004-014
再びジゾンが闘技場へ戻った時の取り巻きの多さを見て、ダインはジゾンの思惑が上手く行った事を確信していた。
協定戦の開始までは後四半刻(15分)へ迫りギリギリのタイミングでは有ったが、ツェーリア国の新国王が登場した事は、闘技場に詰め掛けた民衆を大きく興奮させていた。
そう、王都の民衆は歴史的な瞬間に立ち合おうと闘技場に詰め掛けており、現体制の人間は完全な悪役として憎悪の視線を浴びている。
ツェリ思考 『ジゾン王子はツェーリアを良くしようと眠れぬ程悩んでいた人なんですけど、とても哀れです』
そんなツェリの哀しげな表情を見てダインが言葉を掛ける、現状ツェーリア側のマギガントには騎士が登場しておらず、通信盤を盗み聞される心配もない。
ダイン 「ツェリが気に病む必要は有りませんよ、ジゾン王の意図は読み解いたつもりですから、そして私も彼を罰するつもりは有りません」
ツェリ 「ジゾン王?王子ですよね」
ダイン 「いえ、今は王位を継いだ様です、彼は私を試す様に一計を案じたんですよ、ジアガムを王位から遠ざけてユーマがやり易い様に」
フェカト 「はい、フェカトが思う以上に出来た人でした、王のみが罪を受けるという状況を作り出して王位を手に入れたんですよ、よくダイン様を信用出来ましたね」
ダイン 「テガスの状況が評価されたんでしょうね、元々ポロルグの工房兼訓練場として栄えてましたが、今の勢いは私すら驚く程ですから」
ツェリ 「ツェリがダイン様を頼ったのもそれでしたから、テガスの急激な繁栄は聞き及んでいましたから、でも、今はあの時以上ですからね」
フェカト 「人類圏の至る所からゾッフォが送られてますからね、特に三機送って二機が改修されるというのが良かったんですよ、運河船は三機のマギガントを輸送出来ますからね」
ダイン 「運河の大きさから運用出来る船の最大値がマギガント三機ですから、一機を代金として改修を依頼するにしても一隻の船で賄える訳です」
ファービ 「また話がズレてますけど、でも停泊池を増やしても直ぐに船で埋まっちゃうんですよ」
フェカト 「スカイベアーはその解消の為でもありますよね、人類圏の末端の国でも二日も有れば往復出来ますから」
ダイン 「マギガントは儲かる産業ですが、重視すべきは穀物保有量です、穀物さえ有れば国民が飢える事も有りませんし、食生活が豊かになります」
ツェリ 「確かに穀物の粥は美味しいですからね」
ダイン 「ツェーリアは私が思う以上に貧しい様ですね、私は家畜の餌としての穀物の事を言っていたんですが」
フェカト 「え、穀物で家畜を育てるんですか、そんな事しても無駄だと思います」
ダイン 「穀物肥育は肉質が良くなって美味しくなるんですよ、成長も早くなるからエグみも少なくなって良質な肉を作るには必要な事なんです」
ニア 「でも、野生にも美味しい獣や鳥はいるにゃ」
ダイン 「取り過ぎると絶滅したりしますからね、人間が食べたせいで絶滅した種は思ったよりも多そうですし」
フェカト 「ですが、さすが遊魔ですよ、戦いを前にして後の産業について話してるなんて」
ダイン 「それだけ不安を感じていないという事です、ツェリの腕前は私以上ですから」
ファービ 「剣と剣のまともな戦いならそうですよね、ダイン様は型に嵌っていませんから、何をするのか解らないんですよ」
ダイン 「基本的に飛び道具が好きですからね、スカイベアー用の主砲も開発予定ですが、人類圏では使えませんね、あくまで混沌探索用になるでしょう」
ファービ 「その方が良さそうですね、銃の類はこの世界では異質でしょうから、でも魔術は普通に有りますよね」
ダイン 「そういえば、マギガントで魔術を使うのは可能なんでしょうか聞いた事有りませんが」
フェカト 「魔導と魔術は干渉しますからね、マギガントって魔力の流れで操ってる魔導具ですから、同時に魔術は使えないんですよ、重魔鋼とか使うのは魔導に当たりますから重魔鋼武器は使えますけど」
ダイン 「マギガントで魔術が使えれば、魔術士は無敵でしょうからね」
フェカト 「ポロルグは魔導の国ですからね、魔術士って余りいないんですよ、だから転移門使える魔術士を招聘したらルーフィンだったんです」
ダイン 「そういえばクガトは魔術士の家柄だと言っていましたね」
