お伽噺の記憶

  パチパチと火のはぜる音だけが聞こえる。

  イル、ガヴィ、ゼファーの三人は、水晶群から少し離れた場所で焚火を囲んで座っていた。

  長いこと沈黙していたガヴィが、ぽつぽつと話し始める。

  「――お[[rb:伽話 > とぎばなし]]なんてよ、[[rb:所詮 > しょせん]]はお伽話なんだよ」

  そもそも、魔王なんていやしない。

  俺たちは、住んでいた土地を侵略してくる支配者に立ち向かっただけだ。

  それが、いつの間にか魔王を倒したって話になってる。まぁ、昔話あるあるだよな。

  そう言ってガヴィが笑う。

  まぁでも、たった三人の子どもが権力者に立ち向かうのは生半可な事じゃない。

  最後は本当に、もう駄目だと思った。

  創世記にあるように、[[rb:紅 > くれない]]の民の娘は初代国王を守るため、己の血を剣に変えて命を落とした。

  結果、ガヴィ達は勝利を手にした。

  侵略者を退けた後、これからどうするかという話になり、虐げられる日々に終止符を打った人々は新しいリーダーを求めた。侵略者を退けた若者達が先頭に立って皆を導いていくのは最早必然だったのだ。

  「別に国を作っていくのが嫌だったわけじゃない。ただ俺は、国がどうって言う事じゃなく、アイツが……イーリャが笑っていられる場所を守りたかっただけだったから」

  紅の民の娘の名をイリヤと言った。

  のちに初代国王になる少年、アルフォンスとガヴィエインは同じ村の出身で、ノールフォールの森も村に近かったため、三人は本当に幼い頃から仲が良かった。

  しかしいつまでも幼いままではいられず、年を重ねて青年と呼ばれる歳に近づくと、幼馴染と言う関係のままではいられなくなるのが男女と言うものだ。

  ガヴィエインはイリヤに対して特別な思いを抱いていた。

  「でも俺は、自分の気持ちを伝える気はなかった」

  「……なんで?」

  「……そりゃ、イーリャがアルを好きだったからさ」

  アルは、アルフォンスってやつはさ、絵に描いたようないいヤツなんだよ。

  器用で、剣の腕前も強くて、それでいて優しくて気が利いてよ。

  それこそお伽話の王子様そのまんま。ダメなところなんて何にもない。ちょっと抜けてるところもあったけど、それはそれで可愛げがあるよな。だからイーリャが好きになるのは仕方がない。必然だよ。

