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とある日。シリウス待機所にて。
「それでは隊長、予定通り今から医局へ行ってきます」
「ん?あぁ例の件だな。こちらは気にしなくて良いから、しっかりな」
「はい」
相互確認を終えたユキは少し会釈をして、待機所を後にした。
その会話を聞いていた有紀は首を傾げて尋ねた。
「……隊長、例の件ってなんですか?」
「ん?あぁ。以前から計画していた医療セクサロイドのバージョンアップだ」
「「「バージョンアップ???」」」
「まぁ、要するに定期的な技量アップと言ったところだな」
「へぇ…ユキでも技量アップって必要なんですね」
「医療も日々進化を続けているからな。レベルアップができるに超したことはない」
「そうですね」
「そうでね。いつも乗客や私たちの治療をしてくれているものね」
「だな。医療の女神には頭が上がらねぇな」
一同が能天気に会話をしている中、書類をチラ見していたバルジは意地の悪い顔で告げた。
「なに呑気な事を言っている。そういえば、ここ最近のお前らの技量成績が少し下がり気味だな」
「「「へ?」」」
「このままバージョンが低すぎて使い物にならなくなっても困るな。よし…近々俺直々にバージョンアップを行うか…」
「えっ?!た、隊長直々にですか?!」
「う、ウソでしょ?!」
「ちょっと…なんかの…冗談っすよね」
「小隊の指揮官として隊員の状態は万全にせねばならんからな。丁度時間もあるから書類整理が完了次第訓練室へ行くぞ」
「「「えっ……りょ、了解……」」」
その後、書類整理を終えた一同は渋々訓練室へ出向くことになった。
訓練開始して一時間ほど…
みっちり訓練を受けたシリウス一同は床に座り込んで息を切らしていた。
「ぜぇ……ぜぇ……だめだ……もう…動けねぇ…」
「はぁ……はぁ……ひ、久しぶりの……スパルタだったわね…」
「ぜぇ……ぜぇ……し、死ぬかと思った」
床で文句を垂れ流している一同を椅子に腰掛けながら傍観していたバルジは呆れながらマイクで告げた。
『お前らな。これくらいの事でバテすぎだ。流石に洒落にならんぞ』
「そ、そんなこと言われましても…」
「なんか…今日の隊長…厳しいわね」
「だな。あの感じじゃ…納得するまでやるつもりだぜ」
『……………何か言ったか?』
「「「いいえ…なにも」」」
『やれやれ……全く』
一同の不甲斐なさに頭を抱えると、重い腰を上げて一同も元へ向かった。
休息をしている一同の元に到着すると、腕を組んで訓練について講評を始める。
「訓練の評価だが、技量は問題ないが、全体的に基礎体力が足りておらん。それでは任務では生き残れんぞ」
「は、はぁ……」
「確かにそうですけど…」
「んじゃ。どうしろって言うんですか?」
「簡単な話だ。今から勤務終了時間まで筋トレルームで基礎体力をあげてこい」
「えっ?!い、今からですか?!」
「勤務終了時間までって…まだ3時間以上ありますよ!」
「おいおい…マジかよ」
「大マジだ。ここまで基礎体力が落ちているとは想定外だ。せめて元に戻るまでやってこい」
(いや…そんな急に戻りませんって)
(無茶ぶり過ぎよ)
(でたよ。鬼畜隊長…)
シリウス一同が不満げな顔を浮かべていると、それを察したバルジが少し冷たい瞳で追及する。
「……なんだ?俺の考えに文句でもあるのか」
「「「い、いえ……ありません」」」
