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渋々といった様子ではあるが、黒髪が反省の兆しを見せたとして鬼人はぱぁ!と表情を明るくする。
「[[rb:良 > え]]がった!んなら今直ぐ謝るべ!ほれ、立てっか?」
「おぅ・・」
鬼人は泥と落ち葉で汚れ、酷い有様の黒髪に手を貸し立たせると、その背をこちらへ送り出すように優しく押した。
左右にそれぞれ褐色肌と三つ編みが並び立つ私の前に一歩進み出た黒髪だったが、視線を逸らしたまま唇を引き結ぶ。
互いに無言のまま暫し時が過ぎ、痺れを切らした褐色肌が口を開くより先に鬼人が黒髪の背を思い切り叩いた。
「ってぇな!何すんだよ!」
「何って励ましだべ。ほれ、これ以上待たしたらいかんでよ」
「るっせ!お前に言われなくても!」
言い返す黒髪に「んだな!」と頷いた鬼人は笑顔で続ける。
「リックは詫びずに逃げるような男でねぇよな!ほれ!おらとミュレがリックの立派な姿を見届けてっから、今ここでしっかり謝るだ!」
「ぐ、くそっ。分かったよ!謝ればいいんだろ謝ればっ!」
「だからさっきからそう言ってるべ」
腕を組み「うんうん」と頷く[[rb:戦棍 > メイス]]使いと笑顔で謝罪を促す鬼人をぎッ!と睨んだ黒髪は、こちらに向き直り「ふんっ」と荒々しく息を吐いて「悪かったな」と反省からは程遠い態度で言い捨てた。
「リック・・お[[rb:前 > めぇ]]よぅ・・」
「はぁ・・ちゃんと謝る事も出来ないなんて最低っス」
鬼人は場を取り持ったというのに無碍にされて肩を落とし、戦棍使いは蔑みの視線を黒髪に向ける。
仲間の後押しをふいにした故当然の反応だったが、黒髪はやや焦った様子で言い募った。
「だ、だってこいつら嘘ついてるじゃねーかっ!狩りと採集してたなんて言ったくせに見てみろよ!獲物も何も持ってねぇ!人気のない所でこう・・言えないような事してたに決まってるだろ?!」
「いや、それは―・・」
「下手な誤魔化ししやがって!本当に狩りしてたってんなら、証拠に獲物の1つでも見せてみろや!」
「はっ!出来る訳ねぇよな!」と顎をしゃくり、こちらを見下げた発言をする黒髪。
見当違いも甚だしい、とんだ言いがかりだが・・
証拠となる獲物は全て[[rb:魔法鞄 > マジックバック]]に入れてしまっている。
つい先程魔法鞄の扱いを三つ編みに注意された手前、今ここでその存在を明かすのは憚られるのだが・・
だがしかし、ここまで大人しく無言を貫いている私の両隣からはじりじりと不穏な気配が立ち上ってきており、潔白の証明を急いだ方が良いのではないか?と思わされた。
ではどうするか?
そう思案し始めたところで、左側に立つ三つ編みが一見すると朗らかに聞こえる調子で提案を口にする。
「アドさ~ん?護衛の精霊様に簡易的な精霊契約を頼む事って出来るかしら~?」
「それは・・どうだ「B」?」
定位置の斜め後方で浮いている「B」に視線を向けて問うと、こくりと頷いた。
それを確認した三つ編みは「なら安心ね~」と嬉しそうな様子を見せる。
「は?契約?何の話だよ?!」
つい今し方痛めつけられたばかりの「B」にまた何かされるのではと警戒を強めた黒髪に、三つ編みはにこやかに答えた。
「明後日な方向に誤解されて、とても不愉快なのよね~。証拠を見せたら納得するのでしょう~?だから見せて上げようと思って~」
「な、それ―「だから~」は・・」
黒髪の言葉に被せて語り出した三つ編みが、一歩前に踏み出して続ける。
「見せたら、あなたの荒唐無稽な発言を撤回してくれるかしら~?」
「後、納得したらアタイら全員にしっかり謝れよなっ!」
圧を掛ける三つ編みに続き、褐色肌も憤慨した様子で言った。
女性2人に詰め寄られた黒髪は思わずといった感じで後ずさり、背後に立っていた鬼人に当たって驚き振り返ろうとするも、肩を押さえられて動きを止める。
「何だかよく解んねが。そん契約すりゃあリックが納得するような話しが出来るんだべな?」
「そうね~。出された証拠を受け入れるだけの度量があればの話だけど~」
