八二 銀狼と贄のみる夢 (上)

  遠い遠い昔。[[rb:行商 >ぎょうしょう]]も滅多に立ち寄らない山奥に小さな村があった。村の側に広がる深い森の奥には狼の神である[[rb:真神 >まかみ]]が棲む洞窟があるとされ、村はその真神によって護られていると信じられていた。

  

  「あー…ここもダメか。」

  「もう夏も終わるってのに、まともな食料が採れねぇじゃねーか。これじゃ秋の作物だってどうなるかわかりゃしねぇ…。」

  

  大和は、村人たちの会話を少し離れた場所で聞いていた。

  ここ数年、この村では日照りが続いていたが、中でも今年は特に深刻だった。村の神主がどれほど雨乞いをしようと雨は降らず、村人たちはその日の食料を得ることさえギリギリの状態。この冬を越すための食糧の確保が絶望視されるほどの状態に陥っていた。

  

  「あの伝説が本当なら、今年が丁度百年目の年になるんだろ。村の為だ。一か八かでも、誰かに…行ってもらうしかないな。」

  村人たちの視線は、離れて作業をしていた大和の方へと向けられた。

  この村に古くから伝わる真神の伝説によると、百年に一度、真神の[[rb:棲 >す]]む森の奥深くにある洞窟に[[rb:生贄 >いけにえ]]を捧げることにより、村の窮地は救われるとされてきた。そして、今年は丁度その百年目の年、真神様に捧げられるのは大和だろうと、村人たちの間で囁かれていた。

  

  

  「はぁ…村長のやつ。こんな上等な着物、どこに隠してやがったんだ…。しかし…遠いな…もうどこ進んでんのかもわかりゃしねぇ…。」

  大和は森へと運ばれる[[rb:駕籠 >かご]]の中でぼそっと呟く。村を出てからどれくらいたっただろうか、日の出まもなくに出発した一行だったが、[[rb:簾 >すだれ]]からのぞく太陽はすでに傾きかけていた。

  

  「あったぞ!洞窟だ!本当に伝説通りだっ!」

  そんな村人たちの声が聞こえたかと思うと、ガサッと駕籠が下され簾が上げられた。

  「やまさん、着いたぞ。」

  「あぁ。悪い、タマ…ちょっと手貸してくんねぇ?この着物動きづらくてさ。」

  「あぁ…。」

  環は駕籠の中でもたつく大和に手を差し伸べる。

  「やまさん…ホントに行くのか。」

  「…そんな顔すんなタマ。行くなら俺しかいねぇだろ?そう話したじゃねーか。」

  大和は駕籠から出て立ち上がると、あしらう様に環の手を離した。

  「でも!俺だって親いねぇじゃん!」

  「お前は、まだ嫁入り前の妹がいんだろ。今となっては村では貴重な若い女だ。お前が守ってやらなくてどうする。」

  「…でもっ!…いやだよ…やまさん…っ!」

  村では生贄の候補を選ぶために話し合いが行われたが、身近に親兄弟、妻や子供がおらず、且つ生贄として真神に捧げるに足る若さのものは、村にはもう大和一人しか残されていなかった。

  

  「タマ…今までありがとな。村で俺を一人の人間として、対等に話をしてくれたのはお前さんだけだ。本当に、弟みたいに思ってたよ。タマがいなければ、こうやって生贄になる前に、この歳まで生きて来れなかったかもしれねぇ…。感謝してる。」

  「そんなっ!…俺だって、やまさんいなくなったら…っ!」

  環は、瞳に溢れ落ちそうなほどの涙を溜めていた。

  「お前は大丈夫だ。体力もあるし、村の奴らからも好かれてるじゃねーか。…妹を大切にな。二人の幸せを願ってるよ。本当に真神様なんてものがいたら、せめてお前さんたちだけは守ってやってくれって伝えとくから。」

  大和はそう言って眉を寄せ力ない笑顔を向けた。

  

  「おいっ大和、準備出来たぞ!」

  二人が話しているうちに、洞窟の中には生贄と共に捧げられる、果物などのささやかな食料が運ばれ供えられていた。

  「わかった。じゃあなタマ…行くわ。元気でな。」

  大和は火のついた[[rb:松明 >たいまつ]]を渡されると、振り返ることもなく、1人ゆっくりと洞窟の中へと入って行く。

  

