、服が絵の具で汚れている。彼の机上にはスケッチブックのラフ画が広がっている。
「[[rb:捌条 > はちじょう]][[rb:葉太 > ようた]]ッス。数学が好きな小5ッス」
葉太は元気そうな赤髪の少年で、兄弟の中では1番まともに見える。
「[[rb:霜奈 > そうな]]・エールフ。よろしくデス」
[[rb:霜奈 > そうな]]は銀髪で鳶色の瞳を持つ西洋の美少女だ。彼女はドイツと日本のハーフである。
「[[rb:霜奈 > そうな]]ちゃんはこの前、パクモンの主題歌歌った凄い子なのよねぇ」
「ちょっ、ちょっとはずいデス……」
[[rb:如華 > じょか]]に補足された[[rb:霜奈 > そうな]]は頬を染めて、うつむき出す。
「ええ!? あの綺麗な歌声の子、ヤッバ! サインしてぇ」
[[rb:生弥 > せいや]]は目を丸くして彼女に近づき、ユニフォームの袖にサインを書かせようとする。
「そう言う[[rb:生弥 > せいや]]も夏の甲子園優勝投手だろう?」
「最年少の芥川賞作家の方が凄いって」
「いいや! オレの方がスゴいッス! 何と言っても、ピー・カルーの定理(実在しません)の新しい照明方法を見つけたッスから」
「おお! 教科書に載ってたあの!?」
自慢合戦になってきたので、[[rb:水麗 > すいれい]]は大きく手を叩いて、皆を黙らせる。
「まだ1人いないヨ!」
「ああ。彼は別ルートで来るみたいね」
「別ルート?」
バラバラバラバラバラバラバラバラバラバラ
その時、ヘリコプターが接近する[[rb:轟音 > ごうおん]]が聞こえて、屋敷が揺れた。
「何だ、この音!?」
「彼がやって来たのかも」
[[rb:如華 > じょか]]が外へ出ると、他の皆も後へ続く。洋館の屋上を見れば、ヘリコプターがヘリポートの×印に降りようとしている。
「ハロー、エブリワン!」
黒いシルクハットをかぶり、燕尾服を身にまとった茶髪の少年が、ヘリコプターから降りてくる。11人の子ども達は洋館の屋上へ続く外側の階段を使って、彼に会いに行く。
「ミスター・タナカ、ここまででいいよ」
「グッドラック、坊ちゃま!」
執事服を着たパイロットが扉を閉め、そのまま空へ上がっていく。少年は名ごり惜しそうに、ヘリコプターが小さくなるまで見送っていた。
「君が[[rb:十三 > じゅうそう]]氏の子どもかい?」
「イエス! アイム[[rb:走師郎 > そうしろう]]・ディッセム。ソーシローと呼んでね」
彼は見た目通りに英語が[[rb:堪能 > たんのう]]だ。
「ディッセムって、もしかしてディッセムランドと関係あるヨ?」
「イエス! ディッセムランドのCEOは、ミーのグランパ(祖父)ね!」
「マジモンの大金持ちじゃねぇか」
わざわざ遺産を手に入れにやって来る必要はないと思うが、ソーシローは目を伏せて、か細い声で言う。
「バット、ミーのマンスリーは500ドルね……」
「10万円! 結構あるッスよぉ」
[[rb:葉太 > ようた]]は瞬時に日本円に換算した。多くの子ども達は月に1万円もらえるかどうかなので、彼に羨望の眼差しを向ける。
「ビコーズ、ビッグマネーゲットして、ミーだけのテーマパーク作るね!」
「わぁ楽しそう」
「10億ぐらいあったら、日本の遊園地程度の施設は出来るか?」
「正確には遺産は112億で、1人あたり9億3000万円ッス。大型のジェットコースター建てるだけでも10億以上かかるから、テーマパークは無理ッスね」