「・・そんなら、おらもそん契約とやらば結ばさせてもらえるだべか?一緒に話しさ聞かせて欲しいだ」
どうやら鬼人は黒髪が納得しなかった場合に備えるつもりらしい。
随分と人の好い・・こちらとしては好ましく思うが、なんともまぁ難儀な性分のようだ。
「お、俺は契約するなんて言って―「リック」・・」
今度は鬼人が圧を込め、黒髪の言葉を遮る。
「こん人らはお前さの為に手間をば掛ける言うとるだ。大人しく契約さ結ばねば・・「[[rb:悪食触手 > スラープテンタクル]]」の巣に放り込むど」
黒髪の反応は劇的だった。
抑えられていた肩を振りほどき鬼人から距離を取ると、わなわなと唇を震わせ「な、ば、や」と意味のなさない言葉を零し全力拒否の姿勢を見せる。
「んなら今すぐ契約さすっぺ」
「・・クソっ!お前最悪だなっ!」
「その言葉。今は誉め言葉と受け取っておくだ」
・・話の流れと不穏な空気から「悪食触手」とやらは随分と厄介な魔物?と察するが・・
その実態を知りたいような、知りたくないような・・なんとも微妙な感覚に陥った。
「シグレが居るなら平気っスね。あーしは契約とか遠慮するんで、離れる間は見回りをしてくるっス!」
獲物である戦棍を肩に担いで見せ、警戒に出ようとする戦棍使いを褐色肌が呼び止める。
「待てよ!アタイも一緒に行く!森で1人は危ねぇからな」
「そうっスね!じゃあ一緒に行くっス!」
「気を付けて行って来るだよ~」
「獲物が居ても無理に狩らないのよ~」
連れ立って歩き出した2人に鬼人と三つ編みがそれぞれ声を掛けた。
「解ってるっス~」「行って来るな!」と各々返事を返し、その姿が見えなくなったところで「それじゃあお願いするわ~」と三つ編みが振り向く。
改めて真正面からその顔を見た瞬間、悪寒がぞぞっと背筋を駆け上った。
目が、全く笑っていない。
予想は付いていたが、かなり腹を立てているようだ。
「あ、あぁ。すぐに取り掛かろう。頼む「B」」
契約内容を口頭で述べ、破られた場合にのみ発動する魔術を「B」に施される鬼人と黒髪。
契約内容は「私の持ち物について他言しない」という至極簡単なもの。
但し、周囲に秘密が知れ渡った時点で契約は無効となる旨を添えた。
そうして三つ編みが見守る中、2人の目の前に魔法鞄から葉に包まれた肉をどんどん取り出して積み上げる。
最初の1つを取り出した時点で目を剥き驚いた2人だったが、肉が積み上がっていくにつれてそれぞれに違う反応を見せた。
中に納まっていた物量に興奮して目を輝かせていく鬼人に対し、黒髪は徐々に顔色を悪くしていく。
最後に川魚と採集した実を取り出すと鬼人は「お~!!」と感嘆の声を上げ、黒髪は崩れ落ちるようにして両手を地に付け四つ足の状態となってしまった・・
「うふふ~。これで解ったかしら~?これは私たちが狩った獲物よ~?冒険者崩れの無法者じゃあるまいし~。何て言ったかしら?人目を避けて~?交わってたって?そんな事しないわよ~」
「いや、そこまではっきりとは・・」
地面を見つめる様にして顔を上げない黒髪に近づき、圧を込めて話しかける三つ編みに思わず声を掛ける。
が、くるりと振り向かれ一言。
「アドさんは少~し黙っててくれるかしら?」
「解った」
反射的に頷き一歩下がる。
相当本気で怒っている。怖い。
三つ編みの怒りに中てられ、落ち着かない思いでいると鬼人が陽気に声を上げた。
「凄か量の入る魔法鞄でねか!こらぁ契約までして秘密にしようとするのも当たり[[rb:前 > めぇ]]の話だべ!」
そうしてザクザクと落ち葉を踏み鳴らして黒髪に近づき、未だ俯いたままのその背を軽く叩く。
「ほぅれ。これで納得出来たべ?今度こそ勘違いした事を謝らねば」
促され、ゆっくりと上げた黒髪の顔色は酷いものだったが、三つ編みと私の方へ視線を走らせた後、再び地に着くように頭を下げて「すみませんでした」と後悔の色濃い声音で謝罪するのだった。
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