「ほぅ……。だがその様子では些か不安だな。なんなら、俺も同行して監督していた方が良いか?」
「い、いいえ!大丈夫です!」
「それくらい私たちでできます!」
「別にサボりませんから、勘弁してくださいよ!」
シリウス一同からの必死の説得に少し笑いが込み上げるも、ぐっと耐えて今後の指示を出した。
「……そうか。では速やかに筋トレルームへ向かえ。緊急出場要請があれば急行。なければ勤務終了時間で自由解散とする。以上だ」
「「「りょ、了解……」」」
少し悄げている一同を残してバルジは待機所へ帰った。
再び隊長デスクに腰掛けて書類整理を再開しながらため息を吐く。
「はぁ……やれやれ」
(アイツらにも困ったものだな。何処でもあることだが、マンネリ化が進むとサボり癖が出てくる。これは定期的に刺激を与えた方が良さそうだ)
「はぁ……先が思いやられるな」
悩みの種を抱えていると、あっという間に勤務終了時間を迎えた。
「……ん?もうこんな時間か。アイツらがいないと静かで気付かなかった」
パソコンを片付けて立ち上がると、待機所の扉が開き、ユキが入室してきた。
「只今戻りました」
「ん?ユキか。随分長かったな。無事にバージョンアップは完了か?」
「はい。問題無く完了しました」
「そうか。それは良かった」
「はい。ところで……他の皆さんはどうされたのですか?」
「なに、アイツらもバージョンアップをしに行っているだけだ」
「バージョンアップ…ですか?ですが有紀さん達は人間ですよ」
「人間には人間なりのやり方がある。まぁ、時間はそれなりに掛かるがな」
「そうですか。上手くいくと良いですね」
「確かにな。さて、もう上がりだ。お前も引き上げて構わんぞ」
軽く解散の旨を伝えると、ユキは何処か下を向いて困った表情をしていた。
「……ん?どうした。何かあったか?」
「あの……隊長。実は……少し悩みがありまして……ご相談に乗って頂けませんでしょうか?」
「お、お前が悩み事か。珍しいな…」
「……はい。正直、相談しようか悩んでいたのですが…やはりご相談できるのは隊長だけです」
「そ……そうか。(ヤケに深刻な顔だな。一体何の相談だろうか…)」
若干不気味に感じながらも、いつも世話になっているユキからの要求に断る理由はなかった。
「分かった。俺で良ければ相談に乗ろう。せっかくならそこのソファーに腰掛けて…」
「あ、あの……!」
バルジの声を遮るように声を漏らしたユキは少し頬を赤くして要求した。
「できれば…ここではなくて……その…私の部屋でお話を聞いて頂けませんでしょうか?」
「えっ……」
かつて見たことがない素振りにバルジは徐々に妙な感覚でいた。
(な、なんだ…この顔は?!ユキは医療セクサロイドだが、今までこんな顔見たことがないぞ。まさか…医療の連中がバージョンアップを口実に変なプログラムを組み込んだのではないだろうな)
「あ………そ、それは…構わんが、どうしてもお前の部屋ではなければならんのか?」
「………はい。その……少しだけ…恥ずかしいことなので」
「は、恥ずかしいこと?」
「はい。その……お互いの為にも……その方が良いと思います」
「…………。(お、お互いの為って。おいおい…流石に笑えん。まさか…本当にまずいプログラムが入れられているのではないだろうな。これは有紀やデイビットに接触する前に確認しておかなければ…)」
「………分かった。とりあえず、お前の要求を受理しよう」
「ありがとうございます!よろしくお願いします」
「あ、あぁ…」