フェカト 「ルーフィンをクガトから来た者だとは思っていませんでしたけど、大体クガトがポロルグ助ける理由何て有りませんから、でもルーフィンにはクガトよりも同種の人間が重要だった様です」
ダイン 「ならクガトで召喚すれば良かったのでは」
フェカト 「転移門の魔術を使うには土地の魔力が重要な様です、クガトの地ではルーフィン達が呼ばれたせいで転移魔術用の魔力が消失していた様で、リエルに対抗する為の異世界人を求めていたポロルグを利用した様です」
ダイン 「魔術に対する理解は低いので、今後の課題ですね、私は純粋な戦力だけにとらわれていたのかも・・・おや、そろそろ動きが有る様ですね」
協定戦の審判を表す白装束の男がやってきて、ツィグルに乗り込もうとしている。
ジゾンも自身のツィグルへと乗り込む様で、いよいよ協定戦が始まる様である、審判がツェーリア側の人間である事は少し不安を感じてしまうが、明白な勝敗を示せば結果が覆る事もない。
通信盤に映るツェリは少し緊張している様ではあるが、遊魔へと魔進化した事で得られたマギガントの操縦技術が確かな事は遊魔なら誰でも理解している、故に遊魔達は安心してツェリに勝負を託す事が出来るのだ。
ジゾン 「お待たせしました、準備は整ったので協定戦を始めたいと思います、審判は人類法の裁定官にお任せしますので、公正な審査が行われるでしょう、今回は一戦のみで勝敗が決まりますので、我が国のツィグルを使って判定を行って貰います」
審判 「今回の審判を担当する裁定官のティルで、この砂時計が落ち切った後に私が銅鑼を打ち鳴らしますのでそれを開始の合図として下さい、勝敗は相手のマギガントの背を地に付けさせた方が勝ちでそれ以外は有りません、もし、相手を機能不能に追い込んだとしてもそれで終わりでは無く、必ず地に背を付けさせて下さい」
女性の裁定官にダイン他異世界出身の遊魔達は驚いた様だが、フェカトやツェリには驚きなどない、決闘という荒々しい決着を審判するのが女性であるのがダイン達を驚かせているのだ。
ツェリ 「私が対戦者のツェリです、ユーマの方々にはお手伝い頂きましたが、ツェーリアの事はツェーリアの人間で決着を付けるべきでしょう」
ジゾン 「同意見です、今日の状況を生み出したのは王家の不徳が招いた事ですので全力でお相手します」
ティル審判 「双方面合わせはよろしいですね、それでは時を刻みます」
通信盤に映るティルは砂時計を返して時を進める、場内も戦いが始まる気配を察して鎮まり返り、対峙する両マギガントは静と動に別れていた。
ツェリのポナリアは鞘にしまった剣の柄に手を掛けて動かず、ジゾフのツィグルは手に持つ戦斧を器用に回して開始の時を待っている。
そして流れ落ちた砂時計を確認したティルのツィグルが銅鑼を打ち鳴らすと、待ち侘びた様にジゾンのツィグルが前に踏み込む。
操縦技術では劣らない筈のツェリも、ジゾンの意気込みには気圧された様だ、固まった様にその場を動かずジゾンの突撃に怯えた様でもある。
ジゾンが平民の器と侮り戦斧の一撃を放った時、ツェリのポナリアは身を翻して半回転するとツィグルの背に対して一撃を繰り出すが、ジゾンは止まらず走り抜けてその攻撃を躱していた。
ジゾン 「勝負を任される事は有りますね、あのタイミングで避けるとは」
ツェリ 「そうでも有りませんよ、借り物に大きな傷を付けてしまいました」
ジゾンはツェリの実力が本物な事を理解して驚愕した、ツェーリアに在籍している騎士ではあの状況から避ける事など不可能な筈だ、噂のポナリア・ジーカが予測以上の性能な事は理解したが、その性能の引き出すには高い技量が無いと不可能な筈だ。
ジゾン思考 『私など余裕で倒せるという事ですか、これでもツェーリア一の使い手と言われているんですが、ですが一矢ぐらいは報いたいですね』
ジゾンは両手持ちの戦斧をポナリアに向かって投げ付けるが、難なく躱されてしまう、だが、その隙を使って左右に長剣を持たせて、よりポナリアと相性が良さげな武器に切り替える。
ジゾン思考 『マギガント戦のお手本の様な動きですね、ですがそれ故にアレが使えそうですね、まさかこのツィグルの奥の手をツェリが知っているとは思えませんから』
ツィグルとはポロルグとツェーリアに分裂前にポグレンと言われた機体である、このポグレンの中にはジーカを作り上げた天才工員が色々と実験した機体も混ざっており、ジゾンのツィグルには比較的実用的だった装備が現在でも稼働状態にあるのだ。
