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白蛇の早苗 第3話【妖変】

  

  ――――"娘"の一大事なんだぞ!ってさ。

  

  あの日、そう怒鳴った私に、あいつは冷ややかな目を向けてきたんだよ。

  あの春の日。宝船を追いかけて空へ飛んでいったあの子の気配が、フッ、と消えたんだ。なんの前触れもなくいきなり。

  墜落か、殺されたか、はたまた封じられたのか。

  消えた場所は、気配で分かる。兎にも角にもそこへ行って確認しなければって思ってさ。

  飛び出そうとしたんだけど、いきなりあいつの鉄の輪で後頭部を殴られたのよ。

  思わず叫んだよ?

  何をする、娘の一大事なんだぞ!

  って。

  叫んだ私に向けられたのはね、あいつの冷たい目。

  おまけに、続いた言葉は、行くな、ってさらに冷たい一言でさ。

  私は怒ってね。

  なんでそんなに落ち着いていられるんだ。

  お前は全く事態を理解していない。分かっているのか。って怒鳴ったのよ。

  そしたら激昂する私を見て、あいつはあぐらをかきながらため息をこぼしてね。

  そして一言つぶやいたんだよ。

  ――――戦争でもおっぱじめる気かい?

  ってさ!

  ひどいと思わない!?

  心配するのは当たり前でしょう!

  

  両手いっぱいのロケットランチャーはやりすぎだと思ったけど、さ‥‥

  

  

  

  

  [newpage]

  

  「他にも色々やりすぎでしたよ」

  「うん。びっくりしたわ」

  「傍目で見ていて怖かったわ」

  「う」

  3対の視線が、とある人物に集中する。彼女は肩をすくめて顔を赤くしてうつむいた。

  「ほんとに‥‥あの時は私も山の終わりだと思いましたよ」

  「うう」

  「いきなり山頂に黒雲が漂いだしたかと思ったら、そこら中に雷が落ち始めたんだもの。しまいには天の底が抜けたかのような雨まで降りだして。天狗の里はあちこち水浸しになってたようですし」

  「それは、あれだよ、‥‥うっかり」

  「うっかりでダウンバーストまで起こすの?」

  「‥‥うん」

  「谷一つぺしゃんこにしちゃっても?」

  「‥‥‥‥うん」

  「‥‥あきれた」

  「しょうが無いじゃない、姉さん。かなちゃんは心配性なんだからさ」

  「‥‥」

  「親バカだしね」

  「うう、うううう」

  「なんか、神様といっても、意外と庶民的なんですねえ‥‥」

  「そりゃあ、幻想郷のカミサマだもん」

  「そういうもんですかね」

  「そうだよー。どんなに威厳のある神様だって、ここに来たらあら不思議。かわいい娘が心配なおかあちゃんになっちゃうんだって。ねー」

  「うー」

  「穣子。余計なこと言うんじゃないの。‥‥はい、お茶のんで。しょうがない国津様だこと。まったく」

  真っ白なテーブルクロスの上に、水晶玉のように丸くて透き通ったガラスの湯呑みが置かれる。

  波々と注がれているのは透き通った緑が眼にも鮮やかな玉露。午後に入り、黄金に染まりつつある陽の光を通して、テーブルクロスに緑色の太陽の影を映す。

  湯呑みの置かれた先には、一人の女性が肩を落として頼りなげに座っていた。向かいに座るのはベージュのエプロンを着けた、金髪の女性。

  テーブルから少し離れた壁際のソファの上では、ふわふわした地味な色のワンピースを着た、やっぱり金髪の女性がうつ伏せに寝っ転がって本を読んでいた。その隣には、桃色の髪の道士服姿の女性。

  まるでどこかの、午後のヒマをもあましたご近所の若奥様たちといった雰囲気であるが、全員人間ではない。3人はカミサマ。 神奈子と、静葉、その妹の穣子。そしてもう一人は仙人。茨華扇だった。

  

  

  

  

  [chapter:第3話 妖変]

  

  

  

  

  

  妖怪の山の麓に近い、とある谷。

  そこは尾根に囲まれた一帯すべてに、楓の木が生い茂る深い森。まばらに生えている他の木も広葉樹ばかりである。秋になればさぞかし良い紅葉が見られそうなところである。その谷を見下ろす尾根の上に、小さな社が建っていた。