「オーノー……」
ソーシローはうなだれてしまう。[[rb:睦樹 > むつき]]は[[rb:葉太 > ようた]]に対して注意する。
「おい! 小っちゃい子の夢を奪うようなこと言うなよ」
「幼い頃から厳しい現実を知るのも大事ッスよ、元・売れっ子の小説家さん」
「グッ!」
[[rb:睦樹 > むつき]]は[[rb:葉太 > ようた]]の物言いに腹を立てて拳を振り上げたが、[[rb:生弥 > せいや]]が慌てて止める。[[rb:如華 > じょか]]は険悪な雰囲気を振り払おうと、笑顔で喋り始める。
「み、皆さん! そろそろお腹が減りましたよね? 下に戻って、ご飯を食べませんか?」
「うん。腹が減ってはいくさが出来ないもんね」
「食べたいデス!」
「じゃ、今から作るヨ!」
[[rb:睦樹 > むつき]]と[[rb:葉太 > ようた]]は睨み合っていたが、フンと言って互いに目を逸らす。ひとまず兄弟ゲンカは避けられた。
[newpage]
[[rb:如華 > じょか]]と[[rb:水麗 > すいれい]]が作ったのは、サンドウィッチとオムライスだった。みずみずしいサンドウィッチと甘くてとろっとしたオムライスに、皆の目がくぎ付けになる。
「さぁ、召し上がれ」
「いただきまーす!」
「アウワファーザー・イン・ヘヴン……」
ソーシローは手を重ねて、食前の祈りを始める。
「あれ? [[rb:霜奈 > そうな]]ちゃんは祈らないの?」
[[rb:神助 > しんすけ]]が隣の[[rb:霜奈 > そうな]]に尋ねる。彼女は首を横に振る。
「私の家、ブッディズム(仏教)デス」
「おおう、意外だねぇ」
「おー! このサンドウィッチ、うんま!」
[[rb:生弥 > せいや]]はサンドウィッチをむさぼるように食う。右隣の[[rb:優卯美 > ゆうみ]]は[[rb:怪訝 > けげん]]な表情で、左隣の[[rb:如華 > じょか]]は天使の微笑みで彼を見ている。
「良かったら、おかわりわるよ?」
「マジ? サイコー!」
12人の子ども達のランチ。大人の目がないだけに、とても楽しく思えた。
このまま幸せな時間が流れてほしいと、皆は思っていた。しかし――。
「うわあああああああああああ!」
突然、ソーシローが顔を両手で覆って、立ち上がった。彼の体は非常に熱くなっていて、叫ばずにいられなかった。
「ソーシロー、大丈夫デス?」
[[rb:霜奈 > そうな]]が尋ねても、彼は返事できない。彼の両手に茶色い毛が生えて、人肌の部分を減らしていく。耳が尖って、頭部へ移っていく。
「グググ、アアア……」
彼の口が開いて、全ての歯が犬歯のように尖りだした。鼻が黒ずんで前へ伸び、人からかけ離れた顔つきへ変わる。燕尾服がだぼだぼになり、彼自身の体が縮んでいるようだ。
「[[rb:優卯美 > ゆうみ]]ちゃん! 何か薬ない?」
「きゅ、急に言われても……」
周りの皆はどうすることも出来ず、ソーシローの異変を見るばかりだ。
ついに、ソーシローは服の中に埋もれ、中でもぞもぞと動いている。ズボンがずり落ちて、茶色い丸まった尻尾が現れる。
「ウップス!」
服に入ったままイスの上で回り出し、止まろうとしない。[[rb:如華 > じょか]]は燕尾服やシャツを取っ払って、彼の視界をクリアにした。
「オーウ! みな、ジャイアント!」
ソーシローの目には、皆が巨大化したように見えるが、実際は逆である。ソーシローは小さい柴犬に変わってしまったのだ!
