地固め編 第十三話 ツェーリア政変

  004-013

  王都ゼアム上空に怪しげな飛行マギガントが現れて旋回を繰り返している事に、ツェーリア国王ジアガムは不安を隠せずにいた。

  二ヶ月前に集団逃亡したメリリウ村の住人が隣国に保護された事は伝え聞いており、その逃げ込んだ村人を受け入れた都市が独立して国家となり、その上国王は異世界人だというのだ。

  おまけに独立したユーマ共栄国と自国ツェーリア王国の間には先の事案から外交関係が結ばれておらず、ユーマ王は逃亡を主導した聖女ツェリと懇意だという話なのだ。

  ジアガム 「あのマギガントは何だというのだ、あの売女の差金だというのか」

  怒気を孕んだジアガムの言葉に家臣は黙ったままだ、それを見兼ねて第一王子ジゾンが口を開いた。

  ジゾン 「確認されたところでは、ツェリの店の紋様が施されている様です、機種もポロルグのポナリア・ジーカに間違い無くユーマが裏で関わっている事は間違いないでしょう」

  ジゾンは来るべく時が来たと腹を括っている、ユーマ共栄国は設立一月半の新興国だが、異世界技術の独占を危惧されたククジアが敢えて独立させて異世界人の自主性を示しているだ。

  それ程にユーマ共栄国の技術は進んでいるらしく、既に従来型では無い飛行マギガントの製造を行っているらしいのだ。

  貴族 「アレがユーマが作ったという新しいマギガントなのでしょうか」

  ジゾン 「アレは従来型のマギガントです、ユーマはあのポナリアをも数機所有している様ですから」

  ジアガム 「それをあの売女がぁ、はっあり得んわ、アレは処女のマギガントぞ、どうせ異世界人とやらも色香で惑わしたに決まっておるわ」

  ジアガムは想定される事態を認めたく無い様だ、だが、対処は必要であろう、それを察したジゾンは自ら申し出る事によって、怒気を撒き散らす事しか出来ない父王の元を離れる事にする。

  ジゾン 「私は闘技場で指揮を取ります、いざという時に協定戦が出来なければ無様ですからね、用心棒のお二方にもご同行願っておきましょう」

  ジアガム 「そういう時の為の傭兵だからな、あれを落とす事は出来んのか」

  ジゾン 「完全な外国人ならば可能ですが、ツェリの紋様を示している以上は我が国の民の抗議となります、国民の弾圧が公になると我らが咎を受けますが」

  ジゾンがメリリウ村で起こった事について言っている事を、頭に血の昇ったジアガムでも理解し同時にその怒りが引いて行く、そうジアガムはようやく自身の置かれた状況の危険さを理解したのだ。

  ジアガム 「アレは兵が勝手にやった事だ、儂は知らんぞ」

  ジゾン 「権力を掌握出来ていないと宣言するのですか、それこそ人類法で裁かれる事案ですよ」

  ジゾンは半ば飽きれながらその場を後にする、状況を理解した父王は大人しくなり、これなら取り巻き共も安心出来るだろう。

  ジゾン思考 『問題は防御を堅めるよりもツェリとその背後にいるユーマとの交渉ですね、各地に拡がりつつある国民の離反でツェーリアの命運は尽きていますが、混沌送りだけは避けたい物です』

  聡明なジゾンはツェリが表立って動いた意味を大体察していた、近い時期にユーマから飛行型マギガントが飛来して、王都ゼアムで協定戦を挑まれる事態も予測出来ていた。

  だが、状況はジゾンが思うよりも悪化している様で、轟音を伴ってユーマ方向から飛来した見た事も無い飛行物体にジゾンの理解も崩壊しつつ有った。

  ウィディ・ゾッフォがユーマの物だと理解しているツェリでさえ、それと編隊を組むスカイベアーの異質さには恐怖を感じていた。

  その長さはウィディ・ゾッフォの数倍は有り五十メートルぐらいだろうか、だが、両機が上下に並んで比較するとスカイベアーは確かにウィディ・ゾッフォが巨大化した様な形で両機の間には共通点も結構ある。