  俺は、自分の想いが成就することがないのは解っていた。だから、ただ、イーリャが幸せになってくれればいいと思っていたんだ。

  けれど、お伽話のように、お姫様と王子様が結ばれて、めでたしめでたしとは現実にはいかなかった。

  アルフォンスはイリヤの気持ちに気付くことはなかったし。ガヴィもイリヤに自分の気持ちを言う事はなかった。

  そして、誰の想いも成就されないまま、イリヤはアルフォンスを守って逝った。

  「……」

  イルは言葉にならなかった。創世記の物語の後にこんな続きがあったなんて。

  「それでも、イーリャが守ったこの国とアルを、俺は支えていくつもりだった」

  しかし、時は流れる。

  いつまでも思い出や過去に浸ってはいられない。

  朧気ながらも国としての形が出来上がってきて、みんなが活気づいていた頃、アルフォンスが紹介したい人がいる、とガヴィに言ってきたのだ。

  アルフォンスは言った、一番の親友のお前に、真っ先に紹介しないといけないと思ったと。

  アルフォンスは未来へ繋ぐため、イリヤの想いも知らないまま伴侶を見つけて結婚すると言ったのだ。

  「……人の気持ちをどうにかすることはできない。解っていた。どうしようもないってことは」

  アルが悪いわけじゃない。それは解ってる。

  いつまでも死んだ人間の気持ちがどうのって言ってないで、前を向いた方がいいに決まってる。

  ……けれど俺は、どうしても気持ちが着いて行かなかった。

  「イーリャは何のために死んだのか……。

  俺は、アイツのいない世界で何を守ろうと思っていたのか……解らなくなっちまった」

  アルの強さが眩しくて、苦しかった。

  彼の生き方が正しいと思うのに、おめでとうの言葉が出てこない。

  先に進んだら、イリヤの存在が消えてしまうような気がした。

  アルの、屈託のない笑顔がガヴィの心に黒いインクを落とした。

  ここにいたら駄目だ。

  こんな気持ちでは、いつか全てをアルにぶちまけて関係を壊してしまいそうだった。

  しかし、その頃すでにガヴィは建国の中心人物であり、とても国を出たいと言える雰囲気ではなかった。誰もが国の建国に向けて盛り上がっていた。

  そんな時だ。

  「西の地で、魔物を呼ぶ[[rb:瘴気 > しょうき]]が吹き出ているという情報が入ってきた」

  イルもゼファーも話の核心に近づいてきたのを感じた。二人の知っている単語が出てきたからだ。

  瘴気とは、人には毒になるが魔物が好む霧の様な物で、稀に地面の亀裂等から自然発生する。

  大概はしばらくすると自然に収まり、瘴気を好んで集まってくる魔物も散っていくのだが…。

  「西の谷に発生した瘴気は尋常な量じゃなかった。終息する気配もなく吹き出し続けて、谷にはどんどん魔物が溢れた。……人的被害も多発して見過ごせなくなってきたんだ」

  はじめは周辺の村付近に沸く魔物を討伐していたが、だんだんそれだけでは追いつかなくなってきた。

  そしてついに、溢れた魔物の群れに襲われて小さな村が一つ壊滅した事により、どうにかしなければならないと言う事になったのだ。

  皆で集まって話し合いが行われ、紅の民から提案があった。

  紅の民は当時、魔法力の強い集団であった。

  森の黒狼や精霊とも通じ、人というよりは精霊の類に近かったかもしれない。

  当時の紅の民の長は言った。

  [[rb:血の剣 > ブラッドソード]]を作る力を応用し、民の力を合わせて瘴気を結晶化させる魔石を作ると。

  魔石は瘴気を吸うと瘴気自体を結晶化させ無効にするという。

  瘴気が強ければ強い程、魔石自身がそれをエネルギーに結晶化を広げるのでいずれ瘴気は治まるだろうとの事だった。

  瘴気がなくなれば、集まっていた魔物もいなくなるだろう。

  ただ、瘴気を確実に結晶化させるためには、より瘴気の強い瘴気の吹き出している中心で魔石を使う必要があった。

  瘴気溜まりは魔物で溢れており、しかも瘴気自体が人にとっては毒になる。

  魔物の群れをくぐり抜けて、瘴気溜まりで魔石を発動し、尚且つ戻ってこられる人物――

  アルフォンスは当然の如く自分が行くつもりだった。

  きっと周りもそれを期待していただろう。誰もがそうなるものと思っていた。

  だが、アルフォンスが言葉を発する前にガヴィがすっと手を上げた。

  「俺が行く」

  周りがざわつく。

  「ガヴィエイン殿が? いや、しかし……」

  「いや、ガヴィ。俺が行くよ」

  お前はここで待っててよ。そう言うアルフォンスの頭をガヴィは親指と人差し指で弾いた。

  「いたっ!」

  「馬鹿かお前は。国のリーダーがホイホイ最前線に出向いてんじゃねえよ」

  自分の立場をそろそろ考えろや。

  アルフォンスは不満そうに弾かれたおでこを擦る。

  「剣の腕だけなら俺の方が上ですし?