[uploadedimage:19605718]
目の前で起きた不可解な現象に、皆は驚きのあまり固まってしまう。そんな中、[[rb:優卯美 > ゆうみ]]が壁の方に置いていたトランクへ駆け寄り、何か取り出してきた。それは薬物の簡易検査キットだった。
彼女は開けたソーシローの口にスポイドを刺して唾液を採取し、検査キットの中へ入れる。
「薬物反応があるか調べるのか?」
「ええ。薬物の過剰摂取の可能性があるから」
[[rb:睦樹 > むつき]]は推理小説を書いているため、やや化学の知識があった。数分待てば結果が出る。
「反応ナシ。薬物の混入は無い、と」
「料理に毒が盛られたんスかね」
「毒見してやる」
[[rb:生弥 > せいや]]が食べかけのサンドウィッチをひょいとつまんで、口の中へ入れる。
「ちょっと! 不用意に食べたら、あなたも変身するよ!」
「[[rb:生弥 > せいや]]の食い意地はどうしようもねぇな……」
[[rb:生弥 > せいや]]は満面の笑みで口一杯にほおばっている。[[rb:皐井斗 > さいと]]は犬になったソーシローをスケッチし、[[rb:長江 > ながえ]]は一心不乱に謎のお経を唱え始める。
「うん。何ともないぜ!」
「サンドウィッチに毒はなかったか」
「ちゃんと味見したから、大丈夫ヨ!」
「食材の段ボール箱も未開封だから、誰かが意図的に入れた線は無いよ」
[[rb:水麗 > すいれい]]と[[rb:如華 > じょか]]の言う通りなら、ソーシローの変身のトリガーはサンドウィッチではない。[[rb:睦樹 > むつき]]は首をひねって考え出す。
「サンドウィッチじゃなかったら、怪しいのは机だな。座る場所は決まっていたから、ソーシローだけ狙うことが出来る」
「推理もいいけど、人を犬に変える薬ってあるんスか? ノーベル賞モノだと思うッスよ」
「一応、サーティーン理科学研究所では、人を動物に変えるTF薬の研究を行ってた。試作段階で、人間への投薬はまだだけど」
「ええ? じゃあ、ボク達が実験対象ってコト!?」
[[rb:神助 > しんすけ]]が素っとん狂な声を上げて、頭をかきむしり始める。
「どうして、そんなことを?」
「だって、遺言状の文章読んで下さいよ。30日までに島にいた人間にのみ相続権与えるってことは、人間じゃなかったら一銭も手に入らないということじゃあ?」
「オーノー。ミーはマネーゲットできない……。クゥン……」
ソーシローはうなだれて目を閉じる。[[rb:如華 > じょか]]はしゃがんで、優しく彼の頭をなでてあげた。
「なるほど。その理屈で行けば、怪しいのは[[rb:優卯美 > ゆうみ]]さんッスね」
「あたしが遺産を独占するために、他の兄弟を動物に変える極悪人とでも言いたいのかしら」
[[rb:優卯美 > ゆうみ]]が腕組みして冷ややかな笑みを浮かべる。[[rb:葉太 > ようた]]は彼女の圧に負けて、「確率は3%ぐらいッスよ!」とお茶を濁した。
「一番犯人に近いのは、[[rb:十三 > じゅうそう]]氏だと僕は思うよ」
「[[rb:十三 > じゅうそう]]氏は故人ッスよ」
[[rb:睦樹 > むつき]]は[[rb:葉太 > ようた]]に[[rb:胡乱 > うろん]]な目で見られても、動じることなく説明する。
「いいかい? 遺言状の文句を自由に変えられるのは[[rb:十三 > じゅうそう]]氏だし、この館に色々な仕掛けることも出来る。何より一番気になるのは、彼の遺体が見つかってないことだ。偽装自殺もありうる」
今から1ヶ月前、[[rb:十三 > じゅうそう]]氏は愛車の運転中に崖から転落した。目撃者によると、落ちた車はすぐに爆発し、助ける時間もなかったという。警察や自衛隊の懸命な捜索もむなしく、彼の遺体は見つからなかった。
「研究所の副所長が、1ヶ月間音信不通だったから、生前の約束通りに遺言状を公開したと言ってたわ」
「遺産を子ども達に与える気は、さらさら無かったってコトかぁ!」
「いや、でも、まだ彼を犯人と決めつけるのは……」
「エヘン、エヘン」
[[rb:文吾 > ぶんご]]が[[rb:大仰 > おおぎょう]]にせき払いして、皆の会話を止める。彼は皆に見えるように、パソコンの画面に生前の[[rb:十三 > じゅうそう]]氏を映し出す。
