Ad
約四年前。
望、立、純可、恵奈の四人と出会って約一年。秋信は毎日猫の姿になり、公園で四人と会うようになっていた。会う度に四人のことを知っていき、秋信自身、四人と会うのが一つの楽しみになっていた。
公園に着くと、恵奈が大泣きしていた。どうやら、怖い夢を見てしまったらしい。秋信は他三人と一緒に恵奈が落ち着けるように側にいた。
「よしよし、大丈夫だよ。お姉ちゃん達がいるからね」
「う、ん……」
やはり、恵奈が一番安心できるのは、姉の純可のもとなのだろう。全てではないが、お互いを理解し合っているのだと。その努力を互いに自然としているのだと見て分かった。この一年で秋信は知った。
「そういえば……」
「立、どうしたの?」
「いや……俺も今日、悪夢見たなって……」
「あ、じつは私も……」
恵奈以外の二人も、悪夢を見ていると聞き、秋信は驚いた。望は何も言わなかったが、恐らく同じく悪夢を見ているのだろう。疑問に思っていると、四人から、猫の妖怪の妖力が大量に使われた痕跡があることを、秋信は一気に感じ取った。
(あ……これ……僕のせいだ……)
その日秋信は、すぐに自分の家へと帰った。
[newpage]
(どうして……父さんと母さんは何ともなかったのに……)
四人が見た悪夢は、ただの悪夢ではない。しかも同じ妖力が使われていた。秋信は必死に四人の身に何が起こったのか、それをした者は誰なのかを考えていた。
「私が彼等に術をかけたからだ」
突如、謎の声が秋信の脳裏に響く。何故か、声を発することさえできない。
「知っていたか?君が仲良くしている人間。立、純可、恵奈は、以前に他の猫の妖怪とも面識がある。望という者は、君以外の猫の妖怪には出会ったことはないが……私は昔から、正体を知らずに猫の妖怪と長く接した人間に、その妖怪の過去を夢に見せるようにしていた。だから君の過去を四人に見せようとしたんだ」
(!?)
「しかし、せっかくならと、以前別の妖怪に会ったことのある三人には、その妖怪達の過去を見せることにした。そして望には、君の過去を見せた。私の推測通り、四人は無事に選ばれた」
先程から意味のわからないことを言う謎の声に、秋信は苛立ちを感じていた。
「安心しなさい。彼等の命は脅かされない。ただ……」
そこで、謎の声は消えた。
[newpage]
それから秋信は、一ヶ月近く、四人のもとへは行かず、ひたすら術を解く方法を探ったが、わかったのは術をかけた者ですら解けないということだった。せめてこれ以上自分のせいで危険な目にあわせたくないと考えた秋信は、ある決断をした。それを実行するため、四人のもとへと向かった。それは、もう二度と関わらないため、自分の記憶を四人から消すことだった。気づかれないように、少し離れた所から自身の記憶を消す術をかけて行った。そして残すは望一人となっていた。
その頃、望はアキを探していた。
「……アキ、どこ行っちゃったの……寂しい……寂しいよ……」
毎日皆でアキを探し続けたが、全く見つからない。もう会えないかもしれないという不安と悲しみに、望は押しつぶされていた。
(?アキ……?)
