Scape wolf 1-9「リュバン」

  「リュバン」

  

  マリとブラムは、朝食を済ませると、ムニンの先導に従って歩き出した。

  ムニンは、時々木の枝に止まっては振り返り、二人がついて来れているか確かめ、その都度飛ぶ速度を変えてくれたので、彼を追うのに苦労はしなかった。

  「ねえ、マリ」

  どのくらい進んだ時だったであろうか。ブラムが、突然マリに話しかけた。

  マリは、返事をしない。

  いつものことだ。

  この頃になると、彼女の無愛想さにもだいぶ慣れてきた。

  返事をしないと言うことは、話しかけても良いと言うこと。逆を言えば、彼女は、話しかけられたくない時だけは、ブラムの呼びかけに応えてくれた。

  うるさい、と。

  そう言うわけだったので、ブラムは、いつものように話を続けることにした。

  「あのカラス、マリの知り合いなの? 見たところ魔物みたいだけど…」

  彼は、マリにそう尋ねた。

  人狼は、前を見たまま黙っていた。

  こちらの質問に答えないのも、またいつものことだ。

  聞いてみただけ。

  ブラムは、そう自分に言い聞かせ歩き続けた。

  

  太陽が南の空高くに昇っている。

  野営地を出発してから三時間くらいは経っただろうか?

  ブラムは、太陽の光を背に浴びながら、そんなことを考えていた。

  太陽の熱が、秋の冷たい空気に冷え切った身体を優しく温めてくれる。

  太陽の温かさをありがたいと思うのは、人間もヴァンパイアも一緒。唯一違いは、光を嫌うか否かだ。

  彼らにとって、太陽の光は、眩しすぎるのだ。

  それは、ブラムにも同じことで、頭にかぶったつばの広い帽子も太陽から発せらる強烈な光が直接目に入り込まないようにするためのモノであった。

  そう言えば、マリも結構しっかりとフードをかぶっているな。

  ブラムは、前を歩く人狼を見ながらふとそんなことを考えた。

  鮮血のような鮮やかな赤色のコート。犬人の刀によって引き裂かれたところは、ルーシーの魔法で綺麗に修繕されている。人狼のかぶっているフードは、それとつながっていた。

  どこにいても充分に目立つ格好だが、何故か彼女は、自身の顔を隠すかのようにそれを目深にかぶっていた。

  目立ちたいのか、そうでないか。いまいち釈然としない容姿だ。

  と、彼が、そこまで考えていた時だった。

  「着いたよ」

  ワタリガラスのムニンが、木の枝に止まり翼で前の方を指し示しながら言った。

  その先にあったのは、小さな空き地だった。

  小さいと言っても、小規模の軍隊が、野営するには十分な広さがある。

  空き地には、先客がいた。

  いくつもの布製のテントが、空き地の中に乱立し、その周りではテントの持ち主らしい者たちが、それぞれの仕事についていた。

  住人達は、人間ではなかった。

  マリと同じ人狼や尖った耳を持つ人間に近い容姿を持ったエルフ、人間の上半身に山羊の下半身を持つフォーン、多頭の竜、数日前にブラムたちが闘った者より小柄だがチノセパリックも数人いる。

