VRライドレディー(IF)

  とあるタレント事務所のオフィスビル。

  その某所にある特別区画。

  本来は社長と一部スタッフのみが入る事のできる区画である。

  各種資料などの置いてある部屋の先、さらにカードキーで開ける扉の前にトキナの姿があった。

  「これ、ですね……?」

  目の前にある扉にトキナはおもわず息を飲む。

  その手には社長からもらったカードキーがある。

  事務所のタレントモデルとして働いているトキナに突然社長から「お得意さん関係で依頼されたある品物のモニター」の依頼があったのは少し前の事。

  社外秘を条件にワンタイムのカードキーを渡され特別区画の場所を教わったのだが、そのドアのいかにもな雰囲気に少し呑まれてしまっていた。

  それでも意を決する様にカードキーをスロットに通す。

  反応した音が響き、ドアが静かに開くとトキナは息を呑みつつもその中に入っていった。

  その背中で扉が静かに閉まる。

  そこにあったのはやや大きめの台、その上に設えられたレーシングコースのミニチュアだった。

  一見するとホビー用のミニチュア駆動車用のコース取りをしており、他車の妨げにならない為のライン取りがされている。

  しかしそれ以外は世界の有名なコースの数々を思わせる本格的な直線、カーブ、段差など実際の車を走らせる事を意識した様な作りになっている。

  もしこれが本物のコースなら腕利きのチームが腕を試そうと押しかけずにはいられないだろう。

  あるいはミニチュアカーのコレクターなら自慢の一品をこのコースに置いてしばし思いにふけるかもしれない。

  それほどに作り込まれたコースである。

  そのコースに意味ありげな感じで二台のミニチュアバイクが並んで置かれている。

  オレンジに黒いラインのバイクとライトブラウンにライトブルーのラインのバイク。

  「どう?よくできたコースでしょ?」

  突然背中から声をかけられ振り向いたトキナは目の前に立つその人物の姿に目を見開いた。

  「し、社長……ですか?」

  そこにいたのは頭までオレンジ色にピッタリと覆われた人物だった。

  体格はトキナよりも一回り大きく、私服からもバランスの取れたスタイルの良さを感じさせるトキナに対し胸の大きさや腰のラインなど引き締まった肉付きはアスリートのたくましさを女性的な艶で程よくぴっちりと覆い尽くしたようにも感じさせる。

  その姿がオレンジ色のスーツにぴっちりと包まれる事で体のラインがより印象的に引き出されている。

  髪もろとも顔全体を覆い包むマスクからわずかに覗く目や口もともどこか艶めかしい。

  また、腰の辺りにはパレオかショートパンツかのようなものが意味ありげに巻かれているのが奇妙なワンポイントになっている。

  これは彼女ー社長のセンスなのだろうか。

  彼女の事務所に入って以降、待遇の良さや良心的なプロデュースによりのびのびと仕事をしている反面その独特のセンス等に戸惑う事も少なくなかったが、さすがに今回はトキナも驚かずにはいられなかった。

  「え、ええ、確かに良くできていると思います。それで、このコースとモニターの件とはどういう関係が……」

  驚きながらもなんとか返そうとしていたトキナを遮る様に社長はコースの横にあるものにトキナを案内する。

  それは最近では大きなアミューズメントセンターでしか見ないような大型のゲーム筐体を思わせる機材だった。

  ドームかカプセル状の外装の中にはそれらしい操作装置が据え付けられている。

  二つ並んでいた機材のうち一つの隣で社長はやや得意げな顔でトキナと向かい合う。

  「うちのお得意様関係からちょっと試してもらえないかと頼まれた機材よ」

  そう言いながらやや意味ありげに機材に手を回す。

  「この機材はとても「気持ちよくなれる」代物よ。本来はわたしと……いや、今回はトキナにこれのモニターをお願いしたいの。「あなたに似合う」仕事と思って」

  トキナとしてはかなり妙な事を頼まれたと思った。

  しかし、社長がまさかの部外秘区画に呼んでのモニターだけにうかつに断る事もできない。

  それにトキナ自身この手のゲームに関心がない訳ではなかった。

  「わかりました。これも経験ですよね」

  そう殊勝に答え、早速筐体の中に入ろうとするが……。

  「待ってトキナ。その前に着てほしいものがあるの」

  そう言ってトキナを止めた社長の指先は「Rocker&Shower」と書かれた扉を指している。

  その社長の姿にその奥に用意されている「衣装」を悟ったトキナはやや緊張を交えつつも静かにうなずき扉を開け、その奥に消えていった……。

  [newpage]

