とあるスタジアム。
そのチームは設立以来初の大一番に臨んていた。
チームの士気は高く、力量も歴代屈指と言えるだろう。
しかし、かのチームには対戦チームに対して圧倒的なハンデキャップが存在していた。
それは対戦チームの応援席。
鮮やかな衣装に身を包んだいずれもスタイル、顔立ちともに一級な女性達。
彼女達は対戦チームが誇るチアリーダー達。
その高いレベルのチアリーディングはチーム常勝の活力の一つとなっている。
それこそが対戦チームに対するそのチームの最大のマイナスポイントだった。
要するにそのチームにはまともな応援団を抱えていない。
それもまたそのチームが設立以来初の大一番と言える要因と言える。
対戦相手のチアリーダー達は既に応援席で試合前のチアリードを行い空気を盛り上げている。
その動きは皮肉にもそのチーム側の応援席の視線さえ集めていた。
まさに「勝負は始まる前に決まっている」の理論をモチベーションの面から示す様な状況である。
しかし、そのチームのメンバーはまだ知らない。
彼らの上にいる中にこの時の為に頼んだ「切り札」がこの場に来ていると言う事に。
そのチームの観客席の一角、なぜか「予約席」看板とラインの引かれていた区画にのいつの間にかどこか異様な集団が現れていた。
全身をすっぽり覆うケープのようなものを羽織ったその一団はそそくさと、かつ乱れぬ動きでその区画に入り、それぞれの位置に立つ。
そして、その一団のリーダーらしい女性の声がその中から響いた瞬間、一団はケープの襟元に手を置き一気に引き下ろした。
はらりとケープが落ちた中から現れたのは目も鮮やかな女性達の姿だった。
純白の白地にそのチームのイメージカラーをあしらった色合いのハイネック&レッグ風の衣装。
スラリとした足元は素足でこそないがこれも白い下地とイメージカラーを巧みに取り入れたタイツが引き締める。
足元のシューズや両手の小さな手袋などのワンポイントもさる事ながら最大の特徴は―その顔だった。
卵のような頭―早い話彼女達は皆スキンヘッドなのだ。
いや、正確には全員ぴっちりとしたマスクを頭からかぶっている。
その顔にはアイマスクの様にそのチームのマークが描かれ、その中で目と口元がまるで直接マスクに浮かんでいる様にのぞいている。
そしてそのマスクは顔だけでなく首筋から肩、腕、そして足まで伸びている。
いや、性格に言えば彼女達の「素肌」は全身がぴっちりとしたスーツに覆われているのだ。
タイツ、ラバースーツ、スパンデックス……素材はわからないがとにかく足元から頭の先までほぼ一体化された白いスーツにぴっちりと覆われている。
そしてその肢体をそのチームのイメージカラーに彩られたハイネック&レッグに包んでいるのだ。
色合いを除けば古い特撮ものの戦闘員の女性版とも言えるようなその姿は異様でありながらもどこか官能的である。
ようやくその姿を目に取った両サイドの観客席もにわかにざわめき立つ中、試合開始を告げるアナウンスが場内に響き渡る。
「ヤァ!」
「ハイッ!」「ハイッ!「ハイッ!」
それと同時に異様な集団の中でリーダーらしき人物の声の声が響くと一同がかけ声と共に両腕を左右にまっすぐ広げる。
その途端、彼女達の両腕は一瞬にして色鮮やかなポンポンに包まれる。
そこから彼女達は一糸乱れぬ動きでかけ声を上げるとポンポンを振りながらダンスを踊り始めた。
そのマスク越しにはつらつとした笑顔と鮮やかな動きで腕を振るい、軽やかな足取りでステップを踏みキックを決める。
彼女達の腕の中でポンポンが独自の命を宿したかのように動き、それらが一つに重なれば一個の動物のように動く。
足を上げ、腕を広げ、ターンの後見せた背中から腰をたくみに揺らし、切れの良いダンスを見せながらそのチームを応援する。
スーツで引き締められる事でかえって強調される胸を大きく震わせる者。
余分な装飾がない分より印象深く現れる腕や足をふるい大きく蹴り上げたり腕を振り下ろしつつアピールする者。
高らかなジャンプや切れのいいターンなど細やかな中にあふれる魅力を振りまく者。
姿こそ異様だが彼女達の動きは活動的でかつ魅力的、まさに魅せられずにはいられない。
しかし、それに触発されてか対戦チームのチアリーダー達も自分達のチアリーディングを始め、自分達のチームの応援に入る。
全身を生地に包み込んだ異様なチアリーダーからすればごく当たり前のチアリーダー達だが、その動きは決して負けてはいない。
「ハァッ!」
「ヤァッ!」「ヤァッ!」「ヤァッ!」
そして試合半ば、それぞれのパフォーマンスはさらに広がりを魅せる。
特に異様なチアリーダー達のそれはまさに超絶と言えた。
ただでさえ顔までぴっちりとした素材に包んだ姿をした異様な一団。