  なんかあるわけもねえが、今お前に何かあったら国は総崩れだ。だから俺が行く」

  ガヴィがそう言うと周りから、確かに……それはそうかという声が上がる。

  それでもアルフォンスはまだ不満そうだった。

  「それは、そうだけど……でもガヴィ、お前、最近飛び回ってばかりじゃないか……俺は心配なんだよ」

  本気で心配しているアルフォンスにガヴィの心はチクリと痛む。

  それはそうだ、色んな仕事を請け負って飛び回っているのも、この任務を受けるのも、本当はここに居たくないから。

  そんな事をガヴィが思っているなんて、きっとアルフォンスは夢にも思っていない。

  アルフォンスの心配をよそに、ガヴィが瘴気谷に行くことに反対する者は誰もいなかった。

  準備は着々と進み、紅の民達による魔石も完成した。

  瘴気谷から溢れる瘴気の量が尋常ではないので、魔石は紅の民の総力を結集した物になった。

  近しい過去にイリヤを失っている紅の民は、もう一族の誰も失うことはできないと、細心の注意を払い、力のある者が集まって自分のできるギリギリの魔力を使った。

  命を失うものは誰一人としていなかったが、魔石が完成した時には紅の民達は疲労困憊であった。

  「いいか、ガヴィエインよ。魔石を発動したらすぐに結晶化が始まる。結晶化に巻き込まれぬようにすぐに其の場を去れ。さもなくば命を落とすぞ」

  お前のことだから問題はなかろうが。

  床に就いたままの体制で長に石を渡される。

  「ん。任せておけよ」

  ガヴィは力強く魔石を受け取った。

  魔石は完成したが、問題はもう一つあった。

  瘴気は魔物には力になるが人間には毒にしかならない。

  長時間瘴気を吸い込めばそれだけで死に至ってしまう。

  紅の民が万全の状態であればまだ策を講じることができたかもしれないが、魔石を作る為にかかりきりだった紅の民には瘴気対策まで手が回らなかった。

  魔石作りに関わっていない者で対策が取られ、瘴気除けの魔法を染み込ませた布を用意した。

  「残った我々ではこの程度の事しかできませんでした。効力は一時間程度です。瘴気谷討伐の参加者全てに用意するとこれが限界です」

  もし、一時間以上かかりそうなら、迷わずに一時撤退して下さい、と念を押された。

  これで、いよいよ準備が整った。

  瘴気谷討伐隊は、ガヴィを隊長に明朝出発する事となった。

  暁の薄闇の頃、建築中の城の足場から辺りを見渡す。ゆっくりと東から朝日が顔を出し始め、ガヴィは目を細めた。

  「ガヴィ!」

  下からアルフォンスが慌てて走ってくる。

  ガヴィは軽い身のこなしで足場から飛び降りた。

  「……お前は! 挨拶もなしに行く気だっただろ!」

  余程慌ててきたのだろう、服のボタンが数箇所とまっていない。

  「こ、こんなに早く出発するなんて、聞いてない……」

  「善は急げって言うだろ?」

  「急げばいいってもんでもないだろうよ……」

  もう、と息をなんとか整える。

  「……気をつけろよ、本当に」

  心配が滲む声色でアルフォンスが言う。

  ガヴィはアルフォンスの不安を吹き飛ばすように明るい声で返した。

  「誰に言ってんだ!さっさと行って、夜には帰るさ」

  「うん……」

  どこか不安げにアルフォンスは曖昧に笑った。

  日が、昇ってくる。

  朝日は二人を照らし、後ろに影を作った。

  厩舎の方から討伐隊に参加する兵士が「ガヴィエイン殿ー!」と呼んでいる。

  ガヴィは「じゃあ行くわ」と軽く手を挙げてアルフォンスの隣から歩き出した。

  「気をつけて!」

  この時点では、ガヴィもまさかこれがアルフォンスとの最後の別れになるとは、夢にも思っていなかった。

  *****  *****

  

  瘴気谷の状態は想像以上に悪かった。

  谷の入口にはすでに瘴気が充満し、先日魔物にやられた村は魔物が巣食っていた。

  「ガヴィエイン殿! これでは時間がかかり過ぎます!!」

  切っても切っても湧いてくる魔物の群れに兵士が叫ぶ。

  「俺達の目的は魔石の発動だ! 向かってくるやつ以外は無視しろ! 道を開く事だけ考えろ!」

  叫びながら何体かを切り倒す。

  谷により近づいて来ると一気に瘴気の量が増した。

  ガヴィは顔をしかめた。

  「こりゃ、一時間も保たねえわ」

  瘴気除けの布越しでも感じる息苦しさに、瘴気の禍々しさを再認識する。

  時間をかければかけるほど危険が伴う。

  魔石を発動し、すぐに退避しなければ、魔物にやられるより先に瘴気にあてられる。

  「ここからは短期決戦だ! いいか! 俺が瘴気溜まりに突っ込むから全員血路を開け!

