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陽だまりの君へ

  自室の扉を開けると、気持ちよさそうに寝息を立てる君が居た。

  何を言っているのか、俺でも分かっていない。

  不測の事態を招き込んだのは間違いない俺だ、そして不測の事態に巻き込まれて当惑しているのもまた俺。

  まず何をするかより現状を纏めよう。

  日曜日、今日も今日とて俺の部屋に居たショウマ。

  寝顔はいつ見てもかわいいな!普段は授業中に居眠りしてはパンダ先に起こされるまでのわずかな時間と限られたアングルでしか拝めない寝顔が実に全方位から何も文句を言われずに眺められる。

  ああ、こんな幸せな日曜日があって良いものだろうか。確かに日頃は何かにつけて手助けしているし、放課後になると部活も何も無いものだから制服のまま上がり込まれて宿題やったり普段から君に捧げているからな、役得という事にしておこう。うん。

  大層ニブチンな君の事だから多少の物音じゃ起きやしないだろう、このレアな寝姿を保存するために手間を惜しんではいけない。

  学習机の最下段、引き出しをそっと手前に寄せると緩衝材を幾重にも重ねられた箱を抱きしめるよう、取り出す。包装紙を外側から一枚、一枚と剝がすよに開かれる中からは、一般的な男子高校生には似つかわしくないデジタル一眼レフカメラ。高校の入学祝に家族で唯一の息子にと贈られた一品。気づけば機械類の取り扱いは殆ど任されるようになっていた。

  光を吸い込む黒塗りのレンズを、慣れた手つきで干渉せぬよう慎重に。ボディにねじ込みすかさずファインダーを覗く。フラッシュは焚かず、窓から差し込む光に任せてシャッターボタンを一段階。半押しでピントを合わせる。背徳感を押し切り人差し指に力を籠めるとシャッターが絞られ、光と共にショウマの姿を小指ほどの記録素子に仕舞い込んだ。

  暫く得物で寝姿を写して、机にそっと置くと床に寝転ぶ君を見てそんなに俺の部屋が居心地よいのかとつい破顔する。

  いつの間にか好きになったショウマ、偏見に流されず俺とちゃんと向き合ってくれたショウマ。そんな君が手の届くすぐ傍に居る、ぼさぼさの毛並みに少し傷んだ肉球。これから先も俺の出来る事を捧げて面倒を見たくはあるけれど、これからの選択肢次第なんだろうな。

  急に肌寒くなった秋だから、このまま床で寝ているとカゼでもひきそうで毛布を掛けてやろう。俺のベッドから毛布を持ってきて肩まで掛けてやるけれど、掛けられた毛布の端を噛み、器用にも足で跳ねのけては団子状にしてゴロゴロしている。

  ほんとに寝ているのだろうか。

  「ショウマ、そんなところで寝ていると風邪ひくぞ」

  声を掛けても反応なし。

  依然噛み跡を付けられ続けている毛布を見ているといつか俺も一緒に寝る機会があると……頭を振って思考を追いやり、早鐘を打つ厚い被毛に覆い隠された胸を押さえつける。

  気分を抑えるために部屋の明かりを絞り、カーテンを閉める。昼間だというのに薄暗くなった部屋の中、寝息を頼りに君の許へ。慌ただしく変動する君とは裏腹に、律に従って繰り返される呼吸音。

  寝転がって普段は触れない肉球を指先でつついてみる。調子づいて頭を撫でると意外に耳の付け根に頭を動かして誘導してきた。

  君の中で巡る鼓動と俺の鼓動、決して交わることのなかったはずの律が形を失って一体に解けあうような感覚に飲まれて見慣れた天井は影に溶けていった。

  ***

  目が覚めるといつも通りの俺の部屋。少し痛む腰を撫でさすりながら現状を把握しようと体を起こす。手に残ったボサボサの感触とは異なる肌触りに違和感を覚えて、胸から腹にしな垂れかかった毛布を手繰り寄せる。

  何気なく毛布を左手に、机を見るとこの前あげたはずの黄色い付箋に

  『シェパ、先に帰っておくな。あと風邪ひくなよ‼』

  とだけ殴り書きされて貼り付けられていた。

  ものの数時間前まで話し声が満ちていたこの部屋の中で、噛み跡と君の匂いの残った毛布とカメラだけ取り残された俺は。

  幻のように閃いた一瞬の光を探して、ファインダーも覗かないままシャッターを切った。

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