薄茶色の猫、アキが望の視界に映る。どんどん頭からアキの記憶が消えていくというのが嫌でもわかった。
「!?アキ!!嫌だ!!ねぇ、待ってよ……何もわからず、離れ離れなんて……寂しいよ!!」
望は泣きながら叫ぶが、その訴えはは届かなかった。
四人のから自分の記憶を完全に消したことを確認した秋信は、泣きながら家へと戻った。そして、秋信が四人と仲が良いことを知っているクロとキジ猫の記憶からも、その記憶を消した。
「……ごめんね……ありがとう……楽しかった……皆のこと、大好きだよ……」
秋信は自身の記憶からも彼等を消すことにし、彼等との思い出を一枚の紙に注ぎ込む。次起きた時には忘れている。意識が無くなる前に、急いでその紙を庭にある木の下に埋めると、秋信は意識を失った。秋信の術は成功し、目が覚めた時には四人と過ごした記憶は、消えてなくなっていた。
[newpage]
「……これが、全てだよ……僕が皆から記憶を消した。当時はそれが最適だと思っていたんだ。あれ以上関わっていたら、どうなるか僕でもわからなかったし……怖かったんだ。あのまま関わり続けていたら、僕のせいで皆を本当に危険な目にあわせてしまうんじゃないかって……ごめんなさい……でも、僕と出会ったせいで、君達は……だから……」
「また出会えてよかった。僕達のこと心配してくれてありがとう。でも、大丈夫だよ」
秋信が言い切る前に、望はそう言葉を発した。それに三人も頷く。
「忘れちゃってたの、本当に悔しいし、悲しかったですけど……ずっと何かが欠けてるって思ってたんです……だから、思い出せて本当に良かった。私達のこと想ってくれてありがとう!」
恵奈は少し泣きながらも笑顔で、そう伝えた。
「……あの頃よく皆で遊んだ公園が、私を導いてくれたのかな?あそこに寄らなければ私はクロくんとは出会わなくて、クロくんに出会わなければ此処に来れなかった……また会えて本当に良かった。ありがとう」
純可は目を一度閉じると、ゆっくりとそう言葉を発し、微笑む。
「……責めないの?嫌わないの?」
何故、感謝を告げられているかわからず、秋信は思わずそう訊く。
「俺達を守るためだったんだろ?責めないし、嫌うはずない。これから先も嫌うことはない。だって、秋信さんはあの日初めて会った日から、俺達の大切な友達なんだからさ」
立は秋信が何故そう思ったのかわからないといった様子を見せ、笑顔でそう言った。
「アキ、いや秋信さん。信じてくれて、そこまで僕達のことを想ってくれて、ありがとう。皆して何年も忘れてしまっていたけど……あの日の思い出は宝物だよ。それにこうしてまた皆と一緒にいれて、改めて思ったんだ。皆一緒だと、温かくて幸せだって。だからこれからも、一緒にいたい」
皆の言葉を聞き終えた途端、秋信の目から涙が溢れ出た。
「……ありがとう、皆……僕を思い出してくれて……僕にもう一度出会ってくれて……僕を嫌わないでくれて……僕と一緒にいたいと言ってくれて……本当にありがとう……」
次々と皆への想いが溢れ出て、秋信の口からは気づけばそれらを声に出してした。それを聞いた皆は、顔をほころばせた。
[newpage]
その後、秋信は四人とクロとキジ猫と共に、山にある花畑へと移動した。秋の花が咲き誇っており、夕日に照らされていてとても綺麗だ。
「綺麗!」
「すごい……」
「こんな綺麗な景色、初めて見たな」
「うん。この山にこんな綺麗な花畑があるなんて知らなかった」
恵奈、純可、立、望は次々に言葉を発する。四人が喜んでくれているとわかり、秋信は安堵する。
「僕のお気に入りの場所だよ。ここで、はっきりと言わなくちゃと思ってね」
秋信がそう言うと、四人は秋信に視線をやった。
(秋信がんばれ!)
(大丈夫よ)
クロとキジは、心の中で秋信を応援している。
「……僕、もうあの時みたいに逃げないよ。側にいて守りたい。一緒にいたいし、僕も皆からもらった温かさを皆に与えたいから。そう思うくらいには皆のことを、大切な友達だと思ってるよ。だから……これからもよろしくね」
少し恥ずかしそうに秋信はそう言う。四人はもちろんと声を揃えて言った。
「あなたにとって、多くの人間は恐ろしい存在という認識。それは消えないかもしれません。けれど、きっといつか私達以外にも、あなたが心を許せるような、温かい心を持った人間に出会えると、私は信じています。だからどうか、何事においても、諦めず生きてください。これが、母の願いです」
温かさに包まれながら、秋信は母が生前秋信に言った言葉を、再び思い出したのだった。
Ad