  6、7人も車座になれば一杯になってしまうような拝殿に、そこにちょん、とくっついて建っている本殿。

  真っ赤な鳥居は、ここが神のおわす場所であることを静かに主張していた。

  古めかしい石段が、谷の中からくねくねと斜面を登りその鳥居まで続いている。

  辺りにはやはり楓の木が生い茂るが、少しまばらであり、陽の光がよく差し込む明るい鎮守の森となっていた。

  その小ぢんまりした神社の拝殿横に、苔むした瓦屋根の家が一軒建っている。

  細いカエデの木を輪切りにして作った表札に書かれた文字は一つだけ。

  「秋」、と。

  秋のカミサマ姉妹、秋静葉、穣子の住居であった。

  早苗が飛び去っていったあと、神奈子が訪れたのが、ここ。

  幻想郷に来て以来、神奈子はちょくちょく此処へ来て彼女らとお茶を飲みながらおしゃべりを楽しむことがあった。誰とでも仲良くなれる、という神奈子の不思議な性質は神様や仙人にも通用したらしい。

  軍神でお酒が大好きで、力も強くて巨大な柱を投げ飛ばす、などと豪快なイメージが持たれている神奈子なのだが、意外とお嬢様気質なところもあるようで、ここで女同士静かにお茶を飲む時間が出来たことをとても嬉しく思っていた。秋姉妹や華扇も同じように思っていたらしく、突如として出来たお茶友達に驚き、そして喜んだ。特に穣子は同じ豊穣神であるためか随分と懐き、「かなちゃん」などと呼んでいる。もちろん尊敬をこめて。

  会う予定なんてものは適当に。そしておしゃべりの内容はノンジャンル。信仰から今夜のおかずまで。時には昔のイイ人のこととか。完全に女子会である。もっぱら神奈子が秋姉妹のところに通うことが多いのだが、時には彼女らが守矢神社に出かけていってお茶を飲むこともあった。最近、彼女たちはここに鍵山雛も加えようと密かに企んでいるのだが、それはまた別の話。

  さて、今日もいつものようにお茶会が開かれたのだが、いらっしゃい、と出迎えた静葉と穣子が見たものは、呑気に「や」と片手を上げて、でもそわそわとどこか落ち着かない神奈子の姿だった。

  理由を尋ねる静葉に、平静を装う神奈子だったが、静葉は、まあまあ、と神奈子をテーブルに座らせると、戸棚からいつもより多めのお茶請けとお茶っ葉を出し、じっくりねっとりと尋問会を始めたのだった。穣子はその間に華扇を呼びに。

  最初こそ神奈子はのらりくらりと静葉の話をかわし、お茶を楽しんでいるふりをしていた。しかし、華扇が到着し、3対1で繰り広げられた尋問に、ついに折れた神奈子はぽつぽつと話を始めた。そこで皆が聞かされたのは、早苗が蛇神になったというとんでもない話と、その自慢の風祝の艶姿にすっかりメロメロな神奈子のうかれたはしゃぎ声と、飛び出していった早苗を追いかけたいけどどうしたらいいか分からないという、煮え切らない沈んだ言葉の3点セットという、どうしようもない組み合わせだったのだ。

  彼女達には早苗が蛇神になったという話は大層びっくりするものだったが、分からないのが神奈子の態度。早苗の話を隠そうとしていたうえに、なおかつ彼女に手を出さない、追いかけられないというのだから。なぜと問う皆に対して返ってきたのが、冒頭の回想話である。

  星蓮船出現の際、早苗は船に乗ったまま魔界へと行ってしまった。早苗の反応が消えたことを知った神奈子はひどく動揺して嵐を起こして雷を撒き散らし、挙句の果てにランボーもびっくり、なくらいの現代兵器フル装備であてもなく飛んでいこうとしたのである。

  その結果神奈子は諏訪子にこっぴどく怒られたのだ。

  ――――情けない、仮にも私を倒した出雲の神が何たるざまだ!早苗がまだお前の力を使っているのがわからないか?あの子への力の流れはちゃんとあるだろう。あの子は生きてる。心配するな。――――ったく、いい加減子離れしてよ!みっともない!あんたはあの子が転ぶたびに山一つ崩す気なの?そんなんであの子のためになると思ってるの!?

  ――――と。神奈子の口から再生される、相方の叱咤。3人はそれを聞いてなんとなく頷けた。

  結局、久しぶりに諏訪子に怒られたのと、散々自分の過保護ぶりをなじられた神奈子はそれがショックになってしまったようで、その日以来どこか控えめに過ごすようになったのだという。本心では構いたくてしょうがないのである。非想天則の一件でも神奈子はずっと神社でそわそわしていた。聖人復活の時にはもうだいぶ慣れていたのであまり動揺はしなくなっていたが、今日も追いかけたい気持ちをモヤモヤと抱えたまま、まあ大丈夫だろう、でもどうにも落ち着かない。どうしようか、とふらりと此処へ来てしまったという次第なのである。

  すっかりその話を聞いた静葉はやれやれとため息をついたものである。

  ‥‥"母さん"しっかりしなさいよね――――と。

  

  [newpage]

  

  神社にいてもどうにも落ち着かない、話し相手になって、と神奈子がお願いしてきたため、昼前から始まったお茶会は昼食を挟み、もうすぐ夕暮れ時という今になってもつづいていた。