結局、不気味な不安を抱えたまま、バルジはユキと共に待機所を後にした。
それからしばらくして筋トレルームから出てきたシリウス一同を大量の汗を流していた。
「ぜぇぇぇぇ疲れた」
「本当にね……なんだか全身痛いわ」
「だよな……これ、絶対に明日筋肉痛になっちゃうよ」
全身に疲労が出ている一同は体を慣らしながら、ある提案をした。
「そうだ!ここはユキに運動後のアフターケアしてもらうって言うのはどう?」
「おっ!いいねぇ。ユキなら上手くやってくれるからな」
「そうだな。明日の為にもそうした方がいいな」
満場一致でシリウス一同は少しウキウキしながらユキの自室がある医局へ向かった。
一同が医局の廊下を歩いていると、正面から来たケフェウス一同と鉢合わせた。
「ん?お前ら…こんなところで何をしている」
「ローレンス隊長、お疲れ様です。ちょっとユキのところに行く途中です」
「ユキ?なんだ、負傷でもしたのか?」
「いいえ。ただいつも以上に筋トレをしたので、運動後のアフターケアをしてもらおうと思いまして」
「ふん。筋トレ如きで疲労困憊とは情けない奴らだな」
「ほ、放っておいてください!」
嫌みを言われて事で有紀がムッとしていると、今度はルイとデイビットが話を持ちかけた。
「それでケフェウスの皆さんはどうされたんですか?」
「てか。なんでローレンス隊長がキムをおんぶしているんですか?」
「あぁこれか。はぁ…実はな。これも情けない話なのだが、任務中にキムがぎっくり腰をしてしまってな」
「「「ぎっくり腰?!」」」
「あぁ。一応、医局の連中の診察を受けたのだが、なるべく早期回復をしてほしくてな。それで医療エキスパートのユキにも診て貰おうかと思ってな」
「な、なるほど…」
「ぎっくり腰って…かなり痛いって聞いたけど」
「ぎゃはは、そりゃ散々だな。キムよ」
「放っておいてくれよ……それより隊長、そろそろユキさんのところに行きましょうよ」
「それもそうだな。お前らもユキのところに行くのだろ。一緒に行くか」
「「「お供します」」」
シリウスとケフェウスが共にユキのメディカルルームへ向かった。
一同がメディカルルームに到着して、有紀がドアをノックしようとした時だった。
……、………、……、……、
「………あれ?」
「どうした、有紀」
「なんか……中から声が聞こえます」
「声?もしかして既に先客がいるのか?」
ローレンスからの疑問の声を受けながら、有紀はそっとドアに耳を傾けた。
「……多分、これって……バルジ隊長の声だと思います」
「バルジの?ならば気にせずに入室すればいいではないか」
「いや………それが……その……今は入らない方がいいかもしれません」
ドアに耳を傾けながら顔を真っ青にしている姿に、ローレンスは一気に険しい顔へと変貌した。
「……それはどういう意味だ。説明しろ」
「え?それは……そのままの意味で…せ、説明しろと言われましても…」
未だに挙動不審状態に今度は同じシリウスのルイとデイビットが尋ねた。
「有紀くん、本当にどうしたのよ」
「たく…しゃあねぇな。俺も確認してやるよ」
デイビットが面倒くさそうに同じようにドアへ耳を傾けると、徐々に顔を真っ青にした。
「………どうだい、デイビット」
「……これはやべぇ。絶対に入らねぇ方がいい」
「……だよな」
男二人が顔を合わせて納得しているところに、痺れを切らしたローレンスが行動にでた。
「………ピエール、コーリー。すまんがキムを頼む」
「「えっ?」」
ドサッ!!!