「いやぁ、私の一代限りにしたくないですよ、この会社。AIでも、ロボットでも、何でもいいから意識だけ残して、会社の経営に口出せたらいいですねぇ」
[[rb:十三 > じゅうそう]]氏がカメラ目線で笑いながら喋っている。何かのインタビュー動画のようだ。
「あっ、[[rb:文吾 > ぶんご]]君。さっきの所はカットしてね。うちのPRと全く関係ないから」
[[rb:文吾 > ぶんご]]はそこで動画を止める。彼はキーボードを打って、自らの考えを示した。
「これは、あくまで僕の考えですが、[[rb:十三 > じゅうそう]]氏は何らかの方法で生存し、自分の子ども達を動物に変えて、自らの座を奪う存在を消そうとしているようです」
「TF薬の研究は、そのためだったと言うの? 何ておぞましいのかしら」
「孤島に集めたのも、他人に邪魔されたくなかった訳か」
「ノン! ジュ―ソーさんはそんな人じゃないデス!」
今まで全く口を開かなかった[[rb:霜奈 > そうな]]が発言する。彼女は涙をにじませて、震え声で喋り始める。
「だって、あの人……、ジュ―ソーさん、私の歌声、褒めてくれたデス。マイクやヘッドホンもプレゼントしてくれたデス。それで、歌手になれたデス」
「うちも同じ意見ヨ。[[rb:十三 > じゅうそう]]さん、うちの店の料理、とても美味い言ってたヨ」
[[rb:水麗 > すいれい]]も[[rb:霜奈 > そうな]]の意見に乗っかる。[[rb:如華 > じょか]]はうなずきながら、[[rb:霜奈 > そうな]]に涙をぬぐうためのティッシュを数枚渡した。
「まぁ、ミステリーかじった作家さんの推理ッスからね」
「何だと?」
「まぁまぁ、皆さん。ここは、[[rb:十三 > じゅうそう]]さんがこの島にいるかどうか、はっきりさせるってので、どうでしょうか?」
[[rb:神助 > しんすけ]]が、犬猿の仲の[[rb:睦樹 > むつき]]と[[rb:葉太 > ようた]]の間に割って入る。
「[[rb:十三 > じゅうそう]]氏の存在証明をするなら、カギになるのは彼の匂いや指紋。[[rb:霜奈 > そうな]]ちゃん、プレゼントされたマイクやヘッドホン、持ってるかしら」
「はい。お守り代わりに持って、まだ使ってないデス」
「おお。それなら指紋取れそう」
[[rb:霜奈 > そうな]]はバッグの中から重箱を取り出し、それを開け、中身のマイクやヘッドホンをテーブル上に乗せる。[[rb:優卯美 > ゆうみ]]は指紋採取セットを取り出し、マイクやヘッドホンに付着した指紋、[[rb:霜奈 > そうな]]や他の9人の子どもの指紋を取っていく。彼女は遺産相続を巡って殺人事件が起きた時に備えて、そのセットをわざわざ持って来ていた。
「ソーシローの指紋は、このスプーンに残ってるかしら」
「慣れてるなぁ。警察の[[rb:鑑識 > かんしき]]やったことあるのかい?」
「刑事ドラマの見よう見真似よ」
[[rb:優卯美 > ゆうみ]]は皆の指紋の一覧表を作成する。次に、テーブル上の指紋を取って、12人以外の指紋が無いか確認する。
「ああ!? [[rb:十三 > じゅうそう]]氏の指紋があった……」
冷静な口調の[[rb:優卯美 > ゆうみ]]が、珍しく声を張り上げる。
「マジで!?」
「でも、昔の指紋じゃないッスか」
「それはない。なぜなら、[[rb:皐井斗 > さいと]]君の指紋の上に付いているから」
[[rb:皐井斗 > さいと]]の絵の具で汚れた指紋の上に、大きな指紋が重なっている。その指紋は、[[rb:霜奈 > そうな]]のマイクに付いていた指紋と一致する。ソーシローがヘリコプターで降りた時、皆がテーブルを離れているので、その時に付いたものだろう。
「次は臭いだな! [[rb:十三 > じゅうそう]]氏の臭いを追いかけようぜ!」
「臭いをたどるなら……」
皆の視線が、ソーシロー犬に集中する。[[rb:如華 > じょか]]が慌てて彼の前に立ち、両手を横に広げる。
「ちょっと、皆さん正気? 元は人間の子どもなのに、警察犬のようなことをさせるなんて、酷いですよ!」
「でも、それが一番確実だから」