  魔石を発動したらすぐに退避だ! 結晶化に巻き込まれるぞ!」

  号令をかけた途端、ガヴィは身を翻して瘴気の吹き出している場所に向かって風の如く突き進んだ。

  一緒に討伐に向かった兵士達は、この谷でのガヴィの姿を長い間忘れることが出来なかった。

  とは言え、ガヴィも小さな傷だらけであったが、その傷すらものともしない戦い方に、もはや見惚れるしかない。

  自分の倍以上もある魔物の群れをものともせず、まるで赤い風のような少年の戦いぶりは鬼神そのものであった。

  襲い来る魔物を切り倒し、その体を踏みつけて跳躍する。

  他の者が一体倒す間にガヴィは三体の魔物を倒し、あっという間に瘴気の中心部に辿り着いていた。

  魔石を取り出し手に握る。

  誰しも作戦の成功を信じて疑わなかった。

  この時のガヴィですらそう思っていた。

  「よし! いくぞ! 全員退避だ!」

  右手に石を掲げ力を発動させる。

  淡い紫色の輝きが、魔石から溢れだした。

  「やったぞ!!」

  満身創痍になりながらも討伐隊は勝利を確信して歓声をあげた。

  しかし――

  ……人は人生において、大なり小なり魔が差す時がある。

  ガヴィにとって不幸だったのは、その魔が差した瞬間が、この時であった。

  誰もがガヴィの戦いぶりを称賛し、成功を確信していた。

  きっと城に帰れば、国はより活気づくだろう。

  侵略者を退けた若き王と、瘴気谷を封じた赤毛の剣士。

  二人の英雄の誕生は長く語り継がれるに違いない。

  でも。

  (俺は、英雄になりたいわけじゃない)

  護りたかったのは、イリヤの笑顔とアルフォンスとの三人の時間。

  それさえあればガヴィは満足だったのだ。

  でも、もうイリヤはいない。

  あの宝物のような三人の時間は二度と戻っては来ない。

  今はまだ、すでに未来に向かって歩き始めているアルと一緒に、普通に笑って隣に立てる気がしなかった。

  きっと、アルは、俺なんか居なくたって変わらずやっていける――

  瘴気の中心に置くはずの魔石を再び握りしめる。

  ガヴィは魔石を発動させるとその場を動こうとはしなかった。

  「ガヴィエイン殿?! 何を――!」

  「早く、早く魔石のそばから離れてください!!」

  ガヴィの異変に気付いた兵士たちが叫ぶ。

  魔石は瘴気をドンドン吸い込み、ガヴィエインが触れている部分から結晶化を始めた――!

  「ガヴィエイン殿オォォォォ!!」

  「ガヴィ殿ーー!! 手を、手を離すのです!!」

  早く! と悲痛な声が周りからいくつも上がる。

  だが、瘴気と結晶化した水晶に押され、ガヴィの近くには近寄れず、兵士達は目の前で起こっている事をただ見守るしかなかった。

  結晶化していく瘴気に、魔物の群れも一斉に逃げて行く。中には逃げ遅れて水晶に飲み込まれる魔物もいた。

  瘴気の強さに比例して、魔石による結晶化はあっという間に進み、残った討伐隊も退避するほかなかった。

  ……一番中心部にいたガヴィを助けるなど、到底無理な話だったのである。

  水晶にガヴィが飲み込まれる寸前、赤毛の剣士が口元の布を取り、微かに微笑んだのを兵士の一人は見た。

  「……ガヴィエイン殿……なぜ……」

  瘴気も、逃げ遅れた魔物も、ガヴィも全て飲み込んで、水晶はただそこにキラキラと輝いていた。

  水晶に飲み込まれたガヴィを除いて、討伐隊は誰一人欠けることなく、作戦は成功に終わったのだった。

  *****  *****

  「あの瘴気だまりは相当な代物だったんだろうな。多分魔石を発動させた後も吹き出ていて…それを水晶が吸っていた。だからこんな水晶群にまで成長して……やっと最近瘴気を吸いつくした」

  だから結晶化が止まったんだろう。結晶化が止まったことにより、魔石もその役目を終えたに違いない。

  「なんで俺が助かったかは解からないが……吸いつくすのに五百年もかかってんだから、あのままにしておけばヤバかったよな。

  ……って、なんでお前が泣いてんだよ……」

  イルはもう耐えられなかった。

  目から、次々と涙があふれて前が見えない。

  「……だ、だって……だって……」

  創世記は、アルカーナの国民ならば誰もが一度は読む物語だ。

  国を作った英雄王と剣士、そして自分の祖先である紅の民の魔法使いを誇らしいと思ったことはあっても、残された者達にそんな苦しみが、想いがあったなんて、想像もしなかった。

