AdAd
  
記憶の中の世界と虚無の世界

  〜記憶の中〜

  「ここが…記憶の中か。でも周りは真っ暗で何も見えない。まるで虚無だな…。」

  吾郎さんと俺は達也君の心の中にダイブ機能を使って入っている。しかしここでどうやって記憶の欠片を探せばいいのだろうか。

  『記憶の中にようこそ…貴方達にはこれからこの方の記憶の欠片を集めてもらいます。』

  どこからか声が聞こえてくるが声の主は見当たらない。その前に灯りの入ったランプを渡された。

  『これは“希望の灯火“…貴方達を記憶の欠片に導くものです。決してなくさないように…。貴方達の幸運をお祈り申し上げます…。』

  声の主は見当たらないがいつの間にか辺りが明るくなっている。そこに一人の子供が現れる。

  『おじさん達…誰?』

  それはこっちのセリフである。しかも俺はおじさんじゃないし…とー吾郎さんが子供に話しかけた。

  「俺は熊村吾郎。大工をしながらヒーローの仕事をしている。隣は熊森雷太…彼もヒーローなんだ。」

  子供は“ヒーロー“という言葉に反応する。そして笑顔になり目を輝かせている。

  『ねぇねぇ!ヒーローの姿見せてよ!あ!ごめん…僕は氷海達也って言います!』

  この子供が達也君!?か、かわいい…俺は思わず彼を抱きしめてしまった。

  『わ…モフモフだ…僕熊さんが一番好きなんだ!それより早くヒーローに変身してよ!』

  子供は本当にヒーロー好きだよな…とりあえずヒーローウォッチを使いヒーローに変身する。

  『おじさん達かっこいいね!熊のヒーローってやっぱりかっこいい!見せてくれたお礼にこれをあげるね!』

  彼の手にはキラキラとした欠片のようなものが…これがもしかして記憶の欠片なのか?それを受け取るとまた場面が入れ替わる。今度は教室のようだけど…と目の前に誰かが座っていて俺達をじっと見つめているようだ。

  「少し話さないか?俺は熊森雷太だ。隣は熊村吾郎さん。俺達はヒーローの仕事をしている。君は…。」

  『……。』

  彼は何も言わず教室から出ていってしまった。子供の時とは大分印象が違うようだ。学生の頃の達也君は自分から話しかけることはなかったしいつも一人で佇んでいた。声を聞けたのは翠川研究所で逢った時が初めてで…そこで俺は達也君と恋人になったんだ。

  「…?あの子が座っていたところに何かあるぞ?何か靄がかかっているようだが…。」

  吾郎さんが何か見つけたようだ。それは記憶の欠片のようだけど…何故か黒ずんでいるようだ。

  「心の中だから汚れているんだろうな。何かして浄化する必要がありそうだな…熊森君、さっきの子を追いかけてみるか?」

  確かに…吾郎さんは達也君並に頭が切れる。何故かヒーローに変身して先に行ってしまった。何か魂胆があるのだろうか…。俺はそう思い後を追いかけるのだった…。[newpage]

  「こ…これは…。」

  さっきの子は運動場にいた。しかしそこは何故か真っ暗で彼は何かに縛られて動けなくなっていた。

  『フフフ…お前の心は既に汚れている。お前と同じクラスだった人族に虐めに遭っていたこと…それが原因でお前は誰とも接しなくなった。そいつらが憎いだろ?消えてほしいと思っているだろ?』

  『…。』

  「彼の心を汚している原因は何なんだ?倒せば浄化されるのか?考えてる暇はないな…熊森君、奴を倒し彼を助けるんだ!」

  『何だお前らは?邪魔をするでない。』

  『あ…獣のヒーローだ…。お願い…助けて…。』

  『ヒーローだと?…丁度いい。俺の好物はヒーローの精液だ。思う存分絞り取らせてもらうぜ。その前にこいつは邪魔だからこの場から消すとしよう。』

  どこからか声が聞こえてくるが真っ暗で見えない。声の主は彼を取り込もうとしているようだ。助けに行きたいが俺達にも何かが絡みついて身動きが取れなくなっていた。俺はまた守れないのか?そう思っている間にも彼は暗闇の中に取り込まれている。とー