  実際、ツェリは建造途中のスカイベアーも見学しており、それがユーマで作られていた物に間違いない事は解ってはいるのだが、大きさは単純に力の象徴だと言えた。

  ダイン 「お待たせしましたね、どうです、ユーマの新しい力は、予想以上にいい出来だったので計画を進めました」

  ダインの乗るウィディ・ゾッフォが近付いて、ツェリとの間の通信を行う、ツェリも数日ぶりに会うダインの姿に安堵するが、スカイベアーの異様さは尋ねない訳にはいかない。

  ツェリ 「これがあの新しい工房のマギガントなんですか、本当に空を飛んでしまうなんて」

  ダイン 「空飛ぶ形はこのウィディと似てますが、マギガントの様に手脚が動く事はありません、あの手脚は胴体を支える為に付いているだけですね」

  ツェリ 「組織した反乱勢力も王都で活動してますが、スカイベアーの登場で大混乱に陥ってそうです」

  ダイン 「確かにやり過ぎましたかね、ですが、このまま王都の闘技場にエポポ三機を降下させます、フェカトは七実と操縦を変わって、エポポで降りて下さい、ニアとファナもエポポでお願いします」

  真夏 「フェカトの負担が大き過ぎる様に感じますが」

  フェカト 「大丈夫ですよ、それにフェカトが姿を見せた方がツェーリアの人間も納得してくれると思うます、スカイベアーは楽しいですけど、何が有効的なのかは考えて行動すべきです」

  ツェリ 「フェカト姉様は、現ツェーリア国王と面識があるんですか?」

  フェカト 「ちゃんと有りますよ、第一王子のジゾンは騎士なので協定戦に出て来るかも知れませんので、出て来ると話が早そうです、彼は聡明ですから」

  ダイン 「ツェーリアにもちゃんとした王族がいるんですね」

  フェカト 「国家運営を踏襲するだけなら、現王でも可能ですからね、ですがツェーリアの国土を遊ばせているのは勿体無いですから」

  ダイン 「そういう事です、さぁ国取りを始めましょうか」

  スカイベアーは王都ゼアムの闘技場上空で停止すると、お腹の格納庫が下に開いて吊るされたゾッフォを降下させて行く、ツェーリア側のマギガントも闘技場に出て牽制しているが、一番初めに降りたフェカトが上手く纏めた様で攻撃の意識は無い様だ。

  そして、三機のエポポを降下させたスカイベアーが直上から離脱すると、今度はダインのウィディが着陸し、最後にツェリのポナリア・ジーカが闘技場へと降り立つ、そして真夏のウィディは警戒と護衛の為に闘技場を旋回している。

  通信可能エリアに入ったダインのウィディの通信盤には見慣れた遊魔の面々と、初めて見るツェーリアの騎士達の顔が映し出されている、中でも一番上等な衣服を纏っている者が代表してフェカトと協議をしているらしく、ダインも敢えて会話には加わらない。

  ジゾン 「では、ツェリ殿に手を貸しているだけだという事なのですね」

  フェカト 「残念ながらユーマもそこまでお人好しじゃ有りません、ツェリさんがツェーリアの代表となった後はユーマとツェーリアの合併が約束されています、まぁ民を虐げた現体制には退陣して貰うつもりです」

