「遁走」
熱い熱い熱い…。
スヴェートの頭の中では、この言葉が何度も繰り返されていた。
全身が異常なほど発熱し、体温を調整するために開けていた口はすでにカラカラに乾いていた。
鎌を手に歩いているだけでやっとの状態だ。
何故身体が、こんなに熱いのか。
スヴェートには思い当ることがあった。
ウールヴヘジンの女が従えていた蛇に噛まれそうになったところを仮面を被ったジン物が助けてもらった時、わずかだがスヴェートは手首に痛みを感じた。
恐らくあの時、蛇の牙が自分の手をかすり毒が身体に回ったのだろう。
仮面のジン物がくれた傷薬には、毒消しの効果はなかったらしい。
尋問のための毒だから、すぐさま命に関わることはないだろうが、早めに治療しなければどうなるか分からない。
現に今も心なしか息苦しい気がする。
確か、このあたりには毒消しの効果がある薬草が自生していると偶然知り合ったストレイが言っていたはず。
「場所、場所は…」
川岸。特徴は…。
「ダメ、思い出せない」
スヴェートは頭を抱えた。
いや、とにかく川だ。川を目指そう…。
彼女は、耳で川の音を探りながら千鳥足で前進した。
どのくらい進んだ頃だろう。水の流れる音が聞こえ始め、音を頼りに足を進めると、崖の上にたどり着いた。
足元には、緑の草が生えていた。
「これでこれだ。そうに違いない」
スヴェートは、半狂乱になりながらつぶやくと、草を抜こうと腰をかがめた。
そして次の瞬間、彼女はバランスを崩し崖の下へ落ちていった。