  「見えないなら…光を当てればいいじゃないか。」

  吾郎さんは何か思いついたのか希望の灯火を暗闇に向かって投げつけた。暗闇にいた何かは光を浴び一瞬で消えて…さっきの子がその場に倒れていた。そして記憶の欠片を見ると靄が消えて輝きを取り戻した。

  「やったな…これで彼の心は浄化されたはずだ。」

  「そうですね…?吾郎さん?」

  吾郎さんの体から光の粒子のようなものが出ている。何か嫌な予感がするのだが…。

  「熊森君、どうやら私は消滅するようだ。希望の灯火を使うとこうなるらしい。後は一人で頑張るんだ。」

  「吾郎さん…。」

  「多分俺は達也君の心から外に追い出されるだけだ。熊森君、一人になるが頑張って記憶の欠片を集めるんだ。大丈夫…今の君なら絶対に達也君を助けられる。後は頼んだぞ…熊森君…。」

  吾郎さんは完全に消滅してしまった…これから一人で達也君を助けないといけない。そう思っているとさっきの子が俺の目の前に立っていた。

  『…ごめんなさい。私のせいで…。』

  「大丈夫だ。それより君は?」

  『氷海達也と申します。熊森雷太さんですね?同じ学校で氷谷虎一さん達と同じクラスだったのを覚えてます。それからさっきの熊獣人は…熊村吾郎さんですよね?大工をしながらヒーローをしているときいてます。』

  俺のことだけでなく吾郎さんまで知っている。彼とは初対面な筈なのに…どうして知ってるんだ?

  「吾郎さんのことですよね?実は卒業してからすぐに彼と出逢ったんです。その時のことは吾郎さんはもう覚えていませんけど…彼がヒーローをしていると知って私は翠川研究所に連れて行ってもらったんです。吾郎さんに逢って…一緒に薬の開発をしてたんです。その時の薬のレシピは吾郎さんが描いたもので…ヒーローウォッチも彼が考えて作ったものなんです。私が狸獣人のヒーローになれたのもこの時で機能は私が考えました…。」

  虎一達よりも前に吾郎さんと一緒に仕事をしていたのか…俺が翠川研究所に来た時はもういなかった。

  「吾郎さんが怪人に捕まっていたのは私のせいなんです。私も狸獣人に変身してヒーローの仕事をしている時なんですけど…その時怪人に捕まってしまったんです。連れて行かれそうになって吾郎さんが助けてくれたんですけど代わりに連れて行かれて…アジトで執拗に精液を絞り取られる羽目になったんです…。」

  達也君の口から吾郎さんとの関係が語られた。以前にそんなことがあったなんて俺は知る由もなかった。

  「達也君、吾郎さんを助けに行こう。助けて…一緒にまたヒーローの仕事をしたいよな?」

  「勿論です。今…私の記憶の欠片を集めてるんですよね?最後の記憶の欠片があるのは…多分吾郎さんがいるところだと思います。」

  「吾郎さんがいる所?でも俺の目の前で消滅したんだぞ?心の外に追い出されて元の体に戻るはずだと言っていたけど…。」

  「消滅したなら彼は元の世界ではなく…虚無の世界に運ばれたんだと思います。」

  虚無の世界?そんな所どうやって行くんだよ…と達也君は地面に何か書いている。どうやら魔法陣のようだけど…書きながら達也君は話を続ける。

  「これですか?これは虚無の世界に行くためのものです。熊森君達に逢う前に図書館で見つけたんです。さて…書き終わりました。」

  魔法陣が発動しそこから門が現れる。でも門と言うより魔物のような気がするのは俺だけだろうか…。

  『呼んだのは貴方ですか?私は虚無の門番。何か御用でしょうか?』

  「消滅した仲間を助けに行きたいんです。」

  『そういえば一人新しい魂が入って来ましたね…希望の灯火は持ってますか?それがあれば彼の場所に行けるかもしれません。では…どうぞお入り下さい…。』

  門が開く。中は全く見えない…虚無の世界だから当たり前か。俺は達也君の手を繋ぎ中に入るのだった…。[newpage]

  〜虚無の世界〜

  「ここが…虚無の世界…。本当に何もないな。」

  「…ですね。入ったのはこれが初めてですので…とりあえず行きましょうか。」

  暗闇の中俺達は只管歩いている。因みに俺達はヒーローに変身している。生身で入ると何故か息苦しく感じたため達也君が提案したのだ。しかし達也君は変身していても息苦しく感じるようだ。