  「うーん……」

  全てを脱ぎ捨てたトキナがそこにいた。

  ―これが今回の衣装……水着ともちょっと違う感じ―

  「う~ん……」

  脱いだ服の代わりに身につける事となる衣装を手に取る。

  ―なんだかサイズが小さ過ぎる様な……良かった、思ったより着やすそう―

  「あ……」

  そっと足先を通してみる。

  ―わあ、足にどんどん吸い付いて来るみたい。ちょっと気持ちいいかも―

  「んっ、んんっ、あ……」

  素肌にやや密着する感覚にちょっと苦しみながらも肌に馴染む感覚に浸っている。

  ―ここはこうして……ちょっとキツめだけどやっぱり肌に合って来る感じ―

  「んっ、あっ、あんっ……?」

  ぴっちりとかつしなやかな生地を素肌と体型に沿わせきったところで「最後の一つ」を手に取る。

  ―あとは……これね?ホントに着けなきゃいけないの?……でも、ここまで着たら―

  「んっ、んんっ、はぁ……」

  その長い髪が、その顔立ちがその中に消えて行く。

  ―これ、わたし……よね?―

  「お待たせしました……」

  「Rocker&Shower」の扉を開けて現れたトキナはまったく異なる姿となっていた。

  身に着けている衣装はトキナが仕事でよく身に着けるワンピース系の水着やレオタードとはまったく違い、トキナの素肌の全てを覆い包んでいる。

  両手足の指先から、腕、脚、肩、腰、胸、腹部。

  そしてー顔。

  顔を覆う中からわずかに見える目元と口元以外トキナの全てを余す事なく覆い隠し引き締めるライトブラウン地にライトブルーのラインが彼女の体の輪郭をなぞり彩るように張り巡らされている。

  例えるなら人間の女性の形をした配電盤―それが今のトキナの姿だった。

  その姿は異様でありながら何処か美しい。

  トキナの外見を識別するほとんど全てを覆い隠されながらその女性としての姿がより印象的に引き出されているのだ。

  社長の様なインパクトはないがスタイルの良さは折り紙付きのトキナのシルエットがこの異様なデザインの全身スーツにより際立って浮かび上がっている。

  そしてちょっと体を動かせばスーツの素材とトキナの素肌が軽く擦れる音が聞こえる。

  「さすがにこの衣装、ちょっと恥ずかしいと言うか、変な気分になるんですけど……」

  トキナはぴっちりとしたマスク越しに恥じらいを浮かべる。

  その「変な気分」がいわゆるビキニパーツに貼られたインナーパットを除けば素肌越しにそのピッチリとしたスーツを着ているせいか、顔までピッチリとしたマスクをかぶっているせいかははっきりしない。

  「素敵よトキナ。あなたのサイズを元にデザインしてもらっただけはあるわ」

  そう賛辞を送る社長の姿にトキナは一瞬自分の恥じらいを忘れてしまった。

  オレンジ色の全身スーツを身に着けた社長と同じ様に顔までライトブラウンの全身スーツを身に着けた自分。

  いや、着替えと言うより素肌からこの姿に「変身した」様に感じられるこの衣装がトキナに未知の感覚をもたらしているらしい。。

  「だいたい分かると思うけどそのスーツはこの機材と連動しているの。早い話が流行りのVR式と言う所ね」

  そう言いながら改めて社長は機材に手を置く。

  「この機材を動かしてちょっとしたレースを楽しむ事で今わたし達が着ているスーツに動きが反映される。あとは機材の中でスピードや細かい動きを合わせればいいの」

  「ええと、とにかくこの姿でレースゲームをする―という事ですね?」

  トキナは今の自分の姿―スーツを軽くつまみながら返す。

  「そう言う事。それじゃ、モニターテストを始めるわよ」

  ポンポンと手を叩くと社長はトキナを促す。

  顔までライトブラウンの女性と顔までオレンジの人物が並んで歩きながらそれぞれの機材の中に入っていく。

  それはどことなく奇妙に見えつつも美しさを感じさせる。

  トキナはスーツ越しに体と心の奇妙な高ぶりを感じながら機材の中にそのライトブラウンの体を滑り込ませた。

  そして、機材の出入り口が静かに閉じていった。

  [newpage]