  「やまさんっ!嫌だっ!こんな…っ!なんで!なんでやまさんが村の為に死なねぇとなんねぇんだよっ!真神様なんてっ!いなかったらどうすんだよっ!やまさんっ!」

  環が大和を追おうとするのを、村人たちが数人がかりで必死になって止めていた。

  「環!行くぞ!暗くなっちまったら俺たちだって危ねぇ!早く村へ帰るんだっ!」

  

  

  洞窟に足を踏み入れてからも、大和の耳には、環の声がその後しばらく聞こえていた。

  ゆっくりと暗闇を進んでいくと、その奥には伝説通り小さな[[rb:祠 >ほこら]]が建てられていた。その前には八畳ほどの空間があり、先程村人たちの手によって持ち込まれた供え物が置かれている。

  

  「はぁ…まだ夏とはいえ、洞窟の中は冷えるわ。こんな着物でも着てなきゃキツかったな。…まぁ、もう生きるために身を守る必要だってねぇんだけど。」

  大和は、生贄として捧げられる為に着せられた純白の絹の着物をなでるように身体をさする。

  「ホント、[[rb:死装束 >しにしょうぞく]]にしては上等過ぎるな…。ここの供え物が尽きたら…俺の死に時か。」

  大和は供え物の中にあった蝋燭に火をつけて祠へ立て松明の大きな火を消すと、前に座りそのままゆっくりと横になった。そして[[rb:蝋燭 >ろうそく]]の火をじっと見つめているうちに、大和はうとうとと眠りについてしまった。

  

  

  「…なんだこれは。」

  どれくらいの時間が経っただろうか、大和は、微かに誰か人の話す声が聞こえた気がして目を覚ました。目の前の祠の蝋燭が、先程より随分と短くなっている。すると、突然背後に何か大きなものが足を踏み出したような「ザッ!」という音がして、大和は思わず振り返った。

  

  「うわぁぁぁぁっ‼︎」

  大和は大声をあげて祠の方へ後ずさった。大和の目の前には、2メートルは下らないだろう大きな狼がいた。

  「お、狼っ⁉︎来んな!来んな!俺はお前に食われるわけにはいかねぇんだって!」

  大和は慌てて蝋燭を手にとり、その火を先程使った松明につけると、火はめらめらと燃え上がった。

  

  「ん?てっきり俺に食われる為にここに居るのかと思ったが…違うのか?」

  「しゃ…しゃべった。…狼が喋った!」

  「ハハハハハハッ!あぁ、お主あまりよくはわかっていないのだな!それならば…」

  

  狼が声高に笑ったかと思うと、突然洞窟全体がブワッと真っ白な光に包まれ、大和はその眩しさに思わず腕で目を覆った。周りに広がっていた光が落ち着き、大和が恐る恐る目を開くと、不思議と洞窟内は少し明るいままで、目の前には人間らしき男が立っていた。

  

  男は陶器のような白い肌に絹のごとく[[rb:艶 >つや]]めいた銀色の髪、瞳は灰色真珠のように陰影を含んでいた。

  繊細そうで張りもある白と紅色の装束に身を包み、村の神主が特別な儀式の時に着ていた浄衣に似ていたが、その何倍も[[rb:煌 >きら]]びやかで、首からは数珠のような装飾品を幾重にも身につけていた。その出立ちはまるで平安の絵巻物から飛び出してきた様で、到底この世の者とは思えない程に美しかった。

  

  「…へっ?ひ…人⁉︎さっきの狼はっ⁉︎」

  大和が目を丸くして狼狽していると、男はふっと笑いながら話し出した。

  「先程の狼も、私だ。普段はあの方が何かと便利なんでな。」

  「えっ…?人が…狼?まさかっ妖怪の類かっ⁉」

  「妖怪などと一緒にされては困る。お主、本当に何もわかっていないのだな…。」

  男は少し呆れたような顔で大和をじっと見つめていた。

  「わかるって…なにを…?」

  「お主は、何故ここにいる?」

  「え?えっと…ここが真神様の祀られている洞窟って聞いて…。俺はその生贄になるためにここに連れてこられた。」

  「ほぉ…やはりそうか。」

  「…なに。」

  男のしたり顔を大和が恐々と見上げる。

  