  人間もいるにはいたが、数は目視できるだけで二、三人ほどしかいない。

  服を編む者、パンを焼く者、新しいテントを立てる者。従事している仕事も種族もてんでバラバラ。

  人間と共存していたブラムにとっても、それは奇妙な光景に見えた。

  「あのヒト達は?」

  ブラムは、誰にとなく尋ねた。

  答えたのは、ムニンだった。

  「リュバンの国民ですよ」

  「リュバン?」

  ブラムは、首を傾げ、さらに詳しいことを聞こうとした。

  「ああ、ムニン。帰って来たのね」

  その時、突然テント郡の方から声が聞こえた。

  ハープの音色のような澄んだソプラノボイスだ。

  ブラムたち三人は、同時に声のした方に顔を向けた。

  半裸の人狼が、こちらに近づいてきている。

  筋骨隆々、精悍な顔、太くたくましい腕には巨大なフォルシオン刀が握られていた。

  その広い肩には、ムニンと瓜二つのワタリガラスが乗っていた。

  「そろそろ帰ってくる頃だと思っていたわ。今日は、お客人を連れて来たの?」

  あのソプラノボイスが、再び言った。

  その時、口を動かしていたのは、ワタリガラスの方だった。

  人狼は、口を真一文字に結んだまま眉一つ動かさない。

  ブラムは、ほっと胸をなで下ろした。

  「そうだよ、フギン。と言っても、一人は、君も知っているヒトだけどね」

  ムニンは、もう一人のカラスに向かって言うと、ブラムとマリのいる方に嘴を向けた。

  フギンと呼ばれたカラスも、同じ方向に目を動かした。彼女は、マリの姿を見た瞬間、目をパッと輝かせた。

  「あら、マリじゃない? 久しぶりね。今日は、王に会いに来たの?」

  「情報をもらいに来ただけだ。用件が済んだら、すぐ出る」

  カラスの問いかけにマリは、いつも通りの無愛想な態度で答えた。

  するとその時、沈黙を守っていた人狼が、突然口を開いた。

  「それは良いが、国に入る前に、その小僧の素性を明かしてもらわないとな」

  人狼は、ブラムの方を見ながら言った。

  見た目通りの低く太い声だ。

  「こいつは、私の付き添いだ。害はないよ」

  ブラムが口を開くよりも先にマリが、そう答えた。

  „付き添い“という言葉には一瞬眉をつり上げたが、ブラムは、一先ずは黙ることにした。

  ここでいさかいを起こしても、得はない。

  人狼の男は、マリの説明に納得し、ようやく手に持った刀を腰の鞘に納めた。

  「友人の友ならば歓迎しよう、少年。私の名は、ガルム。此度は、長旅の末よくぞ我が国に参られた」

  彼は、そう言うとブラムに向かって手を差し出した。

  ブラムは、差し出された手を素直に握った。

  「労いの言葉、ありがとう。僕は、エイブラハム・ハーカー。ブラムと呼んでくれ」

  

  ブラムとマリは、ガルムに案内されテント群の中に入った。

  ムニンとフギンは、また別の仕事があると言って、どこかへ飛んで行ってしまった。

  一行は、一先ずリュバンの王に謁見すると言うことになっていた。

  マリは、最後まで謁見を断っていたが、結局ガルムが押し切る形で話はまとまった。

  テントの住人たちは、皆いつの間にかそれぞれの仕事を終え中に閉じこもっていた。

  日は、だいぶ西に傾いている。

  道中、好奇心の強い子どもが何人かのぞき窓からこちらを覗いてきたが、ブラムがそちらに顔を向けると慌てた様子で中に引っ込んでいった。

  人間の子どもは、一人もいない。

  テント群は、思っていたよりも広く、中央にあると言う王のテントにたどり着くのに数十分ほど歩いた。

  「ここだ」

  ガルムがそう言って指し示したテントは、ブラムが想像していたモノとは大きく異なっていた。

  飾り気がなく、それほど大きくのないボロボロのテント。外壁代わりの布は、周囲のどのテントのモノよりも古く、くたびれていた。

  王と言うよりは貧民が住んでいそうな住居だ。

  ガルムは、おもむろにテントの入り口に近づくと、そこに下がった呼び鈴を鳴らした。

  「誰だー?」

  間延びした声が、テント中から聞こえてきた。

  声の調子からして、二十代後半から三十代くらいだろうか。

  王と言うには、あまりにも若く、あまりにも間の抜けた声だ。

  「警備長ガルムです。客人を連れてまいりました」

  ガルムは、見えもしないのにテントの中の王に対して敬礼をしながら答えた。

  声だけで言うなら、ガルムの方がよっぽど王様らしい。

  「おう、客かぁ?ちょうど良い。ゲリ、フレキ、客人を迎えてやってくれ」

  王がそう言うと同時に、二人の女性の人狼がテントから顔を出してきた。

  どちらも金毛で、露出の多いドレスを身にまとい、金や宝石で作られた装飾品で着飾っている。

  驚いたことに、腰紐にはブラムの短剣にも負けないほど立派で無骨なナイフがぶら下がっていた。

  人狼の美醜は分からなかったが、彼女たちの顔にはどこか妖艶な雰囲気があるとブラムは直感的にそう感じた。

  「あら、マリじゃない?」

  人狼の一人が、マリを見て言った。

  「こちらは、初めて見る坊やねぇ」

  もう一人の人狼がブラムを見て言う。

  さて、どうやって喰ってやろうか?

