フクロウの鳴く森で

  その森は深く広かった。

  特に多くのフクロウが暮らすといわれ、「フクロウの森」と呼ばれる森の一つとされている。

  他にも多くの生き物を宿す森だが、人が立ち入る事ができるのはほんの入口程度に過ぎない。

  しかし、その入口に様々なものを求めて集う者たちも少なくはない。

  ユウとマイの二人もそんな者達の一組であった。

  しっかりとしたアウトドアコスチュームに身を包み、最低限のキャンプ装備を背負いながら森を歩いている。

  幸か不幸か二人以外に山道を歩いているキャンパーはいないらしく、二人は穏やかな青空の元で静かな木々がたたずむ中を歩いている。

  「いい森だね」

  「うん、ハイキング気分で歩けるし雰囲気もいいよね。都会の喧噪から離れるには良い場所だよ」

  ユウは周囲を見回しながらマイの言葉に答える。

  そんなユウを見て、マイは少しだけ微笑んで頷いた後に言った。

  「そうだね。たまにはこういう場所でリフレッシュするのも良いかもね」

  マイの言葉を聞いて、ユウは嬉しそうに微笑みながら言った。

  「うん!すごく楽しいよ!」

  そんなユウの様子を見て、マイもまた笑顔で返すのだった。

  (それにしても本当に自然豊かだな)とユウは心の中で思いながら周囲を見回していた。

  時折見かける野生動物の気配や風に揺れる木々の音、そして陽の光と土の香り。

  全てが心地よく感じられるこの状況に改めて感動を覚えたのだ。

  (本当に来て良かったな……)と思いつつユウはマイに話しかける。

  「ねえ?マイ?」

  「ん?なに?」ユウの言葉に反応するようにマイは首を傾げるようにして彼女を見た。その仕草がとても可愛らしく見えてしまい思わずドキッとしたのだが、それを隠しながら言葉を続けることにした。

  (ああもう可愛いなあ!)と思いながらも平静を装って話を続けることにするのであった。

  「この森って本当に自然豊かだよね」

  そう言いながらユウは周囲を見回してみた。

  するとマイも同じように周りを見渡しているのが見えたので、彼女と目を合わせながら言葉を続けたのである。

  「それに動物も多いみたいだしさ!フクロウもたくさんいるし!」

  ユウの言葉に同意するようにマイもまた頷きながら口を開いたのだった。

  その反応を見て嬉しくなったユウは更に話を続けた。

  「うん!そうだよね。それにこの森って結構広いから奥の方に行くと滝もあるみたいだし……」

  そう言いながらマイの方を見ると彼女は微笑みながら言ったのである。

  (うう、マイってきれいすぎる……)