背中に背負っていたキムを突然降ろすと、後方から悲鳴が句超える。
「うぎゃぁぁぁ!た、隊長…もう少し…大切にしてください…」
「たく…情けない声出してんじゃねぇよ」
「本当、情けないわ」
ケフェウス一同が言い合っている中、険しい顔をしたローレンスはドア付近まで来た。
「……どれ。俺にも確認させろ」
「ろ、ローレンス隊長……ここは…スルーして頂けませんか!」
「ローレンス隊長、マジで止めた方がいいですって!」
「五月蠅い。命令だ、そこを退け!!」
あまりに圧し籠もった声を聞くと、蹴落とされた二人はそっとドアから離れた。
ドアから離れた二人に不思議そうにしているルイがそっと尋ねた。
『……ねぇ。一体何が聞こえたのよ?』
『え?あぁ……それは……』
『別に私までに隠す必要はないでしょ』
『い、いや……寧ろ言えなよ』
『寧ろって…どういう意味よ』
『んなら、ハッキリ言うぜ。場合によってはここで流血事件が起きるかもしれねぇってことだ』
『ふぇ?う、ウソでしょ?!』
『マジだよ』
『マジだぜ』
シリウス一同が顔面蒼白で傍観している中、ローレンスはそっとドアへ耳を当てた。
そして徐々に聞こえてくる室内の会話に耳を疑った。
『あ“っ…んっ…ゆ、ユキ…そ、こは…勘弁して…くれ』
『ダメですよ……隊長。ここも……大変なことになっています。ちゃんと…私が治療して差し上げます』
『んっ…だ…だが…きみに……これ以上の…ことを…させるには……ああっ……んあ“っ…』
『ふふ、隊長も…色々と溜まっていたんですね。安心してください。私が全部解消させていただきますから』
『そ…それは…助かるが…だが…あ“っ…んっ…これは…んっ…キツい……んんっ』
『ふふ、そんなに我慢をしないでください。ここにいるのは私と隊長だけですよ。遠慮無く声を出していいですよ』
『うっ……そ…それは…あんっ…くっ…ああっ…だ、だめだ……もう…げんかいだ』
『そうですか。なら、いっぱい発散してくださいね』
『うっ……よ…よせ…あ“あ”あ“ぁぁぁぁぁっ!!』
「…………」
ドアに耳を傾けていたローレンスは黙ったままドアから耳を離した。
未だに何も話さない姿に傍観していたシリウス一同が声を掛けた。
「あ……あの……ローレンス隊長?」
「だ、大丈夫っすか?」
「何が…あったんですか?」
「…………………」
シリウス一同からの声かけにも一切応えずに、ローレンスは無言のままホルスターからコスモガンを引き抜いた。
カチャ!!
「ちょ、ローレンス隊長?!」
「な、なんで…コスモガンを?」
「あの……」
『…………………殺す』
「は?」「へ?」「え?」
まるで地獄の底から聞こえたような押し殺された声に一瞬言葉が死ぬと、瞬時に正気に戻った有紀が聞き直した。
「あの……い、今………殺すって……言いましたか?」
『……あぁ。アイツは…SDFの恥さらしだ。優秀なセクサロイドに性的行為をさせるなど言語道断だ。世に出回る前にここで始末する』
「ちょ、ちょっと!流石に殺すのはまずいですって!せめて話し合いを…」
『喧しい!!!アイツはシリウスの隊長でありながらシリウスに泥を塗ったのだ!生かす価値はない。今すぐに撃ち殺してやる!!!』
「ちょ、ローレンス隊長!!!」
まるですべてを忘れて怒りの青白い光に全身を染めたローレンスは、コスモガンを構えたままメディカルルームへと入室した。
そして入室するなりコスモガンの銃口を向けて叫んだ。
「バルジ、貴様ぁぁぁぁぁぁ!!!!!っ?!」
銃口をバルジへ向けたローレンスは目の前に広がる予想外の光景に言葉が消えた。
最悪のシチュエーションを想定したシリウス一同が慌てて同じく入室して叫んだ。
「ローレンス隊長!!落ち着いてくださ…」
「いきなり銃殺はまずいです……って」
「ここは思い止まってくださ…」
同じく入室したシリウス一同も眼下に広がる光景で動くと言葉を止めた。
異様な静けさが漂う中、あとからゆっくり入室したケフェウスも驚きの声を漏らした。