  彼女の目は、そう言っているかのようで、ブラムは、とっさに腰の剣に手を伸ばしそうになった。

  「こらこら、子どもをからかうモノじゃありませんことよ、ゲリ?」

  最初に口を開いた人狼が、もう一方の人狼をたしなめるように言った。

  「だって久しぶりの子どもなんだもの。子どもの怖がる顔って可愛いじゃない?」

  ゲリと呼ばれた人狼は悪びれる様子もなく言う。

  顔だけでなく声も艶めかしい。

  「僕は、子どもじゃない。十七だ」

  そうブラムが思わず人狼に向かって反論した時だった。

  「おい、ゲリ、フレキ!二人だけで楽しんでいないで私にも客の顔を拝ませろ。長旅で疲れた客にも失礼であろう」

  テントの中から王の声が聞こえてきた。

  「はあい。今行きまーす」

  フレキが、テントの中を振り返って間延びした返事を返す。

  それと同時に、ゲリが、入り口をふさいでいた布を持ち上げマリとブラムを中に招き入れた。

  「さあ、お客さま方、ようこそ我が王の城へ」

  マリが先を行き、ブラムは、その後に続く形でテントに足を踏み入れた。

  最後にゲリとフレキが布を下ろしながら中に入る。

  ガルムだけは、その場から動こうとしなかった。

  「それでは私は仕事が残っているので、これで」

  彼は、そう言うと一同に背を向け来た道を戻っていった。

  ブラムは、人狼の背に向かって案内の礼を言うと、テントの中に目を向けた。

  広さは、以前彼が寝起きしていた屋根裏部屋より少し広い程度。

  家具や調度品も極端に少ない。

  数冊の本、筆記具、机、それから真ん中に大きな椅子が二つあるだけだ。

  机の上には、黒いボトルと調理されていない生肉の塊が乗った盆が乗っている。

  ゲリとフレキは、中に入るなり生肉の飛びつくと腰に差したナイフで塊から肉片を切りだし口に運んだ。

  王らしき者は、二つある椅子の内の一つに金色のゴブレット片手に頬杖をつきながら腰かけていた。

  引き締まった身体を薄汚れた白いコートで覆い、椅子のそばには刀身の広いバスタードソードを立てかけている。頭に冠はなく、その他装飾品も身に着けていない。

  コートに施された金の金具や刺繍がなければ、そばで生肉を貪るゲリたちよりもずっと下の身分の者に見えただろう。

  王は、黒毛の人狼だった。

  その精悍な顔立ちは、王と言うよりは百戦錬磨の武人のようであった。

  人狼は、マリたちが入ってくると、ゴブレットを机に置いて立ち上がり、その場で跪いた。

  「客人たちよ、よくぞ我が国リュバンに参られた。我は、国王のロキ。そなたたちが許すのなら、ここで旅の疲れを癒し、我と我の民に善き風を吹き込んでくれ」

  王のこの対応にブラムは目を丸くした。

  見た目と言い仕草と言い、この王は、彼が考えていた王の像とは大きく離れていた。

  肥え太り、柔和な顔を持ちながら、高いところでふんぞり返っている男。ブラムは、生涯の間で出会った吟遊詩人たちから聞いた話から王をそう言う者と思っていたが、どうやら少なくとも目の前にいるロキと言う王は違うようだ。