  そんな彼女の笑顔を見たユウは思わずドキッとしてしまったのだが、それを悟られないようにしながら言葉を続けた。

  そしてそんなユウの様子をマイはじっと見つめながらも、

  「でもすごく遠い場所にあるから行くのは難しいと思うけどね」

  と言うマイの言葉を聞きながらもユウは少し残念そうな表情を浮かべながら呟くように言う。

  「そうだね……いつか行ってみたいなぁ……」

  そんなユウの様子を見たマイは微笑みながら言った。

  「それじゃあ、いつか一緒に行こうよ!」その言葉にユウは少し驚きつつも笑顔で答えたのだった。

  (うん!絶対に行こう!!)と心の中で誓う。

  そして二人はその後も話をしながら森の奥深くへと進んでいく。

  その道中で二人は様々な生き物たちと出会いながら、時には触れ合いもしながら自然を満喫していく。

  「あっ!リスだ!!」

  そう言ってユウが指さす先にいたのは小さな生き物だった。

  そのリスは木の幹を上って木の実を食べており、時折こちらを見ながら首を傾げているように見えるのであった。

  そんな様子を見ている中でマイが口を開く。

  「可愛いね」

  と微笑みながら言った彼女に対して、ユウも頷きながら答えたのだった。

  「うん、そうだね!」

  と言いながら二人はそのリスの様子をずっと眺めていたのだが……やがてそのリスはどこかへ行ってしまい、ユウは残念そうな表情を浮かべていた。

  そんなユウの様子を見たマイが微笑みながら言った。

  「ふふ、ユウもあんな風に可愛い子を追いかけたい?」

  と聞いてきた彼女にユウは顔を赤らめながら答えたのである。

  「べっ別にそういう訳じゃないけど……ただちょっと気になっただけだよ!」

  そんなユウの言葉にマイはクスッと笑った後に言った。

  「そうだね。ユウもいつか好きな人が出来たら追いかけると思うかもね」と言い、再び歩き出すマイの後をユウは慌てて追い掛ける。

  (好きな人ができたらか……でも今はまだ恋とかよく分からないしなぁ)とか考えながら。

  「あっ、でもマイは好きな人とかいないの?」

  とユウが聞くとマイは少し照れくさそうにしながら答えた。

  「……うん。いるけど……まだ片思いかな……」

  と言った後に少し悲しげな表情を見せるマイにユウは慌ててフォローするように言う。

  「そっそうなんだ……でもきっとその恋も叶うよ!」

  と言って励まそうとするユウだったが、そんな様子を見たマイは少しだけ微笑んで言った。

  「ふふ、ありがとう」

  と言いながら微笑む彼女はとても美しかった。

  その笑顔を見たユウは思わず顔が赤くなるのを感じた。

  「あっ!あそこにフクロウがいるよ!」

  と、ユウは恥ずかしさを誤魔化すために話題を変えようとしたのだが、マイは特に気にする様子もなくその方向を見た。

  するとそこには数匹のフクロウが木の枝に止まっており、羽を広げていた。

  その姿はとても美しく、思わず見とれてしまうほどだった。

  そんな光景を見ながらふと隣にいるユウを見ると彼女もまた同じように見惚れているように見えた。

  そんな彼女を見てマイは微笑みながら言うのだった。

  「可愛いね」

  と言うとユウも笑顔で答える。

  「うん、そうだね」と言いながら二人はしばらくの間、そのフクロウたちを眺めていた。

  それからしばらく歩いた頃だろうか。

  辺りは夕暮れにさしかかりつつあった。

  「そろそろテントを張ろうか」

  とマイが切り出したので

  「うん、そうだね」

  とユウも賛同した。

  二人がテントを張り、簡単に夕食を済ませた頃にはもうすっかり日が暮れており、空には満天の星空が広がっていた。

  「わぁ……綺麗……!」

  マイは星空を見上げて感嘆の声を漏らした。

  そんな彼女につられてユウも夜空を見上げる。

  そこには無数の星が煌めいていた。

  その光景はとても幻想的で美しく、静けさそのものの森の木々に囲まれた風景はちょっとしたプラネタリウムである。

  二人はしばらくの間言葉を失ったまま見入っていた。

  それからしばらくしてマイが口を開く。

  「ふふ、こんな素敵な夜は初めてかもしれないね」

  と微笑みながら言った彼女に対して、ユウは大きく頷きながら言った。

  「うん、本当に綺麗だよね……」

  そう言って再び夜空を見上げる。

  「森も静かだしなんだかいいね」

  ユウがふと言葉をもらす。

  マイはその言葉に微笑んで答えた。

  「うん、そうだね」

  と言いながら彼女もまた夜空を見上げる。

  二人はしばらくの間黙って星空を眺めていたが、ふとユウが口を開く。

  「ねぇマイ、明日で帰らないといけないんだよね」

  ユウが唐突に言った言葉にマイは一瞬驚いたような表情を浮かべたがすぐに笑顔に戻った。

  そんな彼女を見てユウは言葉を続ける。

  「ああ、ごめんいきなり変なこと言っちゃって……でもさなんか寂しい感じがして……」

  と申し訳なさそうな表情を見せながら言うユウに対してマイは言った。

  「ううん、気にしないでいいよ。それに私も同じ気持ちだったから……」

  と言うと彼女は優しく微笑んだ後、再び夜空を見上げたのだった。

  そんな彼女の姿を見たユウは少し安心したような表情を見せた後に自分もまた同じように空を見上げる。

  (ああ……なんかいいなぁ)とユウは心の中で思った。

  (こうしてるとなんだか落ち着くな)