[[rb:優卯美 > ゆうみ]]は冷たく言い放つ。
「足跡でたどるのはどうだ?」
「OK。ミーはドッグとしてトライします!」
ソーシロー犬は尻尾を振って、軽やかに答える。[[rb:如華 > じょか]]は「それでいいなら」とつぶやいて、彼から離れる。[[rb:優卯美 > ゆうみ]]は手の甲をソーシロー犬の鼻先に近づける。
「今から皆の臭いを嗅いで、ここにいない人の臭いがあったら、それを追っかけてちょうだい」
「OK!」
ソーシロー犬は次々と皆の臭いを嗅ぐ。絵の具臭い[[rb:皐井斗 > さいと]]を嗅いだ時だけ顔をしかめたが、おおむね笑ってるような顔つきで鼻を動かしていた。
そして、[[rb:十三 > じゅうそう]]氏の臭いを見つけると、地面に鼻を近づけながら、ゆっくり歩いていく。彼は[[rb:厨房 > ちゅうぼう]]へ行き、外へ出るドアの前で立ち止まる。
「ワオーウ! まだコンティニュー」
「よっしゃ! 犯人捕まえたるでー」
「ちょっと待って。こんなにぞろぞろ出て行ったら、犯人に気づかれてしまうでしょうが」
ソーシロー犬の後ろに、11人の子どもがついていた。さながら大病院の院長の回診の行列のようである。
「そうだね。数人ぐらいにしないと。この中で一番体力のある[[rb:生弥 > せいや]]は、ソーシローの後について」
「りょ! ボールとバット持っていこ」
「じゃ、私も行くデス! ジューソーさんかどうか、確かめたいデス」
[[rb:霜奈 > そうな]]は真剣な眼差しで、[[rb:睦樹 > むつき]]と[[rb:優卯美 > ゆうみ]]を見る。
「いいよ。でも、危なかったら、すぐに逃げるんだよ」
「ハイ!」
ソーシロー犬が[[rb:十三 > じゅうそう]]氏の臭いを追って、その後ろを[[rb:生弥 > せいや]]と[[rb:霜奈 > そうな]]がついていくことになった。他の9人は屋敷内で、彼らの無事を祈る。
[newpage]
ソーシロー犬は順調に臭いを追っている。ソーシローは柴犬なので、尻の穴が2人に丸見えだが、今の彼に恥ずかしい気持ちはない。ただ、早く皆の役に立ちたいという思いが、彼を突き動かしている。
彼が気にしなくても、後ろの[[rb:霜奈 > そうな]]は穴がむき出しで恥ずかしくないのかと、少し頬を赤くしていた。
「四本足で歩いてるけど、辛くないの?」
「ドンウォーリィ! スムーズに行けます!」
ソーシロー犬は調子に乗って、少し歩調を速める。[[rb:生弥 > せいや]]は尻の穴に目がいき、もしオナラしたら直に俺達に届くなと、不安を覚えた。
彼らは洋館近くの神社の長い石段を登っていく。ソーシロー犬と[[rb:生弥 > せいや]]は平気だが、[[rb:霜奈 > そうな]]はきつそうに息を荒くする。
「[[rb:霜奈 > そうな]]ちゃん、ちょっと休むか?」
「平気デス!」
[[rb:霜奈 > そうな]]は少し遅れながら、ソーシロー犬の後を必死について行く。[[rb:生弥 > せいや]]は[[rb:華奢 > きゃしゃ]]な見た目と違って根性があると、感心している。
どうにか神社の鳥居の下にたどり着くと、異様な光景が広がっていた。
「何じゃこりゃあ……」
鳥居から本殿にかけて、動物の石像が狛犬のように並べられてあった。右は手前から蛇、龍、ウサギ、虎、牛、ネズミ、左は手前から馬、羊、猿、鳥、犬、イノシシの石像が並んでいる。
「[[rb:神助 > しんすけ]]がいたら、この神社の像のことわかるんだけどなぁ」
「ちょっと怖いデス……」
「フンフン! ウッ!」
ソーシロー犬は犬の石像の前で立ち止まる。彼の前が石像の犬の目と合って、妖しく赤く光り出す。
「おい! どうしたんだ?」
[[rb:生弥 > せいや]]に問いかけられても、ソーシロー犬は何も答えない。すると、低くうなり出して、体が沸騰した湯のごとくボコボコ脈打ち始める。
「キャア!」
柴犬の体が膨れ上がり、人間と同じぐらいになる。彼が立ち上がると、[[rb:生弥 > せいや]]よりも高い長躯だった。腹は6つに割れ、腕や足が丸太のように太くなっている。
「フゥフゥ、ハァハァ……」
ソーシローの顔は理性を無くし、ケダモノのようによだれを垂らして獲物を見下ろす。