  もう何度目ともしれぬ話題に、また会話が戻っていく。静葉がカップを傾けながら、神奈子の顔を覗き込む。

  「だから、いいじゃない。そこまで心配ならなんで追いかけてあげないの?行けばいいのに。早苗ちゃんだって人の子なのよ。いくらありがたい姿でもいきなり蛇になっちゃったらびっくりしてるでしょうに。迎えに行ってあげなさいよ」

  「い、いやぁ‥‥でもさ」

  「なに?さっきの話?気にしなくてもいいんじゃないの?」

  「まあ‥‥ね。でもそう言われたし。過保護だって」

  「過保護、ねえ‥‥」

  つぶやく静葉の向かいで伏し目がちに呟く神奈子。華扇はふむ、と頬を撫でながら天井を見上げていた。穣子は台所で、野菜を切っている。もう夕飯時なのだ。

  「‥‥それにさ、これしきの事でどうにかなってもらっても、駄目なんだよ」

  「んん?」

  神奈子が視線を上げて、再び目線を静葉の目に合わせた。

  「あの子は確かに人間だ。でもね、神でもあるんだよ。神様をやっていくってのは‥‥信仰を受けて、応えるってのはさ、アイドルやってくのとは訳が違うんだ。わかるだろ?静葉も」

  「うん」

  頷く静葉に、神奈子は言葉を続ける。

  「あの子はまだ、『人間から見た神様の世界』しか知らないんだ。早苗が神だって言っても現人神。人間の世界のルールや常識に寄り添っている存在だよ。『神様から見た神様の世界』は一緒に暮らしてるだけじゃ分からないさ、きっと。‥‥華やかなのは高天原の天津の連中の話でさ、結構泥臭い世界でしょう?私らの世界って」

  「例えば?」

  「人間は私等を信仰もするし利用もする。時には封じることだってある。存在すら変えてしまう。崇められて神様になって祀られるのも居れば、恐れられ放逐されて妖怪として存在することになる者もいる。――ちょっと、極端だけどさ。そう言う一面もあるような、結構生々しい世界だってこと」

  「ああ‥‥」

  「そう言うの、話で聴くだけじゃなくて実際に知っておいて欲しいのさ、あの子には。だからさ、今回の一件はあの子が"この先も"神でありたいなら、ちょうどいい機会だと思うんだ。姿が変わったくらいで動揺してもらってちゃ、困るんだ。‥‥『神に仕える巫女が信仰を受けて神になることもある。貴方はその覚悟があって巫女をやっているの?』とか早苗は麓の霊夢に言ったみたいだけどね、早苗には酷かもしれないけど、ここで改めて試させてもらおうと思うんだ。‥‥『さて、巫女は信仰を受けて"新人神様"となりました。では神になった巫女が"あらひとがみさま"からいずれ本当の神になるとき、神の世界で生きていく覚悟はありますか』ってね」

  「要するに実地テストよね」

  「うん」

  頷く神奈子の肩に、包帯を巻いた手が置かれる。

  「で、神奈子様は悩んでいるわけですと。――――『あなたはその試練をうけている早苗ちゃんを黙ってみている覚悟がありますか?』って言う試練を与えられてね」

  「‥‥うん」

  「あの子はすでに半神とはいえ、人が人の身を越えるということがいかなるものか。‥‥相当な覚悟がいること、理解しているのでしょうけど」

  「それは、ね」

  横合いからの華扇のセリフに、神奈子が困った顔をして天井を仰いだ。仙人として修行を続ける身である華扇のセリフは実感のこもった重いものだった。しばし部屋に沈黙が満ちる。そんな空気を破ったのは「早苗ちゃんは大丈夫だよー」という呑気な台詞。穣子も台所から話に加わってきた。

  「かなちゃんは心配性だもん。河童のバザーの時もさ。非想天測だっけ。あれを追っかけて帰ってこない、帰ってこない、あの子はどこに行ったんだ、帰り道分からなくなってるんじゃないか、魔界の時みたいにってそわそわ落ち着かなくてさ」

  「そう、あの日は私たちがそちらにお邪魔したのよね。そしたら今にも泣きそうな顔してて。びっくりしたわよ。早苗ちゃんが喚ぶたびに一生懸命神力送ってたわね」

  「う‥‥」

  「しょうがない神様よね。ほんと」

  「親バカだよねー」

  米を研ぎつつ、穣子があはは、と笑った。神奈子は顔を真赤にして反論を試みる。

  「だ、だってさ!あん時だって!早苗だって、私の力引き出せるんだもん、そこらの妖怪どもとか人間には負けないと思ってた。信じてた!けどさ!ほんと、ここのコたちって荒っぽくて!ナイフは投げるは爆弾作るはビームは打つは雷は落とすは地震起こすは、挙句の果てに核よ?!」