  とも思っていたが同時に少しドキドキしている自分に気づいたのである。

  マイもまた、

  (ああ、本当に綺麗だな)

  と思いながらも同時に胸の高鳴りを感じていた。

  「ユウ、もう少し森の奥まで歩いてみない?もっと星が見える場所があるかもしれないし」

  その声はどこか熱っぽさを感じさせるものでユウの心臓はドクンとなった。

  「えっ?ああ、うんいいけど……」

  と答える声も上ずっている気がしたが、ユウもまた何かを待ち望んでいたような様子で、

  「じ、じゃあ……前に言ってた「あれ」、やってみる?」

  その言葉にマイは一瞬驚いたような表情を見せる。

  「ユウ、まさかホントに「あれ」をするつもりだったの?」

  「えっ?う、うん、できればそうしたかったな、なんてね……」

  と戸惑いながらも答えるユウを見て、マイは少し苦笑しながら言った。

  「ふふ、いいよ。ただしちょっとだけだよ?」

  と悪戯っぽく微笑んでいるマイにユウは少し照れながら答えたのだった。

  「う……うん!わかってるよ!」

  そう言いあいながら二人は少し顔を赤らめながら並んでテントの中に入っていく。

  [newpage]

  薄暗いテントの中でランタンの灯りの消えた暗闇の中、互いに服を脱いでいく音だけが聞こえる。

  そして、二人は静かにテントを出て夜の森に現れる。

  星空の夜に、静かな森の中に生まれたままの姿になって。

  ただ一つ、二人の裸身を印象付けているものを身に着けて。

  それは色違いのフクロウを模したマスクだった。

  目元と口元だけが開いたそのマスクは二人の顔をすっぽりと覆い、どこか異様な印象も持たせる。

  しかし、それは同時に二人の裸身とその存在をより美しく際立たせているようにも見えた。

  それぞれに少し色やデザインの異なるマスクをつけた二人は互いに見つめ合った後静かに頷き合うと、森の奥へと歩き出す。

  木々の間から差し込む月明かりのみが彼女たちの行く道を照らしてくれる中、二人はゆっくりと森を進んでいく。

  時折聞こえてくるフクロウの鳴き声以外何も聞こえないその空間はまるで二人だけの世界であるかのようだった。

  木々を走り抜け、草むらをかき分け、小川を渡りながら二人は進んでいく。

  月明りと森の闇の中で鮮やかに浮かび上がり彩られる二人の裸身はどこか幻想的な存在を感じさせる。

  二人の素肌と肢体、そして顔を隠すフクロウマスクの組み合わせが二人を人であり人でないもののように見せているのだろうか。

  どちらにせよ彼女たちはその不思議な感覚に酔いしれながら歩み続けていた。

  そして、どれほどの時間がたっただろうか……。

  二人は森の最奥にある滝へとたどり着いた。

  その滝は木々に囲まれた中にありながらも水が激しく流れ落ちる音が聞こえてくることからも存在を感じさせるものだったが、周囲に生えている樹木によってその姿をほとんど隠されていたため近くまで来ないとその存在に気が付かなかっただろう。