  誰一人として悪くない。けれどどうしようもない人の思いに、胸が苦しくなる。

  大切な人を失って五百年もの時を超えてきた時代の先。あの日、イルが[[rb:血の剣 > ブラッドソード]]を作って倒れた時、ガヴィは一体どんな思いだったのか。

  苦しくて、悲しくて、怖かったに違いない。

  「結晶化が解けた時にはマジでビビったわ。周りの景色は変わってるし、まさか五百年もたってるとは思わなかった」

  お前がよ、王族の血を引いてるって聞いた時も感慨深いものがあったよな。

  アイツちゃんと繋いだんだなーと思って。

  そう言ってゼファーを見る。

  「ちょっと似てるよ。見た目だけだけどな。

  中身は、お前の方が百倍怖えぇ」

  そう言って殴られた頬を指さして笑った。

  魔石の効力が無くなった所為で結晶化の成長が止まったのを感じていたガヴィは再度調査が必要だと思っていた。ガヴィの結晶化が解けたように蘇る魔物もまたいるかもしれないと思ったからだ。後は単純に、この場所で自分を見つめ直すべきだと思った。

  ガヴィはイルに向き直る。

  「……悪かったよ。ごめん。

  俺は自分の怖さをイルに押し付けてただけだ。

  ……何にも言わねぇくせに、八つ当たりもいいとこだよな」

  胡坐をかいた体制でガヴィはイルに深く頭を下げた。

  イルは胸がいっぱいになって、ガヴィの手をぎゅっと握った。

  彼に言いたいことはいっぱいある。

  何を言っていいか解からないまとまらない想いも同時にある。

  けれど今、これだけは伝えたかった。

  今、ガヴィに言いたいと思った。

  「あのね。あのね……ガヴィ。

  私、ガヴィが好きだよ」

  菫色の瞳から目を離さずに、大切に紡ぐ。

  自分が受け入れられないかもしれない事が怖くて。

  己の正直な気持ちを言葉にできない苦しさを、イルも知っているから。

  「私ね、きめたの。

  好きな人には好きって言うって。

  仲良くなろうとか、大好きだよとか。

  自分の気持ちを伝えても、相手は違うかもしれない。

  でも、

  違ったら好きになってもらえるように努力すればいいよね。自分が頑張ればいい。

  ただ、大好きなのに嫌われてるかもって思いながら言わずにいて、もう二度と会えなくなっちゃったら……相手も本当は私の事好きでいてくれたのに会えなくなっちゃったら……

  その方が後悔するって、私はもう知ってるから。

  大好きって気持ちは、言葉にしなきゃ駄目なんだって思ったんだ。

  だから――ガヴィが、誰を好きだとしても、私はガヴィが好きだよ」

  きっと、イリヤさんもアルフォンスさんも、ガヴィのことが大好きだったと思うよ。

  アルフォンスさんは、きっとガヴィもいなくなって悲しかったと思うよ。

  そう言って、金の瞳がガヴィの心に触れた。

  ぎゅっとガヴィを抱きしめる。

  「――っ」

  ……ぶつかればよかった。

  格好悪くても、情けなくても。

  誰も傷つけたくなくて、本当は……自分が傷つきたくなくて。

  護りたいと思ったのに、逃げ出して、きっといっぱい傷つけた。

  大切なら、本音で話すべきだったのだ。

  もしそれで、距離ができてしまったとしても、時間をかけてまた歩み寄ればよかったのだ。

  ガヴィエインとアルフォンスを置いて散ってしまった少女を、ガヴィは確かに愛していた。

  けれどもまた、アルフォンスの事も同じくらい大切だったのに。

  目の奥が熱い。勝手に流れてくる雫を止める手立ては何もなくて、ガヴィはそれを拭いもせずイルをただ強く抱きしめ返した。

  「……君は、まだ逃げるつもりかい?」

  ゼファーが静かに問う。

  ガヴィはゆっくりと顔をあげた。

  「......いや。五百年前は途中放棄しちまったからな。

  ……一応ちゃんと真っ当に生きようと思ってんだぜ」

  じゃないと今度はお前らに一生許してもらえなさそうだから、とガヴィはふっきれたように笑った。

  ……話し始めてどのくらいの時間がたったのだろう。

  周りはいつの間にか、夜の闇からうっすらと明るくなり、暁の時間になろうとしていた。

  夜が、明ける。

  「――綺麗だ……」

  朝日と水晶が煌めいて。

  あの時とは違う三人で迎えた朝。

  世界が、再び輝いて見えた。

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