  「奥がどこまであるか分かりませんね…進む度に少しずつ息苦しくなってきました。熊森君は大丈夫ですか?」

  「俺は平気だ…もし倒れたら背負っていくからな。」

  「はい…あ、なんか明るいところがありますよ。」

  達也君が指指したところにライトが当たっている。そこに人影が倒れている。あのシルエット…もしかして吾郎さん!?駆け寄って見ると本当に彼だった。

  「吾郎さん!助けに来ましたよ!」

  話しかけても吾郎さんの反応がない。少しずつだけど体が消えかかっているようだ。

  「熊森君、虚無の世界で魂が消えると二度と元の体に戻れなくなります。だから消える前に助けないといけないんです…。そういえば熊森君…希望の灯火持ってますよね?危険ですが吾郎さんの心の中にダイブします!」

  達也君は慌てて俺から希望の灯火を取り上げ吾郎さんの体に置いた。すると吾郎さんの体に穴が開き吸い込まれそうになる。これで失敗したら吾郎さんだけでなく俺達も虚無の世界に取り込まれることになるが…達也君の表情は真剣だ。そして彼は勢いよくダイブしていった。

  「達也君!何だ?体が…重い…。」

  体が動かない…俺はその場に倒れてしまう。一緒に行けばよかったのだがそんな勇気は出なかった。

  〜吾郎さんの心の世界〜

  『…達也君?ここまで来るなんて…。』

  「私は吾郎さんがいないと駄目なんです。一緒に元の世界に帰りましょう。」

  『俺はもう生きるのに疲れたんだ。これ以上何が出来るんだ?ヒーローにならなかったら執拗に精液を絞り取られることもなかった。』

  吾郎さんはもう心が空になっているようだ。もう何を言っても否定的な言葉で返されそう…。

  「私は吾郎さんに逢わなかったらヒーローの仕事をすることもありませんでした。吾郎さんと一緒だったから薬の研究も出来たんです。」

  『やめてくれ!!俺のことなんかもう忘れてくれ!』

  「私のこと…嫌いになったんですか?」

  『…!俺は…達也君を一度も嫌いになったことなんかない。それからずっと仲間ではなく恋人として見てきたんだ…。達也君、俺と…一緒になってくれるのか?』

  吾郎さんが今ので心が満たされたようだ。今なら彼を改心出来るかもしれない。

  「吾郎さん…私も貴方を恋人として見ていました。よろしければお願いします。」

  『いいのか?熊森君も達也君のことを恋人にしたいと思っているんじゃないのか?』

  「…熊森君も勿論恋人です。私は何人恋人がいてもいいですよ。」

  『そうか。ありがとう…達也君。』

  吾郎さんは笑顔になった。その瞬間目の前に記憶の欠片が現れる。それを手に取ると光の柱が現れ私達を包み込む。そして私達はまた違う場所にいた。

  「ここは…吾郎さんと最初に逢った場所ですよね?」

  『言われて見ればそうだな…。俺が家を建てている時に逢ったんだったな。その時怪人が現れてヒーローに変身して対峙したのを覚えている。』

  「それで私もヒーローの仕事をしたいと思ったんですよ。このことは熊森君に全てお話しました。」

  『覚えていてくれたんだな…まさか捕まった時のことは言ってないよな?』

  「すみません…話してしまいました…。」

  今ので吾郎さんは顔を赤くして私を怒鳴りつける。でもこれも私にとって一つの思い出だ。

  『これからもヒーローとして…そして恋人として一緒に過ごしていこう。たまにはデートとかしてもいいか?』

  「勿論です!吾郎さんとならいつでも…。」

  『記憶の欠片は全て集まりましたね。それではこれから元の世界に返します。もう一人の方は既に返しました。いつまでも幸せに過ごしてください…。』

  話しているとどこからか声が聞こえてした。私達の体は光に包まれて…気づいた時には元の世界に戻って来ていた。熊森君は既に起きていて私をじっと見つめている。

  「皆さん…ご心配をおかけしました…。」

  「これでまた達也君と一緒だな。龍、また一緒に研究所に行くからな。だが毎回精液を採取するのは止めてほしいのだが…。」

  「それは無理だな。精液を採取するのは君達の健康を見ているからであって…それより新しい仲間が増えたな。吾郎君…宜しく頼むぞ。」

  龍さんは何を言っても譲ることはないようだ。それでみんな溜息をつくのだった…。

AdAd