  「これに座れば……」

  やや狭めの機材の中でトキナはただ股間を乗せるだけの広さしかない小さなイスにまたがる。

  「ん……」

  ちょうど彼女のその部分を前後からカバーするパットの感触にトキナは軽く声を上げた。

  同時に両脇から胸当ての様なものがせり出し、トキナの胸をそっとカバーする。

  「あ……」

  フィットする様なその感覚にトキナは再び声を上げる。

  そしてライトブラウンの足をステップに置き、ライトブラウンの両手をレバーらしきものに伸ばすとしっかりと握る。

  ちょうどそのレバーを握る事で体を支えつつゲームをする仕掛になっている様だ。

  『トキナ、聞こえる?まずは慣らし運転からやってみて。それが済んだら……ひと勝負、どう?』

  ライトブラウンに覆われた顔の耳元から社長の声が聴こえる。

  ちょっとした通信端末がついているのだろう。

  「あ、はい。わかりました……」

  そう答えつつトキナは改めて機材の背もたれに体を預けつつレバーを握る。

  その瞬間、トキナの視界にまっすぐに伸びる道路が広がった。

  どこまでも続きそうな道路。

  その両端には広い観客席が立っている。

  「これが……」

  反射的に周りを見回すトキナの耳に再度社長からの通信が入る。

  『そう、このモニターとスーツがあなたにコースを感じさせているの。このコースで走るのはトキナ、あなた自身よ』

  そう言われて改めて自分を見回す。

  広く、長く伸びるコースの上に立つライトグリーンのラインに彩られたライトブラウン色のスーツ姿。

  ほぼ素肌の上にピッタリと着込み、その体のラインをくっきり示すそのスーツ姿のままでバイクとなって走る……。

  何ていう光景だろうか。

  トキナは妙に身体が引き締まるのを感じていた。

  『それじゃあ、まずは一周。走っているうちに感覚はつかめると思うわ』

  社長の声に促され、トキナは改めてステップに乗せた足に力を入れ、握っているレバーを軽く絞る。

  それと同時に車―そしてトキナ自身もゆっくりと動き出す。

  「あっ」

  ゆっくりとだが体が動き空気をかき分けていく瞬間、体中に奇妙な刺激、そして心地よさが走る。

  その感覚に思わず声を上げていた時、トキナはコース上で動きを止めた。

  「えっ、今のってまさか……?」

  マスクの中で顔を赤くしながらトキナは自分を見回した。

  それはスーツに覆い包まれた彼女の胸、そして股間から流し込まれた刺激だった。

  トキナも女性としての身体と感覚を持つ以上それに反応せずにはいられない。

  『ふふ、だから言ったでしょ?「気持ちよくなれる代物」だって。この機材はそう言う形で走りながら気持ちよくなる為のもの。最初はちょっと戸惑うかも知れないけど慣れれば思い切り「イケる」わよ?』

  突然聞こえてきた社長からの通信になおマスクの中で顔を赤くする。

  『どうするトキナ。ここでやめちゃう?別にこの事をあなたの中に閉まっておくなら帰っても良いわ。でも……』

  やや含んだ様な口調で言葉を向ける社長の声にトキナは少し息を吸うと改めてレバーを握る。

  トキナの体は少しずつ動き出し、同時に彼女の体に刺激が走る。

  「あ……あ……」

  スーツ越しに胸と秘部を優しく撫でられる様な感覚。

  心地よく、そして甘いその感覚に軽く声を上げながらもトキナは進み始めていた。

  『そうそう、それでいいわ……』

  社長の声が聞こえる。その声は少し艶を増しているようだがやはり社長もトキナ同様刺激を受けながら走っているのだろうか。

  そのコースは 直線から始まり右急カーブからを抜けるとスロープ。

  左右のカーブを切り抜けると直線、大きなカーブにさしかかる。

  そのあとの直線から左右のスラローム(細かいカーブ)を抜け一気にスロープを越えると最後の直線。

  トキナは両足を踏みしめつつ車のカメラとセンサーがスーツに送る光景と感覚に振り回されながらもコースに体をなじませていく。

  慣らしと言う事でまだゆっくり走行、操作もレバーを握りゆっくりと絞っているだけだがそれでも車が風を切る風圧がスーツ越しに感じてくる。

  カーブを曲がれば体が左右に揺れる。

  直線を進めばいい具合に体を風が吹き抜ける。

  「あ……ああ……あん……」

  胸と秘部を優しく包まれ、体中に風圧がかかっていく。

  (これが乗り物を動かす事なの……?なんだか気持ちいい……)

