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【114】美人さんに「推し活」と「発酵」について語っちゃうぜ~

  心底羨ましそうに溜め息を吐いた[[rb:美人さん > お姉さま]]は、折り畳んだ扇を口元で広げて悲しそうに話し出した。

  「ここの所、本当に忙しくて・・お気に入りの劇団の舞台も、もう何ヶ月も目にしておりませんの・・」

  「あ~、それは辛いですねぇ。「推し」成分が不足すると気力が続きませんよねぇ~・・良く解ります」

  「「おし」、でございますか?」

  「ええ。「心の潤い」と言い換えれば解りやすいですかね?見たり聞いたりすると元気になって前向きになる物の事です。こちらではその「推し」を観たりお祝いしたり・・関係のある品物を購入するなど様々な活動を通して「推し」を応援することを「推し活」と言ったりしますね」

  「まぁ!つまり[[rb:支援者 > パトロン]]と似たような活動、という事ですわね?!なんて楽しそうなお話でしょう!」

  「とってもワクワクしますわ!」と跳ねそうに疼く体をどうにか理性で抑え付けたらしい美人さんは、目をキラリ光らせ若干前のめりになって言う。

  「そうですね。大小規模の違いはあると思いますが、概ねそのような感じです。因みに、私にも「推し」作品がありまして、グッズ・・え~、関連する本やぬいぐるみ、絵姿などを買ったりしてますよ」

  「あぁ、成程!それならあたくしも好きな役者の絵姿を持っておりますわ!でも、なんだか旦那様に申し訳なくて、買ったことは秘密にしているのですけれど・・」

  頬を染めながら語る美人さんはそう言って、眉根をきゅっと寄せて困ったように小首を傾げた。

  「そういえば、クリスさんは既婚者でいらっしゃいましたね。ご主人に対して後ろめたく思っておられるようですが、役者を客席から愛でたり応援したりする気持ちと、ご主人に対する愛情とは全くの別物なのでは?」

  「そう!そうなのです!ですが、その・・支援者の中には実際に役者本人と親密に過ごす方もおりまして・・」

  「あ~・・成程。距離の近い方が一定数いらっしゃると・・それは誤解が怖くなるのも頷けます」

  枕営業、みたいな?

  貴族が実在する身分社会だと[[rb:そういう事 > 芸人の身売り]]は普通にありそうなイメージ・・

  「観劇には元々義務感から通っておりました。それと言いますのも、新しく考えられた舞台の[[rb:演目 > お話]]は劇場に足を運ばねば知ることが出来ないからなのです。その時事性からお茶会などでもよく話題になる観劇は、社交の場では手軽な交流手段となるのですわ」

  「ははぁ。つまり、話題作りの為に通っている内に「推し」になったのですね?」

  「ええ!そうなのです!しかし、結婚しますと家の事と仕事とでなかなか時間を作ることが出来ず・・昔からある題材でしたら本になっていたりしますが、最近の物はなかなか・・最近は情報収集にお友だちから話を聞く事もありまして、その度に羨む気持ちを落ち着ける日々ですわ」

  ほぅほぅ・・

  美人さんにとって演劇観賞は「推し活」であると同時に[[rb:交流の場で必須の情報 > コミュ用ツール]]でもあると。

  うーん、純粋に「推し活」を楽しめないのはちょっと可哀そうな気も・・

  美人さんを取り巻く状況にやや同情しつつ、胸の内で『何か手助け出来る事はあるかな?』と考えを巡らせた。

  そこでふと、いつの間にか美人さんを身内認定している事に気が付く。

  『・・まぁね。顔は良いし、性格は・・まだ把握しきれてないけど、今のところ良い人だと思うし・・後、[[rb:BLに興味持って > 腐女子仲間になって]]くれそうな予感が・・ね?』

  勿論、無理矢理染めたりはしません!

  痛い腐女子ムーブ厳禁!暴走注意!

  ここは慎重に様子を見るんだ頼子っ!!

  脳内で仲間が増えそうな予感に荒ぶりかけている腐女子を落ち着かせつつ、少し気落ちした様子の美人さんの気分転換になればと飲み物を勧めてみた。

  苦いの、甘いの、熱いの、冷たいの、色々用意できると伝えると「それでは甘く、冷たい物を」との要望だったので、少し席を外してグラスにメロン味のカ○ピスを作る。

  何でメロン味かって?

  ええやんけ。普通のヤツよりメロン味の方が好きなんだよ!