  そんな滝の前にたどり着くと同時にユウは立ち止まった。

  「はあ……はあ……やっと着いたね……」

  息を切らせながらも満足そうな表情を浮かべているユウに対してマイは落ち着いた様子で答えた。

  「うん、そうだね……でも思ったより早く着いたと思うよ」

  そんな会話を交わしながら二人は滝を見上げた。

  滝の水しぶきが星空を反射してキラキラと輝いているその光景はとても神秘的なものであったが、同時にどこか恐ろしさも感じさせるものだった。

  そんな光景を前にしたユウは思わず息を呑んだまま固まってしまったが、先に口を開いたのはマイの方だった。

  「まさかここまで来るなんて……」

  と、マイは辺りを見回して感慨深そうな表情を見せると再びユウを見つめた後で微笑んだ。

  ユウもまたマイに笑みを浮かべ、

  「うん、マイと一緒に来ることができて本当によかった」

  と言った。

  「私もユウと一緒に来られてよかった」

  と、マイもそう言って笑みを返す。

  二人はしばらくの間その滝を見つめ、滝から流れ落ちてくる水の音を聞きながら静かに佇んでいた。

  二人の裸身は滝の水しぶきに濡れてキラキラ輝き、夜空に浮かぶ月の明かりと合わさって幻想的な光景を生み出している。

  そんな中、ユウがふと思い立つ。

  「もう少しこの周りを探検してみる?」

  と聞くとマイは微笑んで頷いた。

  そして二羽の「フクロウ」達は再び夜の森に羽ばたくと、滝の周りを散策する。

  まるで自分達の縄張りをゆくかの様に。

  森の中は静かだった。

  時折聞こえてくるフクロウの鳴き声もどこか遠くからのように感じられる。

  そんな静寂に包まれた空間を二人は歩き続けていた。

  互いの息遣いだけが聞こえる中、ただ黙々と歩みを進める。

  (なんだろう……この感じ……)

  ユウは不思議な感覚を抱いていた。

  (まるで夢の中にいるみたいだ)

  そんなことを考えながらも自然と足は動き続ける。

  (本当に不思議だな……)

  そう心の中で呟きながらも、どこか心地よさを感じていた。

  その隣りを歩くマイは、どこか楽しそうな表情を浮かべている。

  やはりと言うべきか、今ここにいるという実感がないのであった。まるで夢の中にいるかのようにも思えるほどに。

  (でも……悪くない)

  マイは心の中でつぶやいた。そして、彼女の隣にいるユウを見つめる。

  (かわいい……)

  フクロウマスクだけの全裸と言う姿越しに改めて彼女のことを見つめると、マイの胸は高鳴り始めた。

  (ああ……本当にユウってかわいいな)

  フクロウマスクに彩られたユウの顔立ちに目を向けつつそう思いながらも、彼女は平静を装いながら歩く。

  ユウも隣を行くマイの姿にふと見惚れる。

  (きれいだな……)

  フクロウマスクで顔を隠した事で、よりマイの姿が印象強く感じられる。

  (やっぱりマイはきれいだな)

