お迎えの合図

  私の夫は70歳で亡くなった。私は70歳で軽い認知症と診断された。

  一人暮らしになってしまった私。夫のところに行く日は近いだろうと覚悟していた。

  だが私は100歳まで生きた。認知症もそれ以上進行せず、天寿を全うした。

  『よう!久しぶり!元気にしとっただろう?』

  玄関先で車のクラクションを鳴らす男。私のお迎えに来たのは、なんと30年前に亡くなった夫だった。

  『どうしてもお前のお迎えには儂が行きたくてな、天国で運転免許を取り直したんだ』

  65歳の時に返納した免許、また取ったんだ。

  『その間、お前が儂の事を忘れんようにと閻魔様に頼んで認知症を遅らせ、寿命を延ばしてもらったんじゃ』

  つまり私が30年間変わらぬ生活を送れていたのは夫のおかげ?

  『そういう事。さ、早く車に乗ってくれ。この30年でな、天国に家を建てたんだ。見て驚け、今度の家はな…』

  私はもう十分に驚いていますよ。

  再び夫と暮らせる日が来るなんて夢のようです。