  ブラムは、この王の謙虚な姿勢に尊敬の意を覚えた。

  だが、マリは、違ったようだ。

  「面倒な前置きは、良い。用事があるから、これで失礼するよ」

  彼女は、そう言うと跪いたままの王に背を向け外に出ようとした。

  「ちょっと待てよ。行く前に、お前の新しい連れを紹介してくれないか?」

  ロキは、さっと立ち上がると、引き留めるように腕を伸ばしながらマリの背に向かって話しかけた。

  「紹介なら、私がするまでもないだろう?」

  マリは、立ち止まることも振り返ることもせずに、そう答えると、そのまま外に出ていってしまった。

  「まったく、相変わらず、愛想のないヤツだ」

  ロキは、手を下ろしながら、つまらなそうに言うと椅子にどっかりと腰を落とし、再びゴブレットを手にした。

  彼は、中の飲み物を一口飲むと、ザクロ石のような眼をブラムに向けた。

  「ああ、そこに座ってくれ」

  王は、自身の座っている椅子の向かい側に置かれた長いソファを指さしながら言った。

  ブラムは、言われた場所に腰を下ろした。

  腰の長剣は、邪魔になったので、いったんベルトから外して王がそうしているようにそばに立てかけた。

  客人が座ったのを見ると、ロキは満足そうにうなづき、フレキの名を呼んだ。

  彼女は、特に指示されたわけでもないのに、棚からゴブレットを取り出し、ブラムの前に差し出すと言う動作をテキパキとこなした。

  「今はまだ食事の準備ができていないんだ。とりあえず、これで喉を潤してくれ」

  ロキの言葉とともに、フレキが机に置かれたボトルを持ち上げ中の赤い液体をブラムの目の前に置かれたゴブレットに注いだ。

  液体からは、甘い香りがした。

  ブラムは、勧められるまま液体を口に含んだ。

  ザクロの果汁だ。

  適度な酸味と甘みに歩き続けて疲弊した身体が歓び波打った。

  彼は、本能が求めるまま果汁を一気に飲み干した。

  目の前では、ロキが満足そうに笑みを浮かべている。

  「気に入ったか?昨日は珍しく、行商人が良質な果実を大量に売ってくれたんだ。まだあるから、好きなだけ飲むと良い。ただし、これから美味い食事もあるから、腹は充分に空かせておけよ?」

  「ありがとう…ございます」

  ブラムは、慣れない敬語で答えた。

  変な風に聞こえなかっただろうか?