  「核って、それやったのあなた達でしょう」

  「う、いや、それは、まあ、あれだけど」

  「まったく、子供のことになるとここまでおかしくなるものかしら。‥‥しょうがないことなのかもしれないけど」

  華扇がお茶を啜ってつぶやく。静葉は溜息をつくと、急須を叩いて茶葉を入れ替える。そしてすっかりぬるくなってしまった神奈子のお茶をすてて、新しく淹れなおした。

  静葉は壁に掛けた時計を眺める。大分いい時間になった。淹れなおしたお茶を神奈子に差し出すと、神奈子の目を見つめて静葉は口を開いた。

  「これを飲んだら、神社に帰りなさい」

  「‥‥」

  「いい?たとえ今日帰ってこなくても、探しに行かないとアナタが決めたのなら‥‥早苗ちゃんを信じて待つんでしょ?試練なんでしょ?アナタにはアナタの心配の仕方があるの。待ち方があるのよ。それはね、母親にしかできないこと。分かるわよね?どうすればいいのか」

  「うん‥‥」

  「家に居るの。ご飯を作るの。帰ってきたときすぐにお腹いっぱい食べさせてあげられるように。いつでもあの子が帰ってこられるように、いつでもおひつは一杯にしておくの。いつでも家で待ってるのよ。家を守るのよ。出来るわよね?今のあの子の母親は神奈子、アナタなんだから」

  「わかってるよ‥‥」

  「ほんとに?」

  「うん」

  「ほんとうに?」

  「大丈夫!」

  「よし」

  久しぶりのはきはきとした神奈子の言葉に静葉も笑みを浮かべる。やっぱり貴方はこうじゃなくちゃ、と華扇も笑った。台所から穣子も笑いながら見ている。神奈子は頬を赤くして天を仰いだ。

  「あーあ、恥ずかしいところ見られちゃったわ‥‥」

  「いつも通りでしょ。かなちゃんが親ばかなのは今に始まったことじゃないしね」

  「そうね」

  「はいはい。‥‥みんな、ありがとね。元気でたわ」

  アハ、と笑う神奈子。静葉は腰に手を当てて、笑って歯を見せる。

  「それはなにより」

  「かなちゃん、芋の煮っ転がし持ってく?夏のおかずにはちょっと暑苦しいかもしれないけど」

  「あら、じゃあ、遠慮無く」

  「まって、今包むから」

  穣子が菜箸を置いて手を洗う。

  その割烹着姿を後ろから眺めつつ、ぐいっと熱いお茶を飲み干して神奈子が立ち上がった、その時だった。

  遠くの麓の方から、恐ろしげな遠吠えが聞こえてきたのは。

  「何!?」

  濡れた手もそのままに、穣子がまず玄関へ走る。残る3人もそれに続いた。

  鳥居の下まで4人は走り出た。眼下には夕焼けに染まる青い楓の谷。

  その楓の谷を越えてさらに遠くには人間の集落が見える。

  「野犬ではないよね‥‥」

  「ああ、あいつらか」

  「あいつら?」

  呟く穣子に、顔をしかめる華扇。後ろから神奈子が聞き返した。

  遠くを見つめたまま、静葉がそれに答える。

  「四つ足の、妖獣。最近多いのよね。それほど強くはないんだけど、言葉は通じないし、動きは速いし、数が多くて厄介」

  「忘れられた獣たちよ。出自ははっきりとしないけど。人に捨てられ、ここへ流れついた者たち。怨念の塊」

  華扇が苦苦しい顔で呟く。動物を導くことができる彼女にとって、彼らの存在は心苦しいものに違いない。

  「でも変ね。今日は随分里に近いところにいるわ‥‥いつもはもっと森の奥にいるのに」

  その存在を知らされた神奈子が眉をひそめる。

  「そんなのが居るってか‥‥退治しようか?」

  「‥‥可哀相だけど、人間に危害が出てからの方がいいわ。数は多いけど妖精に比べたら全然だし、人間との縄張り争いもまだ起こしてない。‥‥それに、早過ぎる間引きは幻想郷のバランスに悪いから」

  静葉が感情を抑え呟く。華扇は黙っていた。

  「そう、か‥‥」

  「心配なのはわかるけどね」

  無言でしばらく遠くを見つめていた静葉と穣子だったが、突如神奈子が発した言葉に思わず振り返った。

  「‥‥早苗だ」

  「え!?」

  「あれの声が!?」

  「違うわっ!早苗が、私の力を喚んでるの!早苗はあの声の方に居るみたい!」

  神奈子はそう言うと尾根のふちまで走り寄り、暗くなりかけた森を、睨み付けた。

  

  ――――勇気をください――――

  