新しい武器の間合いを確かめる為にツェリは長剣の一撃を軽く繰り出してみる、ジゾンも敢えてその一撃に反撃して、自身の間合いを教えるが、手の内を敢えて明かすのも本命を繰り出す為の布石の一つだ。
ツェリ思考 『間合いが短くなって戦斧より戦い易そうです、両手の攻撃も有るでしょうが、ツィグルには速さが有りませんから、それ程の脅威とは言い難いですね』
当然、ツェリはツィグルの隠された機能の事は知らない、それどころかポグレンを作り出したポロルグ家のフェカトですら、過去のマギガントの事など聞き及んでおらず、ジゾンは千載一遇のチャンスを得ていたのだ。
双剣を使っての連撃に戦闘訓練の足りていないツェリは防戦を強いられる、だが、遊魔として与えられた戦闘センスは徐々にジゾンのタイミングを見極めており、バックステップでの回避が主流となって行く、だが、次の行動に移り難いバックステップでの回避はジゾンとしては好都合で有った。
右剣軽く突き出してからの後ろ半回転による左の突きはツェリも予想していなかった攻撃の変化だったが、遊魔の戦闘センスは初見のその攻撃を間一髪で躱わす、通常のマギガント戦ならそれで成り立った回避も、天才の作ったマギガントは一味違っていた。
剣を握ったままの手が打ち出されて前腕が伸ばされる、ツェリは紙一重で剣撃を躱していた為にその一撃を胸に受けてしまい、バックステップで着地したばかりの不安定なポナリアの胸部に命中して後方に押し倒す。
そうして後ろに倒れたツェリのポナリアは背を地に着けてしまい、ジゾンが勝利する。
その瞬間会場から巻き上がったのは歓声では無く、落胆の溜息だった、元々ツェリの仲間が多く詰め掛けてはいたのだが、会場のほぼ全てがその敗北に嘆いていたのだ。
だが、ユーマの王でも有るダイン・ユーマに焦りは無かった、ただ値踏みする様な表情を浮かべて勝者で有るジゾン・ツェーリアを見つめている。
ティル審判 「ツェリ殿のポナリアの背が地に着きましたので、この勝負ジゾン・ツェーリアの勝利とさせて頂きます、これでユーマ共栄国のツェーリア王国への一切の干渉を禁じさせて貰います」
ジゾン 「いや、それには及ません、ツェーリア王国は本日を持ってユーマ共栄国への編入をお願いしたいと思います、ですが協定戦の勝者の権利として我が娘ピューラをダイン王に娶って貰いたいと思います」
その言葉を聞いたフェカトが、ピューラという人物の情報をダインに告げる。
フェカト 「編入の件は依存有りませんが、ピューラ嬢はまだ五歳ですよね、幾ら何でも若過ぎる婚姻だと思います」
その後、ユーマ共栄国とツェーリア王国の会合が闘技場の貴賓室で行われていた。
ダイン 「娘を嫁がせるという話ですが、聞くところによるとピューラ嬢はまだ五歳だとか、好色と言われている私でも流石に若過ぎますね」
ジゾン 「ならば婚姻までの間、ユーマ共栄国でピューラの教育も行って欲しいのです、そして立ち遅れたツェーリアの統治者として我が娘を育て上げて頂きたい、それならば双方の面子も立てられると思いますが」
流石のダインもこの提案は予想外だった様だ、民意の離れた事を理解するジゾンが国を売る事までは予想出来ていたが、まさか娘までも差し出すとは完全に想定外だ、だが、ジゾンのこの行いは予想以上にダインの心を掴んでいた。
意外かもしれないがダインは子供の教育というものに興味を持っており、ジゾンの娘はそれを試す上でちょうどいい年齢でも有ったのだ。
おまけ
ツィグル ツェーリアと分裂前のポロルグ王国で製作されたマギガント、ゾッフォの複製機では有るが、魔鋼資源に乏しかったポロルグ製で有る為に練度を上げる事で魔鋼を節約している。
製作にはジーカを作り上げた天才工員が関わっている機体も多く、ジゾフの機体の様な変な機構が組み込まれた物も多い、だが、この機構が発展してジーカのゼンマイ機構ブーストと進化しており、ポロルグの独自マギガントの礎を築いた機体である。
ツェーリアの分裂時に比較的整備性の高いポグレンはツェーリア側に全て譲渡されたのだが、ポロルグを思わせる名前に異議が出た為にツィグルと改名されている。
機体特性としては、軽くなったゾッフォといった感じで、バランスは良いが打たれ弱い。
ツェーリアには新しくツィグルの部品を製造する技術が乏しい為に、共喰い整備が行われており、稼働している機体は十機程度しか残っていない。