「ウッ! メス!?」
ソーシローは[[rb:霜奈 > そうな]]の方を向いて飛びかかる。
「メスゥゥゥゥ!」
「キャアアア!」
「やめろっ!」
[[rb:生弥 > せいや]]はバットをフルスイングして、ソーシローの腹にぶち当てた(絶対にマネしないで下さい)。ソーシローは尻もちをついて倒れる。彼の目は生気が戻り、キョロキョロ辺りを見回す。
「ホワット? ミー、何してた?」
「俺よりもいい体つきになりやがって、こいつぅ!」
[[rb:生弥 > せいや]]はソーシローの白い腹筋をなでる。ソーシローは自らの腹を見て、やっと変化に気づいた。
「ノーウェイ(ありえない)! マッチョメンになってるぅ!?」
「これで、犯人もワンパンで倒せちゃうな」
「ラジャー! ミスター・ジュ―ソーのスメル、スメ、ホワット?」
[[rb:十三 > じゅうそう]]氏の臭いが、股間からのイカ臭さに消されてしまった。ソーシローの男根は赤黒いウインナー状で、根元に野球ボール大のコブがある。先端は精液で濡れていた。
[uploadedimage:19605822]
「クッサ! お前、何、おっきしてんのぉ!」
「ワァ……、とても大きいデス……」
初めて見る巨大犬チンが、[[rb:霜奈 > そうな]]は気持ち悪いを通り越して、神々しい物に見えてきた。
「アッ、アッ、コレ、どうすれば?」
「あっ、そっか。初めてなんだな。手伝ってやるよ」
[[rb:生弥 > せいや]]が犬棒を握って軽くしごいてやれば、噴水のように精液が弾け飛ぶ。[[rb:霜奈 > そうな]]はハンカチで口元を覆い、顔をしかめる。
「オー、フィールファイン!」
「ハァー。まさか、デカ犬の精処理するとはなぁ……」
[[rb:生弥 > せいや]]はあきれつつも、ソーシローの精抜きを手伝ってあげた。
[newpage]
ソーシローがマッチョ犬獣人になって戻ってきたので、居残り組は驚愕する。
「一体何がどうなってんの!?」
「生命の神秘?」
「これは描かないとなぁ」
[[rb:皐井斗 > さいと]]はスケッチブックに、猛烈な勢いでソーシローの姿のラフを描き出す。
「[[rb:生弥 > せいや]]、犯人は見つかったのか?」
「いやぁ、それが、ソーシローが神社の犬の像と目が合ったら、急に筋肉ムキムキになってさ。そんで、オナ、臭いが途切れて追えなかったんだ」
[[rb:霜奈 > そうな]]を襲おうとしたことと射精の部分は伏せた。
「この島の神社について、何か知ってるデス?」
[[rb:神助 > しんすけ]]は胸を張って、十二士島の神社について語り出す。
「もちろん! 西軍の12人の武士がこの島に着いたのは、皆さん知ってますよね? 実は、彼らの名前に動物の名前が付いていて、それぞれの動物を鎮魂の像として建てたんです!」
「墓じゃなくて、像を?」
「はい。この島に来た途端、犬のように吠えたり、鳥のように鳴きわめいたりと、奇怪な行動を取って狂う人が続出したので、有名な[[rb:呪術師 > じゅじゅつし]]に除霊をお願いしたそうです。その結果、12人の悪霊を、石像の中に封じ込めたと伝えられています」
「それ、最初の時に、何で説明しなかったんスか?」
「史実でない作り話っぽいので、伝えなくてもいいかと思っちゃって。でも、こうやって、ソーシロー君が筋骨隆々の犬になってるということは、あながち作り話じゃないのかも」
「つまり、十二士島は、12人の武士と十二支のダブルミーニングというわけね」
[[rb:睦樹 > むつき]]は深くうなずきながら言う。
「じゃあ、うちらはその動物に変えられるヨ?」
「変身のトリガーがわからない内は、何とも言えない。とにかく、元に戻す薬の開発に取り組むわ」
「うーん。ミーはこのままでもグッド」
ソーシローはサイドチェストやダブルバイセップス・バックなどのボディビルダーのポーズを取って、筋肉美を披露していた。
しかし、急に風船の空気が抜けたように、彼の体がしぼんでいき、元の柴犬の姿に戻ってしまう。
「ワオン。リトルになった……」
「犬人間の形でいられるのは短時間だけか」
ソーシロー犬は頭を垂れて、細くなった脚を見てガッカリしている。[[rb:皐井斗 > さいと]]もマッチョ犬獣人のラフが途中だったので、頭の髪をクシャクシャにして悔しがっていた。