  フクロウマスクに隠されていない口元や目元を見ると、ユウの心は一層高鳴り、いつの間にかドキドキが止まらなくなってくるのを感じた。

  そんな視線に気付いたのだろうか?マイは少し照れたように微笑んだ後、こっそり囁くように言ったのだ。

  「ユウ、どうかした?」

  その一言を聞いた瞬間、ユウの心臓は大きく跳ね上がったような錯覚を覚えた。

  そして顔が熱くなるのを抑えつつ少し早足で走り出す。

  「べ、別に何でもないよ!」

  と言うユウの後ろ姿を見て、マイは微笑みながら追いかける。

  「もう、待ってよー!」

  マイ自身の胸もまたいつも以上に高鳴っているのを感じつつ。

  そんな中二人はいつの間にか滝の裏側にたどり着いていた。

  そこは滝の轟音が反響し合い、まるで別世界のように感じられる空間であった。

  見通せばかすかに周りの木々が見え、見上げれば星空も覗ける。

  閉鎖的でありながらも不思議な解放感を感じさせるその光景はどこか神秘的であった。

  まるで今の二人の様に。

  その雰囲気に圧倒されながらもユウはマイに話しかける。

  「すごいね……こんな場所があるなんて……」

  するとマイも頷きながら答えた。

  「うん、そうだね……私も初めて来たよ……」

  そんな会話を交わしている間にも二人の体は自然と寄り添い合い、互いの肌の感触を直に感じるようになっていた。

  夜の闇が静かに佇む中、フクロウマスクを身に着けた二人の裸身はより神秘的に映る。

  夜空に浮かぶ月明りと星々の煌めき、そして滝の水気が二人を包み込み、その光景はまるで一枚の絵画のようだった。

  「綺麗……」と、思わず呟いたマイの言葉にユウも同意する。

  「うん……本当に綺麗だよね」

  それはこの風景への想いかそれとも……。

  それを推し量るすべはまだ二人の中にもない。

  しかし、その美しさに二人は心を奪われていることだけは確かだった。

  そして、そんな二人を見つめるフクロウ達の目もまた同じ様に美しい輝きを放っていた。

  「ねぇ……ユウ」とマイは囁くように言った。

  「うん?」とユウは答える。

  「私ね、この森に来て良かったと思ってるよ……」とマイは続けた。

  そんな彼女の目にはどこか切なげな感情が宿っているように見えた。

  「……わたしもそう思うよ」とユウは微笑みながら答えた。

  そんな会話を交わしながらも二人の視線はお互いを見つめ合っている。

  そしてどちらからともなく顔を近づけていき唇を重ね合わせる。

  フクロウマスクのくちばしの部分がうまく交差し、二人の唇がそっと触れ合う。

  ちゅ……っと軽い音が響く中、二人は目を閉じて相手の体温を感じていた。

  「……私ね」とマイはさらに語り始める。

  「私ね、あなたに出会えて本当に良かったと思っているんだ……」

  その言葉を聞いているユウの瞳にも涙が浮かんでいた。そんな彼女を見てマイの目にもまた涙が浮かぶ。

  「わたしもだよ……」と、ユウは震える声で言った後、再びマイの唇を奪った。

  今度はより深く、長く。そして互いの存在を確かめるかのように強く抱きしめ合った。

  そんな二人の様子をフクロウ達も静かに見守っていた。

  二人の縁が永遠に続くことを願っているかのように、ただ黙って見つめ続けるだけであった。

  そんな瞳に見守られながら、二人は互いの温もりに包まれながら静かに眠りにつく。

  それだけで、それだけで今の二人には十分だった……。

  [newpage]

  長い夜が明け、森に少しずつ朝の空気が入り込んでくる。

  うっすらと朝の光が染み込んでくる中、目を覚ましたマイは隣にいるユウを見た。

  彼女はまだ眠っているようだったがフクロウマスク越しにうかがえるその表情は穏やかだった。

  (良かった……)と心の中で安堵しながら彼女の寝顔を見つめる。

  そして同時に昨夜の出来事を思い出していた。

  (本当に夢のような一夜だったな)