  体を包むスーツ越しに感じるその心地よさにトキナはライトブラウンのマスクの中でほんのり甘い声を上げながら軽く体を反らす。

  本人は気づいていないようだが、彼女のスーツのライトブルーのラインがほんのり光っている。

  トキナがレバーを動かし、車の動力が回る勢いに合わせる様に。

  文字通り自分を車と一つにさせる様にトキナは車を、彼女自身を走らせていく。

  『トキナ、だいぶつかめてきたようね』

  最終コーナーを過ぎた所で社長から通信が入る。

  「はぁ……はぁ……あ、はい……とっても気持ちい……じゃなくて、本物の車やバイクにも乗ってみたい……なんて思ったりして……ヘン、ですか?」

  甘い感覚に浸りながらもなんとか答えるトキナだが、マスクの中から見えるその目は潤み、口は大きく吐息を漏らしている。

  『そんな事はないわ。差はあるだろうけど、ハマらずにはいられないのは間違いないわ……あなたもかなり適性はあるようね……適性は』

  「そう―ですね。ありがとうございます……」

  フォローを入れてくれた社長に素直に例を言うトキナだが、社長の言葉が少し口ごもった事にはあえて触れない事にした。

  『さあトキナ、いよいよ本番よ。ここからはもっと気持ちよくなる仕掛けが解放される。もっと「気持ち良い」勝負を期待しているわ』

  その声に反応してからふと横を見ると社長の姿が隣にある。

  先程見た実際のコースでは車ごとに区切りがされていたがどうやらこれもこの機材の仕様らしい。

  もちろんあの機材の「中」では腰のショートパンツを除けばあの顔までオレンジ色のスーツ姿の社長が意気盛んにスタート態勢を整えているのだろう。

  両者はラインに並び、トキナも改めてレバーを握る。

  ライトブルーのラインを走らせたライトブラウンの全身スーツ姿のトキナ。

  オレンジ色の全身スーツ姿の社長。

  二台がそれぞれのコースでスタートの時を今か今かと待ちながら動力を回している。

  『トキナ、最初に言っておくけどいきなり飛ばしすぎたら負けよ。大事なのはどれだけ長く気持ちよくいられるか。イくのは良いけど早くイき果てればその時点でリタイアよ』

  「はい……あ、ああ……あん……」

  意味深な社長の声が聞こえる中、レバーを絞る度勢いが上がっていく。

  その機材の中、そして仮想のコースの中でトキナの体を包むスーツもそれに合わせるように波を打つ。

  「はぁ……はぁ……」

  自然と呼吸が大きくなるのを感じる。

  動力が、タイヤが、レース前の車体の全てが震えているように今トキナの身体はこの全身スーツの中で震えている。

  そして両胸にフィットした胸当てはまるでつかむ様に密着する。

  「あっ」

  軽く身体を反らしてしまう。

  さらに股間を乗せていたパットから先程とは比べものにならない刺激が入り込む。

  「あ……あっ……」

  パットから放たれる電気信号がスーツのパッドを通じてトキナのそこを振るわせる。

  ただ振るえるだけではないその波動は間違いなくトキナにはまだまだ未知の領域であった。

  その感覚がトキナを少しずつ高めていく。

  自分がとろけていく。そしてバイクとして作り変わる―。

  「あっ……あっ……あっ……」

  そんな気持ちが心に満ちる中でトキナの車はさらに動力をふかすと同時にトキナのスーツを彩るライトブルーのラインに光がこもる。

  マスクごしに見つめる先のシグナルが変わり―スタート!

  「―あっ!」

  レバーを絞り、勢いよく体が飛び出すと同時にトキナの秘部で電撃の様な衝撃が走りスーツに伝わる。

  (わたし……イった……?)