  そんな願いが、神奈子には聞こえた。

  欲しいのは助けでも力でもなく、勇気。

  「‥‥一人で、済ます気なのか。お前」

  まるで早苗の決心が聞こえてくるような短い願いに、神奈子は体が身震いするのを感じた。黙ったまま真剣な表情の神奈子に、3人は思わず顔を見合わせる。あの声と同じ場所に居るということは、つまり。

  「早苗ちゃん、今からあいつらと‥‥?」

  「みたいね、どうも」

  「無茶をする‥‥」

  「あいつら、ミシャグジの匂いに引かれたか‥‥ああ、殺気立ってるのがわかる」

  二回目の遠吠えが聞こえてきた。

  スペルカード戦ではない、本当の妖怪との戦いだ。

  顔をしかめて、早苗が居る方を眺めていた神奈子だったが、意を決すると、体の前でパン、と手を打ち鳴らした。

  神奈子の服が、一瞬にしていつもの物へ戻る。背中には、巨大なしめ縄。

  静葉が神奈子の顔を見る。

  「行くの?」

  「いや、行かない」

  そう言い切ると、早苗のいる方向へ、手を合わせた。

  「応援する」

  「へ?」

  「あの子は何があっても大丈夫だって、信じる。それだけ」

  言うなり、二礼二拍手。そして一礼。

  「信仰パワーのつもり?」

  「そのつもり」

  神が神を信じて手を合わせる。

  変な光景だと思った静葉だったが、ああ、と気がつくと、自分も手を合わせた。

  穣子もそれに習う。華扇も続いた。

  「応援は多いほうがいいでしょ」

  「そうですよ」

  「ね」

  3人に微笑みかけられ、神奈子は照れくさそうに笑った。

  改めて全員で、二礼二拍手。頭を下げながら、静葉は口中で呟く。

  ――――早苗ちゃん。がんばれ。無事に帰らないと許さないからね。こんなに不器用に貴方を待ってる神様がいるんだから。

  ‥‥そして、一礼。

  「神を脅すのはアイヌだよ。お姉ちゃん」

  静葉の言葉は穣子に聞こえていたらしい。

  「あら、聞こえてたかしら」

  「‥‥恥ずかしい事言わないでよ」

  静葉の願い事に神奈子が照れくさそうに笑う。

  「ま、あの子なら大丈夫でしょう。霊夢や天狗とケンカしたって平気なんですから」

  華扇も笑う。早苗ちゃんが危ない目に合いそうなのに、なんて呑気な。でも、この呑気さが、逆に頼もしい。うん、きっと早苗ちゃんは大丈夫。そう、静葉は思った。

  三度目の遠吠えが響く。三柱の顔からは笑みが消え、真剣な表情で一斉に声の響いてきた方向を向いた。

  その時である。彼女らの目にそれが映ったのは。

  ――――遠くの遠くの藍色の空に、沈みかけた夕日に鱗を輝かせて泳ぐ、純白の蛇神の姿が!

  「まあ‥‥!!」

  「え、あれ、あれが早苗ちゃん?すごい、すごーい!」

  「‥‥綺麗」

  「早苗ー!行けー!」

  穣子と静葉は歓声を上げ、華扇は目を見ひらく。神奈子は拳を上げて叫んだ。

  ここで4人が見守っていることを早苗は知らないだろう。しかし自らの加護と祈りが届いていることを願って、彼女らは早苗を信じた。

  大丈夫、アナタは絶対負けない。と。

  

  

  

  

  

  [newpage]

  

  るおおおおおおおおおーーん!

  

  三度目の遠吠えが、藍色の空に響いた。

  「ひいっ!」

  「里は‥‥向こうの方角!」

  「み、ミシャグジ(白蛇)さま!」

  「怯えるな!物の数ではないわ!」

  自分に言い聞かせるように、怯えるサチに早苗は蛇神モードのまま、叱咤した。

  飛び上がった早苗は周囲を見渡す。正面方向に沼。それほど遠くない。振り返った向こう、遠くに田んぼ。この子の集落か。バラバラと松明が動くのが見える。里にもあの遠吠えが伝わったようだ。里人たちが警戒を初めているのだろう。

  その三度目の遠吠えに合せ、森のそこかしこから次々と答えるように獣の声が上がり始めた。眼下に見渡す森、その全てから黒いモヤが吹き出すように妖気が吹き出している。

  多い、とても。

  十やそこらではない。百、もしかしたら千に届くかもしれない。

  一つ一つの妖気は小さい。いつも神や天狗や河童と接している早苗からすれば、どうということはないレベルだ。――――それが、少数ならば。

  もし、これだけの数に同時一斉に襲われてしまったらどうなるか。あまりいい想像はできなかった。

  大幣を握る早苗の手に汗がにじむ。彼女がしなければいけないことはたった一つ。この女の子を無事に守り通すこと。

  それにはまず、里へ向かいこの子を降ろしてから戦うことが望ましい。最初、早苗はそう考えていた。彼らの狙いは早苗なのだから。しかし彼女を狙う妖気のあまりの数と、そして散らばる範囲の広さにその計画は変更を余儀なくされた。