「なんか………静かだな…っえ?」
「あ、アレって……」
「痛ててて、……なんだよ…これ?」
その場の一同が目にしたのは診察台で上半身裸のままうつ伏せで悶絶しているバルジの姿だった。
見れば両手を診察台に固定され、大量の汗を流していた。
「ハァ……ハァ……ハァ……んぁ?ロー…レンス」
「あ……突然で…すまんが。これは…どういう…ことだ」
「っ!!!丁度いいところにきた!今すぐにこの拘束を解いてくれ!」
「ま、まてまて!話が見えん。一体何がどうなっているのだ?!」
「見てわからんのか!拷問だ!!!」
「ご、拷問?」
「このままでは命に関わる。だから…助けてくれ!」
「あ………」
診察台に縛り付けになっているバルジからの悲痛な叫びに呆気に取られていると、近くにいたユキが声を掛けてきた。
「皆さん、お疲れ様です。こんなところにどうされましたか。何か怪我でも?」
「い、いや……我々の事よりもこの状況を説明してくれんか?」
「え?あぁ~これですか。これは新たに取得したディープティシューマッサージを施術していました」
「ディープ…ティシューマッサージ?」
「なんだそりゃ?」
「ユキ、それって…なんなの?」
「筋膜や筋肉といった、深部の組織にアプローチするオイルマッサージです。指、手のひら、指関節、肘などを使って、強めの圧とゆっくりしたストロークで、コリやハリをほぐしていく手技です」
「へ、へぇ……そうなんだ」
「……あんまり聞かねぇマッサージだな」
「でも、どうしてバルジ隊長がそれを受けているの?」
「実は本日のバージョンアップでそのスキルを取得したのですが、何分経験がありません。そこで…」
ユキが説明をしている中、今まで唖然としていたローレンスが割り込んで話に介入した。
「なるほど。経験を積むためにバルジにモニターとなってもらったというわけ…か」
「その通りです」
「……だが、何故バルジなのだ?」
「私が算出した疲労データの結果です。筋肉のコリにつきましては隊長が断トツでしたので」
「ほぅ……で、何故診察台へ縛り付けにしたのだ?」
「マッサージの手引きです。かなり痛みがありますので、体の保護を理由に行いました」
「なるほどな…」
未だにコスモガンを手に腕を組んで納得している姿を見て、実験体にされているバルジから怒りの声が届く。
「おい!!何納得しているのだ!!早く拘束を解け!」
「…だがな。理由としては決して悪い事ではないではないか」
「馬鹿言え!どれだけの激痛が走ったと思っているのだ!!」
「……それは日頃のボディーケアを怠った結果だろ。いいではないか。凝り固まった筋肉が解れれば今後の任務の事を考慮しても悪くないことだと思うぞ」
「なっ?!何を他人事な。激痛でショック死したらどうするのだ!」
「そうなったらお前の命運もそこまでだな。悪いが俺は疲れたからこれで失礼する」
「は?!ちょ、ちょっと待て。疲れたとはどういう意味だ!」
「……悪いがな。お前のせいで精神的にどっと疲れた。部屋で休息をさせてもらう」
「ほ、ほぅ…疲れたのか。ならば、ここでマッサージを受けてからでもいいだろ」
「………せっかくだが、俺は遠慮しておく。ユキ」
「はい?」
「邪魔をして悪かったな。お前の言う通り、コイツは長年の凝りが蓄積している。徹底的に解してやってくれ」
「分かりました」
「は?!ちょ、ちょっと待て!!!」
予想外の言葉に抗議を漏らすバルジを無視してそのまま話を続ける。
「頼むぞ。それとついでにキムもマッサージをしてやってくれ」
「(ギクっ!?)」
突然の申し出に座っていたキムがドキッとしている中、施術者のユキが首を傾げた。
「キムさんを?そういえば…キムさんはどうされたのですか?」
「コイツはぎっくり腰だ。できるだけ早く戦線に復帰をさせたい。頼めるか?」
「問題ありません。この手法はぎっくり腰にも効きますので、バルジ隊長の次に施術を行います」