  氷の浮く、薄緑色の濁った液体が満ちるグラスを前に、不思議そうに首を傾げる美人さん。

  「これは・・」

  「こっちの発酵飲料です。甘くて美味しいですよ?」

  「「はっこう」とは・・どういったものですの?」

  疑問を口にする美人さんに袋から出したストローを差し出し、どう説明したものかと頭の中で流れを組み立てながら話を続ける。

  「あ~・・そうですね・・そちらにチーズはありますか?」

  「?。はい、ございますが・・」

  「チーズは動物の乳を発酵させて作られているのですが、発酵というのは目に見えないくらい小さな生物の活動というか、生き方?まぁ、生活する結果、物に作用し変化させる事を言うのです」

  「まぁ!では、あたくしたちは目に見えぬ生き物を口にしているのですか?」

  ストローをグラスに差し込んでいた美人さんは驚き、扇で口元を隠した。

  「その通りです。でも、神経質になる事はありません。私たちが日々口にする物はどんな物であれ、かつて生き、活動していた生き物や植物です。目に見えない生き物くらい、今更ではありませんか?」

  「あら?・・確かに、その通りですわ」

  「でしょう?あ、一応補足しておきますと、食べ物等が痛み腐る事を「腐敗」と言いまして、同じく目に見えない生き物の仕業なのですが、実は「発酵」と「腐敗」に明確な違いはありません。口にする私たちにとって「有用」か「有害」かで区別しているだけなんです」

  人差し指を立て、身振り手振りを交えて説明すると、パチリ瞬きをした美人さんは扇を畳んで微笑む。

  「成程・・大変興味深いお話、ありがとう存じます。今のお話ですが、書き留めてもよろしゅうございますか?」

  「え?はい。構いませんよ?」

  「ありがとう存じます。では、失礼して・・」

  そう言って、美人さんは視界の外から紙らしき物とインク壺を手前のスペースに置き、中身が詰まったような透明度皆無の飾り石が付いたペンを手に取った。

  興味深く様子を見ていると、美人さんは紙の上部にざーっと長い長い線を引く。

  頭の中で疑問符を浮かべながら首を傾げる。と、視線の先。

  紙に引かれた線が、スルスルと動き出す!

  驚きに声を失っていると、美人さんは線が移動して空白になったスペースにまた新しく線を引いた。

  動いた線はというと、カクカクとした文字となり真っすぐ横一列に並んでいく。

  「あの・・それは魔法、ですか?」

  「はい。これは文字を綴る簡単な魔法ですわ。これこのように、裏に魔術陣が施してありまして、魔力の込められたインクで線を引くと、思い描いた文字となるのです」

  ぴらりと紙を持ち上げて、裏面をこちらに示す美人さんの言う通り、そこには握り拳ほどの大きさの円形の魔法陣らしき模様があった。

  成程・・あちらではこんな感じで文字を書くと・・

  実際に目の前で見て、魔力とやらが安定しない状態の青年では難しい事だったのだろうなと、何となく理解する。

  「・・こちらでは「魔法」の存在は一般的には知られておりませんので、何とも不思議な光景ですね・・」

  「そのようですわね。あの子からそちらの様子は軽く耳にしておりますが、あたくし共からしますとそちらの食品等を生み出す技術力の方が、とっても不思議で理解が追い付きませんわ」

  「成程。世界が違うというのを改めて実感する話ですね」

  「えぇ。ですがあたくし共は出来るだけそちらを、魔女さんを「理解」したいと望んでおりますのよ?」

  ふわりと微笑み、慈愛に満ちた声音で話す美人さんに「え・・」と言葉が詰まる。

  「ですので、魔女さんとこうしてお話できるのは楽しく、とっても有意義なのですわ!」

  にこーっ!と笑みの形に唇を引き上げ笑う美人さんの顔が少しだけ青年と被って見え、どきりと胸の奥で心臓が跳ねた。

  流石は姉弟。よく似てる・・

  『・・・アド君元気にしてるかな・・』

  ふとそんな思いを抱いている間に、美人さんはグラスを手にするとストローでカラリと一混ぜしてその端を口にする。

  一口飲んで「あら、美味しい・・」と感想を零した。

  「お口に合ったようで良かったです。そちらも動物の乳を発酵させて作られたものなんですよ?後から砂糖や香料で味を整えてありますが」

  「まぁ!そうなのですか?!「発酵」というのは、本当に様々な食品に作用するものなのですね・・」

  そうしみじみと呟いて、美人さんはまたカ○ピスで喉を潤したのだった。

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