  このまま里へ向かえば彼らを里へ呼びこんでしまう。そうなればこの子を守るどころの話ではなくなる。

  この子をこの場に残し、自分だけ離れたところへ移動して彼らを誘導し戦うことも考えた。しかしロクに身を隠すようなものがない。万一、この子が彼らに見つかれば一巻の終わりだろう。苦渋の決断で、早苗はこの森で、相手をすべて蹴散らすことに決めた。

  無謀な。そう、誰かが頭の奥でささやく。しかし早苗にはちっともそうは思えなかった。むしろ、戦いたい。無性に奴らと戦いたい。そんな別の声が体のほうから聞こえる。

  不思議と力が湧いてくるのがわかる。霊力が早苗の身体からオーラになって吹き出す。その色は、深い紫から緑へとめまぐるしく移り変わる。時折鮮やかな赤と金が枯葉のように散らされる。これも、ミシャグジのせいなのだろうか。

  それは静葉と穣子の加護によるものだったが、さすがに早苗にそれを知る由はなかった。

  ――――神奈子様ありがとう。勇気出ました。諏訪子様、不本意だけどこのミシャグジの力、使います。

  「奇跡『客星の明るい夜』!!」

  開戦の号砲は早苗から。宣言と共に、二人の頭上に燦然と輝く星が現れ、夕闇の森を昼間のように照らし出す。そして針のような光線を広範囲に向かってばらまいた。照らされた森の中、早苗の目に、突然の閃光に怯む漆黒の四足のケモノたちの姿が映る。

  奴らが、相手!

  こちらを見上げる無数の赤い目に向かって、光線が次々と突き刺さり、土煙を上げる。光線の威力がやはりいつもより大きい。爆音に混じって時折奴らの悲鳴が聞こえる。

  上空からの高密度の無差別射撃である。これで、まずは安全なところから少しでも数を減らそう。早苗はそう考えていた。しかし、その考えは甘かった。

  眼下に広がる森、これが障害物になり思ったほど命中しないのだ。相手の素早さも命中率低下を招いているようだ。

  「簡単にはやらせてもらえないですね!」

  スペルが終わる。辺りはまた闇に戻った。早苗は次の手を考える。もともと照明弾の役割も兼ねてこのスペルを選んだのだ。初手でケリがつくとは思っていない。

  手管の蝦蟇で森ごと吹き飛ばそうか、そう思った時だった。

  森から、小さな黒い影が早苗達に向かって殺到してきた!

  「――――っ!?」

  それは、無数の鳥。雀サイズが殆どだが、時折早苗の顔ぐらいの大きさのものも混じっている。

  一様に皆赤い目で、ギャアギャアと叫びながら羽ばたきもせずに翼を広げ飛んでくる。

  「『九字刺し!』」

  虹色の霞網が展開され、黒い鳥たちは次々とそこへ突き刺さり、断末魔の悲鳴を上げて血飛沫を撒き散らす。

  しかし、数は減ったが結構な数が網目をかいくぐり早苗に殺到した。

  「いやあああっ!」

  「ええい!鬱陶しい!お前ら!我になんの様か!答えろ!」

  白蛇の口調で問いかけるも、相手から答えは返ってこない。鋭いくちばしが無数に迫るだけだ。それを早苗は自分でも信じられないほどの体捌きで躱してゆく。揺さぶられるサチの悲鳴が聞こえるがそれにかまっている余裕はない。近接してきた相手は大幣で打ち据え、白い尾で弾き飛ばす。周りを取り囲む相手にはスカイサーペントを乱射して喰らわせる。素早く動く相手を追尾できるスカイサーペントは敵と相性がよく、次々と相手を餌食にしてゆく。しかしやはり数が多い。時折、鋭いクチバシや爪で攻撃され、早苗の胴体に少しづつ傷が増えていく。早苗は必死にサチをかばい続け、彼女をどうにか守っていた。しかしこのままではジリ貧である。

  「秘術『忘却の祭儀』!」

  自分を中心とした密度の高い弾幕。早苗はこれで強制的に黒い鳥たちを押しのけると、続けざまに「海が割れる日」を宣言。自分の弾幕ごと強引に道を作り、鳥の群れから抜け出した。

  そのまま森へ突入する。鳥たちにいいように森へと追い立てられた格好だったが、他に道はなかった。

  森の中で待ち構えていたのは黒い獣達。そして濃い闇の世界。

  抱き抱えられたサチには全く先が見えない暗闇。しかしその闇の中を早苗はまるで昼間のように木々を避けて突き進んだ。早苗には、辺りがまるで昼間のようにはっきりと見えていた。

  彼女は一直線に森の奥に向かって進んでいた。目的地はこの先にある沼だ。

  広いところへ。戦いやすい、広い場所へ。

  最初に飛び上がったときに見えた、あの沼なら――――!