  ジゾン 「なるほど、我々は既に交渉相手でもないというわけですね、ですが出来得る限りの抵抗はやって見せましょう」

  フェカト 「はい、私達の正当性を示す為にはちゃんとした決着が必要ですからね」

  ジゾンとの交渉はそれで一旦終わりとなった、そしてツェリのポロルグも闘技場に降り立つとその姿を通信盤で確認したジゾンが驚きの声を上げた。

  ジゾン 「本当にツェリだと言うんですか、マギガントは乗りこなすのに半年は掛かるというのに、更に天翔ける処女はマギガントを操る以上に時間が掛かる筈」

  ツェリ 「ジゾン様ですね、眠りの秘薬の使い心地は如何ですか、私なりに改良を加えてソミを調合してますのでいい香りがしますよね」

  ツェリは敢えて自分が知る情報を出して、自分がちゃんとツェリで有る事を強調してみせる、そしてその事は効果的面だった様でジゾンの表情が強張っている。

  ジゾン 「ユーマのマギガントには何か仕掛けでも、異世界人は直ぐにゾッフォを操ってみせたとの情報でしたが、ツェリはツェーリアの民の筈」

  フェカト 「それを可能とする技をユーマは持っているんですよ、五戦の協定戦の内一つはツェリが戦いますよ」

  ジゾン 「信じられません」

  ツェリ 「ならツェリの相手はジゾン様にお願いしたく思います、それでよろしいですね」

  ダイン 「なら、初戦はツェリに行って貰いましょう、そしてツェリが敗北したならユーマはツェーリアから手を引きましょう」

  フェカト 「ダイン様、何を言っているんですか、それでは余りにもツェーリアに有利じゃないですか」

  ダイン 「権力交代を民に知らしめる為には良い方法だと思います、どうですかジゾン・ツェーリア殿」

  ジゾン 「実質、私とツェリの一戦で協定戦が決するという事ですね、恥ずかしながらツェーリアには五戦の協定戦をまともに戦えるだけのマギガントが有るとは思えませんし、その提案お受けしましょう、ですがもう一つ条件を付け加えて下さい、ツェーリアの責は王のみが負うという事にして欲しいので、最早どうにもならない国では有りますが、王家の義務は果たしたいですので」

  ジゾンの提案に対して少し考え込んだダインは了承する事を決める、ジゾンがダインが推測する通りの人物ならば、ツェーリアの統治はより容易になる筈で、推測が外れたところで計画通りにフェカトとツェリに任せるだけでもある。

  ダイン 「いいでしょう、貴殿の手腕を見せて貰いましょう」

  ダインは意図を含ませた物言いで返答する、普段男には期待しないダインで有ったが、ジゾンには何か期待させるものがあるのだ。

  その後、再度の協議によって協定戦は二刻後に行われる事が決まり、ジゾンはツィグルを一旦降りて闘技場を後にした様だ。

  ダインはスカイベアーの魔導エンジンを停止させて、闘技場上空で待機させると、群衆が次々と闘技場へと押し寄せてくる、そこでツェーリアの命運を賭けた協定戦が行われる事を知ると方々に話が広まって行く。

  一方ジゾンは王宮に戻ると、ユーマとの間で協議された内容を父王に伝えて、その出方を見ていた。

  ジアガム 「つまりお前が負ければ、ツェーリアの歴史は幕を閉じるというわけか」

  ジゾン 「はい、ですがツェーリアの罪は王のみに課せられる様に手配しましたので、民、貴族に責が及ぶ事は有りません」

  ジアガム 「儂に混沌へと流されろと言うのか」

  ジゾン 「それに付いては妙案が有ります、父上は退位して頂き私が王位を継ます、国を滅ぼした者が罰を受けるのは当然でしょうから」

  塞ぎ込んでいたジアガムの顔に生気が戻る、ジゾン自身が望むのであれば罪を背負う王位など譲ってしまえばいいのだ。

  ジアガム 「なら、お主に王位を譲ろうではないか、この玉座は今より我が息子ジゾン王のものぞ」

  ジアガムの言葉に貴族達から喝采が起こる、そもそのジゾンは一人で国の責を負う事を確約してくれたし、今後を気にしていた貴族達にとっては救世主とも言えた、最もジゾンが約束したのは罪が及ばないという事だけで、貴族達の身分と財産の保証まではしていない。

  そうしてジゾンは王座へと歩み寄って、退いたジアガムから王冠を受け取るとその座に着いた。

  ジゾン 「皆の者、短くなると思うがよろしく頼む、先ず第一の王命として、先王ジアガムを離宮へとお連れしろ、王都は何が起こるか予測出来ぬ」

  一見、父親を思っての命にも思えるが、真意は厄介払いだ、権力こそ移譲されたがジアガムが素直に人の言う事を聞かない人物で有る事は、誰もが思い知らされている。

  だが、ジアガムはその命に大人しく従った、凡庸なジアガムであってもツェーリアの命運が尽きた事ぐらいは理解出来ていたのだ。

  おまけ

  ツェーリア王家 ツェーリアとポロルグは元々一つの国ポニジアであったが、対立する二人の王族によって分裂する事になる。

  伝統を重んじる姉のツェーリアを始祖とするのがツェーリア王国で建国後、先代までは女王を擁立してツェーリアの名を受け継いでいた、だが、先代は女児に恵まれず、男性のジアガムが王位に就いた。

  だが、元々伝統を重んじていたツェーリアで男性の王ジアガムは評判が良いとは言えず結果的に圧政に近い国家運営を行ってしまう。

  ジアガム王は複数の妃を娶って多くの子を成しており、次代のツェーリアとなるべく育てられている女子の子も存在しているが、近況の不安定な国家状態から王位の移譲は行われていなかった、その理由としてツェーリアの名を冠する女王の時代に国家の終焉を招く事態を避けたいとも思っているのだ。