  「生贄か、久しぶりだな。ということはもう百年が経つということか…。」

  「久しぶりって…あんた…。本当に何者なんだ。」

  「ここまで言ってまだわからんのか?お主が生贄になるためにここに来たのならば、私にはお主を食らう権利があるということだ。」

  「食らうって…まさかっ!あんたが狼の真神様かっ⁉」

  大和は後ずさっていた身体を、さらに壁へぴたりとくっつけた。

  「人間たちは私のことをそう呼ぶ。しかし…特にお主たちに何をしているというわけではないのだがな。」

  「そ…そうな…んですか?今村に起こっている災いは、生贄を捧げることで救ってもらえるって…言い伝えが…。」

  大和は四つん這いになり、[[rb:縋 >すが]]るように少しずつ男に近寄っていく。

  「あぁ…人間たちがそう信じていることは知っている…。しかし、前の生贄も、その前の生贄も私は食らってなどいない。私がここに戻るまでに、逃げ出してしまったようだったからな。」

  男が嘘をついている様子はなかった。

  「そ…んな…。じゃあ…俺はなんでここに…。」

  大和は全身の力が抜けたように、その場にぺたんと座り込んでしまう。

  「お主も逃げてしまえばいいのではないのか?」

  真神は何を悩むと言わんばかりの顔をしていた。

  「…今の俺に、もう行くところなんてありません。この深い森です…丸腰の俺が、こんな格好で…獣に襲われることなく村まで帰れるかなんてわからない。例え帰りつけたとしても…多分、人としては扱ってもらえない。」

  「なんだそれは。お主の生まれ育った村なのだろう?」

  「…俺は子供の頃に両親を亡くしていて、親戚もいませんでした。生活に必要なことはほとんど見様見真似で覚えて、他の村人たちの手伝いとか…色々、とにかく出来ることは何でもして食料や金をもらって暮らしてました。村にとっては…俺が生贄になれば、手のかかる厄介者はいなくなるし、村の災いは消えるしで…都合が良かったと思います。だから…戻ったところで…。」

  大和は地面についた手をぐっと握り締めた。

  

  「お主は自ら生贄に志願したのか?」

  「いえ、あの…すみません。ただ、誰も迷うことなく俺に決まったと聞きました。俺は、村にとって必要のない人間なんです。でも、正直…俺もしたくないこともしてきたし…神様に殺してもらえるなら、せめて地獄に行かずに済むかなって…思って。」

  「……地獄か。」

  「あの…本当に生贄として食ってはもらえないんでしょうか?」

  大和は正座をして両手をつき切実に真神へ問いかけた。

  「…私はそもそも生贄など望んでいない。食料ならこの森でいくらでも手に入る。好き好んでお主を食べる必要などない。」

  「そう…ですか…。」

  大和は全てを失ってしまったような虚ろな表情で、砂に汚れた自らの手を見つめていた。

  「行くところがないというのなら、ここにいればいい。」

  「……え?」

  「私もここに住んでいるから同居にはなるが…。私にとっても、長い時を生きてきた内、これだけ言葉を交わした人間は初めてだ。お主がこの森で飢えて死んでいくのも、無惨に獣に食われる様も見たくはない。」

  「い…いいんですか?俺がここにいても…?」

  真神は大和が向けた真っ直ぐな瞳を避けるように顔をそらす。

  「いいと言っているだろう。どうにも邪魔になれば、私が追い出すなり、食らうなりしてしまえばいいんだからな。」

  「はいっ!ありがとうございます!俺、なんでもしますから!でも、もしもの時は…出来れば一思いに食って欲しいです。」

  大和はパッと目を輝かせたが、最後は少し苦しそうな顔で笑った。真神は、笑顔で自らを食らえという大和に笑い返してやることは出来なかった。

  「…俺の名は楽だ。一緒に暮らすのだから、お互い堅苦しい言葉遣いはいらないだろう。」

  「え?いや…そういうわけには…。俺、居候ですし…。」

  「いいから!お前、名は?」

  「あ…えっと、大和。」

  「大和か、いい名じゃないか。これからよろしくな。」

  楽は大和にさっと手を差し伸べた。

  「お…おう?…よろしく。」

  大和は手に付いていた砂を払いおずおずと楽の手を取ると、楽はその綺麗な顔でふわりと笑った。

  