  その衝撃で身体をのけぞらせながらも同時に前へと突き出された勢いに全身が押される感覚に声を上げながらトキナは走り出した。

  まだ絶頂の入り口に過ぎない感覚の余韻に浸る間もなく。

  [newpage]

  「んっ、くっ、あぁっ、あんっ」

  慣らし走行とは全く違う猛然としたダッシュ。

  全身に叩きつけるような加速の勢いがスーツ越しに、いや、スーツから直接トキナの体にかかる。

  細い腕と脚に、それなりのサイズの形の良い胸に、形良く整った腰に、そしてその顔に。

  走る車のセンサーが伝える空気抵抗がスーツを引き締め、よりトキナの体のラインを引き締まらせる。

  秘部に伝わる波動も彼女の「中」へと注ぎ込まれ、トキナの身体の内側から抵抗をかけていく。

  「あっ、あぁっ、ああっ!」

  急カーブの圧力がトキナを襲った。

  「うっ、あっ、ううっ」

  スロープで息をつく間もなく、左右の細かいカーブを抜けるコースの中でトキナの体も左右に揺れる。

  それに合わせて揺れようとするトキナの胸がぴっちりとしたスーツごしに押さえられる。

  「あんっ……あっ……」

  秘部とはまた違う形で胸を刺激される心地よさに声を上げる。

  コースを走る勢いは早く、かかる負担もかなりきつい。

  マスクから見える表情も空気抵抗を抜けるきつさと内側から来る快感で軽く歪んでいる。

  もし頭の全てを覆い隠すマスクを被っていなければその長い髪を振り乱していたであろう事も想像に難くない。

  「ああ……いい……もっと……イける……?」

  再び直線に入る中、加速をスーツ越しに感じながらトキナはレバーを握り、そのまま一気にレバーを振り絞ろうとする。

  コース上のトキナは急加速を始め、注ぎ込まれる快感の波動も勢いを増す。

  「ああっ、はぁっ、ああっ……」

  トキナが走る勢いは最高潮に達しかけ、このままでいけば絶頂と引き替えに激突、コースアウトとなりかねなかった。

  そこに、

  『トキナ……イキ急がないで……もっと……おさえて……そうすれば……もっと……うまく……はぁ―』

  社長のやや途切れぎみの通信が入る。

  社長もこの風圧に耐えながら車を走らせているのだろうか。

  その声にトキナは我に返るとレバーを握り直してペースを緩め、車とペースをコントロールする。

  「んっ、うっ、くうっ……はぁっ……」

  体を引き締め急減速と快感をこらえる急制動にトキナの顔は再び歪む。

  車はカーブラインに接触する寸前でカーブを曲がり切った。

  少しホッとするトキナの身体をライトブラウンのスーツが優しく包み、彼女を彩るライトブルーのラインが淡く光を放っている。

  体にかかる圧力と身体に注ぎ込まれる快感の波動がその瞬間、とても心地よく感じられた。

  「はあぁ……ふあぁ……」

  カーブを抜けた直線コースの中、スーツに包まれた体をしならせながらトキナは大きく息をする。

  そのマスク越しの顔にはようやく笑みが浮かんだように見えた。

  『その調子よ……トキナ……あとは……あなたの感じる……まま……』

  社長のやや荒れ気味の声にも励まされたのかトキナは改めて足を踏ん張り、レバーを握る。

  そしてそのまま一気に走り抜けていく。

  「あっ……あふっ……はぁっ」

  左右のスラロームを巧みにかわすと目の前には大きなスロープ。

  「んっ……んんっ!」

  心地よさに満ちた身体を引き絞りながらレバーを握り、強く絞る。

  ライトブルーのラインに彩られたトキナの体はスロープを抜け、ラップラインへの直線を進む。

  「はぁ……はぁ……なんだか……いい……」

  心地よい感覚と熱気をも包まれた中、トキナは走る歓びに浸っていた。

  『トキナ……今度こそ……勝負ね……』

  「はぁ……はぁ……はい……わたし、イき……じゃない、行きます!」