  白蛇を仕留めようと口から涎の泡を零し、赤い目を光らせた獣が次々と木々の間から飛び出す。それを待ち構えるのは金色の双眸。

  「うらあああっ!」

  絶叫。風を喚び、飛び込んできた相手を空高く吹き飛ばす。

  そのまま早苗は自らの周りに風を引き止め、簡易の結界に。飛びかかる黒い影を弾き飛ばしながら止まることなく進む。

  後ろから追いすがってくる奴らの気配に、早苗はうまく誘導できたと安堵する。里に入らないように引き付けるのはうまく行った。あとは、この子を守るだけ!

  彼らが付いてきていることを確認し加速した早苗だったが、不思議な違和感を感じた。妙に、森が広い。さっきから木を避けること無く進んでいる‥‥

  「あ‥‥!?」

  早苗は一直線に進んでいた。木々が、早苗を避けて道を作っていたのだ。

  ―――森が、助けてくれている。これもミシャグジの力なのだろうか。

  「ありがとう‥‥!」

  誰かに礼を述べる。次の瞬間視界がひらけた。

  差し渡し100m程の沼だ。沼のほとりは森が途切れ、広い湿原になっており点々と草の小島が散らばっている。

  その中央まで来ると、早苗は空中に静止し後ろを振り返る。丁度追いかけてきた獣たちが水辺に差し掛かったところだった。

  彼らは首を憎々しげに振り、水の手前で停止する。そして早苗に向かい吠え立てた。

  鳥も様子を伺うように獣達と共に水辺で一旦止まると、岸に沿って沼を囲んだ。二人を逃がす気はないということだ。

  「ミシャグジさま‥‥!」

  その様子を見たサチが早苗に強くしがみつく。絶たれた退路。守るべき存在。言葉の通じない、相手。

  ――――仕留める!

  「心配するなと言うただろう。策がある。見ておれ」

  「あ‥‥」

  その自信に満ちた顔に少女は安心した。が、しかし次の瞬間、彼女の顔は真っ青に青ざめることになった。

  早苗はニヤリと見下すような目で妖艶に微笑むと、あろうことか大声で岸辺の獣達を挑発しだしたのだ。

  「おうおう、蛇一匹に随分な惚れ込み様じゃの!むさ苦しい臭いをさせた獣共がわらわらとよってたかって。‥‥ふふ。それ、何をしておる?そないに相手がして欲しいなら、ここまで来れば良いだろうに。いつまでそこで仲良くうろうろしておる?‥‥ん?なんじゃ?‥‥ああ、そうかそうか。一人では立つものも立たなんだか!!?ははははは!この意気地なし共め!」

  「‥‥‥‥」

  「ははははは!何をしておる?早く来い。それ、水もちゃあんとあるぞ?オイタがしたいなら水浴びぐらいせんか。ま、っ、た、く、礼儀を知らん奴らよの!」

  「さ、早苗様‥‥!?」

  早苗は牙をきらめかせながら大口を開けて呵々大笑し、尻尾で水面をぴしゃりぴしゃりと叩く。最大限相手を怒らせ、興奮させるために早苗が打った渾身の演技だった。

  しかしそのあんまりな内容に、しがみついているサチは赤面するやら青ざめるやら。混乱のせいか抗議の意図か、呼び方が「早苗」に戻っている。しかし早苗はニヤニヤと笑うばかり。サチは挑発の真意を問う事も忘れ呆気に取られていたが、怒りに満ちた獣達の声が聞こえると「ひっ」と怯えて振り返った。

  奴らに言葉が通じるとも思えなかったが、早苗の発言の意図は伝わったようだ。ますます怒りをこめて獣達は吠える。そうこうするうちに彼らの半数強が水に飛び込み、早苗に向かってきた。飛び込んだ者たちに合わせるように、鳥も一斉に全方向から向かってくる。

  迫る無数の赤い目が見えたのだろう。自分を掴む小さな手が一層の力を込めた。

  早苗の計画は上手く行った。獣達は早苗の誘いにのって次々と水に入ってくる。

  「心配しないで」

  早苗はいつもの口調で、サチに優しく微笑みかける。早苗には勝算があった。

  ――――こんなに私に地の利があるところで戦おうとするなんてね――――

  彼女が思い出すのは、非想天測騒動のとき、対峙した諏訪子の言葉。――――自分に取って地の利が最大になるのはどこなのか。今の自分ならば、ミシャグジになった自分ならば、おそらく!