  「楽ーっ!見ろよこれっ!」

  川で魚捕りをしている大和が、大きな魚を両手に抱えていた。

  「あぁ、立派だな!」

  川辺で見ていた楽が手を上げて返事をする。

  「だろっ!俺的にもこれは最大ってうわっ!あっぶねぇー逃がすとこだったわ。」

  大和が活きよく跳ねる魚を抱えて川辺に上がってくる。

  「上手くなったじゃないか、大和。最初の頃はどうなるかと思ったけどな。」

  楽がなにか思い出したようにクスクスと笑う。

  「そ!…れはさぁ…ここじゃ道具もねぇから…。村じゃ一人で掴み取りなんかしねぇの!複数で網つかったり、竿で釣ったりすんだよ。勝手が違うだろ…。」

  大和が膨れたように不機嫌な顔をすると、楽がまたクスクスと笑う。

  「ハハッそんな顔するな。お前はよくやってくれてる。」

  楽が大和の頭をまるで子供にするようにくしゃくしゃと撫でると、膨れていた大和の顔が少し赤らんだ。

  大和が楽と暮らし始めてまもなく一月が経とうとしていた。初めは何をするにも楽の顔色を伺っていた大和も、どんな失敗をしようと笑って受け入れてくれる楽の優しさに、徐々に打ち解けていっていた。

  「そろそろ日が傾いてきたな…帰ろうか、大和。」

  「あ…あぁ、そうだな。…帰ろ。」

  大和はあまり表情が豊かな方ではなかったが、楽が「帰ろう。」というと、いつも少しきゅっと唇をしめて照れたような、嬉しそうな顔をした。

  「お前もなかなかに可愛いよな。大和。」

  楽がそう言って笑いかけると、大和はじんわりと赤らんだ顔で楽を睨みつけた。

  「可愛くねぇから!」

  大和の必死の抵抗に楽は頬を緩めた。

  「あぁーやっぱ美味かった…俺の努力の結晶…。」

  大和はついさっき獲った魚を食べ終わると、焚き火の前に仰向けに寝転んだ。

  「そうだな。確かに美味かった。」

  「あぁーー酒呑みてぇなぁ…。沢の水も確かに美味いんだけどさ、やっぱこういう焼き魚には酒だよなぁ…。」

  大和は恋しそうに空を見上げながら呟いた。

  「なんだ。酒が呑みたいなら出せるぞ。」

  楽は当たり前のように平然とした顔で告げる。

  「……えっ?楽、酒つくれんの?」

  「つくれる…というのか…。ほら。」

  楽が大和の使っていたお椀を手に取ると、椀の底からするすると湧き出るように酒が溢れた。

  「すごっ!それどうなってんの?妖術?あ、神力ってやつ⁉」

  「どうだかな。ほら大和、呑みたかったんだろう?」

  楽が並々と酒の入ったお椀を大和に差し出すと、大和は楽が持つお椀にそのまま口をつける。

  「うわっ!ホントに酒じゃん。しかも、美味い!」

  「大和…行儀悪いぞ。ちゃんと自分の手で持て。」

  「はいはい。じゃあありがたく頂戴します。」

  大和は両手でお椀を受け取ると、あぐらをかいてそのまま勢いよく呑み始めた。

  「え…いや大和、ちょっと︙そんな!大丈夫か?」

  楽が心配する中、大和は椀一杯をあっという間に飲み干してしまった。

  「ぷはぁーっ!うまっ!久しぶりの酒うんまいわ!楽!もっと出せるかっ⁉」

  「え?あ…まぁ…、ほら。」

  楽が椀に指先を向けるだけで再び底から酒が溢れ出ると、大和は目を輝かせた。

  