  やや喘ぎ気味の社長の声に合わせる様にトキナは車を進める。

  そして、二人がほぼ同時にラインに並んだ所で……。

  「ああっ!」

  『あーっ!』

  一気に出力を上げて放たれた股間からの爆発的な刺激と共にトキナはレバーを思い切り絞り、全力で飛び出した。

  直線を走り抜ける空気抵抗が甘い余韻を吹き飛ばし、さらなる勢いへの意識を作っていく。

  そこから急カーブがかける厚い空圧を貫く様に突き抜ける。

  「はぁっ、あっ、はぁっ」

  『ああっ…あっ……あう……』

  左右のカーブを体を巧みに動かしながら曲がり切る。

  左右の胸が交互に心地よく揉まれ震える。

  そのタイミングがまた心地よい。

  そこから流れる様に大きなカーブを通り抜けると直線コースで少し息を整える。

  「はぁ……ああ……はぁ……」

  ややペースを緩やかにしつつも速度と波長はそのまま、快感を受け入れる意識も保っている。

  耳元から聞こえる社長の声もトキナのペースを合わせる要素になっているようだ。

  社長と合わせる様に、ぶつかり合うようにトキナは走る。

  「うっ、あんっ」

  『あぁ……あうっ』

  コースを駆け抜ける震えがスーツに伝わり、レバーを握る度にその震えが腕を、胸を揺らす。

  その走る勢いをスーツごしに踏み込んで押さえようとすれば足先から秘部に震えが来る。

  「はぁっ、あっ、あぁっ、ああっ」

  『あぁ……おぅ…おおぅ……』

  動力の回転音とトキナの胸の鼓動が重なる様に音を刻んでいく。

  トキナはその全身で車を動かす。

  車もその全身でトキナを導く。

  その感覚に自分を高めて行く間に気がつけばラスト一周の最終コーナー。

  見つめる視線の先で数車体分先を走っている社長が撫でる様に最後のスロープに

  さしかかろうとしている。

  このまま勝負がつくか、それとも……。

  「はぁぁぁ……」

  トキナは思い切り息を吸う。

  車から感じる風圧が、スーツそのものの密着感がトキナの体を絞る。

  やや苦しいが全身が引き締まる感覚の心地よさも増していく。

  走り続ける内にその「中」で溜め込まれていた波動が盛大に共鳴して激しく振える。

  そして外側からの刺激もあってぐんぐん熱さを増していく。

  「ん、んん、んんっ……」

  それを少しだけこらえトキナは歯を食いしばり、瞳を閉じる。

  それに合わせるようにライトブルーのラインが淡くも流れる様に光る。

  そして―。

  (―いける―!)

  「―ああぁぁぁぁぁーっ!」

  思い切り吠えながらレバーを絞りステップを踏み込む。

  吐き出した息と波打ちつ身体とスーツの密着や空気抵抗とのせめぎ合いに合わせる様にスーツのラインが激しく輝き、それを受け取ったかの様にトキナは加速した。

  猛然と直線を突っ切り、空気の壁を突き抜け、ただまっすぐにスロープを目指す。

  「はあっ、はあっ、はあぁぁぁぁっ!」

  目一杯踏み込み振り絞り、その全力でスロープを駆け上がる。

  その勢いが頂点に達した時……。

  「はあぁぁぁぁ……ああ……」

  頭が弾け、体が震え、そして自分の中から熱い息吹が激しく噴き出したのを感じたその一瞬、トキナは自分が飛んでいるのを感じた。

  体が宙を舞っている。飛んでいる。そして……。

  (わたし……イっちゃった……イった……)

  ライトブルーのラインに彩られたライトブラウンの体はスロープを飛び越え、大きく宙を飛びながらコースに、そして先行していたオレンジに黒いラインの体と並走する様にチェッカーラインに飛び込む。

  勝敗の結果は見えていなかったが、走り抜いた車がクールダウン走行に入る中でトキナもまた全力で走り抜いた達成感と心地よい余韻に浸りながら自身をクールダウンさせていた。