それが見事なフォーメーションを組みながら高らかに両脚を上げてジャンプしたり、ターンとステップを重ねてみたり、チアバトン等を使った演武的な動きをしてみたり。
中でもスタンドを組んでのリフトアップから文字通り幾度となく宙を舞い飛び上がったメンバーが宙を舞いながらスピンしつつ別のリフトに着地する姿は多くの観客の目を釘付けにした。
その動きはチアダンスでもありアクロバティックなアクションステージでもある。
それでいてここまでの派手な動きにも関わらずみな笑顔を絶やしてはいない。
作られた笑顔ではなく本当の―チアリーダーならではの笑顔を。
試合結果は両チームとも見事な健闘を貫き、良い結果を残した。
「ハイッ!」
「ハイッ!」「ハイッ!」「ハイッ!」
そしてこの異様なチアリーダー達もまた異様でありながら美しい姿を人々の目と心に焼き付けつつ会場を去って行った……。
[newpage]
昼下がりのオフィス街。
多くのビジネスマン達が昼休みの一時を過ごしている。
そんな中、一台の許可証付きトラックがその一角の広場に止まる。
何事かと行き交う人たちの前でトラックのコンテナが静かに開く。
その中に立っていたのはあの顔までぴっちりしたユニフォームを身に着けたチアリーダーの一団だった。
彼女達は白い全身スーツに薄い青色のビジネススーツをアレンジしたカラーのセパレートをまとい、ポンポンを両手にコンテナの中、そして広場に展開する。
その姿に昼休み時の一角が賑わいに包まれる。
「ハイッ!」
「ヤァッ!」「ヤァッ!」「ヤァッ!」
軽やかに足を踏み手を回し、時に力強く腕を振り大きく足を蹴り上げるチアダンスに喝采が響く。
なかにはその動きに合わせて踊っているビジネスマンやビジネスレディーもいる。
ダイナミックなリフトからのジャンプで地上からコンテナの中ヘ、コンテナからのダイビングを地上でリフトキャッチしてのポーズに歓声が湧く。
ステップやターンと言った足さばきやバトンやポンポンを巧みに使いこなしてのチアリーディングは鋭くも華やか。
全身スーツにぴっちりと覆い隠されて彼女達の素顔、そして細かいパーツが見えない分よりその多彩でかつ魅力的な体のライン、それが描く様々なチアパフォーマンスが引き出されている。
「ハァ!」
「ハァ!」「ハァ!」「ハァ!」
人の、女性の形をした何かでありながらもその動きは人の、女性の持つ生き生きとした動きと活力を感じさせる。
彼女達のチアアクションと笑顔は行き交うビジネスマンだけではなく広場で昼食を販売しているランチカーのスタッフ等にも振る舞われていた。
まさにここにいる人すべてをチアする様に彼女達のチアリーディングが広がっていく。
そして、多くのギャラリーを虜にしながら異様なチアリーダー達は再びコンテナの中に戻る。
列を組みポンポンを振り続ける彼女達を隠す様にコンテナが下りると、トラックは昼下がりの街の中に消えていった……。
近年良くも悪しくも認知度と賑わいを高める年に一度の秋のイベント。
今年も多くの人達が思い思いの仮装をして町を練り歩いている。
そんな中、顔まで全身真っ黒―正確には紺色のスーツに蛍光素材らしい骸骨の模様を描いた女性らしき一団が現れる。
彼女達は練り歩く人達の合間を縫い、道を作るような形で列を組みながら少しおどろおどろしい動きで手にしたペンライトを降る。
「ハァッ!」
「ハァッ!」「ハァッ!」「ハァッ!」
時に腕全体で大きく振り回し、時には手首を軽く振ってアピールする。
その形のいい足をわざとがに股みたいに広げて足踏みしたり、ドカドカと前後左右に動いたり。
紺色の全身スーツが夜の闇に隠れて浮かび上がる骸骨の姿もありその動きはあまりにもおどろおどろしい。
しかし、その一団の動きにより参加者達はほとんど乱れる事なく練り歩きを楽しみ、さらに祭りのムードを盛り上げる事ができた。
そしてその骸骨女の一団―異様なチアリーダー達は祭が終わり人々が解散するまで参加者達を安全に盛り上げていた。
そして、祭りが終わると共に彼女達は静かに姿を消していた……。
日付が変わって間もないとある港湾倉庫。
本来なら人気などほぼ皆無のその場所でつい先程捕物があった。
捜査陣が長きに渡り追い続けていたとある密売組織がついに摘発されたのだ。
特に定年を数分後に控えたこのベテラン刑事の感慨はひとしおだろう。
残り短い刑事人生をかけた捜査をこうして最良の形で幕を下ろせたのだ。
感無量と言うだけではない何かが間違いなくそこにある。
事後処理をあらかた終えた部下達のねぎらいを受けながら刑事は乗ってきたパトカーに向かう。
しかし、そこにいたのは……。
頭まで紺色の全身スーツをまとい、それ故に引き出される体型を着物を思わせる衣装であえて覆い隠した女性の一団であった。