その後、皆は2階に上がり、荷物を各自の部屋に入れる。
部屋は時計回りに漢数字の番号が刻まれている。案内状通りに、壱の部屋は[[rb:睦樹 > むつき]]、弐の部屋は[[rb:如華 > じょか]]といった順番に入っていく。
部屋の中は高級ホテルみたく、フカフカのベッドや飲み物の詰まった冷蔵庫があり、TVは無いが、とても快適な仕様だった。
夕方6時の入浴まで、自室で過ごす者、料理に取り組む者、外で運動する者に分かれた。
[newpage]
夕方6時になり、入浴の時間になった。この洋館は大浴場が1つしかないので、女子→男子→ソーシローの順番に入ることになった。
脱衣所の女子達は大浴場に心[[rb:躍 > おど]]りながら、服を脱いでいく。
「風呂洗ったの男子達だから、まだ誰も見てないよね?」
「ハイ。楽しみデス」
[[rb:如華 > じょか]]は他の女子に比べて自分が太っていることに、劣等感を抱く。特に、[[rb:長江 > ながえ]]はAV女優ばりに大きな胸とモデルのような腰のくびれを持つ、グンバツなスタイルだった。10歳でこの体だと、将来が恐ろしい。
「[[rb:長江 > ながえ]]さん、それ付けたまま入るヨ?」
[[rb:水麗 > すいれい]]は[[rb:長江 > ながえ]]の手首の数珠を指差す。[[rb:長江 > ながえ]]は数珠を見て、ふと[[rb:陰知己 > いんちき]]教の教会を思い出す。
「ええ。これを付けると[[rb:陰神 > いんしん]]の加護が得られ、外すとたちまちにして災難がもたらされる。あな恐ろしや、恐ろしや!」
「フン、くだらない! 神なんて、人間の脳が作り出したまやかしよ」
やせぎすの体の[[rb:優卯美 > ゆうみ]]が[[rb:長江 > ながえ]]を挑発する。
「邪教に染まった[[rb:凡夫 > ぼんぷ]]にはわからないでしょうね」
「そんなモノ、一生分からなくていいわ!」
「ちょっと、ケンカやめて。仲良くしましょう、ねっ?」
[[rb:如華 > じょか]]がなだめても、[[rb:優卯美 > ゆうみ]]と[[rb:長江 > ながえ]]は互いの顔を見合わせず、口を聞こうとしなかった。
「世界の戦争が無くならない理由ヨ」
「悲しいデス」
[[rb:水麗 > すいれい]]と[[rb:霜奈 > そうな]]が小声でつぶやく。
[newpage]
大浴場は露天風呂の岩場になっていて、石のライオンの口からお湯が流れている。
「ひっろーい! こんな風呂、初めて!」
「このお湯の成分、後で調べましょう」
「神様、ありがとうございます」
「いい温泉卵作れるヨ」
「日本のフロ、最高デス!」
皆はシャンプーやリンスで体を洗ってから、風呂に入る。風呂の温度は体温よりやや高く、丁度良い湯加減だ。皆はえびす顔になって、まったり湯船に浸かる。さっきまで争っていた[[rb:優卯美 > ゆうみ]]と[[rb:長江 > ながえ]]も仲良く並んで浸かっていた。
「サウナや水風呂もあれば、もっと良くなるヨ」
「改造してお客呼んじゃう?」
「それいいヨ!」
[[rb:水麗 > すいれい]]と[[rb:如華 > じょか]]は温泉旅館を思い描く。
このまま、幸せな入浴時間が続いてほしいと、皆は思っていた。
「いやあああああああああああああああ!」
1人の女子の悲鳴から、連続獣化事件の第二幕が上がる!
(続く)
[newpage]
<登場人物紹介>
壱場睦樹(いちば・むつき)
1月8日生まれ
高校3年生
176㎝ 51㎏
O型
幼少期から読書が好きで、10歳で小説を書き始める。13歳の時に出した『僕が君になる前に』が鷹杉文学新人賞と芥川賞を同時受賞し、200万部の大ヒットを記録。後に実写映画化され、本人も脇役で出演した。しかし、以降の作品は売り上げが伸びず、評論家からの評価も今一つで、デビュー作の盗作疑惑が浮上している。恋愛小説路線をやめ、最近はミステリー小説に挑戦している。
どんなに忙しくても、1日1冊の本を読み切るルーティンを続け、ここ3年は継続できている。
遺産の使いみちは、自身の小説を実写映画化して、主人公役で出演することである。
Ad