  「はぁ…はあ……はあ……」

  レバーをかろうじて握り、足をやや緩ませながら体をややけいれんさせつつ立っている姿はそのスーツ姿も重なり美しく艶めかしい。

  マスクから覗く瞳は軽く潤み、口元からは甘い声と荒い吐息が漏れている。

  「はぁ……よかった……」

  そんな言葉を漏らしながらトキナは姿勢を直し、改めてレバーを握る。

  もちろん、もう一度「走る」為に……。

  そんな中、モニターに何らかの表示が浮かぶと周囲が暗転する。

  「え?」

  そして、排気音と共に機材の出入り口が開き、大きく外気が入り込んでくる。

  「ふぁぁぁぁ……」

  全身を包み込む様に通り抜ける外気に思わず声を上げてしまった。

  「はぁ……ああ……え……?もう終わり……?」

  やや惜しむ様な声でつぶやきながら緩やかな動きで外に出たあと、機材の縁に手をかけて一息つく。

  「ふう……」

  人心地ついたあとようやく身を起こしたトキナの耳に未だ閉ざされたままの社長の機材から声がする。

  『トキナ……満足できた様ね……良いデータが取れそうだわ……』

  自分もかなり楽しむ事ができたのだろうか、機材から聞こえる声も嬌声に近い。

  「あ、はい……社長。このスーツ……じゃなくてこの機材、良かったです!本当にわたし、気持ちよく―イきました!だから……」

  トキナも普段のややおっとりとした彼女らしからぬ力のこもった言葉を返す。

  その姿はまさに新しいゲームを楽しんだ子供の様であり、本当にもう一度「走りたい」と思うのも無理はない。

  しかし、社長はそんなトキナを遮る様に、

  『それは……良かった……ただ……この事はまだ……あなたの記憶の中に閉まっておきなさい……』

  と告げる。

  『あと……あなたに仕事が入ったわ……すぐ着替えてそっちに行って……スーツとかはこちらで片付ける……から……』

  社長にそう促され、トキナは今はマスクの中に隠されている後ろ髪を引かれながらも一礼をして「Rocker&Shower」と書かれた扉へと歩いていった。

  更衣室の中で鏡に向かい全てがライトブラウンに包まれた姿を名残惜しげに見つめる中でトキナは自分が熱く―そして「濡れていた」事を再確認した。

  「わたし……やっぱり……イッちゃった……よかった……」

  その余韻に浸りながらもスーツの止めを外してややじらしながら脱いでいく。

  熱く火照った、そして「濡れていた」自分の裸を見たトキナは自分の体がキュンと締まるものを感じ顔だけマスク姿のまま笑みを浮かべた。

  その感覚に身を任せたい気持ちをあえて抑えながらマスクの止めを外して静かに脱ぐ。

  「ふうっ」

  長い髪があふれる様に現れ、その中からやや上気したトキナの素顔が露になる。

  鏡越しに見るその顔は「心の底から楽しめた」顔をしていた。

  シャワーと着替えを済ませ私服姿で扉から出た時社長の姿はなく、社長のいるはずの機材は今もなお稼働していた。

  通信を切っているのだろうか、社長の声は機材からは聞こえてこない。

  トキナは色々な思いにかられながらもコースと機材をやや名残惜しげに見つつその部屋をあとにする。

  区画を去る背中に背後で彼女を送るロック音が聞こえた。

  [newpage]

  「ねえトキナ、免許取ろうってのホント?ならあたしも乗せてよ」

  「うん、でもまだ学科を始めたばかりだからかなりあとになるわよ?」

  とあるイベント会場。

  イベント用のコスチューム姿で立ちながらトキナはモデル仲間とやり取りをしていた。

  免許を取ろうとしている背景にはあの部屋での一時を少しでも追体験したいと言う思いがあるのは事実である。

  さすがに「あんな事」は普通の運転、そして今イベントでデモンストレーションをしている新型レースゲームでもまず無理だろうが。

  折しも今トキナが着ているのはデザインこそハイネックの水着の上にシンプルなショートジャケットとホットパンツ姿、カラーリングは間違いなくあの時と同じライトブラウン地にライトブルーのラインの入ったものである。

  さすがにマスクこそ被ってはいないが、トキナとしてはどうしても「感じてしまう」のを押さえるのに必死であり、密かに「感じすぎ対策」、そして「濡れ対策」をしているのは彼女自身の秘密でもある。

  「しかし、うちの社長もまた出張だって言うけどホントにヒマなしなのかね」

  モデル仲間が軽くこぼす。

  「でも、おかげでわたし達もお仕事できるんだしいい事だと思うわ」

  トキナはギャラリーに笑顔を向けながら答える。

  「言うねぇトキナ。案外社長ごひいきとか……はないか」

  トキナはそれを聞いて苦笑いする。

  実際あれから何度か社長から色々な形で「モニター」を頼まれた事はあるがそれにより特別に社長とそれほど親しくなったとかはない。

  むしろそれとはまた別とばかりにごく普通のモデルと社長の関係が保たれている。

  「まあ、とりあえずお仕事お仕事」

  「そうね。お仕事お仕事」

  賑わいの中でやり取りしながら二人は「仕事」を続けていた。

  了