さすがに刑事達に緊張が走るが、彼女達はその手に持っていたペンライトを掲げ、ゆったりと大きく降り始める。
ペンライトの道の内側では膝を立てた女性達が静かに手にしたポンポンを小さく振る。
「……」
「……」「……」「……」
普段の彼女達の様に高らかで朗らかな声こそ上げないがそれが逆に存在感を増す。
それは長きに渡り職務を勤め上げ定年の瞬間まで仕事と向き合い続けたベテラン刑事への敬意であり、仕事の責務からひとまず解放され新たな日々を送る彼へのエールでもあった。
派手な動きこそ無いものもそのチアリーディングには静かなる力強さ、人の持つ何かを揺さぶるものがあった。
異様すぎるサプライズに驚きながらもベテラン刑事は部下達とともにその光の道に導かれ車に乗り去って行った。
彼女達の敬礼と時計が日付の変わる針を指すのに見送られながら……。
その素顔を覆い隠しながらある時は依頼を受け、またある時は完全なサプライズで。
神出鬼没の応援活動を行う謎のチアリーダー達。
その正体は何故か不明であるが、彼女達が優秀なチアであり、多くの人達に活力を与えている事は確かである。
そして、彼女達はまた別の「応援」をしている事はまた別の意味で謎に包まれている……。
[newpage]
チアリーダー達がおどろおどろしくも鮮やかなチアを見せていたころ。
秋祭りの行列から溢れ、不心得な行為に走る者達がいた。
祭りの解放感か、仮装による背徳感の希薄によるものか。
決して祭りや酒の勢いだけでは済まない狼藉が行われている。
喧嘩騒ぎや器物破損。
はては止めてあった車まで壊す始末。
しかもそれを面白がるギャラリーまでいるだけに始末が悪い。
これもまた祭りの暗部と言えるのか。
だが、今回は少々状況が違う様だ……。
乱痴気騒ぎで盛り上がる中にいつの間にか光る骸骨の群れが混じっている。
騒ぎに浮かれる輩は気づかない、あるいは余興の一つとしか見ていない様だ。
骸骨の一団は遮られる事なく騒ぎの中に紛れ込み、定位置についた。
そして……。
「ヤァッ!」
「ハイッ!」「ハイッ!」「ハイッ!」
リーダー格の声と共に骸骨達は一糸乱れぬ掛け声を上げ、不心得者達を取り押さえる。
ポンポンを持った手で不埒物の手を取るとターンの動きで地に付させ後ろ手に縛り付ける。
逆上した別の不埒物がその辺にある物を拾って殴りかかるのをチア的なステップと手捌きでかわしつつ見事な蹴り上げでダウンさせる。
不意にチアリーダーの一人が後ろから取り押さえられる。
チアスーツ越しに女体の触れ心地が不埒者に自分の優勢を感じさせた。
人質を取られたような形になり、チアリーダー達の動きが一瞬止まる。
勝ちを見越した不埒者。
これもイベントの一つとして浮かれる歓声。
このままチアリーダー達はその素顔と素肌を無残にさらすー事なくいきなりポーズを取る。
「ハァッ!」
「ハッ!」「ハッ!」「ハッ!」
その瞬間、抑え込んでいた不埒者が宙に浮かぶ。
正確にはいつの間にか更に背後に寄っていたチア達にリフトされたのだ。
さらに抑え込まれていたチアがしなやかな動きで不埒者の腕をすり抜け、あん馬の要領で不埒者の両肩をつかんで見事な開脚倒立を決める。
それこそ全ては彼女達の演出だったと言わんばかりにリフトはほどかれ、不埒者は真下にいたチアからその臀部に膝蹴りを受けて失神。
寸前で飛び上がったチアは改めてリフトにキャッチされポーズを決める。
「ハイッ!」「ハイッ!」「ハイッ!」
そのリフトを組んでいたチア達が型やナイフで切りつけられ、片やガラス瓶で殴られるが彼女達の体には傷一つつかず、
逆に凶器が彼女達の「柔肌」に受け止められる始末。
反撃とばかりにリフトを解除したチア達がチームを組んで取り出したバトンやスティックポンポンを駆使して凶器を払い落とすとそのまま抑え込む。
「ヤァーッ!」
「ハァ!」「ハァ!」「ハァ!」
こうして不埒者の一団は取り押さえられるが気がつけば彼らに喝采を送っていたギャラリーもいつの間にかスズランテープの網に覆われており、知らせを受けて確保に来た警官達に厳しいお説教を食らう羽目になる。
そしてチア達は何事もない様にパレード整理をしている他のチア達と合流していた……。
こう言う話はけっして珍しくはない。
彼女達が試合でチアをしている時は観客席のスリ・置き引きがなぜか縛られる事が多く、駅前でチアをすればスリや痴漢(言うまでもなくえん罪対策も万全である)、はてはコンビニ強盗が。
さらにはあるベテラン刑事の最後の花道において、捕物のドサクサに紛れて逃げおおせようとした者達がなぜか縛られているのが確認されている。
神出鬼没、正体不明のチアグループ。
ただ確かなのは彼女達はまたどこかでみんなの「応援」をする為、あの顔まで隠した全身チアスーツ姿に包まれ引き締められた姿を翻して飛び回る、それだけである―。
了