  「あぁー今日はいい夜だなっ!」

  楽は見たことないほどの満面の笑みを大和に向けられ、つい言われるがままに酒を与えてしまった。嬉しそうに口に運ぶ様を座ってじっと見つめていると一体何杯呑んだのか、完全に酔っ払った大和がふらふらと楽の身体に抱きついた。

  「がーくっ!」

  「こら大和、呑み過ぎだ。それくらいにしとけ。」

  楽が大和の手から椀を取り上げた。

  「えーーっ折角楽しくなってきたのにー。俺こんな美味い酒呑んだことねぇもん。」

  大和は子どもの様に唇を尖らせた。

  「お前、人間なんだから…あんまり呑むと後々しんどくなんじゃねぇのか?」

  「んー…二日酔いー?楽治せねぇの?」

  大和は楽の首筋に鼻先を擦り寄せ甘えてみせる。

  「…っいや…まぁ。出来ないこともないだろうが…。」

  「ハハッ!楽って最高だな!俺あんたの生贄になってホント良かった。俺のしょうもない人生ん中で、今が一番幸せだ!」

  大和は楽の身体から腕を離し膝上に頭をのせ寝転ぶと、酒で赤く火照った顔で本当に嬉しそうな笑顔をみせる。

  

  「生贄が幸せって…何言ってんだ。」

  楽が大和の髪をかき上げるようにそっと撫でる。

  「んー?だって、楽は俺に股開けとか言わねぇだろー?」

  大和の突然の言葉に楽の目元がピクッと動いた。

  「村じゃ酒が呑みたかったら、どうしても金が必要でさぁ…。俺、大した仕事も出来なかったし、親いねぇから信用もなくてどの組合にも入れてもらえなかったから、手っ取り早く金稼ぐには、それしかなかったんだよなー。」

  「大和…お前自分が何言ってるかわかってんのか?」

  大和の頭を撫でる楽の手が止まった。

  「何言ってるって…。俺ら人間にとっちゃ別に珍しい話でもないぜ?元々女が産まれにくい村だったからなー代替品が必要だったんだろ。」

  「代替品って…お前…。」

  楽の表情が徐々に厳しくなっていく。

  「がーくっ!わり、こんな話おもしろくもなんともねぇよな?…あ、珍し。耳出てんじゃん。触っていい?」

  大和は頭を少しもたげた楽の頭に狼の耳が現れているのを見つけると、手を伸ばした。

  「大和…お前村の人間たちのこと…恨んでないのか?村なんて消えて無くなればいいって思わないのか?」

  焚火の影になり、大和からは楽の表情はよく見えない。それでもどこかいつもの楽とは違う様子に感じた。

  「んー…恨みかぁ…よくわかんねぇ。でもあれだな。ここに連れて来てくれたから、それでもうちゃらにしてやってもいいかも。」

  大和がヘラッとした顔で笑うと、楽の顔がゆっくりと近づいていく。

  「…大和。」

  「ん?…あーぁもうこんなに毎日楽しいのに…結局は俺、楽より先に死んじゃうんだよな。楽の子どもかなんかに生まれたかったわー。」

  大和の言葉に楽の動きがピタッと止まる。

  「死ぬ…か…。」

  「楽は、俺が死んだら悲しんでくれる?…フフッ…なんてな。最後は一思いに食ってくれって言ってんのに意味わかんねぇこと言っちまったわ…。」

  大和は目を細め無理に笑顔をつくっているように見えた。

  「お前…。」

  焚火からパチッと火が跳ねる音が響く。

  「あー酒ってこわい!…悪い楽…今の忘れて。」

  そう言うと大和はバッと楽の膝から起き上がり両腕をぐーっと空へ伸ばした。

  「もうそろそろ寝るとするかー。」

  「あ、あぁ…そうだな。」

  「なぁ楽、今日も狼になってくれよ。あれふわふわだし暖かいしホント寝心地最高なんだよ!」

  洞窟へと向かう大和の背中は、懸命に背筋を伸ばしているようにどこか不安定だった。

  「お前は寝心地が良くても、こっちはお前に抱きつかれて身動きとれないんだがな。」

  大和が振り返りはしないかと、楽はわざらしく悪態をついた。