「頼むぞ」
勝手に話が進んでいく中、患者であるキムが突然叫んだ。
「ちょ、ちょっと待ってください!俺まだ死にたくありませんって!」
「何を言う。所詮ただのマッサージだ。死にはしない」
「あのバルジ隊長が耐えられないのに平の俺が耐えられる訳がないじゃないですか!!」
「それはやってみなければ分からんだろ。なんせ、お前にはバルジにない若さがあるからな」
「なっ?!そんな……いくら何でもあんまりです……」
「何とでも言え。コーリー、ピエール!」
「「は、はい!」」
「悪いがお前らはキムの付き添いを頼む。場合によってはユキの助手を務めろ」
「「りょ、了解……」
「宜しく頼むぞ。さて…そういえば、お前らはどうするのだ?」
一通りに指示を出すと、今度は未だに立ち尽くしているシリウス一同へ声を掛ける。
話を一部始終聞いていた一同は全身で恐怖を感じていた。
(これはヤバいよ。疲労回復のレベルを超えてる)
(あのバルジ隊長が悶絶して悲鳴をあげるくらいだ。真面に受けたら体がバラバラにされちまう)
(ユキには申し訳ないけど、ここで施術を受ける訳にはいかないわ)
話し合いをしなくてもお互いのアイコンタクトで意思疎通をすると、ボソボソと言葉を溢した。
「お、俺たちはそろそろ帰ろうかな」
「そ、そうだな。何だかすっげぇ眠くなってきたしな」
「そ、そうね。寝不足は健康の敵よ。早く戻りましょう」
「は?!ま、待て!命令だ!勝手に帰るな!!!」
血相をかいて叫ぶバルジにローレンスは近寄って耳打ちをして囁いた。
『おい…そんなことで職権乱用するな。シリウスの名が泣くぞ』
「ふ、ふざけるな。そう思うなら俺を救出していけ!!」
『何をいう。俺はな、お前に健康であって欲しいのだ。これもお前の為だ。甘んじて受けろ』
「き、貴様……俺に何か恨みでもあるのか!!」
『さて………どうかな。では…健闘を祈っているぞ』
「ま、まて……おい!!!」
側を離れ徐々に扉へ向かう姿に再び怒号を飛ばすと、そっとローレンスが振り返った。
みれば、顔には知的な皮肉を含んだ、抑制された笑みを浮かべ、たった一言だけ残した。
「精々……地獄を見るのだな。バルジ隊長」
「っ!!!」
意地の悪い言葉を残してローレンスはそのまま立ち去った。
(あいつ……アレはわざとだな。苦しんでいる戦友を置き去りにするとは、SDFの風上にも置けん。絶対にこの恨みは返すからな!!)
置き去りにされたバルジはふつふつと怒りが込み上げていく中、手にオイルを塗っているユキが再び声を掛けてきた。
「さてと。予想外の訪問で中断してしまいましたが、再開します」
「は?い、いや……もう充分だろ」
「いいえ。まだ半分ほど残っていますので、このまま続行しますね」
「は、半分?!」
(いや…待て。既に1時間耐えたのだぞ。これ以上は本当に……)
満面の笑みのユキから告げられた事実で顔面蒼白になると、そこを見ていたシリウス一同から声が掛かる。
「そ、それでは俺たちは失礼します!」
「まぁ!死にはしませんので安心して受けてくださいって」
「それではバルジ隊長、お休みなさい!」
「ま、まて……頼むから待ってくれ!!!」
その後、頼りのシリウス一同も逃げるように早々に退出した。
唖然として眺めていると、後方からユキがそっと首に触れて囁いた。
「(ゾクっ!)ゆ、ユキ……」
「では、これより施術を再開します。今度は首回りを念入りに行いますね」
「あ………ぁ……ま……まて………ゆ」
顔面蒼白のバルジからの制止の声を聞かずに、聖母のような笑みを溢しているユキは施術を再開させる。
グギっ!!!
「がぁあああああああああ!!!!」
「「「っ!!!」」」
恐怖に怯えるケフェウス一同が見守る中、メディカルルームには再び不滅のシリウスからの悲痛な叫びが響き渡った。
【おしまい】
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