  「開海――――!」

  右手を高く掲げる。大幣に霊力が集まっていく。

  すでにスペル宣言は只の掛け声と化している。これはもうごっこ遊びではない。殺し合いなのだから。

  しかしこの場に及んで未だ早苗がスペル戦の形式を取るのは、形だけでも一線を越えたくないという彼女の思いと、ミシャグジの力を思うまま使うあまり人間からどんどん遠ざかっていくことに対する彼女の無意識の恐怖の現れだった。

  「モーゼの奇跡!」

  掲げた右手を振り下ろす。

  「応えて!」

  気合と共に早苗はありったけの霊力を水面に叩きつけた。

  霊力が水面で爆発する。

  水面が踊る。盛り上がる。早苗を中心に、敵に向かって幾筋もの鋭い水しぶきが扇のように広がりながら岸まで伸びていく。

  飛沫は高く、密度を持って吹き上がり、鳥たちの正面に水のカーテンとなって立ち塞がる。そして飛沫は針になり、彼らを打つ。

  岸に迫る無数のヒビは泳ぐ獣達を次々と飲み込んでゆく。水の中を進んでいた獣達は満足な回避もできずに吹き上がるヒビに飲み込まれた。そして突き進むヒビは爆発と共に鎌首をもたげ、幾匹もの水の蛇となって水面から躍り出ると、未だ岸辺に残っていた獣たちに襲いかかった。

  一瞬のうちに沼は彼らの悲鳴と断末魔で満たされた。

  「ひ‥‥‥!」

  「‥‥」

  血飛沫がそこかしこで吹き上がる。激しく流れる水は妖獣たちの頑丈な身体を物ともせずに、その身を赤く染めながら次々とすり潰していく。

  空も同じだ。うねる蛇は空を舞い、鳥たちを次々と飲み込み、あるいは水を吹き付け切り飛ばす。そのたびに空に赤い飛沫が弾ける。

  凄惨な光景にサチが小さく悲鳴を漏らし、顔を早苗の胸にうずめた。

  ミシャグジの神性の一つ、それは水神。

  早苗の思ったとおり、彼女にとって水辺は最大の地形効果を彼女に与えた。水は水神となった早苗に応え、蛇の姿を持って獣達に襲いかかった。

  早苗の想像以上に攻撃は圧倒的であり、獣達はさしたる抵抗もできないまま次々と水の蛇に屠られていく。虐殺とも言えるその光景に、早苗の背筋に震えが走る。しかし、彼女は歯を食いしばってその地獄絵図を見続けた。早苗に攻撃を止める気はなかった。完全に彼らが沈黙するか、戦意を失って遁走するまでは。

  弱々しい声が聞こえる。傍らを見れば、片耳をえぐられた妖獣が尻尾を丸めながら岸に戻ろうと必死に水を掻いていく。

  早苗を振り返る目は、悲しげな恐怖の色だった。

  その目に、早苗は言いようのない憤りを感じ、一目睨めつけると水の蛇を食いつかせる。

  発せられた悲痛な断末魔はすぐに水音に消され、聞こえなくなった。

  「‥‥そんな顔するくらいなら、襲ってこなきゃよかったでしょう!」

  再度水面が一斉に沸き立つ。俯いた早苗の呪詛に応えるように、無数の水の蛇が踊り狂った。

  それが最後。獣達は水の中に屠られた。岸に残っていた僅かな獣達は森の奥深くへ逃げていった。

  

  

  沼に、静けさが戻った。

  

  

  

  [newpage]

  

  

  

  

  

  

  

  

  

  「もう、だいじょうぶです‥‥ほら、顔をおあげなさい‥‥」

  「‥‥は、はい‥‥」

  「ね、もうアイツらは居ませんよ。さ、うちへ帰りましょう」

  「はい‥‥‥‥ミシャグジさま?」

  獣達の声が聞こえなくなった沼の上で。

  早苗に優しく言われ、サチは恐るおそる目を開く。そして顔をあげると、見上げた早苗の姿に驚いた。

  「あ‥‥」

  「ん?」

  自分を優しげに見つめるその金色の目は縦に裂け、首筋は喉元まで真珠色の鱗に覆われていた。

  両腕も、手甲のように指先だけを残しやはり鱗に覆われている。

  ぞろり。と、俯いた拍子に早苗の左で結んだ髪の一房が垂れる。

  その髪は、ようやく昇ってきた鈍く膨らんだ月に照らされ、銀色に光っていた。

  辛うじて人の、元の早苗のものとわかる部分は、二本の腕とその手先、そして顔だけとなっていた。

  「‥‥さ、なえ、様」

  「はは、は。力、使いすぎちゃった。かな。‥‥えへ。へへへ」

  困った顔で笑う早苗。

  視線の先、水面に映る白蛇が、同じように困った顔をして笑っていた。

  「‥‥」

  「さ。帰ろ。みんなのとこに」

  心配そうに見上げるサチを両手で強く抱きしめると、早苗は沼を後に里へと向かった。

  後には、赤く染まった沼だけが、静かに月を映していた。

  

  

  

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