  そう思いながらそっと彼女の頬を撫でてみる。

  するとユウは少し身じろぎをした後、ゆっくりと目を開けた。

  その瞳はまだ眠たげな様子であったが、同時に何か言いたげな視線をこちらに向けてくる。

  マイはその眼差しに応えるかのように彼女に顔を近づける。

  「おはよう」と声をかけるとユウはゆっくりとした口調で答えた。

  「うん……おはよう……」そしてその瞳は再びじっとこちらを見据えている。

  まるで何か問いかけてきているかのような視線だと感じたが、マイにはその意図までは読み取れなかった。

  そんな疑問を頭の片隅に置きながらもマイは語りかけた。

  「昨日は楽しかったね」するとユウは笑顔でうなずきながら答える。

  「ええ、本当に夢のような一夜だった……」

  マイもしみじみとした顔をフクロウマスク越しに浮かべる。

  でも、夢じゃない事はこの場所が教えてくれている。

  自分達の姿が教えてくれる。

  そんな気持ちの中、二人は滝の裏側を抜け、外に出る。

  二人の目に入った風景はまさに絶景だった。

  「わぁ……すごい……」とユウは呟く。

  「本当にね」とマイも同意するように答えた。

  そんな二人の目の前に広がる光景は、まるで絵画のように美しいものであった。

  森の空気が夜から徐々に朝へと変わっていく中、滝の音だけが響き渡り、その水飛沫が日の出によって煌めく様子はまるで宝石のように輝いているようにも見える。

  森の木々も朝日によって照らされ、その濃緑の色がより鮮明に見えてくる。

  二人が腰を下ろした木の根元や地面はしっとりと湿っており、生命の息吹を感じさせるものだ。

  そんな自然の豊かさを改めて実感させてくれる風景を前に二人は言葉を交わすことなく、ただただ目の前の景色を眺めていた。

  しばしののち、ようやく一息ついたのかマイはふとユウの方へ顔を向けて微笑み、言う。

  「本当に素敵な場所ね……私達がこの景色を見られるなんて夢みたいだよ」

  それに対してユウは微笑みながら答えた。

  「そうだね……でもわたし達はここに来られたし、何より今こうしている事もすごく嬉しい……」

  そんな会話を交わしながら二人はそっと手を繋ぎ合った。

  互いの温もりを感じながらも二人の心の中には少しの恥ずかしさ、そしてそれ以上の幸福感が満ちていた。

  「ねぇユウ……こうして二人で朝を迎えるのって初めてだよね?」と、ふと思い出したようにマイは呟いた。

  その言葉にユウも頷きながら答える。「うん、そうだね……それにこんなふうに二人だけの時間を過ごすことも無かったから……」

  二人の視線は再び絡み合う。その瞳には相手に対する深い想いが宿っていた。

  いつしか二人は向かい合うとそっと互いのフクロウマスクに手をかける。

  「マイ……いくよ?」

  ユウの言葉にマイは微笑みながら答える。

  「うん、いいよ。ユウは?」

  マイもあえて確認をとる。

  「もちろんオッケーだよ。マイ」

  そして二人は同時にフクロウマスクを外した。

  一晩ぶりに二人の素顔が解き放たれる。

  ユウはマイの素顔を見て思わず息を飲んだ。

  (なんてきれいなんだろう……)と心の中で呟く。

  一方、マイも同じく目の前の相手の顔に見入ってしまう。

  (なんてかわいいんだろう……)と心の中で呟いた。

  どちらも見慣れたはずの顔なのに、なぜかいつも以上に見入ってしまう。

  その理由は、やはり森の雰囲気のせいなのだろうか?それともあの一夜のせいだろうか?

  そんな二人の視線は再び絡み合うと自然と距離が縮まっていく。

  互いの息遣いが感じられるほどの距離にまで近づくと二人は自然と目を閉じていった。

  そして、今度こそ一糸まとわぬ二人の唇が重なっていく。

  それはとても優しい口づけだった。それでいて相手の存在を確かめ合うようにしっかりと結びつく口づけ。

  いつしか二人の裸身は登ってきた朝日に浮かび上がる。

  その景色はまさに神秘的という言葉がふさわしかった。

  長い口づけの後、二人はそっと唇を離した。そして互いの顔を見合わせながら微笑む。

  「マイ……」ユウは彼女の名を呼ぶと、そっと抱きしめた。

  「ユウ……」彼女はそんなユウを抱きしめ返す。

  互いの温もりを感じあいながらしばしののち、そっと抱擁を解いてから再び見つめ合う。

  マイは少し照れた様子で微笑み、ユウはそんな彼女を見て微笑み返した。

  そして―。

  「帰ろっか?」

  ユウが少し恥ずかしげな笑みを浮かべる。

  マイも軽く照れた笑顔で、

  「うん、そうだね」と頷いた。

  二人は手を繋いで帰路につく。

  被っていたフクロウマスクを片手に握り、もう片方の手はしっかりと握られて。

  朝の空気に満ちた森の中を着た時と同じように生まれたままの姿で歩く。

  「ねぇ、ユウ?」とマイは尋ねる。

  「うん?何?」

  「私達って今どんな風に見えるかな?」と少しいたずらっぽい笑みを浮かべながら言う。

  ユウはその質問に思わず吹き出す。

  「あははっ!それはちょっと恥ずかしいかも!」と言いながらもどこか楽しげである。

  そんなユウの笑顔を見てマイも笑うのだった。

  (やっぱりかわいい……)

  と心の中で思いながら。

  マイの笑顔を見てユウもまた、

  (やっぱりきれいだ……)

  と思っていた。

  二人は手を繋ぎながら森の中を歩いていく。

  (このままずっと歩き続けても……いいかも?)

  という思いをそれぞれに抱きつつ。

  しかし、いずれ二人はテントにたどり着く。

  二人はその裸身と心に高まった思いを衣服にしまい、来た時と同じように穏やかに語らいながら森を後にする。

  ただその足取りは、来た時よりも軽やかだった。

  「マイ、また来ようね?」

  「ユウ、いつ来る?」

  「さあ……いつにする?」

  「いつにしようか……」

  了