  そう思っていると、突然ロキが「かっかっかっ」と笑いながら足を組んだ。

  「無理に敬意を払う必要はないぞ、少年。ここでは、王なんてものは、飾りにすぎん。もっと気楽に話せ」

  彼は、そう言うと、組んだ足に頬杖をつき再び口を開いた。

  「そう言えば、まだ、お前の名前を聞いてなかったな?」

  「あ、し、失礼…じゃなくて、ごめん。僕は、エイブラハム・ハーカー。普段は、ブラムって呼ばれている」

  ブラムは、言葉遣いに迷いながら答えた。

  王に対して、こんな言葉づかいで良いのだろうかと思いながら。

  「エイブラハム?」

  ロキは、片方のまぶたを上げながらつぶやいた。

  「そうか、エイブラハムか。どうりで…」

  彼は、しばらく口角を上げながらぶつぶつと独り言を続けると、再びブラムの方に目を向けた。

  「それで、ブラム。お前は、どう言う経緯でマリと会ったんだ?」

  ロキの質問にブラムは手短に答えた。

  自分が、ある村のガーディアンである事、マリとは村人を探す途中に会った事、師匠の策略でマリの弟子にされた事。

  「そう言うわけで、今に至るって感じ」

  ブラムは話をそう締めくくった。

  話すうちに王と話す事に抵抗を感じなくなり大分饒舌になっていた。

  彼は継ぎ足された果汁に口をつけ長話で乾いた喉を潤した。

  「僕も色々聞いていいかな?」

  しばらくして喉が落ち着くと、ブラムは王に向かって尋ねた。

  「答えられる範囲であれば何でも」

  ロキは、そう言うと自分のゴブレットを持ち上た。

  粗野な顔立ちに似合わない優雅な持ち方だ。

  そう思いながらブラムは口を開いた。

  「ここって、どんなところなの?」

  「唐突だな」

  ロキは、言葉とは裏腹にさほど驚いていないようだ。

  さほど珍しい質問でもないのだろう。

  王は一つ咳払いすると、居住まいを正しながらブラムの質問に答えた。

  「一言で言うと、ここは俺の国だ。名称は、リュバン。全ての魔物と人間が共生する理想の国さ」

  「リュバン?そんな国、聞いたことないけど…。国ってことは、皆ここに住んでいるの?」

  「いや」

  ブラムの問いに、ロキは首を横に振った。

  「俺の国は、土地を持たないんだ。一所に留まらず、その時の目的や状況で常に移動する。そう言う意味では、そこら辺のキャラバンと同じだが、俺たちは、あくまでこのまとまりを国と呼んでいる。

  まあ、人間側は俺たちを国と認めていないから、行商人や放浪者、果ては盗賊なんて呼んだりするがな。

  放浪の民リュバンという呼ぶ名の方が、お前にはなじみ深いんじゃないかな?」

  ロキのこの言葉にブラムは、はっと思い出した。

  リュバンの話は、首都から遠く離れた辺境の地であるブラムの住んでいた村にも伝わっていた。

  彼の聞いた話によると、リュバンは数人のストレイが集まってできた集団らしく、彼らは普通のストレイと違い人間だけでなく魔物の依頼も引き受けることで有名だった。

  ヒト探しから魔物の討伐、人間に危害を加えられた魔物の復讐の代行、さらに盗みや人身売買の手助けまで、彼らは法外であるが、金さえ積めばどんな仕事でもこなす。

  そんな噂もあってか、リュバンと言う名は多くの人々にとっては胡散臭い響きを伴って各地に伝えられていた。

  無論、ブラムも今まではリュバンを怪しい連中程度にしか認識できていなかった。

  だが、今こうしてその王と呼ばれる指導者を目の前にすると、案外噂は大半がホラなのではないかと思えてしまう。

  そう言う期待も込めてブラムは、ロキの目を見た。

  だが、王が次に発した言葉は彼の期待を大きく裏切った。

  「もっとも、噂の大半は本当だがな」

  ロキは、そう言うと自分の太ももを叩いた。

  すると、ゲリが王のもとにすり寄り、彼の腰に手を回した。

  ロキは、滑らかな手つきで人狼の頭を撫でながら再び話し始めた。

  「と言っても、過去の仕事は、多すぎてどれを話せば良いか分からんし、何より国の機密事項だから、お前には教えてやれんがな」

  彼は、そう言うと「かっかっかっ」と笑い声を上げた。

  「ロキは、人間を殺したことがあるの?」

  ブラムは恐る恐る尋ねた。予想は出来たが、答えを聞くのに少しだけ不安を覚えた。

  「ああ、あるとも」

  ロキは、何のこともなげに答えると、果汁をグイッと一気に飲み干した。

  「俺たちが望むのは人間と魔物の共生であり、魔物が人間に隷属する事じゃない。

  まあ、人間と仲良くしてたお前には、少し刺激的な話かもしれんがな」

  王の最後の言葉には、皮肉がこもっていた。

  深く重い、中途半端な言葉では説明できない皮肉が。

  軽率な質問をした。

  そう思いブラムは視線を目に落とした。

  重い沈黙が流れた。

  ロキも、いつの間にかゲリの頭を撫でていた手をだらりと下に下げていた。

  「ああ、いかんな…」

  しばらくして、彼は頭を抱えながらつぶやいた。

  「久々の客人で少々舞い上がってしまった。すまん、さっきの言葉は忘れてくれ」

  王はそう言うと、ゲリとフレキに何か二言三言伝え彼女を外にやった。

  次の瞬間、ロキはコートの裾を翻しながらさっと立ち上がった。

  意外と背が高い。

  「そろそろ食事の準備ができた頃だろう。ついて来い。今日は宴を開くぞ」

  彼はテントの入り口まで行き立ち止まるとブラムに向かって言った。

  「あ、武器とマントは、ここに置いて行っても良いぞ。向こうじゃあ、大して役に立たんからな」