Scape wolf 4-18「十字架」

  「十字架」

  

  ブラムとスヴェートは城壁の中に備え付けられた梯子を伝い城壁の内側に潜入した。

  幸い梯子を伝い降りた先には人影はなく、小さな石造りの小屋があるだけだった。

  見張りがいないかと扉を少し開け中を覗き込むが、やはりヒトの気配はない。

  小屋の中には、様々な種類の武器が乱雑に積み上げられていた。

  「どうやら、武器の保管庫のようですね」

  スヴェートは、小さな声で囁いた。

  「確か、エレオノラは〝武器庫に手がかりがある〟って言っていたよね?」

  問いに頷くとスヴェートは建物の中に足を踏み入れた。

  ブラムもその後に続くと小屋の中を見回した。

  剣に槍や斧。遠距離用だと弓やクロスボウ。

  一通りの武器は揃っているが、それ以外は特に変わったモノのない普通の武器庫に見える。

  「特に手がかりになりそうなモノはありませんね」

  スヴェートは周囲をグルリと見回しながらつぶやいた。

  「そうだね、特に変わったモノは―」

  と言いかけた時、ブラムは部屋の片隅であるモノを見つけた。

  他の武器に埋もれて良く見えないが間違いない。

  「どうしました?」

  スヴェートが問いかける。

  ブラムは、それに答える代わりに先程見つけたソレに近づくとけたたましい音が鳴るにも構わず上に乗っている武器を投げるようにどかし始めた。

  剣や斧を数本脇に放り投げると、ノコギリのような刀身を持つ所々欠けた巨大な剣が姿を現した。

  「これは…」

  「間違いない。マリの剣だ」

  ブラムは頷きながら言った。

  「でも、これが手がかりなのかな?」

  そう言いながら剣を持ち上げようとした。

  「ちょっと、貸してください」

  突然、スヴェートがそう言いながら、彼を押し退けて剣に手を置いた。

  彼女は、抗議しようと口を開いたブラムを片手で制すると剣を触りながら口を開いた。

  「前に聞いたことがあるんです。この国には、変わった形の武器を作る鍛冶師がいて、その形状もさることながら…」

  その時、妖精の手が一瞬止まり柄を指で叩いた。

  すると、剣の峰を覆っていたカバーが開き中から銀色に光るモノが現れた。

  「武器一つ一つに意匠を凝らした仕掛けが多数取り付けられている」

  妖精は、満足そうに微笑むと、そのまま中にあったモノを剣から引き抜いた。

  「あら?」

  「これって?」

  それを見た瞬間、二人は目を丸くしながら交互につぶやいた。

  マリの剣から出てきたのは、一振りの細剣だった。

  「これってエレオノラの剣だよね?」

  「そう…ですね」

  ブラムの問いにスヴェートはうなずいた。

  銀色に輝く刀身、手の込んだ装飾や象嵌された宝石の数や種類まで瓜二つだ。

  「どうやら、彼女がマリの戦友と言うのは、嘘でないようですね」

  そう言いながらスヴェートはブラムに剣を手渡した。

  ―マリに会ったら、伝えて下さい。〝エレオノラは、マリを赦している〟と

  剣を受けとった瞬間、ブラムの脳裏にエレオノラの遺言が蘇った。

  あの人狼が何を赦すのか。はっきりとは分からないが、大体の察しはついた。

  自分はミナに赦してもらえるだろうか?

  そんなことを思いながらブラムはポツりとつぶやいた。

  「マリは、これを十字架にして背負っていたんだね…」

  スヴェートは胸に手をあてながら厳かにうなずいた。

  それからしばらくの間二人は武器庫を探したが、他に目新しいモノがなかったので剣だけを持って外に出ることにした。

  「マリは、どこだろう?」

  ブラムは目の前にそびえる城を見上げながらつぶやいた。

  スヴェートは同じ方向を見ながらつぶやいた。

  「可能性として一番高いのは、牢屋でしょう。

  でも、確実とは言えませんね。

  一つ一つ探している時間もないですし…」

  ブラムは、妖精の言葉を聞きながら先程持ち出した細剣を目の前に掲げた。

  「エレオノラが言ってた手がかりは、これだと思うけど、一体これが何の役に立つんだろう?」

  そう言いながら、彼は剣をクルクルと回しながら刀身や柄頭を眺めた。

  その時だった。

  突然、何かに引っぱられるような感覚が右手に伝わった。

  ブラムは、思わず切っ先を地面に突き刺した。

  引っぱられる感覚は、まだ続いている。

  「どうしました?」

  異変に気づいたスヴェートが問いかける。

  「剣が何かに引っぱられてる感じがするんだ」

  ブラムは、そう言うと剣から手を離した。

  しっかりと地面に突き立てたはずの剣が、不自然な動きで城の方に傾いた。

  「もしかして…」

  スヴェートは、そうつぶやくと剣を引き抜き切っ先を城の方へ向けた。

  「何か分かった?」

  ブラムの問いに彼女はうなずいた。

  「恐らくですが、この剣は持ち主つまりマリの方へ戻るようになっているみたいですね?」

  「魔法剣ってこと?」

  「分かりません。それに、攻撃に特化した魔術は組み込まれていないようですが」

  「でも、この剣が引っぱって行く方へ進めば、マリのところにたどり着けるんだね?」

  「そうですね」

  スヴェートは、口もとに笑みを浮かべながら答えた。

  だが、次の瞬間、彼女は表情を険しくし、前を見据えた。

  ブラムも、ほぼ同時に前を向きながら自身の剣を抜刀した。

  二人の前には、いつの間にか武装した人間と亜人の集団が立っていた。

  「ですが、その前に彼らを相手にしなければいけないようですね…」

  そう言うとスヴェートは背中の鎌に手を添えた。